2004年5月20日

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159 参院・法務委員会

 ・ 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(閣法第67号)
 ・ 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(閣法第68号)

10時から法務委員会で、私が1時間、裁判員法案と刑訴法改正案の質疑に立ちました。冒頭簡単に、副大臣と政務官の年金実績を尋ねました。若干の未納はありましたが、問題にするほどのものではありません。次いで、修正案提出者と修正の意義や証拠の目的外使用の許容性につき議論。衆議院議員の与謝野薫さん、漆原良夫さんと佐々木秀典さんです。あっという間に時間が経ち、最高裁での模擬裁判のこと、映画「裁判員」を素材とした証拠開示のあり方や評議の方法の議論、大阪公聴会での遠藤公述人の意見を素材にした守秘義務のあり方の議論で、時間切れとなりました。


平成十六年五月二十日(木曜日) 午前十時一分開会

○委員長(山本保君)
 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 前回、法務大臣の年金のことについて最初に伺いました。当委員会でなぜ年金加入状況を聞くかなどなど前置きは前回のときに申し上げておりますので、今日は一切それを省略をいたしまして、副大臣、政務官の関係について伺わせてください。

 実川副大臣に伺いますが、実川さんは、初当選が一九九三年で、一九四三年生まれですからもう六十歳になっておられる。したがって、初当選の前に、一九八六年に国会議員は国民年金強制加入となっておりまして、あるいはその他の公的年金ということもあるのかもしれませんが、この九三年から昨年まで国会議員であられたということなので、その間の公的年金の加入状況はいかがですか。

○副大臣(実川幸夫君) 今、先生御指摘になりました、ちょうど昨年、六十歳になりまして、社会保険庁の方からその通知がありまして、完納しましたと、そういう通知があったものですから、私もそのつもりで、全額支払ったと、そういうつもりでおりまして、再度調査したところ、もちろん、議員になりましてから十一年になりますけれども、議員になりましてからすべて完納しております。

 調査して、九一年ですか、そのときに、厚生年金から切替えのときに、やはりうっかりだったと思いますけれども、三か月未納期間がございました。

○江田五月君 二〇〇〇年ということになりますか、運輸政務次官になっておられますね。政務次官の間はどうなっておるんですか。

○副大臣(実川幸夫君) 二〇〇〇年、納めております。国民年金を納めております。

○江田五月君 よろしい、いや、何かじっとごらんになっているから。よろしいんですね。つまり、政務次官などになったときに何かのミスで国民年金から外れてというのがたくさんあるんですが。

○副大臣(実川幸夫君) 未納は国会議員になる前だけです。

○江田五月君 はい、分かりました。よかったです。ほっとしました。

 次に、中野政務官に伺いますが、中野さんの場合は、資料によると、一九三六年生まれで、九六年に初当選で、十月ですから、初当選のときはもう六十歳になっておられるわけですから、議員としての国民年金加入義務というのはないんですね。そうですかね。

○大臣政務官(中野清君) 私については、事実だけ申し上げますと、昭和三十六年四月から四十年一月までの間が国民年金に加入しておりまして、その後、会社の厚生年金に加入しておりまして、六十歳に到達する平成七年の十二月までは四百十六か月間納めております。

 その後、財務大臣政務官に就任するまでの間の十二年の十二月三十一日まで、ですから、それからその後も、財務大臣政務官から法務大臣政務官なる間の六か月間というので、計四百八十二か月納めておりまして、大体いわゆる義務というものについては全部クリアしていると思います。

○江田五月君 ありがとうございました。ほっとしました。

 これ、政府の中に入っておられる皆さんについては一応伺っておこうということでございまして、失礼をいたしました。

 それでは、次に裁判員法案と刑訴法改正案について伺います。

 修正案提出者の皆さんにお見えいただいていますので、まず最初に、修正案提出者の方に伺います。

 衆議院の方で、与党と民主党とで修正の合意ができて、両法案とも修正をされた、そして全党、すべての本会議に参加の皆さんが賛成をされて可決をして参議院に送られたと、こういう経過なんですが、ずっとこれまで裁判員法案のでき上がっていく経過を見ますと、確かに閣法ということで出されてはいるんですが、その閣法になる過程で与党の方で大変な議論があったと。与党の自民党の中でも大変な議論がある、公明党も、公明党の場合は私どもとかなり共通する認識もあるわけですけれども、議論があって、そして与党で合意をお作りになって、これが閣法として出てきて、さらに国会で、野党も、まあ民主党だけかもしれませんが、加わって、与野党の大きな合意ができて、みんなの賛同でこういう制度をスタートさせようということになったわけですね。

 前々から私は事あるごとに言っておるんですが、この制度自体は一つの冒険でして、ある種の決断で、まだ先がよく見えないところ、あるいは検討を更にしなきゃいけないところ、あるいは国民への啓発をもっともっとやらなきゃいけないところ、一杯ある。しかし、今までの裁判制度に対して何か新機軸を出していこうという、ある種のこの、まあ我が角田理事に言わせると革命だと、裁判の。そういうような思いでやっているということで、そのあえてやっていこうということについて全党の合意がこういう形でできたというのは、私は立法過程としては非常に貴重なことであると思っておりまして、年金の三党合意がいいかどうか、これはいろいろ議論あるところですが、こういうものについてはやっぱりちゃんとそういうみんなの合意でやっていって、しかし途中でいろんな問題出てくるだろうから、そのときもまた議論をしながらよりいいものにしていくという、こういう立法プロセスというのは大変貴重だと思うんですが、修正案提出者の皆さんとその点は認識は一致しますでしょうかね。どういうお感じをお持ちか、総括的なお返事を下さい。

