2005年1月25日 >>質問原稿

戻るホーム主張目次会議録目次


162 参院・本会議 小泉首相の施政方針演説に対する代表質問

第162回国会の論戦は、政府4演説に対する各党代表質問で始まりました。参議院では1月25日、私が、民主党・新緑風会議員会長として、トップバッターの役割を果たしました。

小泉首相ひとりだけを答弁者に指定し、テレビ中継を意識して、口調を柔らかにし、分かりやすさを心掛けたつもりです。政治の常套語を避け、核融合を予言したロッジ卿の言葉と京劇の名優、梅蘭花の故事を引き、政治の基本を質しました。

小泉首相の答弁は、官僚答弁の棒読みでした。しかし、官僚の皆さんは、私の問題意識を察し、一歩踏み込んだ部分もあり、誠実に起案されたと思います。質問は、テレビの向こうの国民に聞いてもらい、答弁は、官僚の皆さんが書いてくれたという形で、間にいる小泉首相は、透明人間みたいでした。

最後に、小泉首相に対し、「あなたの政治手法のせいで政党政治は信用を失い、あなたの不真面目な答弁のせいで、国会審議もまた信頼を失った」と厳しく指摘し、小泉内閣の退陣までには、必ず民主党が政権担当の準備を完成させることを力強く宣言し、質問を締めくくりました。


(民主党ニュース) 
不真面目な答弁は国会審議の信頼性を失う 江田議員が代表質問で

 25日、参議院でも代表質問が始まり、民主党・新緑風会を代表して質問に立った江田五月参議院議員会長は、内政・外交の諸課題について小泉首相の見解を具体的に質し、具体的な答弁を求めたが、首相は答弁のほとんどを答弁書の棒読みに終始した。 

 江田議員は冒頭、参議院での決算審議について、それを重視し国の運営の透明性を高めることへ協力を求めた。首相も「決算審査の充実等にできる限り協力してまいりたい」などと応じた。 

 江田議員は更に、昨年相次いだ自然災害への対応について、被災者生活再建支援法改正案を廃案にした政府・与党の姿勢を厳しく批判。「国民の多くは、個人住宅の再建にも補助をすることを求めている」として、民主党などによる同法改正案への同意を求めた。首相は、「様々な角度から、なお議論を深める必要がある」などと、誠意の感じられない答弁を昨日に引き続いて繰り返した。 

 いわゆる政治とカネの問題についても江田議員は、旧橋本派への1億円ヤミ献金事件の真相究明に積極的でないこと、迂回献金を禁止する法改正に賛成しないことについて、「もう少しまともな政治文化を」とし、それぞれ首相の見解を問うた。首相はこれに対して、「国会において決めるべき問題」「各党・各会派で十分ご議論を」などと、これも従来から全く変わりのない棒読みの繰り返しに終始した。 

 またイラク戦争の大義の問題について江田議員は、大量破壊兵器がついに発見できなかったことを挙げて、「フセイン大統領は悪い」としつつ「そのことと、先制攻撃で戦争を仕掛けることとは違う」と厳しく指摘。「戦争の大義をどう説明するのか」、首相を質した。首相は、イラクは「最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしなかった」などと、これも従来の答弁を繰り返した。 

 江田議員は、対人地雷条約、京都議定書、国際刑事裁判所条約の問題について、わが国が米国を積極的に説得していくべきとの考えを示したが、首相はいずれについても「様々な機会を通じて意見交換を行っている」などとして、積極的に取り組む姿勢を見せなかった。 

 また江田議員は、中国残留孤児となり、その後永住帰国した皆さんが育ての親を訪ねようとすると、その離日期間中、生活保護が給付されないことについての訴訟が起きていることを指摘し、「政治の力で救済を」と呼びかけた。首相は、「各種支援策を講じている」「きめ細かな支援に努める」などとした。 

 年金改革について江田議員は、「今の年金制度が本当に100年安心」だと断言できるかや、消費税の活用などについて質した。また議員年金制度についても、「早急に一元化を実現して議員年金を廃止すること」を目指すべきとして、その決意を質した。首相は、「持続可能な年金制度に見直すことができた」などと決めつけに終始。消費税の活用については「当然検討の対象になる」とした。議員年金については「各党各会派の間で十分議論を」と他人事のような答え。 

 郵政改革について江田議員は、施政方針演説で首相が明言した四分社化、非公務員化、4月に法案提出などが達成されなかった場合、居直るか、衆議院を解散するか、退陣するか、選択肢を示して首相に迫ったのに対し首相は、「与党の協力を得て成立できると思っている」などとした。 

 江田議員は最後に、改めて小泉首相に対し「あなたの政治手法のせいで政党政治は信用を失い、あなたの不真面目な答弁のせいで、国会審議もまた信頼を失った」と厳しく指摘。「あなたには今、退陣の時期が刻々と迫ってきている」として、小泉内閣の退陣の際には、民主党が政権を担う準備ができていることを力強く宣言し、質問を締めくくった。 


平成十七年一月二十五日(火曜日)
   午前十時一分開議
○議長(扇千景君) これより会議を開きます。
 日程第一 国務大臣の演説に関する件(第二日)
 去る二十一日の国務大臣の演説に対し、これより順次質疑を許します。江田五月君。
   〔江田五月君登壇、拍手〕

○江田五月君 私は、民主党・新緑風会を代表して、小泉内閣総理大臣に質問します。
 本日は、この通常国会での参議院審議の初日です。そこで冒頭、全参議院議員の気持ちを代弁して伺います。

 参議院は、超党派で参議院改革に取り組んできました。最近の成果は決算審議の充実です。政府の協力もいただき、昨年秋には、昨年度決算が国会に提出されて参議院での審議が始まりました。戦後初めてのことです。また、ODA審査が浮上し、昨年の参議院選挙の直後から現場への委員派遣が行われています。

 そこで伺います。参議院での決算審議を重視してその結果を尊重し、国の運営の透明性を会計検査の面からも高めていくことに今後とも最大限協力していただきたい。そのお約束をいただけるかどうか、お答えください。

