2007年6月5日

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166 参院・法務委員会

10時から12時15分過ぎまで、法務委員会に出席。更生保護法案について、参考人として藤本哲也教授、土井政和教授、宮川憲一・全国保護司連盟副会長、堀野紀弁護士にお越しいただき、各15分ずつの意見陳述を聞いて、各会派の委員から15分ずつ質疑をしました。民主党は私が質疑をし、藤本参考人のご意見がもっとも本法案を評価するものだったので、それで良いのかというトーンで質問しました。宮川参考人にも、長い保護司としての経験から、更生保護が脆弱化した現状に対する感想を聞きました。


平成十九年六月五日(火曜日)

○江田五月君 四人の参考人の皆さん、今日は本当にありがとうございます。

 実は、今回のこの法案は私どもも賛成でございます。ただ、いろいろ言いたいところはあるんで、衆議院の方で私どもなりの考え方をまとめて修正案も出したりいたしました。藤本参考人が衆議院の方の我々の質疑も参照されながら今日の意見を述べていただいたことに大変敬意を表します。

 その上で、しかし議論を深めていかなきゃならぬので、ありがとうございますと言っているだけでは質疑になりませんので、あえて若干問題点を述べてみたいんですが、まず藤本参考人ですね。最後に、刑事司法制度の入口に位置する警察段階での交番制度と最終段階に位置する更生保護制度は世界に誇り得る制度であると確信しておると、こういうお話で、前にお配りをいただいた「更生保護」という法務省が編集をした雑誌の中でも同じようなことを書いておられます。もっとも、「更生保護」という雑誌の方は更生保護制度というよりもむしろ保護司制度に焦点を当てておっしゃっているようですが。

 私は、おっしゃっていることの揚げ足を取るように聞こえるといけないんですが、やはり今の日本の更生保護制度は問題大ありだと。それは、先ほど堀野参考人が言われました、満期で出所をした場合、保護観察がないんですよね。そのまま社会に出される。しかも、満期で出てくるというのは、これは社会に適応していけるかどうかが非常に心配される人たちですよね。こういう制度がそのままになっていて、世界に誇り得ると言えるんだろうかどうだろうかと。いかかですか。

○参考人(藤本哲也君) お答えいたします。
 私が世界に誇り得ると言っていますのは、少なくとも再犯というレベルで考えれば、日本のいわゆる警察段階から検察、裁判、矯正、保護という一連の刑事司法過程の中で、犯罪者をもう一度社会の有用な人材として輩出するというシステムとしては最高のものを持っていて、しかもそれは交番制度によってまず第一に我々は、社会内のコントロールが行き渡っている。少なくとも我々は駐在所と交番所を一万五千か所持っていますから、これをある意味での社会防衛、社会の犯罪を抑止するためのセンターにしていけば、もう少し私はいい、安全、安心の町づくりができると思うんですね。

 今の警察は、今おっしゃいますように、今の警察の実態を見れば、それは、どちらかといえば事件を処理した方に評価が高くて、犯罪を予防した人は、予防した数字は見えませんから、結果的に予防には定数が少ない。それは、システムが幾らすばらしくても実務が伴わなければいけないわけでして、私が言っているのは、システムそのものは、今のように一番社会内処遇で根幹にある部分において、少なくとも民間ボランティア、この二十七万のボランティアが関与をしているというシステムは世界にはどこにもないだろう、そういう意味ですばらしいシステムを持っていると言っているんですが。

 ただ、残念ながら、今はコミュニティー、地域社会の自浄能力がなくなっていますから、昔は刑務所から出して、満期でも仮釈放でも出せば、社会で何とかしてくれたんです。ところが、これがもう完全になくなってしまっているんですよ。保護司さんたちも、この辺りであっせんするのも非常に難しくなっていますから、そういう現実を考えるときに、幾らシステムがすばらしくても、結果的に社会情勢が変わってくれば、それに応じた法体制を我々はつくらなくちゃいけない、それが今回の皆さん方が立案されている更生保護法案であると私は思っています。

○江田五月君 交番制度についても監視が行き届いてすばらしいと言っていいのかどうか、そもそも監視が本当に行き届いているのかどうか、空き交番が山ほどあると、まあこれをなくするとやっていますが、これも問題ありますし、それから制度としても、今のような満期出所者に対するケアのシステムがないというのは欠陥だろうと私は思っております。

