2000/05/11

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参院・法務委員会

犯罪被害者関係の参考人質疑。
中央大学の宮澤浩一教授、高原勝哉弁護士、武蔵野女子大学の小西聖子教授で、私も15分質問をさせてもらいました。3人とも、民主党提案のような基本法が必要だというご意見でした。


○委員長(風間昶君) ありがとうございました。
 以上で参考人の方々の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 民主党・新緑風会の江田五月でございます。

 三人の先生方、きょうは本当に私どものためにお越しいただいてありがとうございます。それぞれの皆さん方から大変貴重な御意見をいただきました。

 最初に私自身の経験を申し上げますと、私は国会議員になってもう二十年を超える年月がたってしまっておるんですが、その前は裁判官をやっていまして、刑事の裁判官をほんのちょっとだけやったことがあるんですけれども、高原さんは弁護士ですから法廷を御存じと思いますが、御存じどころか私よりよっぽど御存じかと思いますけれども、刑事の法廷の中で何だか被告人がこの世の中で一番立派な人だというような感じにつくり上げられるようなことがあるんですよね。検察官の方はいかに悪質かという立証はそんなにしません。弁護士の方はもういろいろいいことを並べ立ててと。そんな中で、まあいいけれども、ちょっとこれは被害者の人から見たらこんなことをやっていたらどう思うんだろうかななどと思ったことはしょっちゅうあります。そんなことで私の刑事の判決はどうもちょっときつ過ぎるというような傾向があったのかもしれませんが、そんなこと。

 それから、二十数年の間にちょっとバッジを外していたことがありまして、弁護士をすることができるものですから弁護士で食いつないだんですが、その当時に、少女に対する痴漢の事件があって、検察官は、起訴をしたくない、告訴をしている母親と弁護人、示談をしてこい、こういうわけで、つらかったですね、こういう形で江田先生とお会いするなどとはなんて言われまして。しかし、現実に強制わいせつですから、起訴されますと、もし調書が否認されると、罰金はありませんから略式というわけにはいかないので、法廷に女の子が出てこざるを得ない。これもやっぱりそういうことを理由に、これ以上むごい目に遭わすな、示談をしろというのは何としてもつらい話だったので、そんな体験を踏まえております。

 一九八〇年に犯給法ができましたが、一九七七年に私は初めて参議院議員に当選をさせていただいて、全くミニ会派だったものですから一人で、委員会というともうこの法務委員会ぐらいしかなくて、今の中村さんと同じ立場ですが、その中で何かやらなきゃならぬというので、私は、犯給法というのは私がつくったというとおかしいですが、プロモーターの先頭に立っていたような気がしますが、その当時の議論を思い起こしたりいたします。

 犯給法をつくったときに、とにかく小さくても芽を出さそうと。ところが、小さな芽がなかなか育たない。二十年たってまだこのざまというわけですから、今回のこの犯罪被害者関係二法、政府提案の法律も、これが小さな芽でこれから大きな体系をつくっていくんだといっても、やっぱりそう簡単には育たない。だから、さっき高原さんおっしゃったように、もしこれから大きくしていくんだというならだれがいつどこでやるんだということを示してくれというお話は、全くそのとおりだと思っております。

 前置きはその程度で、順次伺ってまいりますが、もうおっしゃっていただいたことは全部そうだそうだということばかりで、鋭い追及は得意なんですが、どうもなかなかそうもいかないので、宮澤先生、さっき、これ私の聞き間違いだったでしょうか、ペーパーの2の被害者政策の展開のcのところの、第三次被害者化とおっしゃいましたか。

