1984/04/04

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101 衆議院・文教委員会 

大学の門戸開放について


○江田委員 大学設置法改正案に関連して質問しますが、大臣がいらっしゃらない、しかし大臣がいなくても質問してくれということで、どうぞ皆さん、大臣によく質問の中身を後でお伝えを願いたい。政務次官、ひとつよろしくお願いいたします。

 さて、私は、大学の門戸開放ということについてきょうはお伺いをしてみたいと思いますが、昭和五十六年の六月に中央教育審議会が「生涯教育について」ということで答申をお出しになって、文部省はそれをお受けになって、どういう考え方でこの答申に臨んでいらっしゃるのか。とりわけ、きょうのテーマに関係して言えば、この答申の中で第二章二の「今後の課題」の(一)というところに「教育機能の領域別の課題」、その中のイの「学校教育の弾力化と成人に対する開放」で「学校教育、特に大学教育をはじめとする高等教育の制度や運用方法の一層の弾力化、柔軟化を図る必要がある。」というわけですが、さらに「第四章 成人期の教育」、その二の「成人への学校教育の開放」というところで大学教育の開放をいろいろと、諮問に対して答申があるわけですが、これはどういう基本的なお考え方でいらっしゃるのか、伺いたいと思います。

○宮地政府委員 大学の生涯教育への対応といいますか、社会への開放でございますが、これはその中央教育審議会の答申にも指摘をされているとおりでございまして、従来は日本の学校制度はいわば非常に直線的にと申しますか、小学校、中学校、高等学校、大学ということで非常に直線的に学校教育を済ましまして、それから社会に出るというケースが非常に多かったわけでございますけれども、やはり社会全体が非常に構造的に変化をしてきたと申しますか、高齢化社会にもなってきておるし、また非常に多様化してきておる。一たん学校を出まして社会人となった後もう一度、再度教育の機会を得たいというような希望をする者もふえてきておるわけでございます。そういういわば生涯にわたる教育、学習の必要性ということが認識をされるようになりまして、大学もそういう要請に対応して積極的に社会に対して開放することが必要になってきておるわけでございます。

 文部省といたしましては、そういう高等教育を受ける機会を拡充するという観点で、具体的な点で申しますと、例えば国立大学でも昼夜開校制というようなことで、社会人が大学教育を受ける機会を得やすくいたしますとか、あるいはまた、昭和六十年四月から学生受け入れを実施するわけでございますが、生涯教育の中核的な高等教育機関として放送大学が設置され、ただいま準備を五十九年度予算でもいたしておるわけでございます。六十年四月から学生受け入れをするわけでございますが、放送大学なども、大学教育を社会人に開放する非常に端的な具体的なケースではないか、かように考えております。

○江田委員 昼夜開校制、放送大学、こう言われたのですが、もう一つかなり注目をされているものとして社会人入学ですね、これがあると思うのですが……。

○宮地政府委員 社会人の大学入学の点ももちろん確かにあるわけでございまして、大学の入学者選抜という点では、大学の入試そのものがいろいろ議論もあるわけでございますが、特に社会人の受け入れという点は生涯教育の推進という点からぜひとも必要なわけでございます。そういう実践的な経験を経まして、問題意識を持ってさらに勉学を続けたいという人たちを大学が積極的に受け入れるということは、大変大事なことであろうかと思います。

 五十八年度の社会人の大学入学者は、全体で四千人余りということになっております。そしてまた受け入れに当たりましても、いわゆる通常の入試とは違った入試制度、社会人のための特別の入学者選抜も積極的に考慮されているところでございます。

○江田委員 たしか四、五年前でしたか、立教大学でこれが最初に試みられた。その後次第にふえていく趨勢にあるというふうに見てよろしいかどうか。それから、国立大学では今具体的にどの程度社会人入学というのが実際に行われているか、これからどういう方向に向かおうとされているのか、この点をお答えください。

○宮地政府委員 社会人のための特別の入学者選抜でございますが、年度的に申し上げますと、五十六年で十七大学二十三学部、志願者が千二十六人で入学者六百四十七人という状況でございますが、五十七年が十九大学二十五学部、入学志願者千五人に対して入学者六百八十人、五十八年度が二十八大学四十一学部、入学志願者千六百六十七人、入学者九百八十一人というようなことで、年度を追ってその点は拡大をされてきているわけでございます。

 国立大学では、例えば名古屋大学、一蚕大学が社会人のための特別入試を行っております。ほかに、五十九年度で申し上げますと、国立大学では山形大学工学部、名古屋大学法学部、三重大学人文学部、大阪外国語大学外国語学部、広島大学法学部、これは二部でございます。それから長崎大学教育学部というようなものがございます。

