2005年1月25日 >>会議録

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小泉総理の施政方針演説に対する代表質問(原稿)

民主党・新緑風会 江田 五月


私は、民主党・新緑風会を代表して、小泉内閣総理大臣に質問します。

(参議院改革)
本日は、この通常国会での参議院審議の初日です。そこで冒頭、全参議院議員の気持ちを代弁して伺います。参議院は、超党派で参議院改革に取り組んできました。最近の成果は、決算審議の充実です。政府の協力もいただき、昨年秋には、昨年度決算が国会に提出されて参議院での審議が始まりました。戦後初めてのことです。また、ODA審査が浮上し、昨年の参議院選挙の直後から、現場への委員派遣が行われています。そこで伺います。参議院での決算審議を重視してその結果を尊重し、国の運営の透明性を会計検査の面からも高めていくことに、今後とも最大限協力していただきたい。そのお約束をいただけるかどうか、お答えください。

(自然災害、アジアの連帯、被害者支援)
さて昨年は、内外で災害が多発しました。集中豪雨に始まり、相次ぐ台風の上陸、新潟中越地震。そして年末のスマトラ沖大地震と大津波です。心からお見舞いを申し上げ、ご冥福をお祈りします。そして政府が敏速に、津波災害に対し、関連国際機関への2億5000万ドルの拠出など、国際社会をリードする動きをされたことに感謝します。私たちは、何でも反対ではありません。お金が本当に有効に使われるように、しっかりと使い方にまで関与してください。

また、この悲劇の中で私たちが皆、国も民族も宗教も超えて人が助け合うことのすばらしさを学ぶことができれば、その先に、アジア地域での新しい連帯関係の構築が見えてきます。私は昨年、扇議長の視察団の一人として南アフリカに行き、「全アフリカ議会」の開会行事に参加してきました。アフリカ連合53ヶ国のうち46ヶ国が条約を結んで議会を作り、地域統合が進んでいるのです。ちなみに議長は女性で、各国からの議員の中にも女性が目立っています。うらやましかったです。アジアでも、あらゆる機会を捕えて地域の信頼関係を深め、統合の道を探る時代ではありませんか、伺います。

ところで、国内の自然災害になると、あなたの態度は変わります。私たちが昨年の臨時国会に提出した被災者生活再建支援法改正案を、小泉さん、あなたのチームは、廃案にしてしまったのです。人はひとりでは生きていけません。地域社会で、助け合い支え合って生きていくのです。新潟中越地震では、そのような地域のコミュニティーが崩壊の危機にあるのです。そのようなとき、生活の基礎である住宅を再建することは、コミュニティー再生の不可欠の第一歩なのです。だからこそ、国民の多くは、個人住宅の再建にも補助をすることを求めています。冷たいことを言わず、「地域最優先」で改正案に同意されませんか、伺います。

(森林被害、国土の再生)
岡山県の県北では、台風23号により、きわめて広範囲の森林被害が発生しました。戦後の復興のために、先達が大変な努力で、傾斜地にスギやヒノキを植えました。これが延々と倒れてしまったのです。私は何度も現地を見てきましたが、本当に悲惨です。木材価格は国際競争力がなく、林業の後継者難は極めて深刻で、いま、林業は危機なのです。これに止めを刺すように、現場では風倒木が広がっています。冬になり、そのまま放置されているのです。建築用には役に立ちません。市場原理だけで言うと、木を引き降ろすインセンティブは何もありません。しかし放っておくと、土砂崩れから国土の崩壊となるでしょう。

この森林の惨状は、私たちに、自然と人間の関わり方につき、重大な警告を発していると思います。地球環境は、きわめて微妙なバランスの上に成り立っており、決して安定した状態ではありません。私たちが自然環境に手を加えるときには、細心の注意を払わなければならないのですが、戦後の林野行政は、限度を超えて自然を改変し、自然が悲鳴を上げ始めたのではないかと思うのです。復讐を始めたのかもしれません。出来るだけ早く、植林前に近い状態に戻さなければなりません。これは、森林だけではありません。自民党農政の失敗により、耕作放棄された多くの中山間農地があるのをご存じでしょうか。「田園将に蕪れなんとす」というのは、古い中国のことではありません。