 実は、私は、もう今から四十年前になるんですけど、死刑判決を起案したことがあるんですよ。裁判官としてではないんですよ、修習生として、これは勉強ですから起案をしてみたんですが。殺人を犯して長期服役して、満期で出てきて、そしてどこも行き場所がないと、親族も相手にしてくれない、このやろうと社会に思い知らせるというので、道を歩いていた、税理士さんかだれかでしたかね、ぷしゅっと刺し殺したと。これはもうどうにもならない、法定刑で死刑があれば、裁判官としては死刑の選択をせざるを得ないという。そのときに、量刑の事情の中で書いたんですが、そういう刑を終えた人に対する社会の対応をどうするかというのは重大な課題だと、にもかかわらず死刑を選択せざるを得ないと、まあ練習ですから書いたんですが、以来四十年、いまだに直っていない。刑務所の中の処遇も、もちろん刑務所の中で一生懸命矯正教育をしていきますが、それでも直っていない。まだまだ課題は大きいということを是非御理解いただきたい。

 昨日、何か藤本参考人にばかり聞くんですが、美祢刑務所の件について、社会復帰何とかセンター、あの話がテレビで出ておりまして、先生お出になっていました。興味深く拝見させていただきましたが、ああいうものができてくれば、私ども以前は、短期の実刑判決というのは百害あって一利なしだと、入って悪いことだけ覚えて出てくるだけだからと言っておったんですが、しかし、こういう社会復帰促進センターというものができてくれば、短期の懲役刑でも、それでもあえて実刑を言い渡して、そのうち短期間だけ矯正のスタートのところの動機付けをして、あと社会内に戻していくというようなことも可能ですよね。

 それから、私はもっとこの保護観察付執行猶予、これももう裁判所は、どうしようもないと、しかし刑務所にぶち込むのは何とも、こんな、大根を一本盗んだぐらいでというようなときに、もうしようがないから、絶対これはまたやるだろうと覚悟をしながら保護観察付執行猶予を付けたりするんですが、もっとその保護観察が十分できるようになっていけば、この活用もできますよね。そのためには保護観察所、保護司さん、今も谷川先生のお話もございましたが、もっと保護観察官も人を増やして、あるいは能力ももっと格段に増やして、保護司さんももっと、宮川参考人、本当にもう、私もこういう、「おかえり。あなたに信じてもらう。」、こういうのを見ると涙が出るほどうれしいんですね。しかし、そういうことをやっていらっしゃる保護司の皆さんがもっともっとやりやすくするようにしなきゃいかぬので、制度として世界に誇り得ると言われると、内心もうじくじたるものがあるんですね。

○参考人(藤本哲也君) 申し訳ございません。
 先生のおっしゃるとおりなんですね。ただ、先生も御理解いただけると思うんですが、我が国の現行刑法は刑罰一本で処遇をすることとなっておりますので、なかなか難しい。そうかといって、今のように例えば満期釈放者の場合でも、外国では五年間、エクステンデッドスーパービジョンといいまして、保護観察を延長するというシステムがあるんですね。ところが、我々はこれをつくれないわけです。それは、国会議員の先生方が作っていただければ我々は運用できますけれども、その辺りのところにどうしても刑罰だけで対応するという我が国の現在の刑事政策に限界が来ているということを是非御理解いただきたいと思います。

○江田五月君 それは私も分からないではありません。家庭裁判所というのは戦後随分社会的裁判所としていろんなことをやる努力をしてきて、しかし今これでいいのかという問題はあるんですが、私は刑事裁判所ももっといろんな意味で社会化していく余地はあるのかなと思ったりはいたしますが、まあこれから先の課題で。

 もう一つ、不服申立ての関係ですが、私はやはりこれ、行刑というのは、もう無期なら別ですが、有期懲役の場合は期間が定まっているわけですから、その定まった期間の中で何をするかということなので、やっぱり受刑者といえども人間、人はそれぞれいろんな個性を持っていろんな経歴を持って今に至って、様々、全部別々、その全部別々の人間がそれぞれ人間関係をつくりながら社会を動かしていく、その基本はやっぱり法なんですよね。法じゃなくて裁量が社会の基本になったのではこれはおかしくなるので、法が支配する社会にしていくということになれば、やっぱりどういう状況の下に置かれてもそこに法が基盤にあるんだと、そして自分も法によって守られているし、法は自分を助ける道具に使えるんだという、そういうものがあって初めて法というものが記銘力を持つ、感銘力を持つ。これがやっぱり社会に出ていっても法の下で自分は生きていこうというそういう意欲を持たせることになるんじゃないかと思うんですね、堀野参考人が言われました、人がそれぞれ回復していこうというその気持ちを大切にという。

