2001/01/04 中國新聞掲載

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情報技術は政治を変えるか  IT 2001


中国地方の国会議員4氏座談会

情報技術(IT)革命の潮流が、経済活動や市民生活、社会の仕組みを変えつつある。政治の世界も無縁ではすまない。パソコンや携帯電話が急速に普及し、政治家のホームページ(HP)には大量のメールが届く。政治家は政策や政治活動にそれをどう生かすのか。一段と加速するIT革命は、有権者との関係や選挙制度も変えるのか。自らもパソコンを活用する中国地方選出の国会議員4氏が「 ITは政治を変えるか」をテーマに語り合った。

   <出席者>
細田 博之氏(自民・衆院島根1区)
安倍 晋三氏(自民・衆院山口4区)
斉藤 鉄夫氏(公明・衆院比例中国)
江田 五月氏(民主・参院岡山)  
   ホームページのアドレス
http://h-hosoda.jp/
http://www.s-abe.or.jp/
http://www.saitotetsuo.com/
http://www.eda-jp.com/
司会 東京支社編集グループリーダー 福島義文

■ 私の「IT度」

――ご自身のIT化について聞かせてください。

江田 私には昨年がまさにIT革命の年。年明けにパソコンを使い始め、東京の事務所、宿舎、わが家とで6、7台ある。自分のHPに活動日誌も書き込み、今では毎日200から300件のアクセスがある。

安倍 多額の費用が掛かり、配る範囲も限られる後援会報と違い、情報発信が極めて容易だ。官房副長官になって自分のHPに「官邸からも言わせてほしい」というコーナーをつくると大きな反響があった。

斉藤 魅力あるHPであることが大事。目新しさだけでは飽きられる。今の政治をどう考え、どう動いているかを証明する場にしなければ。奇抜さから内容重視に立ち返りたい。

細田 初当選前から事務所のコンピューター化を進めた。手伝ってくれた秘書は、地元でコンピューターサービスの会社を立ち上げたほど。HPにはいろんな要望、陳情が寄せられる。一方で、原発反対のメールが大量に来るなど、昔はなかった反応にどう対応するかが課題だ。

■ ネットと有権者 ―― 世界の人々と論議 安倍氏

――民意を吸い上げ反映させるのが政治。ITは政治をどう変えますか。

江田 民意の発信は様変わりした。例えば昨年の加藤政局。加藤紘一さん(元自民党幹事長)のHPアクセスは一日に何十万件で、内閣不信任案の採決があった11月20日夜は国会中継見たさの「君の名は」現象が起きた。世論形成のあり方や政治家と国民の関係が変わり、民意が政治を動かす形が強まるだろう。

安倍 自分のHPで、政治家は主義主張を日本だけでなく世界中の人々に伝えられる。逆に政治行動への異議申し立ても国民の側から寄せることができる。例えば「情報をコントロールできなくなる」と、インターネットに脅威を感じている国もあると聞く。

細田 一人ひとりが直接、政治情報や政治家の意見に接するのだから、民主主義は変わる。併せて政党も変わるべきだ。今、自民党のHPにも大変なアクセスがある。それが首相の支持率につながるといいんだが、これはいまひとつ。ただ、これから実るだろう。

斉藤 昨年の総選挙でHPやメールのアドレスの入った名刺を大量に渡したからか、提言を含んだ有権者からのメールが格段に増えた。「取り上げなければならない」と感じる意見も目立つ。会える人、電話で話せる人はこれまで限られていたが、かなり広範囲の声が聞けると実感している。


■ 選挙革命 ―― 「在宅投票」実現へ 江田氏

―― ITによって選挙は変わりますか。

江田 例えば長野県知事選は「IT選挙」だったようだ。HPやメールを通じ人々が出会い、ボランティアで選挙参加した。田中康夫さん自身は長野県に大きな後援会網を持ってはいないのに、インターネットの仮想空間で大変な応援団ができ、それが現実に大きく反映した。選挙は大きく変わると思う。

安倍 選挙時のHPやメール規制も考え直すべきだ。公職選挙法は、選挙期間中「お願いします」といったメールを有権者に出すのを禁じている。近い将来、インターネットも接続しっぱなしの時代となり、電話もテレビもそれに乗っていくはず。それならメールも解禁すべきではないか。

