1999年8月12日

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145 参院本会議・議長不信任決議案 趣旨説明

平成十一年八月十二日(木曜日)  午前七時三十一分開議

○副議長(菅野久光君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 この際、お諮りいたします。
 本岡昭次君外六名発議に係る議長不信任決議案は、発議者要求のとおり委員会審査を省略し、日程に追加してこれを議題とすることに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○副議長(菅野久光君) 御異議ないと認めます。
 よって、本決議案を議題といたします。
 まず、発議者の趣旨説明を求めます。江田五月君。
   〔江田五月君登壇、拍手〕

○江田五月君 私は、民主党・新緑風会、日本共産党、社会民主党・護憲連合の三会派を代表して、議長斎藤十朗君の不信任決議案について、提案の趣旨を説明いたします。
 まず、決議案の案文を朗読いたします。

   議長不信任決議案
 本院は、議長斎藤十朗君を信任しない。
 右決議する。

 理由
 斎藤十朗議長は、八月十二日未明、法務委員長荒木清寛君解任決議案並びに自民党提出の発言時間・討論時間等を制限するの動議の投票に際し、未だ多数の議員が投票の意志を示しているにもかかわらず、議長の議事整理権と称して強行に投票行動を制限し、不当にも採決を途中で打ち切った。この本会議は、法務委員会で荒木委員長が採決したと主張する盗聴法と言うべき組織犯罪対策三法案をも議題とするものであり、断じて認められるものではない。また組織犯罪対策三法案の委員会採決は質疑打切り動議さえ採決されておらず、ましてや法案を採決する行為は行われていない。また本案が本会議の議題となるに際しても、議運理事会で与野党協議がまとまらない中で、議長職権によって会議の開会を強行決定した。

 かかる斎藤議長の行為は、まさに与党の党利党略に加担する行為であり、本院の権威を失墜させるもので、この責任は極めて重大である。
 我々は、このような不公正な議長は信任することができない。これが不信任決議案を提出する理由である。

 以上が、私どもが提出をいたしました決議案の主文及び理由でございます。
 以下、さらに理由を詳述させていただきます。

 参議院は、常に国民の信頼と負託にこたえ、国民の幸せを実現するという重大な責務を担っておりますことは言うまでもありません。

 そのために、参議院は議会制民主主義を尊重し、民主的に議会運営を遂行するという崇高な目的と理念を持っているのであります。そのことを具体的な例で申しますと、与党と野党がお互いの立場を尊重しながら、信頼感に基づいてできるだけ合意形成を図っていくということであります。

 しかしながら、斎藤議長はその原点をみずから打ち破ったのであります。

 この後、「一昨日十日午後八時、斎藤議長は本会議開催のベルを理不尽にも押してしまったのであります。」と続くと、これはどこかで聞いた文句になります。それは、一昨年十二月、当時の平井卓志議員が申し述べた不信任決議案の理由です。今回と同じ斎藤議長に対する不信任案でございます。

 参議院の使命、民主主義の目的と理念。言い古されたことではありますが、私は二年後の今日、また同じことを申し述べねばならないことを非常に悲しく思います。斎藤議長は、いつ参議院の使命や民主主義の理念を破ったのか。それが、先ほど申し上げた具体的な姿、すなわち私どもが皆この議場でつい先ほど、休憩前の議事進行の過程ではっきりと見てしまった。それが議員の投票行動に対する制約です。四回にわたる議長による投票時間制限と投票箱閉鎖による私たち議員の投票権の侵害。投票権は議員の最も重要な権利です。あだやおろそかにされてはなりません。

 確かに、投票に当たって、議長から見れば自分の指図に従わないと映る行動があったとしても、この最も重要な権利の行使を妨げるにはよほどのことがなければなりません。議長といえども……(発言する者多し)
○副議長(菅野久光君) 静粛に願います。

