1979/11/20

戻るホーム主張目次会議録目次


89 参議院・法務委員会

検察及び裁判の運営等に関する調査
(倉石法務大臣のロッキード事件問題発言について)

検察と司法にとって一番大切なことは、その公正さについて国民の信頼を失わないことです。法務大臣の何よりの務めは、この信頼を守ることです。

 ロッキード事件は、国民の中からも、政治の圧力で無罪になるのではないかとの声が聞かれ、検察と司法にとっては、国民の信頼を守り切れるかどうか、試練の大事件です。大臣としては、この重大な試練を経験しつつある裁判関係者に、細心の心配りがなければならないのです。

 ところが大臣は、自分の部下がロッキード事件の追及に全精力を傾けているとき、これに水をさすように、無罪を念願するという旨を公に発言したのです。大臣は、裁判を左右できない立場だから実害ないと言い、今後とも検察と司法を信頼するといいますが、現実には、大臣は裁判を左右できます。制度上もそのことは検察庁法十四条等によりはっきりしているのです。例えば、大臣の命令により、検察官が、法廷で、有罪の証拠を出すのをやめてしまうと、被告人は無罪になります。

 問題は、大臣が検察と司法を信頼するかどうかではなく、国民がこれを信頼するかどうかなのですから、今回の大臣の発言は致命的というべきでしょう。大臣として不通格といわざるをえないのであって、国民の検察と司法に対する信頼を取り戻すには、大臣に辞めてもらうしか方法がなかったのではないでしょうか。


○江田五月君 もう時間がないようですから、簡単に伺いますから、端的にお答え願いたいんですが、ただいま問題になっております法務大臣の発言が誤解を招くような発言であったということは、これはそのとおりですね。

○国務大臣(伊東正義君) 誤解を招くおそれがありますから、そういう発言は慎まれるようにということを総理から申し上げました。

○江田五月君 その誤解というのは、裁判の結果を法務大臣が左右しているということですか。

○国務大臣(伊東正義君) いまの御質問でございますが、国民の皆さんがそういう報道を受けたときに、そういう法務大臣の発言が裁判を左右するようなことになるんじゃないかというようなことを考える人もあったらそれはまずいと、そういうことで言われたんじゃ全然ないんだから、誤解を招くおそれがあるような発言は慎んでいただきたい、こういうことだと思います。

○江田五月君 ですから、法務大臣が裁判の結果を左右しているというように理解をされたら、それが誤解になってはなはだ困るからという、だから注意をされたと、そういうことでよろしいわけですか。

○国務大臣(伊東正義君) いま係争中のこれは事案でございますので、そういう事案に関係したことを、個人としても言われることは、それに影響を与えるようなことがあるというようなことを思われては大変だから、そういう誤解を招くような発言は慎んでいただきたいと、こういう意味でございます。

○江田五月君 ところで、制度上、法務大臣はこの裁判の結果を左右するようなことはあるんですか、ないんですか。

○国務大臣(伊東正義君) これは裁判というのはもう厳正な、中立、本当に公平無私なものでございますから、もうそういうことは絶対にないということを私は信じております。

○江田五月君 しかし、法務大臣は検察官をワンクッション置いてではありますが、指揮するんじゃありませんか。

○国務大臣(伊東正義君) 私は、法務大臣がそういうことを考えて――これを左右するなんということを絶対考えられたものじゃないというふうに思っております。

○江田五月君 制度上と伺っておるんですが、いま現在の制度では、法務大臣が公判に立ち会っている検察官の立証活動、公訴官としての活動をいろいろ指揮することはあり得るんじゃありませんか。

○国務大臣(伊東正義君) 検察官の任命はありますから、理論的にはそういうことが言われるかもしれませんけれども、日本の検察もこれはもう本当に厳正中立で、社会公正のためにやっておるわけでございますから、いま法務大臣がおっしゃったことでそれを左右するなんということは絶対に考えておられない、そういうことでございます。

○江田五月君 ちょっとその、理論的にはかもしれないとおっしゃったんですが、理論的にはそういうことですね。

○国務大臣(伊東正義君) それは任命権者であるということだけは間違いありません、これは。だけれども、それ以上のことでこの問題について左右されるというようなことは絶対に考えておられぬということを申し上げたわけであります。

○委員長(峯山昭範君) じゃあ、官房長官ありがとうございました。


○江田五月君 法務大臣、私はまだこうして国会に出てきて二年少々しかたっていない。あなたはもう何といいますか、この政治の世界の長老で、これまでもいろんな経験をされてきて、むしろ私から見るといろいろと御指導を仰がなきゃならぬ立場の方じゃないかと思うんですが、あるいは失礼なお尋ねをするかもしれませんが、どうもいままで伺っておりますと、何か自分の心の中に本当に思っていることを探られては困るとか、ばれては困るとかいうような、そういう感じの答弁でないかというふうに感ずるんですが、もう少し何か、あれですか、揚げ足を取られては困るとか、本当のことがばれては困るとかいうようなことがあるんですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 何にもありません。

