2002/11/07

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155 参院・法務委員会

10時から2時間半、法務委員会。人権擁護法案の実質審議で、自民党の質問の後、野党のトップバッターとして私が90分間質問。冒頭、石井紘基さんの事件につき私の思いを述べ、森山法相も「単純な動機のように言われますが、本当かなと思います」との趣旨の答弁されました。人権擁護法案については、独立性、実効性、地方での取り組みなどにつき、実態にメスを入れた質問をしました。民主党は、政府案には反対ですが、これを潰すことが目的ではありません。抜本修正により、より良い人権委員会を作りたいと思います。


江田議員、人権擁護法案の抜本改正求める (民主党ニュース)

 民主党の江田五月参議院議員は、7日に開かれた法務委員会で人権擁護法案の問題点を指摘し、抜本改正の必要性を示した。

 江田議員は冒頭、先月25日に暴漢に刺され、無念の死をとげた石井紘基衆院議員の事件に触れ、現在、犯人側からの一方的な情報だけが報道され、“金銭的なトラブル”といった世間の心証が形成されているのは無念だと述べ、事件の背景についての徹底した捜査を森山法相に要請した。

 実質審議に入った人権擁護法案については、「人権侵害による被害の救済機関の設置は実現しなければならないと考えるが、政府案にはあまりにも重大な問題がある。政府案を抜本改正して遅滞なく法案を成立させたい」との立場を明らかにし、質問を行った。

 江田議員はこの法案提出にいたる背景・経緯には人権擁護を目指す2つの大きな流れがあるとの見方を示し、1つは部落差別問題を原点とする日本国内の流れ、もう1つはパリ原則に代表される国際社会の流れだと指摘。「(法案策定に向けた)調査・審議の過程では十分なヒアリングを行った」などとする政府答弁に対して、「部落解放運動を行っている人たちの思いはこの法案に入っているか」と質し、その内容の不十分さを改めて指摘した。

 また、98年の国連の国際人権規約委員会の最終勧告で「警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置する」べきことが指摘されたにもかかわらず、本法案はその勧告に明らかに反すると分析。法務省の外局とすると定めている人権委員会の「独立性」と報道規制、人権救済の「実効性」の3つの重大な問題点を指摘し、人権委員会の公正性を担保するために内閣府に置くとした民主党案の有効性を示した。

 さらに江田議員は、人権擁護法にメディアに対する規制が設けられている国は他にないことを確認し、「人権委員会という公権力が人権侵害救済の名目で表現の自由、言論の自由を侵害するのは本末転倒」と厳しく批判。また、全国の8つのブロックに人権問題の地方事務所を置き、他は地方法務局に委任することで対応するとしている政府案の実効性の乏しさにも言及し、中央人権委員会の下に、都道府県には地方人権委員会を置き、さらに市町村において活動する人権擁護委員を置くとしている民主党案をあらためて検討するよう求めた。


平成十四年十一月七日(木曜日)

○江田五月君 おはようございます。
 冒頭、個人的な思いを込めた発言を二つだけさせていただきます。
 まず第一は、森山法務大臣は今日がお誕生日だそうで、おめでとうございます。これは質問じゃありません。

 次はちょっと質問、この場をおかりして是非申し上げておきたいんですが、去る十月二十五日に、暴漢によって私どもの同志である石井紘基衆議院議員が無念の死を遂げました。大臣は、先日の所信の中で、冒頭、そのことにも触れていただきまして大変ありがとうございました。

 御承知の方もおられると思いますけれども、石井さんと私とは学生運動以来の友人、もう四十年を超える友人で、その後、彼は旧社会党本部の職員となって、私の父、江田三郎が社会党を離党したときに直ちに黙って行動をともにしてくれた。父の死が間近いというときに、当時、裁判官だった私を説得して政治家になることを勧めた。それで、私が参議院議員に、一九七七年ですが、当選すると、まあ裁判官から政治の世界へ入ったわけですから、政治のことはもう西も東も、右も左も分からない私の師匠役として第一秘書、公設秘書を務めてくれた。九三年に衆議院に初当選して三期議員活動を続けて、その中で、特に数多くの不正、権力悪と真っ正面から闘った。したがって、それはいろんな人に恨みも買っていたかと思います。本当に、何事にも恐れず勇敢に国会の場で不正を追及する活動を続けてきた。これはもう皆さん御承知のとおり。いろんな危ないと思われるような人にも付きまとわれたこともあるかもしれません。

 私は思い出すんですが、私の父が一九六〇年に社会党の、旧社会党の書記長から委員長代行になった。それは、当時の浅沼稲次郎委員長が日比谷公会堂で刺殺をされた後だったんですね。当時、そういう事情ですから、父のところに、それこそ警察の皆さんが警備をしっかりしようといってきて、私の父は何と言ったか。公衆の面前で野党第一党の委員長が殺されるのを何にもできなかったおまえたちに、警備は要らない、してもらうことは要らないと、こう言って、まあそれでも警備はやっていましたけれども。そんな父の姿に石井さんはあこがれて、したがっていろいろ危ないことがあっても彼はもう平然としていただろうと思うんですね。しかし、非業の死ということになって、私は、やはり彼の悪と闘う議員活動とこの非業の死は無関係であるはずがないと信じておりました。

 しかし、今、彼は既に死のふちに沈んで、言葉を発することはできません。犯人の方は幾らでも今しゃべることができる。その犯人の側の一方的な情報だけがどうも報道されているという、そして世間の心証が形成されていくというような感じを私は受ける。金銭トラブルでというけれども、全く無関係な、いわれのない無心をされて、それを断って、それが金銭トラブルでしょうか。そんなことはないですよね。そんなことで人が殺されるんじゃ、それはたまったものじゃない。

 通告ありませんが、森山法務大臣、ひとつ是非これは、この事件をどうとらえておられるか、そして捜査について、捜査の指揮をしろというんじゃありませんが、大臣として、彼が追及してきた悪と刺殺との関係、これはやはり法務大臣としてきっちりと調べてもらうことを期待をするという、そういう気持ちでおられるかどうか、この点を伺っておきます。

○国務大臣(森山眞弓君) 石井代議士のあの事件につきましては、与野党を問わず、また個人的なお付き合いが深い方はもちろんのこと、そうでない方々も大変大きな衝撃を受けたというふうに思います。私は、たまたま事件が起こったところの近くに住んでおりますものですから、なおさら人ごととは思えないという気持ちで大変なショックを受けました。

 そして、犯人が割合に短時間で出頭いたしまして、逮捕され、捜査をされているということで、それはまあよかったというふうに思ったわけでございますが、その後の報道によって承知するところにおきましては、割合に単純な動機というようなことのようでございますので、本当だろうかというような気持ちが同じようにございます。しかし、これは今、捜査の専門家が十分、表に現れたものばかりではなく、その他の動機あるいは背景についても調査をしていることと存じますので、その結果を待ちたいというふうに考えております。

○江田五月君 今日、私ども民主党は、党本部も主催者の一団体になって石井紘基君のお別れの会を持ちます。その場で森山法務大臣の今のお気持ち、お言葉、石井君の霊に報告をしたいと思います。

 さて、人権擁護法案です。実質審議が始まりました。さきの通常国会会期中の三月八日でしたか、政府の人権擁護法案が参議院先議で国会に提出された。本会議の趣旨説明、質疑を行いましたが、当法務委員会では、通常国会では趣旨説明だけで継続審議と。

