2014年10月1日

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平成26年10月1日
【参議院本会議】安倍総理の所信表明演説に対する代表質問
参議院議員 田中直紀


◆はじめに
 民主党の田中直紀です。私は、民主党・新緑風会を代表し、安倍総理の所信表明に対する質問を行います。

冒頭、御嶽山の噴火により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、負傷された方々の一日も早い回復を心より願っております。

さて、具体的な質問に入る前に、安倍総理の政治姿勢について一言申し上げます。安倍政権は、巨大与党の数におごり、違う意見を持つものを力で排除する政治を推し進めてきました。まさに、国民不在の政治です。
最近、こうした今の政治を端的に言い当てる投稿が、九月二十日付の毎日新聞にありました。安倍内閣の施政を評して、「集団的自衛権行使容認の閣議決定、全般的な社会保障政策の後退などを併せて考えると、通底するのは、政治に最も必要な命や健康、人権を守る姿勢の欠落である。国民の希望とかけ離れた政治が進む一方だ」とあります。
いま国民は、一人一人がかけがえのない個人として尊重され、多様性を認めつつ、互いに支え合う共生社会をめざす政治を求めています。本日私は、安倍政権がいかに「国民の希望とかけ離れた政治」を行っているかを明らかにしてまいります。答弁は言葉の羅列ではなく、深みのある内容を要求します。

◆福島再生
  まず、福島再生について質問いたします。

(吉田調書)
政府は九月十一日に、政府事故調査委員会のヒアリング記録の一部を公開しました。その目玉はいわゆる「吉田調書」です。私も参議院の原子力問題特別委員会の理事として、委員会の場などを通じて「吉田調書」の公開を求めてきましたので、今回の公開は一歩前進と考えております。
ただし、政府事故調が聞き取りを行った七百七十二名のうち、公開されたのは十九人分に過ぎません。さらに、当時の東京電力社長である清水正孝氏の調書は未だに公開されていません。「清水調書」の公開も実現するべきではないですか。
また、新潟県の泉田知事は「福島原発事故の検証なくして原発再稼働はなし」と言っています。私も同感であります。事故の検証のための第三者機関の設置が必要ではありませんか、あわせて、総理の答弁を求めます。

(放射能放出)
  また、私は、九月十七日に、岩手で行われた民主党の国会議員研修会終了後、墳墓の地である福島県相馬市に帰郷しました。安倍総理も同日に広野町と川内村を視察されたことを現地の報道で知りました。
  南相馬の農家の皆さんから、来年も稲作は難しいと聞きました。その原因は、福島原発から昨年の八月に放射能が大量に飛散した事実が、今年の八月になって、なんと一年経って、ようやく明らかになったからです。昨年の八月に放射能が放出された時には、国や東電から全く説明がなかったとのことでした。
  南相馬市で実証栽培されたコメには放射性物質が付着し、基準値を超える一キロ当たり百六十ベクレルが検出されました。東電福島原発が新たな放射性物質を飛散したものと考えられます。この事実を国はなぜ一年間も隠ぺいしてきたのか、総理お答えください。
また、農水省は、最近になって昨年の八月十二日と十九日に、三号機から放射性物質が最大で四兆ベクレル放出された可能性があると現地では説明しているとのことです。その事実関係について、農林水産大臣に正確な答弁を求めます。
  昨年八月に大量の放射能が放出されていたことが明らかになったことで、あらためて昨年のオリンピック招致の際に、アンダーコントロール発言を行った安倍総理に猛省を促したいと思います。発言の撤回と、国際社会への陳謝を求めますが、総理、如何でしょうか。撤回と陳謝を要求します。

(除染・中間貯蔵施設)
その一方で、原町川俣線で飯舘村を通ると「除染中」と書かれた旗が立ち並び、至る所で黒いビニール袋に入れられた汚染土が積まれております。中間貯蔵施設が早期にできなければ、このビニール袋はそのまま放置され、劣化によりまた汚染した土が飛散するリスクが高まっていきます。
  しかし、中間貯蔵施設はあくまでも中間貯蔵にすぎません。三十年以内に県外で最終処分するとなれば、最終処分地も確保しなければなりません。今後、どのような日程・手続で最終処分地を決定するおつもりですか。総理に伺います。
  また、民主党福島復興推進会議でまとめた中間提言において、「国有化ではなく、関係自治体が所有し管理する土地を国が借り受け、地元合意を得ながら丁寧に建設を進めるべきである」としているところであります。現状では土地の権利関係についてどのようにするつもりなのか、環境大臣に伺います。
 
