2012年法政大学大学院政治学講義 ホーム講義録目次前へ次へ

2012年10月19日 第 5 回「ねじれ国会の運営」講義        講師 参議院職員 大蔵 誠

 

【江田先生との関わり】

今日は江田先生が不在のため、実は去年も1回講義をしましたが、今年は今年なりに新しいものを考えたのでよろしくお願いします。大蔵といいます。レジュメに参議院職員と書いてありますが、もう少し具体的にいうと、今、参議院の憲法審査会事務局総務課長をやっています。江田先生から話があったと思いますが、江田先生が参議院議長時代に私が秘書をやっていました。皆さん大体ご存じだと思いますけど、大臣にも秘書官が就くのですが、同じように議長にも秘書(秘書官といいません)が就きます。政務と事務の秘書がいて、私は参議院の職員から事務の秘書になり、元々江田先生の秘書だった江田洋一さんが政務の秘書になり、一緒に議長秘書をやったことがあるのです。江田先生から前回説明がありましたように、民主党が参議院で第一党になり、江田先生が議長に就任するという運びになった際、衆参のねじれが起こりました。私は、ねじれの2年間も含め議長任期3年とも仕えました。先生はその時の話をしてくれとこの間随分言っていたのですが、実は昨年の講義で、先生が随分話しておられます。皆さんは先生のホームページでご覧になっていると思うのですが、昨年の講義の第5回から第9回までに全部出ています。それをもう一度おさらいしても仕方がないので、見ていただければいいと思い、その点は省きながら、最近の新しく起こったねじれが、前回のねじれとどこが変わってきたのかということを、事務をやっている職員として、いくつかピックアップした形でお話ししたいと思います。

 

【国会の召集】

今週もまだ国会は開かれていません。ただそれなりの動きがあって、今日はつい先ほど何があったかニュースを見てお分かりだと思うのですが、総理大臣と自民党総裁と公明党代表の 3 党首会談がありました。水面下の細かい話はわかりませんが、記者会見を見る限り物別れのようです。総理からはあれこれいろいろな理由でとお話になったようですが、自民総裁・公明代表からは、「近いうち」についての明確な話がないというところから先に出なかったということです。来週はこの講義はお休みのようですが、再来週には国会が召集されているのかどうか。今マスコミでは 10 月 29 日ぐらいと言われていますが、果たしてそうなるのかどうかはまだ分かりません。

ちなみに国会の召集というのは、ほとんどの場合は月曜か金曜になっています。通常は最初の日に総理が所信なり、通常国会の場合は施政方針演説をして、一日おいてから代表質問を衆参で 3 日間かけて行う。そういう手順があるので週の中途から始まると、その中途に土日が入ってしまうのです。金曜日から始めると一日あいだを置かず月曜日から代表質問できる。月曜から始めれば一日おいて水・木・金で一週間に収まるというのが、国会の仕事に携わっている人は皆分かっているのです。 29 日に召集できなければ、その週の週末の召集ではないかというぐらい、我々の感覚からすると召集というものが見えてきます。

 

【選挙制度改革】

もう一つお話ししておいた方がいいこととして、去る 17 日に参議院の選挙制度について違憲状態であるとする最高裁の判決が出たことです。投票価値の不均衡が違憲の問題が生じる程度に著しく不平等な状態になっていると言われました。衆議院が昨年の 3 月、同様の判決を突き付けられ、今回参議院も同様の判決がだされたことで、衆参両方の選挙制度が違憲状態という、定数上の問題が起こっているのです。

ご存じのように、江田先生は週 2 回ショートコメントを配信していまして、それでおそらく書くだろうなと思っていましたら、そのとおりでした。実は私が議長秘書をやっていた頃も参議院は同じ状態でしたので、選挙制度改革がうまくできるように、参議院議長としていろいろなことをお考えになっていましたし、いろいろな働きかけもしたのですが、結果はなかなか難しく、そのままずるずるきてしまい、こういう状態まで至ったということです。よく江田先生は、裁判所はもう違憲と言ってしまった方がいいのではないかと言われていました。それは国会議員としては本当は良くないことなのかもしれません。本当はその前に何とかしなければいけないと私も思いますけど、裁判所がそうでも言わない限り、国会はなかなか動かないのかもしれません。衆参ともにそういう状況にあるので、選挙制度改革、特に定数の不均衡の是正は絶対にやらなければいけない状態になっているということなのです。

 

【憲法審査会の現状】

 先ほど話しましたとおり、私は今憲法審査会事務局総務課長をやっています。憲法というものはいきなり改正しようといってもなかなかハードルが高くて、すぐにはできません。参議院の憲法審査会も、まだ去年の 10 月から立ち上がったばかりで、ちょうど 1 年というところです。参議院憲法審査会では、この間「東日本大震災と憲法」について随分やってきたのですが、今後は「二院制」と「新しい人権」をやろうということで、一応前回の通常国会の終わりに決めてはあるのです。参議院側で「二院制」を取り上げるのはなかなか難しく、どうしても自己保身的な話につながると見られがちなので、そうならないような形の議論が行われればと思っています。実際それがどのように、いつから始められるかは国会情勢次第で何ともわからないというのが現状です。ちょっと最近の出来事をお話しいたしました。

 

【問責決議とは】

 それではこれから本題に入りたいと思います。「ねじれ国会」における運営の現実と課題ということで、問責決議の話、同意人事の話、それから三番目の話として、ねじれ国会になって法案の成立率は非常に低いということは皆さん報道でご承知だと思いますが、それでも物事を決めてきている例があるので、それをご紹介したいと思います。

 