 私は、通常国会会期中は民主党の法務ネクスト大臣ということで、本日ただいまの法務大臣森山眞弓さんと、私の方はネクストでございますが、法務大臣ということで、カウンターパートのつもりでいろいろなお話をさせていただいたつもりですが、この法案についても直接の民主党の方の責任者でございました。同時に、私は、民主党の国内人権救済機関設置ワーキングチームというものを作って、その座長も引き受けておりまして、これは今でも引き受けておるんですが、そんなことで、政府案に対して私どもの方の法案の大綱をまとめて、これは対案ということになりますが、同時に、対案だけで国会審議に臨むのではなくて、抜本修正を求めようということで修正案もまとめております。十月三日から民主党の新体制で法務ネクスト大臣は衆議院の平岡秀夫議員になっておりますが、私も引き続き責任者の一人として今日は質問させていただきます。

 最初に、法務大臣に伺いますが、私どもは、人権侵害による被害、これに対して救済機関をしっかりしたものを作る、人権委員会を作る、そのことは必ず実現をしなきゃならぬと思っています。その意味では、皆さんと全く対立する立場でお互いに対決をするという、そういう立場ではありません。よりいいものを作ろうという気持ちでおりますが、しかし残念ながら、政府案には余りにも重大な問題があるから反対であって、そして修正案を用意しておるということでございます。

 したがって、政府案を廃案にすべきだとか、いたずらに先送りをしていいとか、それは全く思っておりませんが、国会での実質的な議論を踏まえて、政府案の抜本修正をして、そして遅滞なく法案を成立させたいと強く思っておりますが、そういう意味で、実りのある議論をしたいと思うんですが、森山法務大臣、同様なお考え、そういう、どういいますか、この人権委員会というものを作ろうということに対する私どもの気持ちは分かっていただけると思うんですが、姿勢をまず伺っておきます。

○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおりでございまして、よりよい仕組みを作らなければいけないということは、おっしゃったとおり共通の問題意識だろうと思います。そして、先ほども申し上げましたが、そのためにはどのような仕組みでどのようなやり方でやったらいいかということについて、長い間多くの方のお知恵をおかりしてようやくでき上がりましたこの法案でございますので、私どもといたしましてはこれが最善のものというふうに考えて御提案申し上げたわけでございますので、どうぞよろしく御審議いただきたいというふうに思っております。

○江田五月君 最善のものを作ったんだという言い方しかできないのはよく分かりますけれども、しかしいろんな今の行政の仕組みの中でいろいろ考えるとこれが最善だと。しかし、行政の仕組み自体がどうもちょっとおかしいなというところもいろいろあると思うんですね。ですから、これは、やはり理想的なものができたというふうに言われると、えっ、森山大臣の理想はそんなものだったのと、こう言わざるを得ないという気がするんですが、続いて伺います。

 本法案の趣旨説明の中で、我が国には今日においても不当な差別、虐待その他の人権侵害がなお存在していると、こういうことを述べておられますね。

 さてそこで、現在の日本の人権の状況について基本的にどういう認識を持っておられるのか。つまり、国際的に見てもまずまずのところにあるというふうに考えておられるのか、それとも強力な人権救済機関の設置やあるいは教育・啓発活動などによって改善すべき状況にあるんだと、こうお考えになるのか、日本の人権状況についてどういうお考えであるのか、ちょっとざっくりとした質問ですが、お答えください。

○国務大臣(森山眞弓君) 我が国におきます主な人権課題の現状を見ますと、まず女性とか子供、高齢者、障害者、同和関係者、アイヌの人々、外国人、HIV感染者、ハンセン病の患者、同性愛者等の一般的に弱い立場にある人々に対する差別、虐待といったようなものが顕著な問題となっておりますほか、公権力による固有の問題として、捜査手続や拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待等の様々な人権侵害の問題があると承知しております。

 これらに加えまして、犯罪の被害者やその家族につきまして、時には少年事件などの加害者本人につきましても、マスメディアの興味本位又は行き過ぎた取材や報道によるプライバシーの侵害の問題がありますほか、特にこのごろは、インターネット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示なども問題となっているというふうに承知しておりまして、非常に様々な広範囲の問題があり、それがなお解決しにくい問題として出ているということを承知しております。

○江田五月君 広範囲の人権に危惧を抱かざるを得ない分野についてお話しになりました。どこの国でも、いわゆる括弧付きですが、先進国と言われる国でも、それは人権侵害というのはどこでもある。どこでもあるからいいんじゃなくて、そういう人権侵害はあるが、それに対してどう救済をしていくかというその気持ちがその社会にあふれているか、そしてそういう気持ちを体していろんなシステムがきっちりできているか、これが大切だと思うんです。日本に人権侵害なんというのはないんだというような状況ではないよと、そのことは森山大臣、しっかりと認識していただいておって有り難いんですが。

 さて、日本の国内に、人権は侵害されちゃいけないんだ、人権というのは何より尊ばなきゃいけないんだという、そういう気持ちが日本の社会の中にちゃんと満ちあふれているかどうかということになると、私はまずそこのところが本当に問題だと。

 人権侵害というのは目をつぶっていればそれっきりで別に何ともないと。あるいは、侵害された本人でも、いや、私が悪いからこんな目に遭うんだなどというふうに思い込んでしまうようなことだってあるんですよね。それを思い込ませるようにする例だってあるんです。例えば、学校教育の中でいじめというのがありますよね。先生によっては、あなたがいじめられるような性格だからいけないのよなんて言って、ああ、私の性格は駄目なのねといってますますいじけるなんてことになるんで。やはり、社会のどこにあっても、人権侵害じゃないかと思われる事例があれば、それはみんな声を出して言わなきゃいけない、そしてそういうことがなくなるように努力しなきゃいけない。

 ところが、どうも最近、例えば人権派なんて言うと差別用語みたいに、何か、人権派だからあいつはそんなことを言うんだよね、本当にうるさいやつで、ちょっとどっかわきへどいていてくれないかなんというような、そんな風潮さえあるような気がするんですが、その点はどうお感じになりますか。

○国務大臣(森山眞弓君) 確かに、我が国において人権思想が、人権を尊重するという思想が満ちあふれていればいろんな人権侵害の事件が起こるはずがないわけでございますから、先ほど私がいろいろと申し上げたようなことが残念ながら散見されるということは、まだまだ意識が十分でないということを証明するものであろうと思います。

 ですから、人権問題の解決のためには、まずその意識を変えるということが基本的に重要だろうと思いますが、それとともに併せて、問題が起こったときにどのように処理していくかと、両方相まって目的を果たすことができるんではないかというふうに考えます。

○江田五月君 そこで、まず伺いますが、やはり国民の中に人権意識というものを普及啓発していく人権教育を行っていく、これは非常に重要なことだと思うんですが、この正に人権擁護の言わば集大成とも、そうまで言うとこの法案の方が顔を真っ赤にするかという気もしますが、そういうこの法案に人権教育ということがない、抜けている。これは、なぜ人権教育をここでうたわないんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の、法案の第一条の「目的」の中に人権教育がなぜ入っていないのかということでございますが、これは、人権尊重社会というものの実現のためには、人権の啓発や、あるいは個別的な人権の救済と並びまして人権教育の役割が重要であるというふうに考えております。

 しかしながら、次のような理由から、この法案におきましては人権教育に関する規定を設けなかったものでございますけれども、もとより人権教育が大事なことは否定するものではございません。

 まず、この人権の教育及び人権啓発につきましては、委員御案内のとおり、平成十二年の末に施行されました人権教育及び人権啓発の推進に関する法律というものがございますけれども、この法律が人権教育・啓発に関する基本理念、それから国、地方公共団体、国民の責務、基本計画の策定、年次報告等の人権教育・啓発を推進するための基本的な事項を定めておりまして、この人権擁護法案が成立した後も、人権の教育、啓発の分野につきましては、この人権教育・啓発推進法に基づきましてその推進が図られていくというふうに考えております。

 それからもう一点は、この法案は、今申し上げました人権教育・啓発推進法の存在を前提にいたしました上で、新たに三条委員会、独立行政委員会としての人権委員会を設置し、その組織、権限等について定めますとともに、これを主な実施機関といたします人権救済制度を創設し、その救済手続その他、これに必要な事項を定めることを目的とするものでございまして、このような目的と直接には関連しない人権教育に関する事項について規定することは相当ではないというふうに考えたところによります。

