1984/06/22

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101 衆議院・文教委員会 

日本育英会法案について


○江田委員 日本育英会法案についてお尋ねいたします。
 きょうは一日長丁場ですのでお疲れかもしれませんが、最後までよろしくお願いしたいと思います。私、大変小さな会派でございまして、きょうはいろいろなものをかけ持ちしておりまして中座をしたことをおわびいたします。今までも多くの皆さんからいろいろな質疑が行われましたので、あるいは重複をすることもあるかもしれませんが、なるべく重複しないように努力をしますのでお許し願いたいと思います。

 まず、今回の法案、一体なぜこの法案をお出しになったのか、これを伺いたいと思います。

 昭和十八年から始まった四十年の歴史ある日本育英会の奨学事業について抜本的な改正ということであって、かなり大きな理由がなければこういうものが出てこないわけですから、どういう理由で新しい法案、抜本的な改正というのが必要になったのかということをお答えください。

○宮地政府委員 今回の改正をする趣旨についてのお尋ねでございまして、昭和十九年に日本育英会法が施行されて以来、育英会事業は逐年発展を遂げて今日まできておるわけでございます。

 ただ、現状で申し上げますと、学資の貸与を受けた学生及び生徒は約三百四十万人に達しまして、社会の各分野で活躍をしておるわけでございます。そういう点では、今日の我が国の発展に多大の寄与をしてきたものというぐあいに私ども、受けとめておるわけでございます。

 しかしながら、最近におきます高等教育の普及状況、量的にも大変広がりを見てきておるわけでございますし、また社会経済情勢の変化というような事柄に対応しまして学資貸与事業の一層の充実を図るという点について言えば、従来の施策といたしましては一般会計からの貸付金の増額ということで、それぞれ貸与月額の増でございますとか貸与人員の増ということで対応してきておったわけでございますけれども、片や今日の財政が大変厳しい状況になってきておる。具体的に申し上げますと、貸与月額のアップもこのところ数年においては、実際問題としては実施をできないで対応せざるを得ないということできておるわけでございます。

 例えば、従来国立大学の授業料が引き上げられました際には、それに見合ってと申しますか、それに対応するような形で奨学金の貸与月額の引き上げも行われてきたわけでございますけれども、今日大変厳しい財政状況を受けまして、授業料が引き上げられても奨学金の貸与月額の引き上げは行われないというような事態に直面をしてきておりまして、それに対しましては、私どもとしては、例えば国立大学の授業料の免除の枠を拡大するということで具体的に対応はしてきておったわけでございますが、貸与月額の増も行えないというような事態に直面をしてきておったわけでございます。片や、先ほど来御指摘のありますように、臨時行政調査会の答申等では、育英奨学事業について有利子制度に転換をすること、あるいは教育職、研究職の返還免除制度についても廃止ないし縮減を図るというようなことが提言をされまして、もちろん臨時行政調査会の答申では各般の事柄が言われておるわけでございますが、基本的には民間活力の活用というような考え方が基調にあろうかと思います。

 そこで、それらの点を踏まえまして、私ども文教行政を担当しておるものといたしましては、育英奨学事業についても、そういう事態を踏まえてどういう対応をするかという事柄につきまして、文部省自体に育英奨学事業に関する調査研究会を設けまして検討を加え、そこで結論をいただいたのが先ほど来御説明をしている点でございます。一つは、育英奨学事業としては無利子貸与事業を制度の根幹として残すという考え方をとり、その上で有利子の貸与事業を新たにつくる、有利子ではございますけれども、もちろん奨学生が将来返還をするに当たっての負担ということも十分踏まえまして低利のものであることを確保するような形で、低利の有利子貸与制度を新たにつくるという形をとりまして、貸与月額の引き上げと、全体的で申せば貸与人員の増も図るというような形で今回改正をお願いしているわけでございます。

○江田委員 長い御説明でしたが、端的に言えば、一つは財政的に非常に厳しくなった、もう一つは臨調答申でやり玉に上がったといいますか、制度を変えなければならぬと指摘をされたということがあると思うのです。

 財政的に厳しいというのはわかります。わかりますが、問題はいろいろ含んでいる。臨調答申という方は、これもちょっと議論をしてみなければわからぬ。まず基本的に、これは今までは無利子だったわけですが、今回は無利子ということを根幹としながらも有利子ということを導入した。無利子というのはいいのですか、それともいけないのですか。最近における高等教育の普及状況を踏まえて、あるいは社会、経済情勢の変化に対応して一層充実するには抜本的見直しを行うことが必要だと提案理由にも書いてありますけれども、無利子の制度というのはだめになったんだという認識なんですか、そうじゃない、やはり無利子というものがいいんだという認識なんですか、その認識の根本をちょっと伺っておきたいと思うのです。

○宮地政府委員 私ども御提案を申し上げている立場で申し上げれば、無利子の貸与事業というものは育英奨学事業としては根幹として存続をさせていくという判断に立っているわけでございまして、育英奨学事業というようなものにつきましては、いろいろお考えはあろうかと思います。抜本的な議論で申せば、やはり給費制度というようなことも事柄としてはあるわけでございます。そしてまた、現行の育英奨学事業というのは一般会計からの貸付金ということで無利子貸与、奨学生から将来返還していただく金額も将来の育英奨学事業として循環させていくというような考え方に立ては、無利子貸与事業ということも非常に意味のある事柄ではないかと私どもは考えております。

 有利子で奨学事業を実施すべしという議論をされる方ももちろんおるわけでございまして、それは、その奨学事業を将来の原資として役立たせるについては、やはり全体的な物価上昇でございますとかいろいろな点を考えれば、利息ということを基本的には考えるべしという議論をなさる方ももちろんおるわけでございます。

 しかしながら、私ども文教行政を担当している者といたしましては、現実に行われております育英奨学事業、今日まで四十年にわたって行われてきております現実、そしてその実績等を踏まえれば、やはり無利子の貸与事業というものを育英奨学事業の制度の基本としては据えるべきものというぐあいに考えておるものでございます。

○江田委員 無利子制度というものがやはり日本においては、少なくともこの育英奨学制度を国が行う場合の制度の根幹なんだ、これが国の行う育英奨学制度の基礎をなすんだということは揺らいでいないというふうに考えていいのですか。大臣、この点はいかがなんですか。

○森国務大臣 奨学生制度というのは、いろいろとその国によって制度としてしかれているわけです。中西さんもけさほど、諸外国の例を幾つかお話しをいただきました。給付制というのもございますし、ある意味ではおくれておるという意味での貸与制というのもありますから、そういう中の選択の道としては貸与制をしいておりますが、学生が学業を修めていく、そしてそれが日本の国にとって大きな繁栄の原動力になっていくであろう、また豊かな、平和な社会を構築していく構成員として社会に巣立っていく、そういう大変大きな意味を持つものでありますから、この事業は無利子でいくというのがやはり大義として正しいと私は考えております。