まず、問責決議ですが、これはどういうものか皆さんご存じですか。

(学生)参議院で大臣や閣僚の責任を問うもので、法的には拘束力がない決議です。

(大蔵)法的拘束力がある決議というのはどんなものがあるか分かりますか。

(学生)内閣不信任決議です。

(大蔵)そのとおりで内閣不信任決議は、憲法上拘束力が規定されています。もちろん衆議院でも内閣不信任決議案以外にも不信任決議案というものが出されることはあるのですが、それは後ほど説明することとして、今日は国務大臣の問責決議案が可決された例を資料でつけておきました。

問責決議は参議院で主として国務大臣に、最近では大臣以外にも副大臣に出される例もあるのですが、そのような政府の然るべき人に対して責任を問うという形で行う決議をいいます。実際、問責決議がどれだけ出されているのか調べてみたところ、第 180 国会まで 119 件あり、そのうち総理に対するものは 35 件です。問責決議が可決されたのは今お配りした資料の 10 件がすべてです。見ていただければ分かりますが、すべて平成 10 年以降であり、最近の平成 20 年以降がほとんどで、それまでは問責決議が出されても可決されない。一方、衆議院でも不信任決議がたくさん出されます。内閣不信任決議は憲法上の効力が生じるもので、これは非常に有名ですが、それ以外にも各大臣の不信任決議というのが出されます。同じ不信任決議でも大臣の不信任決議は問責決議と同じで、別に法的効果はなく、あるのは政治的な効果だけです。衆議院で大臣の不信任決議が可決されたのは、随分昔 1952 (昭和 27 )年に当時の池田隼人通産大臣、その後総理になられた方ですが、この1例だけです。

 

【内閣不信任決議】

内閣不信任決議が可決されれば、その後内閣は総辞職するか解散するかしか選択肢がないのはご存じのとおりです。内閣不信任決議はこれまで国会で 4 回可決されています。古くは吉田内閣の時に 2 回の例があり、一番最近のものは多分有名なのでご存じかと思いますが、宮澤内閣の時に自民党が崩壊状態になり可決されて、総選挙後に非自民8党派により組閣された細川内閣に江田先生も参画されました。その一つ前の例が大平内閣の時であり、この際は自民党の中が分裂して可決され、その後の総選挙の最中に大平首相が亡くなられた例です。吉田内閣の時は、まだ自由民主党ができる前で、連立与党の時代ですから、数が少なかったので内閣不信任が通りやすかったと言えます。その後の 2 回は、巨大与党の自民党が内紛して可決されたものです。内閣不信任決議は、基本的に数では劣る野党が出すもので、数の多い与党の中からそれに同調がない限り可決されることはほとんどあり得ません。ただ最近は連立与党ですから、そこが分かれてしまったりした場合はそういうことが起こり得ます。また衆議院で大臣の不信任決議が出された例は大変多いのですが、可決された例がほとんどないのもそのためだと思います。

 

【問責決議の功罪】

問責決議案が最初に可決された額賀防衛庁長官の例ですが、この時は防衛庁の不祥事があった経緯はありますが、当時参議院は野党を合わせると自民党より多い時代だったため可決されたと言えます。その後、平成 19 年の参議院選挙で民主党が第一党になり、江田先生が議長になった際、参議院は野党を合わせると半数以上という状態になり、その時に福田・麻生お二人の内閣総理大臣問責決議案が可決されました。その後、自民党に政権交代してから国務大臣に対する問責決議が続いている状況です。内閣総理大臣の問責をどう考えるかという問題については、江田先生のホームページから「問責をめぐる江田語録」という資料をまとめてみました。ショートコメントの《問責決議と信任決議》や東大法曹会講演録《ねじれ国会をどう活かすか》を読んでもらえると分かりますが、先生も言われているように日本の国会の議院内閣制は衆議院内閣制ではなく、憲法上衆参ともに内閣総理大臣を選ぶというシステムになっているのです。ということは、確かに憲法上は衆議院にのみ不信任の法的効果が規定されていますが、参議院の問責はまったく何も意味がないということではなく、内閣総理大臣を選ぶ時に関わっているのですから、辞めさせる意志表示をする効果はあると考えられるということなのです。前回江田先生が両院協議会の話をされた際、内閣総理大臣の指名について、衆参でそれぞれ別の人を内閣総理大臣に選んだ時、名前だから半々に分けるわけもいかず、両院協議会での調整はつかず、最終的に衆議院の議決を国会の議決とすると憲法は規定していることから、衆参両方で選んでいることになるという話があったと思います。そのような理屈で考えれば、内閣総理大臣を選ぶ時に参議院も関わっているのですから、もうダメという問責の意志表示については参議院もできるとしても憲法上問題ない。ただ憲法上どういう効果があるかが書いてないので、その書いていないことをどう捉えるのかの問題だ。江田先生の講演録にも書いてありますが、参議院に入るなという考え方もあるし、逆に来てもらってもっと追及するのでもいいし、それはそういう風にうまく考えればいいのではないかというわけです。ただ前国会で野田首相は問責を受けていますので、次の国会が召集されて、もしこのまま、自民党や公明党に言わせれば例えば解散とかいった、「近いうちに」についての保証が何もないとしたら、参議院では一切審議しないということになる可能性もないとはいえません。そのような形で国会審議を停めていいのかということについて、後ほど問責の功罪のところでお話ししようと思います。江田先生はご自身が議長の時の経験から、問責したからといって次の国会ではその人物を絶対に参議院に入れるなではなく、次の国会になったのだから、また議論すればいいのではないかということを言われていました。私も、決議という性格から問責決議を出すなとは言えませんし、そうでも考えないと今のねじれのような状態は今後とも起こり得るので対応できなくなると思います。

