2004年8月3日 >>会議録

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小泉総理のシーアイランド・サミット報告に対する代表質問(原稿)

民主党・新緑風会 江田 五月


第1.はじめに

このたび民主党・新緑風会の議員会長となりました江田五月です。会派を代表して、ただいまのご報告に関連して、小泉内閣総理大臣に質問します。

(災害ボランティア) 
まず冒頭、先日発生した集中豪雨災害でお亡くなりになった方々にお悔やみ申し上げ、第10号台風も含めて、被災された多くの方々に心からお見舞い申し上げます。子どもたちから国会議員に至るまで、老若男女を問わず多くの人々が、痛みを共有し、災害ボランティアとして現地に出向き、復旧や災害弱者支援を手伝っています。さらに多くの国民が、その情景をテレビで見て、心を動かされています。支えあいの社会の基盤が、政治とは別のところで、確実に育ってきているのに、政治は何をしているのかと、自問しています。小泉さん、あなたはどのような感想をもたれましたか、伺います。

(サミット出席の感想)
小泉さん、あなたの今日の報告は、シーアイランド・サミットに出掛けて、多くの要人と意見交換されたというものでした。その結果、あなたはどのような感想をもたれたのでしょうか。例えば、日本の自殺率は、欧米先進国と比較すると、飛びぬけて高く、イギリスの3倍以上です。合計特殊出生率も1.29とほぼ最低で、未だに減少傾向に歯止めがかかっていません。食料自給率は40%で、農業をこれほどないがしろにしている国が他にありますか。ホームレスはどうでしょう。これが日本の政治の結果なのであります。サミット参加国はいずれも、もっともっと政治の可能性を大きく花開かせているのではありませんか。

小泉さん、企業は従業員をリストラ出来るでしょう。しかし国は、国民をリストラ出来ません。嬉しい縁であっても悲しい縁であっても、縁あってこの国に生活を構えた人はみな、私たちの仲間なのです。あなたはサミットに出席し他国の指導者と会われて、自殺や出生率など、自国の国民生活の現状について何か感じるところはなかったのか、お伺いします。


第2.参院選を終わって

(参議院選総括)
さて、先日の参議院選挙で、私たち民主党は公認で50議席を得、改選議席では第一党となりました。また比例代表では2,113万票強を獲得し、自民党に434万票もの差をつけ、昨年の総選挙に続いて再び第一党となりました。与野党で見ると、改選議席は、与党は60議席、野党は61議席。比例代表でも野党が300万票も多く、与党23議席に対し、野党は25議席です。

そこで質問します。自民党は、そして与党は、今回の参院選に勝ったのですか負けたのですか。非改選を含めた数のことを聞いてません。今回の選挙結果です。あなたの認識を、明確にお聞かせください。その理由も答弁いただきたい。

また、この選挙では、三年間の小泉政治の信任が問われました。とりわけ年金制度改革、自衛隊の多国籍軍参加などが争点でした。そこで、この選挙結果で示された民意をどう受け止めるのか、自らの政治責任にどうけじめをつけるのか、この民意を今後の政策選択や政治運営にどう反映させるのか、あるいはさせないのか、お答え下さい。

私たちはこの選挙結果により、民主党が政権交代への重い責任を負ったと受け止めています。もちろん政権交代は総選挙の課題であり、参議院は政権争奪の舞台ではありません。しかし、日本の政治の最大の問題は、政党政治のシステムを採っているのに、これまで有権者の選択によって政権交代が行われてこなかったことです。これは、衆参を越えた日本政治の課題です。そこで民主党は、参議院に籍を置く私たちを含め、この選挙の結果を生かして、次期総選挙での政権交代を目指します。

しかし私たち参議院の民主党・新緑風会は、衆議院での攻防と同じことを、参議院で繰り返すことが良いとは思っていません。参議院での与野党の論戦は、形式も内容も、衆議院とは違ったものであるべきだと思います。このところ何回か、衆議院で議論が十分熟さないまま、案件が参議院に送られてきて、参議院で先鋭な対決が繰り広げられたことは、極めて残念です。この点の直接の責任は、もちろん参議院側ですが、小泉さん、あなたは自民党の総裁ですから、衆議院でヒートアップした対決案件であっても、参議院では充分議論を尽くし、高度な判断から良識を発揮して合意を得る努力されるかどうか、参院選を終わったばかりの今なので、あえて伺っておきます。もちろん私たちも、努力します。


第3.自民党は変わったか−政治とカネ

(日歯連事件)
小泉さん、あなたは、高い世論の支持をバックに、自民党内の抵抗勢力を押さえ込んで、政権を運営して来られました。「自民党をぶっ壊す」という言葉にしびれた国民も結構多かったと思います。そう言えば、「自民党は変わった」というコピーもありましたね。