○江田五月君 そうしますと、ひとつ率直にお考えのことを披瀝していただいて、むしろ私どものこれからの模範になるような態度を示していただきたいと思うんですが、あなたが就任後、初閣議の後の記者会見で述べられたことがいまこうして大騒ぎになっているわけでありまして、こうマスコミ、その他でも騒がれる、国会でも衆参両方の法務委員会あるいはそのほかの委員会でもいろいろ議論になる、かなり大きく騒がれていることは、これはあなたにとっていかがですか、不思議なことなんでしょうか、それともまことにこれだけ騒がれるようなことであったとお考えなんでしょうか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 私、しばしばここでお答えいたしておりますように、私の気持ちとしては、会見のときに個人的な感情を強く出したものですから、私の真意を誤解されているということは非常に残念なことだと、こういうことを申し上げておるわけであります。

○江田五月君 その大臣の真意というのは何ですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 法務大臣に就任をいたしたわけでありますから、裁判が不偏不党で行われますように――これは私は安心していいと思います。それから、検察も裁判と同じような立場でありますので、これも厳正公平にやられる、また私の任務は、そういうことをできるだけ支援することも必要である、こういう考え方に立っているわけであります。

○江田五月君 この委員会の冒頭で、大臣は発言を求められて、制度上法務大臣が現に係属中の裁判を左右することはできないのだということを申されました。で、これは、いまもう前に同僚の委員がいろいろとお尋ねがありましたが、いまでもこのとおりだとお思いですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 私はそのように心得ておりますが、事務当局からひとつ御説明申し上げるのが結構だと思います。

○説明員(前田宏君) 先ほどいろいろとお尋ねがございまして、申し上げたような程度においては、何といいますか、法務大臣の関与する分野もないわけではありませんけれども、基本的にはいま大臣がおっしゃったようなことが、基本的な制度としてはそういうことだという理解だと思います。

○江田五月君 いやいや、制度上は、法務大臣が現に係属中の裁判を左右することは、制度上はかなりできるんじゃありませんか、刑事局長。

○説明員(前田宏君) その裁判を左右するという言葉自体が問題かと思いますけれども、裁判所がなさる裁判について大臣が右に向けとか左に向けとかいうようなこと、それ自体ができないことは、先ほど最高裁からもお答えになったとおりだと理解しております。

○江田五月君 たとえば、法務大臣が検事総長にある特定の事件について公訴の取り消しを指揮されたら、これは裁判がなくなってしまうんじゃありませんか、その指揮に従って検事総長がもちろんそれなりの手続をとればですが。

○説明員(前田宏君) 大臣のおっしゃった趣旨は、先ほど私が申し上げたように、裁判所に対して影響を与えて何か裁判を左右するということは制度的にはあり得ないと、こういうことを申されたように理解しております。

○江田五月君 裁判所に対する影響の行使があってならないことは、これは当然なんですが、裁判を左右するというのは、裁判所に対する影響力の行使だけではなくて、当然検察官もまた裁判を左右しようと法廷の活動を行っているんじゃありませんか。

○説明員(前田宏君) 江田委員に私から理論めいたこと、理屈めいたことを申し上げる必要もないわけでございますが、理屈的には先ほど御指摘のような、公訴の取り消しとかいうようなこともあり得るわけですけれども、大臣の発言の真意は、それこそ御趣旨は、そういうことを頭に置いておっしゃったのではなくて、裁判所に対して何か大臣がある影響力を与えるというようなことは制度的にないと、こういうことをおっしゃったものだというふうに考えております。

○江田五月君 私は、大臣にそこで基本的なそれこそ誤解があるのではないかという気がして仕方がないのですが、大臣が個人的に何をおっしゃっても全然現場の司法の運営に影響がないのだと、制度上そもそもそういうことがあり得ないのだからということで平気でいろいろなことをおっしゃっても、現実には制度上いろいろな影響を及ぼすような制度ができているわけで、したがって、法務大臣というものは、現実に自分の権限を行使していろいろ裁判を左右するようなことをしてはならないだけではなくて、どこから見ても、第三者、まるっきり事情を知らない人から見ても、裁判を左右しているようなことは全くあり得ないというそういう姿勢を保っていかなければいけないのではないかという、そういうことを考えながらお尋ねをしているわけですが、この点、大臣、どうお考えなんですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 私は司法部を信頼をいたしております。同様に検察も信頼をいたしておりますので、これは先ほど検察庁法の十四条のお話がありましたように、ああいうつもりで検察に対処してまいりたい、こう思っているわけであります。

