2001/11/22

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153 参院・法務委員会

10時から、法務委員会。刑法と刑訴法の改正案で、私が10時45分から75分間、(1)改正少年法の施行状況、(2)犯罪白書について、(3)危険運転致死傷罪について、質疑をしました。検挙率急落や行刑施設過収容など、社会が殺伐としてきました。


江田五月君 刑法改正案と刑事訴訟法等の改正案、同僚委員から極めて専門的な質問がございまして拝聴をしておったわけですが、私はまず、条文の質問に先立って、今の刑事法を取り巻く状況全体について若干の包括的な概観をしておきたいと思っております。

 昨年の十一月二十八日、ほぼ一年前、改正少年法が成立をしまして、ことしの四月一日から施行となりました。ちょうど八カ月が経過をしたということですが、この施行後の状況を検証しておきたいと思います。

 当委員会で、これも先日、同僚委員から御質問がありまして、幾つかの統計的な数値については既に御報告をいただいておりますが、まず施行後の概況、数字は先日聞いておりますが、概況について、これは最高裁、お答えください。どういう特徴的な事態が生じておるかといったことですね。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。

 少年法改正によって幾つかの関係から改正が加えられたわけでございますけれども、その中の幾つかの観点、例えば検察官関与、裁定合議、あるいは観護措置期間の特別更新といった観点について若干見てみたいと思うのでございます。

 本年四月一日施行されまして、九月末までの間の実情について調査をした結果でございますが、九月末までに終局決定があった事件のうち、まず、検察官関与決定がなされた事例は十七件でございまして、その内訳といたしましては、殺人二件、殺人未遂一件、傷害致死七件、監禁致死一件、強盗一件、強盗殺人二件、強姦二件、準強姦一件でございます。

 また、裁定合議制の導入に伴いまして合議体による審理が行われた事例は合計十一件でございまして、その内訳は、殺人二件、傷害致死三件、業務上過失致死一件、逮捕監禁一件、監禁致死一件、強盗一件及び強盗殺人二件でございます。

 また、観護措置期間につきまして四週間を超える特別更新がされた事例につきましては合計十八件でございまして、その内訳といたしましては、殺人一件、殺人未遂一件、監禁致死一件、業務上過失致死二件、傷害一件、強盗一件、窃盗等三件、恐喝一件、恐喝未遂一件、強姦三件、準強姦一件、強要一件及び公務執行妨害一件でございます。
 以上が概況でございます。

江田五月君 裁定合議とかあるいは検察官関与とか、特別更新もそうですが、少年の事件が非常に、例えば多数がかかわって、証拠関係が錯綜して事実認定が非常に困難であるというような事件がふえてきていると。ということで、検察官に関与させて、そして検察官から見た証拠の判断などについて検察官の意見もしっかり聞きながら審理をしないと適切な事実認定ができにくいと、そういうようなことを理由に挙げておられたと思うんですが、今伺いますと、そうした事案錯綜、証拠関係複雑といったことよりも、むしろ事案重大、悪質、そういうことに着目して裁定合議や検察官関与がなされているように見受けられますが、これはちょっと運用が違うんじゃないですかね、どうでしょう。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 具体的な事例につきまして、例えば検察官関与決定がされた理由、あるいは裁定合議決定がされた理由について、その詳細は承知しているわけではないのでございますけれども、検察官関与決定につきましては、御案内のとおり、一定の重大な事件に絞られているところでございまして、一つの類型といたしましては、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪と、二つ目といたしましては、死刑または無期もしくは短期二年以上の懲役または禁錮に当たる罪が対象となっているところでございまして、このような事件について非行事実が争われ、非行事実の認定上問題がある事件について証拠の収集、吟味における多角的視点の確保でありますとか、あるいは裁判官と少年側の対峙状況を回避する、こういった必要が生じた場合に関与決定がされているものと考えているところでございます。

 また、裁定合議につきましては、これは対象事件は限定されていないわけでございますが、現在のところ、今、委員が御指摘のように、結果の重大な事件において裁定合議決定がされているという実情にあるようでございますけれども、裁定合議制度自身は複数の裁判官による多角的視点からより慎重に審理をしようと、こういうものとして導入されたものでございまして、これらの事件においてもそういった観点から合議体による審理が適当と判断されたものと考えているところでございます。
 以上でございます。

江田五月君 もちろん、今のこの数字だけではちょっと何ともわからないんで、それ以上ここで議論するわけにもいきませんが、やはり重大事件であるから検察官にも関与させて、三人の裁判官で重みを持たせて、少年を、どういいますか、法の権威で威圧を加えて、そして恐れ入ったかとやるという、そういう趣旨ではないわけですから、ですからここはやっぱり運用をよく注意をしていただきたい。これで見ると何かやっぱりそういう感じがちょっとするんで、もちろんそうでなければいいんですけれども、我々が裁定合議あるいは検察官関与というものを認めた趣旨に合致した運用になるように一層の注意をひとつお願いをしたいと思います。

 それから、今のは事実認定手続適正化ということですが、処分のあり方等の見直しで原則検察官送致というものを入れているわけですね。これについては数字は、殺人が合計四件ですべて逆送になっている、傷害致死が合計二十九件でそのうち十九件が逆送、保護処分十件、強盗致死が合計で四件で全部逆送、そういう数字と、これはこれでよろしいんですね。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) さようでございます。

江田五月君 十六歳未満の少年については逆送事例はないと、これも確認しておきます。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 九月三十日までに終局した事件については仰せのとおりでございます。

江田五月君 この法、半年で十六歳以上の少年の殺人事件四件と、随分少ないなという感じを受けるんで、これは少年法改正を主張された皆さんからすると、それごらん、厳しくしたらやっぱり少なくなるだろうと、こういうふうにひょっとして言われるのかなという気がしますが、これは少ないという感じがありますか、ありませんか、法務大臣、どんな感じですか。法務省の中でどういうふうに見られていますか。

