1970/05/07

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63 衆議院・本会議


○江田三郎君 私は、日本社会党を代表して、安保、沖繩及び日中関係を中心とするわが国外交の重要問題について、総理大臣に質問いたします。

 日本の議会政治の歴史に一大汚点を残した日の十年目が間もなくやってまいります。十年前の五月十九日、この衆議院において自民党がどのようにして安保条約の通過をはかったかは、今日なお国民の記憶に新たでございます。それは議会政治の完全な否定でした。なりふりかまわぬ暴力でした。それほどの無法な手段に訴える以外に、国民の間の根強い反対を押し切ることができなかったのが、いまの安保条約であります。国民の批判をかわすために、当時、政府・自民党は、占領中に結ばれた旧条約が無期限であったのに対して、新条約は十年の期限をつけた、これは大きな進歩であると宣伝いたしました。安保改定の懸案が片づいて、次はいよいよ日中関係打開に取り組む番だという口上も、よく聞かされました。だが、この両方ともその場限りのごまかしであったことは、いまや明らかであります。(拍手)

 政府・自民党は昨年十月、安保条約をこのまま相当長期にわたって自動延長する方針を決定いたしました。十年の期限が到来する一九七〇年六月を前に、国民の間に何らかの形で条約の再検討を求める声が高かったにもかかわらず、あなた方はこれにまじめな考慮を払わず、目はもっぱらワシントンに向いていたのであります。(拍手)国民は、条約を延長するかどうかについて、またもや意思を表明する機会を奪われようとしております。しかも、自動延長とはいいながら、昨年十一月の日米共同声明によって条約が実質上拡大強化されたことは、わが党が繰り返し指摘したとおりであり、こうしたやり方は国民無視もはなはだしいといわなければなりません。(拍手)

 一方、日中関係の現状は、ごらんのとおりであり、十年の月日がむなしく過ぎ去ってしまいました。この間に政府は、日中関係改善のためのほんの小さな努力でもしたでしょうか。何一つしなかったばかりか、佐藤内閣になってからはむしろ障害を固定化することに努力したのであります。(拍手)総理は、日中問題は七〇年代最大の課題と言われますが、政府・自民党の姿勢がいまのままであるとすれば、次の十年もまたむなしく過ぎるほかはないでしょう。

 この国会を通じて、私たちは七〇年代日本外交のビジョンを総理からついに聞くことはできませんでした。日米会談の結果に対する疑問を解いてもらうこともできませんでした。巨大な経済力を持つに至った日本が、国際的に一体どのような進路をとるのか。総理は国会中あまたの発言をなさいましたが、肝心のこの問題には明快な答えを出しておられません。ことばとしてはいろいろ聞かされましたが、私が言うのは、佐藤内閣の実際の政策や行動が全体として何を目ざし、どこへ向かおうとするかについて、納得のいく説明がなかったということであります。

 海外においても、日本の進路に対する猜疑や不安や警戒が強まっていることは、総理も御承知のとおりです。総理が平和主義に徹すると繰り返し言明されるにもかかわらず、中国や北朝鮮は、日本は軍国主義だと非難する。韓国や東南アジア諸国の間にも、日米共同声明以後、日本の意図に対する警戒の論調が再び頭をもたげております。アメリカの議会でも、日本における新しい軍国主義の要素に注意を促す報告書が、下院外交委員会の調査団によって提出されております。海外に広がるこれらの反応ぶりは、総理にしてみればはなはだ心外なことかもしれません。しかし、いかに心外であろうと、日本の行き方に対する不安と警戒の念が海外に、特にアジア諸国の間に生じつつあることは、厳然たる事実であります。(拍手)それらの見方は、誤解に基づくか、ないしは意図的なものであると総理はおっしゃりたいところでしょう。しかし、私はそうは思いません。日本国民の多くもそう思わないでしょう。軍国主義とは何ぞやということばのせんさくは政治家の仕事ではございません。私たちは事実をあるがままに見なければなりません。佐藤内閣の内外政策、とりわけ日米共同声明以後に明らかになりつつある政策の方向には、平和憲法の国是に反し、日本の将来を誤るおそれのある危険なきざしが濃いことは、いまや自民党の一部の諸君をすら含めて、国民多数の共通の認識になりつつあります。(拍手)

