2011年7月27日

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力強い環境省目指し挑戦

地球環境益追求の政策を大胆に提案

持続可能な社会へシフト

環境大臣 江田五月 はじめに

 環境省は、1971年7月1日に環境庁として発足して以来、40周年を迎えました。この間、環境行政を取り巻く状況の大きな変化に伴い、環境政策自体も大いに進展したと実感しています。これまで関わってこられた皆さまのご努力に、心から感謝申し上げます。

 60年代の後半、私が大学を卒業して社会人となる頃は、水俣病や四日市ぜんそくなど深刻な産業公害が大きな社会問題となっていました。その時代に私は、裁判官として英国留学の機会を与えられ、外から日本を見たり外国の状況も目にしながら、経済成長のみを追求する時代はいずれ行き詰まり、環境を重視する時代に大転換しなければならなくなると、そんなことを漠然と考えていました。そんな時代に、環境庁が呱々の声を上げたのです。

 この40年の間、環境問題の切実さや人々の問題意識の鋭さは大きく変化し、まさに隔世の感があります。環境保全の意識の高まりの中、環境省に期待される役割や果たすべき役割も大きく膨らんできました。そして、その政策目的を遂行するための政策手法も多様化し豊富化してきました。

 環境を取り巻く状況の変化と政策手法の多様化

 70年代に、環境汚染が大きな社会問題となり、全国各地で工場や事業所からの排気ガスや排水が地域住民の健康や生活環境に大変な悪影響を与えました。これに対処するため、各省庁に分散していた公害行政を一本化し、強化するために環境庁が設置されました。このころの政府の取組は、公害対策基本法に基づき、まず、公害の未然防止、人の健康への被害や不可逆的な自然破壊の防止を行うことであり、政策手法は、即効性があり、効果が確実な直接規制など、規制的手法を主軸に据えたものでした。併せて、公害健康被害の補償の制度化を進めてきました。公害防止装置の設置に対する補助や税制優遇といった経済的措置にも着手してきました。

 その後、80年代にかけて、工業化や地域開発の進展に伴う環境破壊や、都市化の一層の進展と都市・生活型公害の深刻化が指摘されるようになり、大気等の環境媒体別規制法の整備を進めるとともに、生活排水による都市内河川の汚濁などに対応するため、台所からの排水をきれいにしようという啓発普及にも取り組み始めました。

 80年代から90年代以降にかけては、土地改変を伴う大規模事業が促進されたことに対応し、事業実施に当たって事業者自らが適切な環境配慮を払うように促すために、各種開発法の中にその種の規定を置くようになりました。経済社会システム自体の中に環境配慮を織り込むことを目指して、多様な政策手法が取られるようになりました。環境影響評価といった手続的手法、汚染物質排出量の公表により削減を促す情報的手法、さらに自主的取組などです。

 さらに、オゾン層保護や地球温暖化対策等に対する国民的な関心が高まり、政治の場でも議論が活発になり、国際対応も強化されてきました。87年にはブルントラント委員会が東京会合で「我ら共有の未来」を発表し、「持続可能な開発」の概念を提唱しました。環境省はこの運営に携わり、以降、多国間環境交渉に積極的に対応していきます。気候変動枠組条約第3回締約国会議を97年に京都で、また、生物多様性条約第10回締約国会議を10年に名古屋で開催するなど、日本も国際的なイニシャティブを発揮してきました。

 92年に開催された地球サミットを契機とし、多様化する環境問題に対処するため、93年には、公害対策基本法を発展的に継承し、より広い視点から環境問題に取り組むことを可能とする新しい基本法として、環境基本法が制定されました。さらに、00年には循環型社会形成基本法を制定し、各種リサイクルの個別法も順次制定・改正してきています。

