1977/07/01 核問題・軍縮問題に取り組む

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21世紀を展望した新エネルギー政策
  立ちどまろう! ふり返って考えよう!
  原子力発電は五年間のモラトリアム(一時停止)を!

 資源・環境・食糧・人口といった諸問題が人類の未来を制約している。いまやこれらの制約要因を無視して未来社会は構想できなくなった。

 だがしかし、これらの諸要因を悲観的にばかりみているわけにはゆかない。われわれは従来の“常識”から脱けださなくてはならない。「高度成長」期につくられた“常識”に固執する限り、われわれは21世紀にむけて悲観的展望しかもてなくなる。

 だがどうだろう。十年前をふり返ってみよう! わが国の石油消費量は、現在の約二分の一以下だった。電力も半分以下。魚も現在の二分の一だけ食べていた。十年前、われわれはそんなに不足感にとらわれず生活していた。電気製品もたいていのものは各家庭でもっていた。日常生活がそんなに苦しかったわけではない。

 この十年間はどうだったか。重化学工業の急成長、マイカーのラッシュ、高速道路の急速な建設など、エネルギーの大量消費が一挙に進み、それと引きかえに、公害が多発し、環境の危機が国民に実感されるに至った。高度成長経済の負の結果が噴出した。

 この歪められた経済成長の「型」を温存させたままで、エネルギー危機だけ叫ぶことはまず出発点で間違っている。

 われわれ「社会市民連合」は、これから創世紀にむけて、ドン・キホーテのような暴走的経済成長策を止めなくてはならないと考える。知恵のある経済政策を追求しなくてはならないし、文明的にも確かな社会を創造してゆかなくてはならない。

 われわれは今後、減速経済から低成長へ、そして21世紀には「ゼロ成長」経済へとむかってゆるやかに転換してゆく道を構想する。

 「社会市民連合」は、この転換が大胆であるだけに多くの困難に出あうことを覚悟している。だがしかし、時間をかけ、国民的政治参加と国民的討論・合意の形成という新しい民主主義を創造しながら遂行するならば、けっして不可能な道ではないと考える。

 この基本構想を支える重要な柱はなんといってもエネルギー政策である。われわれは、まず近い将来に“エネルギー・ゼロ成長”を実現することから出発する。エネルギー消費を抑えながら、省エネルギー型産業の育成という産業構造の転換をはかってゆく(低弾性値)。さらに、これと連動して、クリーン・エネルギーの開発に全力をあげ、代替エネルギーの21世紀実用化を実現させるという枠組みを設定する。

 われわれ「社会市民連合」の追求する当面のエネルギー政策は次の三本からなる。

(一)高くて危険な原発は当面五年間のモラトリアム(一時停止)をする。
(二)代替エネルギーの研究・開発に全力をあげて、核エネルギーに頼らないクリーン・エネルギーの開発を目指す。
(三)省エネルギー政策を徹底化し、経済構造・消費構造・社会構造の漸次的改造を進め、「21世紀ゼロ成長経済」へ軟着陸することを目指す。


 一、原発は五年間のモラトリアムを!

 内外の良識ある科学者たちの“原発の危険性”に関する警告はいまようやく国民世論にうけいれられようとしている。住民運動や消費者運動の発展は、各地で原発建設計画をとん挫させている。そればかりか、科学技術の粋を集めてつくられたともてはやされた原発は事故を続発させ、その虚像は崩れさろうとしている。

 アメリカ原子力産業の巧みな売り込みに便乗して、原発を買い込んだ電力会社は、いまさっぱり動かない原発を抱えこんで途方にくれている。これまでの軽水炉型原発の年間利用率は三〇%〜五〇%(採算ベース七〇%)である。原発は発電しているときよりも止まっているときの方が多い。

 巨大な設備投資(一基二、〇〇〇億〜三、〇〇〇億円)を必要とする原発がこの状態では、電力会社の経営を悪化させることは目に見えている。このままでは原発は、電力料金値上げの構造的要因となりかねない。また原発は予定通りの発電をしないから、計画的にエネルギー供給できず、日本経済に不安定要素を植えつける。これ以上、原発巨費を投ずることは国民的損失となるだろう。


 原発の抱える六つの問題点
(1)現在の原発技術は未完成であり、実用に耐える水準にはない。すべての原発が大なり小なり事故を起こしており、その原因解明も、改良も技術的見通しがたっていない。

