1977/01 目次次「あとがき」

中道革新政府の樹立をめざして

新しい日本を考える会

  一

 昨年の総選挙は、自民党の敗北におわり、長期にわたる保守単独支配の終えんが間近いことを改めてつげ知らせた。自民党は無所属の入党工作によって辛うじて過半数をおさえ、時代逆行の福田内閣を発足させたが、与野党議席数の逆転はもはや時間の問題にすぎない。自民党政権にかわっていかなる政権が樹立されるにせよ、それは諸政党の提携による連合政権以外ではありえず、戦後三十年にして、わが国はいま新たな連合政権時代の幕開けを迎えようとしている。

 同時にさきの総選挙は、公明、民社両党および新自由クラブの顕著な進出を記録し、国民各層のなかに、急激な変革にともなう混乱を避けつつ、漸進的な改革を望む志向がひろがりつつあることを示した。

 この国民の期待にこたえ、ロッキード事件に象徴される自民党支配積年の弊を一掃してわが国政治を浄化、刷新し、国民福祉の充実と社会的公正の実現をすべてに優先させる方向に国の進路を転換させる道は中道革新政府の樹立を措いてはない。

 戦後政治の画期的な転換点に当って、われわれはここに改めて良識ある国民すべてに中道革新政府樹立の急務を訴え、その実現をめざしてカをあわせるよう呼びかける。

  ニ

 わが国の政治、経済、文化の一切のあり方を産業優先から国民生活優先の方向に根本的にきりかえる必要については事実上国民的合意が成立している。だが、そのためには、高度成長期に政官財の癒着の上に産業優先の政治コースを推進し、その利害と体質において、このコースと一体化してきた自民党とその政府にかわって、野党の連合による国民的基盤に立つ革新的な政権が樹立されなければならない。のみならず、長期の政権独占によって腐敗し、動脈硬化に陥り、自己浄化カを喪失している自民党を政権の座から放逐することは、わが国の議会政治を活性化するためにも、不可欠の条件となっている。中道革新政府はまさにこのような機の熟した国民的課題に応えようとするものである。

 われわれがこの政府を中道革新政府と名づけるのは、この政府が自民党政治ときびしく対決すると同時に、わが国野党の一部になお根づよく残存している一元的価値観に固執する観念的革命主義の潮流とも無縁なものでなければならないからである。この潮流は、その左翼全体主義の発想や行動様式によって国民の心理や要求から著しく遊離し、現実連合性を喪失しており、かえって自民党の長期政権の存続をゆるしてきたのである。

 中道革新とは保守と革新の中間ないし折衷を意味するものではなく、今日のわが国の内外の状況のもとで、自民党政治に代替しうる、現実性をもち、かつ実効ある唯一の革新的な政治路線にほかならない。

  三

 中道革新政府は自由と民主主義を基調とする漸進的改革をめざす社会主義政党と、革新的ないしリベラルな諸党派、諸勢力の連合であり、具体的には次の諸勢カを中心に構成される。

(1)社公民三党およびその支持団体

(2)特定の政党と結びついていない住民運動、市民運動などを代表する都市、農漁村の無党派市民層

(3)かつて保守陣営に属していたが、自民党路線と訣別し、中道革新政府を支持する用意のある個人ないし集団

 この三つの勢力の連合が成立するとき、中道革新政府はもっとも安定した基盤をもちうるであろう。しかし、それは中道革新政府の樹立に不可欠な条件ではない。とりわけ(3)の要素は流動的であり、われわれはそれに過大な期待をつなぐことはできない。またこの要素を欠いても中道革新政府の樹立は可能である。決定的なものは(1)の社公民三党の連合である。この点にかんれんしてわれわれは、社会党が実現性を欠いた全野党共闘の方針に固執することをやめ、中道革新政府の樹立にむかって速やかに決断することを要望する。社会党の不決断は単に中道革新政府の樹立に障害を設け、さしせまった国政転換の道を閉ざし、国民の中に議会政治への不信を増幅させるだけでなく、自民党に失地回復の機会をあたえ、すでに福田内閣にもその兆しのみられる自民党内右派勢力の台頭と自民党政権の一層の反動化を招来する危険が大きいことを警告せざるをえない。

 社公民三党の協力が強固に確立されるならは、(2)の無党派市民層の政治的結集をも容易にするであろう。

 他方、無党派市民層の結束が社公民三党の連合を促がす側面をも見落してはならない。

 なお以上はあくまで中道革新政府の構成主体について見たものであり、閣外協力をもふくめれば、その他の政党、政派をも加えうることは言うまでもない。

  四

 中道革新政府は、自由、公正、参加といった社会主義の本来の理念にそって現体制を漸進的に改造し、日本の国土にふさわしい高度の福祉社会をつくり上げることを基本目標としており、その際、とりわけ、次の諸点を配慮する。