 御指摘のとおり、人権教育というものも人権に関する重要な施策の一つであることは間違いございませんので、政府といたしましては、人権にかかわる行政全体の中で総合的かつ効果的に推進される必要があると考え、そのような観点から、人権委員会といたしましても、人権教育にかかわる関係機関と密接に連携協力していくということを考えております。

○江田五月君 あっちに書いてあるからこっちに書かなくてもいいという話とは違うと思いますし、また人権教育・啓発法の方はいま一つぴりっとしないというところもあるような気がするんですが。そして同時に、一つ一つの人権救済というもののプロセス自体が実は人権の意識の確立、人権教育につながっていくんだということもあると思うんですが、ちょっとその点は不満ですね。

 次に、この法案の提出に至る経緯、背景、これについて質問をいたします。

 既に同僚議員からの質問もございましたが、私は二つの大きな経緯あるいは流れがあると思います。一つは、部落差別問題を原点とする日本の国内の流れ、もう一つはパリ原則に代表される国際社会の流れです。

 まず、本法案提出に至る国内の流れ、経緯について説明をしてください。さっきありましたので、簡単にぽんぽんぽんとで結構ですから。

○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど申し上げましたけれども、平成八年五月にいわゆる地対協の意見具申が出されまして、その意見具申の中で、今後、人権救済制度の充実強化ということが取り上げられたということが一つございます。これを受けて、同年の十二月に人権擁護施策推進法が制定され、翌年から、この法律を受けて人権救済制度の在り方について調査審議する人権擁護推進審議会が法務省に置かれ、その審議会におきまして、ある程度の期間を掛けて、昨年の五月に人権救済制度に関する答申をお出しになり、また十二月には人権擁護委員制度の改革に関する答申が出され、こういうふうなものを踏まえて今回の法案をお出ししたというのが国内的な事情でございます。

○江田五月君 その地対協の意見具申の前に、それにさかのぼってさらに、さらにといいますか、同対審の答申がありますよね。

 それは一体何が問題かというと、日本社会の中で、長い長い歴史の中で被差別部落というものができ上がって、これが日本の社会の言わば差別の構造であると、そういうものを私ども、日本社会を次の世代にバトンタッチする者として解消しなきゃならぬという、その言わば長い歴史の取組が、歴史を経た取組があったと、それが今日のこの人権擁護法案の提出にずっとつながっているんだという認識だと私はしておるんですが、その点はいかがなんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、同和の問題といいますのは我が国固有の非常に深刻な問題であるというふうに考えております。

 同和の問題を解決するために同対審の答申があり、長い年月を掛けて同和地区に対する特別対策が講じられてきたと。その特別対策を終了するに当たりまして地対協の意見具申が出され、その地対協の意見具申の中では、従前の同和地区に対する特別対策を総括いたしまして、同和地区については物的な状況は改善されたけれども、なお依然として同和関係者に対する心理的な差別が残っておると、これを解消するためにもしっかりした人権救済制度を確立すべきであるというような御提言がなされたものと思っております。

 そういう認識でございますので、全く委員の御指摘のとおりだと思っております。

○江田五月君 さらに若干伺いますが、部落差別というものは特別の、特別救済で対処する時期は過ぎたと。そして、それは一般救済に移行させようと。しかし、同時に、じゃ、もう部落差別はなくなったのかというと、確かにそういうある特定の地域の物的な条件というのはそれは随分改善された、いや、それでもまだいろいろという話もありますが。しかし、人々の意識の中にまだ依然として強く残っているというのはある。

 最近、インターネットは本当にもう、どういうんですか、とても見ていられないようなひどい差別的な言辞が書かれているようなところがありますね。これの規制というのはまた、どう規制していいかがなかなか難しいので、それはそれで大変なんですが、部落差別はまだ日本で解消されていないと。これをやはりちゃんと解消していくために、この人権擁護法案で作るシステムというのは機能しなきゃいけないものだと、こういう認識をお持ちかどうか。

○政府参考人(吉戒修一君) 同和地区に対します地域改善対策、これが今年の三月で失効いたしました。これは、昭和四十四年から約三十年にわたります約十六兆円を投じた財政措置によりまして同和地区の物的な状況は改善されたということによるものと思いますけれども、しかしながら今、委員御指摘のとおり、同和関係者に対する差別という問題はまだまだ深刻な問題として残っておるというふうに考えております。

○江田五月君 これは大臣にも一言その点の確認をしておきたいと思いますが、同和問題、部落差別問題というのはまだまだ、特に人々の意識や日常の社会の動きの中にかなり深く残っていて、この解消はこれからも日本社会の人権確立のための大きな課題である。その課題の解決に資するためにこの人権擁護法案というもので作られるシステムは役に立たなきゃいけないものだと、こういう認識をお持ちかどうか、大臣、お答えください。

○国務大臣(森山眞弓君) 委員おっしゃるとおりだと思います。
 同和問題というのは、随分長い間、歴史的にもう昔からずっと持ち越されてきた非常に重要な課題でございまして、最近数十年間の努力で物的には解決したとはいえ、心の中、意識の中にそのような問題がまだまだ根深く残っているということはもうおっしゃるとおりだと思います。これによって起こるいろんな事件については、この新しく作られるべき人権擁護委員会におきまして対処していくべき問題だというふうに思っています。

○江田五月君 そこで、部落差別という現実の中で、現に差別をされている皆さん方がいろんな運動をしておられるわけですが、そういう皆さんの意見というものはこの法案に十分入っているというふうにお考えですか。そうではないんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) この法案の前提となります人権擁護推進審議会の調査審議の過程におきましては、同和団体の関係者からも十分なヒアリングをいたしておりますし、また公聴会の場におきましても御意見をお聞きしております。

 でき上がりました法案におきましては、例えば法案の三条でございますけれども、これはいわゆる差別禁止規定を明確に書いておりますが、この差別禁止規定などは、かねてから同和団体の方が各種の基本法の制定運動をなされておりましたけれども、その中に取り上げている事項と全く軌を一にするものであるというふうに考えております。

○江田五月君 それにしては、同和団体の皆さんが私どものところに大変に強い強い批判的な意見を言ってこられますので、十分意見を聞いたのかなという気はするんですが、同和団体もいろいろありますから、そして同時に我々も、そういう団体の皆さんに言われたからということではなくて、それは立法府にいる者としてこの法案についての対応はしていきますが、いずれにしてもどうも十分な意見を聞いていないんではないかという、そんな心配をちょっといたします。

 もう一つの流れ、パリ原則に代表される国際社会の流れ、これはどういうふうに認識をしておられるか、説明してください。

○政府参考人(吉戒修一君) 委員御指摘のとおり、こういうふうな人権に関する立法に当たりましては、国際的な潮流を十分踏まえる必要があるというふうに考えております。

 この法案は、委員御指摘のとおり、パリ原則、それから国連の規約人権委員会並びに人種差別撤廃条約からの勧告等にも沿う内容を含んでおりまして、国際社会の要請にも十分こたえたものとなっているというふうに考えております。

 まず、少し詳しくなりますけれども、よろしゅうございますか。
 まず、パリ原則との関係でございますけれども、人権委員会は、いわゆる三条委員会として、独立の行政委員会として設置されまして、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障などによりまして、その職権の行使に当たりましては内閣や所轄の法務大臣から影響を受けることがないよう、高度の独立性が確保されておりますこと、それからその所掌事務といたしまして、人権救済事務とともに人権啓発事務を扱うほか、政府及び国会に対する意見提出権、これも非常に画期的なものだと思いますけれども、こういうふうな意見提出権を有することなどから、基本的な部分におきましてはパリ原則の趣旨に沿った国内人権機構と評価し得るものと考えております。