○衆議院議員(与謝野馨君) まず、裁判員制度については、自民党の中でもまあいろいろな議論がございまして、我が党の長勢甚遠衆議院議員が小委員長になりまして、その会議は二十数回に及びました。これはいろんな議論がありましたものを自民党としてようやく集約をしたと。しかし、与党を構成しますのは公明党と自民党でございますので、公明党の方の中でも相当の議論がありました。

 そこで、我が党としては公明党との協議に臨んだわけですが、そこでも意見の相違はございました。これも、世間には発表しておりませんけれども、相当長時間に及ぶ、また未明に及ぶような協議もございまして、それぞれお互いに違いを乗り越えてより良いものにしようという決断をいたしました。それを反映した形で政府案が衆議院に提出をされました。

 そのときに、民主党から修正すべき点について御提示がありまして、この点についても、民主、公明、自民三党で実は真剣な協議を行いました。これは委員会の平場でやったわけではございませんけれども、佐々木、漆原両議員は法曹資格を持っておられる方で、非常に詳しくいろいろな議論をしてくださったわけでございます。

 私は、修正とか法案の成立過程ということを考えますと、一つは、やはり例えば選挙制度のようなものというのは、やはり賛成というのは、広いベースの賛成を得て成立させるべきものだろうと思います。それから、国策にかかわるような、言わば対決法案というものもあるのだろうと思います。それからもう一つの分野は、やはり一人一人の生命、倫理観にかかわるような、例えば臓器移植法案、これは我が党でも党員拘束を外して採決に臨むということでございますけれども、今回の裁判員制度は、やはり私ども自民党の気持ちとしては、各党の御賛成をいただいて祝福された形でスタートをすることが望ましいということで、公明党も自民党も、民主党が提起された修正すべき点については一つ一つ丁寧に耳を傾け、御意見を伺って、どういう修正をすることが望ましいかということをきちんと議論をした上で修正したつもりでございます。

 そういう意味で、本会議にかけましたら、各党の御賛成をいただいて、一応衆議院の段階では全会一致という形になりましたのは、まあ裁判員制度という全く、冒険という表現を今使われましたけれども、革命だという表現も使われましたけれども、まあ新しい制度をスタートするに当たって、やっぱり各党とも御賛成をいただいたという形でスタートをするということは、今後のこの裁判員制度を運用する上で大変貴重な私は出発点になったと思っております。

 修正部分については、私は専門家でないんで、民主、公明の皆様方の御意見を聞いて決断を自民党としてしたものでございまして、修正部分の法律の内容については、是非、佐々木、漆原両議員の御意見を聞いていただきたいと思いますが、少なくとも、いろいろな法案の種類はありますけれども、この法案が全党一致で成立したということは、この法案の今後の運用については大変良かったと私は思っております。

○江田五月君 まあ裁判制度というのは、国を成り立たせるある種の公共財、本当に一番基礎の基礎のインフラストラクチャーですから、対決とかという話じゃなくて、みんなで知恵を出そうと。この今かかっております法案についても、私もここはどうかなという意見も一杯持っております。同床異夢とはあえて言いませんが、木に竹を接いでうまく接ぎ木ができたかなというような部分もあるんですけれども、しかしこれは前を向いてやっていかなきゃならぬということで、みんながそれぞれ、自分自身の意見も抑えながら、ある種の共通の認識を持ったということだと思います。

 そういう認識を私ども野党も持って合意に臨んだわけで、これからこの制度を、五年後といいますか、本当はもっと早い方がいいと思いますが、実施に移していくまでの間も、あるいはその後も、ひとつそういう認識でみんながよりいいものにしていこうということで知恵を出し合うという、そういう姿勢を持っていただきたいと、これ要望しておきます。

 さてそこで、修正案の中身で一つだけ。

 守秘義務の関係については、これは場合を細かく分けて法定刑を下げたといったことだと思います。それは伺いませんが、刑訴法の方について、第二百八十一条の四を修正して第二項を付け加えられたと。この第二項を付け加えた趣旨、これを簡単で結構ですからお答えください。

○衆議院議員(漆原良夫君) 新設の刑訴法の二百八十一条の四第一項は、被告人、弁護人又はこれらであった者による開示証拠の目的外使用を一般的に禁止したものであります。

 ただし、当然のことでございますけれども、同じくこの規定に違反した行為であっても、違反に係る複製等の内容、違反行為の目的、態様など、同条第二項に掲げたものを始めとするいろんな事情によって違反の悪性の程度は異なると考えております。例えば、違反に係る証拠が被害者の日記等のプライバシー性の高いものであるかどうか、営利目的によるものかどうか、インターネットで広く公開、不特定多数の者に対して提供するものであるかどうかによって悪性の程度は異なるというふうに思います。

 そこで、二百八十一条の四の第二項として、被告人らが同条第一項の規定に違反した場合の措置を取るに当たっては、同条第二項に例示したものを始めとする諸事情を考慮すべきであるということを注意的に明らかにしたという趣旨でございます。