 政府・自民党は、いわゆる七〇年の選択は終わったという印象を広めるのに懸命のようです。昨年末総選挙の結果がそのためのかっこうのよりどころとされ、これによって、安保条約の長期堅持の方針も、日米共同声明も、いずれも国民の支持を取りつけたと解釈しているようであります。だが、実際は断じてそうではありません。国民の間では、わが党の条約の廃棄のほか、極東条項の廃止や、いわゆる段階的解消に至るまで、考え方はさまざまでありますが、何らかの形において安保体制をここで考え直すべきだとする意見が圧倒的に多数を占めていることは、客観的な事実であります。(拍手)安保体制をとにかく弱める方向に持っていくことが、日中関係の打開とともに、七〇年代日本外交の核心であるというのが、国民世論の大勢であります。現行条約の長期堅持を主張する者は明らかに少数であり、ましてや、日米共同声明によってなされたごとき条約の拡大強化を支持する者に至っては、ほんの一握りの少数派にすぎません。それら一握りの人々の独断によって、条約再検討の最初の機会が無為に過ごされることは、許すことができません。七〇年問題は決して終わってはいないのであります。

 わが党は、日米共同声明によって安保条約が事実上新条約にひとしい変質を遂げた以上、その延長にはあらためて国会の承認を要すると、かねがね主張してまいりましたが、政府はこれまで、この当然の主張に全く耳をかそうとはいたしません。私は、ここであらためて総理に対し、安保条約の延長案及び日米共同声明を一括してこの国会に提出して審議を求めることを要求いたします。(拍手)

 日米共同声明の第四項後半部分において、日米は、沖繩返還予定時に至るもベトナム和平が実現していない場合は、アメリカのベトナム政策の履行に影響を及ぼすことなく沖繩返還が実現されるよう、そのときの情勢に照らして十分協議することに合意しております。このいわゆるベトナム協議条項に関し、外務大臣は、日米会談直後に発表した公式説明において、「返還時になっても平和が実現していないという事態は、実際問題としてまず起こり得ないものと考えます」と言っております。同じ趣旨は、その後も国会答弁等を通じ、総理や外務大臣から何度も繰り返されています。実際問題としてまず起こり得ないとは、たいへんな確信であります。よほどの根拠があったに違いありません。それでなければ、責任ある政府が、これほどの重大問題について、これほど断定的な見通しを国民に公表できるはずがありません。総理は、インドシナ情勢最近の発展に照らして、当時のベトナム和平の見通しが今日も依然として正しいとお考えか、それとも目算の狂いをお認めになりますか。

 また、政府は、アメリカのカンボジア介入と北爆再開を支持するのかどうか、アメリカの介入は、国際法及び国際正義の観念に照らして正当化され得るものであるかどうか、日本政府のはっきりとした立場を総理から伺いたいと思います。(拍手)

 アメリカの今回の行動がカンボジアに対する明白な侵略行為であり、戦争のインドシナ半島全域への拡大をもたらすものであることは、全く議論の余地がないと思います。カンボジア介入がアメリカにとって自衛行動として正当化されるならば――政府にはそういう意見が有力に行なわれていると新聞には伝えられておりますが――もしそうだとしたら、およそ大国のあるゆる軍事介入は、ことごとく自衛行動として正当化されることになってしまうのであります。(拍手)

 しかし、民族解放の大義を軍事力で制圧し去ることの絶対に不可能であるゆえんは、すでにベトナム戦争で証明済みであります。カンボジア領に侵入した米軍は、ベトナムでやったと同じように、無差別の焦土作戦に訴え、村々を次々に焼き払っていると、前戦からの報道は伝えています。侵入者に対する憎しみをかきたてることによって、アメリカは、インドシナ全土で、解放闘争の火をあおり立てる自殺的行動を展開しているのであります。(拍手)軍部を先頭とするこのばかげた野蛮なばくちにアメリカが固執する限り、ニクソン大統領が何だび声明を繰り返しても、一九七二年までに和平が実現している見通しはきわめて少ないのではないでしょうか。