 そういう方向でこれまでも努力をしてきたわけでありますが、先ほど先生からも御指摘がありましたけれども、直接臨調等からこういう考え方があるから私どもはそれに従ったということではなくて、やはり財政が非常に厳しい、あるいは臨調からそういう奨学制度についての意見がある、そういう中で全体的な予算の枠というものは年々、これもまた聖域として扱われないわけでございますから、そうなればどうしても、先ほど局長も申し上げたように、額のアップということもできません、量をふやしてあげることもできません。私どもとしては、奨学の量の拡大はぜひともしていきたい、これはやはり基本的に大事なスタンスでなければならぬ、こう考えております。

 そういう意味で、無利子というものを大事に守りつつ、なお一層、たびたび申し上げて恐縮でありますが、やはり学生にもさまざまな、いろいろな立場の方もおられるようになっておりますし、経済、社会、あるいはこうした経済の環境、あるいはまたさっき中野さんがちょっとおっしゃっておりましたけれども――江田さん、あなたは優秀な頭を持って、東京大学ですから、十分奨学制度の対象になったと思うのですけれども、私どもの時代は、奨学金なんというものは全然我々に縁のないものだというふうに学生時代は思い込んでいまして、あいつ結構いいな、奨学金をもらっているんだって、偉いやつだななんて、こういったぐらいに思っておりました。

 私どもが学生時代と今では、相当大きな範囲に広がっておるわけであります。そういう意味で、さまざまな対象者が出てきているということから考えれば、有利子制という新たな道を開くことによって量の拡大をしよう、こういうことでございますから、見方はいろいろあると思いますが、ある意味ではまたこれも意義のあることである、私ども、こういうぐあいに考えております。

 ですから、無利子は全く意味ないという意味ではないわけで、やはりこうした事業の根幹から考えれば無利子はとても大事なことであるし、これは大事にしていかなければならぬ、こう考えているわけであります。

○江田委員 なぜこれをしつこく聞くかといいますと、最近の状況、社会的状況、経済的状況、あるいは高等教育の普及状況、あるいは今の学生の生活状況なんかを踏まえると、もう無利子という制度自体が時代おくれになったんだというような見解があるいはあるのかもしれない。そうではなくて、やはり無利子制度というのは根幹なんだ、これは一番大切なんだということを踏まえておらられる、そういうふうに理解をします。

 そうすると、五十七年七月三十日の臨調の第三次答申というのは、「高等教育の機会均等を確保するため、授業料負担については、育英奨学金の充実等によって対処することとしこれはいいですよね。「外部資金の導入による有利子制度への転換、返還免除制度の廃止を進めて、育英奨学金の量的拡充を図る。」、「有利子制度への転換」と書いてあるのです。この「転換」という臨調の答申はどうなったのか。

 私は、行政改革というものは今の時代に非常に大切な改革であって、取り組まなければならぬと思います。その行政改革を臨調という手法で行わざるを得ない事情についても理解をしているつもりです。しかし、それならば臨調が出した答申は全部もう天の声で、これに何でも従わなければならぬかというと、それは必ずしもそうじゃない。事柄によっていろいろあるだろう。そうはいかないという場合もあるだろうし、あるいはピント外れもそれはあるかもしれぬ。大きなところで押さえておきながら、やはり個々的には具体的に考えていかなければならぬものだと思いますが、臨調の「有利子制度への転換」というこの方向、あり方についての一つの提案はどういうことになったわけですか。

○宮地政府委員 その点は先ほども御説明をしたかと思うわけでございますけれども、臨調の提言としては、有利子制度への転換、返還免除制度の縮減というようなことが言われたわけでございます。

 しかしながら、文教行政を担当しております文部省といたしましては、そのことにそのまま対応するということではないという考え方に立ちまして、先ほども御説明しましたように、今後における育英奨学事業のあり方につきまして調査研究会で議論をいただいた上で、もちろんその調査研究会のメンバーの中には、いわば財政当局の意見を主張される方々にも入っていただき、財界の方々にもお入りいただき、公平な立場で議論をしていただいたつもりでございます。その中で十分御議論をいただきまして、その議論を踏まえて全体の制度を、今回御提案申し上げておりますような内容として取りまとめて五十九年度の予算に要求をいたし、そして今日に至っておるというのが今日までの経過でございます。

 したがって、「有利子制度への転換」ということは、文部省自体といたしましては、その報告書で言われております、ただいま先生御質問の点に直接関連するところで申し上げますと、「育英奨学事業は教育の機会均等を確保するための基本的な教育施策であり、国の施策として育英奨学事業を実施しなければならないものである以上、先進諸外国の公的育英奨学事業が給与制を基本としていることにも留意し、現行の日本育英会の無利子貸与事業を国による育英奨学事業の根幹として存続させる必要がある。」というぐあいに、調査会では御議論をいただいて結論をまとめていただいたわけでございます。

 したがって、文教施策として進めていくに当たりましては、育英奨学事業というのは無利子貸与制度を制度の根幹として残していくという結論を得まして、有利子制度については、低利の有利子制度を新たに創設するという考え方をあわせとったわけでございまして、文教施策としてはそれで進めるという形で五十九年度予算にもその内容を要求し、そして今日に至っているということでございます。

○江田委員 文部省の皆さんからなかなかはっきりとおっしゃりにくいことかもしれませんが、臨調の答申には文部省は抵抗しておるんだ、必ずしも臨調答申をそのままというのではなくて、あえて抵抗して今の無利子制度は根幹として存続をさせる、これはしっかり守っていく、しかし財政の大変困難な状況に対応するために有利子制度を緊急避難的に設けたんだ、そういうことだと理解をしたいのですが、しかし、そこはやはりよほどしっかりしておかないと、これまでの質問にもありましたとおり、有利子制度というものが次第次第に拡大していく、拡張していく、またその利子も次第に上昇していくというおそれがあると思うのですね。

 臨調の最終答申、先ほども山原先生の質問の中にちょっと出てきておりましたけれども、「財投事業の見直し」のところにこういうのがあるのですね。「新規の事業は、真に必要なものに厳しく限定することとし、スクラップ・アンド・ビルドやサンセットの考え方を積極的に導入する。」有利子の奨学金の制度というのは新規の事業ということになるのかどうか、新しく導入するわけですから。そうすると、そういう財投を利用して新しいものをやるというときには「真に必要なものに厳しく限定」、これは真に必要だというお考えでしょうが、財政状態の大変困難な状況が改善されて、そして無利子貸与、無利子の奨学金でもかなりのものが再びできるようになるというような段階に至ったときにはサンセットで有利子のものはやめる、そういうようなお考えはありませんか。臨調の答申にそういうことがちょっと出てきておるのです。第五次の最終答申です。