○江田五月君 大臣が司法部なり検察なりを信頼されていること、そして検察庁法十四条の指揮権の発動というようなことはなさらないつもりであること、事はそういう問題じゃないので、大臣が司法部、検察を信頼されるだけじゃなくて、国民からも信頼される検察であり信頼される裁判所であるように法務大臣というものは常に気をつけなければいけないのではないかということをお尋ねしているのです。

○国務大臣(倉石忠雄君) 法務大臣といたしましての立場は、やっぱり個人的感情とは厳に区別すべきものでありまして、私情によって職責が左右されるべきものではないと自覚をいたしております。

○江田五月君 法務大臣の職責というのは、日々の法務行政を取り扱っていくということを超えて、裁判なり検察なりの運営、司法権の行使というようなものに対する国民に対する権威とかあるいは国民から受ける信頼とか、そういうものをしっかり守っていかなければいけないということもまた大きな任務じゃないでしょうかということを聞いているのです。

○国務大臣(倉石忠雄君) 法務大臣として、私は、検察並びに裁判に対しては、先ほどお答え申し上げましたようなつもりでやってまいるつもりであります。

○江田五月君 あなたが信頼しておるということじゃなくて、国民が検察なり司法なりを信頼しているという、その国民と司法との、あるいは検察との信頼関係をあなたは増すことがあってもそれを覆すようなことをしてはならない、これもあなたの大きな任務ではないかということを聞いているのです。

○国務大臣(倉石忠雄君) いま私がお答えいたしましたのは言葉足らずでございましたけれども、法の執行の最高責任者としての法務大臣といたしましては、国民の誤解を招くような発言をいたしましたことは遺憾でありますし、反省いたしておる次第であります。

○江田五月君 その国民の誤解というのはどういうことですか。国民は何を誤解したと言われるのですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 先ほど来しばしば申し上げておりますように、記者から尋ねられましたときに、自分の個人的な友情関係のことが強く出て、そういうことのために誤解を生じたということがあり得ると思うのです。そういうことについてまことに遺憾であったと、こういう反省をいたしておるということでございます。

○江田五月君 そこで、反省をされるのはもちろん必要なことだと患いますが、あなたがこの発言によって国民に与えたあなたに言わせれば誤解、検察なり司法なりに対する国民の信頼を傷つけた程度、これはどうも私は、ただこの委員会で発言を求めて、遺憾だ、反省しているということを申されるだけではなかなか回復しないのではないかと思うのです。

 そのことについてもう少し伺ってまいりますが、ロッキード事件というものを、まあこれはあなたは余り詳しくは御存じないのかもしれませんが、とにかく政治家が、しかも総理大臣までやったような高官が逮捕され起訴された事件であるということ、これはもう申し上げるまでもないんで、いまこのロッキード事件というのが国民から一体どういうふうに見られているのかということですね、非常に注目を浴びている事件であり、しかも国民が一部には無罪の予測も――これはもちろん専門的な予測じゃありませんけれども、行われている。しかもこの無罪というのは、法律の適正な適用によって無罪になるというよりも、むしろ政治的な影響によって無罪になるんではないかというような、そういうような議論もいろんなところで行われている。そういう注目を浴びている事件であるということ、これはあなたもちろん御存じでしょうね。

○国務大臣(倉石忠雄君) あの係属中の事件については、私がとやこう申し上げない方がいいと思います。

○江田五月君 ロッキード事件というのは、そういう意味で、まああなたのお立場上お答えになることは遠慮されるのかもしれませんが、そういう意味で、いま裁判と検察の一つの大きな試練なんです。ですから、これを担当している裁判所もあるいは担当している検察官も弁護人も、それこそ一生懸命になって日本の法の信頼を確保するためにがんばっているんじゃないでしょうか。政治的影響で左右されるというものでなくて、有罪になるか無罪になるか、それはもちろん結論がどうであるかというのはわかりませんが、政治的影響ではなくて、政治から離れて、それこそ不轟独立した司法の運営が行われているんだということをはっきりさせるために、関係者が皆本当に血みどろの努力をしている事件なんじゃないですか。どう思っていらっしゃるんですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) いまお答えいたしましたように、私が余りこれに言及しない方がいいと思っております。

○江田五月君 しかし、あなたはもうすでに言及されているわけですね。個人的な感想だということであっても青天白日を望むと、念願するというふうな言及をされていて、後はそれは個人的な念願であって遺憾であった、反省していると、もうそこから先は、後はもう言及されないというわけですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 私は、しばしば申し上げておりますように、司法部並びに検察については全面的な信頼をおいて、この人たちの活動にまつわけでございます。

