2001年12月18日 目次      戻るホーム憲法目次

民主党憲法調査会「中間報告」 (第三作業部会:人権)

民主党憲法調査会(会長:鹿野道彦)


すべての人々の人権を保障するために
−第三作業部会「中間報告」−

 明治憲法の人権条項は、法律の留保も多く、極めて不完全なものであった。戦後の日本国憲法は、当時の国際水準の人権規定を採り入れ、わが国の人権保障を一新した。それから半世紀が経過し、わが国はいま、経済活動のみならず、人権保障の面においても、明治憲法下とは比較にならない進歩を遂げた。この成果は、現憲法の規定だけで得られたものではない。これを使いこなし、社会のすべての場面における人権確立に向けた、市民の不断の努力が結実したものである。

 それでもなお、社会の実相を直視すれば、性差別、部落差別なとが残り、適正手続きの保障が不十分な点が残存するなど、国連の人権委員会でも指摘されている通り、なお改革が強く求められる場面が多い。憲法の人権保障の完全実現が求められている。

 この半世紀の間、国の内外を問わず、これまでの時代に例を見ない急激な変化あった。これに伴い、憲法制定当初には認識されなかった人権状況が生じてきた。人権が、国家により与えられるものから、自立した市民がみずからの努力により確立するものへと変わると同時に、国家が権力を行使する際の適正手続きの要請が厳しく求められるようになっている。それはまた、人権主体への「説明責任」と「情報の公開」を含むものとなっている。

 この中間報告では、これらの変化のすべてを扱うことはできない。そこで、論点を以下の3つの課題に絞り、とりまとめている。

 第一は、「新しい人権」に関する議論である。激しい社会変化に伴い当初は予想されなかった権利や利益が広がり、これらを「新しい人権」として憲法による保護を認めるべきではないかとの問題が発生している。また、災害、テロ、凶悪犯罪、エイズなど現代市民生活の不安に対処する「人間の安全保障」も人権の問題として考える必要がある。具体的には、環境権・個人情報の権利・名誉権・人格権・知る権利・日照権・知的所有権・子どもの権利・安全への権利・発展の権利(自己実現の権利)等、憲法に直接明記されていない権利に関しては、人権保障がより明確になることを考慮し、何らかのかたちでこれらの「新しい人権」のカタログを憲法規定の中に採り入れることを検討すべきと思われる。

 第二は、「外国人の人権」についてである。外国人の権利保障は、「地球市民」が国際社会、国、地方自治体、コミュニティにおいて有する「連帯の権利」に深く関わるものである。人権の自然権的性質から外国人の人権を保障するという考え方には見解の一致が見られるものの、日本国憲法第3章「国民の権利義務」には外国人の人権は明文化されておらず、外国人の人権保障について憲法解釈も曖昧なままであり、その明確な規定が強く求められている。

 憲法における外国人の人権保障を考える際には、世界人権宣言、難民条約、国際人権規約などを有力な基準として採用し、国際人権保障に対応するものが求められる。特に、国際人権A規約に関する委員会は、日本について、在日外国人の社会権保障の実態公表が不十分だと指摘しており、普遍的人権保障の面での立ち後れが問題となっている。

 第三に、私たちは人権保障機関のあり方について審議した。1993年国連総会にて採択された「国家機関の地位に関する原則(パリ原則)」では、国際人権法の国内実施を任務とする国内人権機関の指針を示している。それによると「国内人権機関」とは、(ア)国家機関とは別個の機関で、(イ)憲法または法律を設置根拠とし、(ウ)人権保障に関する法定された準司法的機能と提言機能を含む独自の権限を有し、(エ)独立性を持つものとされる。

 人権保障は「絵に描いた餅」にとどまってはならない。日本でも、95年ILO156号条約批准、人種差別撤廃条約への加入、96年人権擁護施策推進法の成立、99年人権教育啓発推進法の成立等々、一定の前進を果たしてきた。しかしながら、性差の違いや民族差別等に基づく人権侵害事件は後を断たず、事件内容の複雑化、困難化に直面している。特に人権侵害を受けてきた者にとって現行の司法制度をはじめ人権擁護制度では限界が明らかになっており、適切な救済手段の整備が急務となっている。

 
1.「新しい人権」の確立について

 「新しい権利」のカタログについては多様なものがあるが、ここでは、憲法13条の「幸福追求権」に含まれるとされているものに限定し、典型的なものを特に検討課題として列挙する。

(1) プライバシー権

 プライバシーの権利については、近年、情報化社会が急速に進展したことに伴い、より積極的に保護していこうという考え方が支配的になってきた。この権利に関する見解自体も変化し、「自己に関する情報をコントロールする権利」と捉え、公権力に対して積極的に保護を請求する権利と解釈されている。国民が自由に情報を受け取り、または、国家に対し情報の公開を請求する「知る権利」は21条の表現の自由から導き出されるが、個人の情報に関してはプライバシーの点で13条も根拠となっている。これを憲法上の権利として明示することの可能性について検討する。
 