ところが、激甚災害制度の森林復旧事業は、元のように植林し直さなければ給付が実行されないのです。そんな馬鹿なことはないでしょう。地元では、とりあえずボランティアを募って木を切り下ろそうとしていますが、はかどらず、その後の方針は立っていません。国の支えが必要です。これは、人工林だけではありません。環境破壊のすべてに言えることです。今後の方針につき、基本的考え方を伺います。

(「文明の状態」、国民の不安)
さて、小泉総理大臣。21世紀に入って5年が経ちました。20世紀は戦争の世紀でした。21世紀はぜひ、平和の世紀にしましょう。これが全世界の願いだったはずです。ところが、21世紀はテロの世紀になりそうです。日本も、安心感が崩れて、人が信用できなくなった、住みにくい社会になりつつあると、みんなが感じています。痛みを分かち合おうと言われるけれど、痛いのは庶民だけ。景気は踊り場だと言われるけれど、踊らされているんじゃあないか。結局はこの世の中、正直者は馬鹿を見るのであって、ずる賢く生きなきゃ損だ。本当はそんなの嫌だけれど、だって現実はそうじゃない? こんなあきらめが、特に若い世代に広がっているように思います。国の内外についてのこの国民の不安や危惧と同じ認識を、小泉さん、あなたはお持ちですか、伺います。

12年前の酉年、私は細川内閣で、科学技術庁長官をつとめました。そのとき、サー・オリバー・ロッジという人のことを聞きました。人類が核分裂に成功するより十数年も前の1924年に、科学雑誌に核融合を予言する論文を寄稿した人です。水素原子の質量は、理論上は1ですが、実際に測ってみると1.0077だそうで、このわずかな違いの中に、大きなエネルギーがあると予言したのです。論文の最後の部分を、当時私が翻訳したものをご紹介します。

「人類は将来、原子の中に含まれているエネルギーのうちほんのわずかでも、その原子の外に導き出す手段を手にすることがあるかもしれない。それがもたらす結果は、それが得られたときの『文明の状態』によって、恵にもなれば、破滅にもなるだろう」というのです。

文明とは何でしょうか。私は、今から40年以上前の1963年、アウシュビッツのユダヤ人収容所跡を訪ねたことがあります。ガス室に送られた人たちの毛髪が積み重ねられていました。隣の部屋には、人の皮膚で作った電気スタンドのかさやブックカバーがありました。しかし、ナチズムに酔いしれたドイツ人ももちろん、ごく普通の人たちです。何が彼らをそうさせたか。

人間も社会も、けっして完全ではない。そのことを決して忘れてはいけないと、その時私は思いました。私たち一人ひとりの中にも、その集まりである社会の中にも、残酷に荒れ狂う猛々しい何かがある。これが制御から解き放たれて、暴れ狂うことがありうる。そのことを、特に権力の座にあるものは、決して忘れてはいけない。そう思いました。

しかし人間は、もちろん温かいやさしい心があり、人の助けになったり感謝されたりすると、嬉しいものです。そのような支え合いや思いやりの心の暖かさを社会に満ち溢れさせ、荒れ狂う心を鎮めていくことが、ロッジさんの言った「文明の状態」ではないかと思うのです。「物質文明」と「精神文明」の違いかもしれません。そしてそこに、政治の役割があるのです。さてそこで、小泉総理大臣。私は、あなたの3年半の政治は、文明を前進させていない、むしろ退歩させたのではないかと思います。社会の信頼や絆が弱まってきていると思うのです。小泉さん、あなたにもし、文明というものについての見解があれば教えてください。