○宮地政府委員 先生御指摘の臨調の答申、いわゆる「新規の事業は、真に必要なものに厳しく限定することとし、スクラップ・アンド・ビルドやサンセットの考え方を積極的に導入する。」ということが言われているわけでございます。

 この低利の有利子の奨学育英資金の貸与制度というのは新たな制度でございますが、その点は先ほども御説明をしましたように、この事業は極めて公共性の高いものということに着目されて、財投に新たな事業として起こすことについて財政当局も同意をしたというぐあいに私どもとしては理解をしているわけでございます。

 なお、今お尋ねの点は、将来一般会計の財源の方で、各行政施策を充実させるに足るだけのものが出てきた際にはどう扱うのかというお尋ねで、その際に、ここで言われているサンセットというのは、むしろそういうこととは違うのではないかとは思っておりますけれども、将来私どもとしても、無利子の貸与制度の充実ということももちろん考えておるわけでございまして、そういうことが可能な時期になれば無利子の貸与制度について積極的に施策を充実していくということは当然考えなければならない事柄というぐあいに考えております。

 ただ、その際、あわせて、それではそっちの方が十分であるから低利の有利子制度を直ちに廃止すべしという結論になるかどうかは、もちろんその時点で検討しなければならない課題だと思いますけれども、制度の仕組みとして動かします以上は、やはりいろいろ多様な対応ができるような仕組みにしておくことの方がより望ましいのではないかという判断もあろうかと思っております。

 制度の改正そのものから申せば、先ほども申しましたように、例えば給費制度をどういうような部分にどう導入するかということなども、長い目から見れば将来の検討課題としてはあり得るわけでございまして、奨学事業全体の改善充実ということはもちろん私どもとしても心がけていく問題でございますけれども、ゆとりができたときにそれでは直ちにこの低利の有利子制度を廃止するかというお尋ねであれば、それはその時点で十分慎重に判断をしなければならぬ事柄、かように理解をしております。

○江田委員 今財政が逼迫して大変だ、来年度の予算、マイナスシーリングが一体どういうことになるのか、政治上も大変な問題で、その問題をめぐってこれからいろいろな議論が行われてくるだろうと思いますけれども、仮にマイナスシーリングなんということになりますと、来年度もまた育英資金貸付金の予算というのは削られるということになるわけですか。それを前提に考えていかなければならぬということになってしまうわけですか。

○宮地政府委員 来年度の概算要求の事柄自身大変大きい事柄で、先生御指摘のとおり、ただいま各方面でいろいろな議論がなされているということは伺っておるわけでございます。

 私どもも、全体としては大変厳しい状況下にあるというぐあいに理解をしておるわけでございますけれども、これは文教予算全体の事柄でございまして、その中でどのように育英奨学事業について必要な枠を確保し対応していくかということは、六十年度の概算要求を全体としてどう取りまとめていくかという今後の作業、各省庁いずれも八月末には概算要求をまとめて提出をすることになるわけでございまして、その中で取り組む課題であるわけでございますけれども、ただいま御提案を申し上げておりますような無利子貸与事業、有利子貸与事業というような形で育英奨学事業を進めていくということについては、私ども、その基本的な考え方については十分確保を図っていかなければならない課題というぐあいに考えております。

○江田委員 本当はもっと突っ込まなければいけないのですがね。今年度の予算が成立をしておって、したがってその予算に縛られて旧法といいますか、現行法による募集がどうもできにくいんだというこの問題。先日の大臣の言明もあって今検討されているところと思うので、余り伺わない方がいいかとも思っておったのですが、もう既に皆さんいろいろ伺っておられるので、私も一つ二つ質問することをお許し願いたいのです。

 予算がこの改正法に基づいてついているから、決まっているから、それともう一つは、新しい法案を提案をしているから現行法に基づく募集なり採用はできない、その二つの理由をお挙げになっているわけですが、一体予算ができておるということがどうして現行法に基づく措置を進めることの障害になるのですか。

○宮地政府委員 その問題については先ほど来御議論もいただきまして、私どもとしては、国会で御議論いただいている点を踏まえて鋭意検討させていただいている時点でございますので、ただいまの時点ではそれ以上深く立ち入ってその点について議論をいただくと、さらにそのことについての御議論を呼ぶというようなことがあろうかと思いますが、なお今まで御説明させていただいております範囲内で説明をさせていただきますと、予算が成立をいたしておりますが、予算はただいま御提案申し上げておりますような新しい制度を内容とした予算でお願いしているわけでございます。

 そこで、私ども政府側といいますか行政を担当しております者としては、新しい法律をお願いして五十九年度からこの新しい制度で事業を行うということを基本的には根っこに置いておるわけでございますので、国会で御審議をいただいて法案が成立をいたしますればそれから事業を実施するということで、新規の採用については停止しているということでございます。

 その理由といたしましては、この新しい制度の中にはもちろん有利子制度を導入するための新規の予算ということも計上されておりまして、無利子貸与制度、有利子貸与制度、それぞれの組み合わせという形でこの新しい育英制度を御提案申し上げているわけでございます。

 そこで、もちろん法律的には現行法は生きているわけでございますが、現行法で執行いたしますと新制度の執行と重複し、混乱を生ずることがあり得るわけでございますので、政府として法改正を提案しておりますので、その成立を期して当面執行を停止しているということで、そのことについては国会で御審議をいただいている新しい制度との混乱を避けるという形でございますので、当面停止するということについてはそれなりの理由がそこにあるというぐあいに理解しているわけでございます。

 なお、ちょっと技術的な点で追加して申し上げれば、新規に在学採用を採用する場合には、従来の慣例から申し上げますと、予算積算といたしましては九カ月予算ということで七月分からの積算になっているわけでございます。これは通常でございますれば、四月に新しく入りました学生から募集し、決定をするまでの期間があるわけでございまして、通例の執行の場合でございます。それで、予算積算としては七月分から支給するという形になっているわけでございます。

 なお、いわゆる予約採用の者、これはもちろん四月からの積算ということになっておりまして、通例でございますればもちろん五月ぐらいに決定を見て四月分から支給するという形になっておりまして、予約採用の場合には十二カ月の計上でございますけれども、在学採用については今申し上げましたような九カ月予算ということで計上をされているわけでございます。したがって、七月一日から奨学生としての採用ということになるわけでございまして、これらの点について現在停止をされておるわけでございますが、例えば夏休み前に募集をしなければ非常に事務が、執行がおくれるというようないろいろな実務的な問題はもちろんあるわけでございますので、従来から御議論がありますように、その点について奨学生に何らかの対応をしなければ困るではないかという御指摘を踏まえて、私どももその点の検討をいたしておるということでございまして、形の点で申せば、奨学生の採用というのは七月一日からになるという事柄であって、ただそのための作業がいろいろ事前にある、それをどうするかというところがただいま議論になっているということでございます。