 さて、昨年は内外で災害が多発しました。集中豪雨に始まり、相次ぐ台風の上陸、新潟中越地震、そして年末のスマトラ沖大地震と大津波です。心からお見舞いを申し上げ、御冥福をお祈りします。そして、政府が敏速に津波災害に対し、関連国際機関への二億五千万ドルの拠出など、国際社会をリードする動きをされたことに感謝します。私たちは何でも反対ではありません。お金が本当に有効に使われるように、しっかりと使い方にまで関与してください。

 また、この悲劇の中で私たちが皆、国も民族も宗教も超えて人間が助け合うことのすばらしさを学ぶことができれば、その先にアジア地域での新しい連帯関係の構築が見えてきます。

 私は、昨年、扇議長の視察団の一人として南アフリカに行き、全アフリカ議会の開会行事に参加してきました。アフリカ連合五十三か国のうち四十六か国が条約を結んで議会を作り、地域統合が進んでいるのです。ちなみに、議長は女性で、各国からの議員の中にも女性が目立っています。うらやましかったです。アジアでも、あらゆる機会をとらえて地域の信頼関係を深め、統合の道を探る時代ではありませんか、伺います。

 ところで、国内の自然災害になると、あなたの態度は変わります。私たちが昨年の臨時国会に提出した被災者生活再建支援法改正案を、小泉さん、あなたのチームは廃案にしてしまったのです。人は一人では生きていけません。地域社会で助け合い、支え合って生きていくのです。新潟中越地震では、そのような地域のコミュニティーが崩壊の危機にあるのです。そのようなとき、生活の基礎である住宅を再建することは、コミュニティー再生の不可欠の第一歩なのです。だからこそ、国民の多くは、個人住宅の再建にも補助することを求めています。冷たいことを言わず、地域最優先で改正案に同意されませんか、伺います。

 岡山県の県北では、台風二十三号により、極めて広範囲の森林被害が発生しました。戦後の復興のために、先達が大変な努力で傾斜地に杉やヒノキを植えました。これが延々と倒れてしまったのです。私は何度も現地を見てきましたが、本当に悲惨です。木材価格は国際競争力がなく、林業の後継者難は極めて深刻で、今林業は危機なのです。これにとどめを刺すように、現場では風倒木が広がっています。冬になり、そのまま放置されているのです。建築用には役に立ちません。市場原理だけでいうと、木を引き下ろすインセンティブは何もありません。しかし、ほっておくと、土砂崩れから国土の崩壊となるでしょう。

 この森林の惨状は、私たちに自然と人間のかかわり方につき重大な警告を発していると思います。地球環境は極めて微妙なバランスの上に成り立っており、決して安定した状態ではありません。私たちが自然環境に手を加えるときは細心の注意を払わなければならないのですが、戦後の林野行政は限度を超えて自然を改変し、自然が悲鳴を上げ始めてきたのではないかと思うのです。復讐を始めたのかもしれません。できるだけ早く植林前に近い状態に戻さなければなりません。これは、森林だけではありません。自民党農政の失敗により、耕作放棄された多くの中山間農地があるのを御存じでしょうか。「田園将に蕪れなんとす」というのは、古い中国のことではありません。

 ところが、激甚災害制度の森林復旧事業は、元のように植林し直さなければ給付が実行されないのです。そんなばかなことはないでしょう。地元では、取りあえずボランティアを募って木を切り下ろそうとしていますが、はかどらず、その後の方針は立っていません。国の支えが必要です。これは、人工林だけではありません。環境破壊のすべてに言えることです。今後の方針につき、基本的考え方を伺います。

 さて、小泉総理大臣、二十一世紀に入って五年がたちました。二十世紀は戦争の世紀でした。二十一世紀は是非、平和の世紀にしましょう。これが全世界の願いだったはずです。ところが、二十一世紀はテロの世紀になりそうです。日本も安心感が崩れて、人が信用できなくなった、住みにくい社会になりつつあるとみんなが感じています。痛みを分かち合おうと言われるけど、痛いのは庶民だけ。景気は踊り場だと言われるけれど、踊らされているんじゃないか。結局はこの世の中、正直者がばかを見るだけであって、ずる賢く生きなきゃ損だと。本当はそんなの嫌だけど、だって現実はそうじゃない。こんなあきらめが、特に若い世代に広がっているように思います。国の内外についてのこの国民の不安や危惧と同じ認識を、小泉さん、あなたはお持ちですか、伺います。

 十二年前のとり年、私は細川内閣で科学技術庁長官を務めました。そのとき、サー・オリバー・ロッジという人のことを聞きました。人類が核分裂に成功するより十数年も前の一九二四年に、科学雑誌に核融合を予言する論文を寄稿した人です。水素の原子の質量は、理論上は一ですが、実際に測ってみると一・〇〇七七だそうで、このわずかな違いの中に大きなエネルギーがあると予言したのです。論文の最後の部分を、当時私が翻訳したものを御紹介します。

 人類は、将来、原子の中に含まれているエネルギーのうちほんのわずかでも、その原子の外に導き出す手段を手にすることがあるかもしれない。それがもたらす結果は、それが得られたときの文明の状態、文明の状態によって、恵みにもなれば、破滅にもなるだろうというのです。

 文明とは何でしょうか。私は、今から四十年以上前の一九六三年、アウシュビッツのユダヤ人収容所跡を訪ねたことがあります。ガス室に送られた人たちの毛髪が積み重ねられていました。隣の部屋には人の皮膚で作った電気スタンドのかさやブックカバーがありました。しかし、ナチズムに酔いしれたドイツ人も、もちろんごく普通の人たちです。何が彼らをそうさせたか。

 人間も社会も決して完全でない。そのことを決して忘れてはいけないと、そのとき私は思いました。私たち一人一人の中にも、その集まりである社会の中にも、残酷に荒れ狂うたけだけしい何かがある。これが制御から解き放たれて、暴れ狂うようなことがあり得る。そのことを、特に権力の座にある者は決して忘れてはいけない、そう思いました。

 しかし、人間は、もちろん温かい優しい心があり、人の助けになったり感謝されたりすると、うれしいものです。そのような支え合いや思いやりの心の温かさを社会に満ちあふれさせ、荒れ狂う心を静めていくことが、ロッジさんの言った文明の状態ではないかと思うのです。物質文明と精神文明の違いかもしれません。そして、そこに政治の役割があるのです。

