1999年3月1日

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参議院予算委員会 総括質疑 

 質問要旨
1、オウム真理教の現況と政府の対応策について
2、東チモール問題の平和的解決について
3、中村法務大臣の適格性について

○委員長(倉田寛之君) 次に、江田五月君の質疑を行います。江田五月君。

○江田五月君 平成十一年度の予算三案の国会での質疑も、総括質疑はいよいよ終わりに近づいてまいりましたが、私は民主党・新緑風会の最後の総括質疑をさせていただきます。

 冒頭、オウム真理教の問題についてちょっと伺っておきます。
 最近、地域住民の皆さんから非常に不安であるという訴えがいろいろ出てきておりますが、まず、今現状どうなっているかということについて御報告をお願いします。自治大臣。

○政府委員(金重凱之君) オウム真理教の現状についての御質問でございます。

 このオウム真理教、平成九年の一月に破防法に基づく解散指定請求が棄却されてから後でございますが、再び各般の分野で活動を活発化させております。例えば、脱会信者に対する復帰工作等を行いまして信徒拡大を行ったりというようなこと、あるいはセミナーを開催してお布施集め、これを行ったり、あるいは関連企業の業務拡大等によりまして財政的基盤の充実強化に努めるといったようなことで組織の再建を図っているという現状でございます。

 最近は特に各地で新たな施設、オウム真理教の施設取得の動きも見られておりまして、現在のところ、主たる施設としましては三十二カ所を私ども把握いたしております。これに対しまして、オウム真理教の進出を懸念する地域住民の方々と対立しているというような例も承知いたしておるわけであります。

 なお、教団の反社会的な本質は何ら変わっておりません。現在もほとんどの信者が麻原彰晃こと松本智津夫に対する絶対的帰依を表明しておるということでございますし、それからまた、オウム真理教関係で特別手配被疑者等四名が逃走中であるというようなこともございますので、警察としましてはこの検挙にも鋭意努めておるところであります。

 いずれにしましても、警察としまして、住民の平穏な生活を守っていかなければいけないという公共の安全を確保する観点から、教団の施設所在地につきましては、地元警察のみならず、県警本部あるいは近隣署を含めまして体制を強化して重点的な警戒を行ったりというようなことを行っておりますし、それから教団の違法行為につきましては厳正に対処する、こういう方針のもとで所要の措置を講じておりまして、地域住民の方々の不安感の除去に努めておるところでございます。

○江田五月君 教団の施設というお話ですが、教団は今もう宗教法人じゃないんで法人格ないですよ。どうやって教団が財産を取得するんですか。

○政府委員(金重凱之君) 先生今御指摘のように、これは任意団体でございます。それで、任意の関連企業といったようなものを約四十社ほど私ども把握いたしておりまして、これを通じて財政的基盤の強化を図っている、こういうことでございます。

○江田五月君 それと、教団の違法行為とおっしゃいましたね。これも、教団という法人がないんですが、どういう趣旨ですか。

○政府委員(金重凱之君) 教団の信徒がいろいろな活動をする中で違法行為を行う場合があるということでございまして、そうしたものの取り締まりを今までも行ってきておりますし、今後も厳正に行うということでございます。

○江田五月君 これは、教団のと言うけれども、教団というのがなくてオウム真理教を信じている人が集まって何かやっているという話ですから、非常に難しいんですね。
 自治大臣、たしかあのオウム真理教問題が大変なときに、政府で各部局の全部関連の人を集めて連絡機関とかそんなものをつくっていろいろやったことがあるわけですが、今後どういうふうに政府として対応されるか、非常に難しいと思いますが、ちょっとお考え、覚悟をお述べください。

○国務大臣(野田毅君) 確かに大変難しい事案でございます。
 今、警察庁から答弁申し上げたように、オウム自体一連の組織的な違法事案に対していまだ何ら謝罪、反省ということを行っていないということでありますし、さらに、依然として従来どおりの言うなら反社会的教義を維持しているという状況であることも事実であります。しかし、今御指摘ございましたように、宗教法人という形はとっていない。
 そこで、かつて政府において、平成七年六月から平成九年九月一日までオウム真理教問題関連対策関係省庁連絡会議というのが設置されておりました。しかし、そういう正式なものは御指摘のとおり今のところ置かれておりません。この点、今後さらに検討していきたいと思います。必要とあらば関係各省庁と連絡を密にしていかなければならぬ、そのように思いますが、率直に言って住民の皆さんも非常に不安に思っておられることですし、警察の方も率直に言って警戒態勢なりそういったことには非常に神経を使ってやってはおるんですが、警察だけでもやっぱり今いろいろ言いましたような制約があるということの中で、率直に言って、関係省庁と少し連絡体制がとれるような枠組みも考えてみなきゃならぬというふうに思っております。

