2014年11月4日

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平成26年11月4日
衆議院法務委員会  階猛議員テロ資金処罰法改正案についての討論
衆議院議員  階 猛


 
   私は、民主党・無所属クラブを代表し、内閣提出の公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案(以下「政府案」といいます。)に対する我が党の修正案(以下「修正案」といいます。)に主位的かつ積極的に賛成、政府案には予備的かつ消極的に賛成、の立場から討論を行います。

 はじめに、今日11月4日は、私の地元盛岡市出身で平民宰相として知られる原敬が、93年前に東京駅構内でテロリストの凶刃(きょうじん)に倒れ、65歳の生涯を閉じた日でもあります。政党政治の礎を築いた偉大な先人のご冥福をお祈り申し上げます。併せて、自らの主義主張を民主的手続きによらず、暴力や暴力による脅威によって実現せしめんとする卑劣極まりないテロリズムを許してはなりません。原敬閣下の悲劇を繰り返さないためにも、我が党は各党各会派の皆様と協力し、国内外のテロ廃絶に向け全力を尽くすことをここに誓います。

 
   本題に入ります。政府案は、国際機関であるFATFが主導するテロ対策の国際的取り組みに日本も参加し、きめ細かい包囲網を構築しようという目的に基づいています。かかる目的は是認できますが、FATFの意見がすべて正しいとは限りません。目的の正当性と手段の相当性は別であり、前者が認められても後者が認められない場合は往にしてあります。特に本件のように刑事罰の範囲を拡大する場合には、国家権力が過度に国民の身体や行動の自由を制約しないよう、目的が正当であってもそれを達成するための手段が相当であるかにつき、慎重な検討が必要です。

 かかる見地から政府案を検討するに、政府案は、現行法に定めるテロの予備行為の幇助のみならず、その幇助、そのまた幇助と刑法の共犯規定が想定していない行為類型を独立罪として処罰しようとするものです。処罰範囲があまりにも広過ぎ、行為者にとって不意打ちとなる危険があります。刑罰法規の謙抑性と明確性の原則に反し、国家権力が過度に国民の身体や行動の自由を制約するおそれがあります。
他方、修正案は、テロ企図者への支援行為を厳格に取り締まりつつ、国民の身体や行動の自由にも配慮する見地から、いわゆる第1次協力者および準第1次協力者の行為に限って従来よりも処罰範囲を拡大しようとするものであります。なお、修正案の下でも、第1次協力者がテロ企図者によるテロ行為を容易にするための資金等の提供行為に着手すれば、第2次協力者以降の者は刑法に定める幇助等の共犯規定で処罰可能であり、改正の目的は十分に達成できます。

 逆に第1次協力者が実行に着手しなければ、テロ支援の具体的危険が現実化しているとは評価できず、第2次協力者以降の者を処罰する必要性はないと考えます。また、今国会において内閣から別途提出されている、いわゆるテロ資金凍結法案につき、我が党も現時点で賛成の方向です。政府としては、同法案と修正案の可決成立をもってFATFと折衝し、了解を得るべきです。

 さらに、現行法の成立当時には存在しなかった特定秘密保護法の施行が目前に迫っていることも考慮しなくてはなりません。政府案で新たに処罰対象となった事件の刑事司法手続においては、テロ企図者によるテロ予備行為の方法や態様に関する事実が重要な争点となることが想定されます。しかし、本委員会での政府答弁によると、かかる事実も特定秘密に指定される場合があり、仮に公判前整理手続きが行われて裁判所から証拠開示命令が発せられても特定秘密に指定された証拠資料は開示しない場合があるとのことです。

 政府は、検察官は有罪を得るために公訴を提起しているのだから必要な証拠は積極的に開示される旨の答弁をしましたが、無罪を得るための証拠が開示されなければ被告人や弁護人にとって意味がありません。このような恣意的な証拠開示の可能性が残ったままで政府案を成立させることは、適正手続の保障を定める憲法31条との関係でも問題があります。

 これに関し、上川法務大臣は、裁判所の訴訟指揮や検察官の開示命令への対応が適切になされるから問題ないかのような答弁をされました。しかし、上川大臣は、公職選挙管理法の恣意的かつ独善的な解釈によって法の運用に不信と混乱を生ぜしめた松島前大臣の後任です。にもかかわらず、法のグレーゾーンを積極的に解消しようとせず安易に運用に委ねるのであれば、あまりに無自覚、無責任だと言わざるを得ません。

 以上の諸点に鑑みれば、修正案こそ、立法目的を達成するための相当かつ最善な手段を定めており、松島前大臣のもとで失われた法務省の名誉を回復するためにも成立させるべきものと確信します。何とぞ委員各位のご賛同を賜りますようお願いいたします。

 なお、修正案が不幸にも否決された場合には、上川大臣をはじめとする政府関係者において我が党が提起した疑問点に誠実に向き合い、参議院での審議を通じて修正も含めた柔軟な対応を取ることを強く要請しつつ、政府案に不本意ではありますが賛成することといたします。


2014年11月4日 2014年11月4日 階猛議員テロ資金処罰法改正案についての討論

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