1986/10/17

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107 衆議院・外務委員会 東チモール地域に関する基本的な態度と帰属


○江田委員 本日未明、国連で日本が安保理事会で非常任理事国に選ばれました。本当にどうも、お互いですが、おめでとうございます。

 責任重大というわけですが、しかし、どうも投票の結果というのはなかなか日本に厳しいものがあったと言わなければならぬと思うのですね。百五十四票中のザンビア百四十四、アルゼンチン、イタリア百四十三、日本は百七とぎりぎり。一体、なぜこういうぎりぎりということになったのか、安保理事国としての所感はいろいろおありでしょうが、そのことではなくて、この投票の結果についての反省といいますか、原因についてのお考えをまずお聞かせ願いたいと思います。

○倉成国務大臣 今、江田委員お話しのとおり、百五十四票の中の三分の二以上の得票がなければならないということで、日本は百七票とったわけでございます。ちなみに西ドイツがやはり百十一票ということで、日本と大体同じくらいの、日本よりちょっと多かったわけですが、余り芳しくない票であったと聞いておる次第でございます。

 実は、御案内のとおり安保理事会の非常任理事国になります際に、ネパールあるいはバングラデシュとの話し合いというのがなかなかいろいろ交渉がございまして、ことしの日本ということについては賛成があったのですが、来年、再来年、何とか確定したいというようないろいろな経過がございましたが、いずれにしましても最後まで難航したわけでございますが、幸い日本がアジアからエンドースされたわけでございます。しかしながら、御案内のとおり一部のアフリカの諸国が西独及び日本の対南ア政策について制裁措置が不十分だという不満、非常に急進的なグループがございまして、これらのグループの方々が組織的に日本やあるいは西独に対する反対票を投じられたという点があろうかと思います。

 それからまた、ちなみにスウェーデン、アイルランドが両国合わせて三十票の票をとられるとか、あるいはいろいろ統一候補以外での国で、インドが非同盟の代表として三十六票というふうに、国連は御承知のとおりいろいろなグループのお集まりでございますから、それぞれのお立場でそれぞれのグループが一つの結束と申しますか、そういうことをされたというような結果であろうかと思うわけでございますが、さらに日本も国連外交をもっと積極的に推進して、そういう立候補をしたならば全会一致で日本を御推薦いただくように最善の努力をこれからいたしたいと思う次第でございます。

○江田委員 大臣から念の入った御答弁をいただいたわけですが、私もそう思いますね。やはり立候補すれば全会一致で推されるような、それだけの外交における日本のリーダーシップというのが確立しなければいけない。今確立しているだろうか。ちょっとまだ、発展途上国とか第三世界とか非同盟諸国とか、そういう国々から日本は十分な信頼をかち得ていないという点がやはりあるのじゃないかという気がしてなりませんね。南ア制裁問題もそうしたことのあらわれではないかと思うのですが、私はやはり、確かに今国連にアメリカに次いで大変な拠出をしているということ、そして同時に経済力においても日本が非常に大きな力を持ってきた、そういうことで世界に責任を果たさなければならぬ日本になってきている、そのことを認めながら、しかし責任の果たし方というのは恐らく従来とは大分違ってこなければいけないのではないか。

 パクスアメリカーナから次の時代へというようなことが言われるわけですが、その次の時代というのは、日本がアメリカにかわって力で世界を抑える、そういうやり方じゃなくて、法と正義といいますか、ジャスティスとエクイティーというか、そういうような一つの理念あるいは世界秩序の倫理あるいは道理、こういうものを日本が真っ先に立って主張していく。世界の国々が、そうだ、日本の言うような世界をつくっていこうじゃないかという、そういう日本の主張というものが今後日本外交の中に出てこなければいかぬと思うのですね。

 先ほど浦野委員のお話、アジア・太平洋地域、島嶼諸国と日本との関係のことを言われまして、私もそのとおりだと思うのですが、これら島嶼諸国、アジア・太平洋地域、これが今大国の覇権の的になりかねないようないろいろな動きがあるやに聞きますが、そういうことでなくて、木当に平和なアジア・太平洋地域をつくるためにも、やはりこれらの小さな小さなアジアの島国がそれぞれ自立して、お互いに信頼し合い、助け合える、そういうものをつくっていかなければいけない。そのためにも日本の外交の主張といいますか、これから質が問われる時代が来ているのだ、こういう気がするのです。

 私は、そういう基本的な観点に立って、幾つかやはり日本の外交に気になるところがある。その一つがこれからお尋ねをしようとする東チモール問題に関する日本の態度なんですが、その前に、今私が申し上げたような外交の基本的なあり方について、なるべくひとつ手短に大臣の所見を伺います。