○参考人(宮澤浩一君) それは、被害者学の議論でそういうことがあります。

 第一次というのは、要するに犯人から受けることで被害者になるわけですね。

 第二次の方は、その事件を処理する過程で、警察による事情聴取、それから検察で、果たして本当にこれ最後まで、告訴をし、被害を受けたことに対する応報的な、そういう意志を貫徹するような人であるのか、これは日本というよりはむしろ欧米の議論なんです。そういうことで、本当にしっかりした、最後までちゃんと、殊に陪審の場合に、陪審員の前で取り乱すなんということがないだろうなというようなことをチェックするために、非常に検察官が厳しく、本当に犯人の側に責任があるんだろうかどうだろうかというようなことを追及するわけです。そうしますと、付き添ってきた夫だとか親だとかボーイフレンドとか、そういうのが、犯人でもないのに何でそういう厳しいことをやられるのかという、そういうようなこと、それも第二次被害。それから、公開の法廷でもって被告弁護側から厳しく反対尋問される、こういうのを第二次被害というわけです。

 これに対して、第三次被害の方は、親だとか身の回りの者が、やめておけ、傷つくのはおまえだというようなことで、非常に被害を受けたことが内向して、それで、さっきのお話じゃありませんけれども、被害者が、やってくれないんだったら自分がやるというようなことで、あるいは犯人になったり、あるいは世の中をすねて社会生活が何にもできなくなるようなそういう心理状態になるというのを第三次被害者化と、こういうふうに我々は言いまして、今の小西先生のおっしゃるような問題に対応するのは実は第三次被害者化に対する対応というふうなことで考えております。

○江田五月君 ここでお書きの、刑事司法の過程で深い痛手を負う、ですからこれは第二次でよろしいんですね。

○参考人(宮澤浩一君) そういうことです。

○江田五月君 その後のことが今度は第三次だと。マスコミによる被害などもですね。

○参考人(宮澤浩一君) ええ、もちろんそうですね。マスコミの方はむしろ第二次かもしれません。

○江田五月君 第二次。
 先生の今のお話の中で、言葉じりというわけではないんですが、最後が刑事手続法だと。ずっと今まで犯罪被害者のことをやってきて、いよいよいろんなことが進んで、最後の仕上げが刑事手続法の関係で今回出されているものだというような御発言……

○参考人(宮澤浩一君) その最後という意味は、そういう第二次被害者化を回避するという意味で、これまで警察は御案内のとおり九六年あたりから対応しています。それから検察は九四年から対応していますね。

 ところが、刑事訴訟法がやっぱりきちんと変わりませんと裁判所としては動きがとれないんじゃないか。もちろん裁判所の方と議論をしますと、そういうことを一番気にしながらきちんと処理しているのが裁判所だと言われるんですが、先ほどのお話にあったように、やはり公開の法廷で自分を攻撃した者と面と向かってやり合うというのはとても耐えられないことだし、殊に子供にとっては非常に深い傷を負うんではないかと。だとすれば欧米でやっているようなと、こういう議論になりまして、それを法的にきちんと根拠づけないと、別室にその人に対するテレビを置いてどうのこうのというのができないだろうと思うんですね、運用でも。

○江田五月君 いや、私どもはもちろん今回の内閣提出の両法案は賛成でございますし、これは大切にしていかなきゃならぬと思いますが、これのさらに先に、先ほどの高原さんあるいは小西さんのお話のとおり、社会全体がやっぱりもっと変わっていかなきゃならぬと、犯罪被害者の社会的な支援、経済的に心理的にという面も含めて。

 したがって、私たちの考え方は、刑罰権が国家によって独占されて、そして復讐は禁止をされるわけですから、その分やはり被害者は社会から支援を受ける権利があると。そういうことで、その権利というものをはっきりさせて支援体制をつくろうというのでこの犯罪被害者基本法案というものを出しておりまして、先生のペーパーの最後の方に参考資料としてこの基本法案についての見解を書いていただいておりますが、一向に構わないというお書きぶりですが、これはやっぱりこういう法案にこれから向かっていかなきゃいけないんじゃないかと私たちは思いますが、いかがでしょうか。ちょっと簡単にお願いします。

○参考人(宮澤浩一君) 実はさっき時計を見ましたらもう制限時間なので慌ててはしょってしまったんですが、やはり私、法律家の一人として、こういう問題というのは、まず被害者憲章とかあるいはこういうようなものがあって、そしてそれに基づいて現行法を手直しするというのが、論理的な筋としてはその方が正しいと思います。ただ、今度の提出されているものとこの基本法との間にきちんとした論理的な詰めができますとさらにいいな、そういうことでこういうことを書かせていただきました。決してあってもいいよという意味じゃありません。