ただ、問責をした場合の対応について、国会議員の方々もよく考えていただかないといけないと思います。問責決議案が可決された例の資料に、議決日と会期終了日を書いておきました。問責決議の政治的効果について、現状ですと問責決議案が可決されると、その後はその内閣を相手に国会で議論することにはならないとされています。だからこそ、国会会期末ギリギリのところで問責決議をやるというのが大体通例化していました。そうしないと他の議論ができず、国会審議が停まってしまうからです。自民党政権時代、民主党は福田・麻生両総理大臣の問責決議案を出しましたが、いずれも残り会期がわずかな時とか、解散が迫っているとか、そういうところで出すという選択肢を選んだのです。政権交代後、自民党も大臣の問責決議案を出す最初の頃、例えば第 176 回や第 179 回国会の時は、公明党とか他の野党と相談しながら早く出すと他の国会審議に差し障りがあることから、会期末ギリギリになって出していたことが分かります。

ところがここに至って、前回の通常国会では、会期のどまんなかで国土交通大臣と防衛大臣の問責決議案を出しました。結局、問責決議案が可決された途端に国会審議が1ヶ月以上停まってしまいました。停めなくてもいいと思いますけど、やっぱり停まってしまうのです。そういう経験もあってか、野田内閣総理大臣問責決議案については、ちょっと早い段階で出した会派もありましたが、最終的に会期末近くに落ち着いたわけです。問責決議案を提出する意味は、大臣の資質の問題が当然あると思いますが、そこから離れて衆議院解散・総選挙を睨んだ、かなり政局的な色合いが濃くなってきているように感じられるというのが、私の感想です。そのような問責など提出するなとは言えないので、これがなかなか難しいところではあります。

野田内閣総理大臣への問責決議について、衆議院ではその前に野田内閣不信任決議案が提出され、否決されています。その両方を「野田内閣総理大臣問責と野田内閣不信任の比較」という資料に全文載せておきました。実は衆議院でこの内閣不信任決議案を出したのは、野党の自民党・公明党ではないのです。ご存じのように、この間社会保障と税の一体改革を民・自・公で連携してやってきました。これに対し、それ以外の少数野党の国民の生活が第一、みんなの党などが一緒になって内閣不信任決議案を提出したのであり、消費税増税反対が理由になっていたのです。衆議院本会議での投票では、与党民主党の数が圧倒的に多いですから当然否決されたのですが、自民党と公明党は投票せず退席しています。一部自民党の議員で賛成した人もいますが、結果は否決で変わりませんでした。

可決された参議院の野田内閣総理大臣問責決議案を見ていただければと思います。正確にいうと決議する中身は「本院は、内閣総理大臣野田佳彦君を問責する」だけです。あとは理由ですが、それが大事なので見てみますと、消費税増税反対だけでなく、特に衆議院の不信任決議案にはなかった、国会運営で民・自・公で三党のみで協議しているのはおかしいという趣旨が、参議院の問責ではしっかり書かれているのです。このような内容の問責決議案ですから、当たり前ですが自民党と公明党が出すわけはありません。にもかかわらず、自民党はこれに賛成しました。自民党は討論の中で、理由には賛成できないが問責は賛成だと述べました。理由は納得できないが、問責という中身は賛成だということでいいとなってくると、この決議は一体なんなのだろう、ここまで至るとちょっと本当にこれでいいのかなというのがどうも感じられて仕方がない気がします。もちろん、今の内閣が全く問題ないとは言えないとも思いますが、とにかく早く解散しろという動きの中で問責が使われている。与野党の対立がそのまま露骨に出て、問責決議案を可決する形になっていると思います。今は衆議院では民主党が圧倒的に多いわけですから、なかなかそう簡単な解散という話にはならないと思いますが、参議院ではこういうことが起こってきているということになるのです。

本来問責決議というのは、特に内閣総理大臣の問責を考えた時は、参議院も国会で内閣総理大臣を選んでいるのだから、参議院としてものを言うべきときは言うのだというためのものとして可決した例があったわけです。それがだんだんと参議院としての意志を通していくことによって政局を左右していくという形で使われてきてしまっているとすると、問責というのはなかなかやっかいなものだなという感じがしています。

江田先生の語録でも、最近問責決議案が可決された 2012 年 4 月 20 日の活動日誌の最後のところで、「問責は重く受けとめなければなりませんが、必ずしも辞任に直結するものではなく、問責が政局を動かす手段にされていることに、参議院の役割との関係で危惧を感じます」ということを書かれています。特に野田内閣総理大臣問責決議案の可決について、ここまでくると行き過ぎだろうということを言っています。正直いうと現在の国会情勢はあまりにぐちゃぐちゃしている状態で良くないので、私もはっきり言えば早く解散した方がいいと思っているのですが、ただそれにしても、こういう手を使いながら追い込んでいくというのはいかがなものかとも思います。もう少しすっきりやって欲しいなというのが私の感想です。

 

(学生)問責決議案というのは理由まで合わせて決議するのですか。

(大蔵)理由はあくまでも理由であり、議決する内容は決議案文のみです。決議案が議案として提出される時は、決議案文を表に一行書いてあり、その後ろに理由という文章が付いていて、それがセットになっていますので、結果として決議した内容が何かと言われれば、それは表の決議案文だけになります。ただ理由は全く意味がないわけではありません。なぜなら、どういう理由でこの決議をしたいかということを趣旨説明することになるのですから。

