2001/03/15

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151 参議院・法務委員会

1時から90分間、私が福岡事件について法務委員会で質問。相手は法相、官房長、刑事局長、最高裁事務総長、人事局長、警察庁長官、司法制度改革審議会事務局長。

法務省の報告については、(1)山下次席(当時)にいかなる捜査権があったのか?、(2)主任検事も警察も飛び越し、被害者への配慮もないまま、古川判事に接触した理由は、捜査権の行使でなく、秘密漏洩だったからではないか?。

最高裁の報告については、(1)フロッピーが一枚だけ警察に押収されず、後に検察に任意提出されている理由は?、(2)最高裁関係者だけがひとりも事情聴取されていない理由は?。司法制度改革審に、この事件は陪審の必要性を示しているのではないかとか、最高裁に、裁判官会議の議事録を公開すべきではないかとか、質しました。


○委員長(日笠勝之君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、法務及び司法行政等に関する調査を議題とし、福岡地方検察庁前次席検事による捜査情報漏えい等に関する件について質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 御苦労さまでございます。
 午前中、ごあいさつに引き続いて、法務大臣、それから堀籠最高裁判所長官代理者事務総長から福岡の事件についての調査の報告をいただきました。所信の質疑は後刻ということで、きょうはそのいわゆる福岡事件についての集中審議でございます。

 この通常国会、経済の方もどうもなかなか大変な状況で、株価もきょうまた大変下がってくるというような事態ですが、同時に、我が国の統治構造といいますか、国の三つの機構、司法、行政、立法、これがそれぞれどうも疑惑まみれになってしまっておる。我が国の社会の根幹である三権に対する国民の信頼が今大きく揺らいで、経済関係と同様にどうも危機的状況にあるのではないかという気がしてなりません。

 三つの疑惑事件というのは、言うまでもなく立法府たる国会、特に参議院でKSD事件、参議院というのが舞台になった、代表質問までが金にかわった、これは自由民主党という我が国の政権政党に対する疑惑でもありますが。それから、行政府、これは外務省機密費詐欺事件。いやいや、とられたのは官房報償費の方か。いずれにしても、行政府全体がどうもおかしいぞと。そして、司法府は大丈夫かなと思っておりましたら福岡事件というわけで、この通常国会で可能な限りこの三つの疑惑事件の真相を解明して、国民の信頼を一歩でも二歩でも取り戻して再発防止策を講じていく、国民の信頼回復に努める、これをやらなきゃいかぬと思っております。

 高村大臣は今や次期自民党総裁候補の一人とも言う向きもあるような有力政治家でございまして、また外務大臣としてもらつ腕を振るわれてということになりますと、三つの疑惑すべての当事者とも逆に言えば言えるわけで、福岡事件に絞って質問をいたします。

 まず、法務大臣、今回のこの福岡事件というのは国民の皆さんからどういうふうに見られているとお思いでしょうか、お答えください。

○国務大臣(高村正彦君) 今回の問題につきましては、国民から検察に対しまして、山下次席検事は厳正公平であるべき検察権の行使をゆがめ、判事の妻を特別扱いしたのではないか、あるいは検事と裁判官は仲間意識があり、癒着しているのではないか、被害者の立場を無視しているのではないか、市民感覚からずれて独善に陥っているのではないかなどといった厳しい批判がなされているわけでありまして、これらの批判は真摯かつ謙虚に受けとめる必要があると考えております。

 今回の問題でありますが、検察と裁判所が癒着しているのではないかとの国民の疑惑や不信を招き、司法に対する信頼を著しく失墜させたものと認識しております。検察を所管する法務大臣として、極めて遺憾でありまして、国民に対して深くおわびを申し上げます。

○江田五月君 かなり国民の皆さんもがっくりきたと思うんですよね。とにかく、司法はせめて信用していきたい、司法は信用できる、もうそう思いたいというような気持ちさえあったところへこういう事件で、これは私は本当に国民の国の統治機構そのものに対する信頼をかなり深いところで傷つけてしまったという気がして仕方がありません。

 法務大臣に今、法務行政の最高責任者であると同時に政治家というポストですが、伺いましたが、法務省官房長、行政官の立場でどういうふうに国民に見られたと思っておられるか伺います。

○政府参考人(但木敬一君) このたびの事件で国民からさまざまな観点から非常に厳しい見方をされているというふうに考えております。

 最大の問題は、国民から見た場合、最も厳正公平であると期待し、また信頼していた司法という場において、検察官が裁判官との仲間意識に基づいて不公平な取り扱いをしたのではないか、この点について国民が極めて大きな怒りを持ったというふうに受けとめております。

 第二に、被害者あるいは第一線で苦労して捜査している警察官、こういう人たちの考え方を顧みることなく、自分ひとりで正義はこれだと決めつけてそこに走っていった中に、非常に権力者として独善的ではないかという御批判をいただいていると思っております。

 第三番目に、記者会見等を通じまして、反省の色が見られず、かえって自分の主張を正当化しようとしたというようなところに市民感覚との大きなずれを感じさせてしまった、このような厳しい御批判をいただいているというふうに考えております。

○江田五月君 最高裁にもぜひ御認識を伺います。

 裁判所がこの事件で国民にどう見られたというふうに認識をしておられるかと同時に、裁判所だけではなくて検察なども含めて司法全体、検察を司法に含めるかどうか、それは講学的にはいろんな議論がございますが、国民の一般の目から見て最も信頼されるべき司法、これをどう今国民が見ておるか、どう認識をしておるかを伺います。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 本件では、裁判所と検察庁との癒着が原因ではないかとか、あるいは古川判事の行為に証拠隠滅があったのではないかといった批判がなされ、国民の司法に対する信頼が大きく損なわれる結果になったというふうに考えております。

 この問題で裁判官のあり方や組織としての裁判所と検察庁とのあり方に投げかけられました問題は重大かつ深刻であって、裁判所としては、これを真摯に受けとめる必要があると考えているところでございます。

○江田五月君 皆さんそれぞれ問題点、国民がどう見ているかということを認識していただいていると思います。

 ある新聞に「法曹一家のなれあい」、こういう記事が載ったというんです。あるいは、NHKの「週刊こどもニュース」というのがあるんですね。これは子供用にかみ砕いて話しておるんですが、事の本質はひょっとしたら大人用のニュースよりももっと子供用のニュースの方がずばりついているかもしれない。

 その「週刊こどもニュース」は、裁判官も検察官も弁護士も司法試験に合格したエリートで仲がいいからこんな事件になったという意見もあるんだよ、なるほどと、こういうことがあると。弁護士は別枠だ、弁護士はこの事件では疑われていないという見方もあるけれども、そうでもないよと。どうも弁護士も一緒に法曹一家でなれ合いで、自分たちの中だけでうまいぐあいにやって、悪いことは全部隠して国民に見えないようにして、まあ、あの皆さんですよねという、そういう見方をされておるわけです。