(政治とカネ)
具体的に、いくつか聞きます。まず何と言っても、国民が呆れているのは、政治とカネです。一億円の小切手を貰い、客観的には事実だと認めながら、「記憶にない」と言えばお咎めなし。政党への献金なら、特別の利害関係に繋がらないから認めようというのが、今の制度ですが、これを隠れ蓑にして、間に政党をかまして迂回献金をし、法の網をくぐる。これを禁止して、厳しく罰しようという提案に、あれこれ言葉を弄して逃げ隠れ。これでは国民は、あれを見習えということになります。あなたが会長をされていた清和政策研究会の話も、出てきました。もう少しましな政治文化を創ろうじゃあありませんか。なぜ、一億円事件の真相究明や迂回献金禁止の法改正に、あなたのチームは反対するのですか、総監督のあなたに伺います。   

(イラク戦争と自衛隊派遣)
次に、イラク戦争について伺います。ブッシュ大統領がイラク戦争を始めた大義は、フセイン大統領が隠し持つ大量破壊兵器の解体でした。フセイン政権の解体には成功しました。しかし、大量破壊兵器の捜索には成功せず、遂にアメリカもこれを断念しました。戦争の大義はなかったことになります。

あなたは常々、フセイン大統領が証明しなかったからいけないんだと言われます。私も、フセイン大統領は悪いと思います。しかし、そのことと、先制攻撃で戦争を仕掛けることとは違います。まさか、先制攻撃をしたから大量破壊兵器がないことが分かったのだとは、言われないでしょう。国連やIAEAの担当者は、査察の継続で検証可能だと、継続を求めていました。小泉さんあなたは今、戦争の大義をどう説明されますか、伺います。

あなたの内閣は、昨年の臨時国会閉会直後、サマワへの自衛隊派遣の1年延長を決定しました。私たちは、国会での議論を求めましたが、あなたは実はずい分前に延長を決断しながら、議論を逃げました。そこで伺います。あなたは、自衛隊が派遣されているところは非戦闘地域だと述べられました。これは間違いです。非戦闘地域と判断されたところに自衛隊を派遣するが、その判断が違っていたり、後に違うことになったりすると、自衛隊は撤退させるのです。過ちを改めるのを、憚ってはいけません。チャンスを与えます。馬鹿な強情を張るのはやめて、発言を撤回されてはいかがですか、伺います。

イラクの戦後復興のためには、イラク人自身の政府が生まれることが大切です。しかし、選挙をやりさえすれば、正当な政府が生まれるというのは、あまりにも事態を甘く見すぎています。イラク国民の中にある憎しみや敵対の感情を緩和することなく、国際的な選挙監視もないまま、銃口の脅しで無理やり選挙をしても、政府への信頼は生まれません。金権選挙どころではありません。対立を深め、抜き差しならないところに追いやるだけです。選挙の期日は迫っています。小泉さん、あなたはどういう判断をし、どういう指導力を発揮されますか、伺います。

私はここで、ひとつの注目すべき行動を紹介します。JR内の労組が音頭をとって、イラクの鉄道復旧に協力しようとしています。日本の鉄道技術の水準は高く、JRには、まだ使用可能な廃棄車両などがたくさんあると聞いています。このような動きを大切にし、たくさん積み重ねることにより、イラク人と国際社会との信頼と協力の関係が厚みを増し、真のイラクの復興に繋がるのではありませんか。お考えを伺います。

(核軍縮・軍備管理)
小泉総理大臣、あなたは、日本が国連の常任理事国入りを目指すことを表明されました。私たちも賛成です。しかし前提があります。日本が果たそうとする役割につき、私たちの間でも国際社会の中でも、共通の認識があるかどうかです。災害支援に巨億の金を出しても、国際社会が本当に日本に求めることを、日本が果たすつもりがなければ、各国が積極的に日本を信頼し、日本の立候補を歓迎しません。私は、ブッシュ大統領のイラク戦争開始をあなたが支持されたことで、日本はアメリカの信頼は得たかもしれませんが、国際社会の信頼は決定的に傷ついたと思います。ひとたび傷ついた信頼の回復のためには、私たちはまた、営々たる努力を積み重ねなければなりません。常任理事国になって何をするのですか、伺います。

私は、ひとつは核軍縮だと思います。日本は、唯一の核兵器の被爆国です。核兵器をなくし、核エネルギーを適切に制御することは、日本の悲願だと確信しています。これは同調していただけますよね。そしてこれが、日本がこれから本気で実現しようとする課題なのではありませんか、伺います。