(学生)提案者は理由を述べるわけですね。

(大蔵)提案者は本会議で決議を提出した理由を述べます。それを聞いた上で行われる各党の討論も、決議そのものだけでなく、理由に対しても行われます。

(学生)自民党は自分が批判されているのに賛成したのですか。

(大蔵)それについて、理由については納得できないものがあるけれど、問責はすべきだと討論の中で言っています。それでいいのかどうかはよく分からないですが。

実は自民党と公明党も共同で別の野田内閣総理大臣問責決議案を用意していたのです。自・公が用意した決議案は、理由も異なっていたのですが、どちらの問責決議案を採決するかという協議の結果、最終的に自民党が少数野党の提出した問責決議案に乗っかる形になったのです。

これが難しいところで、国会には一事不再議という原則があり、一つの国会の会期中で一度結論が出たものについて、同じものを二度はやらないというルールがあるのです。今回の場合、先に自・公以外の野党会派が出した問責決議案があったのです。その後、参議院で社会保障と税の一体改革の法律案の審議が進み、最後採決のギリギリまできた時に、その取扱いをめぐりまた揉めて、自・公も新たな問責決議案を出したのです。最終的に、どちらの問責決議案を採決したらいいのかということになり、本来的には先に出した方を優先するというのが手順なのですが、自・公はそのままだと乗れないので数が多い私らの方に乗れと主張しました。その後いろいろと協議されて、最終的には他の野党提出の案に自民党だけが賛成し、公明党はいろいろ複雑だと思いますが、採決することは容認しましたが、自らは棄権しました。これまで問責決議案が可決された例を見ていただければ分かるように、いずれも野党第一党が出したものをやっているはずなのに、今回はそれ以外の野党が提出した決議案に野党第一党が乗り可決したという異例な結果になったのです。

 

【同意人事とは】

次に同意人事についてお話ししたいと思います。同意人事というのは何だかわかりますか。

(学生)法律に基づいて国会で承認する人事だと思います。

(大蔵)そうです。法律上、現在 36 機関、 253 人が同意人事の対象になっています。例えば、会計検査院検査官、人事院人事官、日本銀行総裁・副総裁、公正取引委員会委員などです。実は昔から国会同意人事はあったのですが、長く続いた自民党政権の時代には衆議院も参議院も自民党の数が多く、政府の方で出せば通らないことはないので、ほとんど注目されたことはありませんでした。その時代は政府が同意人事を国会に出しても、特に何もせず、本会議で採決するだけでした。これはちょっと言い過ぎで、本会議の運営全体を決める議院運営委員会に副大臣クラスが出席し、今の人は任期が切れるので次はこの人をお願いしますと説明し、その後議運委員会、そして本会議で採決していました。その際、否決された例がなかったことから、問題もなく注目されてこなかったのです。

 

【同意人事が否決(不同意)となった例】

江田先生が議長になった最初の頃から、同意が得られないという例が起こり、注目されるようになったので、過去の例を調べてみました。「人事案件が否決(不同意)となった例」という資料を見ていただけますと、古くは昭和 26 年の1例だけ見つかったのですが、なぜその時そうなったのかはまったく分かりません。それ以外は平成 19 年以降の例になります。国会同意人事が注目されるようになったのは、日本銀行総裁が不同意となった時だと思います。皆さんもよくご存知だと思いますが、日本銀行の独立性を高めるために、日本銀行法がかなり改正されたにも関わらず、財務省、昔の大蔵省のOBを総裁につけるとは何を考えているのかというのが、当時の野党民主党の一番強い反対の意思表示だったのです。この同意人事の否決により、日銀総裁不在という空白期間が起こったわけです。

実は同意人事にはいくつかの問題があるのです。法律案の場合は衆議院で 2/3 を超えてもっていれば両院協議会を開かなくても再議決すればよいという形になっているという話を江田先生もされていましたが、逆に同意人事については、衆参それぞれが同意するとしか何も規定がなくて、両院協議会の規定が適用されず、片方で不同意だと調整する術がないのです。本当は各法律で参議院の同意が得られなかったら衆議院だけで良いと書けば書けないことはないのです。実は同意人事については、今はすべての法律が衆参とも同じ権限となってしまったのですが、以前は会計検査院検査官や人事院人事官については衆議院の優越が法律に書いてありました。その当時の参議院の与党自民党が、衆議院の優越はいいのだが、その規定があることで参議院の権限が弱いのではないかと主張し、法律をみんな改正し、衆参の権限を同じにしてしまったのです。その他にも公正取引委員会委員は衆議院同意だけでよかったものを改正して両院の同意にしてしまったのです。これらは自民党政権時代に参議院自民党が言い出したものですから、参議院では反対もなく通ってしまい、当時は皆いいことだとしてきたのが今ではこういうことになってしまったのです。

それから同意人事にはもう一つ、これは法律によってそれぞれ違うのですが、同意が得られなかった場合には前の人が引き続き職務を継続できるという規定がある場合とない場合があるのです。今新しく作る法律では、必ずそういう規定を入れるようになっています。日本銀行法もそうですが、昔作った法律にはそういう規定がないことから、同意が得られないと不在という事態が生じてしまう。この二つがネックとなって、問題が生じてきているのです。

ただ、ねじれ国会になってそういう問題が起こることが注目されたのですが、ある面、同意人事について国会が仕事をしているということが分かりやすくなったと言えると思います。今までは政府が決めれば、どんな人事であろうが政府が言ったとおりに決まっていたのに対し、今は国会が同意しなければその人は選ばれないということが分かり、それはそれで悪いことではないのかも知れないと思います。ただ不同意が起こってしまったらどうしたらいいのか、対応を考えなくてはいけないということは当然あります。資料の「人事案件が否決(不同意)になった例」は見ていただければ分かりますが、ねじれ国会における不同意の例は自民党政権時代の時の方が多いのです。民主党政権になってからは1例しかありません。自民党政権時代は何とか同意を得られるだろうと何回もいろいろな案を出してきたが、結果はダメだった。民主党政権になってから最初は数も多かったので問題なかったが、ねじれ国会になってからは慎重に同意が得られる人を選んでやってきたこともあって、否決される例が少なくなっているということが実態としてあるのだろうと思います。