国務大臣(森山眞弓君) まだ半年でございますので、もう少し長い目で見ないといけないかと思いますけれども、四月一日以降九月三十日までの間に、少年の殺人事件六件を家庭裁判所に送致しまして、うち四件の逆送を受けているわけでございます。

 少年事件の発生につきましては、規範意識の低下とか、あるいは家庭の教育機能、地域社会の非行犯罪防止・抑制力など、多くの要因がございまして、その法改正が直接関係あったかどうかということはにわかには何とも申しようがないわけでございますが、多少はその効果もあった可能性もあるというふうには思います。

江田五月君 まだどうであったかの結論を出すには余りにも早過ぎますよね。五年で見直しということがありますので、ずっと状況をよくひとつ経過観察を怠りなくお願いをいたします。

 それから、被害者に対する配慮の充実ということがあって、これは数字はどういうことになっていますか、最高裁。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 被害者に対する配慮の制度といたしましては三本の手続が認められております。

 一つは、閲覧、謄写の関係でございますが、これについては同様の期間の数字でございますが、認められた事案が二百五十三人、認められなかった事案が六人でございます。

 また、被害者の意見聴取の手続でございますが、これについて認められた事案が六十七人、認められなかった事案が三人。

 最後に、審判結果等の通知でございますが、認められた事案が二百三十六人、認められなかった事案が七人でございます。

江田五月君 その認められなかった事案というのはどういうことなんですか。なぜ認めないんですか。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 三つの類型、それぞれ多少違いはございますけれども、これらの事案を通しまして見たところでは、その相当性によって認められなかったのではなくして、むしろその申し出をされた方が適格の要件を欠いていたとか、あるいは審判が終わった後であったとか、いわばこういった外形的な要件の問題での否定の判断だというふうに承知しているところでございます。

江田五月君 なるほどね、要件を欠いていればそれは認められないのも当たり前と。これも運用を適切に行っていただきたいと思います。

 改正少年法の成立に当たって、私たち民主党は原案の一部修正をした上で賛成ということにしたわけですが、参議院の法務委員会としても八項目の附帯決議をいたしました。

 さて、その附帯決議が半年少々、八カ月か、ちゃんと守られているかどうか、これを確認をしていきたいわけですが、「次代を担う少年の健全育成に関する総合的な施策を充実、強化するとともに、本法の施行に当たっては、次の諸点について格段の努力をすべきである。」という書き出しで始まって、これは十分注意しますという趣旨のたしか大臣の御発言、前の大臣でしたか、がございましたが、まず法務大臣、これは今後とも附帯決議に沿った施策の充実に御努力いただくと、改めてここで確認しておきますが、それはよろしいですね。

国務大臣(森山眞弓君) 前大臣であったかもしれませんけれども、法務省の責任者としての言葉でございますから、私もその気持ちを引き継ぎまして、御趣旨を体して守っていかなければならないと考えております。

江田五月君 そこで、第二項めに「刑事処分可能年齢を十四歳に引き下げることに伴い、少年受刑者の教育的観点を重視した処遇に十分配慮し、矯正処遇の人的・物的体制の充実・改善に努めること。」と、こういうことがあるんですが、これはどういうことになっていますか。

国務大臣(森山眞弓君) 少年受刑者の矯正処遇につきましては、少年受刑者を収容する矯正施設を改築いたしまして、少年受刑者独自の処遇メニューを設け、改正法の趣旨を踏まえた職員研修を実施するなどの教育的な観点を重視した人的・物的体制の整備を図って努力いたしております。

江田五月君 その言葉に期待をしたいんですが、実は昨日、これは私のホームページの掲示板にある少年院の職員の方から書き込みがございまして、なかなか切々たる書き込みなんですが、ちょっと冒頭部分だけ読んでみますと、「今、多くの少年院は過剰収容に悩んでいます。収容するだけで精一杯、矯正教育を施すという状況にありません。職員はあまりの勤務環境の悪さにバタバタ辞めています。ベテラン職員は「命が大事」と言って辞め、新採用職員は少年からの愚弄行為等により精神的に追い込まれ辞めていきます。辞めていった職員の補充を、また新採用職員で行うという悪循環に陥っているのです。残った職員も精神的・肉体的に疲労しきっています。」ということでずっと書いてこられました。

 私は、これはやっぱり現場の本当に切実な声じゃないかという気がするんですが、法務大臣、どう思われますか。

国務大臣(森山眞弓君) 確かに、少年院の平成十二年の新収容者の数は、その五年前の平成七年と比較いたしますと、約一・六倍という状況になっております。しかし、そのような状況のもとにおきましても、少年一人一人の問題性に応じた適正な処遇を実現するべく一生懸命に努力をしております職員も多数、ほとんどの人がそうだというふうに私は信じておりまして、きめ細かな矯正教育が行われているというふうに考えております。

 当然ながら、教官一人当たりの相当量の業務負担増は避けられない状況でございますほか、被収容少年の生活環境維持にも相当の努力が必要でございまして、私どもの立場といたしましても、環境の改善に予算面その他の措置で改善の努力を続けていかなければいけないというふうに思っております。

江田五月君 私は昔、少年事件を裁判官として担当していた当時に、お隣の角田先生の御地元の榛名女子学園に行ったことがあるんですけれども、広い施設で女子少年が本当にわずかというとおかしいですが、定数よりずっと少ない人間しかいないという状況の中で、職員と被収容者とほぼ似たぐらいな数でやっていたと。確かに、それでもなお矯正処遇というのは大変困難なんですが、しかし何か心を通わせるように一生懸命やっているなと。子供たちも、そういう中で大変ではあるんですが、はぐくまれているという感じがしたんですけれども。