 そういう中に、幸いと言っていいんでしょうか、警察はどうやら今回はむしろ被害者的立場にいたように見えているのかもしれませんが、きょうは田中長官もお見えいただいていますが、この事件、警察の方として国民からどう見られておるか、御見解をお聞かせください。

○政府参考人(田中節夫君) 今回の福岡地方検察庁の次席検事に絡む一連の事案につきまして、私ども、関係者でございますので、この具体的な問題につきまして我々としてのいろんな意見を申し上げることについては差し控えるべきだとは存じますけれども、基本的に我々、現場におりまして仕事をする場合におきまして、検察庁と相協力しながら刑事訴訟法の定めるところによりまして法の実現を求めていくという姿勢でございますので、そういう意味で、これからも今回の事案につきましては我々としてもこれを一つの教訓として進めていかなければいけない、こういうふうに考えているところでございます。

○江田五月君 この一両年といいますか、例えば警察についてもいろんな不祥事がございました。みずから省みて、じくじたるものもあって、そんなにおれだけ正しいといって批判ができる立場にいるとは思っておりません。

 私は御承知のとおり堀籠さんの一期下、実は大学に入ったときはクラスが一緒でちょっと追い越されてしまっているんですが、一期下の法曹で裁判官十年弱、九年二、三カ月やったりして、決して立派なことをやってきたとは到底思っていないんですが、それでも人から、裁判官だったんですってね、さぞかし公明正大な判断をされるんでしょうねなどと言われると恥ずかしさに顔が赤くなる気もしますが、同時にやっぱりそれなりに誇らしい気持ちも持っていた、これは事実でございます。

 今でも裁判所の昔の友達連中とは大変仲よくつき合ってもいるし、彼らと友達であることを誇りにも思っている。しかし、どうもそんな仲間意識といいますか、誇らしさというか、こんなことではどうにもならぬという事態に今来ているような気がするんですね。

 キャリアの皆さんが行政の場であれほどおかしくなってしまっておる。大蔵省、厚生省、ずっと顧みますと建設省などなどいろんなところ、それが警察にも、雪見酒とかいろいろそういうものがあって、裁判所だけはキャリアとして裁判官を養成する制度が何の問題もなく動いているとは到底思えない。思い上がりであるとかあるいは仲間のかばい合いであるとかいろんなことがあるに違いないと。ここは、自分のふるさと、あるいはふるさとの御親戚、ごく近いところでも、そして友だちを失う、そんな心配があっても、あえてきついことも決して自分が偉いわけではないけれども言わなきゃいかぬと思っていろいろ質問もしてまいりましたが、この事件に出会って、やっぱりと、これはよほど鋭いメスでうみを出さないといかぬ、そういう思いにとらわれたわけでございます。

 そして、先日、九日に法務省の方の調査の結果が発表されて、昨日、最高裁の調査の結果が出された。昨日の最高裁の調査の結果が私の手元に届いたのがかなり夜分になっておりまして、十分まだ読みこなせていない、かなり大部のものであったわけですが、この法務省、そして最高裁調査結果は国民にどう見られておるか。おっ、さすがやっぱり法務省、最高裁、しっかりした調査をしたな、もう胸がすっきりした、これで疑惑がすべて晴れた、こういうふうに見られているのか、そうでもないのか。そのあたりをどうお感じですか、まず法務大臣。

○国務大臣(高村正彦君) 今回の事件が検察に対する国民の信頼を深く傷つけたことにつきましては深刻な事態であると受けとめておりまして、この調査結果を公表したことだけで国民の疑念を払拭し、それで信頼が回復できたなどということは毛頭考えておりません。

 今回の事件は山下前次席検事個人の問題にとどまらず検察全体のあり方の問題でもある、こう認識しているわけでありますが、今後、検察官の意識改革のための具体的な方策を検討するとともに、検察が独善に陥ることを防ぐため、公訴権の行使や検察運営に民意を反映させる検察審査会制度の改革に向けて所要の措置をとるなど、法務・検察当局が一丸となって再発防止に取り組むことで国民の信頼を一日でも早く回復できるよう努めてまいりたいと思っております。

 調査結果を公表しただけで、もうそれで一件落着などと毛頭考えておりませんが、ただ今までの例に比べてできるだけ詳細に、できるだけ国民にわかりやすく調査結果をまとめようと努力したことだけは事実でございます。

○江田五月君 私も、法務省、検察庁の皆さんが一生懸命この今の危機的状況を認識して努力をして、詳細に調査もし、その結果も一生懸命公表されている、その気持ちはわからないわけじゃありません。ただ、やや甘いかなと思うのは、これが信頼回復の一歩になるというように国民が見てくれるかと思うと、必ずしもそうでもないのかもしれない。

 私もこの点は本当に国民の皆さんの素直な、普通の常識的な判断を聞きたいなと思っておるところなんですが、法務省の報告書を私の地元のある弁護士さんに送ってみました、ちょっと通読して感想を聞かせてくれと。

 この弁護士さんが非常に問題意識が旺盛な方であるからかもしれませんが、その反応、まあぱたぱたっとメールで書いているので、細かく注意深く書いている文章じゃありませんから人の名前までは出しませんが、一言で要約すれば、貧弱な事実と長ったらしいが説得力皆無の言いわけですと。こういう反応もあるんですね。

 組織ぐるみの行為を山下次席の非行とそれに対する上司の監督問題にすりかえていると。検察は実に多くの情報を漏らしている、これは裁判所ないし裁判官への配慮から出てきていることは明白だ、そしてこれは常識の問題だと。コモンセンスがない者がこの事態をいろいろ見ると、なるほどそう説明するのか、福岡の地検、高検、ここがいかに腐っていたかを証明したが、そういう事態に直面して最高検とか法務省とかが常識にかなった措置をとれば福岡の問題で済んだかもしれないけれども、最高検、法務省は御丁寧にも自分から検察全体、少なくともトップ全体が腐っていることを天下に証明してしまった、余り頭がよ過ぎて常識をきれいに忘れているんじゃないか。こういう反応もあるんですね。

 私は後からもう少し事実について詳しく聞きますが、こういう反応について法務大臣はどう思われますか。

○国務大臣(高村正彦君) 専門家の方がその報告書を読んだ上でそういう反応をしておられるということでありますから、それについては真摯に受けとめなければいけない、こういうふうに考えております。考えておりますが、ただそれではその一人の専門家の方の反応がすべてそのとおりかどうかということは、これはまた別問題であろうかと。

