1980/10/28

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93 参議院・社会労働委員会

こどもの国協会、厚生年金改正、ハンセン病対策について

江田五月議員は、十月二十八日に開かれた参議院社会労働委員会で長島架橋問題をとりあげ、厚生大臣に対してその実現を強く迫りました。要旨は次のとおりです。

来年は国連の 「国際障害者年」。障害者の「完全参加と平等」を世界中で推進する年です。厚相は政府の推進本部副部長ですから、この機関車です。障害者福祉は物や金ばかりではダメ。差別や隔離がある限りは福祉とはいえません。ハンセン氏病は、いまや、大部分の人たちが伝染のおそれのない障害者。この人たちの人間回復と社会参加は、社会全体にとって必要です。「飼い殺し」をやめ、早急に橋をかけるべきです。

厚相の答弁は、考え方自体は極めて前向きですが、架橋実現については、依然として地元負担に触れるなど、今一歩でした。

なお、当日江田議員は、障害福祉年金があまりにも低額であって、もともと保険料の拠出を期待できない若年からの障害者に対し非常に冷たい制度になっていることなど、年金制度の矛盾を指摘して、その改善を迫りました。


○江田五月君 最初に、こどもの国協会の解散及び事業の承継に関する法律案について二、三伺います。

 この法律案については本年四月二十二日の当委員会で私どもの新政クラブ、当時は参議院クラブと申しておりましたが、前島英三郎議員が当時の野呂厚生大臣及び関係の方々に幾つかの質問をいたしておりまして、その答えをいただいておりますが、午前中に何か多少やりとりがあったようですが、このお答えを前提にして質問をさしていただきたいと思いますが、それでよろしいでしょうね、もう一度念を押しておきたいと思います。

○政府委員(金田一郎君) 結構でございます。

○江田五月君 その質問のほかに、こうした社会福祉法人ができた場合の監督について、監督が緩過ぎてひもの切れたたこのようになってしまってはいかぬ。あるいは一方で、監督がきつ過ぎるとせっかく社会福祉法人にしたのにそのメリットがなくなるじゃないか。いろいろな見解があろうと思います。

 これは場合場合によって、緩急自在の監督というものが必要であろうと思いますが、どうもこの法律案を見ますと、解散及び事業の承継に関するだけではなくて、承継した後の指定法人の運営についても、かなり厳しい監督と読める条文が幾つかありまして、第四条三項で、厚生大臣は一定の場合には貸し付けた土地等の所管大臣に通知をしなければならぬ。一号から六号までは大体はっきりしておるんですが、七号はいささか包括的な事情が書いてあります。五条では、その通知がありましたら、今度は厚生大臣の意見を聞いて所管大臣は貸付契約を解除できる。通常、民法で解除権が発生する場合には、それなりの要件があって、単に通知で解除権が出てくるというようなことはない。催告があって是正の措置を講じて、それにも従わないという場合に解除権が生ずるのであります。

 しかも、この契約が解除されたならば、後に争いがあるような場合であっても解除の意思表示が到達したらというふうに読んでいいのだろうと思いますが、厚生大臣は今度は指定法人に係る指定を取り消すことができる、そして次の社会福祉法人に事業をやらせることができる。何かかなり強い権限のように見えますが、実際どういう運営をやろうとしておられるのか、そのあたりのところを伺っておきたいと思います。

○政府委員(金田一郎君) 法律上の問題につきましては先生非常にお詳しいわけでございますので、私は法律の解釈といいますよりも行政上の立場から申し上げたいと思うわけでございますが、法律上は、厚生大臣から大蔵大臣への通知に基づきまして、大蔵大臣は土地の無償貸付契約の解除を行うことができることになっているわけでございますが、実際問題といたしましては、今回事業を引き継ぎます社会福祉法人に対しまして、事業の運営に支障を生ずることがないように十分指導し、また問題が生じました場合には、利用者が迷惑をこうむることがないように、事実上の調査その他の行政指導を十分行うことによりまして、この解除規定を適用することがないように措置してまいりたいと思っております。したがいまして、ただいま先生お話がございましたこれらの一連の規定は、万一の場合を想定したものであると考えますので、そのように御理解賜れば幸いかと存ずる次第でございます。