○江田五月君 あなたの言うことはどうも、私が冒頭申し上げましたが、何か自分の本当の気持ちがあらわれては困る、あるいはしっぽをつかまれては困るというような感じがしてならないんですけれども、余りここで押し問答していてもどうも仕方がありませんが、あなた自身の発言というのは、この初閣議の後の記者会見での発言というのは、これは私は、あなたが望んでいるような検察の何といいますか、この不偏不党、不覊独立、こういうものに影響を与えたんではないかとやはり一般人は誤解しますよ。

 たとえば、これでロッキード事件の判決が出る、仮に無罪になったとする、さああなたの個人的なお気持ちは、青天白日を望まれるわけですから、そうすると、本当に法務大臣、この事件の控訴を一線の検察官が望んだとしても許すかどうか。無罪を望んでいる人が控訴を許すようなことはないんじゃなかろうかというようなことに仮になると、やはり現に法廷でこの事件の立証のために神経をすり減らしている検察官としては、士気をそがれることになるんじゃないでしょうか。

 刑事局長、立会検察官というものの活動についてちょっと伺うんですが、そうした士気といいますかね、一生懸命全神経を集中させて公判の立証活動に当たる、いろいろな申し立てその他を行っていくということが判決の結果にかなり大きな影響を持つと思いますが、どうですか。

○説明員(前田宏君) その士気という言葉でございますが、検察官が精いっぱい努力する、努力が足りない場合にはそれなりの結果も起こることもあるということにおいては関係があるかもしれませんけれども、当面の問題について考えます場合には、先ほど来お話がございますように、検察当局としては、関係の事件の公判立証には全力を傾けているところでございますし、今後もそのことについては全く変わるところはない、かように確信いたしております。

○江田五月君 公判における立証活動には裁量の余地がかなりあるんじゃありませんか。

○説明員(前田宏君) これはもちょっとお尋ねの趣旨を十分理解しないことになろうかと思いますけれども、まあ検察官としてそれぞれの事案に応じて一番最善と思う立証活動をするわけでございますので、それが後から見て不十分であったとかいうようなことはあり得るかと思いますけれども、やっておる本人たちとして見れば、最善の努力をするということにおいては全く変わりはないものと考えております。

○江田五月君 たとえば証人の尋問の場合でも、非常に重要だと思えばとことん食いついて尋問するかもしれませんが、多少枝葉末節というようなところになると、妙な答えが出てきても尋問に手心を加えていくとか、あるいは対立当事者の尋問に本来異議申し立てをしても構わないようなところでちょっと差し控えておくとか、いろいろと裁量の余地があって、あるいは上手、下手もあって、きわめて微妙で、やはり一人一人の立ち会いの検察官がどこまで食いついていくか、どこまで執念を持っていくかというようなことが――もちろん事件によってですが、場合によっては非常に結果に大きな影響をもたらすものじゃないかと思いますが、いかがですか。

○説明員(前田宏君) 異議を申し立てるとか、あるいは尋問を差し控えるというようなことは、その立証の必要性に応じていろいろあり得るわけですけれども、委員のお尋ねのような意味で、ほかの要素から何か手心を加えると申しますか、十分やるべきことをやらないというようなことはあり得ないことだと思います。

○江田五月君 しかし、やはり国民は、法務大臣が自分はこの人たちが無罪になるのがいいと思っているというようなことを言えば、現場の検察官はそれなりにやはり考えるだろうなと国民は考えるんじゃないかと思いますよ。こういう司法にとっていま、あるいは検察にとって大きな試練になっているロッキード事件について、こういう不用意なことを個人的なことであっても法務大臣がおっしゃるという――ある新聞には適格性が疑われるというふうに、適任性を疑わせるというふうに書いてある新聞もあるんですが、まさしくそういうことじゃないかと思うんです。

 さて法務大臣、この発言については、こうして遺憾であると、反省しているということを、こうおっしゃるだけで、それで後はもう、それだけですか。みずからこの発言によって棄損された検察と司法の信用を回復させるための行動は、それ以上にはおとりになるつもりはないんですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 全力を挙げて、ただいまお話のように、司法部の権威を高揚されるように努力をいたしてまいりたいと思っております。

○江田五月君 世論はいま、検察とか司法の権威の向上は、この段階であなたが辞任されるのが一番だというふうに思っているんじゃないかと私は思いますが、いかがですか。

○国務大臣(倉石忠雄君) 先ほど申し上げましたとおりであります。

○江田五月君 終わります。


1979/11/20

戻るホーム主張目次会議録目次