○江田五月君 この問題、余り時間をとりたくないんですが、甚だ心もとないんで、これでは地域住民の皆さんが不安で寝られないということになるんじゃないか。これは、警察もあるけれども、例えば消防の関係とか学校教育の関係とか、あるいは爆発物その他の関係とか、自治体の権限もフルに動員しながら誤りなきを期さなきゃいけないんで、そのあたりの覚悟を、官房長官、ひとつよろしく。

○国務大臣(野中広務君) 今お話がございましたように、最近、かつてオウム真理教の信者であった人たちがそれぞれ全国各地において活動を再開し、さらに信者を獲得し、さらに多くの施設等を買収する等の行為をやり、パソコン等の販売をやっておるという事態でございます。特に長野県あるいは山梨県等におきましては、その町村の方々が二十四時間監視体制をしておられるという深刻な事態等でもございますので、内閣官房を中心といたしまして、今、野田自治大臣からお話がございましたように、関係者の連絡会議を持ちまして対応を協議しておるところでございます。

○江田五月君 話は飛びます。
 東ティモール問題の平和的解決、いろいろ経過について私が説明をしておる時間がないんですが、一九七四年にポルトガルの独裁政権が倒れて、七五年に植民地であった東ティモールというところが独立をした。しかし、インドネシアが軍事侵攻して併合宣言。その後ずっと今日まで紛争が続いていて、二十世紀、特に後半は民族独立ということがテーマであったとすれば、その最後の民族独立、民族自決権問題の一つだと。西サハラとか多少ありますけれども、西サハラなんかはもう大体解決のめどがついてきているわけです。
 この問題で最近かなり動きが激しいんですが、今の状況をどう把握しておられるか、御説明ください。

○国務大臣(高村正彦君) ハビビ大統領は、昨年六月に、東ティモールに対し広範な自治権を伴う特別の地位付与という包括的解決策を示し、現在まで国連の仲介により、具体的実施の内容につきインドネシアとポルトガル両国は詳細な議論を行ってきていると承知しております。さらに、国連の仲介による二国間外相会談により、本年一月より両国首都にある友好国大使館内に利益代表部が開設され、査証発給が容易になる等、東ティモール問題解決に向け話し合いの成果が実を結びつつある、こういうふうに承知をしております。
 また、その後一月二十七日には、インドネシア政府は、東ティモール人が拡大自治案を拒否する場合、インドネシア共和国からの分離独立を検討するよう次期国民協議会、総選挙後の本年八月末に招集予定になっておりますが、これに提案するという政策が打ち出されているというふうに承知をしております。

○江田五月君 細かなことがいっぱいありまして、今の一月二十七日の東ティモール住民が拡大自治案を拒否する場合という政府の話、さて東ティモール人が自治案を拒否する、どうやって東ティモール人が拒否するとか受け入れるとかいうような意思を確認するのかとかいろんな問題があるんですが、それはちょっと置いておいて、そういう動きの中で、民間人を動員した準軍組織が増大して住民テロ事件なんかが起きている。準軍組織にはインドネシア政府軍から武器が貸与されているというような報道もあったり、あるいはそのリーダーたちがインドネシア軍の武器を使って住民を殺害していると公言しているといった報道もあったり、こういう事態について認識をお持ちですか。

○国務大臣(高村正彦君) インドネシア国軍が統合派東ティモール住民に武器を貸与しているという現地報道があったということで、日本国政府としてもこれに関心を持ちまして、インドネシア政府関係者に照会しましたところ、国軍よりかかる武器を貸与している事実はない旨回答を得ているわけであります。
 民兵組織みたいなものがあるということで、インドネシアの各地方陸軍管区には常設のものではなく一般市民から組織される民間防衛隊が存在すると承知しておりますが、同様の組織が東ティモールにも存在している、こう思われます。
 かかる民間防衛隊員は、必要なとき以外は武器の携帯は許されていないというふうに、日本政府としては一応そういうふうに承知をしております。

○江田五月君 日本政府としては一応そういうふうに承知をしているという非常に微妙なお話ですが、インドネシア政府の言うこと以外にいろんな情報がありますので、ひとつ情報を注意深く探知していただきたいと思います。
 一月二十八日、外務報道官談話、今般のインドネシア政府の方向について、「解決に向け努力をされていることを歓迎する。」と、これはまあいいです。いいですけれども、問題の解決に向けてはいろんなまだまだ紆余曲折があります。
 これに対して、「わが国としては、東チモール問題がインドネシア、ポルトガル、東チモール住民の各当事者間の話し合いで平和的に解決することを希望しており、引き続き大きな関心をもって注視していきたい。」、こういう談話なんですが、外務大臣、注視というのはただ見ているだけですか。