○江田五月君 そこで、これ実は、目的外使用については二百八十一条の四で一般的な禁止が書かれている。そして、同条の五で罰則が書かれている。ところが、その禁止と罰則と条文の中身は一緒なんですね。で、こう二つの条文に分かれていて、修正は実は二百八十一条の四の方にしか二項はないわけです。

 そうしますと、堅苦しく考えると、四の方の禁止は、例えばこれは、弁護士会の懲戒などのときに使われる禁止規定で、罰則の方は二項は掛からないんじゃないかと、罰則を科す場合には。というように、こう読む読み方もあるかと思うんですが、私はそうじゃないだろうと思うんですが、これは罰則のときにも、この二項、四の二項は掛かるというのが修正案の提出者の御理解であるかどうか、この点を伺っておきます。

○衆議院議員(漆原良夫君) おっしゃるとおり、同条第二項の措置というのは同条第一項の規定に違反する違反行為に対して取られた法的措置でありまして、弁護士会の懲戒あるいは損害賠償、こういうものを直接的には措置というふうに我々は解釈しております。

 これに対して、目的外使用行為に対する刑事罰は刑訴法の二百八十一条の五の規定によって科せられるものでありまして、二百八十一条の四第一項の規定に違反した場合の措置ではありませんから、形式的には同条第二項の「前項の規定に違反した場合の措置」には含まれない。

 もっとも、二百八十一条の五の罰則は二百八十一条の四第一項の禁止行為に当たる行為を処罰対象としておりますから、検察官が公訴を提起するか不起訴、起訴猶予とするかどうかの判断、あるいはまた裁判官が量刑を行うに当たって諸般の事情を考慮すべきことは当然でありますので、考慮されるべき情状の中に二百八十一条の四第二項に掲げられた諸事情も含まれると考えております。

 したがいまして、二百八十一条の五の規定に違反した行為について検察官や裁判所が判断する場合にも、二百八十一条の四第二項の趣旨をも踏まえて、同項に記載された事情を考慮することになるというふうに考えております。

○江田五月君 二百八十一条の四に禁止規定があって、それに二項が加わって考慮規定があるわけですよね。禁止規定に抵触したときの措置というのが、一つは懲戒があったり損害賠償があったり、もう一つ、その措置というのは二百八十一条の五で言うところの刑事罰というのがあると。

 したがって、措置についてこういうことを考慮するというんですから、文理解釈からしても、二百八十一条の四の二項というのは、二百八十一条の五の刑事罰の適用の場合にも、文理解釈からいってもこの適用があると考えることだってできると思うんですが、修正案の提出者の方は、今のような、どういいますか、規定の全体の趣旨からいって、罰則の適用のときにも考慮されるというように御説明になりました。

 さて、推進本部の方は、今の修正案の提出者の説明、それから私がもう一つ示した文理解釈、どちらをどうとぎりぎりここで詰めるつもりありませんが、いずれにしても二百八十一条の四の二項の考慮規定というものは、懲戒であるとか損害賠償であるとか、あるいは起訴、不起訴か、あるいは裁判所の司法判断とか、すべての場合に適切に参酌されるそういう規定であると、二項はね、という理解を持っておられますか。どうですか。

○政府参考人(山崎潮君) ただいま修正案の提案者でございます漆原議員から御答弁ございましたけれども、私どもも同様の認識を持っている、同様に考えているということでございます。

○江田五月君 さてそこで、ところが、どんどん時間がたって、しまったなと今思っているんですけれども、ところで、二項には今お話しになったようなことで抜けている実は重要な記述がある。公判期日での取調べの有無、それからその方法、公判期日でどういうふうに取り調べられたか、あるいは取り調べられたかどうか、こういうことが参酌される要件として書いてあるわけですね。

 公判期日というものはかなりこれ重要なものだと。つまり、裁判で出てくる証拠の関係ですから、これは。その裁判というのは公開の法廷で行わなきゃならぬ。裁判の公開、確定記録が今度はだれでも見れる、そういうふうにして裁判というのは国民の皆さんに、さあだれでも見てください、傍聴だれでも来てくださいといってやるものだと。そういう、正に憲法上の大原則である、どんなに嫌だってやっぱり裁判は公開でやらなきゃいけないという、そういう大原則である裁判、刑事裁判においては、これが公判期日で行われるという、そこで調べられたということをあえて文章にして書いてあるという、この意味はどういうふうに理解されておりますか、修正案提出者。

○衆議院議員(佐々木秀典君) 佐々木でございます。

 今、委員御指摘のように、これは公判で公開されたかどうかということは一つの大きな基準になるのは間違いないんですね。

 しかし、そうかといって、それでは公判で公開されたものすべてがその目的外で使われることも許容できるかというと、中にはやはり、例えば証拠の性質などによっても問題があるものがあるんじゃないかと思うんです。

 例えば、殺人事件の被害者の被害状況を示す写真などですね。非常に残虐的な状態だなどというものを、これはやはり公判に出されたという場合にも、それから仮にその裁判が確定した後であっても、やはりそれを対外的に人目にさらすというようなことについてはやはり問題があるのではないだろうか、その目的のいかんにかかわらず。