 さてそこで、小泉総理大臣、私は、あなたの三年半の政治は文明を前進させていない、むしろ退歩させたのではないかと思います。社会の信頼やきずなが弱まってきていると思うのです。小泉さん、あなたにもし文明というものについての見解があれば教えてください。

 具体的に幾つか聞きます。
 まず、何といっても国民があきれているのは政治と金です。一億円の小切手をもらい、客観的には事実だと認めながら、記憶にないと言えばおとがめなし。政党への献金なら特別の利害関係につながらないから認めようというのが今の制度ですが、これを隠れみのにして、間に政党をかまして迂回献金し、法の網をくぐる。これを禁止して、厳しく罰しようという提案に、あれこれ言葉を弄して逃げ隠れ。これでは、国民は、あれを見習えということになります。あなたが会長をされていた清和政策研究会の話も出てきました。もう少しましな政治文化を作ろうじゃありませんか。なぜ一億円事件の真相究明や迂回献金禁止の法改正にあなたのチームは反対するのですか、総監督のあなたに伺います。

 次に、イラク戦争について伺います。
 ブッシュ大統領がイラク戦争を始めた大義は、フセイン大統領が隠し持つ大量破壊兵器の解体でした。フセイン政権の解体には成功しました。しかし、大量破壊兵器の捜索には成功せず、ついにアメリカもこれを断念しました。戦争の大義はなかったことになります。

 あなたは、常々、フセイン大統領が証明しなかったからいけないんだと言われます。私もフセイン大統領は悪いと思います。しかし、そのことと、先制攻撃で戦争を仕掛けることとは違います。まさか、先制攻撃をしたから大量破壊兵器がないことが分かったのだとは言われないでしょう。国連やIAEAの担当者は、査察の継続で検証可能だと、継続を求めていました。小泉さん、あなたは今戦争の大義をどう説明されますか、伺います。

 あなたの内閣は、昨年の臨時国会閉会直後、サマワへの自衛隊派遣の一年延長を決定しました。私たちは国会での議論を求めましたが、あなたは、実は随分前に延長を決断しながら議論を逃げ回りました。

 そこで伺います。あなたは、自衛隊が派遣されているところは非戦闘地域だと述べられました。これは間違いです。非戦闘地域と判断されたところに自衛隊を派遣するが、その判断が違っていたり、後に違うことになったりすると自衛隊は撤退をさせるのです。過ちを改めるのをはばかってはいけません。チャンスを与えます。ばかな強情を張るのはやめて、発言を撤回されたらいかがですか、伺います。

 イラクの戦後復興のためには、イラク人自身の政府が生まれることが大切です。しかし、選挙をやりさえすれば正当な政府が生まれるというのは、余りにも事態を甘く見過ぎています。イラク国民の中にある憎しみや敵対の感情を緩和することなく、国際的な選挙監視もないまま、銃口の脅しで無理やり選挙をしても政府への信頼は生まれません。金権選挙どころではありません。対立を深め、抜き差しならないところに追いやるだけです。選挙の期日は迫っています。小泉さん、あなたはどう判断し、どういう指導力を発揮されますか、伺います。

 私は、ここで一つ注目すべき行動を紹介します。JR内の労組が音頭を取ってイラクの鉄道復旧に協力しようとしています。日本の鉄道技術の水準は高く、JRにはまだ使用可能な廃棄車両がたくさんあると聞いています。このような動きを大切にし、たくさん積み重ねることにより、イラク人と国際社会との信頼と協力の関係が厚みを増し、真のイラクの復興につながるのではありませんか、お考えを伺います。

 小泉総理大臣、あなたは、日本が国連の常任理事国入りを目指すことを表明されました。私たちも賛成です。しかし、前提があります。日本が果たそうとする役割につき、私たちの間でも国際社会の中でも共通の認識があるかどうかです。災害支援に巨億の金を出しても、国際社会が本当に日本に求めることを日本が果たすつもりがなければ、各国が積極的に日本を信頼し、日本の立候補を歓迎しません。

 私は、ブッシュ大統領のイラク戦争開始をあなたが支持されたことで、日本はアメリカの信頼は得たかもしれませんが、国際社会の信頼は決定的に傷付いたと思います。一たび傷付いた信頼の回復のためには、私たちはまた営々たる努力を積み重ねなければなりません。常任理事国になって何をするのですか、伺います。

 私は、一つは核軍縮だと思います。日本は唯一の核兵器の被爆国です。核兵器をなくし、核エネルギーを適切に制御することは日本の悲願だと確信しています。これは同調していただけますね。そして、これが、日本がこれから本気で実現しようとする課題なのではありませんか、伺います。

 日本は、これまで軍縮につき一定の努力をしてきました。対人地雷の廃棄に取り組み、小泉さん、あなたも二〇〇三年二月に日本の対人地雷の最終破砕にかかわりましたよね。しかし、アメリカはいまだに対人地雷条約を批准していません。また、日本は、二〇〇〇年以来ずっと続けて国連総会へ核兵器完全廃棄への道程という核軍縮決議を提案し、圧倒的多数の支持を得ています。二〇〇四年も、賛成百六十五、反対三、棄権十六で支持されました。ところが、何と反対三の中にアメリカが入っているのです。なぜもっと真剣にアメリカを説得しないのですか、伺います。

 日本の核技術があれば核兵器を作ることはできるでしょう。もちろん、日本は核兵器を製造する意思は毛頭ありません。あなたも同じ認識でしょうか、伺います。

 しかし、能力はあっても意思がないのだから安心してくれと言うためには、その裏付けとして、よほど行動がはっきりしていなければなりません。そこが極めてあいまいなのですよ、小泉内閣は。原子力施設に対するIAEAの厳重な査察だけでは不十分です。世界で各国の後ろを付いていくだけというのなら査察だけで十分でしょう。それなら、常任理事国入りなどと言わないことです。目指すのなら、言葉だけでなく、日本の意思が決して疑われないための具体的行動が必要です。認識を伺います。

 細川内閣の科技庁長官のとき、私は、日本が非核兵器国でありながら、高度な核技術を有していることに注目しました。核軍縮を核兵器国だけに任せていて、本当に信頼できる軍縮過程が進むのでしょうか。日本こそが、その有する核技術を活用し、非核兵器国の代表として、核軍縮のプロセスへの参加を求めてはいかがですか。そこで、私は、プルトニウムの国際管理体制の構築を提唱しました。何のパフォーマンスもしなかったので、あなたの目には留まらなかったかもしれません。しかし、職員の努力により、多国間の円卓会議の開催までは行ったのです。ところが、これは引き継がれませんでした。

