2012年法政大学大学院政治学講義 ホーム講義録目次前へ次へ

2012年9月21日 第 1 回講義「政治とは何か」               講師  江田五月

 

皆さん今晩は。「政治と科学技術」の講義を受けもつことになった江田五月です。

今回は昨年に続き2度目で、昨年は受講生 16 人登録でした。今年は少ないですが精鋭が集まっています。昨年講義をやってみて、今年はむしろ、学生とやりとりしながら進めるのがよいかと思っています。昨年、話したことを思い返しています。講義名ですが、菅直人さんが前任者で、彼は東工大で科学をやっていました。菅さんのあとを下斗米教授から頼まれました。そんな訳で講義名「政治と科学」はそのまま使っているわけです。

政治を科学するということを考えていきます。体系だって話すのはできませんが、私は国会議員になって 35 年になります。皆さんの年齢より私の政治経歴の方が長いのでは。衆議院 4 期 13 年、参議院 4 期半ばで 22 年。 1993 年細川内閣が生まれ、科学技術庁長官を務めました。その後、橋本行革で科学技術庁は文部省に吸収され、今は文科省に。 2007 〜 2010 年参議院議長、昨年 1 〜 9 月法務大臣、 6 〜 9 月環境大臣を兼ねました。体験的政治論を話していきます。

 

【民主党代表選】

今日は民主党代表選挙が終わったばかりですが、皆さんどう見ていますか。自民党の総裁選、民主党代表選に関心ありましたか。まず、皆さんの名前を教えて下さい。

 

・・・学生が自己紹介・・・

(学生、留学生)誰が総理になるか関心がある。ちなみに私は中国では生まれてから投票したことがないです。民主党代表は総理、自民党は次の総理の可能性がある。中国のトップは中国の権力の中で決まる。日本とは違う。

(学生)選挙後に、民主党から離党者が出るのでは。

(江田)民主党は野田さんと決まっていたわけではないが野田さんが強い。何故か。有力な対抗馬が出かけたからです。細野さんが出たら勝ったかもしれなかったです。細野さんは環境大臣、原発担当。福島の人を考えたら、細野さんは大臣を辞められなかった。配布した党員サポーター小計をみて下さい。サポーター票が一番国民の意見を反映した票です。サポーター票の投票権は 5 月 31 日時点のもの。野田7万、赤松9千、原口2万、鹿野 7 千。サポーター票でも野田候補が圧勝。岩手県の票だけ、原口候補が野田候補を上回った。今ここで総理を変えることがいいのか。日本は小泉さんが辞めてから1年ごとに総理が変わった。そういった事象は国際的にあまり通用しない。

代表選、総裁選が終わってどうなるのか。私は野田さんの推薦人になり、野田選対の発足式で激励の挨拶をしました。そこでの演説内容です(配布)。民主党はダメだと言われますが、しかし、この3年間で変わったことも随分あります。新しい児童手当導入で、出生率が変わり、政府の中に市民がたくさん入った 。

 障がい者差別と似たような事例として、男女差別問題がかつてありました。女子差別撤廃条約批准のため、日本は3つのこと、@雇用の場における男女平等、A国籍の取り方を是正、B中高の家庭科授業 ( 男子は家庭科の授業を受けられなかった ) を身辺自立の技術として男女共修にする取組を行った。当時、日本家政学会から家庭科を男に教えるのはとんでもないと抗議されました。

国連障がい者の権利条約を日本は批准していません。条約批准の際、国内法をどう整備するか。障がい者差別禁止法をつくらなければならなく、政府や民主党の中で検討が進んでいる。私は民主党の障がい者プロジェクトの会長をやっています。政府の政策決定の場に、公務員の身分で市民が入っている。内閣府における政策決定の場に公務員の資格をもって、障がい者が加わっている。 これまで諮問機関に市民が加わっていたことはあったが、政策決定の場に加わることはなかった。国の統治機構自体の変化が起こってきた。鳩山さんの「新しい公共」、菅さんの「居場所と出番をつくる」、野田さんの「社会保障と税の一体改革」、全部進行中です。民主党政権で新しいものをスタートさせた。

与党は矛盾に満ちた現実と戦う、我慢と踏ん張りが大切です。改革を頓挫させずに、皆で支えて前に進めていくことが必要であり、今、総理を変えることはできない。 20 人の議員推薦を集めて、全党的党員・サポーター投票も行い、野田さんが選ばれた。

民主党はアキレス腱を抱え、民主党はばらけるのではないかと心配されるが、野田さんは圧勝した。決まったら結束を固めていく。政権を担当していれば、ばらけないが、総選挙で政権を失ったらまずい。民主党が一致団結し、政権交代をさせない。かつて社会党は政権だけはとりたくないのではと悪口を言われた。

かたや自民党はどうか。今まで総裁の谷垣さんが手をおろした。どうしたのか。谷垣総裁は参議院選挙に勝ち、今までちゃんとやってきたが、降ろされた。なぜだろうか、そこには熾烈な権力闘争があった。今回総裁になれば総理になる可能性があるので5人候補者が出た。勝てば総理になれる。民主党の場合は、かなり批判しあう。自民党の場合、皆同じようなことを言っている。皆紳士的にやっている。何故か。どなたも過半数は無理、 2 名の決戦投票になるので互いに刺激しない、誰かが誰かの悪口言ったら、決戦投票でどうなるかわからない。自民党は長い政権経験の知恵を身についているが、民主党はボコボコやりあう。このような話はマスコミの政治部記者が一番好きな話である。政治はそういう面も確かにあるが、そればかりではない。皆で理想を語り、夢の実現のために頑張っているのだ。

