2006年1月24日 >>質問原稿

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164 参院・本会議 政府4演説に対する代表質問


(民主党ニュース) 
江田会長、国政全般にわたり小泉首相の姿勢質す

 24日午前、参議院本会議において、江田五月参院議員会長が小泉首相の施政方針演説に対する代表質問を行い、今日の日本が直面する諸課題について、幅広く小泉首相の政治姿勢を質した。

 冒頭江田議員は、昨晩ライブドアの堀江社長が逮捕された件を取り上げ、堀江社長が自民党の応援の下に衆院議員候補者となったことを考えると、「もし当選していたら、金融政策に空恐ろしさを感じる」と語り、堀江社長を刺客に登用してヒーローにした首相の責任を問った。これに対して首相は、捜査中なので発言は控えるとしつつ、これは選挙で応援したこととは別問題であると答弁し、責任を回避した。 

 江田議員は、参院における決算審議の充実やODA見直しへの取り組みについて触れ、これらについて首相から「協力していく」との答弁を得た。 

 江田議員は、豪雪被害を取り上げ、「大雪は自然現象だが、過疎地の高齢者に被害が集中したことは社会現象であり、政治の問題だ」と、安全・安心の社会システムの構築を怠っている政府の責任を追及するとともに、喫緊の課題である除雪費用への国の支援を訴えた。これに対して首相は、災害対策法による措置、自衛隊の派遣、除雪費用の補助などを行うと答弁した。 

 ここで江田議員は、首相が施政方針演説の中で相撲力士や野球選手を取り上げて、彼らの活躍がさも自らの功績であるかのように語ったことを捉え、それは「政治のおかげではなく、政治に利用すべきでもない」と批判し、首相の我田引水の論法に釘をさした。 

 江田議員は、市場に任すべき部門とそうでない部門があるとした上で、耐震偽装問題などが起こらないように制度設計を見直すべきであると質問した。これに対して首相は、民間開放路線は誤っていないと断言しつつも、江田議員の意見も参考にして今国会において必要な法改正を行うと語った。 

 江田議員は、マックス・ウェーバーの考え方を引きながら、日本の市場の質が失われているのではないかと問題提起したが、首相は市場の質の劣化や倫理の希薄化を招いているとは思わないと強弁した。 

 江田議員はさらに、米国産牛肉の輸入再禁止という事態を捉え、政府の食の安全よりも日米関係を優先させる姿勢を問題とし、首相に責任の認識を問ったが、首相は食品安全委員会の審議を経て決定した輸入再開であると語り、責任の認識の希薄さが明らかとなった。

 江田議員は、小泉首相の政治哲学は改革のためには少々の犠牲もいとわないというものであり、民主党の考え方は改革の中でもあくまで個人の幸福を尊重するものであるとして、首相の政治哲学を批判した。 

 その上で各論に入り、まず労働分配率のあり方と非正規雇用の安定化について質問したが、首相は労働分配率は労使関係で決めることであり、雇用問題については構造改革特区などによって解決するという素っ気ないものであった。江田議員の特例現在廃止は選挙公約違反だとの質問に対して、首相は「あくまで暫定的なものを元に戻すだけだ」と強弁した。江田議員は、政府の言う基礎的財政収支の均衡だけでは、膨大な財政赤字は減少しないとして、新しい財政再建目標を作ることを提案し、首相は債務残高のGDP比などの指標も検討していくと答弁した。江田議員は、破綻金融機関に対する財政支援が行われたにもかかわらず、経営者への民事刑事の厳格な責任追及が行われていないことがモラルハザードを招いていると指摘したが、首相は破綻金融機関については民事刑事の責任を問っていると強弁した。江田議員は、NPOの育成について質問し、首相の前向きの答弁を得るとともに、子ども対策として「子ども家庭省」の創設を提案したが、首相は既存の少子化社会対策会議と担当相で対応可能とのみ答弁した。江田議員は、司法制度改革について、司法支援センターへの予算確保と裁判員制度の啓蒙活動の推進を、また科学技術立国についての施策の充実を訴え、ともに首相から積極的な答弁を得た。 

 江田議員は、質問を外交に移し、日米関係が良いと言われるにもかかわらず、日本が国連総会に提出した核軍縮決議にアメリカが反対している点を問題としたが、首相はアメリカや中国にも働きかけていくと答えるのみであった。さらに江田議員は、軍縮会議でのリーダーシップの発揮を要請し、首相は積極的に取り組むとの答弁を行った。江田議員が国際刑事裁判所条約の早期批准を迫ったのに対して、首相は必要な国内法の整備と分担金の予算措置について取り組むとの答弁を行った。上海総領事館の領事自殺問題についての江田議員の質問に対して、首相は国内報道の後に知ったことを明らかにするとともに、機密漏えいはなかったと強弁した。 

 国民主権に合致する形での皇室典範改正を行うべきだとの江田議員の質問に対して、首相は今国会に所要の法改正を提出すると答弁した。最後に江田議員は、靖国神社が国家の戦争責任を分有している施設である以上、首相が参拝するのは相応しくないと述べ、思慮に欠けた行動により国際関係が悪化していると指摘したが、首相は戦没者全体を追悼する施設であるとの見解を繰り返した。 


 164-参-本会議-2号 2006年01月24日

○江田五月君 おはようございます。私は、民主党・新緑風会を代表して、小泉内閣総理大臣に対し質問します。

 まず冒頭、ライブドアの件につき伺います。
 昨夜、堀江貴文社長以下の幹部四人が東京地検に逮捕されました。報道は、ヘリまで動員して拘置所への移送を実況中継し、国じゅうが推移を注目しています。私は、昨日昼、質問通告を終えていましたが、この事件も項目に入っていますので、順番をちょっと変え、まず昨夜来の展開につき伺わせてください。

 最先端のITの世界なら、市場原理が最も厳しく貫かれる場だから、コンプライアンス、法令遵守ですね、などは当然だと思いたいですよね。ところが、その世界の最優等生の一人であるホリエモンのライブドアに捜査の手が入ったのです。