 

【同意人事をめぐる対応の変更】

同意人事をめぐる対応の中で今までと大きく変わったのは、同意人事を議決する際に、対象となる人についてきちんと審議するようになったということです。これまで同意人事の審議とは、議院運営委員会で政府側からはこの人をこの役に付けたいと言うだけで、あとは配られる関連資料だけで判断しなければいけなかったのです。現在では、すべての同意人事ではないのですが、対象を決めて重要と思われる同意人事については本人から話を聞いて審議することが定着してきました。

「同意人事をめぐる対応の変更について」という資料を見ていただきたいと思います。実はねじれになる前から、議院運営委員会理事会において、人事官や検査官など対象となる人から所信を聴取することが行われていました。国会には委員会のほかに理事会というものがあります。委員会の構成メンバーの中で各党の代表が集まる会合を理事会と言いますが、そこには会議録はなく、記録は残りません。所信を聴いたという事実はあるのですが、何を話したかというのはまったく残らない。それがねじれになった後、委員会で話を聴くというやり方になりました。当然、会議録が残るので、どういうことを話したかはすべて残るという形になり、それが現在まで続いているのです。

それから、以前から同意人事については、政府側が国会に提案する同意人事の案を決めると、その人事がもう決定したかのように報道されてしまうことがありました。確かに昔は国会がどう言おうと政府の提案どおり決まってしまうので、あまり気にはならなかったのですが、ねじれになってからは判断するのは国会なのに、国会に何の説明もないのに、政府が案を決めただけで人事が決まったような報道をされるのはおかしいということになったのです。実は江田議長の時代、後に議長に就任される西岡先生が議院運営委員長をされていた時に、外で報道されてから国会に提出されるものは受けないということを言われました。ただ、それだけ言っても提出する場をどうしたらいいか検討しなければいけないということになり、新たに議院運営委員会両院合同代表者会議を作ろうということになりました。両院の議運委員長と与野党の筆頭理事 6 人が集まって、その場に初めて同意人事の政府案を出して、その後衆参各々の議院運営委員会理事会に持っていって、そこで説明する。そこで皆が見るわけですから、事前に報道されるというのはない。これにより「西岡ルール」と言われるルールが確立したのです。これにより、同意人事が事前に報道されずに国会に提出されることになったのはいいのですが、ただそれで人事について同意を得ることは非常に難しいことだったのです。同意人事案を出した時に初めて見た上でいいかどうか判断するわけですが、法案などと違い修正するとかはできず、いいかダメかしかありません。事前にこんな人ではどうでしょうかといったすり合わせのようなものが全然できなくなってしまいました。最初のねじれの際、否決が多くなったのはその性もあるのかなと思います。事前に根回しをすることがないので、それで今困っているのです。先日問題になった原子力規制委員会の人事について、事前報道云々の話もありましたが、結局は事前報道されても仕方がないと「西岡ルール」を外すということにしたのです。今後もできればこのルールの中で提示は事前に外に漏れないようにやる方がいいのだが、事前にいろいろと話をしておかないと、人事案が出されてからは、いいかダメかという選択肢しかないものですから難しいものがあるので、今後改善した方がいいのではないかという意見が出ています。もともとこのルールは民主党の西岡議運委員長の時代に言い出したやり方なので、民主党政権になって同意人事がうまくいかないから前のルールに戻したいというのも言い出せず、また自民党の方も、それでは結構ですよとはなかなかならない。前国会で最後にはどうにかなるかなと思ったのですが、結局ルールの見直しはできないままになっています。

このように、同意人事のあり方については、いい面、悪い面、いろいろとあるのですが、少なくともねじれにより、国会では同意人事が審議されているということが皆さんに明らかになったと言えると思います。それから政府から提出された同意人事案について、一部ではありますが大事なものについては、候補者の話を聞いて実際に質疑をするということができるようになりました。中身について審議をした上で人を選ぶことができるようになったという意味では悪いことではないと思うのです。先ほどの問責決議の件でもそうですが、いい面もあるが悪い面もどうしても出てくるので、そこをどのように改善していくのかということが、今後の課題だろうと思います。同意人事については、候補者の所信を聞くのは定着しているので、今後とも続けられるものだと思います。

 

(学生)民主党政権では可決の見通しが立たないものは提出しないことで、選ぶべき人の任期が切れてしまうようになっているのではないでしょうか。

(大蔵)確かに菅内閣の時、同意人事が任期切れで空白になってしまったことがあり、非常に問題だと言われました。正直言って、前任者の職務継続規定があればいいのですが、そのような規定がないものも結構ありますので、だからその辺のところは調整をしていかないといけないと思います。次の総選挙で政権交代があるかどうかは知りませんけど、自民党も民主党も与野党をやったのだから、その辺のところはうまく折り合いつけてやってもらうしかないのかなと思います。その他にも同意人事の提示自体ができず、提示時期が遅いとかなり言われています。政府が案を提示しても、各党に検討する時間が必要なので、すぐ採決というわけにはいかない。そう考えると早めに出すことが必要と言われており、議運理事会で内閣官房長官が随分責められたりしたことがありました。

 