○江田委員 新しい制度を内容とした予算が成立しておる、こういうことで私どもも皆、それはそうだ、こう思っておったわけですが、どうも何かぴんとこないので調べてみたのです。
 まことに憲法の基本書なのですが、有斐閣の「法律学全集」の「憲法T」という清宮四郎さんの水なのですけれども、「予算の効力」というのがありまして「実質的効力」というものですが、「予算は、一般国民の権利・義務を規律せず、」、一般国民を、予算があるからというので権利を付与することもないけれども、義務を課することもないのだ。「いわば、国家内部的に、国家機関のみを拘束する。内閣から配賦された予算は、各国家機関がこれを執行する責任がある。国家機関の行為に対する予算の拘束力は、歳入予算と歳出予算とによって異なる。」

 今度は歳出予算の方を見ますと、「予算の効力は、歳出予算に強くあらわれる。政府の支出は、法令にもとづくを要し、法令に根拠のないものは、たとえ予算に計上されていても、支出することはできない。」したがって、今有利子制度に基づく――有利子の方は財投ですけれども、一般会計では出せないということになりますね。「しかし、政府の支出は、法令に基礎をもつとともに、予算の認める範囲内でなされなければならない。予算は次の三点で歳出を拘束する。」とあって、一が「支出の目的」、二が「支出の最高金額」、三が「支出の時期」。「支出の目的」のところなのですが、「支出の目的は、予算の各項に定められ、各省各庁の長は、各項に定める目的の外に、歳出予算を使用することができない(財政法三二条)。」これですね。

 新しい制度を内容とした予算というのですが、私、もう済んだことなのでしまっておったのですが、取り出して持ってきてみたのです。新しい制度を内容としているというようなことまでは、どこにも予算の中に書いてないのですね。文部省予算の項のところに、「〇一〇 育英事業費」「事項」は「育英事業に必要な経費」「説明」があって、「優秀な学生又は生徒であって、経済的な理由によって修学困難な者に学資を貸与する事業を行う日本育英会に対する 奨学資金の原資の貸付 有利子貸与資金に係る利子補給 事務費の一部補助」、それだけしか書いてないわけで、もっと細かな数字まで全部出ているところへ行ってみても、「育英事業費」「日本育英会補助金」、それから「育英資金利子補給金」「育英資金貸付金」それだけしか書いてないわけで、新しい制度を内容とする予算、それは確かにそうだということがわかるわけですが、法律的、形式的に、皆さんが言った今の、法律上どういう権利があり義務を負っているかということを考えてみると、国民に対しては現行法しかない。新しい法案はまだ成立していない、予算はこの新しい法律のもとでなければ執行できないなどというような法則はどこにもない。

 そういう状況のもとで、しかし行政内部あるいは国家機関内部のさまざまなメンツもありましょう、あるいは仁義もありましょう、いろいろあるでしょう。そういう国家機関内部のいろいろなしがらみに皆さんは悩んでいるにすぎない。国民と文部省との間、国民と育英会との間ではとても言いわけにならぬ理屈をおっしゃっている。そういう気がしないですか。

○宮地政府委員 その点は先ほど来御説明をしている点でございますけれども、非常に形の点について申し上げれば、いわば新しい五十九年度予算を提案し、その予算を執行するために必要な制度としては、ただいま御提案申し上げておりますような日本育英会法に基づいて予算を執行するという形で、予算と法律と両面あるわけでございます。

 そして、形で申せば、もちろん五十九年度が発足するまでに法案が成立し、かつ予算が成立をして、新年度は予算と法律ともにそれに見合って執行できる体制にあるということが、ごく通例に申せばそういう状況ではないかというぐあいに私ども理解をしているわけでございます。予算が成立をしまして法律が成立をしていない今日の事態をどう把握し、どう理解し、どうすべきかということに直面をしているということでございまして、なおここでそのことの議論を申し上げる点は、ただいま私どもに課せられている事柄は、当面やるべきこととして国会の議論を踏まえての事柄がございますので、当面はそのことに私どもとしても精力を傾けて対応したいというぐあいに考えておりますので、答弁はこの程度にさせていただきたい、かように思います。

○江田委員 もう一つだけ。
 そうおっしゃるのなら、例えばこの育英事業費で日本育英会補助金というのがありますね。日本育英会補助金三十七億八千六百九十三万四千円、これは育英会の事務に対する補助金なんですね。制度が変わって新しい育英会になる。定款などもどうなるかとか役員がどうなるか、いろいろあります、全部変わるわけですから。この日本育英会の事務に対する補助金も、新しい法律ができないからというので出せないのですか。

○宮地政府委員 附則の第二条に「育英会の存続」という規定がございまして、「改正前の日本育英会法第三十三条から第三十五条までの規定により設立された日本育英会(以下「旧育英会」という。)は、この法律の施行の日において、改正後の日本育英会法の規定による育英会となり、同一性をもって存続する」ということでございますので、特殊法人の育英会そのものの存続については法律の施行の日に新たな育英会として発足をするということでございますので、旧育英会が存続をしているわけでございます。したがって、必要な事務費その他の支出についてはそれぞれ認可を得て行っているというところでございます。

○江田委員 そうおっしゃるなら同じ附則でいきましょうか。
 第十条、御存じですね。新法の方で今言っているわけですが、第十条「この附則に別段の定めがあるもののほか、旧法の規定によりした処分、手続その他の行為は、新法中の相当する規定によりした処分、手続その他の行為とみなす。」旧法の規定によって募集しておいてこの法律が施行されれば、その旧法の規定による募集は新法の該当する規定による募集とみなされるということになるから、何ら差し支えないじゃありませんか。

○宮地政府委員 先生はただいまごく概括的におっしゃったわけでございますけれども、制度の仕組みそのものが変わってくるわけでございます。

 例えば、旧法でやりました一般貸与と特別貸与と二通りがあるわけでございますが、新法は無利子貸与制度と制度的に一本化されているわけでございます。しかしながら、旧法で成立しました契約が存在をすれば、それは契約そのものとしてはさらに続いていくわけで、新法にそれが吸収されて、例えば特別貸与の場合の返還免除制度というようなものが消えて無利子貸与制度に吸収されるというぐあいには、私どもは理解をしていないわけでございます。

○江田委員 もちろん精通されている皆さんですから、それはああ言えばこう言うというのはいろいろあると思います。しかし、やはりどこか無理がある。今のストップさせている状態は無理がある。今検討されている最中ですからそれ以上突っ込みませんけれども、無理があるということはおわかりになっていると思いますので、早急に正しい解決をしてほしい、こうお願い申し上げます。