 きのうちょっと伺いますと、あの榛名女子学園でも、過収容にはなっていないけれども、それでもかなり定員ぎりぎりのところまで来ているという話で、この書き込みでいくと、「現在の職員数では、我々職員は矯正教育どころか少年を「逃がさない、殺さない(自殺させない)、怪我させない」といった保安面のみの仕事しかできません。」という書き込みで、誇張があるかもしれませんけれども、しかしやっぱりそういう面が出てきているという気がします。

 ぜひ、これは附帯決議にあるとおり、本当に「教育的観点を重視した処遇に十分配慮し、矯正処遇の人的・物的体制の充実・改善」、これはここでひとつ頑張るという約束をしていただきたいと思う。

国務大臣(森山眞弓君) 御指摘のような過収容の部分も相当数あるということは私承知しておりまして、今回の補正予算あるいは来年度の予算要求等についても特段の力を入れて努力しているつもりでございますが、おっしゃいますような目的が十分果たせますように、今後も一生懸命やってまいりたいと思います。

江田五月君 本当にくどいようですが、矯正教育どころか保安面の仕事しかできないという状況では、少年が立ち直るどころか、むしろ心はすさんでいくので逆効果になってしまうので、本当に重要なことだと、お願いをしたいと思います。

 附帯決議の四項目に、「公的付添人制度の在り方については、国選による制度や法律扶助制度等を勘案しつつ、鋭意検討すること。」となっていまして、これは鋭意検討はどうなっていますか。

国務大臣(森山眞弓君) 少年審判における公的付添人制度のあり方につきましては、司法制度改革審議会意見におきまして、少年に対する公的付添人制度導入の積極的な検討が必要であるという御指摘を受けたことを踏まえた検討を継続しております。

江田五月君 継続の結論を出していただきたいと思いますが、第七項では、これは「少年事件における家庭裁判所の役割が重要であることにかんがみ、調査体制の充実等その機能の拡充に努めるとともに、少年問題に関する地域的ネットワークの構築等にも努めること。」と、こうあります。

 最高裁、最高裁は附帯決議を尊重しという御発言はあるいは附帯決議したときにいただいていないかと思いますが、いかがですか。

最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 家庭裁判所における調査体制の充実という観点の御質問かと思われるわけでございますが、この点につきましては、家庭裁判所における家事事件及び少年事件の事件数の動向でございますとか、あるいはその複雑困難化の状況を踏まえまして、平成十二年度と平成十三年度にわたりまして家裁調査官五人ずつの増員をお認めいただいたわけでございます。さらに、引き続きまして平成十四年度につきましても同様に五人の増員要求を行っているところでございます。

 このように、家裁といたしましては、裁判所といたしましては、家庭裁判所がその特色である科学性あるいは後見性といったものを十分に発揮して的確な事件処理ができるように、その充実に努めているところでございまして、今後とも、改正の趣旨を十分に踏まえて、適正な事件処理が可能となるよう必要な体制整備に努めてまいりたいと考えているところでございます。

江田五月君 第八項目に修復的司法ということを書いてあるんですが、これは、法務大臣、いかがでしょう。

国務大臣(森山眞弓君) 被害者の保護につきましては、多岐の分野におけるさまざまな施策が必要でございまして、政府において犯罪被害者対策関係省庁会議を設置いたしまして既に一定の施策を講じるなどしておりますほか、修復的司法に関し外国制度の調査等の研究を継続しております。

江田五月君 あのときの審議を思い出すんですが、修復的司法という言葉が、恐らく国会審議の中で初めてそういう言葉が出てきたんだと思いますけれども、諸外国で行われておると。そういう諸外国の状況をしっかり把握をしながら、我が国でもそうしたことの導入をひとつしていこうという、そういう思いを込めてこの附帯決議をつけていますので、ぜひこれも、きょうこここでもう少し聞いてもいいんですがやめておきますから、どうぞしっかりと諸外国の調査などもし、我が国でも導入できるような環境を整えていただきたいと思います。

 きょうは改正少年法成立一年でちょっと取り上げてみましたが、私たち民主党は司法制度改革でも特に家庭裁判所の飛躍的充実強化を強く求めておりますが、これは法務省もあるいは最高裁も、ここで問題だと言っているんではなくて、むしろ我々は応援しているんですから、ひとつ本当に、国会でもそういうことが聞かれた、これは大変だということで、財務省その他に対する働きかけも大いにやっていただいて頑張っていただきたいと、格段の努力をお願いしたいと思います。

 次に、十一月十六日に発表されました犯罪白書、これを伺います。概要を御説明ください。

国務大臣(森山眞弓君) 十一月十六日に発表されました平成十三年版の犯罪白書では、平成十二年における我が国の犯罪動向等について分析しているものでございます。

 平成十二年における我が国の犯罪動向について簡単に申しますと、まず第一に、刑法犯の認知件数が十一年に引き続き戦後最高を更新したということ、それから第二番目に認知件数の主たる増加分が窃盗罪と交通犯罪であること、第三番目は検挙率が戦後最低を更新したこと、第四番目に行刑施設における受刑者の収容率が一〇〇%を超えたというようなことの特徴が認められるわけでございます。

 一般の刑法犯では、強盗、傷害、強制わいせつ及び器物損壊等の暴力的な色彩の強い犯罪が著しく増加しております。窃盗では五十歳代以上の中高年齢層の検挙者が増加しているところでございます。

江田五月君 なかなかショッキングな犯罪白書なんですね。平成十二年、刑法犯検挙率が四二・七%、前年比七・九ポイント低下、戦後最低、特に窃盗は一九・一%しかない、五人に一人しか検挙されていないと、こういうことにこれなるのかどうか、ショッキングな数字なんですが。

 窃盗について一九・一%というのは、五人に一人も検挙できていないというこういう意味なんですか、どうですか。これは大臣よりも、どなたが答えてくれますか。刑事局長。

政府参考人(古田佑紀君) 警察の現場における検挙のことでございますので、警察御当局、もしよろしければ、いらっしゃっているようでございますので。

政府参考人(吉村博人君) 窃盗犯の認知件数でございますが、平成十二年、昨年は二百十三万件余りでありまして、窃盗犯で見ますと検挙率は一九・一%であります。これを多少ブレークダウンしますと、侵入盗が検挙率三六・八%、乗り物盗が九・二%、非侵入盗が二一・二%という数字になっております。