 今年は、核不拡散条約の五年ごとの再検討会議の年です。NPTですね。二〇〇〇年の再検討会議では、新アジェンダ連合と呼ばれる七か国の努力で、核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を行い、十三項目の措置に合意しました。しかし、その後アメリカは新型核兵器開発の準備を始めています。

 最近、IAEAのエルバラダイ事務局長が、ウラン濃縮、再処理、バックエンドなどに関する国際管理体制構築を模索しています。日本はその実現のために積極的に指導力を発揮すべきだと思います。再検討会議で日本はどのような提案をされますか、伺います。

 ところで、一つ気になっています。インドの原子力発電関連の施設が大津波の被害に遭っているとの報道があります。原発事故は、チェルノブイリやスリーマイル島のようなこともあるのですから、国際社会の共同対処とすべきです。しかし、神戸での国連防災会議では何の検討もなかったようです。日本がリーダーシップを取るべきではありませんか、伺います。

 小型武器の問題も深刻です。軽くて操作しやすいので、三十か国以上で子供が兵士にされ、隠しやすいので回収されず、世界じゅうで使い回されています。そのため、犠牲者は毎年五十万人を超え、その九〇%は非武装市民、さらにその八〇%が何と子供と女性だそうです。日本は、国連軍縮大使であった猪口邦子さんが、二〇〇三年の第一回国連小型武器中間会合の議長として、大変な情熱と執念で小型武器軍縮の報告書の全会一致の採択に成功しました。このような努力こそが日本が国際社会の中で期待されている役割だと思いますが、そして、このような問題については、日本の言うことにどの国も耳をかさざるを得ないようにすることが日本の取るべき道ではないかと思いますが、小泉さんの認識を伺います。

 軍備管理以外にも日本の貴重な外交努力があります。例えば、温室効果ガス削減に関する京都議定書です。ロシアの批准により、やっと発効となりました。しかし、やはりアメリカが加わらないと所期の目的は達成できません。もっと積極的にアメリカを説得するつもりはありませんか、伺います。

 もう一つ、国際刑事裁判所条約です。これは日本の外交官が大変な努力をして合意にこぎ着けたのです。ところが、肝心の日本は批准どころか署名すらしなかった。国際社会は待ってくれません。既に発効したのですね。アメリカに気兼ねしているとしか思えません。日本独自の決断をし、アメリカも説得すべきだと思いますが、いかがですか。

 次に、北東アジアについて。
 現在の日中関係はどのような先人の努力の上に成り立ったと思いますか。私は、ここで是非、小泉さん、あなたに梅蘭芳という人のことを聞いていただきたいのです。二十世紀前半に活躍した中国の京劇の名優で、女形です。関東大震災のときは、中国で支援のチャリティー公演をしたほどの親日家です。しかし、戦争中は、日本の軍部の求めで公演させられることを嫌い、ひげを生やしました。女形にひげでは京劇は演じられません。家屋敷を手放しました。

 終戦の日、ラジオの放送を聞いた後、家族との夕食の席に現れた彼は、口から下を扇で隠していました。そして、お父さんが手品を見せてあげようと言って扇を下に落とすと、八年間にわたって蓄えられていたひげがなくなっていました。彼はそれほど日本の侵略を嫌い、終戦を抗日戦勝利だと歓迎したのです。

 舞台に復帰した梅蘭芳は、その平和を求めた勇気と心情で中国人の中で更にファンを増やしました。日中関係が寒々と冷え切っていたころのことです。

 彼は、戦争は日本の軍部指導者が悪いのであって、中国人も日本の一般国民も被害者なのだと、こう割り切り、国内の反対を押し切って一九五六年に日本公演に来ました。公演は各地で大盛況でした。福岡へ向かう列車が広島駅に着いたとき、被爆者の歓迎を受けました。惨状に心を動かされた彼は、全日程が終了した後、東京でチャリティー公演をしたのです。

 日中国交回復の前にこうした芸術家を含む多くの人々の大変な努力があり、その精神を日中双方が理解をして和解し、日中共同声明となったのです。

 元々、日本の大陸侵略と乱暴な行為は日本側に原因があり、足を踏まれた側はそのことを忘れないでしょう。日本の国際社会への復帰と今の日中関係は、中国を含む国際社会の多くの人々のこのような具体的な善意と協力があったからこそでき上がったのです。

 小泉さん、あなたがA級戦犯として処刑された軍部指導者が合祀されている施設に参拝することを中国の人々が嫌うのは当たり前だと思いませんか。この皆さんの心を逆なですることは文明に反する行為だと思いませんか、伺います。

 この関連で、中国残留孤児に対する国の処遇につき、伺います。
 日本は、かつて中国東北地区に満州という国を築こうとしました。まず関東軍が攻め入り、その後に多くの開拓団を入植させました。しかし、このもくろみは成功せず、やがて敗戦。ところが、関東軍は入植した民間人を無防備のまま残して先に撤退してしまったのです。

 悲惨な人身御供の逃避行の中で、いろいろな経過で中国人に育てられることとなったのが残留孤児です。約二千四百人の皆さんが永住帰国されました。望郷の念は強くても、日本社会に定着するのは容易なことではありません。約七割の人が生活保護を受けています。ところが、彼らが既に余命わずかとなった育ての親を訪ねようとすると、日本を離れる期間は生活保護を給付しないというのです。この皆さんが国の助けを求めて訴訟を起こしました。

 私の父は、戦争に反対して入獄し、釈放後に私が生まれて、家族で中国に渡りました。終戦の翌年に天津から佐世保に上陸揚舟艇で引き揚げたのですが、華北だったので、私は残留孤児にならずに済みました。小泉さん、私とあなたとは同い年です。同世代の悲劇なのですよ。あなたは、かつてハンセン病訴訟で控訴断念を決断されました。パフォーマンスではありませんでしたよね。訴訟を起こし判決が出るまで待たずに、心を動かしてください。司法の力でなく、政治の判断で救済をしようじゃありませんか、伺います。

