2000/02/28(月)

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安全保障基本法について

江田五月議員は1993年3月頃から約8ヶ月かけて、衆議院法制局の協力を得て、「安全保障基本法案要綱」をつくりました。1993年3月頃は細川内閣ができる前で、2月に月刊ASAHIの企画で当時は自民党議員の小沢一郎氏と江田議員は対談しました。

その対談で小沢一郎氏は、前年の中央公論の対談では意見が対立した安全保障問題で江田議員に大幅に歩み寄ってきて、安全保障問題でほぼ意見が一致したのです。そのポイントは集団的安全保障での江田議員の「別組織・国際公務員論」に、小沢一郎氏が賛同したことです。

これは小沢氏一流の政略だったのですが、政治的に大きな意味をもち、当時の連合会長の山岸さんと小沢氏の会談などにもつながり、後に細川さんから聞いたところによると、この対談を読んで小沢氏と組めるかもしれないと細川さんは思ったそうです。

そこで江田議員は、「自治労から小沢一郎まで」(これはその年の8月に成立した細川内閣の枠組みです)賛成できる安全保障政策をつくろうと立法作業に着手したのです。細川内閣は約8ヶ月で崩壊しましたが、その後7年たっていま国会で憲法調査会の議論がはじまったところで、新しい意味合いがでてきたかもしれません。

内容の説明をしたいと思います。この法案は現在の日本国憲法第9条の解釈確定法のような性格をもっています。内容は三本柱で、戦後50年の憲法論争をふまえて、一、「自衛権の発動に必要な防衛力として自衛隊の保有を認める」、二、憲法9条からうまれた「平和8原則」を守る、三、国連の平和維持活動と集団的安全保障措置には「別組織・国際公務員」で積極的に参加協力する、というものです。

「平和8原則」とは、(1)徴兵制の不採用、(2)シビリアン・コントロール、(3)専守防衛、(4)集団的自衛権の不行使、(5)非核三原則、(6)非生物・化学兵器三原則、(7)海外派兵の禁止、(8)武器輸出の禁止、です。

要するに日本国は自国が侵略される場合は正当防衛として武力行使するが、それ以外の場合は海外で武力行使しない。国連の集団的安全保障措置に参加して武力行使する場合は、日本国政府の組織としてではなく国連のもとでの「国際公務員」として行う、ということです。明治維新の時に、各藩が明治新政府に藩兵を差し出したように、各国政府が国連あるいは世界政府に兵力を差し出して国際平和を実現するというイメージです。

もちろんそこへいたる過程はまだまだ難問山積ですが、それまでの間は日米安保条約を堅持し、アジア太平洋地域における地域的集団安全保障体制の確立に努めることになっています。憲法の議論についてはいろいろな論点がありますが、9条についてはこの「安全保障基本法」を制定することで「20世紀の総括と21世紀の展望」に基づいたわが国の安全保障政策は確立できる、というのが江田議員の考えだと思います。(湯川)

参考文書 民主党安全保障基本政策 (1999/06/24)


安全保障基本法案要綱 (1993/11)

 本法制定の趣旨

 日本国憲法は、平和主義及び国際協調主義という崇高な理念を掲げ、第九条では戦争の放棄並びに戦力の不保持及び交戦権の否認を規定している。しかし、我が国の安全保障政策については、自衛隊の存在をめぐって政党間の意見が長く対立してきたため、有益な論争が行われていないのが現状である。

 そこで、我が国の安全を確保するとともに世界平和の実現に資することを目的として、日本国憲法の理念にのっとり、国連を中心とする我が国の安全保障政策の基本を定める安全保障基本法の制定を提唱する。

 本法の制定は、我が国の安全を確保し、世界平和の実現に資するのみならず、安全保障政策についての国民合意を形成し、民主主義の健全な発達に寄与し、あわせて、国際社会の一員としての責務を果たし、我が国が国際社会における信頼を獲得することに寄与するものである。

 目的

 この法律は、日本国憲法の平和主義及び国際協調主義の理念にのっとり、我が国の安全保障政策の基本を定め、もって我が国の安全を確保するとともに世界平和の実現に資することを目的とすること。