 そうだとすれば、返還後の沖繩からの米軍出撃を認めるかいなかは、政府の言うごとく、実際にはまず起こり得ない問題あるいはそのときになって考えればよい問題ではなくて、日本にとってきわめて現実的、きわめて重大な問題になっているのであります。政府がもしアメリカのインドシナにおける行動を完全に支持するとすれば、出撃の事前協議に対してノーと答えることは、それこそ実際問題としてまず起こり得ないことであります。もし出撃に同意を与えれば、日本は米軍の行動についてアメリカと完全な共同責任を負わなければなりません。この場合、米軍の戦争行為に日本政府の意思が加わるわけでありますから、これはきわめて明白な憲法違反であります。(拍手)そのようなことは絶対にしない、返還後の沖繩からのベトナム出撃に日本政府が同意を与えることは絶対にない、このことをあらかじめ国民に誓約されることは、総理大臣としての義務であると思います。(拍手)日本は、いままでも、すでに、補給、中継などの面でアメリカのベトナム作戦に協力させられております。このことが、アジアにおける日本のあるべき姿をどれほどそこなっているか、はかり知れないものがあります。この上さらに、直接的な加担はいかなることがあろうとも避けなければなりません。共同声明にいう再協議が何を意味するにせよ、米軍出撃への同意は万一にもあり得ないことを、ここではっきり言明していただきたい。(拍手)

 なお、今月中旬に予定されるカンボジア問題に関するアジア諸国会議に政府は参加の意向といわれますが、参加予定国はどことどこなのか。会議の目的、議題及びその効果はどういうことか。対立する立場のすべてが会議に代表されることになるのか、それとも一方に偏した構成になるのか。あとの場合には、会議は必然的に一方の側のあと押しをする結果となります。アメリカが武力介入をしたいまとなっては、これに対するはっきりした態度を打ち出すのでない限り、何らかの決議を取りまとめてみたところで無意味ではないでしょうか。もし、アメリカの行動に何らかの正当化の根拠を与えることにでもなれば、アジアの平和を求めて高まりつつある国際世論に挑戦をする有害なことになるのであり、同時に、わが国のアメリカ追随の姿勢を世界にさらけ出すことになるのであります。私は、日本が会議に参加することは取りやめるべきだと思いますが、総理はどうお考えになりますか。(拍手)

 日米共同声明第四項の前半、韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要であると総理が述べた部分、及び台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素であると総理が述べた部分が、ともにきわめて重大な問題をはらむことは、わが党がこれまであらゆる機会に指摘してきたとおりであります。これはナショナル・プレスクラブにおける総理演説中の事前協議に関する言明とともに、日米安保条約が、米韓及び米台条約との分かちがたい連係を形づくり、両条約につながるものとなったことの公式の確認であります。中国及び北朝鮮がこのことに強く反発していることは御承知のとおりです。さらに韓国においても、共同声明のこの部分は微妙な反応を引き起こし、韓国に対する日本の関心表明をありがた迷惑とし、あるいは不愉快とする新聞論調も見られます。これらの反応のすべてを、総理は先方の誤解ないし曲解と片づけたいのかもしれませんが、しかし、その前に総理は、それらの諸国が、かつて日本との間に持った屈辱の歴史を、そうしてその記憶のきびしさを思い起こさなければならぬと思います。(拍手)

 総理は、国会答弁において、韓国あるいは台湾地域の安全が日本の安全にとって重要であるというのは、しごく当然のことをそのまま述べたのだと繰り返して述べておられますが、しかし、右のような認識を日本政府が公式に声明したことはこれまでなかったのであります。また、従来は、日本基地からそれらの地域への米軍出撃は、かりに事前協議があっても日本はこれに同意を与えないだろうとの印象が内外に支配的でございました。ところが今度は、積極的に出撃に同意をする姿勢を示されているわけであります。このことからいたしまして、日米共同声明の以前と以後とでは、安保条約の実質に重大な変化が生じていることは疑問の余地がないではありませんか。これまでの国会審議を通じて、総理はいまだにこの違いをはっきりお認めにならないのでありますが、ここでもう一度確かめておきたいと思います。

