2014年10月2日

戻るホーム2014目次前へ次へ


平成26年10月2日
内閣総理大臣の所表明演説に対する質問(全文)
民主党・新緑風会 加藤敏幸


 民主党・新緑風会の加藤敏幸です。会派を代表して、とくに雇用・労働問題を中心に総理ならびに関係大臣に質問いたします。まず、冒頭、国会閉会中に水害や火山噴火などの自然災害により尊い命を落とされました方々に哀悼の意を表しますとともに、残されました遺族の皆様や被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。
1、雇用の質の改善について
   さて、「アベノミクス」と銘打った政府の経済・金融政策が実施されてから1年10カ月が経過しました。この間、円安、株価の上昇、大企業の業績改善などが見られました。しかし、本年4月からの消費税率の引き上げも影響し、4―6月期の国民所得統計ではマイナス成長になり、アベノミクスに対する厳しい評価も出始めております。そして、「第3の矢」である成長戦略の成否に注目が移っています。
政府が主張する「経済の好循環」を実現するには、何が最も重要であるのか。私は「雇用の質」の向上による雇用労働者の所得の向上こそが、今、最も必要な施策であると考えます。
マスコミでは大きく取り上げられませんでしたが、9月10日・11日の2日間、「G20の雇用・労働大臣会合」がメルボルンで開催されました。残念ながら塩崎厚生労働大臣は出席されませんでしたが、実は、この大臣会合に対し、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)、そして世界銀行という3つの大きな国際機関が珍しく共同で、「G20労働市場の展望、主な課題、政策対応」というタイトルの報告文書を提出しました。この文書は、「G20諸国では依然として雇用の縮小と仕事の質の低下が続いている。労働市場の動きの弱さは消費と投資を制約し、景気回復を脅かし、ほとんどのG20諸国で賃金の伸びは労働生産性の伸びを大きく下回り、賃金と所得の不平等が拡大し、先進国の多くで実質賃金の低迷または下落が見られる。景気回復の基盤は、『仕事』であり、社会の安寧と持続的な成長の基盤として、もっと多くのより良い仕事が必要である」と指摘しています。
昨年9月のサンクトペテルブルク・サミットの「首脳宣言」も、「生産的でより質の高い雇用を創出することは,強固で持続可能かつ均衡ある成長,貧困削減、及び社会的一体性の向上を目指す各国の政策の核である」と指摘しています。
そこで、総理は、これら国際会議における雇用に関する「提言」や「宣言」をどのように受け止められているのでしょうか。特に、3つの国際機関の提言について、ご自身の評価とその主な理由をお伺いしたいと思います。併せて、今後、政府としてどのように政策化していくのかについても伺いたいと思います。
2、非正規雇用問題への対応について
   関連して、次の質問をいたします。3つの国際機関の提言は、「安定的な成長を達成するために、経済変動に対し危機的な影響を受けやすい集団や、ぜい弱な人々に対し、雇用機会を増やし、労働生産性や賃金を改善するような政策を講じる必要がある」と強調しています。
我が国においては、パートタイマ、登録型の派遣労働者、契約社員・嘱託などの「非正規の職員・従業員」や、現在「雇用されている」あるいは職業訓練を受けている障害者などがこの政策の対象者になると考えますが、全体として安定的で良質な雇用が確保されている状況にはありません。とくに障害者の雇用に関しては、全国各地で就労支援事業などが進められていますが、依然として、障害者の自立を保障する一般企業への就労と定着には多くの課題が残っています。
非正規の労働者は、パートタイム労働者を中心に、昨年まで増加の一途を辿ってきました。現在、企業や官庁や法人・諸団体に雇用されている人は、役員を除くと5226万人ですが、このうち、約37%の1922万人が非正規です。まさに3人に1人が非正規ということです。非正規労働者の「雇用の質」を高めるためには、正社員に登用する道を広げ、賃金を均等水準に引き上げるとともに、そのための能力開発を十分に行う必要があります。また労働時間や休暇取得をはじめとする労働条件の改善が必要です。
そこで、まず政府として、非正規雇用の「質の改善」をどのように図っていかれようとしているのか、総理にお伺いしたします。
また厚労大臣には、これまで取られてきた非正規雇用の対策の要点を説明され、併せて、今後の政策の改善点について、特に女性・若者の視点にたった対応策を説明していただきたいと考えます。また、障害者雇用のさらなる改善に向けての政策についてお伺いいたします。
今回の総理の所信表明演説には、「雇用」という言葉は僅か1カ所しかありません。しかも、規制緩和の対象となる「岩盤規制」の一つとして取り上げられているのです。まさに今の政府の姿勢が正直に表れています。
先ほど紹介いたしました3つの国際機関の提言とは大きなギャップがあります。アベノミクスの「第3の矢」、すなわち成長戦略の要は雇用者所得の改善、実質賃金の上昇にあると私は確信いたします。この点は、労働市場の規制緩和と併せ、今後、大いに議論を展開すべきだと考えます。
3、格差是正の重要性について
 

