1991/09/27

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衆院・政治改革に関する特別委員会

○江田委員 きょうは、ピンチヒッターで質問をいたします。
 総理、自治大臣、長丁場ですが、私の質問時間、十分と限られておりますので、しかし総理と政治改革の議論をするよい機会を与えていただいて、大変光栄と思っておりますので、ひとつよろしくお願いをいたします。

 政治改革が我が国の政治にとって最も重要な、しかも緊急の課題の一つであること、これはだれも異論がない。しかし、何が政治改革かというと、これは答えが一つでないんですね。政権交代がなく、議会制民主主義の制度がその妙味を発揮できていない、これをどうするか、あるいは政治が金に汚れて利権の構造が目に余る状態になっている、これをどうするか、いずれも私たちが何とかしなければいかぬ課題であると思います。この二つが不即不離のものか、それともそこにおのずから順序があるのかというのも、今の川端さんの質問のとおり議論がある。

 私は、選挙制度の改革によって有権者の投票行動が変わる、そのことによって政治と金の結びつきが断たれるということは、これはあると思います。思いますが、しかし、これもあくまで可能性の話だし、もっと直截に政治と金の結びつきを断つこと自体に取り組む必要はある。この点は、同僚の菅委員が既に強調したところでございます。

 そこで、きょうはそのことを前提として、さらに前へ進んで、選挙制度自体について質問をいたします。

 私も、総理、理由は必ずしも同じではないかもしれませんけれども、現行のこの中選挙区制度が、いわゆる制度疲労、これを起こしているということについては総理と同じような感じを持っております。思い切って中選挙区制度に手をつけるときが来ているんじゃないか、この点、同じ気持ちでおります。

 戦後、今日まで四十数年、現行中選挙区制度で何回も総選挙を重ねてきた。総選挙の最大の課題というのは何かというと、これは国民に政権を選択してもらうことですよね。国民にどの政権がいいのか選択してもらう、これが総選挙の最大の課題。ところが、これまで時の政権担当政党が窮地に陥ったことは何度もあったけれども、結局その都度政権交代は不発に終わってきました。その理由はいろいろあると思います。しかし、政権交代が一度もなかったこと、一度もといいますか、戦後すぐはちょっとありましたけれども、なかったというのは、これは確かで、私は野党の一員として考えてみても、その理由の一つにやはり現行中選挙区制度というのが挙げられる、これは率直に思います。

 この制度が余りにも金権、利権、地縁、血縁が効果を発揮し過ぎる制度である、この点に得意わざを持つ人が当選しやすい、こうして当選した人々がその地位を保持するために政党をつくって、その政党が永久政権を続ける。もちろんそれだけじゃありませんけれども、そういう面も恐らく否定できないと思うんです。中選挙区制度が何もかにも全部悪いとは言いませんが、これだけやってみて、やはりここまでその弊害が露呈してくると、これは手をつけようと思うのが当たり前。野党としても、四十数年やって政権がとれないわけですから、そういう制度にしがみついて、この次には政権交代があるだろうと思うのもちょっと虫がよ過ぎるんですね。そろそろ変えてみようというのも、粗っぽい言い方ですが、私は意味のあることだと思っております。

 そこで、私、中選挙区制度を変えようということで、私たちも含めて一部の野党から、いわゆる個人名投票併用比例代表制とか比例代表選挙区併用制とか、いろいろな呼び方がありますが、いわゆる併用制という提案がある。総理は、この併用制という方法では、これは小党分立になって政権が連立政権となって、国民が直接政権を選択できないから、これを採用できない、こういう理由ですね。そう理解して間違いないと思うのですが、なぜ小党分立、連合政権必至だというふうにお考えになるのか、併用制ならば。その理由をお答えください。

○海部内閣総理大臣 御指摘のように今の中選挙区制度でまいりますと、同一選挙区に二名ないし三名の候補者を必ず立てないと過半数確保できませんから、選挙のたびにお立てにならなければ、自由民主党がそこで切磋琢磨しながら当選をするから政権交代が比較的起こりにくい。戦後一時期あったことは、これは率直に、御指摘のとおりでございました。そして、それが制度疲労を起こしてきておるという理由は、もういろいろ仰せになりましたからそれにしておきますけれども、結論の、中間省略して最後の部分だけ申し上げますと、そのとおりでありまして、国民が直接選択できるような政権、政党同士の話し合いによって行われるということは、国民が政権を直接選択するという面から見て問題があるのではないかという点が一つと、また、西ドイツのように五%条項なんかを置いているということは、小党分立になって不安定になるということの歯どめであのようなことがされておるということを、私は先生とともに訪問したときもドイツで聞いてきた話でございました。

