1978/05/11

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84 参議院・法務委員会

 人質による強要行為等の処罰に関する法律案について

「人質法案」にひとり反対
 この法律は集団で凶器を使って人質を取り、第三者に強要する行為を特に重く罰しようというものです。これは、ハイジャックなど、過激派の非人道的な行為を念頭に置いたものだと説明されています。しかし、自民はもちろん社共もこぞって賛成したこの法案に、江田議員は、法務委員会でただひとり、反対の立場から質問しました
 一見、賛成した方が喜ばれそうなこの法案に、なぜ反対したのか、江田議員自身に聞いてみました。

 「この法律は、強盗と同じように重く罰しようとするのですから、罰すべき行為を過激派などの乱暴な行動だけに適用が限定されるよう、注意深い表現をとることが必要です。ところが、その規定の体裁からすると、過激派ばかりでなく、市民運動、労働運動、さらに、普通の市民のちょっとした逸脱行動もこの法律の表現にひっかかります。また、この法律がなくても過激派の無法行為は充分重く罰することができます。こういうとき、ハイジャック、ハイジャックというコーラスに浮かれずに、醒めた眼で事態をみることが必要でしよう。」


○江田五月君 一番最初に確認をしておきたいわけですが、この法律は、何度もおっしゃっているとおり、一部過激分子による事犯が非常に看過するにたえない事態になっているので、したがって本法案第一条が禁止しようとしている行為というのは、提案理由説明書の文章によりますと、爆発物、銃砲等によって武装した数名の集団によって計画的組織的に一部過激分子による航空機の乗っ取り、在外公館占拠等の不法事犯が企てられた際の、関係者の人命を盾としてわが国政府に対し身のしろ金の提供あるいは被拘禁者の引き渡しを強要するなどの行為、必ずしもそれにぴたりと当てはまるかどうかはわかりませんが、おおよそそういうような行為であって、したがってそのために法定刑の方も相当重くしてあるというお考えだというふうに理解してこの法案の審理を進めていってよろしいわけですね。

○政府委員(伊藤榮樹君) さようなものを主たる目標として立案したものでございます。

○江田五月君 主たる目標とおっしゃるのは、もちろん一条だけのことですけれども、ほかに外れたとしても大体定型としてそのような類型の行為を禁止の対象にしているということでよろしいわけですか。

○政府委員(伊藤榮樹君) さようでございます。念のために申し上げておきますと、たとえば昨年起きました長崎におきますバスジャック、この辺までは入ってくるものだと思っております。

○江田五月君 現在のように一部過激分子による不法事犯が非常に凶悪な状態になっている、特にヨーロッパにおいて先ほどもお話にあった凶悪事犯が起こっているようなときに、そういうことに対処するという目的でお出しになっている法案に対してあれこれ細かくせんさくするのはあるいは時宜を得ているのかどうかという点はよくわかりませんが、やはり一つの刑事法規、刑罰法規ですから、これが禁止しようとしている行為を明確に表現すると同時に、もともと禁止しようとしていない行為まで含むことのないような周到な注意がなされていなければならないし、仮にもともと禁止しようとしているような行為以外の行為が含まれるような表現になってしまっておるとすれば、それを改めなければならない、あるいはそうした周辺の行為まで含むものであるならば、法定刑をそれほど重くするわけにはいかない、そういう筋のものになろうかと思いますが、いかがでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 御指摘のとおりであります。

○江田五月君 どうも局長が労働運動、農民運動、市民運動、学生運動等に、それがもちろん一部過激分子の非常に凶悪なような行為に該当するような場合は別ですが、通常ある程度法を逸脱して行われる多少の不法事犯というようなものにまで適用されることはないということを何度も強調されているので、ある意味で軽く安心して考えておったのですが、何かじっくりとこの条文を読んでまいりますと、なかなかどうもそうではなく、かなり広い適用の可能性があるのではないかという危惧を持ってきておりますので、多少質問をさしていただきたいわけですが、第一条に特に限っていろいろ御質問いたしますが、この表現はとうてい一部過激分子のいまのような行動、過激な行動のみをあらわしているとは読めないと思います。それは、一つは、「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁」するという行為と、数名の集団により計画的、組織的に爆発物、銃砲等によって武装して人を逮捕、監禁するという行為の違いが余りにも大き過ぎる。

