2000/05/18

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参院・法務委員会

商法改正案につき25分間質問。特に、労働組合が労働者を代理して会社と分割につき協議できる場合について。

私の前に角田義一さんが、「神の国」発言で、臼井法相を追及。「平の大臣の発言なら更迭なのに、首相は任命権者だから、更迭されません。それなら平の大臣は、首相に発言取り消しを迫り、だめなら自ら辞任すべきです。そうしないならその大臣も、首相と同じ考えだと見なされます。どうなんですか。」


○江田五月君 やはり森内閣総理大臣の神の国発言というのは、総理大臣じゃなくてほかの大臣がやったら、それはもう任命権者によって更迭される、もちろんそれは、自発的に辞任をするということを迫られる場合もあるでしょうが、そういう種類のものなんですね。ところが、言った人が任命権者なものだからこれはどうにもならないというので、どうにもならないで済ませるわけにはいかないんで、私どもは森総理の辞任を求めなきゃならぬと思いますが、それを閣議の中でどの閣僚もお求めにならないということになったら、もう閣僚も皆同じ責任を負ってもらわなきゃならぬ。私ども、厳しくこれは追及をしていかなきゃいかぬと思っております。

 今、角田委員から追及をさせていただきましたが、本来ならそういう内閣、そしてその一員である臼井法務大臣を相手に質問できないとでも言わなきゃならぬところですが、そういう気持ちでおるということをひとつおわかりいただいた上で質問させていただきます。

 商法等の一部を改正する法律案、この質問を聞きたいと言われた方が出てしまって、私これから質問しますよと言いたいぐらいですが、法務大臣に伺います。

 昭和五十年に「会社法改正に関する問題点」として七項目。第一が企業の社会的責任、第二が株主総会制度の改善策、第三が取締役及び取締役制度の改善策、第四が株式制度の改善策、第五が株式会社の計算・公開、第六が企業結合・合併・分割について、第七が最低資本金制度及び大小会社の区分、こういう七項目を挙げたと。

 昭和五十年から今日まで二十数年、この五十年の方針に従って、以来五十六年、六十一年、二年、五年、九年、十一年、十二年とずっと作業が続いてきたというわけですが、これは五十年のときに会社制度について大きく改革の方針を出してそれを逐次実現してきたということなのか。あるいはそうではなくて、大きな方向は示したけれども、やっていくうちにいろんなものがだんだん見えてきて、また新たなテーマが加わってというようなことになっているのか。

 この二十数年の間に市場のあり方、会社を取り巻く状況、これは国内外問わず大きく変化をしてきたと思いますが、この間ずっと行ってきた、何回にも分けて行った会社法の全面的改正の理念あるいは目的、これは何だったのか、途中でどう変わったのか、これをまずお伺いします。

○国務大臣(臼井日出男君) 会社法というものは、会社の成立から消滅に至る諸段階につきまして、団体及び構成員である株主等の内外の法律環境を規律する法律でございますが、会社を取り巻く社会経済情勢は刻々と変化をするのでございますので、見直しの必要性の有無については絶えず配慮をしてまいる必要がございます。

 昭和四十九年の商法改正の際に、会社法の大幅な見直しを要求する国会の附帯決議がございまして、このことを契機といたしまして、法務省におきましては同年から会社法の基本的な諸問題につきまして検討を開始いたしました。昭和五十年六月には、委員御指摘のとおり、企業の社会的責任や株主総会制度の改善策等を内容とする「会社法改正に関する問題点」の取りまとめをいたしまして、以後、これに基づきまして緊急性の高いものから順次七回にわたり改正を行ってまいっております。今回が八回目に当たるのでございます。

○江田五月君 五十年のときに大きな枠は見えたと。それに従って、いろんな状況の変化に応じて会社というものが経営者の経営判断を実現していくために会社組織もいろいろと再編できるようにしていかなきゃいけないというので、持ち株会社も解禁をしたりあるいは株式の交換であるとか合併のことであるとかいろいろやってきて、今回分割と。

 これでもうでき上がりですか、まだこれからもいろいろ出てくるということになるんでしょうか。

○国務大臣(臼井日出男君) 先ほど申し上げましたとおり、基本的なものにつきましては既に方向性をつけて今日まで来ているのでございますが、その間、緊急性ということにつきましてはその時代の背景によっていろいろ変わってきているように思います。今後も、社会情勢の大きな変化の中で改正すべきものはしっかりとやっていくべきだと思います。