(2) 環境権

 国連人間環境会議は、1972年の人間環境宣言の中で「良好な環境の享受は市民の権利である」としている。その環境権は、わが国では憲法25条と13条に根拠を持つと言われている。新しい人権として早くから主張され、相当数の訴訟もあるが、「環境権」の名称の下にこれを正面から認めたものはない。環境権の内容を「良い自然環境を享受する権利」として定義するか、「文化教育、歴史的なものの環境をも含む権利」として定義するのかが、対立しているからである。

 この環境権を明確に定義し、法的権利として確定するための作業を進めて、憲法上の権利として明示すべきかどうかを検討する。

(3) 自己決定権

 自己決定権とは、公権力から干渉されることなく、個人が自らを決定できる権利で、自己の生命・身体の処分に関わる事柄(臓器移植、延命治療、安楽死の可否など)や家族の形成・維持に関わる事柄がある。「自己決定」といっても人は集団の一員として暮らしており、生活選択には制限があるとも考えられる。これはいずれも、21世紀にはますます大きなテーマとなることが予測されるものであり、その法的権利性を明確にすることが求められている。


2.憲法における外国人の人権保障のあり方について

(1) 外国人の登録及び再入国について

 外国人の登録証明書の常時携帯義務については、一般永住者、在日韓国・朝鮮人などの特別永住者への適用は廃止すべきであると考える。また、国際人権A規約に関する委員会は、日本に対して、出入国管理及び難民認定法第26条の再入国許可要請の必要が日本に生活基盤を持つ外国人の出国、再入国の権利の剥奪を招くおそれがあるとし、再入国許可要請の義務づけを除去することを勧告している。外国人再入国制度についても見直すべきである。

(2) 外国人の受験差別問題

 民族学校卒業者には大学受験資格は与えられず、大検を受けなければならない。これに関しても、上記の国際委員会は、日本に対して、外国人児童への母国語教育を行うよう勧告している。民族学校を公式に認定し財政補助を行うこと、それらの学校の卒業資格を大学入学試験受験資格として認めることなどを、憲法第14条の「法の下の平等」の原則に照らして検討する必要がある。

(3) 地方自治体における外国人の参政権問題・住民投票問題

 最高裁は地方参政権を認めるかどうかは憲法上禁止されるものではなく、国の立法政策に関わる事項と判示している。しかし、地域住民としての義務を果たしている永住外国人の地方参政権を制限する根拠は乏しく、人権保障の観点からも問題は多い。地域公共団体の構成員である外国人が住民投票に参加する権利を保障することと併せて、基本権としての整備が必要である。

(4) 外国人の法的地位と国籍要件問題及び難民受け入れ問題

 国籍要件のある法律は多くはない。しかし第二次世界大戦の戦争犠牲者に対する援護法関係には国籍要件を含むものが多数あり、当時日本国籍を有していた在日韓国・朝鮮人たちの人権保障の面でも問題があり、見直すべきである。また、日本は「難民条約の地位に関する条約」(1951年)を批准しているが、その認定が厳格すぎるため法の実効性が保障されていない実態にあり、普遍的人権の観点からも問題が多い。世界に開かれた国としての法整備が必要である。

(5) その他の外国人の人権問題

 日本では、外国人母が不法滞在者であるため、婚姻届、出生届が提出できず、子どもが保護を受けられないという反人権保障の状態が続いている。この現状は、日本が批准した「子どもの権利条約」とは矛盾するものであり、早急にその改善が求められている。また、日本人の配偶者等となっている者がその日本人が死亡した場合在留資格がなくなるという法の空白部分についても検討すべきである。さらに、外国人が受けられる公的医療保険に加入している割合は低い事実も人権保障の観点から問題となっており、日本は、国連、ILOなど外国人のセーフティネットのための国際規約の批准を急ぎ、同時に国内法の整備を進めるべきである。


3.デュープロセスと人権保障機関

(1) 公権力による人権侵害について

 公権力による人権侵害からの救済こそが、デュープロセスの要請に基づく人権委員会設置の要諦とされる。しかし、政府は「差別・虐待」以外について、他の不服申立制度がある場合そちらに譲るとする方針に立っている。私たちは、公権力によるあらゆる人権侵害事象を救済対象とし、内閣府設置の3条委員委とすることと併せて、内外からの人権救済の要請に応えるべきだと考える。

(2) 禁止される差別事由の拡大整備

 人権救済の対象となる「禁止される差別事由」を、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産、収入、年齢、言語、宗教、政治的意見、性的指向・性的自己認識、皮膚の色、婚姻上の地位、家族構成、民族的又は国民的出身、欠格条項、身体的・知的障害、精神的疾患、病原体の存在、遺伝子などに拡充し、憲法上の人権カタログに明記することも検討すべきである。

(3) 人権委員会の設置など人権保障機関の整備

 中立公正性を制度的に担保した独立した実質的な人権委員会を創設する必要がある。このため、憲法の人権保障に根拠をもち、国家行政組織法第3条に基づく委員会を内閣府に設置すべきである。また、違憲立法審査制を整備して、違憲状態の放置を許さず、人権保障をより確かなものとする仕組みを確立すべきである。


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