 二つには、人質をとった要求行為、それと関係者の人命を盾にした要求行為というのは、相当これも違うのじゃないだろうか。

 三つ目には、強要ということと、政府に対し身のしろ金の提供とか、あるいは非拘禁者の引き渡し等を強要するようなそのような行為と、それもまた相当に違っている。

 四つ目は、何度もおっしゃる説明の中で前提にされているのが、本一条の行為が集合犯であることを前提にされているように説明されますが、これは集合犯ではないのじゃないだろうかという、そういうあたりに疑問があると思います。

 順次伺っていきますが、これはまず集合犯かどうかということなんですが、「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁した者」が、その後一人になってもその逮捕、監禁した人を人質にして、第三者に対し強要すれば、この一条に該当するわけではありませんか。

○政府委員(伊藤榮樹君) そのとおりです。

○江田五月君 したがって、先ほどの説明の中にときどき出てくる二人以上共同し、かつ凶器を示した人質強要行為というのはいささか説明が簡単に過ぎることになるのじゃないでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁した」上での人質強要行為であると、こういうふうに正確には申し上げたらいいと思います。

○江田五月君 趣旨説明の中ではその辺は注意深くお書きになっているようですが、「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁した」後に人質強要行為の故意を生じて、そして、その逮捕、監禁のときには二人いたけれども、そのうちの一人は脱落するなり逮捕されるなりして一人になった後に強要行為に及んだ場合も含まれるわけですね。

○政府委員(伊藤榮樹君) 多少ずっと早口で仰せになりましたから、的確に把握しておるかどうかわかりませんが、たとえば二人の者が凶器を示して、客観的にですね、凶器を示して人を逮捕、監禁したと、そして人質強要行為をしたと、そのうち一人は凶器を示したと、もう一人の者は一人の者が凶器を示したことを知らなかったと、こういうような、まあそういうことがあり得るかどうかは別として、理論上の問題として考えますと、凶器を示したその一人は第一条の罪が成立いたしますし、それから相手方が、相棒が凶器を示したことを知らなかった者については、認識を欠きますから刑法三十八条二項で、本条の適用はない、こういうことになると思います。

○江田五月君 いま伺ったのは、二人以上共同し、そのうちの一人が凶器を示して、まあ、その凶器を示していることについては共同認識があったとして、人を逮捕、監禁した後に、そのうちの一人だけが犯罪から脱落して、一人だけになって、その一人は凶器を示した人があるとしてよろしいが、その後に人質強要の故意を生じてその行為に及んだ場合に、これは本法に該当するのではありませんか。

○政府委員(伊藤榮樹君) その場合には本条には該当いたしません。凶器を示して逮捕、監禁したところが逮捕監禁罪として評価され、その後の部分は人質強要罪の一般規定がありませんから、強要罪であるいは恐喝罪で処断される、こういうことになります。

○江田五月君 それでよろしいかな。
 それから、凶器については用法上の凶器も含まれる。ということは、用法上の凶器がいかなる場合に成立するかという問題はありますが、これは含まれるわけですね。先ほどのような過激派の不法事犯に対処するならば、凶器という用語じゃなくて、たとえば爆発物、あるいは銃砲刀剣、あるいは毒物、劇物というような、そういう用語でこの凶器を特定することをなぜされなかったのでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) まず両面から考えるわけですが、まあ凶器という言葉が一応法律概念として熟しておるということが第一。すなわち法律概念として熟しておる凶器というものは、人を殺傷するに足りる能力のあるものであると、こういうことが一つ。それからもう一つ、いまお挙げになりました爆発物とかいろいろなことをこう掲げていくという方法でありますけれども、これは将来いかようなものが利用されるかもわからない。爆発物、火炎びん、銃砲刀剣、こういうものはすでに現実の問題としてわかっておるわけでありますが、将来の問題としてはそういうものでなくても、あるいはそれこそ鋭利な肉切り包丁でありますとか、いろいろなものが考えられるのじゃないかと、そういう意味で両面から考えまして、凶器という概念を使ったわけであります。