○国務大臣(高村正彦君) 注視でありますから、場合によったら何かをするために一生懸命見ると、こういうことでございます。

○江田五月君 先ほどもちょっと言いましたが、一番重要なのは、民族自決権ということで紛争がずっと長引いているわけですから、東ティモール住民の意思を確認する、これが一番重要なことです。
 そうすると、当然住民投票だと思いますが、外務大臣、住民投票については日本政府はどうお考えですか。

○国務大臣(高村正彦君) 東ティモールの拡大自治案に対する東ティモール住民の意思の確認については、どのような方法によって行うのかにつき、現在、国連のイニシアチブのもとでインドネシア、ポルトガルの間で協議が行われていると承知をしております。
 住民投票がすんなりできるような状況であれば一番いいんだろう、こう思いますが、住民間の対立が非常に厳しくて、住民投票をやるというような状況のもとで武力衝突が起こるのではないかという懸念も一方にあるやに聞いておりますから、今いろいろインドネシア、ポルトガルが国連のイニシアチブのもとで協議をしておりますので、いましばらく注視をしていきたい、こういうふうに思っています。

○江田五月君 注視というのは、先ほどニュアンスのあるお返事をいただいたので、私どもも日本政府の動きを注視しておきたいと思うんですが、国際人権問題では、どうも国際社会の中で日本は余り高い評価を受けていない。
 東ティモールのノーベル平和賞受賞者、ラモス・ホルタという人が一九九七年に来日をしたんですが、そのときに、政府要人はだれも会おうともしなかった。ラモス・ホルタ氏は、日本政府は人権への関心が薄いと。大戦中、三年半、日本は東ティモール地域を占領した。しかし、それに謝罪する勇気もない、そこがドイツとは異なる、すべては金で買えると考えているという、これは新聞のインタビューでそういう報道ですが、それだけではなくて、似たようなことをずっと言われて日本を去っておられる。
 最近も、例えばオーストラリアの外務大臣が、この関連の周辺各国、インドネシア、ポルトガル、アメリカ、カナダ、EU、日本そしてニュージーランド、こういうところに向けて、国際的な救援の努力をしようじゃないかという、こういう呼びかけをしているわけです。
 これに対してアメリカなどもすぐ反応をしているわけですが、今言った国々でどうも日本だけがポッシブルイクセプション、ひょっとしたら例外、例外の可能性あり、その他のすべての国がこのプランを原則的に支持すると、こんな表明をしているようですが、日本はどうも何もやっていないという感じですが、これではいけません。
 総理、ひとつぜひこういう、二十世紀の問題ですから二十世紀中に解決をする、北方領土だけでなくて日本も積極的に、例えば今のオーストラリア外相の提案に支持を与えるとか、あるいは国際赤十字の支援とか、あるいは三月二十二日にはジュネーブで国連人権委員会が開かれるのでここで日本政府が積極的な態度を示すとか、日本も国際社会の中で人権とか平和について積極的な行動を起こす用意ありと、こういうメッセージをお出しになったらいかがかと思いますが、どうですか。

○国務大臣(小渕恵三君) 今問題になっております東ティモール問題につきましては、私も外務大臣時代、ポルトガルのダガマ外相あるいはインドネシア・アラタス外相ともお話を申し上げて、その解決については日本としてもあるいは目にはそう見えなかったかもしれませんけれども取り組んでまいってきておるところでございまして、先ほど来新たな進展も見えておるようでございますので、我が国としてもこの問題について積極的に対応いたしますと同時に、人権問題について今御指摘がいろいろありましたが、かなりケースがいろいろの点で違っておる点もございますけれども、日本として、世界からこの問題について腰を引いていると言われることのないように日本としては正しく対応していかなきゃならぬと思っております。

○国務大臣(高村正彦君) オーストラリア外務大臣が提案したコンタクトグループの件ですが、これは日本政府としては極めて前向きに検討をしております。
 それから、ノーベル賞受賞者のホルタさんが……
○江田五月君 ラモス・ホルタ。
○国務大臣(高村正彦君) ホルタさんが来られたときのお話で、当時外務大臣が大変お忙しい時間でお会いできなかったので、政務次官である私が会いたいと言ったら、政務次官とは会う気がないと言って断られたという事実は御報告しておきたいと思います。

○江田五月君 ああ、そうですか。私は、あなたは当時例のペルーの事件で大変忙しくて、政務次官とも会いたいと言ったんだけれどもあなたの方が会わなかったというように聞きましたが、まあ、それはいいでしょう。
 カンボジアで日本は大きな役割を果たしたわけですから、あのカンボジアで役割を果たした人は、東京都へ連れて帰るんじゃなくてやはり国際社会でやっていただいた方がいいんじゃないかと思いますが、それはさておき、次へ移ります。