○倉成国務大臣 先ほど私が全会一致でということを申し上げましたけれども、御案内のとおり国連加盟の百五十九カ国、やはりそれぞれの国がそれぞれの御意見をお持ちになっているということでございまして、手短にとおっしゃいましたけれども、一言御参考のために申し上げておきたいと思います。

 インドが三十六票、スウェーデンが十六票、アイルランドが十四票、ボリビアが三票、その他アンゴラ、ベルギー、ベリーズ、キューバ、フィンランド、ギリシャ、レソト、マレーシア、メキシコ、オランダ、セネガル、スーダン、それぞれ一票ずつあるわけでございまして、やはりそういう御意見が全然ないということもかえっておかしい。全会一致と言ったのは私の理想を申し上げたわけでありまして、多少意見の異なるところがあるのがやはり国連ではないかと思いますので、その辺のところは御理解賜りたいと思います。江田委員の言われました理想と申しますか、日本が本当に、経済大国としてだけではなくして、世界の中でなくてはならない国でなければならないという理想と申しますか外交は全く同感でございます。

 なお、一つ付言させていただきますと、実はアフリカの外相を御招待しましたら、四十カ国参加していただきました。そのとき口々に、日本は経済大国で日本の経済援助が欲しいとか、あるいは日本の技術がすばらしいというお話がございましたから、私は、一つだけアフリカの皆さん方に申し上げたい、経済は手段にすぎない、経済というのは世界の平和あるいは人類の幸せのための手段にしかすぎない、日本はたまたま技術の波に乗って、皆さん方よりも多少その面で進んだ点があるかもしれないけれども、文化とか歴史とか宗教とか、それぞれの面でそれぞれの国が誇るべきものを持っておるから、我々もアフリカの皆さん方に学ばなければならない多くの点があると思う、また同時に、日本も古い伝統と歴史と文化とを持っておるということをお忘れないようにということを申し上げた次第でございます。

○江田委員 私は今の日本外交の理想の追求という点について、我々お互い国会議員だれも皆ポケットに持っておる国会議員の手帳に憲法がちゃんと印刷してある。憲法の前文にすばらしい私たちの指針が書いてあると思って、きょうは実はそれを読み上げてみようかと思ったのですが、もう時間がありませんのですぐ次へ参りますが、日本はインドネシアの東、オーストラリアの北西にあるチモール島の東半分、ポルトガル領の東チモール、この地域の帰属といいますか帰趨といいますか、この問題に関して国連で一九七五年から八二年まで東チモール自決権決議に一貫して反対をしてまいりましたね。

 どうもこれは全く納得のできないことだと思うのですが、その東チモールの問題、ことしの三月十一日、参議院の予算委員会で安倍外務大臣が、実効的にはインドネシアが一応支配をしておる。しかし、旧宗主国であるポルトガルが主権を要求いたしまして、今インドネシアとポルトガルの間で主権の存在をめぐって交渉が続いているから、それを見守っておる、こういう答弁がある。あるいは土井たか子議員の質問主意書に対する内閣の答弁では、東チモール地域がインドネシア共和国政府により効果的に統治されているとの事実認識に立つ、帰属については、インドネシアとポルトガルの間で話し合いが進められている、こういう記述があるのですが、東チモールの問題というのは、外務省の認識はポルトガルとインドネシアの間の紛争である、こういう認識なんですか。

○倉成国務大臣 東チモール地域に関する我が国の基本的な態度は、同地域の帰属について今国連の事務総長の仲介によりまして行われている関係当事者間の話し合いを見守っているという態度でございまして、事実関係その他につきましては政府委員からお答えを申し上げたいと思います。

○藤田政府委員 ただいま委員が引用なさいました文書及び答弁等に申し上げておりますように、「東チモール地域がインドネシア共和国政府により効果的に統治されているとの事実認識に立つ」というのが我が国の考えでございまして、その帰属については、現在行われているインドネシアとポルトガルとの間の話し合いを見守るということで、我が国として判断を下す立場にはないという態度でございます。

○江田委員 私が聞いたのは、安倍外務大臣の言われるように、インドネシアが一応支配している、しかしポルトガルが主権を要求しているというのでインドネシアとポルトガルとの間の紛争だというふうに一体外務省は理解をしているのかどうか。

 実はそうじゃないでしょう。インドネシアとポルトガルの間の紛争ではないんで、インドネシアは一体なぜ関係当事者になってくるか。この東チモール地域というのは何百年にもわたってずっとポルトガルが植民支配をしていた。さらに、西チモールからインドネシアのその他の島々はオランダが植民支配をしていた。長い植民支配によって、この東と西とは異質の生活様式であるとか文化であるとか言語であるとか宗教であるとかということになってきているわけです。