 さて、育英事業についてもうちょっと大きな観点から多少質問をしてみたいと思いますけれども、この日本育英会による育英奨学事業のほかにも、もちろんいろいろな育英事業というのはある、奨学金の制度はあると思うのですが、我が国の育英奨学事業というものは全体として一体どういうことになっているか。文部省は全体像を当然つかんでいると思いますが、どういうことになっておるのですか、明らかにしてください。

○宮地政府委員 我が国の育英奨学事業全体の現状についてのお尋ねでございます。
 我が国の育英奨学事業は、御案内のとおり、国の資金によって事業を行っております日本育英会を中心に、地方公共団体、民間法人等によっても行われているわけでございます。

 昭和五十四年度でございますけれども、五十四年度に実施した育英奨学事業に関する実態調査によりますと、日本育英会以外に育英奨学事業は地方公共団体、民間法人等合わせまして二千七百二十六の事業主体によって行われているわけでございます。この中で日本育英会の占める割合は、奨学生数で申しますと総数約五十六万五千でございますが、そのうちおおよそ六四%の約三十六万二千人ということになっております。

 なお、事業費規模で申し上げますと、総額で九百七十二億のうちほぼ七八%に相当する七百五十四億を占めているというのが、日本育英会以外の育英奨学事業を含めました全体の中での位置づけでございます。

○江田委員 日本育英会以外の地方公共団体あるいは民間の育英事業はどういう形ですかね。給費制なのか貸与制なのか。貸与制でも有利子貸与なのか無利子なのかということで言えばどういうことになっておりますか。

○宮地政府委員 規模全体はただいま申し上げた点でございますけれども、その中で給費制の事業がどの程度あるかというお尋ねでございますが、奨学生数で見ました場合に、日本育英会を除く民間等二十万人の奨学生のうち給与の奨学生がほぼ四二%、貸与の奨学生が四七%、残りは給与、貸与併用という形で一一%という数字になっております。したがって、給与と貸与制がほぼ同じ程度の割合ということが言えるかと思います。

 なお、事業主体別に見ますと、地方公共団体と学校で実施しております奨学制度でございますが、給与制と貸与制がほぼ同数でございますが、公益法人の場合には給与制が約三割、貸与制の約半分程度という状況になっております。

 なお、その中で有利子貸与の事業でございますけれども、これは御案内のとおり、私立大学奨学事業援助という事業を行っておりますが、これを除きますと有利子貸与事業というのはほとんどないという状況でございます。

 なお、私立大学奨学援助事業で私立大学の学校法人が実施をいたしますものについて、私学振興財団が資金を融資をしておるわけでございますが、それについては有利子のものが実施をされているわけでございまして、予算的な規模だけ申し上げますと、昭和五十九年度予算では総額三十二億、奨学金貸与事業は十七億、入学一時金分割納入事業で十五億という事業費を計上しておるわけでございます。五十八年度での実施状況でございますが、奨学金貸与事業で実施をしておりますものが五十一大学、四千八百人でございます。

 なお、いわばそれらの団体と日本育英会との役割分担というようなお尋ねであったかと思うわけでございますけれども、全体の数字は先ほど申し上げたとおりでございますが、例えば学校種別ごとに申し上げますと、高校では日本育英会が四五%、地方公共団体、民間法人等が五五%ということに対しまして、大学では日本育英会が八〇%、地方公共団体、民間法人等で二〇%というような割合になっておりまして、高校段階では比較的地方公共団体、民間法人等の占める割合が大きいということが言えるかと思います。

 各事業主体ごとの事業内容で見ました場合にも、育英会は大学生が約七割、高校生が約三割でございますが、地方公共団体は高校生が約八割ということで、これはある意味では当然のことかと思いますが、高校生を対象とする事業が中心になっておるわけでございます。民間法人でも大学生が約四割、高校生が過半教を占めておるという状況でございます。

 なお、公益法人の場合には、例えば特定分野の人材養成や交通遺児や犯罪被害者の遺児への援助というような、特定の目的を持って設立をされました法人もあるわけでございまして、それぞれの創設の目的に従って実施をしている。むしろ日本育英会ではそういう点では手の及ばない面において特色のある事業を実施しているというような点が、いわばお尋ねの役割分担というような感じで申せばそういうことがあるわけでございまして、国の施策と民間の活動が相互に補完しながら発展していくということが、育英奨学事業の全体で申せば必要なことではないか、かように考えております。

○江田委員 随分先までお答えくださいまして、質問が要らないのじゃないかと思いますが……。
 給費制と貸与制の長短ですね。給費制と貸与制というもの、これは日本育英会は当初から貸与制でスタートしてきている。恐らくその当初にスタートをするときにも議論をされたんだと思いますけれども、給費制と貸与制というものの議論というのは、いろいろ長短あるでしょう。例えば事務、どうしても貸与制ということになると返してもらわなければならない。しかし返してもらうについては、それなりに返してもらうためのいろいろな、返してくださいよと勝手に言っているだけじゃやはりいけないので、いろいろな事務がたくさんかかる。しかも、とことんやろうと思えばそれこそ強制執行まで考えなければならぬ、そんな費用をかけるよりは、もう上げちゃったという方がよほど安くつくというようなことがあるいはあるかもしれない。給費制と貸与制の長短についてはどういうことですか、お教えください。

○宮地政府委員 給費制と貸与制の長短についてのお尋ねでございますが、もちろん、ただいまの制度の創設の際にも、調査会でもいろいろ議論が行われたわけでございます。

 おっしゃるように給費制にしますれば渡しっきりでございまして、返還の事務といいますか、それが一切ないというような点では、事務処理の面では、制度的には支給する事柄だけでございますので、その点で極めて簡明な仕組みになるわけでございます。ただ、やはり予算的な制約から見ますと、支給人員を限定しなければならないというようなことが出てきまして、事業規模が小さくなるという点があるわけでございます。

 貸与制で申せば、基本的には後進育成のための資金としてそれが循環運用できるというような観点で、現に育英会制度発足以来四十年たっておるわけでございまして、返還金の規模も相当大きな規模に今日なってきておる。無利子貸与制度の大変重要な財源の一つとして返還金を充当しているということが、現実問題として運用として行われておるわけでございます。

 いろいろな点でそれぞれ制度の長短はあろうかと思いますけれども、例えば一つの考え方として、給費制を限られた分野で、例えば将来の研究者養成というような観点から必要なものについて、相当積極的に給費制ということも考えることが必要ではないかというような議論なども行われたことは事実でございます。したがって、将来の課題といたしましては、例えば研究者養成のために大学院学生の中で真に必要なものについて給費制というようなものを検討するということは、事柄の課題としては検討課題として十分考えなければならぬ課題かと思いますけれども、奨学生全体を基本的に給費にするということになりますと、これは原資も膨大になり、それらの点については、恐らくなかなか困難な問題点があろうか、かように考えております。いずれも制度的には、御指摘のように長短がそれぞれあるものというぐあいに考えております。