 それから、規約人権委員会でございますけれども、これは先ほども御質問ございましたけれども、平成十年十一月に我が国の報告書に対する最終見解の中で、人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設置すること、とりわけ警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について調査及び救済の申立てができる独立した機関等を設置することを我が国に勧告いたしたわけでございます。

 本法案は、さきに述べましたとおり、高度の独立性を有する独立行政委員会として人権委員会を設置し、人権委員会が被害者の方の申出に基づいて行う人権救済の手続を整備いたしますものである上、公権力による差別や虐待につきましては特別救済という、より実効性の高い救済手続を整備するなど、規約人権委員会の勧告の趣旨にも十分沿った内容になっているものと考えております。

 次に、人種差別撤廃委員会でございますが、これは平成十三年の三月に我が国の報告書に対する最終見解の中で、人種差別を非合法化する法律の制定が必要であると指摘しております。

 この法案は、公務、物品、不動産、権利、役務の提供、雇用という私ども人間が社会生活を営むにおいて必要不可欠な領域における人種等を理由とする不当な差別的取扱いを禁止する我が国で初めての包括的な差別禁止法でございまして、こういう意味からも、人種差別撤廃委員会の指摘にも沿うものというふうに考えております。

○江田五月君 パリ原則についての細かな説明はもう皆、共通の認識ですから省略をしますが、そのパリ原則の中に、この「国内機構の地位に関する原則」というわけですが、「構成並びに独立性及び多様性の保障」というところがあって、その2のところは、「国内機構は、活動の円滑な運営にふさわしい基盤、特に十分な財政的基盤を持つものとする。この財政基盤の目的は、国内機構が政府から独立し、その独立に影響を及ぼすような財政的コントロールに服することのないように、国内機構が独自の職員と事務所を持つことを可能にすることである。」と、こういうような書き方とか、いろいろ書いてあるわけですが、とにかく政府の機関から独立していなきゃならないんだということを強く言っておるんですね。

 ところが、今回作ろうとする人権委員会は法務省の外局ということになっておると。私どもは、これは国際社会から見ると、いかにも日本は何やっているんだというような感じに映るんじゃないかと心配をするんですが。法務省の外局、つまり法務省というのは、これはもちろん必要なことでいけないと言っているんではないですが、一方で入管も所管をされている、矯正も所管をされている。これは、入管にしても矯正にしてもどこか所管がなきゃならぬので、そういう行政があっちゃいかぬと言っているんではないですよ、それは誤解しないようにしていただきたいんですが。

 しかし、そこを所管している者が同時に人権擁護も所管をするということになると、右手で人権侵害しながら、もちろん刑務所に入れるのは人権侵害にそれはそのままで当たるわけじゃないけれども、元々、自由を剥奪するんですからその限りでは人権侵害、ただし、それは所定の手続で所定の理由があってやるわけですから人権侵害にならないということで。一方では、しかし形だけ見ればそれは人権侵害にぎりぎりのところまで行っているわけです。ちょっと間違えば人権侵害になる。現に人権侵害になっている事例もある。それを一方で所管をしながら、行うことをですよ、他方で救済を所管するというんじゃ、一人の人間がそんなことを両方できるわけがないじゃないかというのが国際社会の常識じゃないかと思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会は、先ほどから申し上げておりますけれども、国家行政組織法三条二項に基づく独立の行政委員会として設置され、高度の独立性が確保されていますことから、その権限行使に当たりまして、矯正・入管部門を指揮監督する法務大臣から影響を受けるおそれはございません。

 今、委員、ちょっと例えとして一人の人間が矯正、入管をし、人権というふうにおっしゃいましたけれども、組織上は人権委員会は法務大臣の下にはございませんで、法務省のフィールドにはございますけれども、法務大臣の指揮命令を受けませんので、一人の者が矯正、入管と人権を所管するということではございません。

 また、人権侵害事件の調査に当たる事務局の職員につきましては、これはこれまでの実績あるいはノウハウの蓄積等の観点から、法務局、地方法務局の職員をその主たる供給源とせざるを得ませんけれども、これらの職員も、委員御案内のとおり、矯正・入管部門の業務に携わった者ではございませんで、その影響を受けるおそれはございません。

 さらには、これは委員会発足後のことでございますけれども、こういうふうな矯正、入管の部門との間で人事交流を今後行わないというような配慮も人権委員会の中立公正さを担保するためには必要なことであるというふうに考えております。

 したがいまして、委員御指摘の点につきましては問題がないというふうに考えております。

○江田五月君 今の最後の点、もう一遍確認させてください。この委員会ができたら、何と何の人事交流を行わないと言ったんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 法務省の中で一番御懸念をいただくところは矯正、入管という拘禁施設を監督しているところでございますが、その部門との人事交流は人権委員会は組織的には行わないという配慮をすることが中立公正さを担保するためには必要であるというふうに考えております。

○江田五月君 法務省の中で、入管や矯正の行政に携わる者と法務省のその他の行政に携わる者、それは民事もあるし訟務もあるし、いろいろありますよね。その間の人事交流というのはあるんですか、ないんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど委員御指摘のとおり、矯正、入管という仕事もこれは本当に必要な仕事でございまして、ただ残念ながら、そういう拘禁施設の中で過去に人権侵害事件があったということも事実でございます。

 したがいまして、そういう部門とは組織的な人事交流を行いませんけれども、そういう問題の指摘を受けておらない他の部門と交流を行わないということになりますと、これはおよそ職員の構成ができませんので、現実的な可能性としてはそれはちょっといたしかねるということでございます。

○江田五月君 いや、今私、聞いたのは法務省の中でですよ。法務省の中で、矯正、入管に携わる職員とその他の部門で携わる職員との人事交流というのはあるんですか、ないんですかということを聞いているんです。

○政府参考人(吉戒修一君) ちょっと私も全体の職員の配置はよく承知しておりませんけれども、少なくとも人権擁護部門には矯正、入管から組織的な人事交流しておりません。ごくわずかに例外的に申し上げられますのは、いわゆるT種職員、キャリア職員でありますけれども、このT種職員は若年の間に法務省の中のすべての部門を経験するということで、一年程度の短期間、各部局を回っておりますので、そういう関係で、人権局にも矯正、入管が本籍地といいましょうか、そういう職員も来ることはございます。そういうふうな状況でございまして、恐らく民事局あるいは訟務もそうではないかなというふうに思っております。

 ちょっと詳細は私も余り十分な確たるお答えはできませんので、この程度で御容赦願いたいと思います。

○江田五月君 官房長はおられるのかな。
 人権擁護局長は、私も、これまでのどういう道を歩いてこられたかを十分存じ上げてはいないんで、今のようなお答えになるのかと思いますけれども、これは後ほどまたちゃんと詰めさせていただきたいと。今のようなことではちょっと、それでいいかなと思いますね。

 保護局はどうなんですか。保護局は、例えば少年院とか保護観察所とかあると思うんですが、そことこの人権委員会との人事交流というのはどうなりますか。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会発足後のパフォーマンスの話でございまして、余り具体的な検討を今しているわけでございませんけれども、先ほど申し上げましたように、矯正、入管の部門との人事交流はいたさないというところは今考えているところでございまして、保護局の所管業務との関係で何か問題があるかどうかはまだ今後詰めるべき点があろうかと思います。

○江田五月君 だれと相談されるかよく分かりませんが、ひとつしっかり相談してください。

 もう一つ、今もうお話しになりましたが、九八年十一月の国連の国際人権規約委員会の日本政府への最終勧告で、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置するということが勧告されたと。これに沿っていると言うんですが、これもさて、本当に警察、入管職員などによる虐待を調査して救済できるのかと。法務省から独立したその三条委員会ということでいいのか議論のあるところです。