 我々もそれは一つの反省材料とさせていただきますが、やはり一番大きくこの問題についての考え方が分かれる点といいますか、何で起訴できなかったんだということが一番大きいと思うんですが、これはまさに法律解釈の話であって、例えば、一応理論的に法と証拠の上で刑は成立するんだけれども起訴猶予にしようとか、そういう話じゃないわけで、犯罪が成立するかどうか、公訴を維持するに足り得るだけの証拠があるかどうか、こういうところでまず判断をしたわけであります。そこについて、一人の専門家がそうでないだろうと、こう思えばまた随分違った厳しい意見も出てくるだろうと思うんですが、私としては、この点については検察の判断は相当なものであったろうと、こう考えているわけであります。

 それはそれとして、今申し上げましたように、起訴するに足り得る法解釈並びに証拠、それがあったかどうかは別として、極めて独善的、拙劣な方法、本人の目的を達するためにも拙劣な方法でやったということは、これは確かなことでありますから、こういった点について検察全体の問題として受けとめて、今後、検察の意識改革、それから外部チェックの問題についてもきちっとしていきたい、こういうふうに考えているわけであります。

○江田五月君 一人の専門家だけのことを私は今申し上げたわけですが、その一人の専門家だけの判断がすべてではない、これは当たり前です。ただ、そういう見方もある。その見方が特異な見方なのかというと、どうもそうでもないのかもしれない。

 今、私の手元にあるのは西日本新聞という福岡の地元の新聞一紙だけですが、その見出しだけを見ても、「前次席に刑事処分を」、これ括弧でくくって、「訴追回避の動き市民ら怒り 「幕引き許さぬ」」、「刑事告発は不起訴 法相「独善的な行為」」と、これは法務大臣が独善的と言われたということですからいいんですが、「検事権限最大に解釈 司法関係者の特権容認」、社説では「身内への切れ味なぜ鈍る」、「身内意識不信上塗り 「警官ならば逮捕」 司法の自浄能力見えず」。「幕引きも「特別扱い」 市民「なぜ裁かぬ」 当事者沈黙雲隠れ」、「漏えい報告書なお残る疑問点」と。

 法務省、検察庁はよくここまで調べて公開したというようなことは残念ながら全然出てきていない。なかなか大変な事態だと。信頼回復がこれで一歩前へ進んだと言えるかどうかは、本当にさらに今後どうするかにまさにかかっているんではないかという気がします。

 最高裁の方、私はまだけさの新聞も十分見ていないんですけれども、最高裁のこの調査報告書、これを私もぱらぱらと拝見して、むしろ法務省のものよりもさらに愚直に、よく細かな事実まで踏み込んでいろんなことをしっかりと書いておられるという感じはいたします。しかし、よく見ると、やっぱりいろんな疑問がどうも出てくる。調査の方法はこれでよかったのか、またその判断はこれでいいのか。

 これはぜひ長官にお伝え願いたいんですが、最高裁長官は三権分立の建前から国会に出てくるのは控えようと。しかし、きょうは、事柄が事柄だけに、長官の代理として事務総長がおいでくださって説明、報告をいただき、質疑にも答えていただくということで、それはそれで一つの仕切り方かなと思いますが、しかし司法の権威、これは権威というのはあぐらをかいていちゃいけないんで、やはり権威を持つ者、権威を求める者はその権威に伴う説明責任も十分果たさなきゃならぬし、日ごろ権威の維持のために最大の真剣な、真摯な、まじめな努力をしなきゃいけない。

 昭和三十二年の四月二十五日には、最高裁判所の田中耕太郎長官が国会、衆議院法務委員会にお見えいただいているんですね。裁判所法の質疑ですが、この会議録にして二十七ページにもわたる長い長い質疑に本当に丹念に長官がお答えになっているわけです。

 私は田中耕太郎先生に直接教えてもらったことはありません。御高名と著書ぐらいしか知りませんが、その後の横田喜三郎長官とか横田正俊長官とか、ああいう当時の長官は今考えてみると偉かったなと、今の長官も大変偉いと思いますけれども。
 やはり国会という場、三権の一つで最高裁判所と対等である、それも一つありますが、同時に、国権の最高機関で、国民に向かって物を言うとしたら、この国会というのがやはり一番国民に話をしたという場としてふさわしいのではないか。これは、余りこっちがのぼせ上がってはいけませんが、客観的にもそう思いますし、また国会の場でいろんな批判、反論、そういうものにさらされることによって説明責任が尽くされるということもあるので、ぜひとも事務総長、最高裁長官に国会に出てこられたらどうでしょうかと言っておったということをお伝え願いたいんですが、伝えていただけますか。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 委員の御意見は御意見として私ども承った上、長官に伝えることにいたしたいと思います。

○江田五月君 さてそこで、この事案の解明の仕方なんですが、その前に裁判所の方にもう少し伺わせてください。

 調査結果は、これはきのうの裁判官会議に報告をされたと聞いておりますが、裁判官会議がいつあって、どういう裁判官が出席をして、だれが報告をされたのか、これをお聞かせください。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 昨日の裁判官会議は水曜日の定例の裁判官会議でございましたが、午前中に開かれまして、健康上の都合の裁判官一人を除く十四名が出席されました。その席上、調査委員会の委員である所管の人事局長が調査報告をいたしまして、報告については了承された、こういうことでございます。

○江田五月君 人事局長の報告が了承されたと。
 そこでは裁判官の皆さんの議論はあったんでしょうか、ないんでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 報告の中には、口頭で各関与者の責任の問題等も報告し、いろいろな議論が出たわけでありますが、その内容はここで述べることは許していただきたいと思いますが、かなりいろいろな議論が出たということはあるわけでございます。

○江田五月君 議論があったと。まあそうだろうと思いますね。
 これは私もよく研究していないので教えていただければ幸いなんですが、最高裁の裁判官会議というのは議事録というのはつくられるんですか、つくられないんですか。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 議決された事項については議事録はつくりますが、一々の会議録というような、国会のいわゆる質疑応答というような議事録は現在のところつくっていないという状況でございます。

○江田五月君 裁判官会議、逐語の議事録、会議録をつくるかどうかは別として、裁判官会議の議事録はつくってならないというような理由というのはないですよね。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 裁判官会議について議事録をどの程度つくるかということも、私の認識するところでは、各裁判官会議の自律権の範囲の問題であるというふうに認識しているところでございます。

○江田五月君 なるほどね。
 それぞれの裁判官会議、司法権の独立との兼ね合いということもあるかもしれません。裁判体が行う合議、これは秘密だということですが、しかし最高裁の場合には裁判官の国民審査の関係もあるから、だから最高裁判所の裁判官については各判決に対して持つ意見というのは公にされるわけですね。当然これは国民審査のときの資料になる。同時に、私は、例えば本件のような場合に裁判官会議でどういう発言をし、どういう態度をとられたかというのは、これは最高裁判所裁判官の国民審査のときに大変有益な資料になると思うので、これはそういう場合に、最高裁の裁判官会議の議事のあらましのようなことは国民主権のもとの裁判所ということを基礎づけるためにも公開をされたらどうか、公表をされたらどうかと思いますが、お答えはできませんかな。どうでしょう。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 先ほども申し上げましたように、裁判官会議の議事録をどの程度にするかというのは各裁判官会議における自律権の問題であるという認識に立っておりますので、事務当局としては、こうであるべきだという意見を申し上げるのはいかがかと存じます。ここで委員の述べられた意見というのは当然議事録に載るわけで、それは認識されるところであろうというふうに考えているところでございます。