○江田委員 日本育英会制度は、一般会計からの貸付金で運営をしている。したがって、これは一般会計に返すことになっている。そのことと貸与制をとっているということとは関係があるのですか、ないのですか。

○宮地政府委員 一般会計からの貸付金ということでございまして、日本育英会に貸し付けをされるわけでございますが、したがってもう少し正確な御答弁ならば資料に基づいて御答弁申し上げますが、貸付金でございますので、一般会計に対して育英会が返還をすることが必要なわけでございますが、しかし仕組みを概括的に申し上げますと、育英会が返還免除をいたしておりますけれども……

○江田委員 ちょっと質問と違うのです。いいですか、質問は、一般会計からの貸し付けという制度であるということが、給費制でなくて貸与制になっている根拠になっているのか、そのつながりはあるのですか、ないのですかということなのです。

○宮地政府委員 どうもちょっと誤解をいたしました。
 むしろ、これは端的に申せば、貸与制度をとっているから貸付金になっている。例えば給費制度をとれば、それは国から育英会に対して出しきりの金になるというような仕組みかと思います。

○江田委員 ただ、実際には、国の一般会計からの貸付金といっても、貸付金が戻ってくるという仕組みにはなっており、計算上はそういう計算もあるのでしょうが、実際に戻ってはきていないんですね。しかも、相当遠い先まで、日本育英会から国の一般会計に貸し付けたものが返ってくるということはない、そう伺っているのですが、これはそれでいいのですか。

○宮地政府委員 それはそのとおりでございます。
 簡単に御説明しますと、奨学生から返還をしてもらうわけでございますけれども、返還免除制度が片やございまして、教育職、研究職、それから特別貸与については、一般貸与相当額を返還すれば残りは返還免除というような仕組みになっておりまして、奨学生に対して返還免除をしますれば、育英会が国に対して返還をする分をそれに見合って免除をするというような仕組みが働いておるわけでございますから、相当先のところまで育英会から国の一般会計に対して返還をするという仕組みは、現実問題としては出てこないということでございます。

○江田委員 ですから、返還免除の方がどんどん年々膨大になっていく。しかし、国に対する償還の方は三十五年ですか、前のものを償還する。しかも、その償還は返還免除の部分にまず充当される。したがってその残りの部分がどんどんふえていって、償還をするお金というものは実際には出てこない。事業規模がこれからもずっとふえていくということになれば、ますますそうなっていく。一方で物価の値上がりあるいは貨幣価値の下落というものもある。というと、貸付金というのはそういう制度になっておるということであって、実際には有名無実である。貸付金ということになっていることと貸与という形になっていることとはつながらないような気がするのです。先ほど、貸与であるから片方は貸付金だとおっしゃいましたけれども、貸与であるということは、奨学生から返してもらってその部分を次の原資としてまた運用していくということでしょう。ですから、貸付金と貸与という制度にはつながりはないと考えた方がいいのではないかと思いますが、いかがでございますか。

○宮地政府委員 実態から把握をいたしますれば、先生御指摘のような実態にあるということは言えるかと思います。

○江田委員 そうしますと、奨学金の原資の方がどういう形で来ているかということと、それから給費だ貸与だ、あるいは貸与も有利子、無利子ということは余り直接関係がないのではなかろうか。

 今度の有利子制度は財投資金を持ってくる、あるいは利子がつく、だから貸す方も利子つきでなければならぬ、こういう説明ですけれども、その原資の方が財投で七・一%の利子のつく金であったとしても、そのことは必ず今度奨学生に渡すときにも利子をつけなければならぬということに必然的になるということではないと思うのですが、いかがですか。

○宮地政府委員 必ず論理的に利子を取らなければならないということではないかと思いますけれども、やはり七・一%の利息のついておる金であれば、奨学生に応分の負担をお願いをするということは考え方として出てくることはやむを得ない点ではないかと思います。

○江田委員 私は、むしろ逆に給費か貸与か、あるいは貸与も有利子か無利子がということも、一種の教育的配慮という点もあるんじゃないかなという気がするのです。給費よりも、やはり借りたお金は返す、借りたお金は必ず利子をつけて返すというのが本当に学生にとって教育的であるかどうかというのは随分問題だと思うのですけれども……。

 まあそれはそれとして、日本はどうも奨学金制度が非常にお粗末であるということがよく言われる。ですから、国の方ももっと拡充していかなければならぬと思いますが、地方公共団体とかあるいは民間の奨学金というものをもっと盛んにしていくという方策がこれから考えられていかなければならぬのではないかと思いますが、この地方公共団体が奨学事業を行う場合に、どういう助成をしていく、エンカレッジしていくシステムがあるのか、教えてください。

○宮地政府委員 ただいまの仕組みで申し上げますれば、地方公共団体が育英奨学事業を実施いたします際に、国からそれに対して何らかの援助をするという仕組みはただいまはとられておりません。

○江田委員 そういうことを将来的には検討する必要があるのではありませんか。

○宮地政府委員 御指摘の点は将来の課題としては考えられる点でございますけれども、ただ今日の状況下におきましては、新たに地方に対して補助をするというような仕組みを考える際に、既存のものを何らか、いわゆるスクラップ・アンド・ビルドといいますか、そういう考え方なしにそういうことを実施することはなかなか困難ではないかというぐあいに考えております。

○江田委員 どうも財政の重い重い圧力というものが常にありますから今は大変ですが、将来は考えるべきことだろうと思います。

 それから、今度は民間ですが、民間の奨学事業、これはそれぞれにさっきもちょっとおっしゃっていましたけれども、独自の役割と任務を持っていろいろな特色がある事業を行っておると思いますが、この振興を図るためには一体どういう措置を講じていらっしゃるのでしょうか。

○宮地政府委員 育英奨学事業を行います公益法人についての対応でございますけれども、これは、寄附金の受け入れ等につきまして税制上の優遇措置という点で税制施策が講ぜられているわけでございます。

 一つは、育英奨学法人は試験研究法人の資格というような形でございまして、試験研究法人の証明を受けた法人に寄附をした場合には、寄附者が個人の場合には総所得の二五%の寄附金が課税対象外となることになっております。また、寄附者が法人の場合には一般寄附金とは別枠で損金算入限度額までの寄附金が課税対象外となるというようなことで、いわゆる試験研究法人の場合には損金算入限度額の枠が単純に申しますと二倍の枠になるというような形で、企業等からも寄附をしやすい形がとられているということでございます。

