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平成8年10月2日

 自治省選挙部長殿

回 答 願

新党さきがけ______
       政策調査会長 渡海紀三朗


 インターネットのホームページは、その性質上、候補者の経歴や政治信条、公約などをきめ細かく低廉かつ広範に提供できるだけでなく、有権者が自ら求める「候補者情報」をいつでも必要に応じて入手可能とするメディアである。

 投票率が低迷している現状を踏まえ、有権者の選挙への関心を高めるためにも、選挙情報、候補者情報の流通手段の多様化が不可欠であり、ホームページはこの観点から極めて有効であると思われる。この点についての自治省の見解を伺うとともに、以下の各項目について回答を願いたい。


A.インターネット上のホームページの開設と公職選挙法との関係について

 インターネットのホームページは、1極めて低廉な費用で開設・維持できる、2(1)電子的記憶としてサーバー上に保持されるものであり、通常の「文書図画」とは異なっている、(2)通常のビラ・ポスターの場合と異なり、相手方からアクセスして利用するものであり、候補者等の側が積極的に「頒布」または「掲示」するものではないという特質を有している。以下、各点について回答を願いたい。

1.(規制の合憲性)
 インターネットのホームページは極めて低廉な費用で開設・維持できる点で、公職選挙法上規制されている他の選挙運動手段(ビラ・ポスター等)と格段に異なっている。もともと、公職選挙法142条143条等で選挙運動用の文書図画の頒布・掲示を制限しているのは、金のかからない選挙の実現のため必要やむを得ないものであるとして当該制限が合理性ありとされるからである。

 したがって、仮にインターネットのホームページを同法142条・143条違反と解釈運用した場合、当該運用は憲法違反(表現の自由及び政治活動の自由を規制するに当たり、規制目的に照らし規制手段が合理性を欠いている)となるのではと考えるが、どうか。


 公職選挙法第142条の合憲性については、昭和39年11月18日最高裁判所判決等により、同法第143条の合憲性については、昭和30年4月6日最高裁判所判決等により、それぞれ確認されております。


2.(構成要件該当性)
  a)「文書図画」
 公職選挙法142条143条は、選挙運動用の「文書図画」を規制している。ところで、インターネットのホームページは電子的記憶としてサーバー上に保持されるものであり、通常の「文書図画」とは常識的には異なっていると考える。同法の「文書図画」に当たるのか否か、当たるとすればその理由は何か。
 あるいは、同法143条2項で規制している「アドバルーン、ネオン・サイン又は電光による表示、スライドその他の方法による映写等の類」に当たるのか否か、当たるとすればその理由は何か。


 公職選挙法の「文書図画」とは、文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示をいい、スライド、映画、ネオンサイン等もすべて含まれます。したがって、パソコンのディスプレーに表示された文字等は、公職選挙法の「文書図画」に当たります。


  b)「頒布・掲示」
 公職選挙法142条143条が規制しているのは、選挙運動用の文書図画の「頒布・掲示」である。仮にインターネットのホームページが「文書図画」に当たるとしても、通常のビラ、ポスターの場合と異なり、相手方からアクセスして利用するものであり、候補者などの側が積極的に「頒布」又は「掲示」しているものではない。「頒布・掲示」に当たるか否か、当たるとすればその理由は何か。

 公職選挙法の「頒布」とは、不特定又は多数人に文書図画を配布することをいい、従来より、文書図画を置き、自由に持ち帰らせることを期待するような相手方の行為を伴う方法による場合も「頒布」に当たると解しております。また、「掲示」とは、文書図画を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることのすべてをいいます。したがって、パソコンのディスプレーに表示された文字等を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることは「掲示」に、不特定又は多数の方の利用を期待してインターネットのホームページを開設することは「頒布」にあたると解しております。