○江田五月君 事務当局としてこうするああするという範囲に入ることではないと、裁判官会議の自律権の問題だというのは全くそのとおりだろうと思います。しかし、その裁判官会議でこの事件についてこの判事はこういうことを、こういう態度をとられたというのは国民審査で本当に重要な資料になると思いますので、ぜひ最高裁長官あるいは裁判官会議を構成される裁判官の皆さんにそういう意見があったことをお伝えいただきたいと思います。

 さて、この調査の方法なんですが、私はどうも今回の調査方法を見ていて一つ腑に落ちないことがある。それは、検察は検察あるいは法務省を含めて、最高裁は最高裁、もう一つ警察の方は警察、何かそれぞれが全部まるで独立国のように相互不可侵で、検察の方は裁判所へ行かない、裁判所も検察に行かない、警察の方は警察の方でおれの方は入ってくるな、こういうような感じがあって、縦割りで見事に切られていて、そしてそれぞれの部内の調査を何の矛盾もなく全部きれいに仕上げておられる。結果が見事に一つの事実として出ている。

 しかし、世の中というのは、なかなか過去の事実を後から証拠を見ながら認定するのにそう簡単にきれいに仕上がるものじゃないんですよ。証拠関係がいろいろ錯綜して、これはどうしても矛盾するというようなことが、真実は一つだから証拠は矛盾するはずがないといったって、そんなことはないので、矛盾する証拠なんというのはいっぱい出てくるんです。

 私は、そこで、これは参考になるなと思うのは、ハワイで今行われている例のえひめ丸沈没事件のアメリカ海軍の査問会議のやり方。おもしろいですよね、いろんな立場の人が、いや、あそこが悪いんだ、いや、そうじゃない、ここが悪いんだというので、いろんな証拠を出しながらかんかんがくがくやる。それを国民も見ている。報道も伝える。世界じゅうにそれが、世界じゅうといったって、日本のことで日本に伝わるほどほかの国に伝わっていることはないと思いますが、しかしみんなが見ている、そういう中で次第に事実が浮かび上がってくる。

 あるいは、アメリカの大統領選挙のてんまつも、あれも非常におもしろかった。憲法調査ということでこの参議院の派遣でアメリカへ行かせていただいたんですが、そのときにどういうふうに皆さんおっしゃるかというと、皆一様に、いや、あれでいいんだと。つまり、連邦と州、あるいはいろんな裁判所、あるいはそれぞれの国の機関、これが全部フル回転してそれぞれの役割を全部果たして、その間、矛盾はいっぱいある。いっぱいあるけれども、結局、最後にそういうものがぐっと収れんして事を解決して、そしてアメリカ民主主義の危機を見事に乗り越える。初めからちょきちょきと盆栽を切るみたいにきれいにつくり上げて、はい、できましたというのはなかなか納得されないという、そういうアメリカ民主主義のダイナミズム、これは私たち、学ぶと言うとどうも気持ちは悪いけれども、やっぱり素直に頭が下がるなという思いがいたします。

 法務省、最高裁の調査を読んでみると、どうも自分たちの狭い内部の調査だけをしている。お互いがぶつかり合うということが全然ない。

 例えば、一つだけ。一月三十一日、容疑者逮捕の日なんですが、福岡地検は古川判事の事情聴取をしているんですね。これは最高裁の調査報告書の中に書いてある。事情聴取の最中に自分の妻が逮捕されたことを知ったと、知らされたというのかな。ところが、法務省の方の調査結果にはこのことの記述は全くないんですが、これはなぜないんですか。

○政府参考人(古田佑紀君) その御指摘の点につきましては、山下前次席の行動、その問題点を明らかにする上では特段必要がないと考えたということでございます。

○江田五月君 最高裁の調査報告には、だれに聞いたかというところまで全部ちゃんと書いているんですね。ABCというような書き方もありますけれども、事情聴取をした関係者をずっと書いておられる、法務省の方にはそういう記述はないんですが。

 そして、伺うと、この調査結果というのは、これは要約でも概要でも何でもない、これが調査結果のすべてである、こういうお話ですが、だれに調査をされたかというような、判決でいえば証拠の標目の部分でしょうか、そういうようなものはもう明らかにされないんですか、刑事局長。

○政府参考人(古田佑紀君) ただいま委員御指摘のとおり、法務省で調査結果として発表いたしましたことは、これはあの事件の捜査の部分、その部分も並行して行われて、その結果も反映したものですけれども、その結果認定されたことをもう一つ申し上げますと、関係者のプライバシーを著しく侵害するようなこと、あるいは現在公判が行われる、裁判が今度行われることになる事件の捜査、公判、そういうような問題も考えて、そういうような配慮もしながら認定した結果を可能な限り公表したというものでございます。

 そこで、今、委員御指摘の、それをどういう根拠で認定したのかということでございますけれども、これは当然関係者その他の供述というのが中心になりますし、それだけではなくて、捜査結果等を示すいろんな資料等が検察庁の中にも残っているわけでございますが、そういうようなものをすべて分析したものでございます。それをすべて記載するということは非常に一面では膨大になるという面もございまして、その辺については記載をしなかったということでございます。

○江田五月君 何だかさっぱりわかりません。
 調査によって得られた認識だけでなくて、捜査の結果も参考にしながらこういう調査結果をおまとめになったと。それはいいですよね。

 そして、私は、今のお話、なぜそのすべてをちゃんと書けないかというお話、やはりつらつらと聞くと、ふむ、なるほどなと、それでいいのかもしれませんが、ちょっと落ちついて考えてみると関係者のプライバシー、これはあると思いますよ、容疑者の犯罪によって被害を受けている皆さん、その家族の皆さんのプライバシー。それから、容疑者が起訴されたわけですから、この公判を維持するために今の段階ではまだ出せないということ、それもあると思います。しかし、普通、いや、それは捜査の関係ですからぜひ御勘弁をと、まあそれはそうですねというのとちょっと違うと、今回。

 検察の捜査そのものが公正に行われているのかどうかが国民から不信の目を持って見られているわけで、その不信というのは、これはこの事件に即して、やっぱり本当に不信の部分があれば、その部分はメスで切り裂いてうみを出さなきゃいけないし、不信の思いは抱かせたけれども実はそうじゃないんだというところはちゃんとそういう説明をしなきゃいけないし、いや捜査のことですからといって、捜査はちゃんとするんだろうから、いろんな追及はそこで立ちどまって、あとはもう捜査の公正を信頼してお任せをしようと、そうはいかないというところだと思うんですよ。

