1992/06/03

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衆院・商工委員会

○江田委員 独禁法改正案について質問いたします。
 きょうは公取の委員長に伺いたいのですが、私も政府案の積極面を認めないわけではありません。両罰規定、きのうも参考人の方がおっしゃっていましたが、法人に対して別の刑罰を科すのだ、言うのは簡単だけれども、実際に実行するのはなかなか大変で、今回の一億円というのはそういう意味では画期的な面を含んでいることを認めないわけじゃない。しかし問題は、仮に罰金が一億であろうが五億であろうが絵にかいたもちではだめなわけで、公正取引委員会の意欲といいますかやる気といいますか、本当に取引の公正ということのために全力を尽くすという覚悟があるのかどうか、ここを実は私は疑問に思っているわけです。もし、公正取引委員会が独占の排除とかあるいは取引の公正とかこういうものに対して、もうまるで情熱や意欲を持っていないのだとするならば、たとえこの案の罰則が五億円になっていようが十億円になっていようがこんなものは何にもならない、反対だ、あえてこう言いたいぐらいのところです。そこでぜひ意欲のことを伺いたい。

 そこで、その意欲の点が最もよくわかるのが先日来問題になっている埼玉談合に対する態度だと思うのですね。そういう意味で埼玉談合についての告発をしないということを問題にしているわけですが、先日、なぜ告発しなかったかについていろいろ言われましたが、要約すると、犯罪ありと思料しなかった、こういうことですね。刑罰法規の基本構造、委員長に御説明いただきましたが、それはもうよくわかっていますので繰り返していただかなくて結構なのですが、要するに行為者が特定できなければこれはもうどうしようもない。その行為者について、構成要件該当性、違法性、有責性、これを判断しないと犯罪ありと思料するわけにいかない、そこができなかったのだ、こういうお答えだったと理解しますが、それでよろしいですか。

○梅澤政府委員 お答えは後段の方だけのお答えでよろしゅうございますか。(江田委員「そうです」と呼ぶ)先般も委員に御説明を申し上げましたように、七十三条の規定に従って犯罪ありと思料し検事総長に告発する、その告発に値するという認定を行うに至らなかったということでございます。その場合に、違法性、有責性等の観点は当然のことながら検察当局と何遍も意見の交換を重ねたわけでございますけれども、その結果、しかし最終的には公正取引委員会の判断といたしまして告発を見送ったということでございます。

○江田委員 だから、公正取引委員会の判断というのは犯罪があると思料するに至らなかったということなのですね。

○梅澤政府委員 犯罪ありと思料し検事総長に告発する、そういった要件に当たらないという判断をしたということでございます。七十三条は先般も御説明申し上げましたけれども、私ども公正取引委員会の裁量の範囲に属する権限とは考えておりますけれども、これは厳正、公正に行われなければならない、その点は堅持しながら今回の告発権の見送りという結論を出したわけでございます。

○江田委員 もうちょっとはっきりお答えいただきたいのですが、公正取引委員会、平成四年五月十五日、「埼玉県所在の土木工事業者に対する勧告等について」ここでは「独占禁止法の規定に違反する犯罪ありと思料し告発を相当とする具体的事実を認めるに至らなかった。」こうお書きですが、これは独禁法の告発義務ということでございますね。犯罪ありと思料するときには告発をしなければならない。しかし、これは当該公務員の職務上正当と考えられる程度の裁量までも禁止する趣旨ではないであろう、小野先生とか団藤先生とかそういうお説のようですが、私も、裁量、それはあるだろうと思います。したがって、起訴便宜主義のような裁量とまではいかないけれども、しかし、公正取引委員会は公正取引委員会の職員上判断して、その違反する事実は確かにありそうだけれども、しかしもう十分社会的制裁をこうむっているとか、あるいは軽微であるとか、再犯のおそれがないとか、十分説諭をしたからとか、それはいろいろあるだろうと思いますよ。

 そこで、今回はどっちなんですか。犯罪ありと思料しなかったのか、それともそれはちょっとどうかなという点はあるけれども、そのほかのいろいろな事情から裁量で告発しないという判断に至ったのか、どっちなんですか。

○梅澤政府委員 これは今後の公正取引委員会の告発権の運用に対しての私どもの考え方を基本的に述べることになると思いますけれども、平成二年六月に十数年ぶりに告発を再開するということを公にいたしまして、今後これを継続的かつ機動的に運用していかない限り抑止力の強化にはつながらないということを考えます場合に、七十三条の告発権の発動に当たりまして、これは大変厄介な事件でございました。公訴提起当局である検察当局ともたびたび意見を重ねたわけでございますけれども、公正取引委員会の判断といたしましては、公正取引委員会自身が犯罪を構成するという確信がない限り告発してはならないのだ、そういうふうには考えてないわけでございます。