○江田五月君 せっかく行政改革をやって特殊法人を民間に移したと。後でごたごたして動きがとれなくなったというようなことになっては、今後の行政改革の動きに非常に支障になってくるわけでありまして、ひとつそういうことがないような、間違いのない運営をお願いをしておきたいと思います。

 次に、厚生年金保険法等の一部を改正する法律案についての質疑に移ります。

 もうすでにこれまでに、障害福祉年金がいかにも少ないじゃないかという話が何度も出てまいりました。拠出制をたてまえとしている以上やむを得ないのだというようなお話もあったわけですけれども、たとえば重度の障害者特に幼いころから脳性麻痺その他で重度の障害を受けた障害者などの場合には、拠出制といったってこれ現実に拠出を期待できるような状況ではないわけですね。

 拠出が期待できない者に対して拠出制も拠出してないということもないだろう、余りにもそれは冷たいじゃないですかという気がするのです。もう本当に二歳、三歳ぐらいで脳性麻痺だというようなことが発見されて、ずっと生涯そういう重荷を背負っていかなければならぬと。おまえ金払ってないからだめじゃないかというのはいかにもおかしい。

 障害福祉年金、重障児の親に給付されます特別児童扶養手当と額が同じですが、今度衆議院の修正によっても一級が月額三万三千八百円、二級が月額二万二千五百円ですか、特別児童扶養手当を下げろという意味では毛頭ありませんが、どうも考えてみると、親に扶養されている重障児のために、その子供が重症の障害児であるということによって、親に扶養によけいにかかる費用の助けとして出る額と、障害福祉年金とが同じだと。しかも所得制限は障害福祉年金の方が厳しい。障害福祉年金の受給者に対しては子供と同じように扱うというような何か冷たい感じがして仕方がないのですけれども、もうちょっと温かみのある答えというのをいただけないものですか。

○政府委員(松田正君) 障害福祉年金と障害年金の関係、あるいは障害福祉年金と特別児童扶養手当との関係、確かに御指摘のような点につきましては私どもも十分その御趣旨は理解ができるところでございます。ただ、当委員会でも御説明申し上げていますとおり、社会保険の方式によりまして保険料徴収ということをたてまえにいたしております国民年金制度の中で、すべてを解決するということは制度のたてまえ上なかなか困難であろうかと思います。しかし、同じ障害であっても福祉年金と障害年金の額に差があるのは不合理ではないか、こういう御指摘については確かにそういう点はあろうかと思います。同じ障害につきまして同じ処遇がなされない、こういう点につきましては確かに御指摘の点があろうかと思います。しかしながら、拠出制をたてまえといたしております関係で、そこに多少の差異があるのは国民年金制度の中では無理であろうかというふうに考えるわけでございますけれども、この点につきましては、単に年金制度のみならずほかの制度との関連等も総合的に考えながら、慎重に研究をしてまいりたいと考えます。

○江田五月君 障害福祉年金を引き上げるというのも一つの方法ですけれども、同時に、障害福祉年金しか受給できない人に対して、より額の高い年金に移行する道を何らかの形で開いていくということも、これも他の打開策かもしれません。この、他の年金に移行する道を開く方法というのがいろいろな方面から提案をされておりまして、たとえばいまの、幼少時にすでに障害者になってしまった者に対して、大体五歳程度になったらもうどういう障害であるかというのははっきりわかるわけで、五歳から二十年拠出をして、障害年金の方に受給資格を与えるというようなことは可能ではないかというような提案もあるようですが、何かひとつ検討をお約束をしていただきたいと思いますが、大臣、いかがですか。

○政府委員(松田正君) お尋ねの点は、幼少の際に障害が明らかになった場合に、何らかの年金制度ないしはそれの類似の制度によって将来の生活を保障する道が開けないかと、こういう御趣旨かと思います。

 国民年金制度の中で処遇が非常に困難であるということは先ほど来るる申し上げているところでございます。ただ、そういった障害児の親御さんがある程度の拠出をいたしまして、障害児の将来を担保するという方策につきましてはいろいろ検討の余地があろうかと思います。こういった他制度との交わり、そういったものを総合的に勉強してみたいと、かように考えます。