江田五月君 驚いたことなんですが、急落、その前に私がちょっと聞いたのは、これはどちらからでもお答え、警察の方がよくおわかりでしょうかね、窃盗犯人が五人に一人とかあるいは十人に一人ちょっとしか検挙できていないというんじゃなくて、一人の人間が幾つも窃盗したりすると。それで、一つは確かにちゃんと捜査ができるけれども、そのほかの余罪までなかなか捜査がいかないというので、件数としては余罪も含めた全件で、そのうちの一九・何%だけれども、人間としてはそんなにみんなが野放しになっているわけではないんだというような説明も聞いたんですが、その辺はどうなっていますか。

政府参考人(吉村博人君) ちょっと概括的な説明もあわせてやらせていただきたいと思いますが、犯罪白書は、実は昨年の刑法犯三百二十五万件の認知になっておりまして、警察ではこのうち交通事故に係る業務上過失致死傷は除いて刑事部門で議論しておりますので、母数はしたがいまして平成十二年中の刑法犯認知件数は二百四十四万件余りということになります。これを基準にしますと、昨年は検挙件数がかなり減っておりますが、検挙人員は三十万九千六百人余りということで、ほぼ横ばいの数字になっております。

 ちなみに、これはことしの一月から十月までの統計が既に数字が出ておりますが、それで見ますと、依然として交通業過を除く刑法犯の認知件数がふえております。それから、検挙件数は残念ながら減少しておりますが、この中にあって検挙人員は、実は昨年同期比、多少ふえております。ということは、今、先生がおっしゃったように、ある人間を捕まえてきて余罪捜査をやるわけですけれども、その余罪捜査が十分でない部分が検挙件数の減になってあらわれているのではないかということは推測をされるわけです。

 それで、それじゃ一体どういうことが原因になっているんだろうかということになるわけでありますが、一つは、認知がどんどんどんどんふえておりますから、窃盗犯に限らず。そうすると、初動捜査に対応しなきゃいかぬということで、いわば次々に事案発生して人が出ていくということになりますと、じっくり取り調べで余罪を出していくという過程がいささか時間不足になっているのではないかということが一つあります。

 それから二番目に、どうもこれは感じの問題で恐縮なんですけれども、外国人、特に来日外国人を捕まえた場合に、彼らは現行犯でも否認をするというような状況が強いものですから、なかなかこれは余罪がどんどん出てこないということになります。反面、最近、自動販売機でありますとか、あるいは自転車もそうですけれども、それから器物毀棄の中でも、例えばマンションや家にスプレーで落書きをされると、これはマンション保険等で補てんをするがために警察に被害届が出ます。

 したがって、どんどん認知件数がふえるんですが、先ほど申しましたように、検挙件数ということになりますと、人員はまあまあカバーしながらも検挙件数は伸びが悪いということで、結果として、認知件数分の検挙件数が検挙率でありますから、これがどんどん下がってきているということになっているのではないかというふうに推測をされます。

江田五月君 本当に背筋が寒くなるような状況があると。余罪捜査までなかなか手が回らない、それが数字にすると検挙率の低下になっているということで、犯人を野放しにしているわけではないとしても、それでもかなりひどいですよね。

 しかし、平成十二年に検挙率が急落したというのは、やはりそこに何か重大な原因があるという、今の、人間はちゃんと捕まえているんだというだけではなかなか済まない原因、理由があると思いますが、そして、これはその原因をきわめたら、今度はそれに対して対策を立てなきゃならぬと思いますが、法務大臣、どういう態度で臨まれますか、この状況について。

国務大臣(森山眞弓君) 今の検挙そのものについては警察の方で今御説明くださいましたようないろいろな事情があるのだろうと思いますが、したがって警察の方でも努力をしていただいていると思いますけれども、法務省もそれに関連する例えば検察現場の検察官の人数の手当てであるとか、あるいはその補佐をする事務官の増員であるとか、そのようなことも大変重要なことではないかというふうに考えておりまして、この件については来年度の予算要求において何とかしたいというふうに今努力をしようとしているところでございます。

江田五月君 警察庁の方は、検挙率低下、どういう原因でどう対策を考えようとしておられますか。問題意識をどういうふうにお持ちですか。

政府参考人(吉村博人君) 先ほどのちょっと補充で恐縮なんですが、強盗事件を見ますと、これは平成元年と平成十二年を比較した数字なんですけれども、全国で強盗罪で検挙した人員が平成元年は千四百四十四人でありました。これが昨年は三千七百九十七人捕まえておりますから、結構これは数字は上がっておるわけです。ところが、強盗の認知件数が平成元年千五百八十六件でありましたのが、昨年は五千百七十三まで上がっているんです。ですから、これは検挙件数、検挙人員がかなりどんどん落ちていて認知がふえているというんだったら、これはもう典型的に問題なんですけれども、それなりに一生懸命やっているということは御理解をいただきたいと思います。

 先ほど申しましたように、余罪捜査が十分でないということは、これは突き詰めていきますと、やはり警察官の配置を含めて当方の体制の問題があるわけでありますので、犯罪発生実態に即した体制をとっていく必要があると思いますし、それから、もちろん質的な面で警察官の捜査官としての育成もこれは長期的にやっていかなきゃいかぬ等々。あるいはまた、科学捜査力の強化ということもありましょうし、在日外国人犯罪捜査の問題については、関係機関ともいろいろ連携をしながらやっていく、あるいは共同合同捜査もやっていくということで、問題意識は十分に持っておりますので、何とか検挙実績を向上すべくやってまいりたいと思っております。