 これらの点は、大学の社会人開放のためには望ましいことでございますし、私どもとしても、今後ともその方策を積極的に推進してまいりたい、かように考えております。

○江田委員 選抜方法で、通常の選抜方法と異なる特別な配慮を行っている、国立大学の場合には端的に言ってどの点が一番通常の選抜の方法と違うのですか。

○宮地政府委員 具体的な例で申し上げますと、名古屋大学法学部の社会人の選抜のやり方でございますけれども、第一次選抜は出願と筆記でございますが、筆記が外国語と小論文、外国語については辞書の持ち込み、使用を許しております。それから、一次合格者に対して面接の選抜試験をするというような形で実施をいたしております。

○江田委員 端的に言いまして、社会人に大学の門戸を開放しようと思うと、受験勉強をずっと続けている受験生と比べるとどうしても受験という点に関してはハンディキャップがある。そこで、なるべく受験のために特別の教育をしているということが必要ないようにしなければいかぬ、そこで今の英語の試験とかに辞書を持ち込んでもいい、そういうことになっている。そうしますと、一番のネックは実は共通一次で、これまでの国立大学の門戸開放の選抜の方法が他の場合と違う最大の特徴は、端的に言って共通一次がないということじゃないですか。

○宮地政府委員 社会人のための特別の入学者選抜をやっている場合には、定員の枠も別枠で考えるわけでございまして、御指摘のように共通一次を実施していないというのも最大の特色の一つかと思います。

○江田委員 この社会人入学、もっと拡充をしていただきたいと思います。
 この社会人入学について、さらにこれの拡充を阻んでいるネックとして、例えば社会人になってから、さあいよいよ社会の経験を経て本当に勉強が必要だ、こう思ってきた、しかし、一方で仕事をやりながら大学に入るというのはなかなか難しい。ところが、ILO百四十号条約、有給教育休暇に関する条約というものがあるのですが、これは我が国はまだ批准をしていない。労働省、お見えだと思いますが、これは今後どういうような態度で臨まれるつもりですか。

○金平説明員 御説明申し上げます。
 御承知のとおり、百四十号条約は有給教育訓練休暇の目的の一つとしまして、労働組合教育というようなものも規定いたしております。この点につきまして、実は国内法的に検討してみますと、労働組合法で否定しております不当労働行為、労働組合法七条三号という規定がございますが、それに抵触する可能性があるということがございまして、そういう国内法制との整合性ということについて十分検討してその上で措置を決めてまいりたい、こういうふうに今思っているところでございます。

○江田委員 ILO第百四十号条約というものができている。今、批准をした国かどの程度あるか、ちょっと私もまだ十分調べておりませんが、国際的に、小学校からずっと進んで大学まで終わってという、そういう教育だけじゃなくて、いろいろな過程をたどって、さらにこれからある程度社会に出た後に教育を受けたい、そういう者に対して門戸を開いていこうという大きな趨勢がある。これに対して、何か労働組合教育というほんの小さなところにちょろっとひっかかりがあるというので後ろ向きの態度をとられるというのは、どうも納得できない。いろいろ知恵を絞るべきだという気がいたします。

 これともう一つ、労働省に有給教育訓練休暇奨励給付金制度というのがあるということですが、これは一体今どの程度の金額で、これからどう臨まれようとしていますか。

○金平説明員 今先生おっしゃいました有給教育訓練休暇に関して、昭和五十年から労働省としましてはそれを助成するという制度を設けております。雇用保険法という法律がございまして、その中の能力開発事業ということでやってまいっておる制度でございます。

 これについては、御承知のとおり、その有給教育休暇というのが労働基準法で言う年次有給休暇とは別に、事業主が教育訓練のために本人の申し出があったときに休暇を与えるということをやっている場合には助成をするというような内容になっておりまして、その本人の申し出及び事業主の承諾というのが二つの要件でございます。

 そういう意味で、五十年に発足して以来、制度の普及というのが、本来そういう事業所内における休暇制度というものがまず前提になって、そしてそれが個々の労働者に適用されるということでもって給付対象になるものですから、個々の事業所の中におけるそういう制度の普及というのがなかなか遅々として進まないという問題点を持っております。しかしながら、昨年ですが、従来は事業所の中におけるそういう休暇制度について、例えば労働協約とか就業規則とか、そういったもので決めてなければだめだというふうな要件があったのですけれども、それを緩めまして、もっぱら労働組合の意見を聞いて、そしてそういう計画があってその計画の中でそういう休暇制度を設けるということであるならば給付適用にしますというような改正をいたしております。その結果、最近のはまだ十分には未集計の状態ですけれども、一応想像できますのは、かなり適用がふえてきているのではないかというような改善を見ております。