○江田五月君 凶器というのは熟している言葉であるといえば熟している言葉でありますが、用法上の凶器がどこまで入るかということは、まだそれほど熟していないのではないかと思います。

 まあそれはそれとして、次に人質のことなんですが、人質の定義というのが、この間局長に答弁をいただきましたが、逮捕、監禁された者の生命、身体の安全に関する第三者の憂慮に乗じその解放、返還、安全に対する代償として第三者に不法な要求をする目的で被逮捕者の自由を拘束することと、およそそういう表現であったと思いますが、そこで、身体の安全に対する憂慮というその身体の安全とは何でしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 生命身体の安全というふうに申し上げたつもりでございますが、生命身体の安全でありますから、生命が冒される、あるいは身体の健全さが冒されると、こういうことだと思います。

○江田五月君 生命の方はよろしいわけですが、身体の安全という場合には、通常、傷害の場合は身体の完全性または生理的機能に対する侵害であるというようなこと等考えていると思いますが、そういう刑法における傷害の考え方とほぼ同様に身体の安全ということを考えてよろしいわけでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 傷害という概念は、ただいまお述べになりましたように、身体のいわゆる機能を害するということであればそれで傷害でありますけれども、ここで生命身体の安全と言っておりますのは、要するに命が危ない、あるいは体そのものが重大な棄損を受ける、そういう程度のものを生命身体の安全と、こういうふうに申し上げたわけでございまして、したがいまして、傷害という概念を持ってきて考えますれば、軽度な傷害等はもちろん除かれると、そういうふうに考えます。それはすなわち第三者、要求を受けた第三者のすべての人が憂慮するというような、そういう安全でございます。

○江田五月君 憂慮というのもなかなかこれもむずかしい言葉で、そう著しい生命身体に対する棄損があることでなければ憂慮にならぬというわけのものでもないだろうし、身体の安全という場合に、すぐに、特別の重大な加療を要するような傷害のおそれがあるということだけを意味しているというふうにもなかなか考えにくいので、そういう点から言うと、どうも「人質」という言葉がなかなか不明確だという非難もあながち杞憂に過ぎるということもないのじゃないかという気がするわけでありますが、この場合に、人質ということでなくて、人命への危害を明示、黙示に告知するというような表現で、この「人質にして」ということによって言いあらわそうとしている行為を表現することはできないのでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) そういうアプローチの仕方もあるいはあるかもしれないと思うのでございますが、人質にするという言葉が最も簡潔でその実態をよくつかまえておるのではないかと。現に諸外国においても、ドイツ、フランス、アメリカ等においても人質ということで理解されておるわけでございまして、私どもとしては人質という概念で十分御理解いただけるのじゃないかと思っております。

 なお、申しわけありませんが、先ほど御質問を私ちょっと取り違えて御答弁した点があるようでございますので訂正いたします。

 二人以上の者が凶器を示してある人を逮捕、監禁して、そのうちその犯人の一人が脱落して、残った一人がそれを逮捕、監禁した状態に置いたまま人質にして要求をしたという設例であったということでございますが、そうでございますと、その脱落しなかった者については本条の罪が成立いたします。
 大変失礼いたしました。

○江田五月君 その人質ですが、「人質にして、」ということなんですが、これはその「人質」というのはいまの自由を拘束することであると。そうすると「人質にして、」というのは、そういうふうに拘束してということであるのか、それとも拘束した人の解放等をする代償として何かを要求するという、そういうことをこの「人質にして、」という「にして」はあらわしているのでしょうか。これは別にいま逮捕、監禁している者を解放するから何かをしてくれというふうに明示、黙示に要求の条件としていなくても、ただ自由を拘束している、そして第三者がそれに憂慮をしている状況を知っているという限度で「人質にして、」ということは成立してしまうのじゃないでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 「人質にして、」ということでありますから、逮捕、監禁されている者の生命身体の安全を交換条件にして要求をすると、こういう概念でございます。