 第二点は、特に指定寄附金の指定を受けました場合には、寄附者が法人の場合には寄附金全額が課税対象外になるということでございまして、これは一般の指定寄附金の場合と同様でございますが、育英奨学の法人の場合にももちろんその扱いがあるわけでございます。

 それから第三点としましては、教育に寄与することが著しい法人への相続または遺贈による財産を寄附をした場合には寄附者の相続税、贈与税が免除をされるというような形がございます。

 こういう税制上の優遇措置が講ぜられておるわけでございまして、これらを活用して個人ないし企業からの寄附が促進をされ、事業の充実を図ることが行われることを私どもとしては期待をいたしておるわけでございます。

○江田委員 そういう税法上のさまざまな優遇措置があるわけですけれども、外国の場合に、特に先進国の場合に随分、例えば遺産がファンドになってスカラシップが実施されているとか、あるいは企業やその他余裕のあるものが大きなファンドをつくってこれを奨学金に運用しているとか、そういうのがあるわけですが、なぜ一体日本はそうならないのですか。日本人というのはけちなんですかね、どうなんでしょうか。

○宮地政府委員 確かに御指摘のように、外国の場合には相当富裕な方々が、例えば死亡した際に基金を寄附するとかという形で、スカラシップが随分そういう形で活用されていることは、私も事柄としては十分承知をしているわけでございます。

 日本の場合にどうもそういう点が必ずしも十分でないのはなぜかというお尋ねなんでございますが、明確に御説明するだけの知識がないわけでございますけれども、事柄についての考え方といいますか社会的な受けとめ方、いろいろそれぞれの国の伝統的な物の考え方、国民性、そういうようなものがやはり背景にはあるんではないかという感じはいたしております。私どもとしましても、この育英奨学事業というようなものなどは最も公共性の高いものでございまして、かつ後進の育成に資するという見地でも極めて有意義なものでございますので、そういうことが企業ないし個人からも積極的に行われるような社会的な気風が生まれていくということを私どもとしてもぜひ願いたいということで、またそういうことが一般に理解されるように積極的に私どもも働きかけることは必要ではないか、かように考えております。

○江田委員 文部大臣、やはり国民みんなが教育を大切に考えるという気風をつくっていく、そういう環境をつくっていく。これは大臣としても、文部省としても非常に重要な責務だろうと思うのです。今大きな遺産を残すようなときに、大体遺産なんか残すと相続人同士で相争って、血で血を洗うまことに醜いけんかをするようなこともたくさんあるのですが、そういうことじゃなくて、ひとつ奨学金の基金にというようなことがもっと盛んに行われて、それが社会的に非常に大きな称賛を浴びるという、そういう日本の精神風土にしたいと思いますけれども、いかがですか。

○森国務大臣 日本の場合、東洋の大陸の文化あるいはまた儒教、仏教、そういうものを一つの文化のもととして東洋の民族、日本の文化というのは発達をしてきたのだろうと思いますし、また、西洋はどちらかというと西洋文明といいますか、また逆の面があるのだろうと思います。

 日本人というのはどうしてかなというと、確かに最近は、東西融合の文明なんて、我々の母校の大隈重信先生がおっしゃって、東西融合の文明というのは今みたいなことを言うのかななんてつくづく感じますが、ややもすると西洋文明の方が強くて、どちらかというと東洋の文化が少し朽ち果てなんとしている、そういうところに何となく社会の混乱もあるのじゃないか、精神的な面での弱さもあるのではないか。いろいろありますが、人間がいろいろな試行錯誤を繰り返して一つの文化をつくり上げていくのだろう、こう思います。

 おおらかな意味から言えば、私は私立学校の経営者などにも、寄附なと思い切って大きく取ったらどうですかとよく言うのです。あるいはまた、さっき江田さんから言われましたように、財産を残すことも一つのあれでしょうが、外国と違って、余りどこかの学校なんかに寄附するということは好まないのか。思い切って、江田体育館とか馬場記念館とか佐藤図書館というふうに――外国の場合は名前が皆ついているのですね。道の上にまでついている。そういう考え方が西洋の考え方なんだろう、こう思いますが、日本人の場合、何か昔から、武士は食わねど何とかと言いますし、腹は減っても我慢をしなければならぬのだ、これが日本人かたぎみたいなところがあるのだろうと思います。我慢をして、とにかく武士は食わねど高ようじ、自分で我慢して、臥薪嘗胆というような気持ちがやはりあった。そういうことが何となく、ただでお金を借りてこうするということについての、やはりそういうものがまだ大きく発達はしていないのかなという感じがいたします。

 いずれにいたしましても、先ほどもお話がたしか中野さんからもありましたけれども、新しい民間の資金とかあるいはまた別の意味での財団方式みたいなものだとかいう形はやはりこれから考慮して、幅広く多くの学生たちが恩恵を受ける、そういうことについてはむしろ積極的に、そしてこういうお互いにみんなが助け合っていかなければならぬ時代でありますから、ある意味で、お金をたくさんもうけてもほとんど税金に取られるのですから――税金が入ってくることも政府の立場から見れば大事ですが、逆に言えば、若き学徒を育てるという雰囲気、空気というものを醸成していくのも大事なことじゃないか、こう思っておりますが、いろいろな工夫を文部省としても十分検討をしていきたい、こう申し上げておきたいと思います。

○江田委員 どっちかというと、農耕社会の方がお互いに助け合うという気風が強くて、狩猟民族の方がけんかする気風が強いのだろうと思うのです。したがって、日本なんというのは、そうやって自分が一人で財産を抱え込むのじゃなくて、みんなに吐き出してみんなで使おうじゃないかということがむしろなじむのじゃないかと思うのだけれども、それがどうも日本に余りちゃんとできてこない。残念なことだと思うのです。

 先進国でそういうファンドなどがたくさんある。私もそれほど詳しいわけじゃありませんが、今の相続税などが非常に高い、持っておったらこれはとても自分でやりきれぬというので、吐き出してしまう、そういうようなことも一つ大きな役割、機能を果たしているというようにも聞いたりしておりますので、これはこれから大いに知恵を絞っていきたいと思います。

 さて、外国の話をちょっとしておったのですが、日本が留学生というものに対して随分冷たいじゃないかという声もあるのですがね。今、外国から日本に入ってくる場合の留学生に対する奨学金の制度、それから今度逆に、日本から外国に出ていく場合の学生に対する奨学金の制度、これは一体どんなことになっているか、教えてください。

○大崎政府委員 留学生の交流の現状でございますけれども、まず、外国から日本に来る留学生につきましては、国費留学生ということで文部省から奨学金を支給して、かつ往復の旅費を支給してお呼びをする制度がございます。これは五十九年の五月現在で二千三百四十五人ということでございまして、支給の月額が、大学院レベルで十七万五百円、それから学部レベルでたしか十二万七千五百円ということになっております。