○江田委員 労働省、御苦労さまでした。
 社会人入学とよく似たもう一つの制度で、社会人コースというのですか、入学の場合には初めから入学ですが、社会人コース、つまり一定の資格のある者に学士入学のような形で大学の門戸を社会に開放していく、そういう制度がある。これは岡山大学で一つあるわけで、ほかのところにもあるかと思います。社会のニーズとして、一般の大学の教養課程を修了している者に開かれているコースなのですが、それだけじゃなくて、短大で勉強した者も、単位がちょっと足りないことはありましょうから、そのままというわけにはいかないけれども、何か多少の努力をすればこの社会人コースへの門戸を開いていただけないだろうか。そういう希望も強いし、短大卒である程度社会に出てきている、こういう者に社会人コースという道を開くことは十分検討する価値があると私も思いますが、いかがですか。

○宮地政府委員 三年次の編入定員の問題でございます。
 これは昭和三十年代から一部の大学で措置されておりますが、四十年代後半から特に高等専門学校からの編入学を中心に工学部でこの措置が拡充されまして、特に五十一年度に設置されました長岡、豊橋の両技術科学大学においては、高専からの編入学を組織的に行うということで実施をしているわけでございます。その後、工学部以外の学部についても編入学定員が設けられてきております。現在十九大学、二十六学部において第三年次編入定員が措置をされているわけでございますが、その入学資格は、それぞれの大学において編入定員を措置するに至りました経緯もございますので、必ずしも一律ではないようでございます。

 しかしながら、お話の短大卒業者にも認めるということについては、原則として私どもは差し支えないものというぐあいに考えております。

 なお、御指摘の岡山大学のケースについては、現在は短大からの編入は認めていないようでございますが、大学当局もその点については、六十年度以降の課題ということで検討を始めておるというぐあいに承知しております。

○江田委員 どうも時間がありませんのでもう一点ぐらいしか伺えないかと思いますが、今の社会人入学というのは、社会に出て仕事を持つ経験を経てもう一度大学教育に戻っていきたいということです。

 ところが、ちょっと観点を変えて、また別の生育の過程、これが帰国子女という問題ですね。日本の国内で制度化された教育のシステムの中で育ってきたというのじゃなくて、外国でいろいろな教育を受けてきた、そして大学へ入る年齢になった、あるいはそれより前に日本に戻った、しかしなかなか日本の高等学校にうまく入っていけない、こういう者のために国際バカロレア制度、IBという制度があるわけです。このIBは大学の入学試験を受ける資格、大学入学資格という点ではよろしいのですけれども、しかしそれを認めても、それだけでは。やはり共通一次も受けなければならぬ、それぞれの大学で行う二次試験も受けなければならぬ。

 ところが、IBに対して特別の枠をつくって、共通一次の問題などについて特別の配慮をして大学に受け入れる、こういう道が開かれておるわけですけれども、これは現在どの程度の国立大学でやっておって、そして今後どういうふうにされるのか。ここでもやはり共通一次免除あるいはそのウエートを少なくするということが、実は帰国子女に対する門戸開放のキーポイントになっているということじゃないのか。

 この点を伺って、残余の質問は大臣がお戻りになってからのことにいたしたいと思います。

○宮地政府委員 帰国子女の入学者選抜の問題についてのお尋ねでございますが、一般論として、国際バカロレアの資格取得者についてはもちろん入学者選抜を認めるという方向で動いてきておるわけでございます。

 ただ、帰国子女の場合については、やはり先ほどの社会人入学の場合とはまた別の意味で特別の配慮が必要ではないかということは御指摘のとおりでございまして、現在帰国子女を対象といたしまして特別選抜を実施いたしておりますのは、大学で申しますと、国立ては十一大学−筑波大学、宇都宮大学、以下、学部によって多少、例えば新潟大学では教育学部を実施しておりますとか名古屋大学では法学部で実施をしているというようなことで、すべての学部というわけではございませんが、国立て十一大学、公立て五大学、私立ては二十六大学が帰国子女を対象といたしまして特別選抜の実施をしているというぐあいに承知をしているわけでございます。

 帰国子女はなお今後ともふえていく状況があるわけでございまして、そういう特別選抜が今後とも各大学で拡大されてまいりますように私どもとしても指導をしてまいりたい、かように考えております。