  1. 福祉社会にともなう公的機能の拡大がともすれば官僚主義やテクノクラートの支配を生みだし、管理社会化をもたらしやすいという福祉先進国の経験に学び、それを未然に防止するため、地方分権を徹底し、参加民主主義をつとめ、直接民主主義によって代議制民主主議を補完する。

  2. 高度産業文明の危機を直視し、自然の生態学的均衡の維持を経済運営の根底にすえ、生産と消費における 省資源、無公害の原則をつらぬく。

  3. 福祉を物的生活の面にのみとどめず、労働と消費における人間疎外の克服、人間性の全面的開花をめざして文化の高揚と教育の充実に最大限の努力をかたむける。

  4. 福祉国家の建設が先進国エゴイズムにつながることをきびしく自戒し、発展途上国の自立への協力、福祉 世界の実現への寄与を世界平和の維持、日本の国益の正当な擁護とならんで対外政策の基本におく。

 こうした基本理念にそった改革には長期にわたる粘りづよい系統的な努力が必要であるが、さし当り、このような改革の端緒をなす緊急の措置として、ほぼ国民的合意の見られる次の諸政策が重点的に実行に移されなければならない。

  1. 構造汚職の根をたち切るため、ロッキード事件その他の疑惑の徹底的な解明およびこのような事件の再発を防ぐための立法措置

  2. 議会政治を刷新し、政界を浄化するための選挙区定員制の是正、安上りの公営選挙の実現、政党への企業献金の廃止、立法府の権限、機能の強化、行政改革の推進

  3. 各種の租税特別措置の廃止、キャピタル・ゲインの課税、租税負担の公正化、地方自主財源の大幅な拡充、歳出の徹底的洗い直しをふくむ財政改革と金利自由化の方向にそった金融諸制度の改革

  4. さきの公取委原案を下廻らない独禁法の改正をはじめとする大企業保護の産業政策の是正、中小企業の育成強化

  5. 全国一律最低賃金制の実施、雇用不安の解消、週休二日制の普及、官公労働者へのストライキ権の付与

  6. 大規模な農業基盤投資による農業用地の拡大と再開発、農産物価格の補償制度の拡充、裏作、輪作の強化と有機農業への転換等にもとづく農業の振興、ならびに漁場環境の浄化とむすびついた養殖、栽培をふくむ沿岸漁業の発展による食糧自給率の向上

  7. エネルギー節約型への産業構造、消費パターンの移行をふくむ総合エネルギー計画の樹立

  8. 環境アセスメントの法制化、大気汚染、水質汚染、食品公害等の規制強化と汚染者負担原則の徹底による公害対策の推進

  9. 土地投機の抑制をめざす土地税制の強化、土地の公共的利用の促進および、公共住宅の大量建設による住宅難の解消

  10. 各種年金制度の統合と修正賦課方式による年金制度の改革、および医療保障制度の総合と診療報酬体系の是正を軸とする社会保障制度の改善

  11. 私学助成の強化、受験地獄解消のための入試並びに大学制度全般の改革、小中高校の教育内容の改善とその増設をめざす国家補助の拡大

  12. 日中平和友好条約の早期締結、対韓援助政策の再検討、朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化、北方領土問題の解決促進と日ソ平和条約の締結、米軍基地の縮少

  五

 本年六月に予定されている参議院選挙において自民党が過半数を割り、その後遠くない時期に予想される総選挙をつうじて衆院においても同様な事態が生じる公算は決して小さくない。われわれはこの可能性を現実化するために全力をあげなければならない。そのためには、国民に国政転換の方向を明示する中道革新政府の綱領をかかげて選挙にのぞみ、参院において自民党を少数派に追い込み、その上で早期に衆院の解散をかちとり、総選挙で中道革新勢力の大量進出をなしとげることが必要であり、これが中道革新政府の樹立にいたる最短の道である。

 以上の展望に立ち、本会はさし当りきたるべき参議院選挙に焦点をおき、次の計画のもとに行動を強化する。 

  1. 社公民三党およびその支持団体に呼びかけ、参議院選挙においてこれら諸政党の間で緊密に選挙協力をおこなうよう要請し、もしそれが実現するならば、協定にもとづく立候補者に対しては本会として推せん、支持することを考慮する。

  2. 本会として独自に無党派立候補者を推せんし、三党に共同の支援を求めることを検討する。

  3. 参議院選挙前に国民的討議に附するために中道革新政府の政策大綱をまとめ、公表する。

  4. 全国の主要拠点都市において講演、討論、研究集会をひらき、本会の意図の徹底をはかり、国民の理解と賛同を求める。

  5. 参議院選挙後に予想される総選挙には、社公民三党が中道革新政府綱領の下に共同候補の大量進出をめざしてたたかうこと、ならびにこの政府の樹立にそなえて“影の内閣”を準備してのぞむことを要請する。

(一九七七年一月)


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