 また、施策の進展に伴い、環境省の組織も充実強化されてきました。90年に地球環境部(現地球環境局)を設置し、地球環境保全施策の進展充実を図り、01年の中央省庁再編に伴い、廃棄物・リサイクル対策部を大臣官房に設置し、廃棄物リサイクル対策を一元的に行うこととしました。

 環境問題の多様化がもたらすニーズに対応する環境省へ

 環境問題自体の多様化や、関心の高まりや意識の高揚に伴い、建設的な解決にむけて、より一層多くの方々が多様な環境保全活動に携わるようになってきています。このため、企業、NGOやNPO、国際機関、研究者などさまざまな主体が、それぞれの知見を活かして協働し役割を十分果たしていくことが、問題解決のための大事な鍵となってきています。そのために、役所の公的なイニシャティブやコーディネーションも、ますます重要になります。

 私は、こうした協働を促進するための仕組みづくりや、必要とされる情報の整備、方針の打ち出しなど、多様なニーズに環境省が責任を持って取り組むことがこれまでにも増して重要になってきたと考えています。

 例えば、国内の製造工場を中心とした事業場だけではなく、一般の事務所や商業施設、ご家庭といった活動の「場」において、温暖化対策や水・大気といった環境媒体への汚染物質の排出抑制が進んでおり、その促進や定着のための制度・取り組みが求められています。また、環境保全型の商品やサービスの選択といった、個人のライフスタイルの見直しを促進するための情報提供や、環境産業を育成していくための金融面、財政面での施策も必要です。

 こうした環境問題の多様化がもたらす多様な政策ニーズを、さらに多様な関係者と多様なパートナーシップを結ぶ必要性をしっかりと認識し、柔軟な姿勢で臨むことが環境省には何より必要なことだと思います。

 また、こうした協働の姿勢を、国内だけではなく、国境を越えて環境保全の輪として構築していくことが必要だと考えています。一衣帯水のアジアの国々はもとより、世界各国と協働し、地球環境という大きな共通の基盤を保全していくことが大切です。地球環境のバランスが崩れ、将来の社会に大きな影響を与える可能性が示唆される中、地球環境益を追求していくための政策を大胆に提案していくことが、環境省に求められているのです。

 環境省が当面する課題:東日本大震災への対応

 環境行政の重要課題には、地球温暖化対策、生物多様性の保全、公害健康被害対策、環境保全への取組を通じた経済や地域の活性化、循環型社会の構築、大気・水・土壌環境の保全、化学物質対策など、数多くの問題が山積しています。しかし目下のところ、第一に力を傾注しているのは、東日本大震災への対応です。

 未曾有の被害をもたらした大震災の発生から、4ヶ月以上が経過いたしました。今なお多くの被災者の方々が避難生活を余儀なくされていますが、被災地においては、確実に生活の再建、復興に向けた動きが始まっています。

 環境省としては、まず、大量の災害廃棄物を、被災住民の皆さんの生活現場の近くから、一刻も早く仮置場に移すために、必要な施策を具体的に講じていくことが何より大切だと思っています。また、被災地における本格的な復興の際には、東北の特徴を活かした復興を目指すとともに、社会やライフスタイルの転換を図ることで、災害に強く、環境負荷の低い地域づくりの推進に努力していきます。

 おわりに

 環境省を取り巻く状況や期待される役割、政策手法などが時の経過と共に変わっていっても、環境省の使命は変わらないと思います。環境は孫たちからの預かりものです。環境省の使命は、50年先、100年先の子供たちが安心してこの地球で暮らせるように、私たちの社会や経済の仕組みを環境に配慮した持続可能な形にシフトしていくことです。「環境の世紀」ともいわれる21世紀をよりよい100年にするため、環境保全のために協働する国内外のすべてのパートナーの方々とともに、そのコンダクターにふさわしい力強い環境省を目指して、今後も私たちは挑戦し続けていきます。ぜひご期待下さい。

環境は孫たちからの預かりもの

環境新聞 平成23年7月27日掲載


2011年7月27日

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