その自民党は、あなたの三年間で、何か変わったのですか。何も変わっていないことを衝撃的に示す事件が、日歯連疑惑です。橋本元首相は、2001年7月に、超豪華料亭で、派閥の最高幹部である当時の青木参議院幹事長、野中元幹事長とともに、当時の臼田日歯連会長と内田常任理事と会食し、一億円の小切手を受け取りました。しかしこれは、日歯連の収支報告書にも橋本元首相が会長をつとめていた平成研究会の収支報告書にも、記載されていませんでした。

日歯連はその理由として、再三要求したのに平成研から領収書を発行してもらえなかったとしています。領収書を発行しない、収支報告書に載せない、載せさせない。つまり巨額の、しかも使い放題の裏金を作ることが、自民党内で未だに行われているのです。自民党は、何も変わっていません。派閥もいろいろ、政治献金もいろいろ、事実解明は司直の手に任せるといった、他人事のような答弁でなく、小泉さん、あなたの率直なご感想をお聞きしたい。

橋本さんは、派閥の会長をやめ、派閥からも抜け、小選挙区から立候補しないことを表明されました。しかし、橋本さんをはじめ、派閥の幹部は誰も、この件の記憶がないのだそうです。超豪華料亭ですよ。一億円ですよ。幹部ばかりが勢揃いですよ。小泉さん、あなたもこんな出来事を忘れることが出来ますか。ところが自民党では、こんなことがまかり通るのです。司直の捜査も必要だと思いますが、政治家としての説明責任を果たすためにも、関係者の証人喚問を行う必要があります。小泉首相はどのように考えるのか、明確に答えていただきたい。

(政治資金規正法改正)
日歯連からの献金については、平成研以外にも、多くの政治資金収支報告書が訂正されました。現在の政治資金規正法では、個々の収支報告の内容が形式的に正しければ、ノーチェックです。また寄付や会費を出した側と受け取った側の記載が異なっていても、表だって問題にならなければ、何のチェックもありません。今回のように、過去の収入を一億円増額し、その分は翌年に繰り越されたとする訂正が認められるのであれば、何のために収支報告をしているのか分かりません。

民間においては、粉飾決算は厳しく処罰をされる行為です。政治の世界は別だとすることは出来ません。収支報告書の記載義務の強化、記載内容の確認システムづくりが必要と思いますが、この点について、小泉首相の考えを伺います。


第4.イラク問題

(多国籍軍参加表明)
さて小泉さん、あなたは、サミットに先立つ日米首脳会談において、自衛隊の多国籍軍参加を表明されました。国会や国民への説明は後回しで、ブッシュ大統領に言われて反射的に回答したという、誠に唐突な表明でしたね。それともこの表明の時点以前に、あなたは既に決断されていたのですか。そうならば、それはいつのことですか。そのことを、ブッシュさん以前に誰かに言われましたか。お答えください。

多国籍軍への自衛隊参加は、日本国内で、ずい分長く議論してきたテーマです。これまでは答えはノーでした。それは理由のあることだったはずです。今回の表明は、初めてこの態度を変えるのですから、まずは国民や国会に対して説明する責任があったはずです。それともあなたは、自分が決断しさえすれば、それですべてで、意見が同じ者はもとより、意見の違うものにも何の説明も要らないというのですか。あなたは説明をし議論を尽くすことの価値をどう考えているのですか。お答えください。

(現地情勢と法解釈)
懸念していたとおり、イラクの治安情勢は極めて悪化しています。主権移譲から一ヶ月となった7月28日にも、120人以上の死者が出たと報じられました。主権移譲といっても、イラク国民の民意に正統性の根拠を持つ政府の樹立はまだ見えてこず、逆に現在のイラク情勢は、全土が戦闘地域と化しています。「非戦闘地域」に自衛隊を派遣するという、イラク特措法が定める派遣条件を満たす地域はありません。まして現状での多国籍軍への自衛隊参加など、到底法が予定するかたちではありえません。とんでもないことです。サマワに展開する自衛隊は、撤退すべきです。いかがですか。

(大量破壊兵器)
そもそもイラク戦争の大義は、フセイン政権が大量破壊兵器を保有していたとされたことでした。そして小泉さんたちは、イラク側に大量破壊兵器のないことを立証する責任があると言い続けてきましたね。ところが今、米英両国で、この点に関する両国の情報当局の情報は信頼できないのではないかと、政治問題になっております。日本は、独自情報の収集や分析もなく、単に米英両国の危うい情報を鵜呑みにして、専ら他力本願で、いち早くイラク攻撃を支持したのではありませんか。小泉さん、ここははっきりと、イラクの大量破壊兵器保有をどのような根拠で認定したのか、あるいは他国の情報の鵜呑みなのか、端的にお答え下さい。