○江田五月君(続) 議長といえども、何をやってもいいというものではありません。恐らく議長から見ると、あれほど早く投票してくださいと言っているのに従わないのは、投票の意思なしと見られても仕方がないと映るのかもしれません。しかし、ここに至る事情は議長はよく知り尽くしておられるはずです。

 私たちは、当初から議長に対する不信任案などを用意していたわけではありません。現に、私のこの原稿も、つい先ほどの一時間少々の短い休憩時間中に走り書きしたものです。終わりまで書いておりません。途中からは原稿なしで申し述べることをぜひお許しください。それほど議長による投票権剥奪は予想外のことだったのです。

 今、問題になっているのは、根本の課題は言うまでもなく組織犯罪対策三法です。この三法、とりわけ通信傍受法案がいかに問題をたくさん抱えているか、それは既に多くの方々が述べられましたし、私も時間があれば後ほど若干の私の考え方も述べてみたいと思っております。希代の悪法と言ってもいいでしょう。そして、この悪法が十分な審議もなく法務委員会で強行可決された。強行可決と言いましたが、私もその現場にいましたけれども、採決は不存在。にもかかわらず、可決されたと称されている。異常事態です。

 そこで、私たちは、言論の府にふさわしく、言論でこの悪法ぶり、暴挙ぶりを徹底的に訴え、私たちの立場について同僚議員の皆さんの理解と賛同を得ようと考えました。したがって、円より子議員は途中のハプニングもあって三時間、千葉景子議員は一時間、吉川春子議員四十五分、福島瑞穂議員一時間十五分と、まさに超人的な弁論を展開したのです。これは、完全にルールにのっとった民主主義の世界、議会の場で、許されこそすれ、決して非難されるはずのない言動です。

 その後の記名採決に若干の混乱があったのはこの間の緊迫と緊張のしからしむるところであり、決してだれかの指図により組織立って行われたのでないことは皆さんがよくごらんになったとおりです。

 ところが、議長は、これに対し、時間制限と投票箱閉鎖で臨まれました。そして、発言時間制限動議に私どもは反対、その採決についても同じことを繰り返し、三たび四たびと同じことが繰り返されました。

 議長は常に公平無私、冷静沈着でなければなりません。静穏に事が進んでいるときには、このことはそれほど困難なことではありません。緊張し緊迫したときにこそ、議長の重要な役割があるのです。白熱した事態に、議長まで一緒になって感情に走ってはなりません。人間ですから難しいことですが、そのために議長は一段高いところにおられるのではありませんか。

 議長の今回の議事運営は、やはり私は、一方的に与党にくみし、結果として与党の言いなりになってしまったと言わざるを得ません。大変残念なことであります。

 もともと、私は、議長斎藤十朗さんを尊敬しているのです。

 今から二十三年前、私は昭和五十二年に初めて参議院に議席を得ました。そのとき、斎藤さんは昭和十五年生まれ、私は十六年生まれですから、ほぼ年代も似通っており、また数年議員の先輩でもあった若い斎藤議員のはつらつとした姿に、私も大いにこの人から学ぼうと思ったものであります。立場の違いはあっても、いろんなことがよくわかっている議長だと思っていますし、今も思っております。

 その後、参議院改革、議長の手腕は本当に目をみはるものがあった。私は十三年ぶりに参議院に戻ってまいりましたが、例えば調査会ができているとか、いろいろと斎藤議長が参議院改革で腕を振るわれて、その結果がしっかりと現実のものになっておりました。

 その議長に対して私が悪意を持つはずがないんです。現に今、私たちは用意していない不信任案を出さざるを得ない。メモだけで今お話をしているわけでございます。

 もちろん、議会の場で発言をするのに文章を朗読することはいけない、自由な発言をやれ、これが原則でありますから、これも結構です。私もやらせていただきます。しかし、皆さん、その私の心情はぜひ御理解いただきたいと思います。(発言する者多し)