 堀江社長は、小泉さん、あなたたちが見込んで政敵への刺客に登用した人ですよね。武部幹事長も竹中大臣も、選挙の応援にまで出掛けて、彼をヒーローにするために血眼でした。総選挙での自民党圧勝は、こういう人物により偽装され粉飾されたものだったのです。もし堀江容疑者が当選していたら、自民党の金融政策はどうなっていたでしょう。空恐ろしさを禁じ得ません。

 小泉首相、あなたは御自身の責任をどうお感じになっていますか。昨日の前原代表の質問に、総選挙で応援したこととは別の問題であると考えておりますと答弁されましたが、逮捕された今も同じ御意見ですか、お伺いします。

 次に、参議院議員全員の気持ちを代弁して伺います。
 私たちは超党派で参議院改革に取り組みました。まず、決算審議が随分充実し、政府の協力もいただいて、明日の本会議でも平成十六年度決算概要報告と質疑が行われます。今後とも御協力いただけますね、伺います。

 さらに、今国会から参議院に政府開発援助等に関する特別委員会を設置しました。ODAは政府でも見直しが行われていますが、参議院は党派を超えて目を光らせ、真に意味のあるODAへの改革に取り組みます。是非、この点でも御協力ください。いかがですか。

 さて、大変残念なことに、昨年に続き今年もまた災害へのお見舞いから話を始めることになりました。暮れから始まった記録的豪雪は既に百名を超える死者を出しました。心からお見舞い申し上げます。

 ところで、今回の大雪被害の特徴は、過疎地のお年寄りの皆さんを直撃しているということです。大雪が降ったこと自体は自然現象ですが、過疎の高齢者に被害が集中したことは自然現象ではありません。社会現象であり、政治の問題です。こうした地域や人々がこの国の安全、安心の社会システムから見捨てられています。そのことが記録的豪雪によってあぶり出されたのです。違いますか。
 効率優先で非効率部分をどんどん切り捨てるやり方がこうした地域をつくり出しているのであり、だからこれは政治の責任なのです。降りしきる雪の中で若い者に頼ることもできず、独りで心細い思いに駆られながら屋根に上って雪かきを試み、落下して雪の中で死んでいったお年寄りの心中を小泉さん、あなたの感性はどうお察しになりますか、伺います。

 政治は、体でいえば、心臓や脳など中枢部分だけでなく、小指の先まで末梢神経も毛細血管も張り巡らさなければなりません。末梢部分もなくてはならない大切な役割を果たしているのです。地方の除雪費用は底をついています。国の最大限の支援をお願いします。いかがですか。
 ところで、小泉さん、あなたの施政方針演説のあれはないですよ。朝青龍や琴欧州、野茂やイチローなどはもちろんすばらしい活躍です。しかし、これをあなたの手柄のように言うのは我田引水も度が過ぎる。彼らの活躍は政治のおかげでもあなたの功績でもないし、政治に利用すべきものでもありません。もちろん、あの日、朝青龍と琴欧州がともに負けたのも、これもあなたのせいではありません。せめて国会では、ワイドショー受けをねらうのでなく、政治の話をしましょう。雪国の被害こそが政治の話なのです。

 さて、昨年末から国民が憂慮している耐震強度偽装問題につき伺います。
 事案の概要は改めて申し上げませんが、それにしても先日の証人喚問の証言拒否はひどいものでした。小嶋社長、オジャマモンと言うのだそうですが、証言の中で政治家の具体的関与が出てきました。関係範囲は広く構造は根深いので多角的な検討が必要ですが、ここでは是非、小泉総理大臣に伺っておきます。

 私は、この問題は、現在の我が国の抱える病理現象を象徴的に表していると思いますが、どういう感想をお持ちですか。また、国会が、政治家の関与を含めてもっと事案解明を進めるべきだと思います。国民は注視しています。小泉さん、あなたがリーダーシップを発揮されるおつもりはありませんか。

 専門家が専門家としての誇りを失い、ごまかしてもうけることばかりに目が行って、ばれれば責任をほかになすり付けるというのでは、国民は頼るものがありません。偽装を求められた建築士が、断ればほかに仕事が行ってしまうと恐れるということは、ほかにも偽装に手をかす建築士がいるということです。建築士がプロの誇りを失うということは、ほかのプロにも職業上の倫理観喪失が蔓延しているということです。

 計画経済がうまくいかず、見えざる手の調整機能を大切にしようというので市場原理が強調されます。私もそのこと自体に反対ではありません。しかし、市場原理も万能ではありませんね。

 二つの問題があります。
 一つは、市場の方がより良く最適配分を達成できる場面と、市場に任せてはいけない場面とを適切に区分することです。例えば耐震構造検査は、市場に任せさえすれば良い結果が得られるのか。答えはノーですね。丸投げでは駄目で、任せるにしても適切な制度設計が必要だったことは明らかです。民間検査会社の格付制度や抜取り検査制度などの整備に取り組んではいかがですか、伺います。

 二つ目は、市場の質ということです。ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という古典を思い出します。同じ資本主義でも、これを支える市場や取引の在り方は一律ではありません。それぞれの社会に特有の市場のありようがあり、それは、その社会を構成している人々の市民倫理の質によって決まるのです。市場原理に頼るには、質の高い市場がなければなりません。ハゲタカが跳梁ばっこする市場では、偽装マンションの住民のように、市民は食い物にされるだけです。日本の市場の質は、果たしてこれで良いのでしょうか。

 日本社会の市民の質は、これまで結構良質でした。まじめで誠実で仕事熱心で、人が見ていなくても悪いことはしないという恥や罪の意識は当たり前でした。しかし今、この倫理観が危機的なまでに崩壊しています。その実例が耐震偽装やライブドアの事件です。だから象徴的と言ったのであって、専門家や経済人だけではありません。警察官の不祥事。マスコミ関係者の事件。残念ながら私たち政治家の事件も依然続いています。そして、後に述べる働く意欲を失った若者のこともあります。今や日本社会は偽装社会で、背骨がぼろぼろになっています。政治はこの事態を深刻に受け止めなければなりません。

 私はここで、歴代自民党政権と、とりわけ小泉首相に責任を痛感していただきたいと思います。昨年、自民党は結党五十年を祝われました。この間、大きな成果も上げられましたが、問題はこの十年、特に小泉内閣の五年です。硬直した行政制度、非効率な産業部門、天文学的財政赤字、どれを取っても長い自民党政治のツケであり負の遺産なのです。そこで構造改革というわけですが、ここでまた、倫理観の希薄化という影の部分が現れてきました。小泉さん、あなたにそういう問題意識があるかどうか、伺います。