 ですから、捜査の場面に踏み込むところであれ、あるいはいろんな人事行政などにかかわるようなところであれ、可能な限り国民の前に明らかにしながら国民と一緒に信頼を回復していく努力をしなきゃいけないと思うんですが、この古川判事に事情聴取をして、そこから得られた古川判事の認識というのはこの法務省の調査結果に反映しているんですか、していないんですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 基本的な考え方として、私どもといたしましても、この調査結果及びそれについてのいろんな御疑問等については可能な限りお答えするということで考えているわけでございます。

 ただいま御指摘の古川判事の調査に対するいろんな事情聴取その他の結果は反映しているかというお尋ねですが、これはもちろんのことでございます。

○江田五月君 一月三十一日に福岡地検が古川判事の事情聴取をした。それ以外にこの調査に関して古川判事から事情を聞かれましたか。

○政府参考人(古田佑紀君) 一月三十一日に古川判事から事情聴取をしたのは脅迫事件に関する捜査のためと承知しております。もちろんそれ以外に、私ども今回発表いたしました調査結果、この調査をするための、あるいは告発事件等もございまして、その観点からの事情聴取ももちろんしております。

○江田五月君 法務省の調査結果ですと、十二月に、いつでしたかね、なかなか複雑なので日にちがよくわからないんですが、福岡西署か福岡県警が福岡地検にストーカー事件だということで相談に来た。そのときに、任官二年足らずの女性検事が担当というか窓口として相談を受けた。その女性検事は、これは事案の概要からしてストーカーではないよ、脅迫ではないのということで、以後、脅迫ということで事件の処理が流れていった。そういう調査結果でよろしいんですね、それは。

○政府参考人(古田佑紀君) 大きな流れとしてはそのとおりでございます。
 もう少し細かく申し上げますと、そのストーカー事件についての相談の窓口を担当していた検事は、この事件がストーカー規制法上の構成要件に当たらない疑いがあるので別な他の事件で立件を検討してほしいということを言っているわけです。その他の事件というものの例示といたしまして今御指摘のあった脅迫ということがあるわけですが、最初のその段階では上司と相談して決めるということで、具体的に脅迫ということまでは警察の方には言っていなかったように承知しております。

○江田五月君 それでは、検察部内でストーカーではなくて脅迫だという判断をされたのはいつですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 福岡西署から事件の相談がありましたのが十二月二十六日でございますが、先ほど申し上げたようなことを一たん警察の方に窓口検事が回答いたしましてから、その後、刑事部長及び次席検事と相談して脅迫で立件するというふうに警察に話をするということが決まったと承知しています。

○江田五月君 その刑事部長と次席とが話をしたのは十二月二十六日の後ですが、それほど後じゃない。二十六ですか、二十七ですか。

○政府参考人(古田佑紀君) ただいま申し上げましたように、この事件は脅迫で立件を考えるべきだと決めたのは二十六日でございます。

○江田五月君 ですね。
 ところが、古川判事はずっとストーカー事件だと思っていたんじゃありませんか。

○政府参考人(古田佑紀君) 古川判事のこの点についての認識は、ストーカー行為というふうなことを言われたという認識であります。次席検事は脅迫ということを言ったと言っておりますけれども、これは全体を考えてみた場合にどちらが正しいかというと、にわかには断定ができないものの、当時は少なくとも警察の方でストーカー規制法違反で捜査をしていて、そういうチャート図を持ってきていたということがありまして、ストーカー行為ということで捜査が行われているというふうに言った可能性は高いと思います。

○江田五月君 山下次席は、古川判事は刑事の裁判官で刑事事件について精通をしておる、したがってこういうこれこれのことをお伝えして、事件をこうこうこういう処理にしてくれるだろうという、そういう信頼でお話をしたというようなことですよね。それはお互い法律家同士の話として成り立つようなストーリーになっているんですが、そうすると、ストーカーなのか脅迫なのか。

 ストーカー規制法に規定する事実の基本的なところでちょっと欠けている部分があると、恋愛感情なんとかですかね。それから、あれだけ繰り返し繰り返しの脅迫というと、これはもうストーカー行為の枠を超えて刑法の脅迫に当たる事実になっていると。こういうあたりは、法律家同士が議論するときには、結構法律的にもおもしろい議論であるからそんなに頭からすぽっと抜けるということがないはずなのに、そして二十六日にはもうそういう結論を、脅迫として立件しようという方針まで出ているのに、二十八日に古川判事を呼んでお話をするときにストーカーということで話をされたと。古川判事は、その後もずっと後までストーカーという嫌疑がかけられているという認識を持っておったと。そのあたりのところはどう解釈していいのか。

 この法務省の調査結果の中で、山下次席はこういう意図でこういうことをやったと認定されているところに無理があるんじゃないか。ストーカーか脅迫かなんということは余り実は考えていなかったんじゃないか、そこのところは、古川判事との関係では。そんな感じがするんですが、どうですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 先ほども申し上げましたとおり、山下次席は、脅迫等で告訴状が出ているというふうに古川判事に話をしたというのが非常に強固な記憶としてあるわけです。ただ、古川判事の方でストーカー行為ということの方の認識しかどうもないという、そういうこともまた現実問題としてある。この辺については、私どもも、なぜそういう食い違いが起こるのかということは必ずしも確定的に申し上げるだけの材料は残念ながら得られませんでしたけれども、少なくとも当時ストーカー行為等で告訴状が出ているということを、そういう事実を山下次席の方は古川判事に告げている、これは恐らく間違いない事実。そうなりますと、現実問題として、ストーカー行為等で告訴状が出ている、そういう言い方をした可能性というのもこれはかなりあると考えざるを得ない、そういうことを申し上げたわけです。

○江田五月君 よくわかりませんね。
 この調査結果に認定されている山下次席が古川判事にいろんなことをおっしゃった中身、そして動機、これがいかにも無理があるということの一つだと思うんですが、さらにその部分をもう少し詳しく言いますと、まず警察から相談が来た、相談窓口の検事はそれを受けて、これはストーカーとちょっと違うなということで刑事部長、次席と相談をされた、脅迫で立件の方向ということになった、それが二十六日。そして、二十七日に検事正と次席と事務局長がお話し合いをされましたね。このところのてんまつを、私も九十分というのは随分長い時間いただいたなと思ったらもう六十分が過ぎようとしているんですが、ちょっと簡単にお答えいただけますか。