(2)点検や修理にたずさわる労働者の放射線被曝線量がうなぎ登りにふえている。将来、白血病やガン患者がふえるだろうし、遺伝子(DNA)の損壊が人口のなかに拡散する。これは未来の世代に重大な禍根を残す一大冒険である。

(3)原発の乱造により環境放射能がふえつづけており、これまた一般国民の遺伝子損壊を日常化しようとしている(再処理工場が動き出せばこの危険性はさらに激化する)。重大事故が起これば、従来の産業災害とは桁違いの被害が起 こる可能性がある。数千名から数万名規模の障害事故となり、広大な地域が人間の住めない人工砂漠化する危険性をもっている。

(4)放射性廃棄物の捨て場もないし、捨てる方法もない。放射性廃棄物は「物理公害」を惹き起こすので、従来の「化学公害」物質と同じような廃棄処分はできない。しかも物質によっては、数万年から数十万年という長期保管を必要とする。

(5)技術的欠陥から事故が連続しており、原発の稼動率は採算ペースを割っている。しかも現状では好転の兆しはまったくない。

(6)わが国にウラン資源はないから、核燃料は海外依存とならざるをえない。国際的にはウラン・カルテルがすでにできており、濃縮ウランの高騰を抑える術はないから、その経済的メリットもいよいよ低下するだろう。

 以上のような原発の実態をみるとき、われわれは以下の緊急措置をとることが必要と考える。

 原発計画をこれから五年間モラトリアム(一時停止)し、その是非について抜本的な再検討を開始する。

 モラトリアムの内容
(1)建設・計画中の原発(安全審査を経たものも含め)は、五年間凍結する。

(2)運転中の原発のなかでも、次の欠陥炉は危険度が高いので運転を中止する(美浜一号炉=関電は実際上、動かないから廃炉宣言をする)。
 福島一号炉(東電)、高浜一号炉(関電)、島根原発(中国電)。なお浜岡原発(中部電)は、大地震の兆候がなくなるまで運転を中止する。

(3)その他の運転中の全原発(軽水炉)は、実験炉扱いとし、無理な運転を止め、点検修理作業も労働者の被曝事故防止を基本において行う。

(4)再処理工場・高速増殖炉実験炉(常陽)は試運転を止め、われわれが「プルトニウム経済」を果たしてうけ入れられるかどうか、根本的検討を開始する。
 同時に、プルトニウムの軍事転用の可能性を最終的に歯止めできるか否かの討論およびその保障措置について検討を行う。

(5)今後五年間にわたって、現在の原発の抱えている問題点を洗いだし、すべての資料を公開して徹底的に解明する。
 そこでは、原発の「技術的安全性」「労働者被曝問題」「経済性」「放射性廃棄物の処理問題」「プルトニウム経済が許されるかどうか」などにわたって、従来の偏見にとらわれることなく抜本的な検討を加える。

(6)このための「専門家(賛否双方)の公開討論会」「国会および地方議会における討論会」「住民や消費者代表を含めた公開討論会」を開催し、十分に時間をかけた継続的論争を組織する。

(7)原発ないし核エネルギーをわが国の未来の主要なエネルギーとして採択するか否かはこれらの作業と検討を経て後、五年後に決定する。

(8)原発モラトリアムによって経済的打撃を被る企業(主として中小企業)や労働者には一定の補償措置をとる。
 その財源は「電源三法」の予算を法律改正によってあてる。


  二、新しい生き方を知恵をだして考えよう!

 化石燃料に代わる新しいエネルギーの研究・開発を推進するために、豊富な「予算」と「特別会計」による開発資金を用意し、最高の頭脳を結集した研究体制をつくりあげる。

 開発の基本原則
 新エネルギー開発の基本原則は次の三点におくことにする。
(1)クリーン・エネルギーを開発することにして、公害や環境破壊の予想されるものは開発対象からはずす。

(2)化石燃料に代替するエネルギーであるから、原則的には再生可能なエネルギーの開発とする。

(3)巨大化や大型エネルギーを排し、小型化と地方分散化の可能なものを開発する。
 現在、わが国のエネルギー開発関連予算は、最も「汚いエネルギー」である核エネルギーに一、〇〇〇億円という厖大な投入を行っている。この結果、太陽・風力・水力・潮力・地熱・石炭・水素といった部門への研究・開発投資が圧迫され、クリーン部門の開発が無視されたり軽視されている。