(汚染水・凍土壁)
原子力規制委員会は十七日、東電福島第一原発の汚染水対策で、「凍土遮水壁」について、敷地の山側の地下へ設置を了承しました。しかし、海側の地中には高濃度の汚染水がたまり、工事が難しくなっています。第一原発では汚染水がいまだに海に流出しています。その量は約二兆ベクレルとも言われています。これでもアンダーコントロールと言えるのでしょうか。総理は、自ら先頭に立って、汚染水の海への流出を止める責任があります。総理、海側の現地を直接視察し、すぐに対策を講じたらどうですか。伺います。
また、東電と国は、漁業関係者へ新しく処理水を海へ放出する計画を説明しています。トラブルがあった場合、浜通りの漁業は壊滅すると心配をしております。国の方策について、総理に伺います。

◆集中豪雨
   さて、今年の夏は、広島での集中豪雨による甚大な被害をはじめ、全国各地で台風・集中豪雨に伴う洪水・土砂崩れなどで大きな被害が発生しました。亡くなられた皆さまにお悔やみ申し上げ、被災された皆さまにお見舞い申し上げます。
  私は去る七月十三日、十年前に集中豪雨で河川が決壊して大きな災害に見舞われた、新潟県三条市の水害追悼式典に参加しました。太田国土交通大臣も出席され、三条防災センターを視察しています。ヘリポートの設置、夜間の照明車、排水ポンプ車、そして防災資材の備蓄など、緊急時の二十四時間体制が整備されています。警戒区域指定の促進はもとより、今回被災した市町村にない緊急時の防災センターの設置をすすめるべきと考えますが、国土交通大臣の答弁を求めます。
◆外交・防衛
  (集団的自衛権)
  次に集団的自衛権行使容認について伺います。先の国会での議論で安倍総理の答弁には、あいまいにして矛盾している点がありましたので、三点について伺います。
  まず自衛隊は国内的には専守防衛で海外派兵はしないと言いつつ、新三要件を満たせばホルムズ海峡において武力行使にあたる機雷掃海活動を行う可能性はあると明確に答弁しています。自衛隊が海外の紛争地域で機雷掃海を行えば、結果的に海外派兵そのものです。海外派兵をしないとの矛盾をどう説明しますか。総理お答えください。
  また、総理は今回の閣議決定で、他国軍の後方支援で紛争地域に派遣された自衛隊の活動範囲ついて、従来の「後方地域」やいわゆる「非戦闘地域」に限るという制約から、「『現に戦闘行為を行っている現場』では支援活動を実施しない」と変更しました。しかし、紛争地域において、一見平穏に見えた場所が一瞬で戦闘地域になってしまうことはよくあり、現に戦闘行為を行っている現場であるかいなかは、どのように判断するのですか、その現場からどれくらい離れていれば、いいといえるのか、自衛隊の活動範囲について、総理の具体的な説明を求めます。
  さらに、自衛隊が海外で武力行使に加わり、より広い範囲で後方支援を行うようになれば、自衛隊員の命がより危険にさらされることは間違いありません。新しい閣議決定と自衛隊員のリスクの増加について、総理の明快な答弁を求めます。

(憲法改正)
そもそも、今回の閣議決定では、憲法を改正せずに、解釈で集団的自衛権に対応する方向へ舵を切りました。解釈変更によって、自らの最大の要求をかなえようとしたのでしょうが、憲法改正の旗は降ろすのでしょうか。九十六条先行改正もやめたのでしょうか。総理、お答えください。
また、吉田茂元首相はその著書の中で述べているように、「改正の功を急ぐこと勿れ、憲法改正の如き重大事は、仮にそのこと有りとするも、一内閣や一政党の問題ではない。国民の総意がどうしても憲法を改正せねばならぬというところまできて、それが何らかの形で表面に現れた時に、初めて改正に乗り出すべきである」とあります。自分だけの思い込みで政治を進めることを戒めていますが、総理の見解を伺います。