 そんなやさきに先週末、再開したばかりの米国産牛肉の輸入を再禁止するという事態が起きました。見付かったから良かったでは済みません。あなた方に任せていたら、食の安全までがイラク戦争の二の舞で、日米関係優先のえじきにされるところでした。政府の失態なのですが、責任の認識がおありかどうか、伺います。

 小泉さん、あなたの政治哲学は、私なりに推測してみると恐らく次のようなことでしょう。まず現状認識。日本は今や、人間に例えると、無駄な脂肪が内臓に厚く張り付いて著しく非効率になり、このまま放置すると早晩、生活習慣病で回復不可能に陥る状態です。そこで、あなたの対策。構造改革で市場原理を徹底させ、非効率や不採算の部分をそぎ落として、元の健康体に戻すことです。そして五年の構造改革で、かなり健康体になったというわけでしょう。

 さて、現状認識は私たちも同じです。時代の変化も改革の必要も受け止めなければなりません。そして、確かに最近、景気が良くなってきたことを示す経済指標が多くなってきました。確かな手ごたえを感じている人々も増えてきていると思います。しかし、その陰でどれほど多くの人々が泣いているでしょうか。長引く不況の間に、例えばここ三年だけでも、倒産した企業は約五万社、リストラされた人は約三百九万人、実に毎年百万人です。年間の自殺者の数も、この七年連続、三万人を下っていません。

 この人々が生きてきた現場は、不採算や非効率の部分だったかもしれません。市場原理が機能して経済が再び活況を呈するようになれば、生きていればいつの日か次の仕事を見付けられるかもしれません。しかし、この人々にもそれぞれの毎日の人生があるのです。

 君の犠牲は後の繁栄の礎なのだから、安んじて成仏しなさいというのが小泉流です。あなたにとっては、過疎地のお年寄りは、いなくなった方がいいのでしょう。効率の悪い企業や産業は淘汰しよう。そこで生活してきた人は、ホームレスになろうが自殺しようが自己責任、ですね。

 私たちの対策は全く違います。憲法十三条は、個人の尊重をうたい、幸福追求権は国政上の最大の尊重を要すると定めています。後の繁栄のためとはいえ、だれ一人も個人を犠牲にしてはなりません。企業は従業員をリストラできますが、国は国民をリストラできません。国は、幾ら効率が悪く採算の取れない地域や産業であっても、そこに生活する人々を見捨てることは許されません。見捨てた方が全体を救うことになるという理屈がたとえ成り立ったとしても、許されないのです。これは世界全体でも同じです。いかなる人種も民族も、抹殺することは許されません。それが二十一世紀ではありませんか。

 そんな甘いことを言っていると改革なんかできないというのがあなたの立場でしょう。私たちはそうは考えません。何のための改革かをしっかり見据え、多様な政策を組み合わせて実現していけば、トレードオフ時代でも適切な改革は十分可能です。不採算部分に市場からの退場を迫ることが必要でも、同時に、そこで働いてきた人々の円滑な労働移動に万全を期することは政策の力で十分可能なのです。改革のために人々を裸で寒空にほうり出すのではなく、救済の手を差し伸べて、人間は温かいのだ、人の世は生きてみる価値があるのだということを示すのが政治の最大の役割だと思います。人を大切にするのですよ。

 だれもが皆、勝ち組になることはできないのです。成果の影やコストの部分にしっかり光を当て、救いを求めている人々の声に耳を傾けることこそ政治の仕事です。なぜなら、そうした声はしばしば、より大きな問題が起きる前兆であり、警鐘だからです。昨年の総選挙では、私たちはあなたの一点突破主義にしてやられましたが、正にあなたの言うとおり、次は私たちにとってピンチはチャンスですから、どうぞ油断しないようにしてください。反論がありますか。

 具体的に聞いていきます。
 景気回復はあくまで、リストラや外注化によって利益の出る体質をつくった企業の業績の話で、その成果が働く人々の賃金や暮らしぶりにまで及んでいるかどうかは甚だ疑問です。大企業や最先端産業の力強さが後発部門に行き渡って、多くの人々が幸せを分かち合うようにするにはそれなりの政策努力が必要です。例えば、企業活動の成果配分をめぐって今年も既に労使のさや当てが始まっています。賃上げは当然の要求であると考えますが、小泉さん、労働分配率につき何か発言するお考えはないのですか。働く人々をもっと大切にしてください。伺います。

 深刻なのは、フリーターやニートと呼ばれる若者が増加の一途をたどっていることです。去年の推計で、時間雇用のフリーターと呼ばれる若者が二百十三万人、また、仕事を探してさえいないニートと呼ばれる若者が六十四万人にも上っています。この人たちの多くは、結婚して子供を持ちたくても経済的に難しく、現在の日本が抱える最も重要で深刻な課題である少子化の一因にさえなっています。これは、この十年余にわたって企業が正規の新規採用を手控えてきた結果で、景気回復の負の遺産とも言えます。事は重大です。

 このほかにも、パート労働や派遣労働なども含めて、非正規雇用が膨大な数に上っています。自由な労働形態と多様な雇用関係が生まれ、その中で多様な選択肢が可能となるなら、一概に悪いとは言えません。しかし、現実はそのようなきれい事では通用しません。

 社会保障の在り方、雇用の安定性についての法規制、労働組合の有無などから、非正規雇用の皆さんの状況は劣悪です。さらにこれが、正規雇用を含め国全体での働く人々の立場を弱く悪く不安定にしています。非正規雇用の改革のために知恵を出す必要があると思いますが、この問題について小泉首相の肉声はほとんど聞いたことがありません。関心ありませんか、その原因や対策について何かお考えはありませんか、お聞かせください。

 景気回復したからもういいだろうと、税金でも社会保障でも、負担増と給付減が迫ってきています。今国会では医療が課題になりますが、負担増で数字のつじつま合わせをするだけで、本格的な制度改革は放置したままですよ。