日本はこれまで、軍縮につき一定の努力をしてきました。対人地雷廃棄に取り組み、小泉さん、あなたも2003年2月に、日本の対人地雷の最終破砕に関わりましたよね。しかしアメリカは、未だに対人地雷条約を批准していません。また日本は、2000年以来ずっと続けて、国連総会へ「核兵器完全廃棄への道程」という核軍縮決議を提案し、圧倒的多数の支持を得てきています。2004年も賛成165、反対3、棄権16で支持されました。何と反対3のなかに、アメリカが入っているのです。なぜもっと真剣に、アメリカを説得しないのですか、伺います。

日本の核技術があれば、核兵器を作ることは出来るでしょう。もちろん日本は、核兵器を製造する意思は毛頭ありません。あなたも同じ認識でしょうか、伺います。しかし、能力はあっても意思がないのだから安心してくれというためには、その裏付けとして、よほど行動がはっきりしていなければなりません。そこが極めて曖昧なのですよ、小泉内閣は。原子力施設に対するIAEAの厳重な査察だけでは、不十分です。世界で、各国の後をついていくだけというのなら、査察だけで十分でしょう。それなら、常任理事国入りなどと言わないことです。目指すのなら、言葉だけでなく、日本の意思が決して疑われないための具体的行動が必要です。認識を伺います。 

細川内閣の科技庁長官のとき、私は、日本が非核兵器国でありながら、高度な核技術を有していることに注目しました。核軍縮を、核兵器国だけに任せていて、本当に信頼できる軍縮過程が進むでしょうか。日本こそが、その有する核技術を活用し、非核兵器国の代表として、核軍縮のプロセスへの参加を求めてはいかがですか。そこで私は、プルトニウムの国際管理体制の構築を提唱しました。何のパフォーマンスもしなかったので、あなたの目には止まらなかったかも知れません。しかし職員の努力により、多国間の円卓会議の開催までは行ったのです。ところがこれは、引き継がれませんでした。

今年は核不拡散条約の5年毎の再検討会議の年です。NPTですね。2000年の再検討会議では、新アジェンダ連合と呼ばれる7カ国の努力で、核兵器国は「保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束」を行い、13項目の措置に合意しました。しかしその後、アメリカは新型核兵器開発の準備を始めています。最近、IAEAのエルバラダイ事務局長が、ウラン濃縮、再処理、バックエンドなどに関する国際管理体制構築を模索しています。日本はその実現のために、積極的に指導力を発揮すべきだと思います。再検討会議で日本は、どのような提案をされますか、伺います。

ところで、ひとつ気になっています。インドの原子力発電関連の施設が、大津波の被害に遭っているとの報道があります。原発事故は、チェルノブイリやスリーマイル島のようなこともあるのですから、国際社会の共同対処とすべきです。しかし、神戸での国連防災会議では、何の検討もなかったようです。日本がリーダーシップをとるべきではありませんか、伺います。

小型武器の問題も深刻です。軽くて操作しやすいので、30カ国以上で子供が兵士にされ、隠しやすいので回収されず世界中で使い回されています。そのため、犠牲者は毎年50万人を超え、その90パーセントは非武装市民、さらにその80パーセントが何と子供と女性だそうです。日本は、国連軍縮大使であった猪口邦子さんが、2003年の第1回国連小型武器中間会合の議長として、大変な情熱と執念で小型武器軍縮の「報告書」の全会一致採択に成功しました。このような努力こそが、日本が国際社会の中で期待されている役割だと思いますが、そしてこのような問題については、日本の言うことにどこの国も耳を貸さざるを得ないようにすることが、日本のとるべき道ではないかと思いますが、小泉さんの認識を伺います。