○江田五月君 すべきものというのは、今は何か企業再編ということについてはまだこれが残っていますというようなことはありますか。

○国務大臣(臼井日出男君) 近年、会社合併法から始まりました改正、今回の会社分割法をもちまして一応私どもとしては所定の緊急性のあるものにつきましては手続を済ませた、このように理解をいたしております。

○江田五月君 再編関係では一応これで終わりと。今後の変化によってまた何か出てくるかもわからない、しかし今見通せているわけではないと。

 そのほかに、再編だけじゃなくて、会社が行き詰まった、さあどうするというので倒産法制をどう整理するかとか、あるいは会社の中の動かし方、透明性の問題であるとか、いろいろなことが周辺にはまだまだ残っていると思いますが、企業再編ということでは今私が申し上げたような理解、これは、法務大臣、同じ理解でいいんですね。

○国務大臣(臼井日出男君) そのとおりでございます。

○江田五月君 五十年のときの七項目の第一、今ちょっと大臣がおっしゃいましたが、これは企業の社会的責任が挙げられております。一方、この二十五年間の社会経済の変化は非常に激しい。

 例えば、昨年二月の政府の経済戦略会議の答申、「日本経済再生への戦略」、この中では、その第一ページで「日本経済の現状認識」に、日本経済の成長の足かせ要因として、「第一に、雇用・年金の先行きに対する不安、財政赤字の急膨張など国民の将来不安の高まりが景気の無視できない抑制要因となっている。こうした不安は、日本型の雇用・賃金システムや手厚い社会保障システムが制度としてのサステイナビリティー(持続可能性)を失いつつあることに起因しており、新しいセーフティ・ネットの構築が急がれる。」、こういうことが書いてあります。

 そこで、西暦二〇〇〇年というこの時代の企業の社会的責任を踏まえて、今回の会社分割法制の創設に際して、商法上、労働者あるいは雇用、こういうものの保護についてどのような配慮をしたのかお答えください。

○国務大臣(臼井日出男君) 今回の会社分割法制の創設に当たりましては、労働者の権利が不当に害されないようにするため、商法改正案につきましても最大限の配慮をいたしているところでございます。

 まず、会社分割の対象を営業単位とするということによりまして、その営業が解体され、そこで働く労働者の労働の場が奪われるということのないように配慮をいたしているのでございます。次に、分割計画書等によりまして労働契約を記載することによって、営業に従事する労働者もその営業とともに新しい会社に引き継がれるということにいたしておりまして、労働者の雇用が確保されるようにいたしているのでございます。また、分割により承継されるものとされております労働契約というものは承継会社にそのまま引き継がれるのでございますので、労働条件が不利益に変更されるということはございません。さらに、分割後の双方の会社が債務の履行の見込みがなくなるような分割というものは認められないのでございまして、赤字部門の切り離しにより労働者の雇用が脅かされるということがないようにいたしております。また、未払い賃金債権、社内預金債権等を有する労働者につきましては債権者保護手続の対象とされるのでございまして、その債権の弁済等が確保されるように配慮をいたしているところでございます。

 以上、申し上げましたように、会社分割法制の創設に際しましても、商法上も労働者の保護につきまして十分配慮はなされているものと考えております。

 なお、会社分割に伴う労働者の保護につきましては、商法で対応できない部分につきまして別に法律で定めることとし、これを受けまして本法と同時に労働者契約承継法案が提出されておるところでございまして、同法案は会社分割により労働者の意思に反して従前の職務から切り離されることがないよう配慮をいたしているのでございます。

○江田五月君 私どもも、こうした内外の客観状況の変化に伴って企業の再編というのは必要だろうと。それは日本経済を動かしていくために不可欠であって、そのための法制度が古い法制度でいいとは思わないので、新しいさまざまな法制度をつくっていく上で我々も知恵を出すし、またいろいろ提案された知恵について十分に吟味し、必要なものはむしろ積極的にその確立のために努力をしていくという態度でこれまでやってまいりました。