 次に、格差の問題に関し質問します。
  格差問題は、フランスの経済学者のトマ・ピケティーの著書『21世紀の資本論』が欧米で一大センセーションを巻き起こしていることもあり、国際的にも大きな政策テーマとなっています。ピケティーは、過去300年にわたる租税データをもとに格差の分析を行なったわけですが、「資産の世襲化」を伴って今世紀末まで資産格差は拡大し続けると予測し、社会の安定と均衡ある成長のために、今こそ累進課税と資産課税を強化して格差拡大を食い止めるべきだと主張しています。
今日、我が国においてもあらゆる場面で格差拡大の弊害が出ており、ピケティー教授の言う「資産格差」もじわじわと拡大しつつあります。また、労働の場においては、「正規と非正規」、「男性と女性」、「都市と地方」との間に顕著な所得格差が存在しています。これまでは、比較的平等な賃金体系や、税制・社会保障による所得再分配機能によって格差は一定程度抑えられていましたが、いまや労働市場の変化や金融市場の変化により格差が拡がり、その結果、相対的貧困層も増大しています。
2013年国税庁の「民間給与実態調査」によれば、非正規雇用者の賃金は対前年比で0.1%減少し、正規雇用者との年収格差は5万円増えて305万円となりました。
所信表明では、多くの企業で賃金がアップしたとご自分の成果のごとく喜んでおられましたが、実質賃金が向上したかどうか、あるいは賃金の格差が縮小しているのかどうかが重要なのであります。
安倍総理は、格差是正策を含めた政策的対応についてどのように考えられているか伺いたいと思います。
これに関連し、首都圏をはじめとする大都市と地方との間の格差拡大ということにも触れたいと思います。今回、内閣改造で「地域創生担当大臣」というポストを設けられ、石破大臣が就任されました。今日、地方の人口減少を食い止め、地域経済、地域産業を活性化させ、地域を我が国全体としての成長の原動力にするということは重要な施策であります。
石破担当大臣は「今の日本国の姿は、敗戦後長い時間をかけて形作られたものであり、地方と第一次産業の潜在力を生かせないまま今日を迎えた」とブログに書かれていますが、やはり地域・地方の潜在力を生かすには、ひとえに「人」の力にかかっていると考えます。とくにこれからは、地域の女性・高齢者・障害者の活動の場を如何につくるか、そこに「質の高い」雇用・労働の場をいかに準備するかが重要だと考えます。さらには、治療を続けておられるガン患者の方々にも雇用の場を含む社会参画を支援していく施策が必要ではないでしょうか。
「問題は地方・地域で起こっている」わけです。地域の活性化に関し、「雇用の確保」と「格差是正」との関連について、石破担当大臣のご意見を伺いたいと思います。
また、格差問題・貧困問題に関連し、文部科学大臣にお伺いします。最近、三食を満足に食べられない、あるいは必要とされる栄養を十分に摂取できていない子供達が増えているとの調査結果が出ています。大臣はその実態をどのように認識され、また教育行政としてどのような対応策を考えておられるのでしょうか、お伺いします。

4、労働法制の改正(改悪)について
 

 次に、雇用問題に関連し、労働法制の改正について質問します。
政府・与党は、この臨時国会と来年以降の国会において、労働法制の3つの改正を目指していると聞いております。
第1は、現在、職種や派遣期間が限定されている労働者派遣について、その制限を取り払い、あらゆる職種で永続的に労働者を派遣することができるという改正。 
第2は、特定の職務で一定の所得があれば残業代を支払わなくともよいとする「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入。
そして第3は、不当労働行為による解雇であっても金銭でこれを解決することができる
――とするものです。
これらの労働法制の改悪とも言える動きは、小泉政権以来、続いてきた新自由主義的な政策の延長線上にあるものです。我が国の労働法は労働市場を硬直化させ、労働移動を阻害し、企業の自由な活動を制約し利益を低下させるものとだ、という考え方です。もちろん、このような考え方は断じて認めるわけにはいけません。
今回の3つの労働法制の改悪は、国際競争が激しくなる中で、少しでも賃金コストを下げ、長時間の勤務ができることを可能にし、容易に人員整理ができる環境を作りたいとする経営者側の要求を満たすものです。このような新自由主義的政策の行き着くところは、「格差の拡大」であり、「雇用の質の劣化」であり、「中間所得層の縮小」であり、「国民生活の窮乏化」であります。個別企業の利益追求としては合理的であっても、国全体としては「個人消費」という「根太」が抜け落ち、成長どころか景気失速になりかねません。
これは、いわゆる「合成の誤謬」であります。政府の役割はマクロ経済の健全な発展のために、公平・公正な競争条件の整備に心がけ、各種の社会保障制度や雇用労働政策の充実によって国民生活の底上げをはかり、もって全体として経済の上昇を実現することにあります。安定・安心を脇に置き、労働者をフライパンで煎り上げるが如き施策は、我が国が長年築き上げてきた「ものづくり日本」の基盤を浸かすものであり、自民党の皆さんの「伝統的保守政治」の目指すものではありません。
昨今、飲食業において、ひどい労働基準法違反が常態化していることが明らかになり、従業員の反発によって店舗が休業に追い込まれたという事件が世間の耳目を集めました。一部の企業で「労働基準法」があって無きが如き無法状態にある中で、労働者保護ルールの規制緩和は法違反をいっそう助長することになります。ルールを無視する経営者が若い従業員を使いつぶすようなことは決して許されません。
そこで、厚労大臣にお伺いしますが、厚生労働省は労働者保護を優先されるのか、それとも使用側の利益追求を優先されるのか、その基本姿勢をお答え下さい。また、労働基準法を踏みにじる悪質な経営者に対して、今後、どのような監督行政を展開されるのか、伺います。厚生労働大臣の任務は、液状化に近い状態に陥った労働現場の見直しにあると考えます。
また建設現場等での人手不足の影響もあって、建設業の労働災害は3年連続で増えていることが報告されています。厚労大臣には、労働災害の現状と、これを防止するための決意を伺いたいと思います。
  関連して、安倍総理大臣にもお伺いします。総理は、一方で経済成長のために労使に賃上げ要請しておきながら、他方で、正規雇用を派遣に切り替えてコストダウンする、あるいは「ホワイトカラーエグゼンプション」という残業代を浮かせてコストダウンを促す政策を推進されようとしています。このことは、まさに矛盾した政策ではありませんか。ご説明下さい。そして、労働の質を低下させ、過重な労働を課し、「働きがいのある人間らしい労働」いわゆるディーセントワークとは逆の方向をめざす法改正を本気でやろうとされておられるのか、あらためてその真意を伺いたいと思います。