 私は、民主主義というのは五つの原則があると思っております。五つの原則。

 まず第一に、与党も野党も情報が共有されていなきゃならぬ。情報公開されて皆が同じ知識を持ち、同じ理解を持って議論をしなきゃいけない。

 次は、発言の自由。発言が制限されるということがあったらこれは本当の民主主義にならない。

 そして同時に、お互いに相手の立場を思いやってみること、お互いに相互浸透すること。これがなければ民主主義と言えない。

 そして、もちろん多数決というのは民主主義の大原則です。しかし、多数決の数え方にもいろんな数え方があるんです。拍手もあるでしょう。挙手もあるでしょう。記名投票もその一つの重要な数え方です。

 そして、最後にもう一つ、少数意見はあくまで尊重されなきゃならぬ。いつ少数意見が多数意見に変わるかわからない、その可能性を常に信ずるのが民主主義の原則です。

 そして、そういう大原則のもとにしっかりとあるのはやはり寛容の精神なんですよ。ジョン・ロックの民主主義論というのがその寛容を説いている。寛容で一番大切なのは何ですか。寛容で一番大切なのは何ですか。それは、自分と反対の意見に対してこそ寛容の気持ちが示されるということなんです。(発言する者多し)皆さんとたとえ私の意見が違っても、そうやってやじり倒そうというような態度では、寛容、民主主義とは言えない。ぜひそこはわかってほしい。(拍手)

 もちろん、自分の意見と反対といっても、その反対論が例えば侮辱にわたるとかセクシュアルハラスメントにわたるとか、あるいはまた差別の発言とか、それではいけません。

 フィリバスターというのは御存じでしょうか。

 昔、映画を見たことがあります。モノクロームの古い映画で「スミス氏都へ行く」。ある正義の士が田舎の方の州から上院に出ていくんですね。アメリカの映画です。その田舎の方ではダムの汚職があった。その汚職に対して、これではいかぬというので、あえて勇を鼓して上院に出ていった田舎上院議員が、本当にだれにも信じられない、だれにも相手にされない、しかし、田舎にある一つの新聞社と提携し合って、そして壇上に立つ。二十四時間でしたかね、議論をしてして、しまくって、初めは相手にされない、だれにもわかってもらえない。しかし、次第に、彼があそこまで一生懸命言っているのは何かあるんじゃないか、だんだんと人の心が変わってくる、だんだん議場の雰囲気が変わってくる。そして、このダムの汚職がついに明らかになっていった。こういうのが、皆さん、これが言論の府のあり方なんでしょう。

 フィリバスターに対してなぜそんなに怒るのか、フィリバスターに対してなぜそんなに神経を高ぶらせるのか。ぜひ反省をしていただきたいと思います。(拍手)

 こうやって議論するときのその内容もさることながら、やはりそういう表現に対する、表現をするときの態度というものもあるんです。一生懸命やる。先ほどの円より子さん、けなげじゃないですか。私は、やっぱりあれは感動しなかったら民主主義の精神を持っているとは思えないですよ。ぜひそういうことをわかってほしい。(発言する者多し)

 今、私のこの発言も……
○副議長(菅野久光君) 江田君、時間が超過しました。おまとめ願います。

○江田五月君(続) 間もなく整理します。
 私の発言も時間が制約をされております。盗聴法について私の言いたいこともあったけれども、それを申し上げる時間はありません。しかし、皆さん、私ども野党出身の副議長に迷惑をかけてはいけません。(発言する者多し)
 ただ、私は、一つ、私の単独で提案をしたい。

 時間制限をなしにしようじゃないですか。言論で勝負をしようじゃないですか。(発言する者多し)一時間、二時間しゃべらせてくださいよ。体の限り訴えて訴えて、そのかわり採決は私は押しボタンでいいと思う。ぜひ、そういう新しい議会のあり方をつくろうじゃありませんか。(拍手)

 そういう新しい議会のあり方に逆行する態度をおとりになった斎藤議長を不信任とする、以上が私の不信任の理由です。

 どうぞよろしくお願いします。(拍手)


1999年8月12日

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