3.(政党等の政治活動規制)
 インターネットのホームページは公職選挙法201条の5で規制している政治活動手段に当たらないと思うが、どうか。

 仮にインターネットのホームページは選挙運動に用いれば公職選挙法142条143条違反となるが、それ以外の政治活動として用いれば、政党等が用いても、選挙期間中でも違反ではない(公職選挙法201条5の規制の範囲外)となった場合には、「選挙運動」と「政治活動」の区分けが極めて重要となる。「選挙運動」と「政治活動」の間の線引きはどのようになっているか。


 公職選挙法の「文書図画」の解釈は、Aの2(a)のとおりですので、文書図画として同法第201条の13の規制を受けますし、更に、立札及び看板の類としての態様において用いられれば、同法第201条の5の規制を受けます。

 政治活動とは、一般的抽象的には、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを目的として行う直接間接の一切の行為をさすということができますが、公職選挙法にいう「政治活動」とは、上述の一般的抽象的意味での政治活動のうちから選挙運動にわたる行為を除いた行為であると解されております。したがって、選挙運動にわたる政治活動は、公職選挙法においては、政治活動としての規制ではなく、選挙運動としての規制を受けることとなります。なお、公職選挙法にいう「選挙運動」とは、「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得又は得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすること」と解されております。


B.具体例

選挙期間中、以下の事例はそれぞれ公職選挙法違反となるか。

1.候補者のホームページに以下の情報を掲載した場合
 a)氏名
 b)選挙区または活動中心地域
 c)学歴・職歴などのプロフィール
 d)立候補したことを示す記述
 e)候補者自身の公約
 f)所属政党の公約

2.政党のホームページに以下の情報を掲載した場合
 a)公認候補者等について
  (1)氏名
  (2)選挙区
  (3)学歴・職歴などのプロフィール
  (4)政策主張、コメント
  (5)前国会議員が候補者となる場合、
   議員在職時から掲載されていたその者のプロフィール・政策主張など
 b)党の公約


 具体的事案については時期、態様により判断すべきでありますので、一般論として回答させていただきます。
 1、2については、明確な投票依頼の文言がある場合はもちろん、選挙に立候補する旨、選挙区、選挙の公約等特定の選挙と結びつく記述をした場合においては、選挙運動と認定されるおそれが強いものと考えます。また、選挙と結びつく記述がない場合においても、選挙運動期間中に新たに公職の候補者の氏名を表示する場合には、公職選挙法第146条または第201条の13の規制を受けます。


3.その他
a)掲示板に貼るポスターや新聞広告、政見放送時の掲示等にURLを記載すること。


一般的には、直ちに選挙運動に当たるものとは思われません。


b)海外のサーバーに、公職選挙法に抵触するホームページの素材をおくこと。


刑法の一般原則に係る問題ですが、行為地又は結果発生地の一部が国内であれば、国内法の罰則が適用されることとされております。


c)電子メールによる投票依頼。


投票依頼であれば、選挙運動に当たります。


d)各自治体やボランティアのホームページに、首長の写真を掲載すること。


一般的には、直ちに選挙運動に当たるものとは思われません。


e)通信衛星を利用して演説会を複数の箇所に中継すること。
f)インターネットを通じて演説会を中継すること。


演説会の内容が不明ですので、お答えは控えさせていただきますが、上記1、2についての回答によりご理解下さい。


g)ホームページにおいて、人気投票の結果を公表すること。
 なお、「世論調査」と「人気投票」の区分けは何か。


公職選挙法第138条の3に違反するおそれがあります。
 「人気投票」とは、通常、葉書、紙片等に調査事項を記載する方法によるものをさしますが、必ずしもその方法のみに限らず、その形式が投票の方法と結果的に見て同じである場合は、すべてこれに当たります。なお、世論調査という用語は、公職選挙法上の用語ではないので、当省としては、その用語を解釈する立場にございませんが、調査員が被調査員に面接して調査をした場合は、公職選挙法上の「人気投票」には当たらないと解しております。


h)インターネット上の情報開示行為は、公選法142条1項の「散布」に該当するか。


「散布」には当たりません。


i)インターネット上の情報開示行為は、公選法151条の5の「放送」に該当するか。


一般的には、「放送」には当たらないと考えています。


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