 問題は、それでは、違法性がある、したがって後は検察当局の捜査なり起訴判断に任せるという運用がいいかといいますと、私はそうではなくて、今後とも検察当局との連絡をさらに強化していくという形でこそ初めてこの独占禁止法の刑事告発の運用というのは軌道に乗るということを考えているわけでございます。何となれば、仮に不幸にして、告発をいたしました、ところが検察当局の捜査を経たにもかかわらず起訴が行われなかったという場合でございますね。特に、告発あるいは刑事訴追というのは社会的制裁としてはラストリゾートでございますから、告発権を行使しながらそれが起訴に結びつかなかったという場合には、やはり公正取引委員会の行政運用に対する信用を根底から失ってしまうということになりかねない。

 それからもう一つは、やはり告発を受けるという段階で既に当該事業者は相当の影響を受けるわけでございまして、結果としてそれが実らなかったという場合に、やはり行政運用としてそういうことが起こらないように告発を行うという態勢でやっていきませんと、私は日本の独占禁止法の有効な告発体制というのは根づかないというふうに考えておるわけでございます。

○江田委員 あなた、そうおっしゃいますけれども、それでは、どこまで公正取引委員会が犯罪が行われているかどうかについて判断する能力があるのか、権限があるのか、力があるのかということですね。今、確かに、構成要件、違法性、有責性のすべてについてまでびっちりと確実に犯罪の認定ができるところまで要するとは思っていないということですが、それは当たり前だと思うのですが、告発をした、しかし不幸にして公訴提起に至らなかった、そうすると、というようにいろいろおっしゃるわけですけれども、公訴提起までできるかどうかという判断をするだけの調査能力というのはあなた方にあるのですか。

○梅澤政府委員 私は、そういうことを申し上げているわけではございませんで、いささか説明が舌足らずであったと思いますけれども、端的に言えば、当委員会の事務局が違反事件について証拠なり供述をとり、独占禁止法としての事件構成をやっていくわけでございますけれども、これを刑事事件として刑事訴追を求めるという形で告発を行った場合に、公訴提起の可能性あるいは公訴維持の可能性、そういうものについて相当程度の見込みがあるかないかということを判断する、しかしそれは、最終的には公正取引委員会の責任において判断をするわけでございますけれども、やはり公訴提起なり公訴維持の専門機関である検察当局の率直な意見を聞きながら判断をする、そういう手順をとっておるということでございます。

○江田委員 公訴提起の可能性についての検察当局の意見も十分に聞いてということですね。

 法務省おいでですね。本件について、そういういろいろな相談というもの、これは公取の方はしたんだということですが、行われたんだと思いますけれども、公訴提起の可能性とか、こういう点を調べたらもっと公訴提起の可能性があるかどうかわかるから調べてみてくれとか、そういうサジェスチョンまで検察庁の方としてはやるのですか。

○山本説明員 お尋ねの件につきましては、公正取引委員会当局と検察当局、主として東京高検が中心でございますけれども、必要に応じて意見交換を行ってきたところでございます。公正取引委員会の慎重な調査を踏まえて、検察としては公訴提起及び公訴維持の観点から意見を述べたというぐあいに聞いております。

○江田委員 では、もう一遍法務省に聞きましょう。恐らくごらんになっていると思いますが、勧告書があります。これは、平成四年(勧)第一六号、公正取引委員会の平成四年五月十五日の勧告書ですが、ここでいろいろな事実が認定されています。御存じだろうと思いますけれども、埼玉に土曜会というものがあって、その土曜会がどういうルールを決めて、「救済」などということまであるような、そういう事実を認定して、この事実によれば、競争を実質的に制限していたもので、これは独禁法二条六項に規定する不当な取引制限に該当し、三条の規定に違反する、こう認定された事実があるのですが、この事実を明らかにして処罰を求めれば、それは告発として成立していると思いますか、いないと思いますか。

○山本説明員 一般論として申し上げれば、捜査の端緒及び訴訟条件としての要請を満たすという観点としては満たしていると思われますけれども、しかしながら、国家機関としての公正取引委員会が告発するかどうかという観点に立ちますと、犯罪事実が、特定の犯人の存在を前提として、当該犯人とされる者の行為で構成要件を満たし、違法かつ有責なものであるかという観点からその有無が判断なされるものであるというぐあいに考えるわけでございます。

○江田委員 この事実で処罰を求める意思を表示すれば告発としては成り立っているわけですよ。いいですか、公正取引委員長、あなた方はこの事実に基づいて勧告をなさいましたね。それでもう行政的な手続はできているわけです。後は、今度、捜査の端緒としての告発を一体どういうふうにするかということが問題なんですね。告発は捜査の端緒です。捜査の端緒についての具体的な事実などを明らかにするような調査権限をあなた方はお持ちだろうかどうだろうか、私は、これは大変に疑問だと思いますよ。

 独禁法四十六条の四項では、四十六条は、調査のための強制処分権限を公取に与えているわけですが、しかし、その強制処分権限というのは、犯罪捜査のために認められるものと解釈してはならない。これは国会の意思です。国会は、皆さん方の調査権限は犯罪捜査のために認められると解釈してはいけませんよ、こう言っているのですよ。あなた方はいろいろなことをお調べになって、そして勧告までやったわけです。それでもうあなた方の権限は終わっているわけで、後は、この事実の中に犯罪があると思うか思わないかです。