○江田五月君 どうも何かはっきりしないんですが、いま特にこういう障害児・者に対する対策というものが必要とされている、急がれているという感じがいたします。それは、来年が国際障害者年、今年の三月に政府に国際障害者年推進本部ができまして、八月には中央心身障害者対策協議会が内閣総理大臣に意見具申をし、その具申を受けて、政府の推進本部で八月十九日に「国際障害者年事業の推進方針」というものを決めておられるわけですが、国際障害者年に当たって障害者の対策というものをひとつ抜本的に、総合的効果的な推進をしていこうじゃないか、その副本部長に厚生大臣はおなりになっているわけでありまして、こういう重大なときに、本部長は内閣総理大臣でありますから、副本部長がいわば中心的な機関車になっていただかなきゃいけないわけですが、その副本部長に園田厚生大臣のような福祉に理解と温かい心をお持ちの実力大臣がなられたということは、恐らく障害者のみならず、この問題に心を砕いている者みんなが非常に期待をしているところだと思いますが、この推進方針に従ってひとつ障害者対策というものの大きな前進を図っていくんだという御決意だと思いますが、そのあたりのところをひとつ厚生大臣、決意を聞いておきたいと思います。

○国務大臣(園田直君) 推進本部では明年度の障害者年が単なる年度ではなくて、お祭り騒ぎにならぬように各特別部会をつくって具体的に検討をいたしており、その中でただいま出された御意見も十分検討していくつもりでありますが、私はその特別部会の中でも特に留意をしておりまするのは、障害者対策の長期の計画を受け持つ部会に、特に留意をしておるわけであります。障害者対策の責任は当然厚生大臣でございます。しかしこれに対する対策は運輸、文部各省を含んだ内閣全般が対応していくべきことでありますから、私はこの推進本部というのは単なる明年度に対する対策を立てる会ではなくて、それが終わりましたならば直ちに、これは総合的な内閣の障害者に対する広範な対策を持続していくべきものだと考えておりますので、そういう点に留意をして推進してまいりたいと考えております。

○江田五月君 各省庁といわば横並びの形の厚生大臣ということではなくて、それもありましょうが、国際障害者年推進対策副本部長としてひとつ機関車の役割りを大いに発揮していただきたいと、大いに期待をしているところですが、この推進方針の中にいろいろなことがありますが、「障害者対策」の一部に「各種福祉施策」として「生活安定のための諸施策の推進」という項目があります。これはその前の中央心身障害者対策協議会での議論等を踏まえてまいりますと、ただいまの障害福祉年金あるいは福祉手当、こういうものをひとつ大いに見直して改めていこうじゃないかというようなことから、こういう文言に帰着をしたというふうに理解をしておりまして、今月二十一日の当委員会で前島委員がそのことについてただしましたが、社会局長からは答弁がありましたが、年金局長からの答弁をいただいておらないので、年金局長、ひとつこの「生活安定のための諸施策の推進」ということについてのまあ御理解をお答えをいただきたいと思います。

○政府委員(松田正君) 先生いま御指摘の点は、障害者に対します生活保障あるいは所得保障、具体的に申し上げますと、障害年金あるいは障害福祉年金あるいはその他のこれに類する諸手当、こういったものの改善強化を図るという趣旨と理解をいたしております。特に年金につきましては、障害福祉年金あるいは障害年金等につきましても、年々その改善方を図っているところでございます。最前から御指摘のような点も含めまして、今後とも年金額の改定を含めまして改善には努力をしてまいりたい、かように考えております。