 中村法務大臣、民主党としてはしばらくあなたに質問を控えておりましたが、集中的に質問をさせていただきたいと思います。
 どうも個人のことについてのいろんな追及は私は余り得意でもないし好きでもありませんが、しかしどうも法務大臣が司法やあるいは法務・検察行政の根幹部分にいろんな疑問の起きるような言動をされておる、やはりこれは私がただしていかなければならぬ問題だと思っております。(資料配付)
 第一に、あなたの本年一月四日の法務省での賀詞交換会でのあいさつですが、これは翌日、発言の中に適切を欠いて誤解を招く発言があった、謹んで取り消し陳謝をする、さらに憲法を守ると、そういうことを閣僚懇談会で言われた、そこで不問に付すことにしたと、官房長官は角田委員の質問にそういうお答え、総理もそういうお答えですが、どの部分が適切を欠いていたんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) いわゆる貿易上の問題を、三〇一条がミサイルのようなものだというようなことを思わせるような発言をしたこと。それから、私が言ったわけじゃありませんけれども、国民の間に弁護士に対する不信があるようなことを言ったこと、それから憲法を改正しようと言ったわけではありませんけれども、憲法に関して軽々しく言及したこと、その三点についておわびをして、訂正をさせていただきました。
 なお、私、憲法を遵守し擁護してまいりますし、改めておわびを申し上げます。

○江田五月君 角田委員の質問の後、朝日新聞の夕刊が「窓」というところで、「論説委員室から」というコラムでちょっとした文章を載せております。これで見ますと、「この人はやはり、閣僚としての適格性に欠けるのではないか──。参院予算委員会のテレビ中継を見ていて、そんな思いがふつふつとわいてきた。」、そしてあと、検事総長を呼んだ話、刑事局長などにこの事件の関係について説明したとか、あるいは課税処分に訴訟を起こしたとか、そういうことがずっと書いてあります。
 まず、今の正月の発言について、憲法は自衛できないというようなことを言われているんですが、自衛権があるかないかについて独特のお考えをお持ちなんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 司法制度の改革について強調したかったというのが私の真意でありまして、そしていわゆる訓示を述べるとか、そういうような会ではなかったものですから、どこまで私が話したかということは定かではございませんが、独特な解釈を持っているわけではございません。政府の解釈に従ってまいります。

○江田五月君 自衛できないというのは、もうどう考えても、なぜどこがどういうふうに自衛できないのかさっぱりわからないんですがね。現に自衛隊もあるんですけれども。
 それから、貿易上のこと、これも一つ問題があります。
 弁護士不信について、これは私が言ったんじゃないとおっしゃいますが、あなたがどう言っているかということを見ますと、私もそう思うという、ここですね。私が最近憂うことというのでずっと、国民の中には弁護士ってあんなひどいものだったんですかという感情が芽生えているのは事実であり、こう感じているのは私だけではないと思うと、こうあなたはおっしゃっているんですが、これはあなたが自分の考えじゃないことを言ったんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) この席で答弁するような席でなかったので、一言一句そうかわかりませんが、そのようなことであったらいけないということでおわびを申し上げ、撤回をさせていただきたいというおわびを申し上げたわけでございます。

○江田五月君 ちょっとわかりません。何、この席で言うべきでないが──ちょっとよくわかりません、今の質問の答え。

○国務大臣(中村正三郎君) 司法制度改革を言おうということで私が発言に責任を持って一つずつ議事録をとるとか、そういう会議でなかったものですから、私が一言一句をそういうふうに言ったか私にもわかりません。しかし、そういうことが報道されていますことを重く受けとめて反省をし、撤回をしておわびを申し上げる次第でございます。

○江田五月君 言ったことがわからぬのに反省して取り消すというのもよくわからぬ話ですが、刑事の弁護においては最近和歌山やオウム真理教の事件を通じて弁護士ってあんなひどいものかと、こうなるんですよ。いいですか。和歌山のあの毒物カレー事件、これについて弁護士がいろんな活動をしておる、あるいはオウム事件についても今法廷で弁護士がいろんな活動をしておる、それはひどいことなんですか、ひどくないんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) それは国選弁護の方たちですから、いろいろな弁護活動をされると思って、正当な弁護活動だと思います。

○江田五月君 オウムについては国選ですが、和歌山は国選でしたかね。国選じゃなかったような気がしますが。
 いずれにしても、弁護制度というものは、これは冤罪ということもあるし、仮に冤罪でなくてもどんな極悪非道と言われるようなことがあるにしても、無罪の推定で刑事裁判を受けるというのはもう大原則なんですね。
 もちろん今、例えばオウムの事件についても、あんな者を裁判にかけるようなお金を使う必要はない、すぐに死刑にしろなんという国民の声もあります。ありますけれども、そういう国民の声にそうだそうだと政治家が言っちゃだめなんで、まして法務大臣がそういうことを言うというのは適格性を欠くも欠くも大欠きじゃないかと思いますが、どう思われますか。

