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文藝春秋5月特別号「天皇皇后両陛下123人の証言」に掲載されました

古式泳法(神伝流)の同門』

二〇〇七年七月の参議院選挙で自民党が過半数を割り込んだため、私は史上初めて野党(民主党)から参議院議長に選出されました。

議長は国会終了後に、余人を交えず陛下に直接に国会の報告をするほか、両陛下が出席される数多くの催しに呼ばれるなど、頻繁にお目にかかる機会があります。議長任期の初めと終わりには、各院ごとに正副議長夫妻が両陛下から皇居の奥深くのお住まいにご招待いただきます。私たち夫妻も両陛下と副議長の山東昭子さんとと五人だけで、お食事をいただいたこともありました。

悠仁様のご様子とか日常の話題で、美智子様が快活にお話になられ、印象が一変しました。戦没者慰霊や離島訪問、災害地慰問など、陛下は象徴天皇としての役割を立派に果たされましたが、その陰で美智子様の支えが大きかったのだと思います。

実は、陛下に目にかかったのは裁判官時代の一九七一年、国費留学した英国から帰国し、数人で赤坂御用地にご報告に上がったのが最初です。外国の諸事情にも大いに関心を示され、緊張せずに話せました。一番の思い出は、議長就任直後の御用邸でのお食事の際に、陛下と水泳の話を交わしたことです。

私は小学三年生の頃、古式泳法の一つ「神伝流」の道場に通い始めました。郷里岡山の旭川に水練場があり、高校時代には三段になって現場の責任を任されていました。東大在学中も夏休みには学生運動は返上して帰省し、道場の運営と後輩の指導に没頭しました。

そんな話をしたら、陛下も学習院時代に神伝流を習ったとおっしゃるのです。伊予大洲で発祥し、岡山県北の津山藩の庇護で全国に広まった神伝流は、「水心一致」の精神修養も求められる武術の一種。陛下はご自身で選択して神伝流泳法を学ばれたそうで、津山出身の共通の師匠がいたこともわかりました。

水泳の経験は、その後の私の人生に大きな影響を与えています。嬉しいことに、先日の宮中茶会でも、短時間でしたが陛下とこの話ができ、忘れがたい思い出となりました。