軍備管理以外にも、日本の貴重な外交努力があります。例えば温室効果ガス削減に関する京都議定書です。ロシアの批准により、やっと発効となりました。しかしやはり、アメリカが加わらないと所期の目的は達成できません。もっと積極的にアメリカを説得するつもりはありませんか、伺います。もう一つ、国際刑事裁判所条約です。これも日本の外交官が大変な努力をして、合意に漕ぎ着けたのです。ところが肝心の日本は、批准どころか、署名すらしなかった。国際社会は待ってくれません。すでに発効したのですね。アメリカに気兼ねしているとしか思えません。日本独自の決断をし、アメリカも説得すべきだと思いますが、いかがですか。   

(日中関係)
次に、北東アジアについて。現在の日中関係は、どのような先人の努力の上に成り立ったと思いますか。私はここで是非小泉さん、あなたに、梅蘭芳という人のことを聞いて頂きたいのです。20世紀前半に活躍した、中国の京劇の名俳優で、女形です。関東大震災のときは、中国で支援のチャリティー公演をしたほどの親日家です。しかし、戦争中は、日本の軍部の求めで公演させられることを嫌い、ひげを生やしました。女形に鬚では、京劇は演じられません。家屋敷を手放しました。終戦の日、ラジオの放送を聞いた後、家族との夕食の席に現れた彼は、口から下を扇で隠していました。そして、「お父さんが、手品を見せてあげよう」といって扇を下に落とすと、八年間にわたって蓄えられていた鬚が無くなっていました。彼はそれほど、日本の侵略を嫌い、終戦を抗日戦勝利だと歓迎したのです。

舞台に復活した梅蘭芳は、その平和を求めた勇気と心情で、中国人の中でさらにファンを増やしました。

日中関係は寒々と冷え切っていたころのことです。彼は、戦争は日本の軍部指導者が悪いのであって、中国人も日本の一般国民も被害者なのだと、こう割り切り、国内の反対を押し切って、1956年に日本公演に来ました。公演は各地で大盛況でした。福岡へ向かう列車が広島駅に着いたとき、被爆者の歓迎を受けました。惨状に心を動かされた彼は、全日程が終了した後、東京でチャリティー公演をしたのです。

日中国交回復の前に、こうした芸術家を含む多くの人々の大変な努力があり、その精神を日中双方が理解して、日中共同声明となったのです。もともと、日本の大陸侵略と乱暴な行為は、日本側に原因があり、足を踏まれた側はその事を忘れないでしょう。日本の国際社会への復帰と今の日中関係は、中国を含む国際社会の多くの人々の、このような具体的な善意と協力があったからこそ出来上がったのです。小泉さんあなたが、A級戦犯として処刑された軍部指導者が合祀されている施設に参拝することを、中国の人々が嫌うのは当たり前だと思いませんか。この皆さんの心を逆なですることは、文明に反する行為だと思いませんか。伺います。

(中国残留孤児、戦後処理)
この関連で、中国残留孤児に対する国の処遇につき、伺います。日本はかつて中国東北地区に、「満州」という国を築こうとしました。まず関東軍が攻め入り、その後に多くの開拓団を入植させました。しかしこのもくろみは成功せず、やがて敗戦。ところが関東軍は、入植した民間人を無防備のまま残して、先に撤退してしまったのです。

悲惨な「人身御供」の逃避行の中で、いろいろな経過で中国人に育てられることとなったのが、残留孤児です。約2400人の皆さんが永住帰国されました。望郷の念は強くても、日本社会に定着するのは容易なことではありません。約7割の人が生活保護を受けています。ところが彼らが、すでに余命僅かとなった育ての親を訪ねようとすると、日本を離れる期間は生活保護を給付しないというのです。

この皆さんが、国の助けを求めて、訴訟を起こしました。私の父は、戦争に反対して入獄し、釈放後に私が生まれて、家族で中国に渡りました。終戦の翌年に、天津から佐世保に上陸揚舟艇で引き揚げたのですが、華北だったので、私は残留孤児にならずにすみました。小泉さん、私とあなたは、同い年です。同世代の悲劇なのですよ。あなたはかつて、ハンセン病訴訟で控訴断念を決断されました。パフォーマンスではありませんよね。訴訟を起こし判決が出るまで待たずに、心を動かして下さい。司法の力でなく、政治の判断で救済しようではありませんか、伺います。