○江田五月君 ところで近年、財政の困難を理由としてあるいはそのほかの理由から、福祉見直しというようなことが議論になっておる。いま私はこの障害福祉年金等の福祉的な給付の水準が低いじゃないかということを申し上げたんですが、この福祉というものが金がどんどんふえればいいとかあるいは設備がどんどんできればいいと、物と金がこれだけ整ったからそれで福祉がどんどん進んでいるんだというものでないことは、これはまあ大切な点でありまして、財政のことを理由に給付をカットするということであると、この福祉が国政上きわめて優先度の高いものでありますからいささか問題だと思いますが、そうではなくて、これまで物と金に偏り過ぎていた福祉を、もっと社会全体が福祉の心を持った社会に変わっていこうじゃないかというような意味ででしたら、私どもも大いにいままでの福祉というもののあり方というのを見直していかなきゃならぬのじゃないかというような気もいたすわけで、そこで国際障害者年ということを見てまいりますと、この国際障害者年のメーンテーマが「完全参加と平等」ということですね。平等はその一部に経済的な援助によって生活の下支えをしていくんだということがあると思いますが、完全参加にしてもあるいは平等にしてもやっぱり物と金だけじゃ解決がつかない、社会全体がどれだけ障害者に対して温かくこれを受け入れ、障害者もまた社会の中で通常の社会人と同じ社会生活を共有できるか、もちろん能力的にいろいろ限定はあると思いますが、ということが問題になってくるわけで、ことしの一月に、先ほどから申し上げております前島議員が大平前総理に本会議で質問をしたときに、大平前総理から、障害者が家庭や地域社会において健全者と同様に日常生活を営むことができるような配慮を政治、経済、文化各般にわたり行き渡らせていく必要がある、感動的な御質問ということを前置きされてそういうお答えをいただいたわけでありまして、まさにそういうただ物、金ではないことをこれからやっていかなきゃならぬ、それがこの国際障害者年の大きな仕事でもあろうし、そして、そういう物と金ではないところで障害者を大きく温かく包んでいくという社会ができることが、いろいろな物にしても金にしても、より大きな機能を果たすことにつながっていくんだと考えるわけです。

 で、そういうことを考えてみますと、障害者福祉というのは社会一般が障害者に対する偏見をなくし、障害者も自分たちと同じ基本的人権を持った社会の一員だということを社会が認識し、同時に障害者の方もまた自分たちでできることは自立をしていって、そして社会に積極的に参加をしていくという、そういうことになっていかなきゃいけない。

 そこで、いま私はいろいろな点で障害者に対する偏見が残っており、また障害者側からの完全参加ができにくい場面があると思いますが、特にハンセン氏病のことについていささか聞いておきたいと思いますが、現在、患者がどの程度おって、新規にどの程度発見されているんですか。

○政府委員(大谷藤郎君) ハンセン氏病の患者さんでございますが、療養所に現在入所しておられる方が八千六百六十五人、在宅の患者さんが九百八十五人、合わせて九千六百五十人という数字が統計として上がっております。そのうち新発見の患者さんといたしましては四十四人、そのうち沖繩の方で二十八人という数字になっております。

○江田五月君 四十四人、特に沖繩ではそのうち二十八人といいますと、もう一億一千何百万人という国民の中ですから、新たな発見はまあないに等しいということだろう。その意味では、もういまわが国はハンセン氏病を病気としてはほぼ克服しているといっていいかと思いますが。いま患者というふうにおっしゃった、一体患者というのは何なんだろうかということですね。らい予防法二条で「患者」という規定があるわけで、そして四条の二項には「治ゆ」という言葉もあるわけですけれども、一体「患者」とは何で、「治ゆ」とは何かということをちょっとお教えいただきたいと思います。

○政府委員(大谷藤郎君) 医学的に治癒の概念というのは病気によってさまざまでございまして、すべて身体のいろいろな異状まで修復された状態を指すといたしますならば、これはたとえばハンセン氏病の場合、菌が消失いたしましても相当な体の異状というものが残りますので、その点をどういうふうに考えるのか非常にむずかしい問題でございます。一般にたとえば火傷等でございますと、その傷が修復いたしまして、多少の変形が残りましても、これは治癒ということになりますけれども、ハンセン氏病の場合は、従来から非常に治療がむずかしかった時点におきまして、相当体の後遺症等が残っておりますので、私どもとしては患者という言葉につきましては一般的に医学的に厳密な定義というのはございませんで、そういう意味で私どもはハンセン氏病の場合につきまして、療養所に入って現在治療やリハビリテーションに励んでおられる方々を、一応患者さんということで定義いたしているわけでございます。