○政府参考人(古田佑紀君) ただいま御指摘のことは通常ミーティングということでやっている話だと思うんですが、二十七日のことでございますか。

○江田五月君 二十七日と聞いたんですが、違いますかね。毎朝なのでしょうか。検事正と次席と事務局長でいろんな事務の打ち合わせをされると。そして、その事務の打ち合わせをして、事務局長が席を外された後に、検事正と次席とで本件について、どちらが言い出したか、これはまあ次席が言い出したんでしょうが、ともかく話し合いをして、そしてこういう処理方針というので次席の方が古川判事にお伝えをして、この証拠の保全とかあるいは示談の交渉とか、あるいは被疑者にそういうことをやめさせるように説得をするとか、そういうことをちゃんとやろうという、そんな話ができたということじゃないんですか。これは二十六ですか、二十七ですか。

○政府参考人(古田佑紀君) ただいまの話が出ましたのは、私どもの調査結果では二十八日の朝でございます。それで、そのときの話としては、このいわゆるストーカー的行為……

○江田五月君 もういいです。

○政府参考人(古田佑紀君) よろしいですか。

○江田五月君 はい、短く。もうそこはいいです。
 二十八日朝にそういう話があったと。その前日の二十七日に主任検事が決まったんじゃありませんか。

○政府参考人(古田佑紀君) 御指摘のとおり、この事件の主任検事は二十七日に決められたと承知しております。

○江田五月君 それはどういう立場の検事ですか。私から言いますと、刑事部の本部係といったか何か。どういう立場の人ですか。

○政府参考人(古田佑紀君) この主任検事は任官十二年目のベテラン検事で、今御指摘のような本部事件のような事件を、要するに重要事件を担当している検事でございます。

○江田五月君 そうすると、本件については福岡地検の内部ではその主任検事が捜査の権限を持っているのであって、もちろん検察官はそれぞれ検察官という立場で捜査権を持っているでしょうけれども、やっぱり事務の分掌としてはその主任検事に捜査権がある。次席はどういう立場で捜査権があるんですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 主任検事の制度と申しますのは、その事件について責任を持って捜査処理を行っていく立場の者でございまして、主任検事が決まったからと申しましても、ほかの検事の捜査権とかそういうものがなくなるというわけではもちろんないわけです。ただ、もちろんほかの検事が勝手にやるということは、これは組織上許されないことでありますが、御存じのとおり、次席検事という立場は主任検事に対して指揮監督をし、または決裁官としてその事件の処理にそれなりの責任を持って関与する立場でありまして、そういう立場で次席検事が、これは一般論でございますけれども、主任とは別に自分でその事件の関係者の取り調べなどを行うという例もこれは時々あることでございます。

○江田五月君 二十七日に主任検事が決まったと。もちろん、主任検事を監督するあるいは相談に乗る、そういう権限は次席にはあるでしょう。検察官の一人として次席も一定の捜査権というのをそれは抽象的には持っておるでしょう、あるいはもう少し具体的にあるかもしれません。

 しかし、次席の捜査権というのは、主任検事と何の相談もなく、任されもせず、被疑者の御主人を呼んであれこれいろんなことを指示するという、そこまでの捜査権があるんですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 捜査権という法律的なレベルだけで申し上げればそれは可能でございます。ただ、そういうことが一般的に適切なことかどうかということになれば、これはまた別論でございます。

○江田五月君 私は、法律的に一般論でというのではないだろうと思うんですよね。そういう話ではない。やっぱり検察官ですから、捜査権は法律的に言えば一般的にある。だけれども、もう具体的に事件が特定されていて、それがまだ送致はされていないけれども警察から相談が上がってきて、主任検事が決まっておって、それでその主任検事を飛び越して次席がいろんな捜査権限があって、それの行使がどうもちょっと独善であったとかなんとかという話じゃないだろうと思いますよ。そういう主任検事の捜査権を無視してまでこの次席が何かをやろうというのは、やはりそこに単に捜査の目的というもの、捜査の目的上それは行き過ぎた点はあったにしても、捜査の権限の行使の範囲内に入るというものを超えた何かがあると。

 被害者と十分話し合いをしたらどうですかと。もし捜査官が、電話何千回でしたか、そういう被害を受けている女性がいて、その被害を受けている女性の立場を考えなかったといったって、検察官が立場を考えないということはない。その女性の立場も考えずに示談したらどうですかと。示談に応じるかなというようなことぐらい考えるのが当たり前で、そういう女性のことも考えずに示談という、そのときの山下次席の動機というか目的というか、それはこの事件を適正に処理をしようということではなかったんじゃないですか。そこは矛盾があるんじゃないですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 先ほど法律的には権限があると申し上げましたのは、一般論を申し上げているわけではなくて、主任検事が決まっても、それは次席という立場でその事件について必要に応じて捜査することはあり得るという、それは法律上あり得るということを申し上げたわけでございます。

 ただいまお尋ねの件につきましては、やはり被害者の気持ちを無視したと。これは私ども申し上げているわけでございますけれども、それは一方的に、いろんな背景のある事件なのでその方が被害者にとってもかえっていいのではないか、そう考えてしまったというところにいわば独善があるということを申し上げているわけでございます。

 したがいまして、委員御指摘のような何かほかの目的があったんじゃないかというようなことではないと私どもとしては考えております。

○江田五月君 もう一つ、警察の立場もあるんですよね。
 警察も、まだこれは送致前ですから警察は当然事件の捜査をしている。その警察に連絡もなく、相談もなく被疑者の御主人を呼び出したと。それは、いや捜査の適正のために、捜査の遂行のためにやったんだというにしては余りにも重要なところが抜けていますよね。

 やっぱりこれはこの調査結果に言われる、証拠を確保し、こういう行為をやめさせ、示談をさせということにしては余りにもお粗末、そういうことではとても説明がつかない。そうではなくて、相手が裁判官の奥さんであるということを考えた行為であったと。そして、しかも警察にいろんな補充捜査を命ずる、あれこれのいろんな理由をつけて。もちろん、それは警察よりもさらに公判維持という責任を負って捜査にかかわるという上で捜査の重要な責任を負っている検察の立場、その立場からすると、被疑者の弁解を崩す、あるいは被疑者の特定をする、そういうためにそういうことが必要だったと。そういう理屈はあるのかもしれませんが、もう警察への連絡もまるで忘れて、検事正との打ち合わせの後、自室に戻ってすぐ古川判事に電話をしてというのは、やはりこの説明では到底これは皆納得のできないところだという気がします。

 時間がどんどんたつので余りそういう細かなことばかり聞いちゃいけませんが、細かなことはこれ一つのことだけではないんです。ほかにもいっぱいあるんです。その一つのことだけとってみても、それだけ釈然としないことが出てきているわけです。

 パソコンのことをひとつ教えてほしいんですが、これは最高裁に、ちょっと事実関係の細かなことですから。堀籠事務総長が委員長で、そして事実関係の細かなことを全部担当されたのは調査委員会の中のどなたですか。