 台湾地域への言及を中国が内政干渉と受け取って激しく反発するのは、先方の立場としてはすこぶる理由のあることだと思います。総理は、プレスクラブ演説の中で、アメリカが台湾防衛義務を履行しなければならない事態が万一起こった場合云々と述べたあとで、最後に、「幸いにしてそのような事態は予見されないのであります。」とつけ加えています。予見されないとわざわざ断わりながら、一体何の必要があって、このことに言及しなければならなかったのか。これが中国の最も重視する原則上の立場に触れて激しい反発を引き起こすことを日本政府はあらかじめ承知の上で、この一項を共同声明に加えたのか。もしそうだとすれば、佐藤内閣は日中関係改善に何ら興味を持たないことを国民に率直に告白すべきであります。他方、もし中国の反応を予見できなかったとすれば、その不明、その独善は救いがたいといわなければなりません。(拍手)

 日本は一体どこまでまじめに中国との関係改善を考えているのか、この点に中国が不信と疑惑を禁じ得ないところに、当面日中関係の根本問題があると思います。政府は、いまも総理が大使級会談をやりたいなどと言っております。あるいは郵便、気象などの政府間協定の着想も伝えられます。私は、しかし、それらのことは日中関係の目下の状況においては枝葉末節の問題だと思います。大使会談がかりに開かれたとしても、中国と国交を開くのかいなかについて当の日本側の腹がきまっていなければ、話の進みようがないではありませんか。肝心なのは政府が腹をきめるかどうかということなのであります。

 佐藤内閣は、しかし、逆の方向に腹をきめつつあるのではないかという疑いを私どもは深くせざるを得ないのであります。(拍手)日中友好を口にしながら、その実は台湾との結びつきにますます深入りして、日中打開の障害物をみずから求めて高くしょうとしているのではないかということであります。日米共同声明における言及はその一つの例であります。もし総理がまじめに日中問題の解決を目ざされているならば、台湾との結びつきをこれ以上深めることは一切差し控えるのが当然と信じますが、どうお考えになりますかお尋ねしたい。(拍手)

 今年一月、日本政府は台湾に対し、中国との大使会談や中国向け輸出に対する輸出入銀行の借款供与はやらないことを保証したとの報道がありましたが、それは事実なのかどうなのか。

 台湾に対する第二次円借款について、総理は、先日蒋経国氏との会談の際、台湾の要請にすこぶる好意的な反応を示されたといわれますが、総理は先方の求めに気前よく応ずるおつもりなのか。一体先方の要請額は幾らであり、総理の心づもりではどの程度のことをお考えになっておるのか。

 私は、こういうことを重ねていくたびに日中間の障害物が一つまた一つふえていくだけだと思うのでありますが、総理はそういうことは絶対にないと確信されているのでしょうか。(拍手)それとも、そういう結果になってもしかたがないと割り切っておられるのでしょうか。その点の掘り下げたお考えを聞かしていただきたい。

 私は、この国会の経過を顧みて、七〇年代の日本の国際的進路について、国民の平和への希望を新たにするようなものが何一つ打ち出されなかったことを心から残念に思います。政府は、日米共同声明を金科玉条として、これを七〇年代外交の基調とする考えと見受けられます。政府側の国会答弁の中には、日本及び周辺区域における制空権、制海権の優越を目ざすとか、国連に協力する平和維持の目的のための自衛隊の海外派遣は憲法上は問題ないなどと、重大な発言が幾つもありました。これらは全体として、日本の政治にあらわれている一つの方向、すなわち平和憲法たな上げへの新たな勢いを映し出しているのだと思うのであります。六〇年安保改定の責任者岸元首相は、日米会談と同じ時期に台北にあって、日本と台湾との連携強化を画策し、つい先ごろはソウルにおいて日本国憲法第九条の改正を説くという、まことに端促すぺからざる活躍ぶりであります。だが、国民は、六〇年安保の亡霊が七〇年代の日本の進路を左右し続けることは許さないでしょう。(拍手)