 この点について国連の、この点というのはパリ原則と両方だと思いますが、国連の人権高等弁務官であったと言った方がいいんでしょうか、メアリー・ロビンソンさんから今年の三月と六月の二度、小泉総理大臣あてに書簡が届いて、森山法務大臣が総理大臣に代わって返事を書かれたと聞いておりますが、これは、どのような内容の手紙にどのような返事を書かれたのか、教えてください。

○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおり、ロビンソン前国連人権高等弁務官から小泉総理あてに人権擁護法案に関して二度にわたって書簡が参りました。いずれも我が国における国内人権機構の設置に当たりまして国連人権高等弁務官事務所として支援を申し出るという内容のものでございましたが、二通目の手紙には、日弁連やNGOから人権擁護法案の一部規定がパリ原則と完全には合致していないとの強い指摘があった、法案の非公式訳を入手しましたが、同法案には肯定的な規定がある一方で、表明されている幾つかの懸念は十分根拠があるのではないかと思われたという記載がございました。

 この法案はパリ原則を十分踏まえて起草されたものであること、同法案に関して具体的な懸念や質問がおありであれば十分説明をする準備がありますという趣旨のことを、後に私から国連人権高等弁務官に対しまして書簡でお答えさせていただいたところでございます。

○江田五月君 その書簡は、向こうからのもの、こちらからのもの、これは別にプライベートなお手紙じゃないですよね。この委員会に提出をしていただきたいと思いますが、委員長。

○委員長(魚住裕一郎君) 後刻、理事会にて協議いたします。

○江田五月君 確認、いや、それはよろしいですよね、出させていただくことは。

○国務大臣(森山眞弓君) これは、その当時、既に記者にも発表してございますので、ごらんいただいて結構だと思います。

○江田五月君 ここで問題になっているのは、言うまでもなく、これは法務省の外局に置かれる人権委員会ということで、パリ原則などで求められている独立性が満たされているかどうかという問題ですよね。少なくとも国際社会が独立性の問題について問題意識を持っていると、これはまず言えるんだろうと。国際社会のそういう皆さんの懸念とまで私は言っていいと思いますけれども、そういう問題意識に私どもの作るものはちゃんとこたえるものでなければいけないと、そのことは言えると思います。

 もうこたえられるものになっているということなんでしょうが、国際社会のそういう要請にこたえるものでなければいけないと。これは、森山法務大臣、同じ認識でよろしいですか。

○国務大臣(森山眞弓君) 国際的な批判にも耐えるものでなければならない、そうありたいというふうに思っております。

○江田五月君 私は、政府案は、この独立性の問題と報道規制の問題と、そして人権救済の実効性という三つの問題があると思っておるんですが、そこで、まずこの独立性についてもう少し議論を深めていきたいと思います。

 私ども民主党案は、対案を作って、そこで我々は人権委員会は法務省ではなくて内閣府に設置をするというようにしております。

 今の入管とか矯正とかを所管する法務省の外局という、しかも、今聞きますと、人権擁護局、そして各地方の法務局、また地方法務局の人権擁護部、人権擁護課、これらを含めて職員が全部で二百数十名、これが、みんながみんなじゃないですよね、今度のこの人権委員会の職員になっていく。地方法務局の人権擁護課の職員は事務を委託されるだけであってこの人権委員会の職員とはならないわけですが、つまり人権委員会の職員のほとんどは法務省の職員からの横滑り、予算も法務省の枠の中、これはそれでいいんですね。

 つまり、職員は今の人権擁護局の中にいる職員の横滑りでスタートする、予算は法務省の予算の枠の中、これはそういう制度設計で、誤解をしていないですよね、局長。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会は三条委員会でございますが法務省の外局でございますので、外局の場合には所轄の大臣を経由して予算を要求し、あるいは法律案を提出するということでございますので、人権委員会の予算につきましては法務大臣官房を通じて財政当局に要求するということになると思います。

 それから、職員の点でございますけれども、これは、でき得れば幅広い多様な人材を登用したいというふうに考えておりますけれども、現実問題として、人権委員会の発足当初から新規に採用するということは、これはなかなか困難でございますので、当面は、現在、人権擁護業務を担っております人権擁護局の職員、さらには法務局の人権擁護部あるいは人権擁護課の職員というものに新しい人権委員会の仕事を担当させ、さらにそれに加えて、でき得れば新しい血を導入したいというふうに考えております。

○江田五月君 私は、もうこの際──もちろん、まずスタートのときにはそういう皆さんを大いに採用していくということになるでしょう。なるでしょうが、この際、新しい人権機関を作るんだ、これはもちろん質も高いし、同時に、大きな力量を発揮するには量もしっかりしたものにするんだと、そういう覚悟を持って、法務省の方からこちらの人権委員会の職員になった者はまた法務省の方にはもう戻らないんだ、そして新たに人権委員会の職員は人権委員会の職員として採用して育てていくんだと、そのくらいな覚悟を表明できてしかるべきだと思いますが、どうなんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 委員会組織を担う職員の養成につきましては、将来的にプロパーの職員を養成する方向で是非考えたいと思います。ただ、現実問題として、発足当初はなかなかそこまで行かないであろうということを申し上げているわけでございます。

○江田五月君 私が言ったのはもう一つで、法務省から立ち上がりのときはそれは人が来るでしょう。しかし、その人はもう一遍法務省に戻してというような、そういう人事の構造で、しばらく我慢して行ってこいや、またこっちに戻してやるからという、そういうようなことはないようにしてほしいということなんですが、どうですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 新しい人権委員会の、これは本当に新しい仕事でございますので、それについて専門性を有し熱意を有する職員を登用し、育成していきたい、そういう職員が将来の人権委員会の中枢になっていくような形で養成してまいりたいと思います。

○江田五月君 どうもはっきりしないんですよね。また後に同僚委員が詰めると思います。はっきりしないということだけは言っておきますよ。今の答弁では不満足。

 さて、そのような姿勢で本当にこの人権委員会がちゃんと機能できるかということなんですが、人権侵害というものは、大別すると公権力による人権侵害と私人間の人権侵害の二つ、これはそうですよね。

 人権擁護局長、これまでの人権擁護行政の中で公権力による人権侵害としてどんな事例があるか。法務省の入管行政や矯正施設での人権侵害の事実がこれまでもいろいろあったと思いますが、そういう認識はしておられますか、どうですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 公務員による人権侵害でございますが、当省関係のものといたしまして、まず矯正関係についてでございますが、昨年は三十四件の人権侵犯事件を受理しております。

 処理の態様でございますけれども、これは調査をいたしまして、そのうち、人権侵犯の事実が認められなかったとして処理を終えたものが多いわけでございますけれども、しかしあったということで、例えば刑務官の収容者に対する不当な言動でありますとかあるいは不十分な医療措置に対しまして、人権擁護機関におきましては関係者に反省を促し、あるいは善処を求めた事例がございます。

 それから、入管関係でございますが、これは入管関係で受理した人権侵犯事件といたしましては、今年に入りまして収容者の待遇改善、具体的には、新聞閲読の要望につきまして関係方面を調整して善処を促したという例がございます。

○江田五月君 不当な言動と言うにはちょっと度が過ぎる、いや、ちょっとじゃなくて大いに度が過ぎる。名古屋の例ですよね。これは名古屋刑務所、不当な言動ですか、死亡しているんじゃないんですか。この事件をちょっと報告してください。

○政府参考人(中井憲治君) 名古屋の事件につきましては、ただいま人権局長の答弁のありました範囲の事例では、ございません。

○江田五月君 だから、それはさっきの数字の三十四件という範囲ではないという意味ではそれはないでしょう。しかし、不当な言動という範囲ではないということもそうですよね。不当な言動ですか、これ。違いますよね。ちょっとどういう事件であったのか。

