1979/05/25 核問題・軍縮問題に取り組む

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原子力発電のモラトリアムを

  申し入れ書

一、三月二十八日に発生した米ペンシルバニア州スリーマイル・アイランド原発事故は、核エネルギー利用政策に、根本的反省を迫るものとなった。今回の事故は、原発の複雑な安全装置が連鎖的に故障し、最大級の事故となったものである。最後の安全装置ECCS(緊急炉心装置)が作動したことは、数十万人に被害をもたらす最大想定事故が起こりうることを明らかにした。

一、われわれが米側関係者から入手した最近の情報によると、“原子炉内の水素ガスの状況は依然として危険であり、長期間にわたって封鎖を続け、廃炉を待つ以外に手段はない”ということである。恐らくこの事故によって生じた「死の灰」は、今後長時間にわたって周辺環境を汚染し、住民にガン、白血病を発生させるであろう。

一、われわれはかねてより、このような危険な事故の起こりうることを予測し、安全性の確保できない現在の原発をモラトリアム(一時停止)とすることを主張してきた。今回の事故は、われわれの主張が単なるき憂ではなく、現実性のある主張であることを改めて立証した。

一、政府は今回の事故の重大性を直視し、次の措置をとるべきである。
 第一に、スリーマイル・アイランド原発と同型(PWR)、のわが国の原発九基をとりあえず運転停止し、米側の原因鮮明と対策完了までモラトリアムを実施する。
 第二に、従来の核エネルギー利用計画を全般的に見直し、太陽・風力・地熱・石炭などのクリーンエネルギー供給計画を真剣に追求する機会とすべきである。
 右、要求する。

一九七九年四月六日

社会民主連合 代 表  田 英 夫

内閣総理大臣 大平正芳殿


  スリーマイル島原発事故の教訓

 われわれ社会民主連合は、原子力発電問題について、結成当初からその安全性に疑問を提出し、そのモラトリアム(一時停止)を提唱してきた。それは原発をエネルギー供給源とみなす前に、放射能環境汚染問題など検討すべき重要問題が山積しており、これを放置したまま原発建設を進めることは、将来に禍根を残すことになりかねないと判断したためだった。

 今回アメリカのスリーマイル島原発事故は、われわれの警告が決してき憂でないことを示した。そこで、今回の事故を冷静にふりかえってみて、原発問題の将来を真剣に考えてゆく手がかりとしよう。

 「起こりえない」事故が起こる
 これまで原子力発電は、人類の到達した最高の科学技術の粋を集めた「技術」であり、安全性は十分に保証されたものだとされてきた。そして石油に代わる未来の有力なエネルギー源ともてはやされてきた。安全性を立証する論拠には「二重三重」の安全装置があることが強調され、たとえ人為的ミスがあっても、精密な装置が自動的に補ってゆくから大丈夫という論法が用いられた。つまり、重大事故はほぼ絶対に起こりえないとされてきたのだった。

 ところが今度のスリーマイル原発事故では、これまでの「安全性立証」の論拠が次つぎに崩れていった。

 第一に、二次冷却系のポンプの故障が起こったが、この種の故障は補助ポンプ使用に切り代えられるはずだった。四国電力の「伊方原発裁判」では、“二次系の事故が一次系の事故を誘発し、大事故に至ることはありえない”という結論まで出していた。だが実際にはこれが現実となった(原告の主張通り)。

 第二に、二次冷却水が停まり、一次系の水はどんどん温度を上昇させ圧力が増したので、圧力逃がし弁が開き、冷却水が放出された時に異常事態が生じた。冷却水の水位は下がったが、核燃料は高い放射崩壊熱を出しつづけているので、最後の歯止めといわれる緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動した。事実これが動かなければ炉心が溶融し、いわゆるメルトダウン(炉心溶融)という最大級の事故に発展する危険性があった。

 ところが、ECCSから注入された水が圧力逃がし弁からどんどん放出されてしまって、冷却効果が現れなくなった。本来、一定の圧力を逃がした後、閉まるべきだった弁が開け放しになってしまったからである。

 あわてた運転員が、手動でECCSを停止してしまった。この間、燃料棒の上の方は冷却水がなくなり溶け始め、だらりと下方にカサのようにたれ下がった。圧力逃がし弁を手動で閉めるまでこの状況は続いたと思われる。ここには、「圧力逃がし弁」の故障と人為的ミスと二つが重なっている。結局、「人為的ミスがありえない」という主張は完全に裏切られた。

 ともあれ、スリーマイルでは、起こりえないことが起こったことになる。原発の技術とはこの類のものであり、十分な試練に耐え、完成した技術に支えられているというには余りにもほど遠い状況にあるといえよう。