○江田委員 どうも大臣と相性が悪いのかどうか、まだ所信に対する質疑も終わっておりませんで、きょうの質問も、わずかの時間が寸断されたので非常にやりにくいのですが、きょうは実は私は、大学の社会に対する門戸開放ということについて、大臣がおられない間に少し伺ってみました。

 今、社会人入学の制度であるとかあるいは学士入学というのですか、三年から定員をふやして、その部分に、既に社会に出ている皆さんから入れるようにするとか、あるいはまた、これはちょっと社会人入学と違いますけれども、帰国子女ですね、外国でのさまざまな経験を積んで、そして日本に帰ってくる、そういう皆さんを大学で受け入れるために、例えば国際バカロレアの資格を持っている者に対して別枠を設けるとか、そういうようなことがいろいろありますが、大学の門戸開放あるいは単線型教育に対して、その他のいろいろな生育の過程を経てこられた皆さんへ大学を開放するということ、こういうことについての大臣の基本的見解を伺っておきたいと思います。

 特に、五十六年六月に出されました中央教育審議会の答申の中で、「大学等の開放に関して、学校内部の理解や支持が得にくく、また教員が社会的需要を配慮した柔軟な教育課程を編成することに消極的である場合が少なくない。大学等の開放の成否は、窮極のところ、学校関係者の意識と姿勢にかかっているのであり、教員や学校の経営責任者が大学等をより積極的に社会の中に位置づけるよう努力を払うことが期待される。」こういうくだりがあるわけですが、この点を踏まえて大臣の見解を伺います。

○森国務大臣 答弁申し上げます前に、江田先生にも、それから山原先生にも、参議院の予算委員会の質疑要求がありました関係でもございますが、そうは言いながらも、衆議院の文教委員会を中断させて参議院の方に行かしていただきまして、大変御迷惑をおかけをいたしまして、おわびを申し上げる次第であります。

 また、委員長初め、各党各派の皆さん方も、ただいま御審議をいただいております法律が、時間的に大変急がれておりますということにもかんがみまして、大変御協力いただきまして、こうして夜まで御審議をいただいておりますことに、本当に感謝を申し上げる次第であります。

 江田先生と決して肌合いが合わないわけではございません。そういう、ちょうど間の悪かった状況に出てきたわけでございまして、お許しをいただきたいと思います。

 基本的に、今先生から御指摘がございました大学を開放していく、私は大賛成でございます。ただ、先ほどの答申の御説明もございましたように、大学人というのは、やはりそれはそれなりの理由があると思いますけれども、学問を探求していらっしゃいます。そういう社会の中にいらっしゃいますから、どうしても社会から若干隔絶された面も出てくる。そういう意味では、これから新しい開かれた大学へということの対応を、これまでもいろいろ文部省も努力しておりますし、各大学もいろいろな意味で新しいシステムを使っているようでございまして、そういう努力もございますが、なお一層、大学人自体ができる限りこうした方向の頭の切りかえといいましょうか、意識を改めていただくというふうに、これは私どもから期待をしなければならぬことだと思います。

 同時に、帰国子女の問題あるいは社会人からの参加、これは総理が予算委員会の席上でも申し上げておりますように、一本の線ではなくて、いろいろな線をつなぎ合わせていく、単位の互換制、既にこれも実施をいたしているところもございますが、あるいは専修学校との連結、幾つかの問題がございまして、こうした問題をも十分踏まえて、新しい大学のあり方なども、文部省としても取り組んでいきたいと考えております。

 それから、これは予算委員会でも申し上げたことでございますが、やはり今の教育体系全体を見てまいりますと、高等教育の問題のところに触れないわけにはいかないわけでございまして、そういう意味で、これは新しい臨時教育審議会が御自身でお考えをいただくことではございますけれども、こうした新しい二十一世紀へ対応する高等教育機関はいかにあるべきかというようなことも、十二分にひとつ御論議をいただいて、一つの方向性をぜひお示しをいただきたい、こんなふうに文部省といたしましても期待をいたしておるところでございます。

○江田委員 同世代の大臣ですので、相性が悪いと困るわけで、よろしくお願いします。

 大学の側がこの社会人入学などについて若干のちゅうちょがあるという点、これは私、やはり理解はしておかなければいかぬと思うのですね。

 というのは、大学というのは、そのときそのときの社会の、いわゆる経済界がこういうものを期待しているとか、そういう実情に従って、文部省の指示に従ってカリキュラムをいろいろ組まされるというようなことになっては困る。大学の自治というものはやはりあるわけで、しかし、そういう教育の中身の問題と別に、社会の、特に市民の、産業界のとあえて言わずに、市民の教育を受けたいという要求、こういうものにはやはり真剣にこたえていかなければならぬわけで、大学の皆さんと文部省あるいは今までの経過の中で、文部省がそれほど大学の皆さんの信頼を得ていないというようなことがあるのかもしれませんが、ひとつ若い世代の大臣として、ここは胸襟を開いて大学の関係の皆さんと話を十分していただいて、さらに一層大学を市民の教育を受けたいという欲求にこたえるような大学に変えていく努力をしていただきたいと思いますが、いかがですか。