 

【東電福島第一原発事故】

民主党代表選の中で大変な論争(エネルギー問題)があった。結局、どうなったのか。昨年 3 月 11 日、東電福島第一原発事故は大変な事故だった。その教訓を受け止めて、日本は原発とのつきあい方を変えようとした。昨年 3 月 11 日までは民主党は原発推進で、全部で 53 基稼働していた。あの事故以来、日本はかさぶたのような地盤なので、いつどこで、下からボンとつきあがってくるかわからなく、いったん事故が起きたらものすごい被害が起きるだろう。また、原発は整合性があるのか議論になってきた。

私は細川内閣で科学技術庁長官を短い期間でしたが、原子力の開発・利用は科技庁が担当していました。国民の皆さんの前に、反省しなければならない。原発は難点の多い、悩みの多い、エネルギー源と思いながら、日々、当時の原子力発電に関わっている方々から話を聞いて自分は影響を受けた。日本の原発は安全、世界のどこの国より安全だという、安全神話に浸っていた。事故が起きた時にどうなるか。失敗した時にどうなるかだが、間違ったら安全方向にたおれるというのがフェールセーフの考えだった。原発は炉心、格納容器、建屋の3重防御で、最後に緊急炉心冷却装置( ECCS )がはたらくというもので、そして大地震で原子炉がやられた場合、炉心を全部水浸しにする。壊れて静かにさせる制度設計になっているという、説明を受けた。確信をもった。

3 月 11 日福島第一原発事故があった。 ECCS で水浸しになるので安全だ、みなそう思っていた。ところが、 ECCS が働かない。全電源喪失になり、装置が動かない。東北電力から来る電力があるが、送電線が壊れて来ない、ディーゼル発電機も津波でダメ、従業員の車のバッテリーをつなごうとしたがうまくいかない。日本中から発電車を集めた。しかし、電源に接続できないでアウト。そこに水素爆発。肝を冷やした。炉心の核燃料が飛散ったら東京もアウト。そうなっても何の不思議もない状況だった。本当に綱渡りのような一年だった。去年の暮、安定した管理ができるまでになったが、4号機が何故水素爆発を起こしたかわからない。定期点検中、炉心から燃料をとりだして、プールに保管、しかし水素爆発に至った。どこから水素がきたのかわからない。

使用済み核燃料プールのコンクリートに亀裂ができるような事故が起きたら、これは大変。経済三団体が揃って原発ゼロはいけませんと言っても、起きるリスクとの兼ね合いが問題。原発事故によって起きる結果は大変なもの。福島1号機で炉心爆発が起きていたら、他の原発も連動するし、リスクの大きさ、国土の特性を考えたら、原発はフェードアウトだ。次第に撤退するのが日本のあるべき姿ではないか。これが多くの国民の声であり、民主党政権の考え方だ。ドイツは脱原発を決め、準備に入った。

民主党で 2030 年代に原発ゼロを可能とするように、全ての資源を投資することを民主党エネルギー環境会議で決めた。政府の閣僚が関係する会議で、そのことを決めた。また、党の文書、革新的エネルギー環境戦略を踏まえて閣議決定した。ところがそれがマスコミでは、ついに閣議決定はできなかったと大問題になったがそんなことはない。踏まえてというのは、そのもとで実現に向けて動くということであり、新設は認めない、規制庁の基準をクリアしたところのみ再稼働を決めた。

今日の代表選でエネルギー問題に関して、候補者間の主張の食い違いがあった。 30 年代までに原発をゼロにするということに関して、野田候補は関係閣僚会議でもって閣議決定をしたとするのに対し、赤松候補は決定していないと主張する。私は 30 年代原発ゼロを決めたのだから、自然エネルギー開発、発送電分離、原発公社設置などをやって、全ての資源を投入して努力すべきと考える。赤松さんも考え方はそうだと思うが、閣議決定できなかったと言った政治家の立ち位置、打ち出し方はなかなか難しい。

あと、皆さんから質問を。まず、皆さん、講義は 15 回極力やりますが、全部、私が出られるとは限らない。カナダで国際会議もあり、政治状況もあるので、その場合は代理講師を用意します。

(学生) 

・教育問題に興味ある。参議院の役割、議員にしか聞けない話を願いたい。また、三党合意の決定の裏側を聞きたい。

・朝鮮半島の統一問題を勉強している。実家は中国吉林省、歩いて 5 分で北朝鮮。この夏休みに 10 日間、中国から北朝鮮に行った。考え方が全然違う。北朝鮮国民の思想を変えていくのは難しい印象を受けた。市場の改革開放が最優先。

・外交史を研究している、 70 年代の日加関係、日豪関係、カナダ・オーストラリアから見たアジアの情勢、ポスト日米関係になるものを探りたいと思っている。夏休みに外交史料館で資料を読んだ。閣僚会議の資料はあったが、その他はないことも多い。


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