 かかわらずというよりも、目的によってはということは、正当化されることもあると思うんですけれども、そういうことをやはり考慮しなければならないのではないだろうかというようなことも考えておるわけでございまして、やはりその違反行為の悪質性の程度という判断を考えるに当たっては、確かに公開されているかどうかということは重要な要素の一つにはなりますから、その処分だとか、例えばそのことが、目的外使用がこの条文との関係であるいは事件にされそうだとか、あるいは被疑事件として捜査するとか、あるいは起訴されて被告事件になるとかという場合には、しかし判断の大きな大きなポイントになることは間違いないだろうと、そんな思いでこのことを私どもとしては修正項目に入れて、そういうように理解していると、こういうことでございます。

○江田五月君 証拠もいろんな形のものがあります。供述調書なんていうのは最近はもうパソコンで打っているわけで、そのパソコンの印字の形状がどうであるなんてことはどうでもいいことですよね。そういうものが複製で出回ったからといったって、そのこと自体に特に特色というか個性はないわけですから、公判期日で調べられて、ちゃんと朗読がなされて内容がもう公衆に全部分かっている、それが目的外使用だからといってすぐに刑罰を科さなきゃならぬとかいうようなものになるというのはちょっと違いますよということで、公判期日での取調べの有無と方法ということがちゃんと書かれている。

 したがって、そこでの態様いかんによって目的外使用の許容性というのは大きく違って、その公判期日できっちり取り調べられた、しかもその証拠自体に特別の個性というものがない、そういうものについては複製等はしたってそれは平気ですよというようなことがにじみ出た規定だと思いますが、いかがですか。

○衆議院議員(佐々木秀典君) 委員おっしゃるとおりだと私どもも理解をしております。そういうつもりでこの修正も作ったということでございますので、運用に当たっては十分ただいまのような御指摘が配慮されるものと、こう期待をしております。

○江田五月君 改革推進本部の方、今のような修正案の提出者の期待というものは、これはちゃんと受け止めるお気持ちおありでしょうね。

○政府参考人(山崎潮君) ただいま修正案提案者の佐々木議員の方からお話ございました。私どももその意見を十分踏まえて今後の運用をしていきたいと、こういうふうに考えております。

○江田五月君 やっぱり訴追判断、これは検察官が行う、あるいは司法判断、これは裁判所が行う、そういうときに、今の二項の規定というものは十分参酌されると、しかも特に公判期日で取り調べたかどうか、その方法はどうであったか、そういうこともちゃんと参酌されるということを確認をしておきます。

 私としては、公判期日で、しかも十分に傍聴人にもよく分かる形で取り調べた、そういう証拠が目的外使用されたからといって、すぐ犯罪行為を成すという、これはやはり公判期日要件というのは犯罪行為の成否のところにもかかわる一つの重要な要件だと私は思っておりますが、これは答弁を求めません。

 修正案の皆さん、結構です。どうもありがとうございました。

 そこで、元へ戻りまして、おととい、新聞に最高裁模擬裁判してみたらというのが出まして、裁判員困惑、厚い書類読むの大変、どっちの主張にも納得、最高裁が模擬裁判したら、これは大変なことだという、そういう記事が出たんですが、こういう模擬裁判というのはやったことあるんですか、最高裁。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 記事にありますとおり、本年の四月の上旬に裁判員裁判のシミュレーションといいますか、模擬裁判を行ったことございます。

○江田五月君 これは、この記事で読む限りでいえば、従来の刑事裁判のやり方で裁判員裁判をやってみたというように読めるんですけれども、何か記録が、この漫画で見ると記録がこんなになっているの、何メートルあるんですかね。従来の裁判、刑事裁判のやり方で裁判員裁判をやってみるということ自体がおかしいんじゃないかと思いますが、どういう趣旨で従来の制度でやってみたんですか。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 従来のやり方ということではございませんで、できるだけ公判廷で心証を取ってもらうということで、私どもとしましては、証拠書類についてはできるだけ絞ってみると、それから争点に関する部分につきましてはできるだけ朗読に近いような形でやってみる、あるいはプロジェクター等を使ってやると、あるいは人形等も使って、聞くだけでなく見て分かるというようなことを試みました。

 それで、公判廷での証拠調べでどれだけ裁判員の方々が分かってもらえるようにするためにどうしたらいいかという工夫をしてみたわけですが、必ずしもそれが成功したとは言えないといいますか、分かってもらえなかったと。もし分かってもらえないとすると、その書証を読んでもらうというようなことになってはこれは大変であると、そういう趣旨で、私どもが、裁判員の方が記録を読むのは大変なことであると、それが量が多くなればますます大変になるでしょうという趣旨での印象といいますか、感想を述べたものでありますけれども。

○江田五月君 なるほどね。漫画では書類が二メートルぐらい積み上がっていますが、文章の中身では、書類は厚さ五センチ、約四百ページ。それでも大変ですが。

 そうですか、私はもうちょっと善意に解釈していたんですよ。従来の刑事裁判のやり方でやってみて、それで裁判員制度でそれをやってみて、ああ、ここは変えなきゃいけぬ、ここは変えなきゃいけないというところが一杯論点が上がってくるというので、まず従来のものでそのままやったらこれは大変だという、そういう結果をまず得て、で、どういうふうに変えていったら裁判員制度ができるかなという、そういう資料集めのために従来どおりのことをやってごらんになったのかなと。それはちょっと善意に解釈し過ぎだったわけですかね。