(イスラム国空爆)
次にイスラム国への空爆について質問いたします。
  イスラム国掃討をめぐり、オバマ大統領が主導する「有志連合」は、共同声明で、「適切な軍事支援を含め、必要なすべての措置をとる」と発表しています。しかし、やはり日本としては、現憲法上、軍事支援はせず、人道支援に限るという姿勢を明らかにしておく必要があると考えます。あらためて、総理の口から軍事支援はしないと明言した上で、人道支援を行っていくべきであります。総理の発言を求めます。

(人間の安全保障政策)
  我が国の外交防衛のあり方については、紛争と災害、貧困などあらゆる脅威から人の生存を守る「人間の安全保障」政策の重要性が増しています。集団的自衛権の行使容認ではなく、人間の安全保障など、軍事力に過度に傾斜しない形で、人道支援を中心に、国際貢献をしていくべきと考えます。総理の見解を伺います。

◆経済対策について
  次に経済対策について質問いたします。

(アベノミクスの負の側面)
  経済についても、変調の兆しが見えています。ここでも国民の希望は失望に変わりつつあります。
異次元金融緩和実施から一年半が経過して、「大幅な円安」と「預貯金の実質マイナス金利現象」が発生しています。輸入物価の上昇で家計や中小企業に負担を強いており、また高齢者や庶民の虎の子である預貯金を奪い取り、国や地方及び大企業の借金の負担を減らしているだけであります。アベノミクスは、日銀の異次元金融緩和による「インフレ増税政策」と古い自民党の復活の象徴である「公共事業等のばらまき予算」という側面があることが分かってきました。
  率直に言って、アベノミクスはすでに破たんしているのではありませんか。そうした専門家の意見もありますが、政府は、このようなアベノミクスの負の側面を認識し、政策変更すべきと考えますが、総理の見解を伺います。

(賃上げの現状)
  まじめに働く人が「暮らしがよくなった」と実感するには、株価が高いことではなく、給料が着実に上がることが必要です。総理も、今年三月の予算委員会で、「賃上げに向けた動きが中小企業も含めて広がっていくことを期待したい」と述べられました。しかし、中小企業、零細企業の中には、ベースアップを実施していない企業がいまだ九割弱など、賃上げの動きは進んでいません。全体についても、物価の上昇を考慮した実質賃金指数をみると、マイナスが続いています。また、復興特別法人税の前倒し廃止や、所得拡大促進税制の創設・拡充について、賃金引上げ判断を「後押しした」と答えた企業は、わずか七・七パーセントでした。総理、期待を裏切ったことについてご説明願います。

(円安と貿易赤字)
  この一ヵ月で、円安が急激に進んでいます。これまで円安については、いわゆるJカーブ効果によって、貿易収支は徐々に良くなるとされていました。しかし、近年の傾向を見ると、貿易赤字が定着したように見えます。これについても総理は、昨年四月二十五日の予算委員会で、「貿易収支は一年後には間違いなく改善し、プラス四・六兆円、二年後には八兆円」と答弁しました。あれから約一年半が経っています。逆に、今年上半期は過去最大、七兆六千億円の貿易赤字となりました。見通しの甘さにつき総理の釈明を求めます。

(新たな経済対策)
  結局、景気の回復が思わしくなく、GDPの成長率は四月から六月期で大きく落ち込みました。
  国内経済へのテコ入れは、法人税の引き下げや、公共事業をさらに拡大するというのではなく、生活者の購買力及びその意欲を高めて、内需を拡大することであって、所得税の減税や、安心して年金生活を送れるような社会保障制度の充実策などが急務であります。つまり、税や社会保障再配分を通じて、可処分所得を増やしていくという施策を講ずるべきではないでしょうか。総理ご意見をお述べください。

(消費税引き上げ)
次に消費税十パーセントへの引き上げについてでありますが、安倍政権は、八パーセントへの消費税引き上げを実施した一方で、税制抜本改革法に違反して、引き上げ分を事実上、公共事業など、社会保障以外の用途に使ってきたことが明らかになっています。このような消費税の使い方では、消費税引き上げについて、国民の理解は得られないと考えます。消費税十パーセントへの引き上げに当たり、税制抜本改革法を厳守すると約束すべきと考えます。総理に具体的かつ、明快な答弁を求めます。