○江田五月君 ハンセン氏病の方々に対する厚生行政の実施という点に関しては、かなり患者ということを広くとらえなきゃならないと思います。長い間、わが国はハンセン氏病について隔離政策をとって、とにかく無理やりに連れてきて強制的に療養所に収容してしまう。いまもらい予防法六条ではこの強制的な入所があり、さらに十五条では外出が制限される。非常に厳しい制限なんですね。十六条では「秩序の維持」というようなことがあって、何かありますと三十日を超えない期間で所長が指定した部屋で静居しなければならない。まあ、療養所の中のさらに小さな部屋に押し込めるというふうなことさえ規定してあるような、そういうことになっておるわけですが、どうもこのらい予防法の規定の頭というものは、まだまだハンセン氏病は触れちゃいけないんだ、社会にあっちゃいけないんだ、とにかくどこかもう隔離をして、そして子孫を残さずに絶滅してしまうことが大切なんだというような頭になっているような気がして仕方がないんです。

 しかし一方では、そういう法の立て方と別に、ハンセン氏病の方々に対して、たとえば国民年金法の障害年金一級相当額の給付金を与えるとか、あるいはいろいろな、まだ十分ではないにしても、かなり厚い福祉の手は差し伸べられているわけですが、そういう福祉の手を差し伸べるということについては患者であると。しかし一方の、いまの外出の制限とか秩序の維持とか、そういうようなことに関しては、これはもう患者ということには当たらない、つまり菌は出ていない、外へどんどん出ていってもだれにも感染はしない。社会が一般的に見て、ちょっと感情的なしこりというものはあっても、普通の社会人と同じようにつき合って平気なんだという人がいっぱいおると思うんですが、いかがですか。

○政府委員(大谷藤郎君) 医学の進歩によりまして、現在ハンセン氏病の療養所に入所中の方々は先生御指摘のような点が非常に多いことと存じます。私どもといたしましては、できる限り現在の医学の進歩に応じました適切な判断をもって、先ほど御指摘の条文の運用を図っているところでございまして、現に人権を損なうということがないように運用されているというふうに考えておるわけでございます。

○江田五月君 そこで、これまでのそうした隔離政策というものが、先ほどちょっと前に伺ったように、ハンセン氏病というものがもう非常に日本で少なくなってきたという結果を生んだということはあるのでしょうから、その過去をあえてほじくり出して、だれの責任だというようなことをやるつもりはないのですが、しかし、ハンセン氏病というものに対する国の態度、社会の態度というものはもうそろそろ大きく変わっていかなきゃならない。国際障害者年に当たって、その誤解を国が、あるいは厚生省が率先して解いていくということでなければならない。そうでないと、そうやって障害者というものに対する誤解を解いていくということを一生懸命やっていかないと、障害福祉年金あるいは障害年金、そういうものも本当に与えた金の効果が出てこないというような気がいたしますが、このハンセン氏病対策についてどういう基本的なお考えでいらっしゃるか、大臣のお答えをいただきたいと思います。

○国務大臣(園田直君) 先ほどから御発言をまじめに承っておりましたが、身体障害者に対する問題、社会福祉の問題で、一つは見直しという言葉が使われております。これは非常に大事なことでありますが、間違いますと、財政的につらいからその手当を縮めるというふうにとられることは、大変なこれは間違いでありまして、まさに社会環境の変化に応じて、これに対する政府、国民の心構えを変えるというのが見直しであると考えております。

 なおまた、物と金だけでは対策はできない。これもまた物と金じゃない、心だと。こういうことで、心をふやして物と金を減らせという言葉に使われるおそれもございますが、これも全く違いでありまして、物と金だけでは身体障害者の方々に対する対応の策ではない。その上に、身体障害者の方々がそれぞれの立場においてそのハンディキャップを埋めて、そして社会人と肩を並べて地域づくり、国づくりに貢献されるようにする。また、身体障害者の方々も勇気を持って社会の人と同じように生活をし、働かれるようにするということが身体障害者の方々に対する基本的な考え方でなければならぬと思います。