 いずれにしても、この直接主義、口頭主義をもっと徹底した手続になっていかなきゃいけないので、こういうことをずっと重ねながら、どういうふうにしたらうまくいけるか、できるかというのを研究されるのだと思いますが、こういうものをおやりになって、これは報告書か何か出るんですかね。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) まだまだ試行といいますか、私どもも手探りの状態でやっているところでありますので、まだお示しできるような資料は現在のところはないということでございます。

○江田五月君 どうぞ願わくば、最高裁でこういう模擬裁判をなさるときもなるべくオープンにひとつやっていただいて、みんなでこの問題点についての認識を共有しながら、これをよりいいものにしていく方法をお取りいただきたいと思いますが。

 それともう一つは、確かに裁判員困惑だろうと思います。だけれども、こう「裁判員困惑」と、こんなに大きな活字が並ぶと、やっぱり国民の皆さん、これは裁判員制度は良くないというふうにすぐ思ってしまうので、そこは、もし従来のやり方でやるとこんなに大変になるという、そういう資料集めでおやりになっているんだったら、そういう趣旨がちゃんと伝わるような打ち出し方の工夫はされた方がいいと御要望しておきます。

 確かにいろんな論点が出てきて、例えば裁判員同士が話をするのに打ち解ける、それだけでも約一時間の評議の最後になってやっと打ち解けられたというようなことですから、そういう人間関係を作っていく技術なんてもう、裁判員制度を実際に円滑に動かしていこうと思うと大変だということとか、いろいろありますが。

 もう一つ、こういう模擬裁判のほかに、前回の質疑のときに私は弁護士会が作った映画「裁判員」のことを申しました。大臣ごらんいただいたということでございます。副大臣、政務官はいかがでしょうか。簡単に、ごらんになったら感想を、簡単にで結構ですからお述べください。

○国務大臣(野沢太三君) 委員から御示唆をいただきまして早速見たわけでございますが、全部見終わった結論といたしましては、改めて、一般の人の参加する裁判の信頼性ということについて、やっぱりこれでいいんだという再確認をした思いでございます。

 具体的には、専門の裁判官が事務的に最初対応していてロボットのようだと言われていたのが、評議を重ねるうちにだんだん変わってきたと。で、心証が最終的には変わったというこの一つ。それから、目撃していました証人が二人、全く反対の証言をしておられますが、そのどちらを裁判員の方が信用するかという、これが大変ドラマチックに浮き彫りになりまして、結論がいい方向に行ったと。この点も大変興味深く拝察をいたしました。

 見終わったときの感想は、先ほど申しましたとおり、やっぱり大勢で常識で判断するということの正しさを私も確認したんですが、一緒に見ていた家内は、とても大変でこれはやりたくないと、これが正直な話でございまして、はっきりしていることは、まず私の場合には家内から説得せねばならぬかなというくらい、まだまだこの制度を国民の皆様に定着、理解していただくには相当な努力が要るというのが一つ残った次第でございます。
 以上です。

○江田五月君 時間がありませんので、副大臣、政務官、済みません、今の感想はまた、しっかりごらんになっておいて、十分反芻してみていただきたいと思います。

 あの「裁判員」というのは評議がテーマなんですが、評議の前に実は整理の手続があったはずだと思うんですが、あれをごらんになって、山崎さん、ごらんになっていますよね、どんな整理があったと想像されますか。

○政府参考人(山崎潮君) 私、多分一年ぐらい前に見ておりますが、実はその目撃証人と言われるその少年ですね、この少年がどこの段階で判明したのか、あるいはちょっとその供述調書があったのかどうかとかですね、その辺の詳細が、私、余りよく記憶しておりません、記憶していないのは正しい反応だと思いますけれども。

 それで、具体的なことを申し上げるのはちょっとなかなか難しいんでございますけれども、仮にこの証人、その少年の供述調書があるという前提であれば、まず検察の方からもう一人の目撃者の調書等が出されて、それで自分で突き落としたんではないということであれば、その調書は不同意だということになろうかと思います。そうなりますと、証人で調べていくということになろうかと思います。それ以外の争いのないものについては、あるいは同意をして書面を出していくと。こういう手続を公判前整理手続でやっていくだろうと思います。

 その検事の方から出されたことに関して、今度、被告人側の主張ということになるわけでございますので、そうなりますと自分は突き落としてはいないと、こういう主張をするわけでございます。争点が、突き落としたのかそうでないのかというのが明らかになってくるわけでございます。そこで、必要であらば証拠開示手続等もございますので、必要なものについては被告人の側の方から開示を申し立てる、検察の方でその書証等を開示をしていくと、こういう手続になっていくと。それで最終的に争点を絞って、証人はだれにするか、何日で審理を行うかと、こういうことが前提であの場面につながっていくんだろうというふうに理解をしております。

○江田五月君 あの事件では争点というのは、突き落としたのか足を踏み外したのかということなんですね。

 裁判官が一番最初に、まあ今日の事件は簡単だろうとかいう、つまり被告人も自白をしていますし、現実に死んでいるという事実もはっきりしているわけだしというような裁判官らしい事件の読み、これをまず持って出ていくわけですよね。しかし、実際には突き落としたか踏み外したかというところで。だから、ちょっとあのドラマ、その辺はきっちりできていないかもしれませんよね。もし、事前の整理の手続で、突き落としたか踏み外したかが争点であると、それには二人の目撃、別の目撃証人がいるというようなことがはっきりしておれば、裁判官が今日はまあ簡単だというような印象を持って臨むということはないですよね。