 それぞれ聞きたいのですが、ここでは増税のうち定率減税の廃止について伺います。この措置は、所得税の「抜本的な見直しを行うまでの間、」と法律に規定したではありませんか。つまり、これは所得税体系全体の見直しまで維持される言わば恒久的措置のはずです。しかも、先般の総選挙では何も触れられていません。逆に、サラリーマン増税はしないのじゃなかったですか。つまり、選挙の公約違反ではありませんか。

 財政について伺います。
 新規国債の発行額は、来年度当初予算では二十九・九七兆円と、四年ぶりにほんのわずかながら三十兆円を下回ることになりました。公約達成で御同慶の至りですが、過去五回の小泉内閣の予算編成の中でわずか二回しか達成できていないのですから、余り鼻高々にならないでください。この種の公約は、違反しても大したことないと言われたのですから、達成しても大したことないですか。

 さてしかし、国の借金のうち普通国債の残高は、来年度末には五百四十二兆円と国内総生産を上回ります。このうち百七十四兆円、つまり三分の一近くが小泉政権の下での借金です。日本はついにイタリアを抜き、先進国の中で最悪の借金漬け国家となってしまいました。

 こうした中で、政府は、二〇一〇年代初頭には基礎的収支、つまりいわゆるプライマリーバランスを黒字化すると言っています。これ自体が、達成されそうもない経済成長率を意図的に想定するなど、無理な計画で実現性が危ぶまれています。その上これは、政府の支出を借金に頼らずにその年の税収だけで賄うということにすぎません。つまり、日本経済の最大の不安要因である国債残高が減るわけではないのです。それどころか、今後、景気の回復で長期金利が上昇し、名目成長率を上回るようなことがあれば、国の借金はGDP比でますます増えることになります。

 プライマリーバランスの黒字化はせいぜい財政再建の一里塚でしかありません。その次の新しい目標を立てるべきだと考えますが、小泉首相はどのように考えられますか。

 ところで、竹中さんが経済財政担当大臣のときの「改革と展望」の内閣府試算では、二〇一〇年に向けて名目成長率が長期金利を上回る楽観的なシナリオでしたが、与謝野さんに替わると、先日の「二〇〇五年度改定」では逆に、長期金利が二〇〇九年以降は名目成長率を上回る現実的なシナリオとなりました。この食い違いは閣内不一致なのか、方針を変更したのか、なぜ変更したのか、小泉首相の御説明を伺います。

 景気回復の原動力の一つは、不良債権処理にめどが付き、金融の機能が回復したことです。しかし私は、ここでも負の側面を指摘しないわけにはいきません。長期にわたった実質ゼロ金利により、庶民に利子として渡すべき巨額の負担を免れ、さらに巨額の税金による救済も受けた結果、つまり国民の懐からの持ち出しの結果でしかありません。

 ところが、いつの間にか金融機関の責任者のほとんどは、結局何の責任も問われないままに終わりそうです。以前の住宅金融専門会社への税金投入の際、私は法的処理を主張し、さらにアメリカのように経営者の民事、刑事の責任、厳格な責任追及を主張しましたが、そのときもおとがめなしでした。このようにして、経営者に大変なモラルハザードが残りました。その典型例がホリエモンなのだと思いますが、小泉首相のお考えを伺います。

 小泉内閣は小さな政府を標榜しています。私たちは小ささの競争はしないと言っています。うまくかみ合いません。私の考えを聞いてください。

 私は、もちろん行政サービスに無駄があると思います。ダムの無駄はその最たるもので、やめなければなりません。行政がいかにも非効率だというものもあります。改めなければなりません。

 しかし、現に行政が提供しているサービスは国民にとって必要なものの方が圧倒的に多いと思いますよ。それでも、果たして行政が提供するのが良いのか、民間の方がもっと上質のサービスを提供できるのか、そこが問題です。行政は堅っ苦しくて細かなところに気が回らない。民間ならばもっともっとずっと良いサービスを提供できる、そういう場面が一杯あるはずです。そこを市民に、市場に、地方にという方向でサービスの担い手を変えれば、サービスの質を良くし、行政はスリムにできます。

 社会、公共のために何かしたいと思っている人は一杯います。まちづくりでも教育でも地域住民の役割、一杯あります。行政は一歩下がっていてください、私たちがやりますからというのが公務員制度改革の理念でなければなりません。

 そのためには具体的な政策が必要です。例えば、NPO優遇税制を大胆に取り入れることです。小泉さん、あなたの改革で最も欠けているのは市民参加だと思います。あなたのお話の中には人間力は出てきますが、これは今余り頼りになりません。私は地域力がキーワードだと思っています。地域の中で、地域によって、つまりコミュニティーソルーションです。見解を伺います。

 子供のことも正にそのとおりです。日本はついに人口減少社会となりました。その対策として多くの提案があります。それぞれ理由があるでしょうが、要は実行です。

 例えば、人事院は公務員について、育児を行う職員が常勤職員のまま短時間勤務する制度や在宅勤務を活用するための事業所外労働のみなし労働時間制の導入などを検討していると聞きます。これらは一刻も早くやっていただきたい。

 そのほかにも、例えば地域に居住している高齢者に、子供の送り迎えだけでなく、学校教育の中で一定の役割を担っていただくと思わぬ効果を発揮しそうです。いかがですか。

 常設の子ども家庭省を新たに立ち上げ、各省でばらばらになっている子供と家庭の施策を統合する時代が来ていると思いますが、小泉さん、どうお考えになりますか、伺います。

 ここで、司法制度改革につき伺います。
 この点については、私たちも、政府からの提案を待つのでなく、国民主権の下での市民が主役の司法制度を目指して、改革の具体的内容の作成段階からかかわり、言わば司法改革与党の立場に立とうとしてきました。

 小泉首相は、二〇〇一年十二月に設置された司法制度改革推進本部の本部長でした。そして、法科大学院、裁判員制度、司法支援センターなど二十を超える関連法律が制定されました。この春には初めてロースクールの卒業生が生まれ、新しい司法試験が実施されます。日本司法支援センターは、この十月に業務を始めます。

 そこで、改めてこの段階で小泉首相に司法制度改革を完成させる意気込みを伺っておきます。司法支援センターを絵にかいたもちとしないためにはかなりの予算措置が必要ですが、大丈夫ですか、伺います。