【超党派による議案提出・修正の動き】

これまで、ねじれ国会になってから、問責決議が可決され非常に揉めた例が多いとか、同意人事について不同意になり政府側が困った例が多いという話をしてきました。確かに衆参がねじれたからこのように難しい場面がたくさん起こってくるということはあります。江田先生は、こういった時に知恵を出して乗り切るのが大事だということをよく言われます。問責については、なかなか知恵が出なくてこの後もどうするのか、なかなか厳しいところがありますが、同意人事については少しずつ知恵を出して改善していけばいいのかなと思います。

それでは、ねじれ国会で法案そのものはどうなってきたかを見てみたいと思います。先週の江田先生の話で、江田議長時代のねじれの際、与党である自・公は 2/3 を衆議院で持っていたので再議決で行くとし、両院協議会を一度も開かずにやっていたという説明がありました。民主党政権となった現在はどういう状況かというと、民主党は衆議院の 2/3 を持っていません。それどころか、だんだん減ってきて過半数維持がやっとという状態です。ですから 2/3 で再議決はあり得ず、参議院は過半数ないわけですから、事前に参議院の審議も考えながら法案を修正していくということが物凄く増えています。特に東日本大震災復興特別委員会ではそういう動きが非常に多く、私は昨年震災後に担当課長をやっていたことから、いくつか法案をピックアップしてその動きを整理してみたのが、次の「超党派による議案提出・修正の例」という資料です。

普通、内閣が法律案を提出すれば、そのまま何とか通したいと思うのが当たり前で、自民党政権時代はほぼそれでやってきました。場合によっては最小限の修正、もう少し問題が大きいものであれば野党の意見も聞きながら修正していくというのが一般的なやり方でした。現在参議院では与党民主党が少ないわけですから、そのまま参議院に持っていったのでは絶対に通らないというのは分かっていますので、政府・与党民主党としては自民党・公明党と合意を得られるように持っていく。先日の社会保障と税の一体改革はもちろん、その前から衆議院において野党の意見を聞きながら法律案を修正するというやり方をしています。

 

【「東日本大震災復興基本法」制定までの経緯】

法律案には、閣法と呼ばれる内閣が提出する法律案と、衆法・参法と呼ばれる衆参各々の議員が発議する法律案があります。今回の場合、閣法が提出され、それに対して自民党が対案として衆法を出します。それを衆・本会議や特別委で一緒に審議していき、最終的に修正協議に入ります。最終的に修正協議でまとまるのですが、どういう形でまとめるかとなった時に、内閣から出てきた法律案を修正するのではなく、自民党から出した法律案を修正するのでもなく、両方とも撤回し、新たに法律案を作り直すという形になりました。国会法により、内閣から出された法律案というのはいったん審議に入ると勝手に撤回できないということになっています。資料に書いてあるように、衆議院本会議において閣法の撤回を承諾してもらいました。一方、自民党が出した法律案について、議員が出した法律案は撤回できますが、委員会で審議している場合は委員会の許可が必要になるので、その後特別委で撤回の許可を受けました。このように両方の議案を撤回した上で、新しく民主・自民・公明により、「東日本大震災復興基本法」案を起草しました。この法律の場合は、衆議院で修正協議を経た上で、もともと出した法律案を全部撤回して新しく作り直すという動きになりました。参議院では、送られてきた法律案について審議をした上で可決するという形になっています。このように目的を達成するためには、今まではあまり行われなかった閣法の撤回など、やれることはなんでもするという形になりました。ただ資料には書いておきましたが、閣法には、内閣法及び内閣府設置法改正案により、大臣・副大臣・政務官を増やすという内容のものも入っていたのですが、それはこの時は野党との合意が得られず、この法律は改正できず、次の次の国会になって、復興庁設置法を制定し、その時に初めて大臣を増やせるようになりました。それまでは大臣の総数を増やせないという状況が続くということになりました。復興基本法が通り、内閣としては復興大臣を就けなければいけないので、復興担当大臣は当時の環境大臣になってもらうことになりました。それにより、菅内閣は環境大臣が不在となり、江田先生が法務大臣と環境大臣を兼務することになったのです。

 

【「災害廃棄物処理に関する特別措置法」制定までの経緯】

これは江田先生が環境大臣をやっていた時に出された法律制定の流れです。東日本大震災では災害廃棄物が山ほど出たわけですが、それを広域処理といって、他の地域へ持っていって処理ができるようにするための法律です。これはまず衆議院の議員立法が先に提出されました。先日江田先生にお伺いしたら、内閣も準備はしていたが先に出されてしまい、一週間後に内閣でも法律案を提出したとのことでした。衆・本会議と特別委では、その両方を一緒に審議するという、先ほどの復興基本法と同じパターンになり、その後修正協議となりました。最終的に委員長提案で全会一致の法案になり、共産党まで含めてどの会派も賛成という形になりました。前にも江田先生が言われていましたが、ねじれが起こると、政府与党は単独で法律を通すことはできないので、いろんな人たちの合意を得なければいけなくなり、かえって幅広い合意で法律が成立することになる。今回の法律はその典型的な例です。修正協議をすることで、すべての党が歩み寄って法律を完成させるというやり方になっています。一方参議院の審議は、日付を見てもらえば分かるのですが、衆議院本会議を通過した日に、参議院は特別委を開いて質疑を少しだけやって、次の日の本会議で可決するというわずか2日間です。瓦礫の処理をなるべく早くやろうと急いでいたということもあり、特に全会一致だったのでそれほど議論は少なくできたという例です。ちなみにこの時はもともとあった閣法とか衆法とかはどうなったかというと、これは放っておかれました。先ほどの復興基本法の例では撤回しましたが、今回の場合は放っておかれてそのままにしておいて新しい法律を作ったわけです。どちらもできるのですが、復興基本法の場合はやはり自分のところで作ったということに皆がこだわったので撤回せざるを得なかった。今回の場合はそんな手間をかける時間がないので放っておいたまま新しい法律を作ったというやり方になっています。正直いうと国会では一般的には後者の方が多いかも知れません。