○江田五月君 ありがとうございました。
 時間がだんだん来ておりまして、高原参考人、遠方から本当にありがとうございます。

 ちょっとあまのじゃく的質問なんですが、刑事司法の中で、否認事件は別だけれども、有罪を認めている事件の場合には、被害者の立場も考えて、加害者と被害者が向き合ってそして和解をしていく、そのサポートが刑事弁護人の任務だと。そうなると、刑事弁護人の被告人のいいところを最大限引き出していくという立場はどうなっちゃうんでしょうか。あまのじゃく的質問で済みません。

○参考人(高原勝哉君) もちろんおっしゃっているような面も大事であることは、これは申すまでもないと思います。

 ただ、私が先ほど申し上げましたのは、これまでの刑事弁護で全く欠落していたと。その部分についてもっと目を向けていかなきゃいかぬということを言いたかったわけであります。

○江田五月君 私は、刑事司法の手続の中に、今回、証人として出てもらうこととかあるいは被害弁償のこととかいろいろ取り組んでいますが、刑事手続の中で被害者救済を経済面であれ心理面であれ果たすというのはしょせんやはり場が違う。刑事司法の方は、やはり被告人の人権をちゃんと保障しながら適正手続で行っていって、それともちろん関連はするんだけれども、別建てで被害者補償の方は、被害者支援の方はしっかりしたものをつくる、そういう被害者支援の方がしっかりしていれば刑事司法の方で被告人の権利をしっかり守っても大丈夫だと、そういう感じがするんですが、どうでしょうね。

○参考人(高原勝哉君) 私も江田委員と基本的には同じ考え方です。
 例えば、ドイツなどではむしろ被害者が第四の訴訟当事者という形で刑事手続にも参加をしていっているわけですね。あるいはそこまで行かなくても、いわゆる附帯私訴だとか損害賠償命令とか、要するに刑事司法の中で刑事も民事と一遍に解決しようという仕組みがあります。

 今回の内閣の二法案も、だから今回の法制審の審議も、被害者は事件の当事者ではあるけれども訴訟手続の当事者ではないんだと、そういう中間的な地位、これでとりあえずやろうということになったわけですけれども、さらに今後どうあるべきかということになると、やはりもうちょっと冷静な議論が要るんじゃないかと思っております。

○江田五月君 ありがとうございます。
 小西参考人、本当に私どもが気がつかないことをいろいろ教えていただきましてありがとうございます。

 私どもが提案をしている犯罪被害者基本法案、もうごらんいただいていると思いますが、今のお話で、例えば警察の無理解、警察の本当に心ない言葉で余計に傷つくといったことが恐らく日本じゅうしょっちゅういっぱいあるんだろうと。最近の警察不祥事なんか見るとその感を非常に強くするんですね。私は、やっぱりこういう警察だけじゃなくて社会一般もですが、犯罪被害者の立場についての啓蒙啓発、教育、こうしたことは本当にきっちり取り組んでいかなきゃならぬ。そんなことも含めて、私どもの基本法案の中に書き込んであるんですが、そうしたことについての御意見を最後にいただければと思います。

○参考人(小西聖子君) 非常に大事なことだと思っています。
 警察はむしろ組織としてはかなり早くから被害者援助に取り組んでこられているわけですが、それでも末端ではやはりなかなか変わらないところもあるわけですね。それは、多分司法にかかわる裁判官、検察官、弁護士、すべての方がやっぱりそうであろうというふうに思います。そういう直接犯罪被害者にかかわる方のかなり集中的な啓蒙活動とか教育というのも必要だと思いますし、もう一つは、犯罪被害者の人がかかわるのは司法の専門家ばかりではなくて、例えば福祉事務所の窓口とかお役所の窓口とか、そういうところもたくさん行くわけですね。そういうところでもかなりひどい扱いをされていることがたくさんあります。そういう広く一般に被害者と接する方たちへの啓蒙活動も大事だと思っています。

○江田五月君 終わります。


2000//05/11

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