江田五月君 特効薬みたいなことはないと思いますが、いろんな手だてを講じながら検挙率急落という状況の実態というものをしっかりつかんで、やはり本気で取り組んでいただきたいと思います。

 小泉改革も我々も応援をしたいと思いますけれども、しかし一方で世の中がこんなにすさんでくると、これは困りますよね。頑張ってください。応援をします。

 過剰収容の問題、これももう一つ今回の犯罪白書の大変ショッキングなポイントだったと思いますが、行刑施設収容率が昨年末で一〇三・六%。きのう伺いますと、速報値が一〇六パーとか一〇八パーとかという、上がってきているということのようですが、これは実態はどうなっているのか。数字をいろいろお教えいただくこともありますが、施設のタイプごとに、特にこういうところがこんなことになっていて大変だという御説明いただければと思います。

国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおり、大変行刑施設の収容人数というのはふえておりまして、平成十年以後、特に急激な増加が続いております。ことしの十月末には約六万四千八百人、収容率一〇〇・二%ということでございまして、先ほど少年院のお話がございましたけれども、少年院は全国的に見るとまだ一〇〇%を超えてはいないんですね。しかし、行刑施設、大人の方の刑務所等は全国的に見て一〇〇%を超えております。

 特に、既決被収容者だけで見ますと、収容率は一〇八・七%となっているわけでございます。このような収容人員の急激な増加は、主としてこれまでに受刑した経験のない初めて入るという新受刑者が急にふえているということでございまして、そのほか女子の受刑者、外国人の受刑者、高齢受刑者の増加も大きな要因となっているわけでございます。

 このために、各行刑施設におきましては、居室の定員を超えて被収容者を収容したり、集会室とか倉庫などを改造して収容居室や工場に転用するなどの応急措置をして何とかしのいでおりますが、幸い財政当局もこの問題を大変深刻に受けとめていただきまして、今般の補正予算におきまして約三千二百人程度の収容増を図る措置をしていただきました。

 行刑施設は法秩序の最後のとりでということで、国民が安心して暮らせる社会をつくっていくために大変重要であると思いますので、今後とも収容対策の充実強化に努めていきたいと考えております。

江田五月君 ひとつぜひ力を発揮してください。

 この犯罪白書で窃盗の検挙人員では五十歳代以上の中高年齢層の増加、どうもこれも何かわびしいことですよね。ここばかり質問していても、幾ら時間があっても足りませんのでこの程度にして、本題の刑法改正の方に入ってまいります。

 まず法務大臣、私は、なぜ一体こんなにこの法案の提出がおくれたのか、これをひとつ、ぜひ法務大臣、ちょっと反省の弁が要るんじゃないかと思うんですよ。危険運転に対する世間のいら立ちというものが非常に高くて、私どももいろんな人の声を聞き、実は特にプロジェクトチームまでつくってさきの通常国会に私どもは、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案、こういうものを四月五日に衆議院に提出をしました。これは与党の皆さんの賛同を得られず否決をされた。ここで与党の皆さんに聞くわけにもいきませんが……(発言する者あり)衆議院だからね。衆議院の与党が悪い。だけれども、政府の方ももっと早く本当なら出すべきだと。

 いや、民主党の皆さんありがとうございます、皆さんの御努力の積み重ねで今回出すことができましたというねぎらいの言葉ぐらい一つ民主党にあってもいいんじゃないかという気もするんですが、いかがですか。

国務大臣(森山眞弓君) 確かに、この問題はかねて重大なことだというふうに認識しておりましたのですが、あわせて交通事故の被害者の方や遺族の方々の強い御要望も相次いでおりまして、それらを受けとめたという形でございます。

 交通事件の実態とかこれに対する社会の認識の変化も踏まえまして、国民の日常生活に密接にかかわる問題であるということにも配慮いたしましてできるだけ早くということで検討を加えまして、ようやく今回出させていただいたというわけでございますが、この法律が施行された後、円滑に運用される必要がございますので、そのためには関係者との意見の交換、専門的見地からの検討も重要でございました。そのために多少の時間を要したということはまことに申しわけなかったんですが、ぜひ御理解をいただきたいと存じます。

江田五月君 まあ理解しましょう。
 もともと国民の声は、業務上過失致死傷の法定刑がちょっと軽過ぎるんじゃないか、この法定刑をもっと上げてくれというところから始まっていたと思うんですが、それを、そうではなくて、こういう危険運転致死傷罪という新たな罪を新設したと。その理由はどういうことですか。

政府参考人(古田佑紀君) 確かに、そういうふうな声もあったということは承知しているわけでございますが、ただその内容をよく分析しますと、要するに現在交通事故に適用されておりますのは業務上過失致死傷罪であるということを踏まえての御意見で、要は悪質な交通事件についての量刑がどうも軽過ぎるんじゃないかということではなかろうかと考えられるわけです。

 それともう一点、そういう声の中の、これもよく分析いたしますと、非常に危険な運転行為をあえてやっていてそれが過失というのはおかしいのではないかと、こういう声というのも実は中に含まれているわけでございます。

 そういうことからいたしますと、そういう御要望と申しますのは、結局、悪質でかつ危険な運転行為をしてその結果、人を死亡させた場合に、今の過失犯ということで処罰すること自体疑問があるし、刑も軽過ぎる、こういうことであろうと私どもとしては理解したわけでございまして、その理解に従ってこういう危険運転致死傷罪を新設するということとしたものです。

江田五月君 そうですね。軽過ぎるという感じというのはなぜ起きるかというと、車は走る凶器で、殊さらにその走る凶器をおもちゃに使ったような運転をしながら事故を起こす、あんなものはもう落ち度があったなんという話じゃないよという素直な国民の気持ちがある、それをそのまま受けて新たな罪をつくったと、こういう理解ですよね。法務大臣、そうですよね。