 

【「二重ローン法案」成立までの経緯】

これはもともと参議院の議員立法で発議した法律が最終的に成立したという例です。衆議院でも参議院でも、議員立法が最終的に成立する例は極めて少ないのです。日本の国会の場合、内閣に法案提出権が認められており、内閣提出法律案が成立することが当然多くて、衆参の議員立法は先ほどの例のように各党が合意して委員長提案になるような場合は必ず成立しますが、そうでない場合はかなり大変で、どちらかというと出しただけということが多いのです。しかし、この東日本大震災復興関連では、議員立法でも修正協議等を重ねながら成立させた例というのがいくつかあります。この資料の二重ローン法案は、そのうちの一つと言えるものです。この法案については、対応する閣法がありません。なぜないかというと、内閣は法律を制定することなく、予算措置でこの二重ローンの問題に対応をしようとしたからです。二重ローンとは、震災で被災した中小企業等がまた新しく建物等を建てて事業をやろうとする時に、前のローンが残っているのにまた新しいお金を借りるというのはなかなか難しい。その手当をどのようにしたらよいかというために考えられた法案です。政府としては各県に産業復興機構というものを作って対応したらどうかと考えたのですが、野党側としてはそれだけでは難しい、特に中小零細な企業や農林水産業をやっている人については産業復興機構では対応できないのではないかという話になって、議員立法で出してきたのです。

この二重ローン法案は、実は先ほどの復興基本法の審議が終わってしばらくしてから出てきました。この法案は、最初は自民党・公明党により、途中で「たちあがれ日本」・新 党改革が一緒になって議員立法を出しました。参・特別委では、法案の審議を二日間やり、最終的には修正協議でみんなの党が合意し、修正議決の後、衆議院に送ることになりました。普通、このような野党による議員立法はなかなか審議が進まないものですが、この時与党民主党は内容には反対しましたが、この審議促進には協力的でした。実はこの時、内閣提出の原子力損害賠償支援機構法案というまったく別の法案、原子力損害について賠償するための支援機構というのを作るというものですが、この法案が衆議院から送られてくるのが分かっていました。従って、この二週ローン法案を早く衆議院に送って、空いたこの特別委に衆議院から送られてきた閣法の原子力損害賠償支援機構法案を付託して審議したかったのです。だから民主党が反対のままで衆議院に送ったのです。一応、二重ローン法案について、参議院の中でも民主党が入った修正協議を何回かやりましたがまとまらず、まとまらないままに採決し衆議院に送ったのです。その後衆議院の方でも修正協議は行われましたが、二重ローンについては政府の予算措置で対応できるからいいのだとし、なかなか合意が得られず、実際この国会では衆議院で継続審議となりました。次の国会も会期が短かったので実質審議が適わず、その次の国会になって、引き続き修正協議してようやく話がまとまって、民主が修正に加わることになりました。

国会における法案審議というのは、一つの国会の中で両方の院を通らないと国会としては成立したことになりません。参議院から送った法案について、衆議院で次の国会で審議し可決したら、参議院は何もしなくていいとはいきませんから、参議院に送ってきた場合は参議院でまた審議しなければいけない。特に今回の法案の場合、衆議院でも修正して中身が変わっていることもあります。今回の場合、非常に複雑で、参議院ではみんなの党が修正案を出して修正議決し衆議院に送りましたが、衆議院での修正協議にはみんなの党が入っておらず、それに反発し、また修正の内容がみんなの党には飲めなくて、参議院に送り返してきて最後に反対したのはみんなの党だけとなりました。なかなか珍しい例ですが、二重ローン法案はこういう形で成立したのです。

このように、いろいろな例が出てきて複雑ではありますが、ねじれ国会になったからものが決められないということはなくて、決められることは決められる。ただ手間と時間は多少かかりますし、相手の言うことを飲まなければいけないということがあるのです。私は、本来国会というものはそういうものなのかも知れないと思っています。

 

【最後に】

昨日今日、国会では田中慶秋法務大臣の話題が沸騰しています。実は衆議院の決算行政監視委員会で復興予算の審議をしようとしたら、民主党が出席せず、定足数が足りず委員会が開けませんでした。これに対して参議院では、決算委員会と行政監視委員会の委員長は自民党で、かつ野党が多いものですから、衆議院のように民主党が欠席しても委員会が開けないということはありません。参議院では民主と自民の国会対策委員長が話をして、昨日今日、決算委員会と行政監視委員会が開かれて復興予算の問題についての審議がなされました。その中で、復興予算が震災復興の被災地以外のところにたくさん使われているという問題が取り上げられました。もともと現在の基本法に当たる法律案を内閣が出した時には、被災地の支援をするという目的を書き込んだのですが、与野党の修正協議により被災地の部分は削れてしまったのです。新聞にも書いてあるように、それはその通りではありますが、だから修正するのはダメかとは言えないと私は思います。法案を修正するということは、いろいろな意見が入ることになり、そうすれば当然いろいろな思惑が入りますから、もともと思っていたものと中身も変わってくるのは当然あり得る話なのです。修正とは妥協なので、そういうことが起こるというのは当然あり得る。だからそこから先、どううまくやっていくかを考えていかなくてはいけない部分があると思います。ねじれ国会になれば、法案が修正されるのは当たり前、仕方ないものと受けてたって、物事を進めていくべきではないかと私は思います。万が一、解散・総選挙があって政権交代が行われたとしても、参議院では野党民主党一番多いわけですから、どういう枠組みでの政権ができるか分かりませんが、苦しい運営になると思います。そこでもやはりねじれという問題が当然起こってくるわけで、その中でどうやって合意を得ていくか、妥協していくのかが大事なのだろうと思っています。