今年は戦後60年です。この皆さんに限らず、内外の戦争被害者の皆さんの声に応えて、今年こそ戦後処理問題を最終解決すべきだと思います。皆さん、既にご高齢です。その年齢を考えれば、戦後70年はないのです。私たち民主党は、そのための法案を提出していますが、賛成していただけませんか、伺います。先日のクルド人らの強制送還でも、もうちょっと人の人生に対して、暖かい思いを持ってあげてはいかがですか。

(北朝鮮、北東アジア)
北朝鮮の金正日政権の非については、これを適切に表現する言葉を知りません。ただ罵るだけでなく、制裁のための具体的行動を起こすべきだという論調も、十分理解できます。私たち民主党も、北朝鮮人権侵害救済法案といったものを検討しています。しかしここでも、怒りの気持ちのままに行動して良いわけではありません。次の一手も、やはり十分考えておかなければなりません。

そこで以前の私たちの提案を、改めて提案します。北朝鮮、韓国、日本の3国を、北東アジア非核武装地帯とし、この地域に対する核攻撃はしないことを、アメリカ、中国、ロシアが約束するという、6カ国の条約交渉のリーダーシップを日本がとってみてはいかがですか。中期的に見れば、日本がこの種の姿勢を示しておくことは、北朝鮮が拉致問題について態度を変える後押しの力になると思います。伺います。

日本がこのような努力を積み重ね、アジア地域の中でも広く全世界の中でも、なくてはならない国だと国際社会が認めるようになったとき、日本は21世紀を平和の世紀にするための大きな役割を果たすことができるようになります。しかしそのためには、日本があくまで謙虚に、高い倫理感と国際社会の共感を呼ぶ理想を持って、「アジア最優先」で努力をしなければなりません。それなのに小泉さん、あなたはアメリカ追随で、大義なきイラク戦争に加担したのです。そのブッシュ大統領は、先日の就任式で、「自由の理念を世界に押し広げていく」と、昂然と宣言しました。多様な価値観は認めないという、世界に対する宣告のように聞こえます。テロの世紀を終わらせようという発想とは、とても思えません。あなたの認識を伺います。  

(年金改革)
年金改革について伺います。昨年強行可決された政府の年金改革案は、その直後の参議院選挙で国民から厳しい批判を浴びました。しかし、私たち民主党が提出した法案に与党は賛成せず、政府の年金改革が実施されています。国民の多くは、今の年金制度はいずれ破綻することを知っており、抜本改革で本当に頼りになる年金制度にしてほしいと願っています。そこで伺います。小泉さんあなたは、今の年金制度が本当に「百年安心」で破綻することはないと、国民に対し言い切れますか。もしあなたがそういう認識なら、年金改革について、何を協議するかが分からなくなります。もしあなたが、抜本改革が必要だと認識されているなら、私たちが提起している一元化、消費税の活用、納税者番号制度について、それぞれどういうご見解かを伺います。

そしてもうひとつ。国会議員年金について、私たち民主党は廃止を提案しています。私たちの抜本改革案が実現すれば、国民すべてに共通の年金制度が立ち上がり、国会議員だけの特別の年金は廃止できます。これが私たちの提案です。

先日、衆参両院の議長の下に置かれた調査会が答申を出しました。現行法を廃止し、国庫負担率50%程度の新制度を作るというものです。国会議員のための特別の制度は残るのです。それに小泉さん、この答申案では、あなたにしても私にしても、65歳になって引退すれば、痛みはほぼゼロです。

あなたが自民党総裁として、この案に対してさえ逃げまわると、国民の政治不信は極限に達しますよ。いっそのこと思い切って、早急に一元化を実現して議員年金を廃止することを目指しながら、今国会で、答申案よりもっと切り込んだ改革を実現しませんか、伺います。
 