 今年は戦後六十年です。この皆さんに限らず、内外の戦争被害者の皆さんの声にこたえて、今年こそ戦後処理問題を最終解決すべきだと思います。皆さん既に御高齢です。その年齢を考えれば、戦後七十年はないのです。私たち民主党はそのための法案を提出していますが、賛成していただけませんか、伺います。

 先日のクルド人らの強制送還でも、もうちょっと人の人生に対して温かい思いを持ってあげてはいかがですか。

 北朝鮮の金正日政権の非については、これを適切に表現する言葉を知りません。ただののしるだけでなく、制裁のための具体的行動を起こすべきだという論調も十分理解できます。私たち民主党も北朝鮮人権侵害救済法案といったものを検討しています。しかし、ここでも怒りの気持ちのままに行動してよいわけではありません。次の一手もやはり十分考えておかなければなりません。

 そこで、以前の私たちの提案を改めて提案します。
 北朝鮮、韓国、日本の三国を北東アジア非核武装地帯とし、この地域に対する核攻撃をしないことをアメリカ、中国、ロシアが約束するという六か国の条約交渉のリーダーシップを日本が取ってみてはいかがですか。中期的に見れば、日本がこの種の姿勢を示しておくことは、北朝鮮が拉致問題についての態度を変える後押しの力になると思います。伺います。

 日本がこのような努力を積み重ね、アジア地域の中でも広く全世界の中でもなくてはならない国だと国際社会が認めるようになったとき、日本は二十一世紀を平和な世紀にするために大きな役割を果たすことができるようになります。しかし、そのためには、日本があくまで謙虚に、高い倫理観と国際社会の共感を呼ぶ理想を持ってアジア最優先で努力をしなければなりません。それなのに小泉さん、あなたはアメリカ追随で、大義なきイラク戦争に加担したのです。そのブッシュ大統領は、先日の就任式で、自由の理念を世界に押し広げていくと昂然と宣言しました。多様な価値観は認めないという、世界に対する宣告のようにも聞こえます。テロの世紀を終わらせようという発想とはとても思えません。あなたの認識を伺います。

 年金改革について伺います。
 昨年強行可決された政府の年金改革案は、その直後の参議院選挙で国民から厳しい批判を浴びました。しかし、私たち民主党が提出した法案に与党は賛成せず、政府の年金改革が実施されています。国民の多くは、今の年金制度はいずれ破綻することを知っており、抜本改革で本当に頼りになる年金制度にしてほしいと願っています。

 そこで伺います。小泉さん、あなたは、今の年金制度が本当に百年安心で破綻することはないと国民に対して言い切れますか。もしあなたがそういう認識なら、年金改革について何を協議するかが分からなくなります。もしあなたが抜本改革が必要だと認識されているなら、私たちが提起している一元化、消費税の活用、納税者番号制度について、それぞれどういう御見解か、伺います。

 そしてもう一つ。国会議員年金について、私たち民主党は廃止を提案しています。私たちの年金抜本改革案が実現すれば、国民すべてに共通の年金制度が立ち上がり、国会議員だけの特別の年金は廃止できます。これが私たちの提案です。

 先日、衆参両院の議長の下に置かれた調査会が答申を出しました。現行法を廃止し、国庫負担率五〇%程度の新制度を作るというものです。ところが、国会議員のための特別の制度は残るのです。それに小泉さん、この答申案では、あなたにしても私にしても、六十五歳になって引退すれば、痛みはほぼゼロです。あなたが自民党総裁としてこの案に対してさえ逃げ回ると、国民の政治不信は極限に達しますよ。いっそのこと、思い切って早急に一元化を実現して議員年金を廃止することを目指しながら、今国会で答申案よりももっと切り込んだ改革案を実現しませんか、伺います。

 次に、司法制度改革です。
 昨年秋の臨時国会で、やっと改革の法整備が終了しました。あとは実行あるのみですが、油断はできません。法科大学院は揺れています。新しい法曹養成のかなめのはずが、発足したばかりで息の根を止めるようなことをしてはいけません。御同意いただけますか、伺います。

 また、平成十八年には日本司法支援センターを立ち上げます。司法は社会のインフラの最も根底にあるものという認識を持って十分な予算措置をしていただかないと、改革に魂が入りません。その用意ありと言ってください。伺います。

 性犯罪について。
 年末に奈良県で発生した女の子の誘拐殺人事件は、身の毛のよだつむごい事件でした。近所にこういう者がいるかもしれないと思うと、子を持つ親でなくても大変に不安です。これを和らげることは政治や行政の責任です。そこで、法務省と警察庁で性犯罪者の出所情報の提供などが協議されており、私たちも注目しています。

 しかし、角を矯めて牛を殺すということがあってはいけません。情報の範囲や活用方法などにつき、しっかりした検討が必要です。諸外国と比べると、日本にはこの分野の専門家は極めて少なく、刑務所や保護観察所の処遇能力の改善も簡単ではありません。先進社会が共通に抱える病理現象に対して、私たちはのんびりし過ぎていたのかもしれません。この事態に真正面から向き合い、柔軟な対処方法を考えるべきではありませんか、伺います。

 教育改革について。
 犯罪被害も含めて、子供たちの置かれた状況は憂慮に堪えません。学校の問題もいろいろ指摘され、当たっているところも多いと思います。社会もまた、子供がすくすく育つには余りにも世知辛く、家庭や地域の教育力も落ちています。IT化自体はもちろん否定すべきものではありませんが、その中に無防備にほうり込まれた子供たちが翻弄されて、事件を起こしたり巻き込まれたりしています。しかし、教育現場でも様々な努力や模索を必死に行っています。ゆとりだ、学力だと揺れるのではなく、現場の経験や実績に注目し、耳を傾けることが今一番大切なことだと思います。

 教育基本法改正論議が盛んですが、何よりもまず子供最優先の立場から出発すべきではありませんか。二〇〇二年五月の国連子ども特別総会で採択された原則ですね、子供の育ち方を大人が大人の立場で考えて、それに合わせて子供を飼育するのでなく、子供の置かれた状況をどう変えて、どのように子供の多様な個性や能力を豊かにはぐくんでいくかを考えないと、子供はますます反乱を起こしますよ。小泉総理大臣のお考えを聞かせてください。