○国務大臣(中村正三郎君) 申し上げましたことは非常に適切を欠くものだと思いまして、撤回させていただき、おわびを申し上げる次第でございます。

○江田五月君 おわびと言われても、法務大臣がそういうことを言われたというのは弁護士にとっては後ろから弾を撃たれるのと同じですよ、おわかりですか。世間の非難を受けても弁護士はやらなきゃならぬことがあるんです。一生懸命やっているのに、法務大臣はそれを守らなきゃならぬ立場じゃないですか。
 総理、どうお考えですか。これは撤回すればいいという、そういうことですか。

○国務大臣(小渕恵三君) 発言の内容のすべてを承知しているわけでございませんで、今、法務大臣が法務大臣としての考え方を申し述べており、それに対して撤回されたということでございましたので、私はそのことをお認めした、こういうことでございます。

○江田五月君 発言の詳細はわかるんです。それはマスコミ注視の中での発言ですから。そして、刑事の弁護において、最近は和歌山やオウム真理教の事件を通じて、国民の中には、弁護士ってあんなひどいものだったんですかという感情が芽生えているのは事実であり、こう感じているのは私だけではないと思う、こう言っているんです。
 もし撤回がなかったら、あなたはどうされるつもりだったんですか。

○国務大臣(小渕恵三君) 撤回ということですが、どういう場所でどういう発言をされ、どういう責任を負うかということでございまして、その逐一の文章をすべて私は承知をしておることでございませんが、私が任命をいたしました法務大臣がかくかくここでも何回も弁明をされておられますので、私としてはそのことを認めた、こういうことでございます。

○江田五月君 総理がそういう法務大臣を任命したということをどうあなたはお考えですか。

○国務大臣(小渕恵三君) こうした公の場所で法務大臣が弁明をたびたび申し上げなければならないようなことがあったということは、大変残念なことだと思っております。しかし、その内容とすることにつきまして私自身すべて承知をしておるわけでございませんで、ここでの正式の弁明に対して私はそのことを了としておる、こういうことでございます。

○江田五月君 総理は、弁護士というものがどういう社会的使命を持って行動する人たちであるかというのは御存じですか。

○国務大臣(小渕恵三君) 人権を守り、法のもとでこれを擁護していく立場であろうかと思っておりまして、その職責はまことに崇高なものだと認識をいたしております。

○江田五月君 いろいろあるんですが、次に、中村法務大臣は就任直後に検事総長をお呼びになって、検察庁は我々国会から選ばれた小渕総理が指名された大臣の指揮下にあることを厳密に心に置いて仕事をせよと。今の言葉は中村法務大臣、あなた自身が国会で答弁をされた言葉の引用ですから覚えておられると思いますが、大臣、つまり法務大臣の指揮下にあることを厳密に心に置いて仕事をせよ、こうあなたは言われたと、あなた自身がそうおっしゃったわけです。
 この表現、小渕総理はどう思われますか。

○国務大臣(小渕恵三君) これは事実でございまして、私が指名いたした事実をそのまま申し述べておることだろうと思っております。

○江田五月君 小渕総理が中村法務大臣を指名したということを私は問題にしているんじゃなくて、その後です。法務大臣の指揮下に検事総長というものは、検察庁はあるんだから、そのことを厳密に心に置いて仕事をせよと就任直後に検事総長を呼んで訓示したということをどう総理は思われますかということを総理に聞いているんです。総理に聞いているんです。

○国務大臣(小渕恵三君) ちょっと法務大臣がその事実関係をお話ししたいというのでございますので、お話をお聞きいただきたいと思いますが、大臣としては法律上指揮する権限も検察庁法にもございますので、そういうことをお話ししたのかとは思いますが、しかし御本人がこれから御説明されるということでございますので、お聞きいただきたいと思います。

○国務大臣(中村正三郎君) 御説明いたします。
 私が就任しました後の事務引き継ぎの席で、検察庁の検事総長を初め幹部の方が私のところへ来て事務引き継ぎの話をいたしました。それをお伺いした後、心構えのようなことを話したんですが、検事の、検察の仕事というのは極めて重要な仕事である、こういう仕事は国民生活のためにある、国民生活のためにあって国民の要請にこたえた検察の仕事でなきゃいけない。そういうことで、検察庁というのは、これは糸切れた行政ではないんで、きちっと国会に対して連帯して責任を持つ行政の一つの機関である。そういうことにおいて、やはり国民の要請を受け、その国民の代表たる国会の、国権の最高機関の国政調査権の範囲内にある行政機関であると。
 そういうことで、国民の要請にこたえて公平公正な検察業務をやってもらいたいと言いました後に、法律的にも国会から選ばれた総理大臣の指名を受けた私が議院内閣制の中で指揮監督する立場にあるということをお話ししたわけでございます。