○政府参考人(吉戒修一君) 先ほど御説明申し上げました昨年受理いたしました矯正関係の人権侵犯事件のうちで不当な言動というものでございまして、これはちょっと関係者のプライバシーの問題もございますので、少しちょっと漠然としてアバウトに申し上げますけれども、刑務官が収容者に対して侮辱をしたという事例でございまして、これは名古屋刑務所ではございません。

 名古屋刑務所の事件につきましては、今年九月の段階で関係者の方から人権の相談を受けたというようなことを承知しております。

○江田五月君 名古屋のケース、本年十月四日、複数の刑務官が男性受刑者を制圧し、革手錠を使用して保護房に収容したところ受刑者が死亡した事件が二件あったと。これ発表されたんじゃないんですか。

○政府参考人(中井憲治君) 名古屋刑務所におきましては、本年五月に、委員御指摘のように、保護房収容中の革手錠を使用した受刑者の死亡事案、さらに引き続きまして、九月に同様な受傷事案が生じておりまして、この両件につきまして、その後に発表したと承知しております。

○江田五月君 私はどうもやっぱり気になるんですけれども、今も人権擁護局長は、いや、プライバシーのことなどもあり、余りちょっと、どういう言い方でしたか、要するにはっきりしたことは言えないがというようなことですよね。

 分からぬわけじゃないんですが、法務省に人権委員会を置いたら結局そういうことになるんじゃないか、人権委員会は結局、法務省の中だから、いや法務省のやっていることだから、やっぱり人権委員会、法務省の中としてむにゃむにゃむにゃということになるんじゃないかという危惧があるんですけれどもね。

 今は人権擁護局だから言えない、しかし人権委員会になったらちゃんとやれる、そんなことありますか。どうですか。

○政府参考人(吉戒修一君) これは人権擁護局でありましょうと人権委員会でありましょうと、調査結果の公表ということにつきましては関係者のプライバシーに配慮することは当然のことではないかなと考えます。

 ただ、人権委員会におきましては、法案の中にございますように、年次の報告として、人権状況の公表ということを国会に報告させていただきますし、また適宜、扱った事件につきまして公表するということもまた法案で予定されているところでございます。

○政府参考人(中井憲治君) 若干補足させていただきたいと思いますけれども、ただいま人権擁護局から答弁いたしました案件についての矯正局の受け止め方についてでございますけれども、先ほど申しましたように詳細については省略させていただきますけれども、当時、部内においてもしかるべく調査いたしまして、上司から関係職員に対して注意をする、あるいは研修等においてこれを取り上げまして、人権意識の一層の徹底に努めていたと、かように承知しているところであります。

 また、医療関係についてもまた若干補足させていただきますけれども、一般論で申しますと、非常に多い事例が歯科の医療の関係でございます。歯科医療につきましては、正直申し上げて、治療を申し出てから実施に至るまで相当期間を要する場合が特に患者が多い施設の場合などございます。このような問題につきましては、診療の機会を増加させるなど改善に向けて努力しておりますし、今後とも一層、同様の努力を続けていきたいと考えております。

○江田五月君 これは詳細についてもいろいろともっと聞かなきゃならぬと思いますね。まあ入管局長にも、それから矯正局長にもきっちり聞いていかなきゃならぬですけれども、時間の方がちょっと心配になってきたので、必ずこれは後からまだただしていきたいと思いますが。

 恐らく、今の入管とか矯正とかの場面で起きている人権侵害が必ずしも全部公になったり、あるいは皆さんのところに認知をされておったりするわけじゃない。いや、実はいろんなところへ訴え、私どものところにもいろんな手紙なんかも来るんですよ。それが全部当たっているとは言いません。当たっているとは言いませんけれども、我々のところへ来るのは最後の最後で、恐らく弁護士会とかいろんなところへ人権侵害といって訴えているのがたくさんあると思います。

 そして、矯正の現場、入管の現場、まだまだ人権状況の改善しなきゃならぬところは非常に多いと思っておりますが、特にちょっと入管だけ聞いておきましょうかね。入管の今の拘束の施設、あれは人権上問題ありますか、ありませんか。

○政府参考人(増田暢也君) 委員お尋ねの入管の施設につきましても、種々御意見、御批判があることは承知しております。それにつきましても、私どもとしては改善を要すべき点についてはこれまでも改善に努めてまいりましたし、今後も御意見、御批判については謙虚に耳を傾けて改善に努めてまいりたいと考えております。

○江田五月君 御意見、御批判で謙虚になんて話じゃないと思いますよ。

 私も東京入管、見させていただいたんですけれども、本当に狭い部屋で、冷暖房どうなっているのか。そこで、こんな狭いところで人はもうあふれ返っていて、これはひどいねと言ったら、いや、ここは本当に大変なんです、まあここは今度建て替えますのでと、ちょっとそれまでの間の御辛抱と。ああ、なるほどね、東京入管だけは例外なのかな、日本じゅう、その他のところはこんな状態じゃないんでしょうねと言ったら、いやいや、ほかにもまだちょっと。ほかにはどこがあるんですかと言ったら、いや、名古屋もそうでございますし、どこやらもそうでございますと言って、もう全部それじゃそうじゃないかという話ですよね。

 これで御批判に謙虚に耳を傾けなんて言われてもちょっとこっちも困るけれども、覚悟を聞かせてください、もう少し。

○政府参考人(増田暢也君) このただいま御指摘の東京入管あるいは収容者センターにつきましては、例えば被収容者の運動時間であるとか、あるいは食事の内容であるとか入浴時間であるとか、いろいろと不十分ではないか、配慮が足りないのではないかという御意見がございまして、これまでにも、本年度に入りましても改善できるところから少しずつ、運動時間を増やしてきた、あるいは一週間の入浴時間、入浴回数を増やしてきたなどの措置を講じているところでございます。

 これからもできる限り被収容者の健康であるとか、あるいは人権に沿った拡充に努めていきたいということでございます。

○江田五月君 私は、物足りないのは、皆さん方ができる限り努力をされるのを別に信じていないわけじゃないんです。だけれども、できる限りというのは、皆さんは与えられた条件の中でできる限りしか考えていないでしょう。その与えられる条件を変えようという努力はあるのかどうかということですよ。それは法務大臣にも責任あると思いますよ。ちゃんと予算はしっかりと取ってくるとかですね。

 刑務所なんて、この間も同僚の鈴木委員の質問がありましたけれども、もう過収容。やはり、これは、ちょっと誕生日のときに申し訳ないけれども、今の状況をやっぱりまずいと思いませんか、法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおり、非常に収容をされるべき人が急速に増えておりますものですから、いろんな種類の収容施設が過剰収容になっているということは私どもも日々痛感しておりまして、これを一刻も早く解決して適正な収容人数で適正な処遇が行えるようにするべきであるということも私どもの第一の目標として、今一生懸命努力しているところでございます。

 入管についても同様でございまして、今、ごらんいただいたとき御説明があったようですが、東京では新しい施設を作っておりますし、ほかもできるだけ早く改善していきたいと努力しているところでございます。

○江田五月君 今の入管とかそれから刑務所の過収容とかというのは、個別の人権侵害ではもちろんあるんですが、個別の人権侵害を超えたある種の政策決定によって改善していかなきゃならぬ、そういうものでもあるんですよね。

 私は、この人権委員会というのは、正にパリ原則にあるとおり、政府に対してそういう意味での人権状況の改善に向かった政策提言というものができなきゃいけないと思うんですが、今日、今回のこの政府案はそういうことができるようになっていますか。

○政府参考人(吉戒修一君) 法案に二十条という規定がございますけれども、これは人権擁護推進審議会の答申におきまして、人権委員会が救済や啓発に係る活動の過程で得た経験、成果を政府への助言を通じて政策に反映させていくことも有用であると、人権委員会もこの機能を併せ持つべきである旨指摘をいたしました。

 この指摘を受けてこの二十条を立案したわけでございまして、人権委員会が内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対しまして、あるいは内閣総理大臣を経由して国会に対しまして、この法律の目的を達成するために必要な事項に関しまして意見を提出することができるということになっております。