第5.年金問題

(改正年金法の問題点)
参院選の最大の争点であった年金改革について伺います。

改正年金法は負担の上限と給付の下限を長期的に定めたことを看板としていましたが、その数字がまやかしであることが、国会審議を通じて明らかになり、改正法に対する国民の信用は失われていました。そして成立後に追い討ちをかけるように、年金財政を見通すための最も重要なデータである合計特殊出生率につき、1.29と言う数字が発表されました。なぜ審議中に隠していたのですか。こんな数字を隠していて、出血を止めるなどと、よく言えたものですね。

1.29の衝撃は、単に年金問題だけでなく、日本社会の根幹を大きく揺さぶっています。年金について最も重要な点は、改正年金法で政府が国民に対して行った約束が、果たせなくなっていることです。いわゆる「中位」の人口推計は、前提にし得ないということです。改正年金法は、内容的に破綻しているのです。

その上選挙期間中に、改正法に過誤があることが判明しました。浅尾議員の指摘は、加給年金に係わる過誤でしたが、それ以外に40ヶ所という前代未聞の過誤が判明しました。小泉さん、あなたもびっくりされたことだろうと思います。ところが、あなたの部下は、この欠陥を「官報正誤」という事務手続きで修正しました。これによって、もとの法律では罰則を科されない人が、官報によって罰則を科されることになる。これは罪刑法定主義の否定であり、立法府の自殺です。

今回の改正年金法は、形式的にも内容的にも、破綻しています。またその過程において、政府の信頼は地に墜ち、国会は瀕死の状態に陥っています。わたくしたち民主党は、参議院選挙を通じて「やり直し」を国民に訴えました。そして、この約束を果たすため、今国会の冒頭に衆参両院で「改正年金法廃止法案」を提出しました。国民が見守っています。

(これからの方向)
そこで小泉首相に改めて伺います。

国民は改正年金法に対して強い不満を抱き、選挙でNOの答を出しました。この結果をあなたはどう受け止めておられるのか、国民に現在の心境を率直にお話し下さい。

小泉首相、あなたに言われるまでもなく、私たちも三党合意のことはよく分かっています。年金改革も社会保障全体の改革も、与党だけでも野党だけでも、できるものではありません。民主党は、この与野党協議を実りあるものにしたいと思っています。しかしそのためには、与党が自分たちの考えを、もう少しはっきりさせてもらわないと、何を協議するかが定まらないのです。既に民主党は、年金改革はもとより、介護も医療も基本的方向を示しています。政府と与党も、一刻も早く、基本的方向を示してください。とりわけ選挙中から求めてきた「一元化に国民年金を含むのか、含まないのか」、「社会保障制度と消費税の関係をどうするのか」の二点について、早急に結論を出してください。お考えを伺います。

先日、細田官房長官は「小泉総理の任期中に、消費税の引き上げを決定することもあり得る」と発言しました。ところがその日の夕方には、小泉さん、あなたはこれを否定されましたね。政府として一体、消費税をどのように考えているのか、統一的な見解をお示し下さい。


第6.おわりに

(国会の会期)
私たちが提出した年金改革廃止法案を、小泉さん、あなたはどうされるつもりですか。国民が見ています。国会のことだからと、頬っかむりですか。法案いろいろですか。仮に反対だとしても、十分時間をとって審議を尽くすべきではありませんか。8日間という会期が、あなたのお答ですか。それとも、法案が出て来たのだから、再考されますか。

小泉政治の特徴は、国民の支持を頼りにしたところでしたよね。ところがあなたは、今回の選挙結果で世論の支持が自分を離れると、今度は世論に対して、まさに馬耳東風、馬の耳に念仏。結局は、今までの自民党政治と全く変わらない、国民無視の政治に戻ってしまったのであります。違いますか。

今挙げた課題はもとより、北朝鮮問題でもBSEでも、聞きたいことは山ほどあり、少なくとも一ヶ月以上の会期が必要です。たった8日間の国会にした政府・与党の姿勢は断じて容認できません。なぜ正々堂々と、十分時間をとって論議することを避けるのか。国会を何だと思っているのか。意見や立場が異なっていても、「話せば分かる」という犬養木堂さんの教えに、思うところはないのか。問答無用ですか。小泉首相から答弁をいただきたい。

(最後に)
小泉さん、あなたの姿勢で一番残念なことは、「どうせ答弁しても、あなた方は反対なんでしょ。だったら時間の無駄」という態度です。民主主義は、単なる形式ではありません。精神なのです。これだけわが国の内外に問題が山積しているのに、短い会期になったことを極めて残念に思います。小泉首相の指導力に、絶望的な思いでなお期待しつつ、質問を終わります。


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