 平和憲法の本来の姿に立ち戻って、安保条約及び日米共同声明に国民的再検討を加えるとともに、日中国交回復に向かってまっすぐに進んでいく国の姿勢を確立すること、そこに七〇年代日本の外交の出発点があると私は信ずるものであります。最初に述べました海外における対日警戒の風潮のごときも、それによって初めて確実に消していくことができるでありましょう。

 総理の所信をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)

○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 江田君にお答えいたします。
 まず、安全保障条約と日米共同声明を再検討せよとの御意見でありますが、昨年十二月の総選挙で、われわれは日米共同声明の中に盛られた安保条約の堅持と沖繩返還問題を二つの大きな争点として国民の信を問うたのではなかったでしょうか。(拍手)その結果、明らかな審判が下され、広範な国民的合意の存するところが歴然となったのではないでしょうか。(拍手)この問題は、これ以上多くを申し上げる必要はないと私は思います。社会党の立場は立場として、国内にいたずらな対立抗争が生じないよう御協力いただきたいと思います。

 なお、安保条約の内容は何ら変わりはありませんから、重ねて誤解のないよう申し上げておきますし、また、あらためて国会に提出して国会の承認を求める必要はないように思います。この点は、安保条約の規定どおり、私どもは、いわゆる自動延長、その形で十分だ、かように考えております。(拍手)

 また、いままでもたびたび、予算委員会その他で皆さん方からこの問題についてお尋ねの機会はあったはずであります。政府は何ら答えないと言われますが、私は、皆さん方のお尋ねに対しましては、丁寧に、また心から親切にお答えをしておるつもりであります。(拍手)ただいま、もう会期の終わりになりまして、いま時分この問題が提出されておりますが、私はむしろ、もうこの問題は社会党の方も御了承願ったことだ、かように実はいままで考えておったのであります。しかし、あらためて、ただいまのようなお尋ねがありますから、以上お答えしたように御了承お願いいたします。

 次に、海外諸国のわが国への警戒心についての問題についてお答えいたします。
 有名な未来学者のハーマン・カーン氏がつい四、五年前、二十一世紀は日本の世紀であるという発言をしたとき、日本人の多くは、鬼面人を驚かす論法であるという印象を受けたはずであります。ところが、日ならずして、あるいはそういうことになるかもしれないという自信を日本人自身が抱くようになりました。灯台もと暗し等のことわざどおり、わが国の経済的な発展、この発展ぶりにつきましては、国内よりむしろ諸外国のほうが、かなり前から注目していたようであります。ことに、海外で働く第一線のビジネスマンたちのバイタリティーは、よい意味でも、また悪い意味でも評価され、エコノミックアニマルなどというありがたくないあだ名ではね返ってくる結果ともなったのであります。いずれにしろ、日本の実力が海外で認められると同時に、国際的な風当たりも強くなってきているこのごろであります。世界第一の経済力を持っている米国におきましても、これまた例外ではありません。

 私が七〇年代の外交ビジョンを示さなかったとの御批判でありましたが、私は、七〇年代は内政の年であると、はっきり申し上げております。つまり、一九六〇年代が、経済の量的拡大によって問題を解決した十年間であるとすれば、一九七〇年代は、量的な拡大を背景として内面の充実をはかりつつ、国際的な責任を果たすべき十年間であると考えているものであります。そういう意味で、ますます国際的な理解を深める必要があると思う次第であります。

 次に、カンボジア問題を含め、インドシナ半島の情勢はきわめて流動的であり、事態の推移を見守る必要があります。しかし、いずれにせよ、この問題が沖繩に関する私とニクソン大統領との間の合意に影響を与えることはありません。西村君の質問にお答えしたとおりであります。そして、施政権返還後の沖繩には、日米安保条約及びその関連取りきめがそのまま適用され、事前協議につきましても、本土の場合と全く同様に運用されることは、これまでも繰り返し述べたとおりであります。

 今回のカンボジア問題に関する客観的事実を取り上げてみると、まず、久しく以前から北越、ベトコンによるカンボジア領の不法占拠があり、そこからする南ベトナムヘの攻撃が激化したため、ニクソン大統領は、南ベトナムにおける米軍兵士及びベトナム人の生命を保護する、ベトナム化を促進させる、米軍の撤兵を順調に進める、などの見地から今回の措置をとり、かつ、短期間に終了することを強調しております。