 裁判員制度は、日本の刑事裁判の在り方を大きく変えるもので、国民も法曹三者もともに裁判についての考え方を変えなければなりません。法律家の中だけでしか通じない言葉のやり取りでは裁判は成り立ちません。国民も裁判なんかになるべくかかわりたくないという意識ではこの制度は根付きません。その制度が三年後には実際に始まるのです。

 ドラマ仕立ての広報用ビデオを作ったり、各地でフォーラムや模擬裁判を開催したりしていますが、まだ国民には具体的イメージがつかめておらず、この制度に関する国民の理解は十分とは言えません。依然として国民の間に不安感や抵抗感が根強いのです。

 そこで、広報啓発ですが、小泉首相、あなたも国会議員を辞めれば裁判員になり得るのですから、ここはあなたの出番です。国民に裁判員制度が直観的に理解できるように、お得意のショートフレーズとパフォーマンスで説明してみてくれませんか。いや、これ皮肉ではありません。この問題は、ややこしい理屈が国民に分かるかどうかではなく、政治家の、国の指導者の熱意が国民に伝わるかどうかだと思うのです。私も努力します。

 科学技術立国は我が国の国是ですが、最近どうもぱっとしません。昨日延期になった種子島のロケット打ち上げ、ちょうど今ごろの時刻ですが、どうなっているでしょう。しかし、有人ロケットでは中国ですね。ハイテク産業でもしばしばアジアの他の国の後塵を拝しています。

 そこで、来年度は第三期基本計画の初年度ということで、科学技術関係予算は三兆数千億円と前年並みを確保しています。問題はその使い道で、配分に戦略性が必要です。特に、明日の科学技術を担う人材の育成が重要です。例えば、科学技術を専攻する大学院生に対する奨学金制度を大幅に充実してはどうですか。子供たちの理科離れも心配です。初等教育において科学技術の教え方の上手な教員を拡充するなど、理数系教育環境を改善すべきだと思いますが、いかがですか。

 外交について若干伺います。
 外交の課題が国益であり、極めて現実的、実利的な判断が必要な分野であることは言うまでもありません。しかし、日本のように資源がなく一国だけでは生きていけない国にとっては、世界の平和と安定が何より大切です。また、世界じゅうが日本を国際社会にとってなくてはならない国と頼りにしてくれることも重要です。そのため、例えば日本が世界の国際金融の中心の一つになるのも効果的な目標でしょう。同時に、日本が世界の平和や正義のために熱心に活動することも世界の信頼を得る道です。

 小泉外交はアメリカ中心主義で、日中・日韓も北朝鮮も意欲が薄れてきたようですね。私たちはアジア外交にもっともっと力を注ぎ、例えば米軍再編への対応もその観点から検討すべきだと思いますが、これらの点は後日に譲ります。

 そこで、まず軍縮です。昨年も伺いましたが、小泉内閣の軍縮への熱意はどの程度のものなのでしょうか。

 昨年十二月に国連総会の本会議で、我が国の核軍縮決議案、核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意が賛成百六十八、反対二、棄権七で採択されました。政府は過去最多の支持だと自画自賛されています。しかし、核保有国の中で中国が棄権、ロシアが欠席。北朝鮮も棄権です。六か国協議の国の中で賛成したのは韓国だけです。この状況をどうお考えでしょうか、伺います。

 気になるのは、アメリカの反対です。あと反対はインドだけです。これだけみつ月と言われる小泉さんとブッシュさんの関係ですが、あなたはこの問題を直接にブッシュさんとお話しになったことはあるのでしょうか。軍縮問題です。伺います。

 世界六十五か国が加盟する軍縮会議につき伺います。
 多国間で軍縮を交渉する世界唯一の常設機関で、核不拡散条約や包括的核実験禁止条約など成果を上げてきましたが、最近では精彩を欠いています。その一つの理由に全会一致制があり、例えば最近ではイランの核開発問題が再燃しているのに、重要なテーマであればあるほど何の決定もできずにいます。

 唯一の被爆国である我が国が国連改革を言うのなら、この軍縮会議改革で強いリーダーシップを発揮すべきではありませんか。幸い、小泉内閣では軍縮大使を務められた猪口邦子さんがいます。軍縮外交で世界をリードする決意ありやなしや、小泉首相に伺います。

 国際社会での法の支配の実現を日本が望むなら、国際刑事裁判所条約の批准は待ったなしのはずです。日本がもたもたしているうちにこの裁判所はスタートしてしまいました。韓国は裁判官を送っています。日本よりはるかに早く国内人権救済機関を設置し、世界の理解と共感を得たからです。昨年も質問しましたが、この一年間何を悩んでちゅうちょしていたのですか、伺います。

 もちろん、外交はロマンだけでは語れないリアルなものです。そこで伺います。日本外交の実施体制に気の緩みや抜かりはありませんか。上海の日本領事館で起きた領事自殺事件については聞きたいことが一杯ありますが、ここでは簡単に、小泉さん、あなたはこの事件につき、いつ、だれから、どういう内容の報告を受けましたか、それとも受けていないのですか。もし機密漏えいがあったらどうしますか、伺います。

 さて、憲法改正について、政治の場での議論が活発です。この議論は国民の声をよく聞かなければなりません。皇室典範の議論も始まりました。天皇の地位は国民の総意に基づくのですから、国会は国民の総意がどこにあるかにつき耳を澄ませて聞かなければなりません。私は、政府の有識者会議はなかなかの有識者を集められたと思っています。その答申に十分耳を傾けながら、国会全体の合意形成のために精一杯の努力をし、国民主権に合致する結論を得たいと思っています。小泉首相のお考えをお聞かせください。

 私は、私たちの国につき最も改革しなければならないのは、至る所に見られるもたれ合いと無責任だと思います。

 私は学生時代に丸山真男先生のゼミで勉強したことがあります。先生は戦後、戦前の日本政治の構造を分析されて「超国家主義の論理と心理」という論文を書かれました。その中で、我が国の場合はこれだけの大戦争を起こしながら、我こそ戦争を起こしたという意識がこれまでのところどこにも見当たらないのである、何となく何物かに押されつつ、ずるずると国を挙げて戦争の渦中に突入したというこの驚くべき事態は何を意味するのかと書き、いかに国の中枢が無責任体制になっていたかを明らかにされたのです。