○江田五月君 次に「強要」なんですが、強要もいろいろな態様の強要があるわけで、この強要自体をいろいろ限定するということも可能なのじゃないかと思います。強要の相手方を、第三者をそうすると限定するということになるかもしれませんが、政府その他の公的機関に限定するとか、あるいは強要の目的を身のしろ金とかあるいは法令により拘禁、拘束中の者の解放等に限定するとかというようなことも可能であったと思いますが、「強要」ということになると非常に広い行為、類型になってしまうと思いますが、そしてこの法律が目的としているところをはるかに越えてしまうことになりはせぬかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 確かに御指摘のように要求の内容をある程度限定するということは一つのアプローチの仕方であろうと思います。そういうことによりまして法定刑の下限をぐっと引き上げるというのも一つの立法政策であろうと思いますが、今後予想されます要求の内容というものは、まことに私どもにとりましても予測のつかないことが多いと思われるわけでございまして、そういう意味で、この要求はおよそ不当な要求であればよいということで構成要件を決めたわけであります。

○江田五月君 この第一条は、身分犯であることはよろしいですね。

○政府委員(伊藤榮樹君) 身分犯のような形になっております。

○江田五月君 そうすると、真正身分犯なんでしょうか、不真正身分犯なんでしょうか。ちょっと読み方によってはあるいは不真正身分犯のようにも読めなくもないのですが、どういうお考えでいらっしゃいますか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 講学上の不真正身分犯、真正身分犯という言葉を使って御説明するのが適当かどうか、きわめて新しい形の構成要件でありますから――ですが、いまお引きになりました言葉をどちらが近いかとおっしゃれば、真正身分犯の方に近いのじゃないかと思います。

○江田五月君 そうすると、これもかなりいままだ学説も判例も流動している、これほど古い法律なのにいまだに流動しているという点でもきわめてあいまいなものであるかもしれませんが、刑法六十五条の適用の関係では、二項の適用はないわけですか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 六十五条の共犯と身分の関係ですが、身分により特に刑の軽重があるというような構成要件じゃございませんから、二項の適用はございません。

○江田五月君 ただ、「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁した者」でない者が「第三者に対し、義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求したとき」は、これは単純な強要になるわけで、そうすると身分の有無によって多少刑の軽重がある場合だというふうに考えられなくもないのかと思うわけですが、そうはお考えになってないということですね。

 それで次に、そういまずっと伺ってきた範囲ですと、二人で共同して、かつ用法上の凶器を示して人を監禁した、そしてそのうちの一人の人が、もう一人の人が脱落した後にその監禁されている者に関する身体の安全についての人の憂慮に乗じて、戻してやるからというので、その第三者に、憂慮している第三者に非常に重大とまで必ずしも言いがたいようなことを要求した場合でも無期または五年以上の懲役になる。具体的にどうかということは別として机の上で考える限りではそういうことになりますか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 机の上で考える限りはそういうことになります。

○江田五月君 そうしますと、五年以上の懲役という法定刑なんですけれども、どういうふうにしてこの法定刑を決められたかと、この前局長、法定刑については、なかなかこうだという決め手となるような議論はないのだというお話でしたけれども、まあいろいろな他の犯罪の法定刑との比較考量でお決めになったということであろうと思いますが、もう少し科学的といいますか、実証的といいますか、計量的といいますか、そうしたことが法定刑の決定に導入できないものかどうかという気がするわけです。たとえば監禁と強要が一連の行為で犯された事案、それが併合罪になるか牽連犯になるかちょっとはっきりしませんけれども、そういうものについての裁判所の量刑の調査というようなものですね、こういうものはなさった上でこういう法定刑の決定をされているのでしょうかどうでしょうか。

○政府委員(伊藤榮樹君) 一応の調査はしております。しかし、裁判所の具体的量刑というものと、法定刑をいかに定めるかということとは直接関連はない、この場合は。新しい構成要件をつくるわけでありますから。そこで私どもが考えましたのは、まず既存の刑罰罰則で刑法二百二十五条ノ二の身のしろ金誘拐がございます。これが無期または三年以上の懲戒であります。本罪と身のしろ金誘拐との関係を見ますと、身のしろ金誘拐に対して本罪は特別類型になります。加重された特別類型になります。したがいまして、下限は三年を超えることが相当であろう。