○江田五月君 法務大臣の指揮監督のもとにあると。しかし、一方で検察庁法十四条というのがありますね。これは法務大臣、どういうふうにお考えですか。

○国務大臣(中村正三郎君) まず、法務省設置法二条で行政たる検察の事務は大臣の下にあるわけですから、一般的に国家行政組織法の考え方からいって、私の指揮監督にある機関だと思います。
 検察庁法は、実はこれは設置法の前にできた法律でありますけれども、木村篤太郎司法大臣の提案理由説明をお読みになるとよくわかると思うんですが、検察官は、従来と同様司法大臣の指揮監督に服するものでありますが、検察権行使の独立性を担保するため、個々の事件の取り調べまたは処分につきましては、司法大臣は検事総長のみを指揮することができるといたしたのでありますということで、検察庁法十四条にも法務大臣は検察を指揮することができると書いてあります。そして、個々の事件については検事総長を通じて指揮をせよという指揮の仕方が書いてあるということだと思います。

○江田五月君 指揮の仕方が書いてあるというのは大変な理解だと思いますが、検察庁というのも、あるいは検察事務というのも行政権である、したがって国会を通じて国民にその責任を負うものでなきゃならぬ。それはそう。しかし、一方で、政治的な介入というものがあってはいけないので、そこでその指揮者である、指揮権限を持っておる法務大臣という行政官庁が直接に個々の事件について検察庁あるいは検察官を指揮してはいけない、検事総長を通じてのみできるという規定で、これは大変微妙なバランスの規定なんですね。

 御承知と思いますけれども、かつて大事件がありました。昭和二十年代の終わりです。私、ジュリストの当時の座談会をとってきたんですが、もう今やマイクロフィルムになっているような本でして、田中二郎、兼子一、団藤重光という大先生方が一生懸命討論をしている。
 その中に、こういうくだりもあるんですね。もう時間がないので余り読みたくはないんですが、法律で法務大臣に指揮権が認められている、それを受けた以上、検事総長は法律的にはその指揮に従う義務がある、しかし検事総長がしっかり腰を据えていますと法務大臣の方ではいいかげんな指揮をすることができない、不当な指揮があったら検事総長は実質的にかなりこれに抵抗することができる、検事総長も検察官としての身分の保障を持っている、法務大臣は容易に歯が立たない、場合によっては検事総長が職を賭してまでその指揮を食いとめることも可能だろうと思う、そういうこれは団藤重光先生の発言なんですよ。

 法務大臣が指揮をしようといったって、検事総長の方は自分はやめる覚悟でそれに抵抗することもできる、最後は政治判断で、国民が総選挙のときに判断をするという、そういう非常に重要な規定なんですね。指揮の仕方を書いてあるとか、そういうことと違うんじゃないですか。もう一度。

○国務大臣(中村正三郎君) いろいろ法律家の御議論あることも大変浅学ですがお聞きをしておりますし、委員の御指摘もよくある、極めて微妙なところだと思うんですが、私は長いこと国会対策の仕事をさせていただきまして、野党の方から、なぜ検察を呼ばないんだということを、国会に呼ばないんだということをよく言われたことがあります。刑事訴訟法四十七条と国会法の百四条のぶつかり合いで、国政調査権には服するべきだと、指揮されるべきだというようなお考えがあり、しかしそれは言えないんだというようなことがずっと言われてまいりました。ですから、私は、実は個人的にはこの国政調査権とそれから検察のあり方について、できれば、これは私、個人的意見ですよ。(「法務大臣の意見を聞いているんですよ」と呼ぶ者あり)じゃ、個人的な意見はやめます。大変微妙なことだということは認識しております。

○江田五月君 あなたよりもよっぽど検事総長の方が事の重要性というのはわかっているんじゃないかと私は思いますよ、申しわけないけれども。
 ですから、こういうことをあえて就任直後に言われる。検察というのは法務大臣の指揮下にあることを厳密に心に置いて仕事をせよということを言われたら、それはやはり布石になって、その後別の、あなたの心はこうだというそういうメッセージがあれば、それは合わせわざで指揮権の発動になるんじゃありませんか。