 そして、時代が変わってきますと、その企業に働く者が若いときに一遍ある企業に雇用の場を持つと、後はもう生涯少なくとも定年までそこにずっと居続けることが大前提だというわけでもなかろう。いろんな労働移動というものも労働市場の中で出てくる時代が来ているだろうという理解も持っております。ただ、そのためにはそういう労働者の労働移動が安心して行えるようにいろんなセーフティーネットが必要だということです。それがまだ十分でないということが現にある。

 そうしたことも踏まえ、しかも同時に、そうは言ったって、労働者はやっぱり一遍職場に入りますと、そこが自分の労働生活の場であり、同時にそこで労働することによって得られる対価で家族を養う、社会生活を行う、家庭生活を行う、そういう生活関係ができるわけですから、これは言葉は悪いですが、企業再編の勝手で労働者をどうにでもできるということがあってはいけない。リストラその他についてやっぱりいろんな、会社は経営者のためあるいは株主のためだけじゃなくて社会的責任というのが言われるのはそういうところですよね、そこに働く者のものでもあるわけですから。

 それを考えますと、この累次の企業再編の中で働く者の保護というものが十分行われてきていないじゃないかというので、その都度国会でも附帯決議などでちゃんとそのことは考えなきゃいかぬということを言ってきているわけです。

 今回、大変私たち残念なのは、企業分割、これは我々も積極的に考えましょうと。しかし、企業分割に伴う労働契約の保護、労働契約承継だけでは足りないので、もっといろんな企業再編の中で行われる労働者に対するしわ寄せ、それを総体としてやっぱりなくしていかなきゃならぬ、企業の再編に伴う解雇、再編を理由とする解雇、そんなものがあっちゃいけないということで我々は労働者保護法というものを衆議院で出させていただいた。残念ながらその理解を得られず、これは実現するに至らず、今参議院に労働契約承継法が来ている、そういう状況で私どもはこの商法の改正についてもいろいろ検討しているわけです。

 そこで、具体的に今労働者の保護についての配慮をいろいろおっしゃいましたが、どうも政府案だけではまだ十分でないというのでいろんな折衝をさせていただいた。これは法務省の皆さんともさせていただいたし労働省の皆さんともさせていただき、政府部内でも両省いろいろ協議をしながら折衝に応じていただいたと思います。

 また、与党の中でも、これは商法ですから、これは労働法ですからを越えて、垣根をどのくらい取っ払えたかわかりませんが、取っ払いながら対応していただいた。我々民主党内の方も、ここは商法の人間ですから、ここは労働法の人間ですから間に垣根がありますよということでなくて、両方協議をしながら対応してきて、対応の結果ぎりぎりの修正というものが衆議院で行われたと思っております。

 そこで、修正案の提出者に伺いますが、どういう修正をされましたか。その間の苦労、まだここが足りないんだというようなことも含めてちょっとお答えいただければと思います。

○衆議院議員(北村哲男君) 修正案提案者の一人の民主党の北村でございます。
 修正については二点でございまして、一点は、一番大きな問題は、附則の五条の一項というところにいわゆる労働者との事前協議を定めたということでございます。これは、民法の六百二十五条、すなわち普通の労働者が移転する場合には労働者の同意を必要とするという条項がありますが、この分割法では包括して移転する場合はそれが排除されております。その民法六百二十五条を補完する、あるいはその代償措置として労働者との事前協議を設けました。

 もう一点は、分割によって設立する会社、これは三百七十四条の一項五号でございますけれども、分割によりて設立する会社が分割をなす会社より承継する債権債務、あるいは雇用契約その他の権利義務に関する事項というふうにして、単に権利義務ではなくて、その中に雇用関係というものを明確に入れたという、この二点でございます。

 苦労と申しましても、特に最初に申し上げました労働者との事前協議義務を入れたことは、これは画期的なこと。すなわち、先ほど申しましたように、六百二十五条が排除されていることに対する代償措置としての、いわば商法の中に風穴をあけた、労働者の保護を明確にしたという点で重要な事項でございました。大変苦労いたしました。

○江田五月君 修正の前に、もともと政府の案、閣法として出される案が閣議決定される前にもういろんな折衝をやってきたわけです。そして、例えば分割に伴う労働契約の保護に関しては別途法律をつくるというようなことをこの商法改正案の中に入れたんでしたね、たしか。そういうようなこともあったりとか、これは我々がその閣議決定の前にいろんな折衝をしていなければそういうことができたものではなかったんだろうと思っておりますが、そういう御努力を大変多としたいと思うんです。