 そしてこの一九七五年十一月あるいは十二月の初めごろまでといいましょうか、その間一九七四年にポルトガルで政変が起きて植民地の独立という方向が出て、この東チモール地域で、東チモール人民の中で、この植民地の独立の方向がずっと進んでいたじゃありませんか。その年の十一月の十一日のNHKの特派員報告で、日本全土にわたって、東チモールという地域が今こういうふうになっているということが、まさに平隠に状況が放映されているという事態があるわけです。そのことはお認めになりますか。その間、インドネシアというのはこの地域について正当な領有権を主張するような立場にないということはお認めになりますか。

○藤田政府委員 今委員が御指摘のとおり、七四年にポルトガル本国の、宗主国の政局の変化を契機に東チモール内部でのいろいろな動きがございまして、そして七五年十一月に東チモール独立革命戦線の独立宣言等が行われ、それに対するインドネシア義勇軍の支援を受けたチモール民主同盟及びチモール住民民主協会との抗争が激化をいたしまして、結局、十二月初めごろから情勢が安定化に向かいまして、七六年の七月にインドネシアに併合された。これが事実関係の経過であろうかと思います。

○江田委員 事実関係についての認識が、それはかなり違うと思いますね。どういう資料からそういう事実関係を認識されているのかわかりませんが、だって、一九七八年の八月、九月、十月、十一月ごろ、もうそれこそ東チモールにはたくさんのジャーナリストもいっぱい入っている、その皆さんが着々と自決権の実現に向けて東チモールが歩んでいることを認識しているわけです。同時に、その当時その地域に統治権を行使していた勢力というのは、ポルトガルにも一日も早く戻ってきてひとつ最後のけじめをきちんとつけて自分たちの独立をスタートをさせてくれということを言っているわけです。ところが、七五年の十一月から十二月にかけて、そして十二月七日がクライマックスになるわけですけれども、インドネシアがここに全面進攻して、インドネシアの正規軍、政府軍の監視のもとにインドネシアの言うなりになる政府を格好だけをつくり上げて今日に至っている。

 そういう事実は恐らく日本ではどうも余り知られていない。しかし、世界はこのことを知っているのです。そういうことに目をつぶりながら日本がやたらインドネシアの情報だけを意識的にうのみにして国連でインドネシア支持の行動をするということになると、こういうふうにして自決権が軍靴によって踏みにじられることを日本がそのまま認め、それに手をかすというようなことをしていると、今回よく非常任理事国に当選できたというふうにさえ私は思うわけでして、その辺については、外務省、国連の代表部は国連総会で辛らつな議論をしてはかえって事をこじらせるだけだということをおっしゃっておりますけれども、そうでなくて、やはり正すべきところはきちんと正していくというこの正義の主張を日本はいつもしていくのだということをぜひやっていかなければならぬと思うのです。

 どうも時間がさっぱりありませんで要領を得ない質問になってしまいましたが、その他、効果的な統治というのは一体何なんだろうか、本当に効果的に統治されているのだろうか、効果的に統治されておれば果たして自決権は踏みにじられてもいいのだろうか、あるいは先ほど外務大臣は事務総長のもとで関係当事者が協議しているというふうにお答えになりましたが、関係当事者の一番関係する当事者は東チモールの人民なんですけれども、これが協議の中に入っていないので、これでは協議自体が大きな瑕疵を持った協議になってしまっているじゃないかとか、いろいろ申し上げたい点があるので、今後いろいろな機会を通じて皆さん方にお尋ねもしお教えもいただき、私どもの意見も申し上げたいと思いますので、最後に、そういう正義にかなった行動をとってくださいという私の要望について外務大臣はどのようなお考えを持つかをお聞かせいただいて、私の質問を終わります。

○倉成国務大臣 東チモールについて大変御造詣の深い江田委員からお話がございました。参考にさせていただきます。
 いずれにいたしましても、今、国連事務総長が大変誠実な方で、そしてこういう問題に一生懸命積極的に取り組もうという姿勢を示しておられるわけでございますから、私がニューヨークに参りましたときは時間の関係で二回ほどの会談しかできませんでしたけれども、デクエヤル事務総長ともまた今後とも連絡を密にしながらこれらの問題の解決に当たりたい、また、私はあちこち歩いておりますけれども、不幸にして東チモールには行っておりませんで事情がよくわからない点もあろうかと思いますが、いろいろ先生の御意見等もお教えいただく点はひとつ御教示賜りたいと思います。


1986/10/17

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