 しかし、裁判員制度の適切な、あるいは予定された、こうあってほしいと思われるそういう手続からすると、事前の整理があって、今の突き落としたか踏み外したかが争点だということがはっきりして、証人はそれぞれこうなっていてということで法廷に臨むということがいいんだと思うんですが。

 さてそこで、裁判官でもまあ今日のは簡単だというようなことですから、検察官の方は、取調べ予定証拠としては下から目撃していた奥さんの調書と、それから被告人の方は、私悪いことをしたと言っているわけですから、そういう被告人の供述調書と、そんなものをちゃんと用意して出てくると。供述調書を用意するのがいいのか、初めから証人でいくのがいいのか、直接主義ですから初めから証人の方がいいかと思いますけれども。上で見ていた、踏み外したと言う少年は隠されているわけですよね。隠されているわけですよ。

 事前の整理の段階で、そこまでそういう目撃証人がいて、そういう供述調書もあるというようなことがどうやって分かるんだと。この法案の証拠開示の一連のプロセスの中で、そういうものがあるということがなぜ分かるのか。これは私は大変疑問だと思うんですが、どうお答えになりますか。

○政府参考人(山崎潮君) 正に、突き落としたのか足を踏み外したのかというところがポイントでございます。

 被告人側の方としては、自分はやっていないんだということで主張をするということになります。そうなった場合に、検察の方からはもちろん目撃証人という形の供述調書が出てきますけれども、この場合に、自分の主張、あるいは検察が証明しようとしているその証明力、重要なポイントについてそれを争うということであれば、それだけなのか、それ以外にも証拠があるのかという可能性が当然あるわけでございますので、それならば犯行現場を目撃した者の供述調書、これについて開示を求めるという形で概括的な特定で求めていただければあるものは出すという、そういう構造になっております。

 あるいは手続的には、釈明等を通じて、ほかに現場にいろいろ遺留物があったのかどうか、あるいはほかにも目撃者がいたかどうかとか、そういうような釈明も可能であろうと思いますし、今のような手続で証拠開示の請求をしていただければ重要なものについてはお出しをすると、こういう構造になります。

○江田五月君 そこはもう少し実態というものについての洞察力を持っていただきたい、裁判の実態についてですね。

 つまり、下で見ていた主婦の突き落としたという目撃証言があると。被告人はどうかというと、自分は悪いことをしたと思っているわけですからね。ですから、そんなに、私は突き落としたんじゃありませんなんということを言えるような心境にない。むしろ、取調べで密室でずっと身柄を拘束されて、その中でずっとそういう、もうこれは認めて、亡くなったお母さんを、償わなかったら、の霊を弔わなかったらいけないという、そんな心境になってしまうわけですからね。ですから、上の少年が足を踏み外したというのを見ているなんということは隠れてしまうんですよね。弁護人だって、よっぽど洞察力が、神業的洞察力がなかったら、そんな証人がいるなんてことを想像しないですよ。

 それで、今のように、しかも概括的な請求でいいんだとおっしゃいますが、刑訴法三百十六条の十五の証明力を判断する証拠という規定、あるいは同条の二十の主張に関連する証拠だって、ある程度証拠を特定して開示を請求しろというふうに読めなくもない。そんなに漠たるこの行為の態様について関係する証拠と。行為というのは、つまり突き落としたか足を踏み外したか、そこの社会的事実についての関連する証拠というようなことでもいいんですか。どのくらいあそこは証拠開示を請求するときに特定するんですか。

○政府参考人(山崎潮君) まず、前提でちょっと申し上げたいんですけれども、仮に検察側の方で少年Aの供述、これを分かっているという状況であれば、もう少しいろいろ捜査がされただろうということにもなりますので、そこのところはちょっとよく、私も具体的なシチュエーションが分からないので何とも言えないんですけれども、一般論でちょっと申し上げますと、先ほど来申し上げておりますけれども、その特定につきましては開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項というふうに申しておりまして、これは例えば具体的に申し上げれば、犯行状況の目撃者の供述調書、こういう範疇のが一つ、それから犯行現場から押収された証拠物とか、こういう形で結構でございます。

 したがいまして、弁護人が具体的に、他の参考人ですね、少年の供述調書の存在を認識していない場合であっても、そういう形で請求がされれば、それが証明力を争うについて重要である、あるいは被告人の主張にとって重要であるというものについては、弊害の有無等はもちろんありますけれども、これはお出しをしていくと、こういうことでございます。

○江田五月君 その識別と言っても、何かやみ夜で手探りで証拠はどこにあるかと言っているようなもので、私はやはり、それ、全部証拠の隅々まで開示をしろとは言いませんけれども、一応こういう手持ち証拠がありますと、その証拠のリストぐらいのことはちゃんと開示をすべきではないかと思いますが、まあこれは、これから施行までの間にいろんな模擬裁判などなどやってごらんになって、そこからこの開示でいいかなということはまた再検討していただきたいと思います。

 その他一杯聞くことがあるんですけれども、実は大臣、面白いことがあって、大阪で公聴会をやってきたんですよ。その公聴会で、検察審査協会というのがありまして、これは検察審査会の検察審査員か、これを経験した皆さんの同窓会かな、その会なんですが、ここの遠藤一清という公述人が来てくれまして、この人が、速記を取っていますので後で速記を見ればはっきりしますが、私のメモだと、毎年、裁判員と検審員、検察審査員、これで二万一千人もの人が刑事裁判にかかわるんだと。検察審査会へ行くと、結構皆何か刑事裁判というものにかかわって、ある種の達成感、満足感を持って帰って、ああ良かったというように思うというんですね。

