2002年4月10日 参議院憲法調査会発言

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「国民主権と国の機構」についての自由討議

民主党・新緑風会 江田五月


私は、民主党憲法調査会の事務局長として、「国民主権と国の機構」について現段階での民主党の考え方をご説明します。そして、そのあとで、首相公選制と二院制のあり方について、私見を述べます。

第1、 首相主導の内閣(民主党の提案)
昨年12月18日、民主党憲法調査会は「中間報告」を発表しました。その第二作業部会の「首相主導の議院内閣制度の確立に向けて」が、本日のテーマに関するものであり、民主党は、基本的に内閣総理大臣主導の政府運営の実現をめざします。

明治維新から現代に至る日本の統治機構の最大の特徴は、中央集権官僚制でした。明治維新以後、天皇主権の国家体制のもとで、官僚制度による中央集権システムが構築され、同時に内閣総理大臣の権限を強く制約する内閣制度が確立され、それが慣行化されました。

帝国憲法の下では、主権は天皇に存したので、行政権は、主権者である天皇から直接に統治の正統性を与えられていたのです。

しかし現憲法では、行政権はそのような統治の正統性を有しません。逆に、公務員は国民の公僕なのです。行政権の正統性は、主権者である国民から直接に権限を与えられる国会により選ばれた内閣総理大臣が、国務大臣を任命して行政各部を統括するからに他ならないのです。それなのに、この内閣総理大臣の権限を強く制約する内閣制度は、国民主権の民主主義に基づく新憲法が成立しても、基本的に維持されました。

現在の統治の仕組みは、3権は同格だとし、内閣総理大臣の権限行使は閣議によるとしています。さらに、閣議は現実には、前日の事務次官会議によって議が整ったことだけをなぞっています。憲法65条、66条1項、3項、74条などが、この運用の憲法的根拠とされており、内閣法もこの考え方に貫かれています。これは、明治憲法下で行われていた憲法解釈や行政権の運用方法を、惰性でそのまま踏襲したに過ぎません。憲法秩序は革命的変化を経たのに、行政実態は旧態依然であります。これが日本の、中央集権の官僚優位国家の法的根拠となっており、ここに、国民主権が形式だけで、実質を伴わない根拠があるのです。同じことは、司法権についても言えますが、今日は触れません。

しかし憲法が、国民主権を最重要原則としていることは、言うまでもありません。従って、憲法の諸規定も、この大原則の実現に資するように解釈する必要があり、下位の法律や慣行でこの大原則の障害となるものは、改めなければなりません。

事務次官会議や与党の事前審査制の廃止などによる閣議の実質化と責任の明確化を実現することなどを、民主党は強く求めています。

第2.憲法適合性の判断
第二作業部会の報告には、もう一つ「違憲立法審査制の確立」という項目があります。憲法第81条に規定された違憲立法審査権は、司法の場では、具体的な事件についての憲法適合性を判断するので、憲法適合性についての抽象的審査権が、最高裁判所ではなく、事実上内閣法制局の判断にゆだねられているのが、日本の実情です。本来は、政府の一機関にすぎない内閣法制局が、事実上憲法解釈の権威となってしまっている姿は、異常としか言いようがありません。

司法権以外の権限を裁判所に委ねることは、憲法上出来ないことでしょうか。私は、個人的には、内閣法制局が事実上行使している憲法適合性についての抽象的審査権を、司法権とは別の国家機能として最高裁判所に移すことも、憲法上出来ないことではないと思います。

憲法改正が現実の課題になれば、この点は当然、検討の対象とすべきであり、民主党としては、ヨーロッパや韓国などが採り入れている憲法裁判所もしくは憲法院など、違憲立法審査のできる司法機関を新たに整備することを検討すべきである、と提言しています。

第3.首相公選制と二院制
次に、首相公選制と二院制について、私見を述べます。民主党憲法調査会の中間報告では、首相公選制や国民投票制、さらには二院制のあり方について、検討すべきである、としていますが、それ以上のことは書いてありませんので、あくまで私個人の意見です。