 昨日、実は石塚伸一という、これは龍谷大学の人から突然速達で本を送ってもらいまして、「日本版ドラッグ・コート」というんですが、厳罰主義で失敗したアメリカ薬物対策の二の舞を踏んではいけない、薬物依存からの回復は自分が依存症だと認めることから始まる、司法関係者には気付いてほしい、「ダメ、ゼッタイ。」だけでは薬物は止められない、回復しようとしている人たちを閉じ込めておくだけではなく援助してほしいという。そのためには、法に基づいてやっぱり不服申立てもできるんですよと、あなたの言い分は聞いてもらえるんですよという、そういう制度が大切だと思うんですが、藤本さん、いかがですか。

○参考人(藤本哲也君) なかなか難しい質問ですけれども。
 今のお答えになるかどうか分かりませんが、もしもそれが仮釈放で、例えば申出権、申請権等も考えるという趣旨でだったらまた話は別でございますけれども、その趣旨でよろしいんですか。

○江田五月君 はい。

○参考人(藤本哲也君) 実はアメリカでは受刑者に対して申請権を認めております。そして、自分たちはこれだけ一生懸命努力したんだから、それに対して自分たちは仮釈放を申請するから何とか審査してほしいという権利を認めているんです。初めの運用段階ではかなり受刑者たちもその制度そのものに感服しまして従っていたんですが、残念ながら、毎年一人ずつ申請しますとこれが数万件の数になっていきます。そうしますと、アメリカでも仮釈放委員会というのがございますけれども、これが我が国の地方更生保護委員会ですが、仮釈放委員会は形骸化していきまして、初めから受け付けても九〇%は却下するという運用になっていきまして、結果として何が起こったかといいますと、一九七〇年代に刑務所暴動がアメリカでは頻発したんです。

 その大きな原因が、仮釈放というものは我々がどんなに申請してもいつも却下されるじゃないかと、その理由たるやどうもはっきりしないと、これじゃ何をやっているんだということで暴動が起こりまして、結局ジョージ・ジャクソンというのが暴動を起こしますけれども、この遠因、一つの原因、全部とは言いませんが、一つの原因になったのが、この仮釈放を申請権を認めてそれが形骸化してしまって実質的に不満をもたらしたということがありまして、慌てて一九七七年に仮釈放制度を全部やめてしまったというケースがありますので、我が国にそうした、もちろん先生はすべて御存じだと思いますけれども、一応裁判官が言い渡した刑期の中で刑務所で執行するのか社会に出すのかの相違ですから、その辺りのことを考えて、不服申立て制度というものもそれと連動して考えていかなくちゃいけないだろうと私は思っております。

○江田五月君 議論していても仕方がないので、最後に、ごめんなさい、土井参考人、それから堀野参考人、ちょっと時間がなくなったので宮川参考人に一言だけ聞いておきたいんですが、長い保護司の経験をなさって、今保護司の年齢も随分高くなってきましたね。日本のこういう更生保護、戦後、確かに時代が動いていきますから前へ進んでいる面もありますが、私は、いろんな場面で保護という、社会内でいろんな困った人たちを救済していくという社会的リソースといいますか、保護司さんもそうですし、そのほかのいろんなボランティアの皆さん方の体制が脆弱化していると、こういうことを痛感をするんですが、宮川さんの率直な実感をお聞かせいただければと思います。

○参考人(宮川憲一君) 先生が今おっしゃるように、やっぱり地域社会がもうそういう力を失っています。かつての我々の父や何かの代の保護司の選ばれ方と現在は非常に違うんですね。

 そこら辺を我々考えまして、地域社会に対する批判をしていてもしようがないわけですので、逆に我々が地域社会に呼び掛けるという形で、この際、保護司を従来我々の仲間内から選んできた保護司のやり方を改めて、地域の各組織の代表に集まってもらって委員会をつくる、そこで推薦委員会をつくって検討していこうというようなことで、今までの従来の自ら望んでボランティア活動をやるということではなくて、地域でやはり透明性のある中で選ばれてきたそういう保護司がやっていくという新しい体制に組み替えていかなきゃいけないんじゃないか。むしろ、この仕事は国民全員がやらないといけない仕事でございますから、当番で自分はやっているんだというぐらいの意識の人がこれからは保護司になっていただきたい。そうすれば保護司の若返りも十分期待できるだろうなというふうに思って、実際に今全国で展開している最中でございます。

○江田五月君 終わります。


2007年6月5日

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