 それから航空機強取法の一条二項のハイジャック人質強要罪の罪の法定刑の下限が十年である。ですから十年未満でなければならない。その間のどの辺に法定刑を定めるかということにつきましては、第一条に定めるような行為というものは、一般社会的に評価をすれば刑法二百三十六条の強盗罪に比すべき卑劣な行為であろう。したがって、強盗罪の法定刑の下限である五年というものが一つのメルクマールになるであろう。しかし、先ほど来御指摘がありましたように、この第一条に該当する事案といたしましても、机の上で考えていきますと、ある程度情状酌量すべき事案があり得るわけであります。したがいまして、酌量減軽をしても執行猶予のつけられないようなそういう法定刑では適当でないのではないか。それらの点を総合勘案して下限を五年と、こういうふうにしておるわけであります。

○江田五月君 机の上で考えるというふうに私自身も申しましたけれども、まだいま実際に発動されていないから机の上で考えざるを得ないわけですが、たとえば強盗致傷のような場合に、形式上は強盗致傷に非常に当たってしまうというような場合に、実務上、実際にはいろいろと事案の実際の妥当性を考えてあえて恐喝と傷害で処理をするというようなケースもたくさんあるわけで、本件でもどうも机の上で考えたことというのは案外実際に起こることがあるわけでして、起こってみて、これに当たってしまうけれども、どうもこれに当てるといって五年以上の懲役に処すには余りにも重いというような事案が起こるのじゃないかというおそれが非常にするわけであります。そういう場合に実際の処理としては監禁と強要というような、人質の点を何とか取り上げずに処理をするというようなことも可能なんでしょうが、そこまで一人一人の検察官に裁量の余地を与えてしまうというのも、またいろいろ問題だと思うわけで、どうもこの五年以上の懲役というのはこの法律をつくるときに念頭に置かれていた行為を罰する法定刑としては妥当でありましょうが、これが奨来実際に動き出したときに出てくる非常に軽い類型の者や何かを処理する法定刑としては重きに失すると言わざるを得ないと思います。

 最後に、こういう法律を制定しなければどうしてもいまの過激な事犯に対処できないということならば、多少いろいろ難点があっても仕方がないということもあるかもわかりませんが、このいただいた資料で見ますと、どの事犯についても五年以上あるいは無期の刑を宣告することは本法がなくても十分可能なのではないかと思いますから、そういう点でも、必要性の点でもいま緊急の必要があるわけではないという気がいたしますし、それから、どうもこれを制定したから過激派による不法な事犯がなくなるのだというところの、どういう機序でなくなるのかということもなかなか説明がむずかしかろうと思いますが、ちょっとそういう点を考えますと、安易に立法され過ぎているが、のじゃないかという感想をぬぐえないのですそんなことありませんか。

○政府委員(伊藤榮樹君) そんなことはありません。「二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕又は監禁した者が、これを人質にして、第三者に対し、」て不当な要求をするという行為は、一般類型としてやはり五年以上の懲役で臨むのが相当であろうと、情状真に酌量すべきものがあれば酌量減軽によって二年半まで下がって執行猶予がつけられる、こういうことにしておるわけでございます。もちろん刑罰法規と申しますのは、刑罰法規ができたからといって犯罪がすなわち発生しないと、こういうものではもちろんないわけでして、先ほど来他の委員の御質問に対して申し上げておりますようなあらゆる施策にわたりまして、万般にわたりまして努力をしてその防遏を期すると、反面、国の姿勢といたしまして、そういう破廉恥な犯罪に対してはこれだけの刑罰をもって臨むという決意を示すということが適当ではないか、もちろんそういう考え方の基礎には、およそ刑罰法規には犯罪防止の力、一般予防の力があると、こういう国民的な確信を基盤としておるわけでございますが、しかしながら即効薬の効果がないことはもちろん言うまでもないことであります。あらゆる施策、それにも増して国の毅然たる姿勢と、こういうものが背後にあって初めて有効に機能するものであると、こういうふうに思っております。

○江田五月君 終わります。


1978/05/11

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