 しかし、今、刑死した戦犯の皆さんはある種の責任を全うされたと言えるとしても、このような戦争についての政治家の責任をえぐり出すことなく、安易に戦争の反省と不戦の誓いを口にしながら、国民を戦争へと駆り立てた宗教施設である靖国神社への参拝が行われています。駆り立てられて亡くなった人々の遺族の皆さんが心の安らぎを求めて往時をしのんでお参りするのは、やるせないほどよく分かります。もちろん、戦没者の追悼は大切なことです。しかし、私には、靖国神社は国家の戦争責任を分有している施設であって、国家指導者の最高位にある者が戦没者の追悼のためにお参りするのにふさわしい施設とは到底思えません。

 小泉首相、あなたはいい加減な態度は取れないのです。さきの戦争における侵略行為と植民地支配につき、私たちは深刻に反省し心からのおわびを述べているのです。これは、口先だけのものであってはなりません。政治家の戦争責任ということを最も真剣に考えなければならない内閣総理大臣が、そうした透徹した思考のないまま、そして適切な追悼施設の建設を漫然と先送りしながら靖国参拝を続けられるのも、倫理観の喪失に一役買っていると思います。しかも、この思慮に欠いた参拝により、中国や韓国との関係は今や最悪です。反論がありますか、伺います。

 私は、私たち日本国民がもたれ合いや無責任から脱して、だれもが自己責任をきちんと負えるようにしたいと思っています。小泉さん、あなたもそうですよね。しかし、あなたの五年間の政治でもたれ合いは直っていません。その上、自己責任は中途半端で、もっと大切な支え合いは政策の間違いと倫理観喪失で風前のともしびです。今やこの国は、たがが外れ掛けています。

 小泉内閣も、後継争いがかなり過熱して、たがが外れそうです。九月の任期切れまで待つのですか。早期に辞任する手もありますが、そのお考えはないかどうか最後に伺い、再質問を留保して、私の質問を終わります。(拍手)

   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 江田議員にお答えいたします。
 衆院選で応援した堀江氏の件についてでございますが、堀江氏につきましては、現在、捜査当局により捜査が行われているところであり、その状況を見守っていきたいと思います。なお、昨日述べたとおり、この件と昨年の衆議院総選挙において自民党幹部などが堀江氏を応援したこととは別の問題であると考えております。

 新しい時代に様々な人がチャレンジすることは大事なことでありますが、いかなる場合であっても法律を守ることが大前提であり、違法行為があればこれに厳正に対処すべきことは当然であります。

 参議院での独自の取組についてですが、参議院においてこれまでも特に決算審査を重視され、種々の改革を進められてきた上、今国会から参議院に政府開発援助等に関する特別委員会を設置されるといった独自の取組に改めて敬意を表します。今後とも、政府としては、決算の早期提出等により、政府開発援助予算を含め、参議院における決算審議の充実等に引き続きできる限り協力してまいります。

 大雪の被害についてでございますが、被害に遭われた方々、また、今なお困難な生活を余儀なくされている方々に対し心からお見舞いを申し上げます。とりわけ、多くの高齢者が雪下ろしの作業中などに亡くなっておられます。お亡くなりになられた方々、また被害に遭われている方、心中を察するに痛ましい限りだと思っております。

 高齢者等の雪下ろし支援については、政府として既に災害救助法の活用や自衛隊の災害派遣等により積極的に取り組んでいるところです。今後、高齢化、過疎化に対応するため、ハード、ソフト両面にわたる豪雪対策について、国土交通省に各分野の専門家や自治体の代表から成る懇談会を立ち上げ、国土の保全の観点を踏まえつつ、従来の豪雪地帯対策の再点検を行う中で検討してまいります。

 今般の寒波、大雪については、昨年末より政府・与党連携して速やかな対応に当たっております。去る十九日には、人命の被害防止、国民生活の安全等に遺漏なきよう各大臣に改めて指示したところであります。例年はこれから雪が多い時期であり、孤立集落などの発生も予想されるところから、被害の拡大防止のため、今後とも災害救助法による支援、自衛隊の迅速な派遣、補助金の緊急配分など種々の対策を講じてまいります。

 耐震偽装事件についてでありますが、今回の偽装事件は、住まいという生活の基盤への信頼を土台から崩すものであり、国民の安全と安心にかかわる重大問題であります。

 我が国の病理現象の象徴との御指摘については、その趣旨が必ずしも明らかではございませんが、今回の事件の原因は、本来法令を遵守すべき資格者である建築士が職業倫理を逸脱して構造計算書類の偽装を行い、その偽装を元請の設計者等の関係者が見過ごし、確認検査制度によっても見抜けなかったことにあると考えられ、国民の不安の解消に向け、再発の防止と建築物全般にわたる安全性、信頼性の確保が求められております。

 このため、政府としては、危険な分譲マンション等の居住者の安全と居住の安定確保に努めるとともに、実態の全容を早急に把握し、偽装に関与した建築士等の厳正な処分を行うと同時に、建築士制度や建築確認検査制度を総点検し、早急に見直しが必要なものについては今国会において制度の改正を行うこととしております。

 なお、国会における事案解明の取組については、国会においてよく議論していただきたいと考えております。

 耐震構造検査制度の整備でございますが、阪神・淡路大震災を教訓として平成十年に建築確認検査の民間開放を行ったことについて、民間にできることは民間にという方向は間違っていないものと考えております。しかしながら、今回、一部の地方公共団体や民間検査機関において書類の偽装を見抜くことができなかったことから、現在、建築確認検査制度の総点検を行い、再発の防止に向けて全力で取り組んでいるところであります。

 制度の見直しに当たっては、御指摘の点も参考にしながら、民間検査機関に対する指導監督の強化など早急に対応が必要なものについて、今国会において制度の改正を行うことといたします。

 小泉内閣の改革による市場の質の劣化、倫理観の希薄化ということについてでございますが、私は、国民が持っている潜在力が自由に発揮できるようにするためには、民間にできることは民間にゆだねる、一定のルールの下で民による自由な競争と消費者、利用者による選択を可能とする公正公平な市場を形成していくことが重要であるとの考えに立って改革を進めてまいりました。