○最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 調査委員会は事務総長である私が委員長になりまして、そのほかの委員としては総務局長、所管局である人事局長、それから刑事局長及び広報課長で構成されております。

 それで、福岡に行きまして、具体的に事情聴取したのは総務局長と刑事局長でございます。

○江田五月君 主管局は人事局ですよね。ですから、人事局長は細かなことがわかっていると。もちろん事務総長もおわかりだと思いますけれども、ちょっと細かなことを聞きたいので、人事局長にちょっと伺いますが、パソコン関係、細かな事実を最高裁で認定されて、パソコンの操作に古川判事はおかしなところはなかったという、こういう結論をお出しなんですが、パソコン三台が押収されたときにフロッピー一枚だけ押収されていないんですね。これはどうしてか古川判事に聞かれましたか。

○最高裁判所長官代理者(金築誠志君) 今ちょっと報告書の該当の箇所を申し上げますと、もうお読みかもしれませんが、パソコン関係のことは報告書の十九ページ以下に記載がございます。

 パソコン関係で、古川判事から聞き取りまして、これは認定上必要な事実であると認められたものはここに書いてあるところでございまして、今御指摘のフロッピー一枚の点は、その点は具体的に事情聴取をいたしましたのは刑事局長でございます。そのときにそういう話が出たかどうか、その点までは私自身はちょっと聞いておりませんが、少なくともこの報告書に記載する段階ではその点は確定されておらないということでございます。

○江田五月君 一月の何日だったかな、警察がパソコン三台を押収するんですよね。そのときに、何かフロッピーが一つだけ押収されずに、後に、二月の十三日だったかな、検察庁に任意提出されるんですね。そのフロッピーは、この古川判事が本件ストカー行為と書いてあるそのままで言うと、そういう関係のこと専門に使っていたフロッピーだったというので、その一つだけが押収を免れていたというのは、何かその事情等あたりははっきりさせてもらわないと、パソコンをいじって証拠隠滅したことはなかったという認定だという、これは法務省も最高裁もそうなっているんですけれども。

 警察の方は、新聞報道によるとというので、新聞報道が間違っていれば別ですが、警察の方はデータの一部が消されていたことは確認した、事件にかかわる内容ではなかったが云々というのが新聞に書かれているんですが、警察庁長官、これはおわかりですか。

○政府参考人(田中節夫君) 委員御指摘の本件に関するパソコンのデータが消去されていたのではないかとの報道があるわけでございますけれども、福岡県警察からは、本件に関するパソコンのデータが消去された事実は確認されなかったとの報告を受けております。

 なお、パソコンのデータを確認する際に、慎重な注意を払いながら複数の手法を順次試みていくのが通例でございますが、その過程で、手法によってはデータが確認できない、そういうものがございますので、それをもってデータが消えたということとは考えてはいないというふうに思っております。

○江田五月君 本件は、私の方はこれまでのところ主として法務省と裁判所からいろいろ説明を受けていて、警察の皆さんから説明を聞いていないんですが、法務省の説明だと、例えばパソコンについても、どうも警察が最初にパソコンを押収していろいろやってみたら何か消された跡があるとかいうふうに判断して、これは証拠隠滅のおそれありというように言ったが、それは警察のミスだったのか誤解であったのか、警察の方の責任だったんだと。

 あるいは、取り調べの検察側から、この犯人の特定あるいは供述の信用性、そういうことからして、もっと周辺を洗ったらとか、まず先に被害者の夫のところでしたかね、捜索したらとか、いろいろ捜査についてあれこれ言われたが、これは検察の側からすると、当然そういうあたりのところが難しい事件だからというので指示をしたんだが、警察の方としては、どうもその辺をちょっと、判事の奥さんのことだから検察の方がいろいろ警察に無理難題を吹っかけてきているというように誤解をしてしまったんだとかいうような説明をするんですが、警察庁長官は福岡県警からこの事件について報告は受けておられますか。

○政府参考人(田中節夫君) 委員御承知のように、一般論として申し上げますと、事件の捜査を行うに当たりましては、警察は検察庁とも当然協力をしなければいけませんし、必要に応じて協議を行っておるところでございます。

 検察庁は、先ほど委員のお話がございましたように、公訴の提起あるいは公判の維持という観点からいろいろ御意見がございますので、こうした協議の過程におきましてさまざまな意見が出てくるということは当然であるというふうに考えております。

 御指摘の今回の事件の捜査に対しましても、福岡県警察と福岡地方検察庁との間でさまざまな観点からいろいろな協議が行われたというふうに報告を受けております。しかし、一たん捜査方針が決まりました場合には粛々と捜査をやるということでございまして、本件事件につきましても、相互に連携して所要の捜査を遂げ、警察といたしましてはこれを送致し、そして起訴に至ったというふうに承知をしておるところでございます。

○江田五月君 容疑者、ここで容疑者というのは例の脅迫事件の容疑者のことなんですが、その容疑者の捜査が行われて最終的に公判請求ということになったという、それはよろしいんですけれども、その容疑者だけではなくて、そのほかにもいろんな被疑事件、告発事件があって、それは全体の捜査の過程で、むしろ警察の方は被害者的立場と言うとどうもぐあい悪いですけれども、新聞の印象というのはそういう印象が伝わってくるようないろんな報道があるんですが、そして同時に、この法務省の調査報告でも、被害者のことともう一つは現場で必死に汗をかいている警察官のことと、そういう皆さんについて検察官というのが十分な理解がなかったのではないかと。この理解をもっと得るようにいろんな検察官の教養について、検察官の教養と言っていいのかな、努力をしなきゃいかぬ、改善をしなきゃならぬというようなことを書いておられるので、やっぱり警察としてはこの全体について何か言い分があるんだろうと思うんですが、そうしたことの報告は受けておられませんか。

○政府参考人(田中節夫君) 先ほど申し上げましたように、具体的な事件の捜査に当たりましては、委員も御指摘のように、検察庁の方からは公訴の提起あるいは公判の維持という観点から、割合厳しい御指摘とかあるいはいろんな指導を受けることもございます。その過程で、私どもといたしましても、私どもの立場から、あるいは先ほどお話がございましたように被害者の立場ということを含めまして、ともに捜査を進めるという観点からいろいろ御意見を申し上げるということはございます。その中でいろいろ意見が異なる場合がございます。その異なることをもって一方的にどちらかの意見が通るとか、あるいは通らないかというようなことでは私はなかろうかと思います。

 いずれにいたしましても、お互いに協力をし合いながら、法の定めるところに従いまして社会正義の実現を図っていくという観点でそれぞれ仕事をしていると。私どももそのような気持ちで第一線は仕事をしているというふうに思っておりますし、今後ともいろんな場面で検察庁のいろいろな御協力、御理解も得なければいけないと思いますし、私どももそういうふうに努力をしなければいけないというふうに考えておるところでございます。