(GPIF改革の名の株価テコ入れ政策)
  GPIF改革について質問します。GPIFの運用委員長に任命された米澤康博氏は、国内株運用率を二十パーセント台に引き上げると明言しています。例えば、株式運用比率を一パーセント引き上げるだけで、一兆円の株式新規購入を意味します。米澤氏の発言については、金融商品取引法で、刑事罰の対象である相場操縦に該当する可能性があるとの批判や、運用委員長として不適切との声もありますが、金融担当大臣の答弁を求めます。

◆TPP交渉
  次にTPP交渉についてお伺いいたします。
  総理はこの夏も各国を訪問していますが、TPPの原型とも言え、交渉妥結に向け重要な役割を果たすP4協定国のブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの各国とは、首脳会談などで、TPPに関する具体的な話し合いはされましたか。総理の報告を求めます。
  昨年十二月のシンガポールにおけるTPP閣僚級会合の際、全米商工会議所のファザリー上級部長は、日経新聞のインタビューに対し、TPPについては、関税ゼロが前提であり、例外は認めない。日本はその前提で、関税撤廃に向けた猶予期間の交渉を進めるべきだと述べています。そこで伺います。現在、関税撤廃に向けた猶予期間について各国との交渉は行われているのですか、総理お答えください。
  自由化率についても伺います。すでに発効している米韓FTAにおいて、米国側の自由化率は九十九・二パーセント、韓国側は九十八・二パーセントとなっています。その後、韓国は豪州ともFTAを締結し、豪州側は百パーセント、韓国側は九十・八パーセントの自由化率となっております。言うまでもなくTPPはこのような二国間FTAより高い自由化率の水準を目指す枠組みであります。この度の日米閣僚級協議において、日本は柔軟性のある案を提示したとのことですが、自由化率何パーセントを提案したのですか。また、総理は何パーセントまでが許容範囲であるとお考えですか。
加えて、このように、より高い水準の自由化を目指すTPP交渉については、事前の情報公開と万全の国内対策が必要なことは言うまでもありません。現時点での交渉の進捗状況を国会に中間報告すべきと考えますが、総理いかがでしょうか。また、現時点での国内対策について、総理、具体的な対策をお示しください。
◆拉致問題
   私はこの夏、佐渡市に行きました。そこで北朝鮮による拉致被害者、曽我ひとみさんの思いに接しました。ご本人が書かれた手記にもある如く、「新たな拉致被害者が帰国できる可能性が現実味を帯びてきた。私の母も含まれていれば」、そして、「一日も早く拉致問題の完全解決を」とあります。安倍総理は自らの手で拉致事件を解決すると約束されました。こうした思いに政府はどう応えるのでしょうか。そして、拉致被害者の皆さんやご家族、国民が現状に納得していないことについて、総理の見解を求めます。
◆地方創生
   次に地方創生について質問いたします。
九月四日に参議院民主党新緑風会の研修会が高知で行われました。尾崎高知県知事は、その講演の中で、高知県の観光振興、移住促進、地産外商などの取り組みについて説明がありました。こうした取り組みを国として、全国各地で後押ししていくべきだと考えます。総理の意見を伺います。
その一方で、総理は九月九日、石破担当大臣に「各府省の縦割りを断固排除し、バラマキ型の対応を絶対にすることがないように」と指示しました。にもかかわらず、各省から出された概算要求においては、「地方創生関連」という冠が並び、完全縦割りの水膨れ予算要求となっています。概算要求の構造は、縦割り排除、バラマキ型の対応を絶対にしないよう石破大臣に指示したものとは、月とすっぽんほど違っています。こうした矛盾について、総理のくわしい説明を求めます。
◆終わりに
   今臨時国会は十一月末までと、わずか六十三日間の会期です。その一方で、消費税引き上げ、TPP交渉、原発再稼働の動き、不安定な景気動向と実質賃金の低下、国際紛争への日本の対応など、内外の課題は山積しています。内閣は改造しても、国会から逃げる姿勢、国民を軽視する姿勢を続ける限り、正しい対応は望むべくもありません。

安倍総理。あなたは「国民の希望とかけ離れた政治」を改め、正々堂々と国会で議論し、国民と向き合うべきです。今求められていることは、世界の四十、五十か国の訪問で、からまわりして胸を張ることよりも、先ほど来、私が指摘した諸課題に明確な答えを出していくことだと申し述べて、質問を終わります。


2014年10月1日 2014年10月1日 田中直紀議員参議院代表質問

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