 もちろん、自らの創意工夫といっても、定められたルールに従って行うことは当然のことであり、ルール違反に対しては厳正に対処するとともに、現行のルールで対応できない場合はルールの見直しを行うこととしております。このため、既に独占禁止法の改正などを行ってきたところであり、市場の質の劣化や倫理観の希薄化を招いたとの批判は当たらないと考えております。

 引き続き構造改革を続行し、国民一人一人が将来の夢と希望を実感できる活力ある経済社会の構築に向けて全力で取り組んでまいります。

 米国産牛肉輸入の問題ですが、昨年末の米国産牛肉の輸入再開は、食品安全委員会で科学的な議論を尽くし、国民の意見も聴取した上でまとめられた答申を踏まえ決定されたものであり、日米関係を優先したとの批判は当たらないと考えております。

 なお、先日、米国産輸入牛肉について危険部位の混入が確認されたため、すべての米国産牛肉の輸入手続を直ちに停止しているところであり、二度とこうしたことが起こることのないよう、国民の食の安全、安心を大前提に米国に対し原因究明と再発防止を求めております。

 改革に当たっての地域や産業への配慮でございますが、我が国経済は民間需要主導で回復してきており、失業率が低下し、雇用の拡大など改善が進んでおります。しかしながら、フリーター、ニートといった若者を中心とする非正規・未就業者の増大や、中小企業や地域によっては回復にばらつきがあるのは事実であります。

 こうした認識の下に、政府としては、フリーター、ニートの自立支援策の充実を図るとともに、中小企業者への円滑な資金供給や新事業への挑戦支援などの施策を実施し、さらに、地域の再生のため、構造改革特区の認定、「稚内から石垣まで」をモットーとする都市再生、観光振興による地域経済の活性化の促進などに取り組み、改革の成果を地域や中小企業に浸透させていきたいと思います。

 引き続き景気の回復を図るとともに、改革を進め、地域や多くの国民が持っている潜在力が自由に発揮され、国民一人一人が将来の夢と希望を実感できる活力ある社会の構築に向けて、今後も全力で取り組むことが重要であると考えます。

 労働移動についてでございますが、失業を防ぎ国民の雇用の安定を図ることは政府の最重要課題の一つであり、このため、これまでも、改革には一時的に痛みを伴いますが、それを最小限に抑えることが重要であるとの考えの下に、労働者の円滑な労働移動のため、ハローワークにおいて、早期再就職の緊要度が高い求職者に対し、求人開拓から就職に至る一貫した就職支援をきめ細かく実施するなど、雇用のセーフティーネットに万全を期してまいりました。またあわせて、雇用の受皿となる企業を増やすため、構造改革特区の推進、資本金規制の緩和とともに観光の振興などにも取り組んでおります。今後とも、雇用失業情勢の一層の改善に努めてまいります。

 企業活動の成果配分に関してですが、労働分配率は、平成十三年度の七五・一%をピークに平成十六年度には六九・八%まで低下しておりますが、これは好調な企業業績を受けたものであり、景気回復期に一般的なものであります。また、賃金の動向は、平成十七年に入り増加傾向で推移しております。

 なお、御指摘の賃上げにつきましては、関係労使間において、経営状況その他諸般の事情を踏まえ真摯な話合いが行われることを期待しております。

 フリーター、ニート、非正規雇用についてでございますが、フリーターやニート等若者の雇用問題については、企業の求める資格や能力に若者が十分対応できないことや、若者本人の意識、意欲が十分でないことなど多様な原因があると考えております。こうしたフリーター、ニート等の自立支援を図るため、フリーター二十五万人の常用雇用化プランを推進する、市町村、保健・福祉機関、教育機関等と密接に連携し、ニート等の若者の職業的自立を支援する地域若者サポートステーションを設置する、学校教育において職業教育を推進するなどの対策を進めております。

 また、パートや派遣などの非正規雇用の増加については、経済・産業構造の変化や価値観の多様化などにより、企業や労働者が多様な働き方を求めるようになっていることなどが背景にあると考えております。

 政府としては、だれもが安心して働くことができるような労働環境を整備するため、正社員との均衡処遇に取り組む事業主への支援の強化や公正な処遇が確保される短時間正社員制度の普及などを進めてまいります。

 定率減税についてですが、個人所得課税の抜本的見直しについては、近年の税制改正において、個人所得課税の基本的枠組みである人的控除を見直すとともに、十八年度改正において個人住民税の税率を一〇%にフラット化するなどの税率構造の見直しを進めることとしております。これらを踏まえ、今般、定率減税を廃止することは、負担軽減法の趣旨に沿ったものであると考えております。

 また、定率減税の廃止は、経済状況の改善等を踏まえ、景気対策としての暫定的な税負担の軽減措置を元に戻すものであり、サラリーマンに限らず自営業者を含めたすべての納税者を対象とするものであることから、いわゆるサラリーマン増税とは異なり、公約違反との指摘は当たらないと考えております。

 財政再建についてでございますが、政府は、財政健全化に向けた取組の第一歩として、二〇一〇年代初頭に基礎的財政収支を黒字化し、政策的な支出を新たな借金に頼らずにその年度の税収等で賄えることを目指しております。さらに、持続的な経済活性化を実現していく上で財政がその足かせとならないようにするためには、例えば膨大な水準にある債務残高をGDP比で引き下げていくことを目標とすること等についても、今後、歳出歳入一体改革を進めていく中で議論していく必要があると考えております。

 「改革と展望」参考試算における名目成長率と長期金利の関係でございますが、名目成長率と名目長期金利については、その時々の状況によって、一方が他方を上回る、ないしは下回る状況が生じるものであり、常に一方が他方を上回る関係にないことは諮問会議内でも一致している考え方であります。今年の試算も昨年の試算も特定の意図を持つことなく計量モデルを利用して行った客観的な推計であり、ともに推計期間の途中で長期金利が名目成長率を追い抜く姿となっている点では大きな違いはないものと考えております。