 なお、最近日本に対する留学への機運が高まってまいりまして、全体では現在一万人を超える学生が日本で勉学をしておるという状況にございます。

 それから、海外に留学する日本人学生につきましては、国費によりまして約三百人程度の大学生を派遣するというようなことをいたしております。

 なおそのほか、受け入れあるいは送り出しとも、民間団体その他の制度による奨励措置というのがあわせて講ぜられているのが現状でございます。

○江田委員 欧米諸国、先進諸国はどんな現状でしょうか。大体日本と似たり寄ったりなんでしょうか。大分違いますか。

○大崎政府委員 先進諸国と比較をいたしますと、国費で呼ぶ留学生の数につきましては、欧米、例えばアメリカあるいはイギリス、西ドイツ、フランス等と比べますと、なお多少、国費留学生の数あるいは国費に相当する留学生の数が少のうございます日それほどの大きい開きということではございませんが、留学生全体から見ますと、例えばイギリスあるいは西ドイツでございますと五万を超える留学生がおりますし、フランスでございますと十万を超える留学生がおるのに対しまして、日本では、最近伸びてはおりますが一万を超える段階ということで、かなりの開きがあるのが現状でございます。

○江田委員 これは伺いましたら、外国の人をその国にお呼びをする留学生に対する奨学金という数ですが、日本は国費だと二千何百人か、しかし民間全部合わせて一万程度。ところがアメリカは、国費の場合が七千二百人、民間を合わせたら、ざっと三十万人を超える。イギリスが国費が二千四百人程度、ブリティッシュカウンシルのスカラシップですね。民間を入れると五万人。西ドイツは、国費が三千人程度だが、民間を入れて五万人。フランスが、国費が九千人程度で、民間を入れると十一万人。日本はわずか一万人。アメリカ三十万人、イギリス五万人、西ドイツ五万人、フランス十一万人。日本は、それこそサミットヘ行ってこれでよく大きな顔ができるという気がしますね。今のこういう世界です。日本が国際的な役割を果たさなければならぬ、それはそれなりに私は正しいことだと思います。しかし、その国際的役割というのこそ、まさにこういうところで果たしていかなければならないのじゃないだろうか。外国人が日本に来て勉強したい、その人に日本がどの程度援助するか。諸外国と比べて、これではとても世界の経済の第二位の国だということにはならぬのじゃないですか。大臣、どう思われますか。

○森国務大臣 概念的に申し上げれば、まだまだそういう意味では、そうしたものに対する国民全体の考え方というのはそういうところに行き着かないのかもしれません。これから本当の意味で日本が国際社会に対して大きく貢献をしていく。何といいましても急速にといいましょうか、急成長といいましょうか、そういう形で日本の場合は繁栄をしてきているわけです。したがって、そうした文化、学術そうした面がどうしてもおろそかになっているという言い方は、現実の問題として認めざるを得ないだろうと思います。これから新しい幾つかの制度をいろいろ考え直して、そうした面でも十分に配慮した奨学生制度というものを十分考慮していかなければならぬ、こう思っております。

○江田委員 もう時間もほとんどありませんが、奨学金というのは本当に必要な者に与えられなければならぬ。特に学生諸君の最近の生活状況、どういうことになっているのか。何か学生の生活が昔と比べて随分よくなってしまっているんじゃないか。アルバイトがあったりして、卒業をして就職をするより学生を続けている方がよっぽどいいなんというようなことも聞いたり、学生がフェアレディーその他のすばらしい車にぶるんぶるんと乗って頑張っているとかいうことも聞いたりするので、一体実態は本当のところどうなのかということも聞きたいのですが、余り時間がありません。

 そういうこともさることながら、本当に困っている、例えば通信教育とか定時制の学生とか社会人入学、これも前からときどきこの委員会で取り上げさしていただいておりますけれども、こういうところに別枠で、この枠は通信教育だとか定時制だとか社会人入学だとか、そういうふうにして別枠でとるようなことも必要あるんじゃないか、通信教育についてはとっていますけれども。そういう気がするのですが、いかがですか。

○宮地政府委員 御指摘のように、本来必要とする者に奨学金が与えられるということは基本的に大切なことでございます。通信教育、定時制の学生に対する貸与の点は、先ほどもお尋ねがありましてお答えをしたわけでございますけれども、通信教育を受ける学生については、スクーリングの実態に応じまして、例えば夏季等特別の期間のスクーリングの場合には一期間について六万五千円、通年スクーリングの場合は私立大学と同額の金額を出すという形にいたしております。

 また、夜間部の学生については、学生の相当数が職業を持っているというようなこともあり、収入がありまして比較的経済的必要度が低いというようなことで希望する者が少ないという実態もございますけれども、もちろん学業成績と基準に該当する者については昼間部と同様に奨学金貸与の対象といたしておるところでございます。

 そのほか、いわゆる社会人入学というようなことがこれからの高等教育の広がりといいますか、今後の高等教育のあり方ということでいろいろ言われているわけでございまして、別枠を設けるというような考え方も将来考えるべきではないかという御指摘でございますけれども、これらの点については、一つの課題といたしまして今後どういう点が考えられるか、私どもも運用の面で考えられる点があるかどうか、十分慎重に検討させていただきたい、かように考えます。

○江田委員 教育というのはやはり金がかかる。これは国全体の教育の制度をどうしていくかということを考える場合にも財政問題を無視して考えられないし、一人一人が教育を受ける場合だって、幾ら向学の精神に燃えておったって、人間、パンのみにて生くるにあらずですけれども、やはり生きていかなければならぬので、そのためには金がかかる。教育を受けることで金がどんどん入ってくるなんということはそれ自体ないわけですから、したがって教育の機会均等ということを実質的に確保するためには手厚い奨学金の制度、育英制度というものがなければならぬと思うのです。

 まだまだ日本の育英制度、奨学金の制度というものは不十分だ。もっといろいろな点で拡充していかなければならぬ。日本育英会だけがこれを担うわけではない。しかし国全体で、教育を受けたい、勉強をしたいというときには生活の心配というようなことを考えずに勉学にいそしむことができる、そういう国をつくっていかなければならぬという気がするのです。今回のこの育英会法案というのが、そうした大きな方向に向けてどの程度の前進があるのか、むしろ逆に有利子制度という厄介な荷物を抱え込んでしまったのじゃないかという気がしてならないのですけれども、ひとつ有利子制度がどんどん増殖をしていくというようなことのないように、そしてマイナスシーリングとかいろいろありますけれども、頑張ってさらに一層の拡充をしていくことを最後にお願いをしまして、質問を終わります。


1984/06/22

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