国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおりでございます。

江田五月君 刑法改正案としてお出しになった。私どもは、昨年公表したのは特別法として考えてみたと。道交法の改正という、そういう考え方もあったかに聞くんですが、これはこの手法で、これは刑事局長だと思いますが、それぞれどういうメリット、デメリットがあってこの刑法改正という方法を選ばれたのか、これを説明してください。

政府参考人(古田佑紀君) まず、道路交通法につきましては、そこに取り込むということも全くあり得ないわけではないとは思いますけれども、御案内のとおり、基本的には道路交通法は交通のルールを定めるものということになるわけでございまして、被害者あるいはその遺族の方の声にありますような一種の自然犯的な処罰を求める、そういうものの受け皿としていかがなものかというところが多少あるわけでございます。

 次に特別法、これはもちろん選択肢としては考えられるわけでございますけれども、一つに、特別法というのは、何といいましてもやや目に触れにくいところがございます。こういう悪質な交通事犯、これは現在の自動車の普及状況から見まして国民生活の広い範囲で非常に深いかかわりを持っていることで、言いかえますと国民それぞれが非常に深いかかわりを持つ。したがいまして、そういうふうな罰則で、自然犯と考えていいようなもの、こういうものにつきましては、やはり基本法である刑法典の中に規定することが適当であると考えたわけでございます。

 先ほど大臣からも御紹介を申し上げたところですけれども、法制審議会の中でも、一方で、確かに特別法である程度技術的な要素も盛り込みながらやるという考えもありましたけれども、やはり先ほど申し上げました犯罪の性格にかんがみまして、基本法である刑法で規定するのが適当だという意見の方が多かった状況でございます。

江田五月君 なるほどね。危険運転、一定の類型があって、それは本当に殊さらにそういう行為を行っている、その結果として傷害とか死亡とかということが起きている。よく見ると、刑法の中に、暴行というのがあって傷害というのがあって傷害致死というものがある、そういう一つの構造を持った犯罪類型がある。それと似ているといいますか、その類推でこれは考え得る、そういう類型であると。これは私はなかなかうまいところへ目をつけたなと思いまして、私どもいろいろ考えたんですがなかなかそこまで思い浮かばなかったんですが、実は。

 そうすると、それは今のような発想でこういう罪の形態をつくったと、これはよろしいですね。

政府参考人(古田佑紀君) 御指摘のとおりです。

江田五月君 そうすると、刑法では暴行というのが一つの犯罪類型としてあるわけで、なぜ、暴行類似行為で危険運転をとらえるのなら、危険運転罪というものをつくらないんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 確かに、考え方として、一般的な危険運転罪というのももちろん考えることは可能なわけでございますけれども、ただ、その一般的な危険運転ということとなりますと、これは非常にいろんな場合が含まれまして、なかなか構成要件的に限定的なものというのをつくるのはかなり難しいという問題があるわけでございます。

 それともう一点、これは実質的なことでございますけれども、危険運転行為の中に含まれている行為と申しますのは実質的には道路交通法違反になるのが通常でございまして、そういうことから、その部分につきましては少なくとも道路交通法では実質的な処罰をしているということも考え合わせまして、そこであえてその一般的な危険運転罪というようなものは設けなかったということでございます。

江田五月君 余りにも一般的過ぎて罪刑法定主義から疑問が出てくるというのはよくわかりますが、しかし暴行罪の暴行というのもこれもいろんな類型がありますから、危険運転と、こう言えばある程度浮かび上がってくるとも言えなくもない。

 それでも、それは別として、今回、四類型決められているわけですから、四類型の運転をした、それをそのまま罰するという、そういう発想はとれないんですかね。

政府参考人(古田佑紀君) そういうふうなお考えもそれはあろうかと思うわけですけれども、先ほど申し上げましたとおり、道路交通法におきましても例えば酒酔い運転等は非常に重く処罰されている、そういうことでございまして、一般的にあえて現時点でそういう規定を設ける必要まではないのではないかと考えたということでございます。

江田五月君 暴行、傷害、そういう犯罪類型と類似した犯罪類型として危険運転致死傷罪を考えられたということになりますと、その四種類の危険運転、これは故意犯で、これはさっき質問ありましたから確認ですけれども、四種類の危険運転行為について故意があれば、致死傷のところまで過失がなくても結果的加重犯で因果関係さえあればあとは罪は成立すると、そう考えてよろしいですか。

政府参考人(古田佑紀君) 御指摘のとおり、結果的加重犯の構造に類似したものでございますので、そういう意味で結果発生についての認容等はもちろん要らないわけでございます。要するに、こういう危険運転行為がその死傷の原因になっているということが必要であるということでございます。

江田五月君 結果発生に認容があったら殺人罪になりますから、あるいは殺人未遂になるからそれはまたそれで別の犯罪で、結果発生についての結果予見義務とそれの回避義務ということを問う必要はないね、原因、結果という連鎖があればよろしいですねと、こういうことなんですが。

政府参考人(古田佑紀君) 基本的にはおっしゃるとおりでございますけれども、要するに、この危険運転行為と全く別な要因によって結果が起きるというような場合は除かれるということでございます。

江田五月君 それは結果と言えないんでしょうね、普通なら。危険運転をやっていたと、隣に乗っていた人が突然クモ膜下出血で死んじゃったというのは別に運転と関係ないから、運転の行為とその結果の間に別に因果関係はないので。まあ、いいです。

 その四類型だけにした、ほかにも危険運転行為はいろいろあるように思いますが、これは特によくお調べになって類型化したということなんでしょう。そうすると、今までこういうものも業務上過失致死傷罪として処断をしておって、そうすると、全体に業務上過失致死傷罪がずっと軽いものから重いものまである、その重いところを取り上げてこういう重罰化すると、今度その一番重い業務上過失致死傷が抜けちゃうわけですから、抜けた残りの一番重いところの刑が法定刑最高のところまで行って全体に業過の量刑が重くなるということにつながるということはあるんですか、ないんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 現在の業務上過失致死傷罪の法定刑が昭和四十三年にいわゆる交通三悪に対応するために引き上げられたわけで、そういう中に今回御提案しておりますような危険運転行為による致死傷の結果がかなり含まれているということは事実でございます。