 

(学生)問責決議の件で、衆議院には解散があるので内閣不信任を出せるのはいいと思いますが、それに比べ参議院は問責決議を出しても、自分たちの身分は解散されないのですから、そういった面で参議院の問責決議は問題なのかなという感じを持っています。

(大蔵)そうですね。だからこそ問責決議について、例えば今回の野田内閣総理大臣に対するもののように、理由はどうあれ、とにかく辞めさせる必要があるなど、そこまで至るとやり過ぎのような感じがします。問責決議を可決したからといって、衆議院の不信任決議のように法的効果があるわけではありませんが、ただ単に悪うございましたで済むのかどうかは別にして、それはそれとしてきちんと対応していくことが定着してくれればいいと思います。あともう一つ、問責決議についてはかなり慎重にやるべきだろうと思います。これまでの例では問責決議が可決されれば、結果として少なくとも大臣を辞めさせるなり、内閣総理大臣の場合は、すぐにではないにしても、最終的には辞めるか解散しているわけですから。政権交代により、2大政党がともに野党第一党・与党第一党を経験したわけですから、もし万が一また政権交代が起こっても、恨み骨髄で、また同じようなことをやりだしたらどうにもならないので、そこは節度を持って大人になってやってもらいたいと思います。問責決議は国会における決議ですから、してはダメとは言えないので、国会の中の皆さんの話し合いの中で、ルールのようなものを考えてはどうかと私は思っています。

(学生)修正協議でいろいろ議論して合意していくのは民主主義の形ではよいと言えますが、与党のダメージを狙った法案の核となる重要な文言を抜いていくような修正を野党がしてきた場合、与党としてはどうすべきなのでしょうか。

(大蔵)修正協議は議員が中心となって行いますが、与党としては当然政府側の意見も聞きながら、政府の出した法案との調整をつけながらやっています。協議では、これは飲めないなどと意見を述べたりしていると思いますが、何か公式にきちんとこうしなければいけないというルールがあるわけではありません。意見を述べ合い、最終的には妥協が生まれることもあるので、結果として重要な文言が抜かれるような法律ができることもあり得ると思います。できた法律にまずいところがあれば、また直すしかないのですが、法律はすべて細かいところまで書くかという問題もあると思います。先ほどの例にあった被災地以外のところへお金が振り向けられるかどうかということは、別にそんなことしていいなどと法律のどこにも書いていません。ただその辺の限度をわきまえるという意味では、法を執行する行政の責任でもあるし、それを認めてしまった政府の責任でもあると思います。法律はどうしても与野党の妥協により作られることもあるので、政府がその下にいろいろな政省令を作る際、その辺はきちんと線を引くようなことをやらなければいけないだろうと思います。今回の復興基本法の修正時の考え方には、今回の震災では被災地だけでなく他にもかなり影響があって、被災地を奮い立たせるためには日本全体が奮い立つものを考えなければいけないという考え方もなかったわけではないと思うのです。それがあまりに過度にいってしまい、見た目にもいかがなものかと見えるのが問題という気がします。 19 兆円というお金は降って湧いてくるものではなく、増税して産み出すものなので、そこのところは十分考える必要があると思います。

(学生)復興予算について、国民は東北の被災地に使われるものと思っています。それが違っているなら、なぜ説明をしないのか。マスコミ報道で初めて知ったということでは説明不足であり問題ではないか。

(大蔵)そうですね。本当は財政に余裕があれば、例えば被災地以外の災害対策など、一般会計の予算でやるのが当たり前だろうと思います。必要なのは分かっているが、実際には税収や何やらいろいろ考えると、一般会計でそれだけ伸びをつけるのは難しいということがあって、震災復興に付随する形ででもできるのであればやりたい。ただそのことについての一般の人への説明が、確かに少ないままに、そのような状況になってしまったということもあると私も思います。

ただこれは別に初めてのことではないのです。自民党政権時代でも、いろいろな予算を付ける時に、例えばこういう目的のための予算だといって、実際は使われるところはかなり多方面に渡るなどということはよくあることでした。各省は予算要求をする時に、何とか工夫してお金を確保しようとしますが、予算の使われ方をきちんと見ていかなければいけない。見た上でどうしても当初目的を越えた使い方をする必要があれば、そういう説明するのは当然の話だと私は思います。

(学生)修正協議により成立した法律の説明責任はどこにあるのですか。

(大蔵)修正案は、修正協議により最終的に合意を作ったのですから、委員会では修正に関わった議員がその説明をします。その時点の説明責任は修正案を提出した議員にあるわけですが、法律ができあがってしまうと、できた法律を執行するため、担当大臣が署名しますので、あとは政府がその法律について責任を持つことになるのです。ただそれは執行の責任ですから、できた法律が悪かった場合は、内閣または議員がその法律に対する修正案を提出するなり、新たな法律を出し直すなりすることになります。

(学生)今、法律の執行のところの批判が世の中で多く出ているのではないかと思います。

(大蔵)先ほど言いましたように、法律にはそんな細かくは書いていないのです。法律の制定後、実際はどこにどのようにお金をつけるかとか、具体的に何をするかというところは、法律は大きく規定をしているだけなのです。法律の執行の細かい部分については批判があるというのは当然あり得ることで、政府の責任においてきちんと対応しなければいけないと思います。

 


2012年10月19日−第5回「ねじれ国会の運営」 ホーム講義録目次前へ次へ