 そのほかにも、景気や経済、財政、介護や医療、三位一体改革、農業改革、郵政改革など、テーマは山積みですが、またにします。

 小泉政治で地方は特に痛みました。中間層の二極分化も起きてきています。地方分権は名ばかり。郵政に至っては、あなた方の内部での議論はにぎやかですが、何が最後に提案されるかさっぱり分かりません。

 一つだけ。小泉さん、あなたは施政方針演説で、四分社化、非公務員化、四月法案提出など、随分明確に具体的な方針を言明されましたが、それが達成できなかった場合はどうされますか。一、大したことではないと居直り、二、衆議院解散、三、退陣、この三択でお答えください。

 二〇〇一年春、小泉さん、あなたは華々しく内閣総理大臣に就任されました。とにかく、自民党をぶっ壊すと言うのですから、民主党も真っ青でした。しかし、二〇〇三年九月に選挙の顔として総裁再選を果たした後は、あなたは自民党と折り合いを付け、歯切れの良かった言葉も勢いを失いました。あなたへの期待は消滅し、あなたは無力化したのです。

 あなたの任期中に総選挙はできません。違いますか。あなたの政治手法のせいで、政党政治は信用を失い、あなたのふまじめな答弁のせいで国会審議もまた信頼を失いました。あなたには今、退陣の時期が刻々と迫ってきています。一番大切な役割を担わなければならないのは、今や民主党だと自覚をしております。私たちは、政権担当の準備を急ぎ、あなたの退陣に必ず間に合わせます。そのことを申し上げて、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 江田議員にお答えいたします。
 参議院における決算審議についてですが、国会における決算審査は、予算執行を審査し、その結果を予算編成に反映させるとの観点から、その重要性を政府としても十分認識しているところでございます。

 このため、平成十五年度決算については、参議院の要請を踏まえ、昨年十一月十九日、例年より早期に国会に提出するとともに、平成十七年度予算編成に適切に反映させたところでございます。

 今後とも、政府としては、参議院における決算審査の充実等にできる限り協力してまいりたいと思います。

 アジアの統合でございますが、現在、東アジア共同体を視野に、経済連携協定の締結や国境を越える諸問題についての機能的な協力など、アジア諸国の地域協力が様々な分野で深まりつつあり、本年は初の東アジア・サミットも開催される予定でございます。

 このような協力は、域内で同じ価値観を共有する土台を築き、平和と繁栄を確保する観点から望ましいものであります。我が国は、多様性を認めながら、経済的繁栄を共有する開かれた共同体の構築に積極的な役割を果たしてまいります。

 被災者生活再建支援法でございますが、昨年の通常国会で、被災者が住宅を再建、補修する際に負担する経費の一部を支援する制度が設けられ、その積極的活用を図っているところであります。

 被災住宅の再建に対する公的支援の充実について、関係者から様々な要望があることは存じております。他方、行政は公共サービスの回復に重点を置くべきであるとの立場から、個人の住宅本体の再建に対する公費支援については慎重な考え方もあり、また、住宅の耐震改修、地震保険への加入等の自助努力を促進する方策をまず充実させるべきとの考え方もあります。このため、様々な角度からなお議論を深める必要があると考えております。

 森林の災害復旧についてでございますが、森林の災害については、二次災害の防止のみならず、被災森林の公益的機能の回復を図る上で、早期に被害木を伐採、搬出するとともに、被害跡地への造林を進めることが極めて重要であります。

 このため、現行の激甚災害制度の下で、国と都道府県を合わせて三分の二という高率の助成を行う森林災害復旧事業を適切に実施しているところであります。

 激甚災害の指定について、災害発生の実態に即して速やかに判断することにより、被害を受けた森林の早期回復に努めてまいります。

 テロ対策でございますが、各種世論調査におきましても、犯罪やテロの危機などに対して不安感を抱いている国民が多いことは承知しております。とりわけ、テロについては、昨年末に定めたテロの未然防止に関する行動計画に基づいて、テロリストを入国させず、また、国内で自由に活動をさせないための対策を強化してまいります。

 文明についてでありますが、文明とは、生産手段の発達などにより生活水準が向上し、人権の尊重と機会均等などの原則が認められる近代社会の状態を指す言葉であり、私たちが目指すべき文明社会とは、人類が手にした科学技術の成果を生かして、高齢者と若者がともに支え合い、だれもが安心して暮らすことができる社会、また自律と自助の精神の下に勇気を持って新たな挑戦をすることができ、努力が報われる社会、そして平和でだれもが夢と希望を持って未来を描ける社会だと思っております。このような社会を目指していきたいと思っております。

 一億円献金問題といわゆる迂回献金の問題でございますが、一億円献金問題につきましては、既に昨年十一月三十日の衆議院政治倫理審査会において橋本氏から説明がありました。さらに国会における関係者の証言が必要かどうかについては、国会において決めるべき問題であり、各党各会派において十分に議論をしていただきたいと思います。

 いわゆる迂回献金のように、政治資金規正法に対する脱法的な行為はあってはならないものであります。与党が提出している政治資金規正法の改正案も、迂回献金との疑惑の払拭も含め、政治資金の一層の透明性を確保しようとするものであります。

 迂回献金禁止の条項を設けることによって実効性が期待できるかなどの点も含めて、各党各会派で十分御議論いただきたいと思います。

 米英等によるイラクに対する武力行使でございますが、イラクは、十二年間にわたり累次の国連安保理決議に違反し続け、国際社会が与えた平和的解決の機会を生かそうとせず、最後まで国際社会の真摯な努力にこたえようとしませんでした。このような認識の下で、我が国は、安保理決議に基づき取られた行動を支持したのであり、これは正しかったと現在においても考えております。

 非戦闘地域の要件に関するお尋ねですが、イラク特措法では、自衛隊が活動できる地域として、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域と規定しています。いわゆる非戦闘地域とはこれを指すものであります。

 したがって、自衛隊の活動地域は非戦闘地域に限られるのは当然であります。私は、自衛隊が現在活動している地域は非戦闘地域であるという趣旨を申し上げたことでございます。