 別の見方で言うと、二十から七十まで裁判員やるわけですから、一人の人生の中で大体五十年、その五十年がたったら制度が平衡状態に移るわけですよね。そうすると、五十年というタームで見ると、国民七十九人に一人が裁判員を一度は経験するんだというんですね、五十年間で。こういう皆さんがそれぞれ裁判員の経験というのを社会にずっと伝えていく。で、裁判員として裁判に参加することである種の達成感あるいは満足感が得られれば、その人々が社会で発言していくことによって日本社会が変わってくる可能性があると、こう遠藤さんはおっしゃるんです。

 つまり、犯罪とか裁判とかに直接に触れることによって人や社会に対する理解あるいは思い、こういうものが深まっていって、自分たち中心の社会から思いやりのある社会に社会というものが変わっていくんじゃないか、こういうことを言われたんですが、これ、大臣、どういう、直接本人からお聞きにならないと、私の説明では十分伝わらないかもしれませんが、大体感じはお分かりでしょうかね、どういう感想をお持ちになりますか。

○国務大臣(野沢太三君) 実は私の知り合いにも検察審査会でもう既に何十年にわたってお務めいただいてきたという、こういう方がおります。その方が改めて私のところへごあいさつに来てくれまして、今度の裁判員制度というものは大変意義のあるものというアドバイスを言っておられました。

 公聴会での御発言は要約の方で拝聴しておりますけれども、この裁判員制度の導入によりまして国民に刑事裁判の過程に直接参加していただくことは、裁判員を経験した方々に社会秩序や治安あるいは犯罪の被害や人権といった問題について自分たちにもかかわりのある問題としてお考えいただく契機にもなるものと考えておりまして、その意味で大変意義のある制度ですが、私は、この制度が実効ある形で動き出しますと、ある意味で日本の社会の遵法精神といいますか、そういった意味でのバックボーンになるんじゃないかなと、こう思うわけでございます。

 そう急には目立たないけれども、本当に日本が法によって秩序を維持し、住みやすく、また明るい社会に変わっていく大きなきっかけというふうに考えておりまして、その意味で、検察関係で半世紀にわたる実績を積んでこられた方々の御意見も大変参考になることと考えております。

○江田五月君 犯罪というのは、やっぱり一つ一つが生きたドラマなんですよね。犯人といえども、その犯行に至る過程でこういう葛藤があったんだとか、なるほどああいうつらい思いをしたんだとか、いろいろある。被害者の方も、もちろん被害に遭ったということがどれほど深い人生における傷となっているかといったことも、これも理解していかなきゃならぬ。そういうことを、生きた裁判に素人の人たちがかかわることによって、事件をワイドショー的に見るのとまた違う理解ができてくるわけですよね。そういうものが社会にずっと伝わることによって、この人間社会がもっと、人がお互いに理解し合っていこうという、そういうレベルに達していくんじゃないかと、そんなことを言われているわけで。

 さてそこで、そうだとすると、そういうことも期待しようとすると、もちろん守秘義務で一定のものは、それは掛けなきゃいけないことは分かりますが、なるべく裁判員で経験したことは大いにひとつみんなに話してくださいねという、そういう態度の方がむしろいいのではないか。守秘義務で口を閉ざしてしまうより、裁判員の経験を社会に広げることを推奨した方がいいと思いますが、どうですか。

○国務大臣(野沢太三君) 評議の秘密についての守秘義務を課すという点につきましては、裁判の公正さや裁判への信頼を確保したり、評議における自由な意見表明を保障するためにはやむを得ないということでございます。

 しかしながら、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密に当たらない限り、委員今御指摘をいただいているとおり、裁判員経験者が経験談を大いに述べていただきまして、将来の社会のためにも、あるいはさらにこれから参加していただける方の御参考にもなることでございますので、大いにこれは意義あることと考えております。

○江田五月君 評議のことでも、裁判官というのは随分頭が固い、ロボットみたいだったと思ったけれども、だんだんやっぱり話していたら、あの人たちも人間なのよねというような、そんなことも面白い話なんですよね。何かそれがばれたからといって、別段困ることは全くないと思う。私は、裁判のような場面であっても、そんなに人間社会で秘密は多いことないので、評議のようなところでもむしろ秘密は本当にもうわずかなところで、多くのことは大体どこに出したって別に天地神明に恥じるようなことは何もないので、なるべくおおらかにいった方がいい、なるべくおおらかに運用した方がいいと思います。

 裁判員の皆さんが、例えば雇用の場で不利益になるんじゃないかといろんな心配をお持ちになる。山崎局長は、もし解雇されたらそれは司法上無効であるから、解雇無効の裁判をやったら元へ戻るという答弁されていましたが、さて、そんな裁判までやって復職するようなことをしたらますますその会社にいられなくなるというのが実態なんですよね。