○江田委員 総理、よくお考えいただきたいのですが、小党分立になってどうしても連合政権が必至となって、そして国民が直接政権を選択できないとおっしゃるのですが、なぜ絶対そうなってしまうのかなんです。だってそうでしょう。どこかの一つの政党が併用制でも過半数の議員をとりさえすれば、そうすると、連合政権にはならないわけでしょう、単独政党になるわけでしょう。併用制だったら自由民主党は過半数をとれない、並立制なら過半数をとれる、だから並立制がよくて併用制はいけない、こういうことじゃないのですか。いいですか、小党分立になるからいけないといったって、今でも自民党は大きくて野党の方は、まあ大きい政党もありますけれども、大体小党分立になっているので、今よりこの点で悪くなるわけはないので、併用制だとどこかの一つの政党が、つまり自民党が過半数をとれなくて政権から転げ落ちるから併用制はいけない。つまり、並立にしがみついて併用はだめだというのは、自民党の党利党略以外の何物でもないのではありませんか。

○海部内閣総理大臣 これは、各界の有識者の代表の皆さんにお集まり願った選挙制度審議会の二年間にわたる御議論の結果の答申の中に書いてあったことは、私はなるほどそうなんだなと思いましたが、例えば併用制の中では超過議席というようなことが起こる場合があるとか、あるいは小党分立になるおそれがあるとかいろいろなことが書いてありまして、やはり政権の安定ということも一つの大切な要素であるということから、いろいろな御議論の中で併用制も議論されたが、並立制の、小選挙区との並立が望ましい姿である、こういう結論をいただいたものと思いますし、政府もそれが正しいと考えて法案にそれを盛り込んだわけでございます。

○江田委員 もちろん、いろいろな御議論とおっしゃるものがあるのは当たり前なんですよ。いろいろな議論があって、そして選挙制度審議会がああいう答申を出した、それを尊重するのだとおっしゃるのなら、なぜそれならば五百というものでやらずに四百七十一でやられるのか。そういうふうにするのも、やはりそこに自民党の政権というものをこれで維持していきたい、それが危うくなるような制度はとれないという自民党の党利党略だ、いいですか総理、私は何とかしなければならぬと思うのです。中選挙区制度を変えたいと思うのです。

 だから、これは今併用制の議論もある、並立制の議論もある。並立というのは小選挙区が基本で、併用というのは比例代表が基本で、これは水と油だからまじらないといいます。私たちもあるいは理論的にはそうだと思う。しかし、国民から見たらどうかといいますと、自分の居住する地域の一つの選挙区で一人を選ぶために個人名を投票し、同時に政党を投票するわけです。それがいろいろな操作を経て議席に結びついていくのですね。そういう意味で、国民から見たら、水と油だという議論の方こそむしろなじまないのかもしれないのですね。ですから、もっと、併用だ、並立だという言葉にこだわらずに、もう並立しかないんだ、併用はだめなんだ、もっとも自民党の討議の経過を見ると、総理の苦しい立場もわかりますけれども、やはりそこはもう一歩踏み込んでひとつ、並立しかなくて併用はだめだとおっしゃらずに、大いに議論をしようという立場に立たないと、議論できないのじゃないですか。

 並立、併用というこの言葉にこだわって、一方で国連平和維持軍を維持隊に変えるなんていうのは平気でおやりになるというのは、これはいささか総理らしくないと思うのですが、どうですか、併用というものもひとつ考えてみる余地あり、だからひとつ野党の皆さんも一緒に話し合いをしよう、そういうことをお考えになりませんか。

○海部内閣総理大臣 いろいろな議論を踏まえ、あらゆる御意見等を参照しながら政府も考え、また審議会の答申もいただいて法案を提出をさせていただいたわけでありますので、どうか御議論を賜りたいと思います。

○江田委員 もう時間、終わりですが、総理の苦しい立場はわかるのですよ。だけれども、やはりここはおれがやるんだという気迫が見えないとやれないのじゃないかと思うのですね。それで、一つやる方法があるのは、無理やりに解散・総選挙に持ち込んで、そしてこの並立を公約に掲げてやる、野党が今の状態だと、私はこれは総理の方が勝つかもしらぬなという気がするのです。しかし、今の定数是正の状態だと、これは解散できないでしょう。まあ議論はいろいろありますが、選挙が憲法違反になるおそれがある。

 総理、一つ念を押しておきますが、よもや今のこの定数をちょこちょこっといじって三倍以内に何とか、数選挙区の増減あるいは数選挙区の増だけぐらいで三倍以内という、つまり合憲の状態だけを確保して、それでお茶を濁すというような、そんなことは、総理がいつまで総理をやられているかわかりませんが、総現在任中はおやりにならないでしょうね。これだけ確認しておきたいと思います。

○海部内閣総理大臣 今は抜本改正を考えて三法案をここにお願いをしておると、ころでありますから、最善を尽くしてこの法案のこと、この法案を通していただくこと、そのことのみを考えて前進しております。

○江田委員 終わります。


1991/09/27

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