 分割計画書などの中に雇用契約のことをあえて書き込む、これはもともと当然だといえば当然だけれども、確認的、念押し的にあえて書き込んだということで、その点は労働者に対する配慮だということだろうと思うんです。

 それともう一つの、今の附則五条一項の労働者との事前協議ということですが、労働者といえば一人一人の労働者ですが、個別に一人一人でなければだめなんだというお考えなのか、あるいはそうでなくて、一定のルールのもとに代理をする者、一人一人の労働者を代理する者、その者が個人の場合もあろうし団体の場合もあろうし、そういういろんなあり方が予定されているということなんでしょうか。提出者に伺います。

○衆議院議員(北村哲男君) まず、会社に会社分割に伴う労働契約の承継に関して個々の労働者との協議を義務づけるものがこの改正案であります。しかしながら、労働組合との協議を義務づけるものではないけれども、会社が自発的に労働組合と協議することは一向に構わないというところが一つあります。

 もう一つは、これは個々の労働者を対象としておりますが、任意代理の代理人の資格については民法上、商法上特に制限がございませんので、労働組合が個々の労働者から代理権を与えられている場合には会社はこれと協議をしなくちゃならないということになりますので、その代理権を与えられた場合は協議義務が生ずるということになります。

○江田五月君 今のお答えは、これは法務省としてもそれでよろしいですね。

○政府参考人(細川清君) ただいま提案者から御説明があったとおり、民法、商法上におきましては任意代理の代理人について資格等の制限がございません。したがいまして、提案者の御指摘のとおりでございます。

○江田五月君 制限はないんですが、しかし代理についての一般論というのがありますね。双方代理であるとか利益相反であるとか、いろんなことがあります。例えば労働者と会社とが協議をする場合に、その労働者の代理人の委任を受けた会社と協議する者が会社の管理監督をする者、人事部長などなど、こんな者であったらこれは協議にそもそもならないので、そういう制限というのは当然働くと考えていいんですね。

○政府参考人(細川清君) 代理人に関する民法上の制限がこの場合にも適用になることは御指摘のとおりでございます。したがいまして、御指摘の民法第百八条で当事者双方の代理人になれないということを言っているわけですから、その点についても当然適用があるわけでございます。

○江田五月君 その双方代理の法理といいますか、会社の管理監督の立場にあるような者、会社の一補助者として会社に働く者たちを管理監督するような立場にある人、こういう人は、仮にその協議のときに、会社の代理としてという立場でなくたって、やっぱり会社のそういう立場にある者が従業員を代理して会社と協議をするというのだと、その委任、代理についての一般法理からしてやっぱりそれは妥当でないということは、これはいいでしょうね。

○政府参考人(細川清君) 会社側の代理人に労働者が代理権を与えるということは余り想定できないことなんですが、一般論としてはそれは適当ではないということは言わざるを得ないと思います。

○江田五月君 いろんなことが、もうびっくりするようなことが起きますから、やっぱり余り想定できないなどとおっしゃられると、霞が関から見ているだけだということになると思いますよ。

 さてそこで、組合の場合、もうこれは確認ですけれども、労働組合の場合であってももちろん労働者の代理として会社と協議をすることはできる。その場合に、もちろん適法な代理権の授与行為が必要だと。その適法な代理権の授与行為というのは、例えば労働組合の規約に会社分割のときの協議は組合が従業員の委任を受けて行いますというようなことが入っておって、そしてそういう規約を前提に組合に加入した人、そういう人は、これは当然に労働組合がその場合に事前協議の衝に当たるということになると、こう解してよろしいですか。

○政府参考人(細川清君) 御指摘のような場合には、その当該労働者は当該の労働組合に代理権を与えた趣旨と認めるのが相当であるというふうに考えております。

○委員長(風間昶君) 時間をオーバーしていますので、簡潔にしていただきたいと思います。

○江田五月君 はい、わかっています。もうやめます。

 その他、今のどういう場合が正当なあるいは適法な代理権授与であるかと、これはいろんな具体例があると思いますので、今後現場でいろいろな折衝が行われることと思います。どうぞ円滑な運営が行われるよう法務省としても指導していただきたいとお願いして、私の質問を終わります。


2000//05/18

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