○江田五月君 これも一つ議論なんですよね。二十条に確かに書いてあるんだけれども、これで一体本当に国際社会の要請というのにこたえるものになっているのかどうか。もっと明確に、意見の提出を超えたはっきりした政策提言ができるということを考えた方がいいと、あるいは考える必要があると私は思っております。

 もう一つ、独立性の問題で予算の問題があると思いますが、この人権委員会は具体的にどういうふうに予算を策定するんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の予算につきましては、財政法の規定によりまして、法務大臣が財務大臣に要求し折衝を行うことになりますけれども、その際には人権委員会の独立性に十分配意されるものというふうに考えております。

○江田五月君 法務大臣は、財務大臣に対する予算の要求の案を作るわけですよ。そのときには人権委員会の独立性というのはあるんですか、ないんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 具体的には予算の要求は所轄の大臣を経由して行うというのが財政法の建前でございますので、その限りにおいて人権委員会は予算の元々の案を作り、法務省の大臣官房を通じて財政当局に要求していくということになろうかと思います。

 その際に、人権委員会の独立性に配意を是非お願いしたいという形でいろんな努力を続けていくということだと思います。

○江田五月君 やはり、そこに人権委員会と法務省というものが一体の意識があるような気がしますね。

 つまり、人権委員会は自分で予算作るんだと、その人権委員会が作った予算が法務省のしかるべきところに出されると。そうすると、それはもう法務省として、いや、それはちょっと削りなさいよ、ほかのところが大切なのがあるから、財務当局、とてもそこは通らぬからとかいって削らせるようなことがなく、もうそれは、人権委員会からこういう予算が来ましたから、これをひとつ財務省よろしくというぐらいな独立性を人権委員会に認めるんだという、そのくらいな覚悟が要るんじゃないかと思いますが、どうです。

○政府参考人(吉戒修一君) 三条委員会は公正取引委員会を始め現在六つございますけれども、その三条委員会が行う予算要求の仕組みは、全く私が先ほど申し上げましたとおり、所轄の大臣を経由して行うということでございまして、この点は現行の我が国の法制上、これを超えた直接、人権委員会が財政当局に要求するということは、これはできないことでございます。

 しかしながら、人権委員会の予算につきましては、独立性の点から十分な配意をお願いしたいということで努力をいたしたいというふうに考えているわけでございます。

○江田五月君 経由をするなと言っているんじゃないんですよ。だけれども、言うなれば経由であって、そのときに人権委員会から要求されたものというのは最大限尊重しなきゃいけないという、それはそういうつもりですぐらいなことは言えるんじゃないんですか。財務省に対して法務省の方が、これは人権委員会の予算でございまして、出したのは最大限尊重してくださいだけでは足りないということを言っているんです。

 予算の執行、これは一体だれが管理をするんですか、人権委員会の予算の執行。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権委員会の予算の執行につきましては、これは人権委員会におきまして策定した執行計画に基づき行うことになりますけれども、地方組織につきましては、予算配賦を受けた地方事務所長及び地方法務局長がその配賦を受けた予算の範囲内でその執行を行うということになるものと考えております。

○江田五月君 昨日、私が聞いたのでは、支出、あれは何というんですか、支出管理官ですか、何かというのは法務省におると。その人が法務省全体の予算の執行、支出については管理をしていくんだけれども、人権委員会については別に支出官を置いて、そして人権委員会に置かれた支出官の下で人権委員会の予算の執行は行うんだというような説明を受けたんですが、そうじゃないんですか、そうなんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) そこら辺りの具体的な予算執行の仕組みにつきましては、現在検討しておるというのが正直なところでございます。

○江田五月君 検討だったんですか。昨日は検討をしていることをそうなるというふうにじゃ教えてくれたので、それは失礼いたしました。どっちが失礼か分かりませんが。

 つまり、独立性というのは、私どもも別に内閣府に置けばそれだけで独立できるとも思っていないんです、それはそれでなかなか大変なことで。ただ、内閣府の方が、法務省で、さっきの右手と左手言いましたけれども、そうじゃなくなるからいいだろうということと、もう一つは、今の国土交通省の問題、それから厚生労働省の問題があって、そっちにゆだねる部分が、内閣府に置けば全部、人権委員会に集中できるというようにも考えますので内閣府の方がいいと言っているんですが、しかしどこに置くかだけでなくて、実際には人事はどうするんですか、予算はどうするんですかと、その細かなことがちゃんとなければ、格好だけはできているけれども、いつもカーテンの向こうで全部なあなあになっていますよという、そういうことでは独立になっていないんですよね。そこで、そういう細かなことをきっちり押さえておきたいと聞いておるわけです。

 独立性について、今の、実質的に独立しているという問題が一方である。同時に、独立しているようにちゃんと見える、公正らしさ、この確保も非常に重要だと。これは、私は公正らしさというのは非常に重要なことだと思っておりますが、その認識は、これはよろしいでしょうね。法務大臣にちょっと。どうです、実際に独立している、実際に公正だということと併せて、ちゃんと独立しているように見えている、公正なように見えている、このことは非常に重要なことだというふうにお考えになりますか。なりますよね。

○国務大臣(森山眞弓君) やはり、公正であり独立したものであるということが国民にも分からなければいけないと思いますから、それが、公正らしさ独立らしさというお言葉でおっしゃったのかもしれませんけれども、国民にもよく分かってもらう、そういう体制が必要だというふうに思います。

○江田五月君 それで、内閣府に置けない理由をいろいろおっしゃるんですけれども、これは森山法務大臣、政治家として伺いますが、新たに内閣府に食品安全委員会も設置されるという話ありますよね。所管じゃないのでどういうふうにするかというようなことは大臣御存じなくてもそれは当然だと思いますけれども、もちろん御存じだったら、それはそれで非常に結構なことですが。

 食品安全委員会でも、従来の厚生労働省、農水省のいろんな実績や組織もこれを生かしていくという、しかし内閣府に食品安全委員会を置いていろんな仕事をしてもらうというようにできる、するということなんだそうですが、人権委員会も同じようにできるんじゃないか。仮に、法務省の外局としてスタートするとしても、やっぱり公正らしさ独立らしさということをよく分かる形にしようと思うと、今の行政制度の中では、それは私どもは首相府とか内閣府とかの提案もいろいろして省庁再編のときにやったけれども、これは我々は負けました。皆さんの方の今の中央省庁再編が通って、その中では法務省は人権擁護を所管するということになっている。

 それはそれでおいておいて、将来、制度設計をどう考えるかというときに、私なんかはむしろ、もし機が熟せば、こういう人権委員会なんというのは憲法上の独立の制度として作って、三権のどこでもない、もっと位が高いという、位が高いというと変ですが、そのぐらいまで考えた方がいいと思いますが、会計検査院型というようなことも含めて、法務省に置くのでない制度設計をしてより公正らしさがはっきり分かるということにする、そういう将来の夢といいますか、そんなことはお考えになりませんか、法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) 独立、公正ということが重要であるということは先ほども申し上げたとおりでございまして、そのことを考えましたので国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会としてこれを作るのがふさわしいと考えたのがこの法案の趣旨でございます。

 これがスタートさせていただいて、十年も二十年も、あるいは何十年も先の話、そのときはどうなるかということは、今、私が申し上げることは不可能でございますので、お許しいただきたいと思います。

○江田五月君 現に今、法務行政を担当している立場というのではなかなか難しいでしょうけれども、しかし誕生日を迎えられてまだまだ政治家としてやっていかれるわけですから、やっぱり先の展望というものをお持ちになっておってしかるべきだと思いますよ。

