1985/07/03 核問題・軍縮問題に取り組む

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核の現状と反核運動の課題  田英夫常任顧問に聞く

 被爆四十周年に当る今年、まもなく広島・長崎の原爆記念日がめぐってきます。米第七艦隊のトマホーク搭載や三沢基地へのF16配備、ソ連のSS20など、アジアをめぐる米ソの核対立が激化を見せるさなか、いま日本人は世界の核廃絶のために何をなすべきか、非核四原則を中心に田英夫常任顧問に社民連の反核政策について聞きました。

  拡がる草の根反核運動

 今日の世界の核状況についてみると、米ソの核兵器開発競争がむしろ拡大の一途を辿っているといえます。しかも一時期のICBM(大陸間弾道弾)を頂点とする競争から、より精度の高いいわゆる戦域核兵器の競争に転じてきています。

 ICBM時代には、全面核戦争の危機が逆抑止につながるという理屈で「核抑止力」ということが一定の説得力を持っていたわけですが、今や戦域核時代になって限定核戦争の危機が現実の問題となって以降、核抑止力ということも説得力を失ってきました。

 日本の問題としていえば、非核三原則が本当に守られているのかどうか、とくにその中の「持ち込ませず」の原則が現実には崩れかけているのではないかという疑惑があります。

 またソ連の戦域核ミサイルSS20は、昨年で一三五基が極東配備されていましたが、今年はおそらく一五〇基に増強されているでしょう。SS20は三つの弾頭を持っていてその合計は一メガトン、広島型原爆が一二・五キロトンですから、簡単にいって一基が一二・五対一〇〇〇倍の威力、しかもそれが一五〇基という恐ろしい状態になっています。

 今日ではヨーロッパも戦域核の脅威にさらされており、世界的な危機をこれ以上黙って見過ごしているわけにはいきません。

 かすかな希望としては、ようやくジュネーブで米ソの核軍縮交渉が曲がりなりにも始まり、さらにこの十一月には米ソ首脳会談が開かれようとしていることです。

 そこで唯一の被爆国日本の私たちは何をなすべきかということが問われています。

 今年はとくに被爆四十年のふし目を迎えていますが、これまで日本の原水禁運動を担ってきた社会党の「原水禁」と共産党系の「原水協」の対立はむしろ激化していて、形の上でだけようやく統一大会が開かれようとしているにすぎない有様です。

 国民は既に政党系列化された原水禁運動に幻滅して自分たちの手で草の根の核廃絶運動を展開しはじめています。

 その具体例の一つが、「非核の家」宣言運動です。戸別に自分の家は「非核の家です」というシールをはるのですが、今静かに全国的な拡がりを見せています。

 非核の家宣言運動をやっている人たちは、明確に非核四原則で核廃絶と訴えており、自分の家の非核宣言から始めて非核都市宣言、さらに非核国家宣言へと目標を定めています。

 「非核四原則」はじつは昨年四月、私が提案したものです。これは従来の非核三原別に、日本に対して核攻撃をさせない、言いかえると「使わせず」の原則を加えて四原則とし、この非核四原則で米ソ英仏中の核保有国との間で条約を結ぼうというものです。

 この条約を私は「日本の非核国家宣言に伴う条約」と仮称で呼んでいますが、田英夫や社民連の存在すら知らない人びとが、この非核四原則に共鳴して率先して運動の中に具体化していることは、社民連の政策の優位性を物語るものであり、社民連の運動の発展なのだと考えてよいと思います。

  まず日本が非核国家宣言

 この非核四原則の実現については、「作らず」「持たず」の二つの原則が日本自身の決意で守られるのに対して、あとの二つが核保有国の意志に左右されることから、さまざまの困難が予想されます。

 ソ連の核脅威が現実にある中では、日米安保条約による“核の傘”の役割も認めざるをえない状況下で、アメリカに対しいかに「持ち込ませず」を履行させ、他方ソ連に対して「使わせず」を約束させるかという難問があります。しかしアジアの政治の現実の中で日本の非核化を実現するにはこの方法しかないと確信しております。

 社会党は飛鳥田委員長時代から「アジア太平洋非核地帯構想」を提起していますが、これは一見しての聞こえはよいものの実現可能性のない非現実的構想といわざるをえません。

 まず日本自体を明確に非核化すること、その上にアジアの非核化を実現していくという段階的政策こそ緊急かつ実践的な方針です。

 非核四原則については、総じて諸外国の評価は高く、アメリカを除けばソ連、中国の当局者は全面的に賛意を表してくれています。

 草の根市民運動の盛り上がりが、国の政策を動かすまでになれば、アメリカも決してこれを無視することはできませんし、まさに社民連的運動の発展の中で、日本の非核国家宣言を実現していこうではありませんか。

     (1985年7月3日談)


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