○江田五月君 国会でお話しされるということになるとそういうふうになってしまうのかもしれませんが、現場の警察官がどういうふうに思っておるかということ、これはやっぱり現場で苦労して必死に事件を追いかけている、そういう立場に立って十分聞いてあげてほしいと思いますね。

 司法制度改革審議会の事務局長さん、この二つの調査報告は司法制度改革審議会としても報告を受けられた、あるいは受けられるわけですか。簡単に御報告ください。

○政府参考人(樋渡利秋君) 福岡地検の捜査情報漏えい問題に関しましては、三月十三日に開催されました第五十一回会議におきまして法務省但木官房長より説明を受けております。これは二月十九日の第四十八回審議会におきまして、裁判官制度の改革について法曹三者からのヒアリングを行った際に、同官房長から一連の捜査、調査が終了した段階で当審議会にも結果を報告する機会をつくってほしいという旨の要望がありまして、審議会も司法のあり方にかかわる問題と考え、これを了承したところであります。

 なお、最高裁の方からも同日の審議会におきまして同様の要望がございまして、法務省につきましては三月九日の調査結果公表の後に十三日の審議会で報告したいとの申し出があったものですから行われておりますが、最高裁の調査結果につきましては来週の十九日に報告、説明を受けるということになっております。

○江田五月君 今、司法制度改革審議会では国民の司法参加についていろいろな議論が行われていると聞いております。委員の皆さんがこの事件について関心を持って報告を求めたということは妥当なことだと思うんですが、私は、もし仮に、仮にの話をしちゃいけないかもしれませんが、山下次席が公判請求されたらだれが裁くのか。古川判事が高裁で合議体の一員を構成しておられて、忌避の申し立てがあって、これは忌避裁判所が忌避を、認容の決定をした。珍しいことではあるんですが、その中で判事が検察に負い目を感じた。これではやっぱり公正な裁判は期待できない。

 そして、この事件、今二つの調査報告がこのとおりであるかどうかなんですが、全体にやっぱり裁判官なりあるいは裁判所が検察官あるいは検察庁に負い目を感じるような、そういうある種の、俗な言葉で言うとなれ合い、そういうものがあったとしたら、これは検察官の犯罪は裁判官は裁けませんよね。裁判所全体が忌避ですよね。日本じゅうの裁判所が全部忌避、仮にそういうような気持ちが国民の中に起きているときに、だれが裁くかということになったら、私は今後そういうことはあり得る話だと思うので、ぜひとも国民の司法参加という形の中で職業裁判官を外した裁判の方法、正確には陪審ということになるんでしょうか、どこかにやはりそういうシステムもつくっておくべきではないかと思いますので、これは事務局長に聞いてもしようがありませんが、ぜひひとつ委員の皆さんにそういう意見があったということをお伝えいただきたいと思います。

 最高裁の方に伺いたいんですが、分限裁判の申し立てですか、なされることが決まった。もうなされたのかな。いずれにしても、分限裁判の結果が出るまでは古川判事の辞職願は受理できない。さてもう一つ、裁判官についての処断というのは弾劾という手続があって、これは訴追委員会が行動を起こすわけですが、訴追委員会がもし仮に調査を始めたということになったら、この辞職願はどうなるんですか。

○最高裁判所長官代理者(金築誠志君) 訴追請求を最高裁がいたしました場合には、これは辞表を受理しない取り扱いになると思いますが、そのほかの場合については特に規定したものはないというふうに承知しております。

○江田五月君 最高裁の調査結果によると、弾劾の手続までは必要がないという認定になっておられるんですが、しかしこの最高裁の調査結果がそのままでいいのかという問題があるので、国会として訴追委員会がこれからどうされるか、それは私は担当じゃないので知りませんが、そこはひとつ電光石火、分限裁判をやって辞職を認めて、あとは国会がどうしようがはるかかなたに行ってしまったというようなことになったらいいのかどうか、これは問題だと、問題の指摘だけをしておきます。

 あと、判検事交流のことなどもいろいろ伺いたかったんですが、同僚委員で伺われる方もおられると思いますし、お任せをいたしますが、法務大臣、今、私やや細かなことをあれこれ言いましたが、率直に言って、事実認定がかなりきれいにでき過ぎているというか、やっぱり、うん、そうなの本当にという、余り説得力がないんですよね。

 また、ここで挙げられている問題以外に、例えば何の権限もないのにストーカー規制法上の警告というものを行ったとか、それは結局は警告じゃないんだろうと思いますが、警告だったんだとかいうようなことをマスコミに言っているとか、あるいは今の警察との連絡協議をしなかったこととか、記者会見で虚偽の発言をしたとか、法務大臣発言要旨の中に処分理由としてはそういう具体的記述がありませんけれども、そういうことは記述はないけれども処分の理由にはなっているんでしょうね、法務大臣。

○国務大臣(高村正彦君) 当然のことながら、処分の軽重を決めるときにそういうことを十分考慮いたしました。

○江田五月君 法務大臣もおっしゃっていますし、但木官房長もおっしゃっていますが、ただ一人、山下次席のちょっとのりを越えた、配慮に欠けた独善的な行為という個人の問題じゃなくて、これは組織の問題、体質の問題、自分たちは悪いことをするはずがないという批判を受け付けない体質、そうしたもの全体を変えていかなきゃならぬということで言われておりまして、私は本当にそのとおりだと思います。

 最高裁の調査結果を見ますと、いろいろたくさん調べておられるけれども、最高裁の関係の人は一人も調べていない。そして、最高裁にはコピーをとったということは何にも伝わってきていないということを念入りに書いておる。何か人為的な感じがするんですよね。

 これからもこの問題はさらに引き続いていろいろ検討させていただく、そして国会も含めて、みんなでもう一度、この崩壊した司法の信頼をつくり直すために、お互い洗いざらいいろんなことを言い合いながら努力をしていきたいということを申し上げ、法務大臣の決意を伺って、私の質問を終わります。

○国務大臣(高村正彦君) 委員が最後に指摘されたこと、極めてもっともなことだと思いますので、私としても、検察官全体の意識改革、あるいは検察審査会制度等を改善することによって外部からのチェック体制、そういったこともいろいろ考えながら、検察が独善に陥らないようにいろいろ注意をしてまいりたい、こういうふうに考えております。

○最高裁判所長官代理者(金築誠志君) ただいま私が答弁いたしましたところで、ちょっと訂正をさせていただきたい部分がございます。

 ちょっと規定を確認せずに申し上げましたが、罷免の訴追を受けた場合には、願い出があった場合でも、その裁判があるまでは免ずることはできないということで、それ以外は規定がないと訂正させていただきます。


2001/03/15

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