5、「女性活躍政策」の問題点について
   安倍内閣は、女性の活躍を「成長戦略の中核」と位置づけ、「育児休業3年」「待機児童を5年でゼロに」「まずは上場企業に女性役員を1人」などの目標を掲げられています。女性の社会進出を促し、女性が活躍できる環境作りをするという政策は評価したいと思います。しかし現在、働いている多くの女性がどのような状態におかれ、どのような問題点や苦しみを抱えているのかを把握し、その解決策を実行することの方が重要ではないでしょうか。
現在、雇用されている女性労働者は2406万人ですが、そのうち53.9%の1296万人がパート、派遣、契約社員、役所などの臨時職員などの非正規雇用労働者です。当然、賃金をはじめとする処遇は正社員・正職員に比べかなり低く、多くの方が、職場では差別的な扱いを受けたり、パワハラをはじめ様々な嫌がらせを受け、これらに耐えならが、紛争処理機関に訴えることもなく、生活のために一生懸命に働いておられます。もちろん正社員・正職員の女性も同じような問題を抱えおられると思いますが、とくに、非正規のシングルマザーの多くは職業能力を高めるチャンスもなく、貧困層に陥っているという状況にあります。所信表明演説では触れられていない、女性の労働現場における「不都合な真実」が多くあるのです。
確かに、キャリアを積んだ女性社員を役員に登用したり、職業能力をもった主婦を再就職させることも重要ですが、現在働いている女性労働者の生活と労働環境・労働条件を改善する政策も優先的に対応されるべきだと考えますが、総理のお考えをお聞かせ下さい。
6、好循環を支える賃上げを
   繰り返しになりますが、経済の好循環を生み出す最も重要な要素は、雇用者所得の改善であります。すなわち、5226万人の雇用労働者の実質賃金の改善こそが重要であり、個人消費を支える原動力であります。
  そこで、厚生労働大臣に伺います。ここ10年間の雇用労働者の実質賃金の動向について、簡潔にお答え下さい。また、春の労使交渉が、賃金上昇として成果につながる雇用労働者の範囲、すなわち波及効果についてお答え下さい。また、自主・自律であるべき労使交渉に厚労大臣としてどのような考え方で臨まれるのか、踏み込んだ対応をされるのか、あるいは旗振り役に徹するのか、今後の労働行政への影響を踏まえ、お答え下さい。
  結論を言えば、好循環を生み出すだけの雇用者所得の改善向上、あるいは実質賃金の確保は簡単ではありません。労使の賃金決定メカニズムにおいて、近年、波及力の低下が指摘されています。ずばり、来年の賃上げは今年以上に厳しく難しいと言えます。特に、非正規雇用労働者、あるいは中小企業・零細企業、地方の企業では一層厳しいものとなるでしょう。
  このことを踏まえ、好循環を支える雇用者所得の改善にむけての総理の方策と決意をお伺いします。
  最後に一言申し上げます。経済とは「経世済民」、あるいは「経国済民」の略だと教えられましたが、大切なことは、済民の「民」とは誰なのかということです。29日の所信表明演説は、バラ色に満ちた、甘い香りのする情緒たっぷりの安倍カラーそのものでした。
問題は、総理の視野にある「民」の姿であります。自民の「民」と民主の「民」は同じものではないこと、そして、この違いを今後とも真剣に、しつこく明らかにしていくこと、すなわち、民主党は、生活者・納税者・消費者、働く者の立場、「民」の立場に立ち、共に支え合う「共生社会」を目指し、全力をあげ現政権と対峙していくことを申し上げ、質問を終えます。ありがとうございました。

2014年10月2日 2014年10月2日 加藤敏幸議員参議院代表質問

戻るホーム2014目次前へ次へ