細田 ITに詳しいのはどちらかというと若い人で都会に多く、無党派層と重なる部分が多い。そういう意味で政治参加を促すだろう。そこで進めるべきは電子投票だ。昨年の米大統領選のように、疑問票の扱いには時間がかかる。電子投票なら瞬時に結果が分かるし、技術的にはもう可能。「自分の名前を書いてもらうのが選挙だ」という古い意識の何人かの議員に、IT革命を理解してもらわなければ。

斉藤 旧新進党時代に電子投票制度を研究した。投票所に行かず、自宅のパソコンやコンビニエンスストアでの投票を可能にするシステムだ。きちんとした本人確認が必要だが、投票率アップにつながる。まず、投票所での電子投票を実現し、その後は投票所に行かずに済む投票システムの構築―。そういった形で政治と国民を近づけるのに、ITは欠かせない。

江田 旧進新党の党首選では、在宅投票の実績がある。三けた程度だったが、ちゃんとできた。二十一世紀には実現するだろう。

細田 住民基本台帳法に基づいて全国民に配ることにしているIDカードを使えば本人確認はできる。身代わり投票問題をクリアすれば実現可能だ。


■ 電脳社会の落とし穴 ―― 弊害より長所見て 細田氏

――政治家が有権者に迎合してしまうといった負の側面も感じます。

江田 困るのは匿名性。情報の真偽のほどが分かりにくい。ネット上にまゆをひそめるやりとりがあるのも事実。進歩が急なだけに戸惑いもあり、IT時代の国民、政治家として、我々がどう育っていくか、社会全体がITリテラシー(能力)をどれだけ備えるかが大切だ。

安倍 インターネットはあくまで政治のツール。「私の主張はHPに。ご意見はメールで」とばかりにはならない。今までのような集会は続くし、生の声を聞くのが基本。さらに多くの人の声を聞き、自分の意見を聞いてもらう手段とすべき。そうでないとネットを通じて入ってくる大量の声に左右され、世論調査型の政治に陥る恐れがある。

斉藤 一つのデマゴーグが大きな力を持ちかねず、間違った世論がネット上で形成される恐れがある。きちんと見抜き、防ぐための情報を発信する責任が政治家に課せられる。

細田 ただ、規制の方向に向かうのはどうか。技術革新が進み、ITのすそ野が広がる中、混乱もある程度やむをえず、弊害よりも長所を考えたい。一人ひとりがIT社会に参加する意志を持つことが大事だ。


■ 未来に向けて ―― 求められる専門性 斉藤氏

―― ITで多くの変革が起きそうです。政治の未来も同時に変わりますか。

江田 昔、国会を何十万人の人が取り囲み反対の声を上げた。例えば安保。今、そんな状況ではないが、国民が政治にモノを言わないのかというと違う。加藤政局が示すように、仮想空間では政治意識は盛り上がっている。そんな時代だから政治家は、自分の個性を盛り込んだ魅力ある情報発信が必要。サイバースペースを押さえた者が政権を取る、なんてことになるかもしれない。

細田 「インパク(インターネット博覧会)」の準備段階で、堺屋太一前経済企画庁長官に「 I AM 総理」と題して国民の政策提言を受けとめる場をつくるべきだ、と提案した。実現しなかったが、積極的に政治にかかわろうとする一人ひとりの声を取り上げるのが究極の民主主義との思いからだ。

安倍 政党政治家はこれまで「固定客」を相手にしていればよかったが、これからはより多くの国民が相手となる。知った人から頂くしかなかった政治献金も、アメリカではネットを通じて募金を呼びかけ、実際に多額の金が集まった、と聞く。日本にもそんな時代が来るだろう。

斉藤 与えられた情報を基に世論が形成されたのがこれまで。今後は、ネットを通じ有権者が知りたいことを即座に知るケースが増えるわけで、全く別な合意形成の時代が来る。政治家も有権者にこたえられる政策や専門分野を持っていなければ生き抜いていけない。ゼネラリストであり専門家―。IT時代の到来は、政治家に高い資質を求めることになる。


ほそだ・ひろゆき
あべ・しんぞう
さいとう・てつお
えだ・さつき  
党IT議員連盟事務局長。元通産総括政務次官。森派。4期。
内閣官房副長官。情報通信技術戦略会議オブザーバー。森派。3期。
党文部科学部会長。元科学技術総括政務次官。工学博士。3期。
元科学技術庁長官。党NPO委員長、前党司法ネクスト大臣。2期。

2001/01/04 中國新聞掲載

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