 最悪事態の寸前まで
 核燃料が溶けた時には、水が高温のジルカロイ被覆管と激しく反応し、大量の水素が発生し原子炉圧力容器内に充満した。一歩誤ればこの水素が爆発事故を起こし、炉内にたまった「死の灰」(広島型原爆千個分)を一挙に環境中にばらまくことになったろう。そうなれば、恐らく五十万人から百万人に被害を及ぼすことになったし、「死の灰」は国境を越えて北半球一体を汚染し、ガン・白血病患者を数十年間にわたって多発させるという結果を招いたことであろう。

 カーター大統領が緊急退避の措置をとるかどうか、真剣に検討したのは当然のことだったわけである。幸い水素爆発には至らず、どうやらそれが減少しはじめ、冷態状況をむかえ、最悪事能貰けは避けられた。

 だがしかし、事故の後もスリーマイル原発は問題を抱えている。炉室の付近の建屋には数千ラドの「死の灰」がたまっているので、炉に近寄ることも、これをいじることもできない。千六百トンの強い放射能を帯びた冷却水にひたされている。相当長期間にわたって、「死の灰」や冷却水が漏れ出るのを監視しつつ放置する以外はない。まかり間違えば、「死の灰」は環境中に放出され、これまた重大被害を起こしかねない。

 運転再開は早くとも二年後といわれ、復旧費は最低でも七億ドル(千四百億円)と見積もられている。事実上、この原発は廃炉とする以外はあるまい。たった一年間運転しただけだったのである。


 いまこそ冷静な再検討を
 アメリカ原子力規制委員会(NRC)は、現在、同型のものを始め、すべての原発の再点検を指令している。わが国では原子力安全委員会が、事故解明も進んでいない四月上旬、“この種の事故はわが国では起こりえない”と発表してしまう始末だった。

 だが時の経過とともに事態の重大性をようやく認識しはじめ、スリーマイル原発の同型炉(加圧水型)の点検を指示し、他の原発の再点検も始めた。独自の技術能力と蓄積をもたない日本の場合、アメリカの事故解明の後を追って処置をする以外はないのである。

 点検開始後、関西電力高浜原発では緊急補助ポンプの軸が折損しているのが発見されたが、これまた放置すれば重大事故に発展しかねない装置である。

 その他、美浜二号炉や伊方一号炉など、制御棒案内管の固定支持ピンが損傷したり、たわんでいたことが判明し、夏場の電力ピーク時まで、ほとんどの原発を止めざるを得なくなっている。

 電力需要を満たすために無理な運転をすれば事故を起こしかねないし、安全を期そうとすれば電力供給を犠牲にせざるをえない、いわば引けない状況に追い込まれることになった。

 いまや日本の原発は事実上の「モラトリアム」状態に入ったともいえよう。いまこそ原発の是非を真剣に検討する機会としなくてはならないし、そのための土俵をつくらなくてはならないだろう。

 今回の事故は、これにとどまらない問題を提起した。アメリカ上院環境公共事業委員会は、スリーマイル原発事故の教訓にかんがみ、事故が生じた場合の緊急避難計画を義務づけようとしはじめたからだ。

 現在、原発事故の場合の緊急避難計画をもっていない州は十六あるとされている。委員会は、この計画をもたない州に設置されている原発を、六カ月以内に全面閉鎖することを真剣に議論している。もしもこれが決定されるとなると、現在、アメリカで運転している原発七十二基中四十一基までがこれに該当し、運転中止に追い込まれることになる。

 わが国の場合、アメリカと同様の緊急避難計画を義務づけ、かつその訓練を実施した場合どういうことになるであろうか。人口稠密地域に乱立しているわが国では、風向きいかんによっては、東京(東海二号炉)など大都市を含む周辺区域の厖大な避難訓練を必要とすることになろう。社会的パニック状態をも覚悟しなくてはならなくなるかも知れない。

 こうした状況のなかで、アメリカはすでに、かつて計画していた一千基の原発で十億キロワットの発電をまかなうという方針を事実上放棄し、せいぜい二百基ぐらいにとどめようというムードになりつつある。

 またゼネラル・エレクトリック(GE)やウエスチング・ハウス(WH)はすでに、原発の技術開発を半ば放棄し、すでに発注済みの原発建設にとどめようとしつつある。海外輸出だけが例外のようだ。

 わが国も、原発の誇大広告や過剰PRに頼るのではなく、冷静な事態の分析に着手する時期をむかえつつあるといえよう。

     (1979年5月25日)


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