 こういう事実があって、これでなお犯罪があると思わないというのは公取としてどういうことなのか。公取というのは、私は、公正取引という保護法益からするといわば親と同じだと思いますよ。親が、公正取引という保護法益、自分の子供が目の前でずたずたに犯罪でやられているのに、これに対して何の心も動かされずに、何か講学上の言葉を使って逃げ回るというのでは、公取は役割を果たしているかどうかということになるんじゃないですか。いいですか、あなた方はもうこの段階で、これで犯罪があるかどうかを思料しなければいけないんじゃないですか。後は捜査機関に任せなさい。だって、あなた方の権限は捜査のために与えられた権限と解釈してはならぬというのが国会の意思として明らかになっているわけですから。いかがですか。

○梅澤政府委員 あるいはおっしゃっておりますことと若干見解を異にする点もあるかと存じますけれども、四十六条の、犯罪捜査のために行うと解してはならないという問題につきましては、種々の見解があるわけでございますけれども、その規定は、独占禁止法そのものも、八十九条以下、犯罪になる行為がございまして、それに関連する調査は当然独占禁止法で認められているわけでございますから、今の告発をするかどうかの問題と四十六条の犯罪捜査のために行ってはならないというのは、例えば公正取引委員会の調査の過程で、他の法律違反の犯罪、そういうものに着目してやってはいけないという趣旨であろうと私どもは解しておりまして、告発の問題と四十六条の犯罪捜査に対する制限規定とは直接関係がないということでございます。

 それからもう一つ、これは先ほど来繰り返して申し上げておりますけれども、今後、独占禁止法の告発というものが継続的、機動的に行われる体制を根づかせるために、公訴提起なり公訴維持を行う検察当局との関係、あたかも国税犯罪における、脱税犯罪の場合の国税庁と検察庁とのあの連携こそが、今日、税法違反に対する刑事訴追というものをようやく我が国に定着させたわけでございまして、そういった観点を入れますと、事前の連絡というものは今後ともむしろ強化していくべきだろうというふうに私は考えておるわけでございます。

 それから、告発の前段階で各種の協議を行いますけれども、私ども、七十三条の公正取引委員会としての告発というものを行う場合には、やはり委員会で決定をいたしまして、それで正式に公正取引委員長名をもって検事総長に対し様式をもって告発するという手順を従前もとっておるわけでございます。したがいまして、事務レベルにおける事前の調整過程というのは、告発の意思の表明ではなくて告発の可能性そのものについて専門機関としての検察当局の意見を聞いておる、あるいは意見を交換しておるというその手続であるというふうに御理解を願いたいと思うわけでございます。

○江田委員 私は、検察当局といろいろ事前に打ち合わせをすることそのこと自体がもうそれだけでまかりならぬと言っているわけじゃないのです。しかし、もし検察当局の方が、これはもう少し行為者も特定したり、その者の違法性、有責性までちょっと公取の方で調べてほしいというようなことを仮に、仮にですよ。私はそんな不見識なことを検察当局は言うはずもないと思いますけれども、そのようなことを言われたとしたら、あなた方は、そんなことは検察の方でやってくださいと言わなければいけないのじゃないですか。あなた方にはそういう権限はないので、違法だ、有責だ、有責性まで判断するために資料を集めるような権限は国会はあなた方に与えているわけではないのだと思いますよ。まして独立行政機関で、独立して国家意思を行使していこうという機関なのですから、よそから見て、国民から見て検察と談合しているのじゃないかと疑われるようなことを公正取引委員会がやったらこれはとんでもないことですね。そういうことは公正取引委員会の命取りですね。

 私は、もう時間が参りましたが、今回のこの埼玉談合の措置については、これは状態規制、構造規制じゃないので、やはりこれは行為規制ですよね。土曜会というものが何か知らぬ間にできていてそれを何とかしようというわけじゃないので、ちゃんとそういうものは行為によってつくられているわけです。したがって、これを排除する、そういう勧告をあなた方はお出しになる。これはそれでいいので、そして今度、この事実をずっと見るとこれは明らかにこの中に犯罪ありますよ。そこで後は検察庁の方にお任せをする、そういう役割分業というものでやっていくのでなければ、そこを何か余りにも過度にいろいろな調整をし過ぎると、検察との談合と疑われてしまう。そうではなくて、やはりこれはもう告発をして、後は整々と検察の処分に任せるということでないと、我々はあなた方に犯罪捜査のための権限まで与えなければいけないことになる。あるいはもっと言えば、あなた方が公訴を提起する立場を持ってもらう、そこまでやらなければいけないことになる。日本の立て方はそうじゃないわけですから、あなた方にそこまで求めていないわけですから、もっと堂々と告発されたらどうですか。そういう及び腰の態度で出される法案というものに我々は、どうもこれは魂が抜けているのじゃないかと思わざるを得ないということを最後に申し上げて、質問を終わります。


1992/06/03

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