 イラクの選挙を取り巻く状況でございますが、イラクの治安情勢は、地域差はあるものの全般的に依然として厳しい状況にあり、最近は選挙の妨害を目的とするテロの発生も顕著になっております。このような中にあって、イラク暫定政府は、選挙を予定どおり今月三十日に実施すべく取り組んでいます。我が国は、国連の選挙支援活動に資金の拠出等、国連を始めとする国際社会と協調してイラク暫定政府の努力を支援しており、選挙を通じてイラク国民から信頼を得た政府が生まれることを期待しております。

 イラク復興支援における民間の役割でございますが、現在のイラクは民間の方々による本格的な支援活動ができるような治安情勢にはないと認識しております。このような認識に基づき、政府としては、イラク復興支援活動に当たって、自衛隊による人的支援とODAの支援を車の両輪として進めてきております。

 今後、イラクの治安情勢が改善され、一刻も早く民間の方々による本格的な支援活動ができるようになることを期待しております。

 国連安保理常任理事国の役割についてでございますが、我が国は、これまで平和の定着や国づくり、人間の安全保障、軍縮や不拡散等の様々な分野において国際社会への貢献を行ってきております。我が国が安保理常任理事国入りした場合、これまでに培われた能力と経験を生かして、安保理の意思決定に参画するとともに、引き続きこれらの分野で主導的に貢献していくことが重要であると考えます。

 我が国の軍縮への取組及び原子力の平和的利用でございますが、我が国は唯一の被爆国として、核兵器のない平和で安全な世界の一日も早い実現を目指して、現実的な措置を着実に積み重ねていくことが重要であると考えております。そのため、我が国はNPTを礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持強化に積極的に取り組んでいます。また、国際原子力機関とも協力しつつ、原子力の平和的利用を推進していく考えであります。

 我が国による核兵器保有でございますが、我が国は非核三原則を政府の重要かつ基本的な政策として堅持しており、また、法律上も、我が国の原子力活動は平和的目的に厳しく限定されております。さらに、国際的にも、NPT上、非核兵器国として核兵器の製造や取得等を行わない義務を負っており、我が国は核兵器を製造する意図はありません。

 非核三原則の堅持を始めとするこうした政策については様々な機会をとらえて内外に表明してきており、今後ともこうした努力を続けていく考えであります。

 日本の核兵器廃絶決議に対してでございますが、日本の核兵器廃絶に対する考え方は様々な場面で表明してきており、対アメリカをも含む各国に対しても、今後もこうした努力を続けていきたいと考えております。

 NPT運用検討会議でございますが、我が国は、NPT運用検討会議において、核軍縮と核拡散防止の双方における進展を目指し、核兵器国による一層の核兵器削減、包括的核実験禁止条約早期発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約の早期交渉開始、IAEA追加議定書の普遍化等に向け積極的に取り組んでいく考えであります。

 原子力発電施設の防災対策でございますが、国内の原子力発電施設について、地震や津波が発生した際に放射線漏れなどの事故を起こすことがないよう設備の耐震性の強化を図っているほか、津波により海水が引いた場合にも冷却水を提供できるような措置を講じております。こうした経験や実績を踏まえ、関係国から要請があれば、原子力発電施設の安全対策に関する我が国の知見を提供するなど、可能な限り国際的な防災協力に貢献をしてまいります。

 国連総会での核軍縮決議でございますが、我が国は、核軍縮を進めるには、現実的な措置を着実に積み重ねていくことが重要と考えております。昨年の決議案についても、米国に対して十分な説明を行いましたが、包括的核実験禁止条約等に関する立場の相違から米国の賛成を得ることができませんでした。米国に対しては、引き続き種々の機会を通じ働き掛けていく考えであります。

 小型武器の軍縮問題でございますが、我が国は、国連総会に小型武器関連決議案を提出したり、二〇〇三年の国連小型武器中間会合を始めとする各種の国際会議において重要な役割を果たすなど、一貫してこの問題に積極的に取り組んでまいりました。我が国は、今後とも小型武器の国際的な取組において積極的な役割を果たしていく考えであります。

 京都議定書への参加に対する米国への働き掛けでございますが、米国に対しては、かねてより、日米首脳会談を含め、様々な場で京都議定書に関する我が国の考え方を申し入れてきております。

 最近では、昨年十月の日米外相会談で京都議定書締結に向けた再検討を要請したほか、昨年十二月にアルゼンチンで行われた気候変動枠組条約締約国会議の際にも、小池環境大臣からアメリカ側に対し京都議定書への参加を改めて求めてきたところでございます。政府としては、引き続きアメリカに対し京都議定書への参加を働き掛けてまいります。

 国際刑事裁判所でございますが、我が国は、国際刑事裁判所の設立を一貫して支持してきております。国際刑事裁判所規程の締結については、現在、同規程の内容を精査し、国内法令との整合性について鋭意検討を行っているところであります。また、米国との間でも引き続き様々な機会を通じ緊密に意見交換を行ってまいります。

 靖国参拝でございますが、私自身の今後の靖国参拝につきましては適切に判断してまいります。また、一宗教法人である靖国神社が何をお祭りするかについて、公的立場にある者がとやかく申し上げることは差し控えたいと思います。

 中国残留邦人の支援でございますが、中国残留邦人の方々に対しては、平成六年、いわゆる中国残留邦人等支援法が制定され、自立支度金の支給、国民年金の特例措置等の各種支援策を講じているところであります。

 政府といたしましては、司法の判断にゆだねているもののほか、今後とも、中国帰国者の方々が安心した生活を送っていくことができるよう、高齢化等に配慮したきめ細かな支援に努めてまいります。

 戦後処理問題でございますが、我が国としては、さきの大戦に係る戦後処理問題については、サンフランシスコ平和条約及びその他の関連する条約等に従って誠実に対応してきております。

 クルド人の強制送還でございますが、お尋ねの親子については、確定判決において、従前居住していたトルコで迫害された事実はなく、難民と認定すべき事情がないと判断されたものでありますが、今後とも、難民認定に当たっては人権と人道に十分配慮するよう努めてまいります。

 北東アジア非核地帯でございますが、一般的に非核地帯は、適切な条件が満たされるのであれば核拡散の防止等の目的に資するものと考えます。他方、北東アジアにおいては、依然、不透明な要素や緊張関係の存在、核戦力を含む大規模な軍事力の存在等により、非核地帯構想実現のための現実的な環境はいまだ整っていないと考えております。