 そういう意味において、ハンセン氏病に対してもいまこそまさに見直すべきことであります。施設、福祉、いろいろ問題ありますが、一番大事なことは、国民の方々にハンセン氏病に対する正しい理解、そして、こういう方々は隔離をして、人生を生涯、社会から隔離されて、悪い言葉で言えば飼い殺しということにしてはならぬと。こういう方々も、伝染の根源は絶たなきゃなりませんけれども、しかし、社会人と伍して人間社会の中で一つの構成人員としてやっていかれる、こういうふうにわれわれは考え方を根本的に直す、いわゆる見直す時期がいまだと考えております。こういう意味で、療養される方も、またお世話をするわれわれも、その観点から、ひとつ療養される方も勇気を持って、われわれもまた国民に手本を示す意味において、ハンセン氏病で療養される方は社会の一人である、社会づくりの一人である、こういうことを逐次国民の方々に御理解を願うことが一番大事であると考えております。

○江田五月君 大臣の温かい御理解あるお答えをいただきまして、本当に勇気づけられるわけですが、そういう見地に立って障害者の問題で、とにかく世間の誤解の最たるものがハンセン氏病なんですね。これをどうしてもこの誤解を解いていかなきゃならぬと。そこで、国際障害者年事業推進方針の啓発活動と、まあいろいろ書いてありますけれども、具体的に、たとえばハンセン氏病で何かひとつやることがあるのか。それが、きょうこの後決議があると思いますが、例の長島架橋の問題、橋をかけるという問題、もう長い間このハンセン氏病の方々皆さん共通の願いであり、同時にこの島に入所されている方々の悲願でありますけれども、こういう橋を障害者年に当たってどうしてもつくるんだという、何といいますか政策選択をやっていただきたいんです。

 これはどういう方針、どういうところからどういう方法で金を出すかというようなことはいろいろあると思いますが、金の出し方はいろいろあるんです。それはまた後からいろいろ知恵をしぼればいいんで、その知恵をしぼるために大ぜい、厚生省にもあるいはその他の各省にも優秀な官僚の皆さんがいらっしゃるわけでありまして、ひとつ政策選択としてあそこに橋をつくって、そして長い歴史の中でゆがんだハンセン氏病に対する、ひいては障害者に対する世間の誤解を、政府みずからが解く一歩を踏み出していくんだということを決意をしていただきたい。

 ついせんだって、長島の皆さんが厚生大臣にお会いをしていろいろお願いをしました。厚生大臣から非常に勇気づけられるお答えをいただいておりますが、ひとつこの委員会の席で、大臣にそのことを改めてお伺いをしておきたいと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(園田直君) 当委員会の各委員からも、いまの長島架橋の問題は強く要望されたところでございます。これは長い間の願望であり、かつまた療養される方々の非常災害の場合の命を守る点でも大事であると思いますが、一番大事な点は、先ほど申し上げましたこういう方々が隔離された人間ではない、社会構成の一人である、社会復帰だと、こういう意味で私の所管ではありませんが、全力を挙げて各委員の御協力を得てこれを実現したいと考えております。

 政府の方は私が責任を持って努力をいたしますが、どうか費用その他について地元の合意、協力も必要でございますので、厚生省から特に、特別に派遣をして御協力願うようにしておりますが、幸い委員は地元の岡山でありますから、どうかひとつ地元の方は引き受けていただければありがたいと思います。

○委員長(片山甚市君) 江田君、時間です。

○江田五月君 国際障害者年推進本部の副本部長として、先ほどからも申しておりますとおり、単に厚生大臣というだけにとどまらず、この障害者対策ということについて、いわば内閣の中心的な存在になられる厚生大臣、ひとつそういう立場から五十六年度予算でどうしてもこの橋をつけるという政策選択をしていくんだという方向を明らかにしていただくことをお願いをいたしまして、質問を終わります。最後に、その答えだけひとつお願いします。

○国務大臣(園田直君) 各委員の要請もあるのでございまするし、各委員の御協力を得て、ぜひ実現したいと考えております。

○江田五月君 終わります。


1980/10/28

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