 したがいまして、その点について重い処罰規定を新たに設けるということになりますと、今、委員御指摘のような間を埋めるという意味ではないんですけれども、やはり交通事故の実態に即した悪質性、それを考慮して懲役五年以下という法定刑の範囲内で量刑というのが考えられていくことになるであろうと。そういう意味で申し上げますと、軽い方にはさほど影響はないと思いますけれども、やはり悪質、重大と思われるような過失事犯につきましてはやはり量刑も変わってくるものではないかと考えているところでございます。

江田五月君 そういうことはあるでしょうね。こんなひどい交通事故、それでも業務上過失致死は五年だから、それは五年と。とすると、これもひどいけれども、あの五年のやつよりはちょっとは軽いかなというので四年半にするとかというのが、こんなひどいというのが危険運転の方に行くわけですから、これはひどいというのは四年半が五年になるというようなことは、まああるんでしょうね。

 道交法との関係、さっきちょっと言われましたが、例えば赤信号を殊さら無視と、殊さら無視と道交法の信号無視と、この関係はどうなるんですか。

政府参考人(古田佑紀君) この場合は、赤信号無視という道路交通法上の罰則の構成要件を完全に取り込んで、それを構成要件としているものでございますので、本罪が成立する場合には本罪に吸収されて、別途、道交法違反によって処罰されることはないと考えております。

江田五月君 吸収。道交法には安全運転義務違反という類型があるので、言葉だけを見ると危険運転と安全運転義務違反は同じように思いますが、これはかなり違うんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 確かに、安全運転義務違反は言葉だけ見ると委員のおっしゃるような感じもいたしますが、安全運転義務違反と申しますのは非常に広い概念で、一般的に何らかの交通の安全を害するような、そういうふうな運転行為をするということが対象になっているわけでございます。

 一方、こちらの方はまさに非常に重大な危険を生じさせる、そういうふうな場合を類型化したものでございまして、安全運転義務違反との関係で申し上げれば、安全運転義務違反のうちの非常に極端なものということにはなろうかと思います。

江田五月君 共犯の関係についてちょっと伺いたいんですが、致死傷という点は、これは結果的加重で、しかし危険運転のところは可罰的にできていないわけですから結果的加重犯とはちょっと違う。だけれども、危険運転については、これは共同加功は成立しますよね。二人で乗っていて、それ行け、おい、赤信号幾つぶっ飛ばした、それまたやれというような運転をしていたら、それで致死傷の結果が起きたら、これはこの二人は共犯になりますか。

政府参考人(古田佑紀君) 一般的に申し上げまして、基本行為は故意でございますので、いわゆる共犯規定の適用はこれは当然あるわけでございます。共同正犯、これは典型的には二つの車に分乗してこういうようなことをやるというような場合には恐らく共同正犯になることは間違いないであろうと。

 それ以外に、同乗者との関係でということになりますと、これはいろんな場合があるわけで、ちょっと一概には申し上げにくいかと思います。

江田五月君 そうですね。一概にというのは、つまり共犯ということは共同正犯も教唆も幇助もそれはあり得るということだと聞いておきますが、仮にボスがいて、運転をとにかく無理やりに信号無視などさせて、この人間がもうそれを嫌だと言えないような状態でやらせたというようなことをすると、今度は間接正犯というような処罰の方法も出てくるわけですよね。

政府参考人(古田佑紀君) 御指摘のとおりだと考えております。

江田五月君 没収はどうですか。

政府参考人(古田佑紀君) 犯罪行為として危険の一部として危険運転行為は定められているわけでございますので、したがいまして一般的には犯罪供用物件として車両等が没収される可能性は、これはあり得ると思います。

江田五月君 刑法二百七条、同時傷害、これは類似ですから適用があるとまではなかなかいかないかもしれませんが、適用はないんですか、あるんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 御案内のとおり、同時傷害の規定は暴行が前提となっているわけでございまして、これは暴行に準ずるという法的評価はしておりますけれども、暴行としているわけではない。したがいまして、そういう意味では同時犯の規定の適用というのは考えられないのではないかと。ただ、もちろん暴行に当たるような場合も本罪には含まれるわけで、そういうようなケースはあり得るかと思います。

江田五月君 ちょっと今よくわからなかった。危険運転自体が暴行と評価できるような危険運転のときに、そうするとそれは傷害なんですか、それとも危険運転致傷なんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 本罪につきましては、現行刑法上暴行に当たると認められるようなケース、これも自動車の危険運転として評価できる場合には本罪によって処断するという考えでございます。

江田五月君 そうすると、その場合は二百七条の適用もあり得るということですか。

政府参考人(古田佑紀君) 今申し上げましたように、まさにそれが暴行というケースに該当するというような場合であれば、少なくとも刑法の文面上適用が排除されるということにはならないのではないか。ただ、実際問題としてこれは自動車で高速で走っている話ですから、そういうことからいえばほとんど問題になる余地はないのではないかと考えているということです。

江田五月君 私は、二百七条類似のことはやっぱり一遍検討した方がいいかなという気もするんです。例えば、今の二台の車が競争で信号無視を始めた、その間の二人は別に相談してやっているわけでも何でもない、そして事故が起きた、どっちの車ではねられたかがわからない、被害者は、というような場合は二百七条ぐらいのものがないとなかなか困りますが、そんなことを考えるつもりはありませんか。

政府参考人(古田佑紀君) 実態の問題として妨害の意図とか、こういうようなものが全く意思の連絡なしに走行しているさなかで、それぞれが、二以上の車が持つというような事態というのがどの程度想定されるかということになるんだろうと思うんですけれども、全く論理の問題として考えますと、仮にそういう場面があり、なおかつそれが当該自動車に乗っている人に対する暴行に刑法上当たるというような場面が万一あるとすれば、それは二百七条の適用がある場面もあり得るというふうには思っております。