 我が国としては、同地域の平和と安全を確保していくため、日米安保体制を堅持しつつ、各国との様々な対話を通じて域内の信頼醸成を促進するとともに、大量破壊兵器等の拡散防止のための現実的な努力を重ねることが重要と考えます。

 ブッシュ大統領の就任演説でございますが、ブッシュ大統領は、世界で自由と民主主義を推進する旨述べておりますが、同時に、米国は望まない者に対し米国式の統治方式を押し付けることはしない、同盟国の助言と支援に頼っている旨述べております。

 また、同大統領は、更なる攻撃と新たな脅威から国と国民を守ることが自分の最も厳粛な任務であると明言しており、テロと戦う強い決意を改めて表明したものと理解しております。

 年金制度ですが、国民の安心を確保することは国家の重要な課題であると先日の施政方針演説の中でも申し上げたところであります。

 年金制度については、急速な少子高齢化が進行する中で、さきの年金改正により長期的な給付と負担の均衡を確保し、持続可能な年金制度に見直すことができたと考えておりますが、なお、今後の産業構造、雇用構造の動向に十分対応できるのか、また、年金の一元化を目指すべきではないかとの議論もあるところは十分承知しております。さらに、二〇〇七年から人口減少社会を迎え、少子高齢化が進展する中で、年金を始めとする社会保障制度を持続可能なものとしていくことは、これからの我が国社会の在り方にかかわる極めて重要な政治課題でもあります。

 お尋ねの民主党が提起する国民年金を含む年金制度の一元化については、自営業者の公平な保険料徴収のための正確な所得の把握や事業主負担をどうするか、納税者番号制度などの諸条件をどうするかといった問題について早急に検討する必要があると考えております。

 また、消費税の活用ということも当然検討の対象になるものと考えておりますが、消費税を年金のみに充てるのか、他の社会保障、例えば医療とか介護、その財源との関係でどうするかとの議論も必要だと思っております。

 いずれにしても、年金制度の枠組みの中だけで議論するのではなくて、医療や介護などを含めた社会保障制度全体について、税や保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行う中でこれらの問題についても検討していくことが適切であると考えております。

 私としては、政府のみならず、与野党が立場を超えて、年金制度を始めとした社会保障制度の論議に国民的立場から取り組むことが政治の責任であり、このため、国会において集中的な議論を早急に開始していただきたいと考えております。

 議員年金についてでございますが、国会議員互助年金については、他の公的年金と比べ、給付額や税金投入の割合などで優遇され過ぎているとして多くの国民から批判の声が寄せられています。限られた数の加入者による独立の年金制度を維持することの合理性についても疑問が呈されております。

 こうした中で、このほど衆参両院の議長に対して有識者から、一定の割合で給付を下げ、納付金を引き上げることにより制度の存続を認めるべきであるという提言がなされたことを私は承知しております。

 いずれにせよ、議員年金のように、国会議員の待遇については国会議員自らが不断に見直しを行うべきものと考えます。今後とも、各党各会派において十分議論していただき、国民一般から理解と信頼を得られる制度とすべきであると考えます。

 司法制度でございますが、国民に身近で頼りがいのある司法を実現するためには司法を担う法曹の質と量の拡充が不可欠であるという考えの下、法科大学院を通じた新たな法曹養成制度が導入されたところであります。

 新司法試験の合格者数の在り方については、今年度内に一定の結論を得るべく、現在検討を進めているところであります。質、量ともに豊かな法曹を生み出し、国民が司法制度改革の成果を実感できるように努力してまいります。

 また、日本司法支援センターの設立など、全国どの町でも市民が法的な救済を受けられるよう、司法ネットの整備を進めるため必要な予算措置を講じてまいります。

 性犯罪対策でございますが、性犯罪者の住所に係る情報については、犯罪の防止と取締りを担当する警察当局において、再犯防止などの目的で有効に活用できる仕組みを確立すべきであると考えます。

 他方、これを地域住民に公開することについては、出所者や同居の家族などの人権及び社会復帰への影響などの問題があることから、慎重に検討するべきものと考えます。

 また、刑務所における性犯罪者に対する矯正教育を充実するため、有識者の意見も聞きながら、行動科学や心理学などの知見を導入した体系的な処遇プログラムを研究、実施します。さらに、受刑者に改善指導を受けることを義務付ける法制度を整備してまいりたいと思います。

 子供の多様な個性、能力についてでございますが、子供は社会の宝であり、また国の宝でもあると思います。学校や家庭、地域など、社会全体で新しい時代を切り開く心豊かでたくましい人材を守り育てていく必要があると思っております。

 このため、習熟度別指導や体験活動など、子供たちの確かな学力、豊かな心、健やかな体の育成を目指した人間力向上のための具体的な改革の取組を推進してまいります。

 また、このような取組とともに、教育の根本にまでさかのぼった改革の推進が喫緊の課題であることから、教育基本法の改正についても積極的に取り組んでまいります。

 また、私の今までの成果に対してはお認めにならずに、退陣せよということでございます。

 郵政民営化が達成できなかった場合の対応についてのお尋ねがございました。

 私は、民間にできることは民間に、そしてこの郵政の改革は、私は行政改革、財政改革にも資すると思っております。公務員でなければできない事業であるとは思っておりません。言わば行財政改革、経済の活性化、三百五十兆円にも上る官に巡っている資金を民間に回すということの重要性、そういう点からも私は改革が必要だと思っております。現在、所要の法案の提出に向けて鋭意作業を進めていることであり、私はこの郵政民営化が成立するよう全力を尽くしてまいります。

 できなかった場合どうするかと。大したことではないと居直るのかと、衆議院解散するのかと、退陣するのかと、この三つでお答えいただきたいということでございますが、私は、成立しなければならないし、与党の協力を得て成立できると思っておりますので、よく協議の上、この郵政民営化法案を今国会中に実現したいと思っております。

 また、民主党の代表の方々何人かから、いつも小泉は早く退陣せよと言われますが、私に退陣を求める方が先に退陣してしまって残念であります。民主党も是非とも頑張って政権取れるようないい国民政党になっていただきたいということを強く期待しております。(拍手)


2005年1月25日

戻るホーム主張目次会議録目次