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行政訴訟改革について(中間まとめ)

2001年4月12日
民主党・司法制度改革WT
座長   江田五月
事務局長 細川律夫

1.改革の必要性 

 行政に対する司法審査は、国民主権の基本的な柱の一つである。しかし現実には、行政訴訟はほぼ、原告敗訴と決まっているかの観を呈する。筋の悪い訴えが多いという説明は、市民感覚とはかけ離れており、説得力はない。

 この理由は、現行の行政訴訟制度の欠陥に求められる。すなわち司法が審査できるのは、行政処分の違法性のみであり、(1)処分でなければ、(2)違法でなければ、審査権限が及ばない制度になっているからである。さらにこれに伴って、(1)管轄、(2)訴えの利益、(3)当事者適格といった、数多くのアクセス障害が設けられている。

 司法審査を、処分の違法性に限ることとする理由として、3権分立の原則が上げられる。すなわち、司法と行政は対等であるから、処分の当否は、もっぱら行政が、その裁量によって判断すべきものであって、司法の容喙は許されないとし、行政が立法によって委ねられた裁量権を逸脱または濫用し、違法な処分を行った場合にのみ、司法審査が及ぶとする。

 しかし、3権分立だと、必然的に処分の当否は行政の専権となるものではない。国民主権の大原則が、すべての制度の基礎にあることを忘れてはならない。市民が争いたい行政処分には、違法なもののほか、不当なものがある。市民の常識に照らして、不当だと判断すべき処分であっても、行政不服審査などの行政内部の是正システムでなければ、これを正すことが出来ないというのは、国民主権にかなった制度といえない。

 国民主権にふさわしい行政訴訟制度とするため、市民に立ちはだかるアクセス障害を、徹底的に排除しなければならない。

2.改革のポイント

(1) 処分性要件の排除
 行政行為は、具体的に権利を付与しなかったり義務を課したりする「処分」になって初めて、市民がこれを争うことが出来るとされている。例えば、処分が政省令をはじめとする行政立法に基づきなされる場合であっても、省令の合理性を争いたい市民は、その省令に基づき処分を受けることが明らかであっても、処分がなされるまで待たなければならない。

 処分を得た後に行おうとする事業の、事前の準備などを整えても、最後に意に反する処分を受けてからでなければ、争えない。その結果敗訴すると、処分前にかけた費用はすべて無駄となる。これを回避しようと思えば、行政の指示に従わざるを得なくなる。

 これは、市民を行政に従属させる制度であり、国民主権と相容れない。行政立法の段階で訴訟提起を認めた方が合理的である。

(2) 不当処分に対する司法審査の導入
 国民主権の下では、司法と行政が対等なのではなく、少なくとも市民と行政が対等でなければならない。むしろ、危険負担は、行政が負うべきである。そこで、行政訴訟を、そのような制度として、設計し直さなければならない。

 具体的には、抗告訴訟類型を根本から見直し、取消訴訟でも無効確認訴訟でも、訴訟提起に執行遮断の効力を認め、さらに義務づけ訴訟(prohibition, mandamus)の類型を認める。

(3) 管轄
 行政訴訟の管轄は、原則として被告住所地の管轄裁判所に限られているから、国の行政機関を被告とする場合は、東京地方裁判所に限られる。しかし、行政訴訟にだけ、このような限定をもうける必然性はない。現に、情報公開訴訟は、高裁所在地の地方裁判所に管轄を認めている。民事訴訟法の管轄の定めを参考にしながら、処分の名宛人の住所地などに管轄を拡大する。

(4) 訴えの利益、当事者適格等
 これらの点についても、市民に訴訟の機会を広く提供するよう、制度改革をしなければならない。

3.改革の方法

(1) 行政法総論
 現行の行政訴訟が、市民に閉ざされているのは、これが現在の行政法の基本的考え方に則って制度設計されているからである。しかし、現在の行政法の基本構造は、何の立法にも基づいておらず、行政法総論という学問上の理論に依っている。しかもこの理論は、市民に対する行政の優位を大前提として組み立てられ、国民主権の理念に支えられていない。

 この事態を打破するには、本来なら学問の上で、または立法により、既存の行政法総論を変更しなければならない。しかし現在、そのことに直ちに着手するゆとりはない。

 そこで、既存の行政法総論は、取りあえず念頭から外することとする。そして、その代わりに、国民主権の下では、市民は司法審査の場面でも、少なくとも行政と対等の立場に立つことを大原則とし、これを基礎とした制度を設計する。

(2)行政事件訴訟法改正
 行政法総論を考慮の埒外に置くだけでは、訴訟の現場は変わらない。そこで、現場を改革するため、行政事件訴訟法の改正に取り組む。

 改正のポイントは、(1)処分性の撤廃、(2)処分が不当である場合の司法審査の導入、(3)管轄の拡大、(4)訴えの利益の緩和、(5)当事者適格の緩和等である。


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