江田五月君 今聞いたのはそうじゃなくて、二百七条のような考え方を危険運転致死傷罪でも検討して、そしてもし必要だということになれば、そういう二百七条ではすぐ無理ですから、暴行に当たるというようなことでない場合には。二百七条類似のような規定を設ける必要がありはしないかということを言ったんです。

政府参考人(古田佑紀君) どうも失礼いたしました。
 御指摘の点、いろんな二重轢過その他の事故もあるわけでございまして、そういう点からすれば傾聴に値する御指摘だとは考えますけれども、御案内のとおり、同時傷害の規定につきましては、結局どちらかに本来の責任以上の刑を、罪責を問うことになるおそれがあると、そういうふうな問題も指摘されておりまして、やはり慎重に検討していかなければならない問題と考えます。

江田五月君 そういう心配もあるでしょうから、すぐつくれということを言っているわけじゃありませんが。

 実は、私の経験でいえば、これは民事の話ですけれども、車がすれ違ったんですね、それで、すれ違った後でその間で人が死んでいたという、どっちがはねたかわからないという。これは刑事では両方無罪というか、起訴して無罪になったのかな、あるいは起訴できなかったのかな。しかし、民事ではこれはやっぱり損害賠償を認めないわけにいかないというようなケースに遭遇したことがありまして、やっぱり危険運転が二台すれ違って、間で人が死んでいたなんということが起こり得るなということを心配いたします。

 この辺になると、もう専ら法律家しか興味のない、かなりおたく的な質問にだんだんなっていっているんですけれども、もうちょっとおたくでいきますと、一項、二項があって、それぞれ前段、後段ありますよね。これはそれぞれ別罪になるんですか。両方に当たったらどういう関係になるんですか。併合罪になるんですか、観念的競合になるんですか、それとも一罪なんですか。あるいは、一項にも二項にも当たるようなむちゃくちゃな運転をして人が三人死んじゃったら、これは罪数はどうなるんですか。

政府参考人(古田佑紀君) いずれにいたしましても、一個の運転行為でございますので、一項、二項のそれぞれの構成要件に同時に当たるという場合には、これは併合罪になることはない。観念的競合かあるいは包括一罪か、それは多少いろんな考えはあるかと思いますが、いずれにせよ一罪ということになろうかと思います。

 また、複数の方がそのことによって死傷の結果が生じたと、そういう場合も、結局これは一個の行為によるものでございますので、観念的競合ということになると考えております。

江田五月君 裁判所が考えるでしょうけれども、立法者、立法者というのか提案者の方では、観念的競合か包括一罪か、その辺の検討はされていないんですか。

政府参考人(古田佑紀君) これは、危険運転という行為を幾つかに類型化したということで、大もとの問題としては要するに危険な運転行為ということでございますので、この類型化したのは、ある程度の物事の整理、あるいは立法技術的な面というのが大きく影響しているわけでございます。そういうことからいたしますと、基本的には両方の構成要件に同時に当たるというような場合は包括一罪と考えることが適当ではないかというふうには思っております。

江田五月君 私もそう思いますね。
 法定刑ですが、十年というのはこれは傷害との比較でわかるんですが、一年以上というのは傷害致死と比較すると、二年以上が一年以上というのは、半分というのか、半分とはならないのか。いずれにしたって、なぜこれは軽くしたんですか。

政府参考人(古田佑紀君) こういう危険な運転行為が暴行に準じるものであるということから、傷害致死の刑に準じて法定刑を考えたわけでございますが、暴行に準じると申しましても、暴行そのものではない。そうなりますと、ケースによっては、どうもやっぱり人に対する暴行ということで法定刑を定めてしまうと、どうもやや重いケースが出てくる場面もあるのではないか。そういうことから、端的に申し上げますと、暴行までは至らない、そういうケースについての事案の実態に即した刑を定めるために一年にすることが適当であると考えたということでございます。

江田五月君 刑法改正については、ほかに免除のことも随分聞かなければいけないし、それからもう一つ刑事訴訟法の方も聞かなきゃいけないんですが、来週ありますので、そのときにまだ伺うとして、この二項なんですが、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他」接近し、かつ危険な「速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた」と。車というのと、自動車というのと、四輪以上という、三つのものが入ってくるんですね。

 自動車というのは、これはたしか私の記憶では、ちょっと今調べていないんですが、道路交通法に定義があるあの自動車でいいんですか。

政府参考人(古田佑紀君) 自動車とは、原動機によりましてレールまたは架線を用いないで道路上を走る、そういう車両をいうと。それに対しまして、車と申しますのは、例えばリヤカーでありますとか、そういういわゆる軽車両と呼ばれているもの、そういう道路上を通行する車全般ということになるわけでございます。

江田五月君 車というのは特に何か定義規定はなかったかと思いますので、社会通念上車というものだろうということで、そうすると、直前に進入するという、進入する相手は自動車ですから、二輪車でもいいということになりますか。

政府参考人(古田佑紀君) おっしゃるとおりでございます。

江田五月君 そして、通行を妨害する目的の、その妨害される方の車というのはリヤカーでもいいと。

 あれはどうですか、お年寄りが買い物バッグみたいな、あれ何と言うんですか、ずっと押して歩いていますよね。あれは車ですか。

政府参考人(古田佑紀君) 妨害の対象となりますのは、歩行者も含めてすべて道路上を通行しているものが対象になるわけでございます。

 バギーは確かに車輪がついているものではありますけれども、むしろこういうのは歩行者と一体となっているものと考える方が自然な場合が多いであろうと思います。

江田五月君 バギーだけが動いているということは普通ないですから。
 きょうはこの程度で終わります。


2001/11/22

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