○森国務大臣 私は、大臣に就任をいたしましてからも積極的に国立大学協会あるいは私立大学協会、連盟の皆さんと懇談もいたしております。当面は入試に関しましての改善ということで、私どもから、ああしろ、こうしろということは御遠慮しなければなりませんが、やはり高等教育機関としての使命に対しまして大変皆さんは忠実に努力をしておられますが、同時に、一方におきましては、やはりこうした教育が荒廃しているのではないかという病理現象は現実の問題として社会に起きているわけでありまして、学問を進め研究を深めていく研究者は全くそのことについて関知しないということであってはならない。しかし、同時に、そのことは政治の中でも解決をしていかなくてはならない問題である、こういうふうに受けとめて、国立大学協会、私学関係の皆さんとも今後とも十二分に話し合いを進めて、より建設的な方向づけをぜひしていただきたい、こういうように考えておるわけでございます。

 同時にまた、先ほどもちょっと触れましたけれども、これからの高等教育機関というのは、私は何といっても多様にしていかなければならぬ、ある意味では門戸開放もしていかなければなりません。学問をいわゆる修学する年限につきましても、もう少し対応を緩急自在に考えていく必要があるのではないだろうか。まだこれからスタートする段階でございますが、放送大学なども駆使しながら、このことの単位を上手に生かしながら、高等教育の新しい行き方も芽生えてくるのではないかというふうにも考えますし、いずれにいたしましても、単に高等教育に進むのは一回の挑戦で十八歳にのみ限定をされるということであってもなりませんし、社会に出まして勤め働いてからまた改めて学問を深めていきたい、研究をしたいという方々についてもまた大学に招じ入れるようなシステム、そういうことも含めながら今後とも新しい大学の姿をぜひ求めていきたい、こういうふうに考えておるところでございます。

○江田委員 ところで、大臣、大学をそういう単線型で下から上ってきた者以外の、一遍社会に出て社会経験を積んだ皆さんとかあるいは外国で生育してこられた皆さんとか、そういう人に開放する際に、大学に入るために一番の障害となっている今の制度は何だとお考えですか。

○森国務大臣 ケース、ケースによって違いますし、それから希望されております大学によっても違ってくると思いますが、大ざっばに言えば試験だろう、こう思います。

○江田委員 国立大学の場合にはそれは何ですか。

○森国務大臣 共通一次試験であろうかと思います。

○江田委員 そうなんですね。大学を開放していく。開放しようとすればするほど共通一次を回避しなければならぬ。開放していくという価値と全く反するものが共通一次になっておるという現状が実はあるわけで、これはぜひ大臣、よく認識をしておいていただきたい。大学を多様化していく、画一的な教育を廃止していくという観点からも、共通一次というものを真剣に考え直してみていただきたいと思いますが、もう既に質問持ち時間が終了したという紙が参りましたので、今のことを最後に伺って、質問を終わります。

○森国務大臣 現在でも帰国子女などの入学につきましては、共通一次を廃しまして二次のところから面接中心にいたしておる、そういう大学も既にございます。

 しかし、そういう議論からまいりますと、江田先生のおっしゃりたいことは、そういう多様的なことをやれば共通一次を廃止することが一番意味のあることではないか、こういう御指摘であろうかと思いますが、決して突っ張って申し上げるわけじゃありませんが、帰国子女でありますとか社会人が入ってくるというケースは、やはり現実の全体量からいきますとごくわずかでございまして、共通一次は三十数万の人が受けられるわけでありまして、そういう立場で入られる方も数はわずかでございます。共通一次は全く悪だという考え方は私はいたしておりません。ただ、共通一次を改善していく、そして二次試験のところにもう少し多様性を取り入れていく、こうしたところを私も期待をいたしておるところでありますし、文部省からこういうふうにしろということは言えないことは御承知のとおりでございますから、国立大学協会初め関係者の皆さんが、国民が大きな目でこの問題を注目しておるのだということでいい改善案をお考えいただけるだろう、こういうふうに私は期待をいたしておるところであります。


1984/04/04

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