(司法制度改革)
次に司法制度改革です。昨年秋の臨時国会で、やっと改革の法整備が終了しました。後は実行あるのみですが、油断は出来ません。法科大学院は揺れています。新しい法曹養成の要のはずが、発足したばかりで息の根を止めるようなことにしてはいけません。ご同意いただけますか、伺います。また平成18年度には「日本司法支援センター」を立ち上げます。司法は、社会のインフラのもっとも根底にあるものという認識を持って、充分な予算措置をしていただかないと、改革に魂が入りません。その用意ありと言って下さい、伺います。

(性犯罪対策)
性犯罪について。年末に奈良県で発生した女の子の誘拐殺人事件は、身の毛のよだつむごい事件でした。ペドフィリアという精神障害の一種だそうで、医療的措置も、ある程度可能なのでしょう。それにしても、近所にこういうものがいるかもしれないと思うと、子を持つ親でなくても大変に不安です。これを和らげることは、政治や行政の責任です。そこで、法務省と警察庁で、性犯罪者の出所情報の提供などが協議されており、私たちも注目しています。

角を矯めて牛を殺すことのないよう、情報の範囲や活用方法などにつき、しっかりした検討が必要です。諸外国と比べると、日本にはこの分野の専門家はきわめて少なく、刑務所や保護観察所の処遇能力の改善も簡単ではありません。先進社会が共通に抱える病理現象に対して、私たちはのんびりし過ぎていたのかもしれません。この事態に真正面から向き合い、柔軟な対処方法を考えるべきではありませんか。伺います。

(教育改革)
教育改革について。犯罪被害も含めて、子どもたちの置かれた状況は、憂慮に耐えません。学校の問題もいろいろ指摘され、当たっているところも多いと思います。社会もまた、子どもがすくすく育つにはあまりにも世知辛く、家庭や地域の教育力も落ちています。IT化自体は、もちろん否定すべきものではありませんが、その中に無防備に放り込まれた子どもたちが、翻弄されて事件を起こしたり巻き込まれたりしています。

しかし、教育現場でも、さまざまな努力や模索を必死に行っています。「ゆとり」だ「学力」だと揺れるのでなく、現場の経験や実績に注目し耳を傾けることが、今一番大切なことだと思います。教育基本法改正論議が盛んですが、何よりもまず、「子ども最優先」の立場から出発すべきではありませんか。2002年5月の国連子ども特別総会で採択された原則ですね。子どもの育ち方を、おとながおとなの立場で考えて、それに合わせて子どもを飼育するのでなく、子どもの置かれた状況をどう変えて、どのように子どもの多様な個性や能力を豊かに育んでいくかを考えないと、子どもはますます反乱を起こしますよ。小泉総理大臣のお考えをお聞かせ下さい。

(終わりに)
そのほかにも、景気や経済、財政、介護や医療、三位一体改革、農業改革、郵政改革など、テーマは山積みですが、またにします。小泉政治で、地方経済は特に痛みました。中間層の二極分化も起きています。地方分権は名ばかり。郵政に至っては、あなた方の内部での議論は賑やかですが、何が提案されるのかさっぱり分かりません。ひとつだけ。小泉さんは施政方針演説で、四分社化、非公務員化、4月法案提出など、ずいぶん明確に具体的方針を言明されましたが、それが達成できなかった場合は、どうされますか。(1)大したことではないと居直り、(2)衆議院解散、(3)退陣の三択でお答えください。

2001年春、小泉さんあなたは華々しく内閣総理大臣に就任されました。「自民党をぶっ壊す」と言うのですから、民主党も真っ青でした。しかし、2003年9月に「選挙の顔」として総裁再選を果たした後は、あなたは自民党と折り合いを付け、歯切れの良かった言葉も勢いを失いました。あなたへの期待は消滅し、あなたは無力化したのです。

あなたは、任期中に総選挙は出来ません。違いますか。あなたの政治手法のせいで、政党政治は信用を失い、あなたの不真面目な答弁のせいで、国会審議もまた信頼を失いました。あなたには今、退陣の時期が刻々と迫ってきています。一番大切な役割を担わなければならないのは、いまや民主党です。私たちは政権担当の準備を急ぎ、あなたの退陣に必ず間に合わせます。そのことを申し上げて、質問を終わります。 


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