 報道規制、これはもういろんなところで批判されていますので、その批判をあえてここで繰り返すまでもないかと思いますし、また報道規制についてはどうやら凍結ということに、法務大臣の知らないところでなっているのかな、なっているようですが、一つ伺っておきたいのは、ロビンソン前人権高等弁務官によって派遣されて来日をされたブライアン・バーデキン弁務官特別顧問が、新聞報道によればですが、メディアに対する規制が設けられている、設けようとしているわけですが、設けられている国はどうもない。

 日本以外の国で、この法案のようにメディアに対する規制を設けている国はあるんですか、ないんですか、答えてください。

○政府参考人(吉戒修一君) 人権擁護法案と同様の法律で、報道機関による人権侵害を救済対象としている諸外国の例は承知いたしておりません。
 しかしながら、パリ……

○江田五月君 おりますかおりませんかだけでいいです。おりませんですね。

 しかも、これ、電話掛けたりファクス送っても、それもだめだというんですから、ちょっとなかなか大変で、その上、さっきの話で、被疑者に擬せられていろいろやられた場合には一般救済以外にないんだという、何とも制度設計としては、やらなくてもいいことをやり、やらなきゃいけないことをやらないという感じがいたします。

 報道機関等による自主的な解決、これが一番いいんだと、それは法務省もそう考えていると考えて、それはいいんでしょう。

○政府参考人(吉戒修一君) これは法案の四十二条二項にも書いてございますように、報道の自由、表現の自由というのを尊重すべきであるというのが基本的なこの法案のスタンスでございます。

 したがいまして、報道機関の自主的な取組によって問題が解決されるのであれば、そちらの方を優先するというのもまたこの法案の基本的な立場でございます。

○江田五月君 その自主的解決についてもう少し伺いたいんですが、ちょっと時間の方が気になってきた。

 もう一つの重大な欠陥は、実効性、特に地方組織。
 この法案では、地方の法務局の場合は人権委員会の地方事務局を作る、しかし地方法務局の場合には人権擁護課に事務を委託をする、そういう制度設計なんですが、私どもの案は、中央の人権委員会、それともう一つ、都道府県に地方人権委員会を置いて、その下に市町村で活動する人権擁護委員を置くということで提案、考えております。

 生活の場で日々発生するんです、人権侵害事件というのは。その生活の場で現実に起こっているああいったこういったという、日々の生活のことなんですよ。それをいきなり最高裁の判断というような形で本当に機能するかどうかということでして、私は、聞いておきたいのは、例えば情報公開の場合でも、国に情報公開法を作るよりも先行して地方に情報公開条例作っていったじゃないですか。そういうことでずっと地方の情報公開制度ができて、それに触発されて国の情報公開法というのもできていったというような過程があります。

 人権侵害も同じようなことがあって、国の人権委員会、これはもちろんちゃんとしたものを作らなきゃなりません。同時に、地方自治体がそれぞれの地方で人権擁護施策を展開をしていく。これは別に国として、そこは国がやるんだからおまえたちやるななんという、そんなことはないんでしょう。これ、いかがですか。

○政府参考人(吉戒修一君) この法案の取っております制度設計は、中央に人権委員会を置き、地方に地方事務所、それから最末端の方は地方法務局に事務を委任するということで、国民に対するアクセスポイントを確保するという一元的なシステムでございます。

 委員の御指摘の地方人権委員会でございますけれども、これは各都道府県に置かれるというようなことで、言わば分権システムのようでございますけれども、ちょっとその詳細は私、よく分かりませんけれども、今、最後のお尋ねは、仮に地方自治体が同種の人権の救済機関を置いた場合の、この人権委員会との連携いかんということですか。

○江田五月君 違う、違う。もう一回ちゃんと質問しましょう。

 人権確立というのは国だけの仕事じゃないんで、地方もやはり、それは皆そういう仕事は一生懸命しなきゃいけない。今、私は、これは局長、言葉はやっぱり気を付けられた方がいいと思うんだけれども、最末端と言われましたけれども、人権侵害というのは生活の場で起きるんですよ。末端じゃないんです。最先端と言ってほしいですよ、むしろ言うなら。そういう認識だから困るんで、しかもその最末端というのが、幾らですか、八つの地方ブロックには置くけれども、都道府県の数から八つ引いた残りの方は最末端とか言われる話じゃない、もう大部分じゃないですか。そこには人権委員会の地方組織はないんですよ。

 それはそれでいいとして、私が聞いているのは、地方もそれぞれの地方自治体が人権擁護施策の推進のために様々な取組をする。その中に、地方に、地方にというのは地方人権委員会という名前のことを言っているんじゃないんです。その名前は何かかなりアレルギーがあるようですから、名前はどうでもいいんで、地方に何々県人権擁護委員会でもいいですよ、何々県人権相談センターでもいいです。何でもいいです、それは。そういうものを作っていくことは、これは奨励されこそすれ、そんなことは国の仕事だからやるななんてことじゃないと思いますが、いかがですか。

○政府参考人(吉戒修一君) この法案は、人権の救済を基本的には国の事務として位置付けております。そういう趣旨から、四条におきまして、国の責務といたしまして人権の擁護に関する施策を総合的に推進すべきことを定めるのみでございまして、特に地方公共団体の責務については定めてございません。

 したがいまして、地方公共団体におきまして人権委員会類似の機関をお作りになったという場合には、その機関と人権委員会というものは同じような人権の救済の仕事、ただその所掌の範囲は大分違うと思いますけれども、それにつきまして緊密な連携を図るということでまいりたいと思っております。

○江田五月君 この八十三条に、「法律の運用に当たっては、関係行政機関及び関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。」という規定があるということは、全部自分のところで一手引受けという頭じゃなくて、関係行政機関も人権救済いろいろやっている、公私の団体もある。その公の団体の中には、あるいは関係行政機関の中には国じゃない地方の行政機関もあるでしょう。その皆さんがやっていることと密接な連携を取るよう努めなきゃならぬというんですから、その皆さんがいろんなことをやっていることは当然の前提だし、そのことはむしろ皆さんとしても、連携の相手ですから、相手が頑張ることはいいことですから、これは奨励されるというふうに考えているんじゃないですか、法律からもそう読めるじゃないですかと言っているんです。

○政府参考人(吉戒修一君) 八十三条に書いてあるとおりでございます。関係行政機関、関係自治体、関係の民間の公私の団体と密接な連携協力を図ってまいりたいというふうに考えております。

○江田五月君 その連携の在り方、これは何か具体的に、いや、こういうことをやっていきたいと思っているというようなことはあるんですか。

○政府参考人(吉戒修一君) 八十三条に「緊密な連携を図る」というふうに書いておりますけれども、これは例えば被害者の方から相談を受けた人権侵害事案につきまして、他の専門性を有する機関において対応した方がより適切な被害救済が図られるというような場合におきましては、当該機関に被害者を紹介する。それから、それまでに人権委員会の方におきまして収集した情報、資料等を引き継ぐなどするというようなことを考えております。

 さらに、引き継いだ後も、その紹介先機関における手続の進捗状況に十分に配慮しながら更に連絡調整を密にし、場合によっては人権委員会の権限を行使いたしまして、全体として実効的な人権救済が図られますような体制を構築する。さらに、人権問題に関係いたします公私の団体からヒアリングあるいは研修講師の招聘などを通じまして、相互に知識、経験を補うというようなことを取りあえず考えております。

○江田五月君 冒頭申し上げましたとおり、私どももしっかりした人権委員会を作りたいと思っておる、法務省、法務大臣始め皆さんもそう思っておられる。しかし、今まだまだ私、これ、ところどころ同僚委員にと言いましたけれども、たださなきゃならぬことが山ほどあるんです。これはやっぱりそこをきっちりただして、すばらしいものを作るためにお互いに努力していきたい。

 委員長におかれても、是非これは精力的にこの人権擁護法案については十分な審議をするということを要請して、時間が参りました、私の今日の質問を終わります。


2002/11/07

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