 例えば、太陽エネルギーの開発費は、僅かに一四・七億円であけ、アメリカの二〇分の一(二八一億円)、西ドイツの一〇分の一(一一〇億円)核エネルギー中心の開発をしているフランスの五分の一にすぎない。

 恐らく、この開発投資傾向がこの時点で軌道修正されないと、最も汚い核エネルギー以外は21世紀に入っても実用化できないという悲惨な結果を招くことになるだろう。


 新エネルギー開発のプログラム
 われわれの新エネルギー開発のプログラムは次のような基本的方向で作製され調整される。
(1)一、〇〇〇億円にのぼる現在の核エネルギー研究開発費(核融合も含め)の大部分を、太陽・風力・水力・潮力・水素などのクリーン・エネルギー開発費にふり向ける。

(2)研究開発費を豊富にするために「省エネルギー税」(目的税)を新設し、これをクリーン・エネルギー開発の基金とする。

(3)クリーン・エネルギーとはいっても、大型化や巨大化を追求すれば熱公害や環境破壊をもたらすので、エネルギー利用の小型化と地方分散化を追求する。このエネルギー開発は、政治制度および政治機能の地方分権化と相互依存的に進められる。

(4)エネルギー開発体制は次の二つの軸によって進められ、両者の対立・調整・協力というダイナミズムをもって推進されてゆく。

研究・開発の効率化と集中化
 諸エネルギーの開発研究は国家的プロジェクトとして計画され、高い効率性を保障し、最良の科学者・技術者・その他テクノクラットを結集する。

 研究内容は公開とし、それへの批判と協力がオープンにできるよう保障する。企業秘密は情報を非公開にするために批判の試練をうけられず技術そのものを停滞させる。したがって、私的企業主導の開発よりも、公的セクター主導の研究開発体制を原則としなくてはならない。

地方分権と自治体のエネルギー政策
 地方自治体ごとに電力や冷暖房のエネルギー供給計画を作製し、いかなるエネルギーの採用が最適で効率的かを住民参加の下につくりあげ選択する。どのエネルギーが最適かは地方ごとに多様である。それを決定する適任者は地方自治体である。

 新エネルギーの環境への影響、エネルギー源最適条件、その配分などは住民参加の下に検討され、計画・立案・実行まで綜合的に行う「エネルギー・コミュニティ」の創設を目指す。

 これらの地方自治体ごとの自立した計画の上に、他府県や近隣都市とのエネルギー供給や相互協力関係をつくりあげてゆく。

(5)新エネルギー開発の国際的協力
 一九七九年に予定されている「国連科学技術年」の「適正代替エネルギー提案」にむけて、日本の提案を出すよう準備を開始する。われわれは技術先進国との協力を促進するばかりでなく、同時にアジアにおける研究・開発の連帯を志向する。

 太陽・風力・水力・潮力利用のアジア的モンスーン地帯的共通条件に着目し、共同開発のプロジェクトをつくる。そのための「学際」「民際」など交流を進めてゆかなくてはなちない。


  三、考えたら生き方を変えよう!

 「社会市民連合」は、省エネルギー政策の基本的枠組みを次のように設定する。
(1)今後五年間、わが国の石油消費量を世界的石油の伸び率四%に歩調を合わせ漸増し、この間に原子力依存を止め、一九八〇年代半ばにエネルギー・ゼロ成長の実現を目指す。

(2)この間、GNPの成長を維持しながらエネルギー消費を抑え、弾性値を低めるための諸政策(マイカーを規制し公共輸送の拡充、重化学工業を規制し省エネルギー型産業の育成、第一次産業の脱石油化等)に全力を投入する。

(3)わが国の省エネルギー政策はこれまでの大量浪費や使いすぎの反省から出発する。従って、省エネルギーによって浮いた部分は基本的にはこれから開発に着手する「南」の開発途上国に配分するという国際的路線をとる。


 省エネルギーの具体策
(1)まず、石油輸入税をきびしくして、石油消費全体を規制する政策をとる。この元締めにおける規制は、全体の消費を抑えるうえで効果的であろう。

(2)マイカー、マイトラックの規制
 全石油消費量中、約二〇%が自動車に使われている。マイカー、マイトラックを規制し、公共輸送体系を整備すればエネルギー消費を大幅に引き下げうる。

 抑制効果をあげるため自動車に重い税金を課し、「特別会計」をつくって、公共交通・輸送の再建にふりむける。さらにガソリン税やオイル税を新設して、これを新エネルギー開発費に充当する。