 ちょっと話を変えまして、石垣シーサイドホテルというのがありますね。これは中村企業という会社がお持ちのようですが、あなたとの関係は。

○国務大臣(中村正三郎君) 正確な日にちは覚えておりませんけれども、私が三十年ぐらい前に設立した会社です。

○江田五月君 あなたが設立をされた会社だと。土地はだれのものですか。
○国務大臣(中村正三郎君) 私の子供のものでございます。

○江田五月君 大変失礼ですが、今お幾つですか。
○国務大臣(中村正三郎君) 今十ぐらいだと思います。

○江田五月君 あなたは、この土地をあなたの御子息に贈与されたんですね。
○国務大臣(中村正三郎君) 生前贈与の手続をいたしました。だから、生きている間に贈与する。

○江田五月君 贈与ですね。
○国務大臣(中村正三郎君) そうです。

○江田五月君 何年ぐらい前に贈与されましたか。
○国務大臣(中村正三郎君) 五、六年前だったと思いますね。

○江田五月君 五、六年前でも四、五歳。もうちょっと前じゃないかと思いますが、まあそれはいい。
 この石垣シーサイドホテルの近くに日本生命がホテル開発をするとかいう、それで云々という事件がありますね、事件といいますか問題。これで、今年二月一日、衆議院の予算委員会で我が党の上田清司委員が質問をした。あなたは、「私が就任いたしましたときは、この事件は既に送検をされております、そういう事実。」。送検をされておりますというのはどういう意味ですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 私が就任してしばらくして新聞記事でこの事件は送検されたという記事を見たものですから、それを申し上げました。

○江田五月君 これは、あなたが指揮権発動を実際にやったんじゃないかということを質問されたわけですが、あなたは答弁で送検をされておる事実、事件だと。送検されているというのはどういう意味があるんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 送検されている事件だという事実を申し上げ、これ、送検しておりますと、本来私は法務大臣ですから、今申し上げましたように法律的に検察を指揮する立場にいますから、これを聞かれても御答弁できないわけであります。御答弁できないわけだけれども、個人のことが言われているから、あえてお話し申し上げますということでお話ししました。

○江田五月君 なるほど、送検されて今自分の指揮する検事総長のもとにあるから答弁できない、本来なら、という意味ですか。
 それで、さらに同じ答弁の中で、続いて「法律上、私が捜査について指揮をとれる相手というのは検事総長でございまして、指揮をとれない」、これは刑事局長をあなたは指揮したんじゃないかという質問なんですが、「指揮をとれない人にそんなことを言うわけもございません。」という、これはどういう意味ですか。

○国務大臣(中村正三郎君) それは、先ほど質問がございました検察庁法第十四条にも、個々の事件には検事総長を指揮するということが法律で決められております。

○江田五月君 あなたは、検事総長に対する指揮はあなたが直接検事総長に言わなければできないとお思いですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 仮定のお話でどんどんいっちゃうものですから、私はそういうような指揮はしておりません。これは明確に何回も否定しましたけれども。 本来、こうした事件についてこういうところで先生と私が論議することもぐあいの悪いことだと存じますが、そういった報道がありましたので、実際にある事件でございますから、それは私に聞かれれば、ぐあいが悪いというか申し上げられないということになるんだと思いますが、私のことが報道されたのは事実でありますから、そのような指揮をしたことはないということを申し上げているわけでございます。

○江田五月君 では、もうちょっと一般論として、いいですか、指揮権発動というのは、あなたは直接自分が検事総長を指揮しなければ指揮権発動にならないとお考えですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 私は法律の専門家ではありませんので、確たることは申し上げられません。最終的には、何かもし事件があれば、どういう指揮が行われたというのはそれは裁判で争われることかもしれませんが、私は検察庁法の十四条の検事総長を指揮するというのを素直に読んでおります。

○江田五月君 刑事局長というのはあなたの何ですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 刑事局長というのは法務省の局長であります。私の指揮下にあります。

○江田五月君 あなたは法務大臣という行政官庁なんですよ。法務大臣という行政官庁。これは全閣僚よく聞いておいてくださいよ、そのくらいのこと。法務大臣という行政官庁なんですよ。法務省の全職員はあなたの補助職員なんですよ。ですから、あなたが行政官庁の法務大臣として何かを行動するときには、全部あなたの部下の法務省の職員をどういうふうにでも使えるわけですよね。その一人に刑事局長がいて、刑事局長が具体的には検察事務というのを所管しているけれども、あなたは直接検事総長に指揮するだけでなくて、刑事局長を通じて検事総長を指揮することも当然できる。検察の方の受け手は検事総長だけですよ、こういうことが検察庁法の十四条じゃないんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) 仮定の論議は余りするべきではないと思いますが、私が指揮するとしたら、私は検察庁法十四条を素直に読んで検事総長を指揮すると思います。だけれども、それは仮定の話でありますので。