国民のみなさんの中に、首相が自分たちとはるか離れたところで、政党内の派閥の権力争いで決定されることを嫌悪し、自分たちに決めさせろと、首相公選制を求める声が強いのは、十分理解できることです。しかし政党が、与党も野党も、現在のように国民の期待に応えきれていない状況で、首相公選を導入すると、政党による首相候補選定機能、すなわちスクリーニングが十分果たされないまま、不適切な選任が行われてしまうおそれが強いと思います。

現実に首相が選ばれる過程に対する国民の不満は、政党と議院内閣制の機能不全についての不満です。まず実現しなければならないことは、政党政治による議院内閣制の成熟です。そのことが困難だからといって、これを放棄して首相公選制に頼ると、結果は悲惨なことになりかねません。

さらに、現在の二院制とともに、新たに首相公選制を導入することには問題がある、と私は思います。それは、首相公選で示された民意と、衆議院選挙で示された民意と、3年ごとの参議院選挙で示された2つの民意の、合計4つの民意が存在することになり、それらがバラバラの民意であった場合は、どれか1つの民意が事実上の拒否権をもつことになって、国政の運営がなかなか前へ進まないことになるのではないか、と思うからです。

第4.衆・参両院の統合と国民投票制(私の提案)
二院制もひとつの意味のある制度ですが、日本の二院制は、周到に設計された制度とは言い難いところがあります。衆・参の権限が重複しすぎており、結局同じことを二度行っていることが多いというのが実態です。もっとメリハリのある権限の分配をすべきです。

もっと大胆に考えれば、権限の分配の実現は、衆・参の統合によって端的に実現することが出来ます。例えば、衆議院は300の小選挙区のみとし、参議院は100のブロック比例と同じく100の全国比例とします。衆議院に予算と条約の審議、首相選出などの権限を与え、参議院に決算審議、人事案件などの権限を与えます。法律は両者で審議することとします。その上で、両者を統合し国民議会(仮称)とすれば、一院制となります。これに、政党党首公選制を組み合わせることで、実質首相公選による議院内閣制を実現することを提案したいと思います。

この場合は、4年あるいは5年に1度(解散があればさらに短期)の国民議会選挙の民意だけで政権が決まり、政権交代が起こりやすくなると思います。その際問題となるのは、次の総選挙までの数年間、多数派の政権党が少数意見を無視して、独裁的な政権運営を行う危険性です。

この点については、私は国民投票制度を導入することが必要ではないかと思います。すなわち、国民議会で審議される法律案などについて、たとえば3分の1以上の議員の要求によって、その賛否を国民投票で決めることができるようにすれば、多数派の独裁は十分チェックできると思います。その上に、地方分権を強力に進めて、生活にかかわる大部分の決定を地方自治体で行い、そこに住民投票制度を実現すれば、より直接的に民意を反映した政治になると思います。ちなみに、国民投票制度は現憲法でも許容されると思います。

第5.憲法改正の条件
以上の提案は、国民のみなさんの大多数が現憲法を改正して、新しい憲法を制定することを選択する場合の提案で、私はいわゆる憲法改正論者ではありません。私は、むしろ現憲法のもとで、「安全保障基本法」などのいくつかの基本法を準憲法規範として制定して、現憲法の豊富化を行うべきではないか、と考えています。そして、その作業が、21世紀のこの国のかたちが明らかにになるところまで進んだところで、それらの基本法を憲法典の中に取り込む作業をする。こうして、21世紀の新しい日本国憲法を作り上げたいと思ます。

最後に、もう一つ。憲法改正には、政権担当能力のある二つ以上の政党の合意が不可欠だと思います。政権交代のたびに、憲法秩序が不安定になってはいけません。政権を争う有力政党の合意による憲法典であれば、その憲法典のもとで、いつでも政権交代を円滑に行うことができます。間違っても、多数派が強引に勢力を拡大して、憲法改正を強行することがあってはならない、ということを強く申し上げておきます。

以上で、私の発言を終わります。

>>会議録全文


2002/04/10

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