(中国新聞1998年12月3日掲載)

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双論’98 少年法改正問題

 神戸の連続児童殺傷事件など衝撃的な少年事件をきっかけに、政府・自民党は少年法の改正案を年明けの通常国会にも提出する構えだ。焦点は、更生を重視する保護主義色の強い現行法に、刑事処分対象年齢の引き下げを含めた厳罰主義を導入するかどうか。改正の是非を、自民党法務部会少年法小委員長の河村建夫衆院議員(山口3区)と、元裁判官で少年審判の経験もある民主党の江田五月参院議員(岡山)に議論してもらった。


 ―― 改正論議の背景は。

河村 底流は神戸の事件だ。自分の子供が加害者とともに被害者になるかもしれないという衝撃が広がった。少年事件は件数的にも戦後の第四次ピークに向かっている。しかも集団化、陰湿化は著しく、貧困などの動機が多かった昔の規範に当てはまらないケースが多く、改正への問題提起に結びついた。

江田 だからといって子供を増長させてはならない、と厳罰主義が浮上するのはどうか。戦後すぐの家庭裁判所は、審判廷内でも荒れる少年の対応に大変だったと聞く。それでも教育的見地を全面に出した少年法の理想を高く掲げ、審判に当たってきた。少年法を変えれば問題がすべて解決するわけではない。

 ―― 刑事処分対象年齢の引き下げが焦点になっていますね。

河村 刑法が十四歳以上としているのに、少年法では十六歳以上。ダブルスタンダードはおかしい。厳罰で少年犯罪が減る、という意見は党内でも多数ではない。しかし、引き下げることにより子供の社会的な規範性を高めることは期待できる。刑事責任を問うかどうかは、審判次第だ。

江田 刑事裁判では、自分の運命を決める当事者能力が必要。少年法が十六歳以上なのはそのためだ。仮に犯行時が十四歳でも、審判時が十六歳であれば裁判を受けさせられる。双方を一致させる必然性はない。引き下げを論じるなら刑法全般の議論をすべきだ。

河村 審判の進め方自体にも問題がある。「山形マット死事件」のような容疑否認事件では、一人の裁判官では対応できない状況が出ている。誤判を防ぎ慎重な審判を進めるためにも、合議制や検察官の関与を認めて言い。検察側の抗告権も必要になる。

江田 誤判は、弁護人と検察官が激しくやりとりすれば防げるわけでない。むしろ捜査段階の問題が大きい。家裁では専門教育を受けた調査官が、少年の要保護性などを精査する。更生の可能性を見極め、審判不開始にすることもあり、審判になっても裁判官が不処分を判断するケースも多い。こうした更生を重視する雰囲気が壊れるのはまずい。

 ―― 被害者側から審判公開を求める声も出ています。

河村 少年法が保護と教育の側面を強く持っているのは分かるが、被害者の権利の保護はすっぽり落ちている。審判非公開は不公平、との声は強い。被害者の保護者を参加させるとか、別室でモニターを見せるとか、方法はある。

江田 審判が被害者感情を無視しているわけではない。犯罪の重大さに応じて審判の現場では議論している。神戸事件のように審判の結果を公表するのも、一つの方法と思うが…。

 ―― 自民党は議員立法による改正を目指すのですか。

河村 何でも法制審議会(法相の諮問機関)にかけなければ、決められないのだろうか。立法府として、責任を持って道を開くべき者もあると思っている。

江田 政治が役割を果たすべきだというのは分かる。しかし「もちはもち屋」とも言う。刑事法制の根幹にかかわる話が世論のムードに左右されて議員立法を急ぐのは、避けるべきだ。


(中国新聞1998年12月3日掲載)

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