(3)エネルギー多消費型産業の規制
 化学工業は、産業用電力の二〇%、石油の二〇%を消費している。公害産業の元凶もこの産業だ。プラスチック建材(プライスターヘの転換)、アクリル系合成繊維(綿への切りかえ)、合成洗剤(石けん利用)、プラスチックやプレパック(ガラスビンヘきりかえ)、食品添加物、農薬や化学肥料(人畜糞尿利用)を大胆に制限し、これに重い税を課す。

 同時に、消費者側はこれらの有害物質を使わない運動をつよめ、公害防止と省エネルギーとの相乗効果を達成する。

 鉄、アルミなど電力・エネルギー多消費型産業にも、乱造を禁じるために課税し、規制を加える。

(4)長もちする商品への切りかえ
 エネルギー大量消費のもう一つの原因は、消費財の耐用年数を短くし、商品の乱造と乱売を許していることにある。これら商品の耐用年数を二〜三倍にすればエネルギーの節約は相当なものとなる。

 自動車や家庭電気製品をはじめ、消費財を長もちする商品に変えさせる。目先を変えた新製品やモデルチェンジによる乱造・乱売を規制し、これには付加価値税を重く課す。部品交換による修理を奨励し、修理産業などマンパワーを吸収する産業を育成する。

 こうして、消費の型の転換、新しい省エネルギー技術の開発、人間の手による労働の拡大といった全面的綜合的な転換をはかる。

(5)第一次産業の石油依存からの脱却
 日本の農業はいまや石油にひたり、石油なしにはやってゆけない。漁業もまた恣意的な遠洋漁業の拡大によって石油依存型となってしまった。石油危機がそのまま第一次産業の大混乱もしくは崩壊と直結するような構造をつくりあげてしまっている。

 第一次産業の石油依存からの脱出を真剣に考えなければ、食糧の生産・供給も、健全なエネルギー政策もつくれない。

 農業は基本的には有機農業への転換を追求し、化学肥料・農薬使用に制限を加え、これに高い税を課す。またメロンのような高級青果など、エネルギー浪費型栽培には高い省エネルギー税をかける。漁業は、近海・沿岸漁業を保護育成し、放牧型増殖漁業を優遇し、遠洋漁業に要する輸送エネルギー使用を制限する。

 第一次産業は、再生可能な太陽エネルギーに支えられ、生態系という自然の恵みを母体として成りたつ産業である。この自然な性格を保護すべきであり、石油経済依存という奇型的状態から一刻も早く脱けだすべきである。

(6)以上のような省エネルギーのための規制政策は、中央集権と管理社会化を促す危険を伴うため、各種権限の地方自治体移譲など、分権化を強める方向で追求する。同時に、国民的合意をうるための運動と連動しなくてはならない。

(7)また、省エネルギーのための各種課税は、物価上昇率に合わせて年々スライドさせる。この方式をとらなくては、実現性が乏しくなる。


 こうした省エネルギー政策は、日本の将来の経済構造のあり方、就業構造の変化、雇用問題の解決、労働の質の転換という全領域に及ぶ変動を覚悟することなしには成功もおぼつかない。

 エネルギー政策の転換は、このように、日本の進路をどのようなところに定めるか、基本的選択はどうあるべきか、という重大な転換に関わっており、これについての国民の合意を必要とする。

 既成の諸政党、財・産業界の指導者達は、この重大な時期に、惰性的思考にとらわれ、真の変革を決意してはいない。エネルギー危機をめぐるホンネとタテマエは完全に遊離し、無策のままに現状を維持しようとしているにすぎない。

 21世紀は遠い未来ではなく、目前にきている。経済構造の全体を転換しようとするならば、十年間以上の時間をかけて漸次的改革を立案してゆかなくてはならない。決断を遅らせれば混乱と破局に突入しなくてはならないかも知れない。転換への着手が早ければ、われわれは社会的緊張と矛盾激突型の対立を回避しつつ、民主的で緩やかな変革を遂行しうるだろう。

 われわれは、高度成長経済期に慣れさせられてしまった思考方法を根本的に反省し、国民一人一人がその経済観念を変え、生き方を変えてゆく運動を提唱する。これらの市民的運動とわれわれの探究してゆく政策が結びついてこそ、国民の政治参加による民主的大転換が約束されるだろう。

     (1977年7月1日)
社会市民連合


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