 金融機関の経営責任でございますが、破綻金融機関に対し、経営上の、民事上、刑事上の責任を明確化するなど、厳正な対応を行ってきたところであります。金融機能の回復は、当初の方針どおり不良債権処理を進めてきたこと、また民間主導の景気回復によるものであり、また、ゼロ金利政策は日銀がデフレ脱却のためにとったやむを得ない措置であると考えております。

 なお、堀江氏の件については、先ほどの市場の質の劣化や倫理観の希薄化に関する質問の中でお答えしたところでございます。

 小さな政府についてでございますが、多様化する国民の要望にきめ細かく対応するためには、行政でも企業でもない第三の主体として、市民の自発的な参加を基本とするNPOの育成が重要であると認識しております。このため、政府としては、十八年度においてもNPO優遇税制の充実を図るなど、引き続き地域における市民活動の担い手としてのNPOの育成等を図ってまいります。

 公務員の短時間勤務についてでございますが、仕事と家庭の両立支援を進めていくことは少子化対策として重要であると認識しております。御指摘の点については、現在、人事院が早期に成案を得るべく検討を進めているものと承知しており、政府としてもその成案を踏まえつつ、多様な働き方の選択肢を拡大するため、制度導入に向けて速やかに検討してまいります。

 高齢者に学校教育の中で一定の役割を担ってもらうことについてでございますが、高齢者など地域の様々な年齢層の方々が学校教育へ参画することは、子供の豊かな人間性をはぐくむために重要であると認識しております。このため、地域に居住する高齢者を始めとする多様な人材を教員として学校現場に迎え入れる現行の取組を推進してまいります。

 子ども家庭省でございますが、少子化の流れを変えるためには、働き方の見直し、保育、教育など各般の施策について正に政府を挙げて取り組む必要があると思っております。このため、全閣僚が参加する少子化社会対策会議を中心に次世代育成支援に取り組んでおり、また、昨年秋以降、少子化対策を担当する専任の内閣府特命担当大臣を置いているところであり、これらにより各種施策を総合的に推進できるものと考えております。

 日本司法支援センターでございますが、政府は、司法制度改革が目指す、国民に身近で頼りがいのある司法を実現するために、平成十八年度に発足する日本司法支援センターを含め必要な予算措置を行ってまいります。

 裁判員制度の広報啓発については、裁判員制度は国民に身近で速くて頼りがいのある司法を実現する重要な制度であります。国民の方々には、制度の意義をよく理解していただき、進んで刑事裁判に参加していただきたいと考えております。

 科学技術の人材育成についてでございますが、我が国の将来の発展の礎である基礎科学技術を担う人材の育成は極めて重要であり、学部学生、大学院生を通じて奨学金事業の充実を図ってきたところであります。また、次代を担う子供たちに理数についての興味、関心を培い、科学的素養を身に付けさせることも重要であります。

 今後とも、科学技術を専攻する意欲あふれる大学院生に対する奨学金事業、小中学校教員の研修の充実や、第一線で活躍する研究者の学校での活用などによる理数系教育環境の整備等を通じ、科学技術創造立国実現のため努力してまいります。

 核軍縮決議案の採択についてでございますが、一九九四年以来我が国が国連総会に毎年提出している核軍縮決議案は、昨年は過去最多の百六十八か国の支持を集め採択されました。六者会合の当事者のうち、特に同決議案に反対及び棄権したアメリカ、中国等を含め、今後とも我が国の核軍縮に向けた考え方を働き掛けてまいります。

 核軍縮決議案に関する米国への働き掛けでございますが、米国は、近年、包括的核実験禁止条約等に関する立場の相違から我が国決議案に反対してきており、昨年も、外務大臣を含む様々なレベルで核軍縮に関し働き掛けましたが、賛成を得られませんでした。米国を含む各国に対しては、引き続き種々の機会を通じて我が国の核軍縮に向けた考え方を働き掛けていく考えであります。

 軍縮会議についてですが、ジュネーブの軍縮会議において、現在、参加国の立場の相違により実質的な交渉や議論が行われていないことは遺憾であります。我が国は唯一の被爆国として、NPTを礎とする国際的な軍縮・不拡散体制の維持強化に積極的に取り組んできており、軍縮会議の停滞の打開に向け今後も粘り強い外交努力を行っていく考えであります。

 国際刑事裁判所につきまして、政府は必要な国内法整備につき関係省庁で具体的作業を進めてきており、可能な限り早く加盟できるよう着実に作業を進めていきたいと考えております。また、財政事情が極めて厳しい中、分担金の問題についても、可能な限り広範な理解を得つつ取り組んでいく必要があると思います。

 上海総領事館員の自殺についてでございますが、本件に関しては、国内での報道後、秘書官等を通じて事案の概要及び対応について報告を受けました。機密漏えいについては、本件発生後の調査の結果、機密漏えいの形跡がないことが確認されております。在外公館の秘密保全体制については今後とも万全を図っていきたいと思います。

 皇室典範についてでございますが、皇室典範の改正につきましては、皇室典範に関する有識者会議報告書に沿って所要の法律案を今国会に提出することとしております。政府といたしましては、議員各位の御理解をいただき、象徴天皇の制度にふさわしい結論が得られるよう努めてまいりたいと考えております。

 私の靖国参拝についてでございますが、私は、明治維新以来の我が国の歴史において、心ならずも国のために命をささげた戦没者の方々全体を追悼して、敬意と感謝の念をささげるとともに、二度と戦争を繰り返してはならないという気持ちから靖国神社に参拝しております。追悼施設についても、平成十八年度予算への計上を見送りましたが、今後議論が熟されることを期待しております。

 大事な隣国である中国、韓国との関係については、一部の問題で意見の相違や対立があっても、大局的な観点から協力を強化し、相互理解と信頼に基づいた未来志向の関係を築いてまいりたいと思っております。いつでも私は首脳会談に応じる用意があるということを一貫して伝えております。一部の問題があるから首脳会談に応じないというのは常識的に考えておかしいのではないでしょうか。

 私の任期についてのお尋ねでございますが、私は今年九月の自民党総裁任期をもって総理大臣を退任いたします。残された任期、内閣総理大臣の職責を果たすべく全力を尽くしていく決意でございます。(拍手)


2006年1月24日

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