 これに対して、ロン・ノル・カンボジア首相は、去る四日声明を発表し、ニクソン見解を尊重し、同大統領に謝意を表明しております。

 北越、ベトコンのカンボジアの不法占拠については、シアヌーク殿下も、在任中しばしば警告を発しております。しかし、わが国としては、戦火の拡大は遺憾であり、このような事態が一日も早く収拾されることを強く希望するものであります。

 また、北爆については、ただいま詳細が不明なのでこれを論評する立場でありませんが、これが再び戦闘の拡大に向かうこととならず、双方が。ハリ会談において、忍耐強い努力を今後とも続けることを願うものであります。

 いろいろと仮定の問題を提案されて、私の答弁を求められましたが、ただいまの状態で、仮定の問題についての御提案、これは私はお答えはいたしません。この際、それはお預かりしておきます。

 次に、江田君は、インドネシアが提唱するようなアジア諸国会議には参加すべきでないとの御意味でありますが、私は、むしろ日本は進んで参加すべきだと考えております。(拍手)私は、すべてのアジアの国々は、イデオロギーを離れて、最近のカンボジア情勢を憂慮し、一日も早く問題が平和的に解決されることを念願していると思います。じみちな平和のためのあらゆる努力こそ、やがてアジアに恒久的平和をもたらすゆえんであると確信するものでありまして、平和に徹するわが国としては、カンボジア問題についての平和的方途を探求するアジア諸国会議に参加することが、一そう重要であると思います。ただいままでにこの会議に参加すると確定しております国は、インドネシア、タイ国、豪州、ニュージーランド、マレーシア、日本であり、さらにまた、その範囲もなお拡大されるのではないかと思います。そうして、カンボジア情勢について十分意見の交換をし、戦火が拡大しないように、十分この会議を通じまして意見が戦わされる、そうして最終的な決定を見ることができればたいへんしあわせだ、かように思っております。

 次に、日中問題について、日米共同声明との関連でいろいろ御批判がありましたが、アジアの平和と安定が直接わが国の平和と安定につながる日本としては、朝鮮半島にせよ、台湾海峡にせよ、緊張が顕在化するような事態があるとすれば、これについて重大な関心を持たざるを得ないのは当然であります。一般論として御賛成なら、それでけっこうであります。

 日米共同声明におきましては、「韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要である」との認識が述べられており、また、「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」と述べております。さればこそ、わが国としては、緊張緩和に努力することがきわめて必要であると考えるのであります。この点は特に御理解いただいて、ただいまのような状態が起こらないように、国際緊張の緩和に、超党派的に御協力願いたいと思うのであります。(拍手)

 政府は、正常な国交関係を有する中華民国との友好関係は、今後とも深めてまいりますが、といって、わが国と中国大陸との関係のあり方について、中華民国に対し特別な保証を与えたことはありません。

 また、国府に対する第二次円借款については、公式の申し入れがあれば――これは申し入れがあればでございますが、プロジェクトごとに、ケース・バイ・ケースで慎重に検討する考えであります。ただいままでのところ、具体的な申し入れはございません。

 なお、日中関係の改善は、国際的な現実に即し、相互の立場を尊重し合って、一歩一歩積み重ね、積み上げていくことが、長期的な相互の友好関係をつくるゆえんである、かように私は考えております。

 最後に、七〇年代の外交姿勢についての御意見がありましたので申し上げますが、わが国外交の基本姿勢は、いまさら申し上げるまでもなく、平和憲法の精神にのっとり、政治、信条、社会制度の異なる国とも、内政不干渉と、相互に相手方の立場を尊重するという原則のもとで、あらゆる国々と仲よくすることであります。北京政府との関係につきましても例外ではありません。このため、私は、国際間の緊張緩和に努力しつつ、自由を守り、平和に徹する理念を貫き通す決意であります。(拍手)そうして、それこそ、六〇年代、七〇年代を問わず、わが国の外交のビジョンであると確信しているということを申し上げて、お答えといたします。(拍手)


1970/05/07

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