○江田五月君 検事総長を指揮する仕方自体が大間違いの法務大臣。
 これは、法務大臣、あなたが自分で意識せずに指揮権発動をするということがあり得るという話ですよ。

○国務大臣(中村正三郎君) そのような重要なことをそう軽々しくやるわけはないと思います。

○江田五月君 そうじゃないんだ。あなたがそういうことをしっかり知らずにうっかりやったことが指揮権発動になるという話なんですよ。

○国務大臣(中村正三郎君) 私は、検察庁法十四条の「検事総長のみを指揮することができる。」というのを素直に読んでおります。

○江田五月君 刑事局長、お見えですよね。いかがですか。申しわけないんですけれども、法務大臣が指揮権発動をするときのやり方というのは、刑事局長、教えてあげたことはありますか。

○政府委員(松尾邦弘君) 大臣御就任の際には、検察庁法十四条というのは極めて重要な規定でございますので、大臣を補佐する立場にある刑事局長としては、いろいろな説明の中でも十四条の問題というのはしっかり説明申し上げております。

○江田五月君 当然、刑事局長を通じて検事総長を指揮するということはできるわけですね。いかがですか、刑事局長。

○政府委員(松尾邦弘君) 検察庁法十四条の解釈としては、江田先生御指摘のとおりでございます。

○江田五月君 いかがですか、それでまだ──総理に聞きましょう。総理、それでまだあの人、法務大臣の資格があると思いますか。

○国務大臣(小渕恵三君) 検察庁法十四条のことに関して、俗に言う指揮権の発動といいますか、こういうことの存在することについての御論議はお聞きをいたしておりましたが、ただ、法務大臣自身が御指摘のような税務訴訟の提起についてその関与を否定しておりますので、私としてはそのように理解をいたしておる、こういうことでございます。

○江田五月君 税務訴訟の提起という話をされましたが、これはまた別の話なんで、こっちはまた違うんですよ、総理。
 税務訴訟があるんです。その話もあるんです。これは訟務局長が担当するんですが、訟務局長の場合は検察庁法の十四条なんということもなしにずばりもう指揮できるんですよ。ちょっと今、口が滑りましたね。

○国務大臣(小渕恵三君) 大変失礼をいたしました。
 法務大臣の発言として、最初に御提起されましたこの一月五日の問題と、それから従前、今私が過ちて御答弁をいたしました点とございます。そして、今お話しの点は指揮権の問題でございましたが、これにつきましては、これを発動したとされる報道について法務大臣自身がその事実を明確に否定しておりますので、私としてはそれを了としておる、こういうことでございます。

○江田五月君 何をすれば指揮権発動になるかも知らない法務大臣。
 今、税務訴訟の関係についてちょっと総理が言われましたから、やっぱり弁明の機会が必要でしょう。

○国務大臣(中村正三郎君) これは、角田先生の御質問に答えましたので、内容は避けます。
 要するに、宥恕規定といって、申告書に、あることを書いておかないと税の減免が受けられないというやつを書き忘れたというやつですね。それを国税不服審判に私のオーナーの会社が、そこの社長がやったと。やって、その延長線上に──国税不服審判は準司法的な世界で、その延長線上に裁判がありますので、そこの手続まで行くべきかということでやったと。私も御質問があったので聞いてきましたが、やったということだそうです。ただ、裁判はしなかったということだそうですが、これは憲法に定められた、どういうものでも行政に対して不服があればそれを裁判の判断にゆだねるという規定が憲法にあるわけですから、それは許されるべきことじゃないかと私は思っております。

○江田五月君 あなたは、そのことを知ったのは、週刊誌で初めてこういう問題があるというのがわかったと、そこで聞いたんだと、そうお答えですよね。そうじゃないんですか。

○国務大臣(中村正三郎君) そうは答えておりませんと思います。

○江田五月君 時間が来ましたが、そのほかにも、今の税務訴訟のことはもっともっと聞かなきゃならぬ点がいっぱいあるんですが、そのほかにも、例えば独禁法改正をあなたが所掌している司法制度改革審議会の議題の中に入れようというようなことを画策されるとか、いっぱい問題があって、総理、まだこれでも法務大臣、このまま不問に付したままでいきますか、それとも何かお考えですか。

○国務大臣(小渕恵三君) 法務大臣の真意もさらにお聞きをいたしてみたいと思いますが、いずれにしても、公式の場所において法務大臣がそれぞれについて否定をされておられるということでございますので、私としては本務に専念をしていただきたい、こう考えております。

○江田五月君 私どもとしては、これで終わりにするつもりはありません。
 終わります。

○委員長(倉田寛之君) 以上で江田五月君の質疑は終了いたしました。(拍手)

参議院予算委員会 総括質疑 

1999年3月1日

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