 外交上の努力

 政府は、我が国の安全を確保し、世界平和の実現に資するため、必要な外交上の努力をしなければならないものとすること。

 自衛隊

 自衛権の発動に必要な防衛力として、我が国の領土、領海及び領空の防衛を行うに足る自衛隊の保有を認めるものとすること。

 徴兵制の不採用

 兵役に服する義務を立法で国民に負わせる制度(徴兵制)は、採らないものとすること。

 シビリアン・コントロール
 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有するものとすること。
 防衛庁長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括するものとすること。
 自衛隊の定員、予算、編成及び装備は、国会の議決を要するものとすること。
 専守防衛の原則

 自衛権の発動は、急迫不正の侵害があり、他に方法がない場合に、最小限の自衛力の行使として行われるものとすること。

 集団的自衛権の不行使
 自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、自国と密接な関係にある外国に対する武力行使を、実力をもって阻止する権利である集団的自衛権は、行使しないものとすること。
 武力行使と一体性を有しない後方支援活動は、1の集団的自衛権の行使に当たると解釈してはならないものとすること。
 非核三原則

 核兵器は、製造せず、保持せず、及び我が国の領土、領海又は領空への持込みを拒否するものとすること。

 化学兵器及び細菌兵器の製造の禁止等

 化学兵器及び細菌兵器は、製造せず、保持せず、 及び我が国の領土、領海又は領空への持込みを拒否するものとすること。

 海外派兵の禁止

 武力行使の目的をもって武装した自衛隊の部隊を他国の領土、領海又は領空に派遣する海外派兵は、禁止するものとすること。

十一  国連が行う国際紛争の予防及び平和的解決のための措置への協力

 政府は、国連が行う国際紛争の予防及び平和杓解決のための措置に協力しなければならないものとすること。

十二  国連の行う平和維持活動及び集団的安全保障措置への参加協力
 政府は、国連により国際の平和及び安全が維持されるよう、国連の行う平和維持活動及び集団的安全保障措置に協力しなければならないものとすること。
 国連が行う平和維持活動及び集団的安全保障措置への参加は、別に法律で定めるところにより特にその目的で設置された自衛隊以外の組織又は国際公務員の身分を取得した者が、国連の下で行うものとすること。
 2の組織が行う参加は、武力行使の目的をもたないものとすること。
 自衛隊員が自衛隊員の身分を有したまま2の組織の隊員となること又は自衛隊を休職して2の組織の隊員となることは、これを妨げないものとすること。
 政府は、国連が行う平和維持活動及び集団的安全保障措置への参加が安全かつ効果的に行われるようにするため、訓練、援助その他必要な措置を講じなければならないものとすること。
十三  日米安全保障条約に基づく安全保障体制の堅持

 日米安全保障条約に基づく安全保障体制は、日本区域における国際の平和及び安全の誰持のため十分な定めをする国連の措置が効力を生じるまでの間、堅持するものとすること。

十四  地域的集団安全保障体制の確立

 政府は、アジア太平洋地域における諸国間の信頼関係を築き、同地域における平和及び安全の推持を目的とする集団的安全保障体制の確立に努めなければならないものとすること。

十五  軍縮の推進
 政府は、核拡散防止条約、化学兵器包括禁止条約その他の軍備管理条約等の軍縮のための国際条約の締結及び普及を推進しなければならないものとすること。
 政府は、1による国際的な軍備の縮小、国際情勢の変化等に応じて、自衛隊の編成、装備等の縮小を行わなければならないものとすること。
十六  武器輸出の禁止

 武器(軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるものをいう。)及び武器製造関連設備の輸出は、禁止するものとすること。武器に使われる高度技術の輸出については、一定の条件の下で規制するものとすること。

十七  諸国民の信頼の獲得

 政府は、諸国民の信頼を得ることが我が国の安全保障に不可欠であることにかんがみ、戦争責任の明確化その他諸国民の信頼を得るために必要な措置を講じなければならないものとすること。


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