 私は、だから、これはやっぱりそういうことじゃなくて、社会の実態を考えたら、裁判員の皆さんの雇用の場を始めとするいろんな不安をなくしていくと。そのためにアフターケアに万遺漏なきを期するために、事後的にも、例えば裁判員をやってくれた皆さんのいろんな相談事に、刑務所へ行ったあの人が帰ってくるの私心配なんだけれどもというようなこともあるでしょう。いろんなことがあるでしょう。事後的なそういう心配事にも乗るような、そんなことも何か考えた方がいいんじゃないかと。

 これは制度的にいろいろと詰める話じゃなくて、ちょっと問題提起としては誠に漠然と気持ちだけをちょっとお伝え、お話をしておきたいと思うんですが、そういう裁判員の事後のアフターケア、こうしたことも大切じゃないかという私の問題提起に、法務大臣、どうお答えになりますか。

○国務大臣(野沢太三君) 裁判員制度の趣旨にかんがみまして、幅広い国民の皆様に裁判員となっていただくことが極めてこれ重要でございまして、様々な事情を抱える一般の国民の方々が裁判員として参加しやすくするためには様々な工夫が必要であると考えております。

 具体的にどうするか、これから考えなければならぬわけでございますが、どの程度の結局事件が起こってくるか、あるいは御負担がどの程度のものか、また経済的な負担、事情を含め、あるいは財政事情を含めての国の対応もございますし、何よりもまず国民の皆様の意識の問題があろうと思います。

 私ども法務省の場合には、いわゆる法律で定められていること以外に、例えば保護司さんの御活動のように全くボランティア的な御活動によって支えられている部分もございますので、この制度が動き出した暁には、裁判員になることがむしろ本当に国民として一つの誇りに思えるような国民的風潮といいましょうか、ムードを醸成するような一種の国民運動みたいなことを促していくということも大事なことと考えておりまして、これは事務的、法律的にどうするこうするということよりも、広く国民の皆様の御賛同をいただいた新しい法治社会を築いていくんだと、こういうことが全体の中で醸成されるような運動を進められたらいいかなと、こう思っておるところでございます。

○江田五月君 評議と評決についてちょっとだけ伺っておきますが、私は、やはり評議、評決についてはルールをきっちり作っておく必要があると思います。そのルールも、最高裁規則というようなものにするのがいいのか、あるいはモデルルールとか御推奨メニューとか、そういうような形かも分かりませんけれども、何かやっぱりないと、小田原評定で、会議は踊るで、結局結論は何だか訳が分からず丸め込まれたという感じを持って帰ったんじゃ大変ですからね。

 そこで、これは最高裁に伺うんですが、例えば意見を言う順序は裁判員からの方がいいですとか、あるいは若い人からの方がいいですとかというような、そういうルールぐらいは作られたらどうです。それがないと、さっきの模擬裁判じゃないけれども、一時間も掛かってやっと最後に打ち解けたということになって、打ち解けるだけで時間を費やしてしまうということじゃ大変ですが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 合議という、評議といいますのは本当に事件によって千差万別ですし、その構成によって、年が若いから、あるいは高齢だから、話がすぐに出てくる人かどうかとかいろいろあるかと思うんです。もちろん、裁判員から先に話をしていただくということは、これはもう評議をする上で裁判官が心掛けておくべきことだろうと思います。

 ただ、若い人からがいいといったようなことを含めて、いろいろな事案の中で、そして来られた方、どういう方が来られているのかという辺りを裁判官がいろいろな接触する場面の中で確認しながら、どの方から発言してもらうのが一番適切なのかという辺りを考えていくことになるんだろうと思いますので、そこを一定のルール化してしまうことについては必ずしも適切でない場面も生ずるのではないかというふうに考えております。

○江田五月君 適切でない場面も生ずるかもしれませんから、余りがっちりしたものじゃなくて、しかし、こういうモデルというようなものはあった方がいいんじゃないかということを言っているんですが。

 そこで、最後の評決なんですが、これ、過半数ということにはなってはいるんですけれども、裁判員の皆さんが、もういろんな議論をした後、自分としてはこの意見でもうこれで変わるようなことはない、しかしみんなが一つのものにならない、それならしようがないから、じゃ過半数で決めましょうねという、そういう納得を得た上で評決ということにならないと、ぱらぱらっと意見言いました、はいはい、じゃもう評決ですと、これで過半数ですからというんじゃ、達成感、満足感というものは出てこないと思うんですね。

 ですから、評決で最後決めるというときには、その評決で決を採って決めるということについてのみんなの納得、これを非常に大切にしていかなければいい運用にならないと思うんですが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) おっしゃるとおりで、裁判官としましてもできるだけ評議を尽くして、意見が一致するというところまで評議を尽くしていきたいというふうに思っております。

 しかしながら、それでも意見が一致しない場合、もうぎりぎりやっても結局は意見がなかなか一致できないという場合には、恐らく評決をせざるを得ないと思います。その際にもできるだけ、もうここまで議論して意見は一致しませんねということで、ほかの方の、裁判員の方々の意見も聞いた上で納得できるような形でやっていきたいと思います。

 ただ、その場合でも、一人でも、いや、もう少しということがあった場合に、ほかの方々はもう結構ですと言っているときにどうするかと。そこまでやるかとなると、それは状況の問題かなというふうに思っております。

○江田五月君 そのほかにも今日は、公判記録をどういうふうに作っていくのか、記録の編綴をどうするのかなどといったような技術的なこともいろいろ聞きたかったんですが、時間がありません、終わります。


2004/05/20

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