1970/02/21

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63 衆議院・予算委員会


○江田委員 先般の総選挙におきまして、私ども社会党が敗北をいたしましたが、これは、私どもは私どもなりにいろいろ反省をし、国民の期待に沿うように努力をしたいと考えております。しかし、同時に大切なことは、この選挙で二千万の人が棄権をしたということでありまして、これは歳末が忙しかったというようなこともありましょうが、しかし、何といっても政治不信の大きなあらわれだと受け取るほうが正しいと思うのであります。したがって、自民党が三百の議席をおとりになった。しかし、これを票数から見ていきますならば、七〇%以下の投票率の、その五〇%ということになると、わずか三五%の票しかとっていないということになるのでありまして、この点は、私は、自民党としてもよく考えていただかなければならず、さらにこの国民の政治不信ということに対しましては、各党が真剣に考えていかなければ、議会政治は墓穴を掘ることになると思うのであります。

 しかし、国会が始まりましての総理の答弁というのは、何か官僚のつくった作文を読み上げておるのじゃないのかというような批評がございます。やはり三百議席にあぐらを組んでいるのじゃないかという批評が新聞の上にも出ておるわけでありまして、私はただ総理の答弁だけでなくて、たとえばあの予算編成のときの陳情合戦をどのようにごらんになっておるのか。新聞を見ましても、役所の廊下にみやげものや酒のびんがころがっておる。ある新聞の解説によりますというと、昨年陳情に使った地方自治体の経費が約十億、ことしはあの予算の陳情に使われたものはそれに数倍するであろうということが書かれておるのでありまして、おそらく国民だれしもが苦々しい気持ちをもってこれを見たろうと思うのであります。そういうことについて、やはり政府・自民党として、もっとかようなことを押える措置をとるべきじゃないのか、そこにも私たちが非常に不満を感ずるのでありますが、あるいは続いて高級官僚の天下りが大々しく新聞に報道されまして、しかも、新たな公社・公団が設立されるということもございます。これを一体国民はどう見るだろうか。

 さらに私は、総理が民主主義の擁護なりあるいは社会道徳を云々されたり、さらには家庭のしつけまでを取り上げておられるのでありますが、そういう総理は、かねて問題になっておる政治資金規正法についてはどういう態度をおとりになるのか。あるいは議員の定数改善、これもまた今日世論の一致しておるところであると思うのでありますが、これに対してどういう態度をおとりになるのか。
 政治資金規正法につきましては、政府が提案を予定されているところの今国会の法案の中にはこの名前は出ていないのでありまして、私は、三百議席の自民党の総裁として、総理はただいま私が言ったようなことについてどういう感じ、お考えを持っておられるのか。特に政治資金規正法なりあるいは議員の定数改善の問題についてはどう取り組まれようとしておるのか、このことをまずお伺いしたいと思います。

○佐藤内閣総理大臣 江田君にお答えいたします。
 昨年末の選挙、これは時期といたしましても私はよくなかったと思っております。ただいまも言われるように、二千万の棄権者が出た、これは忙しくもあっただろうが、同時に政治不信でもあるのだ、こういう御指摘でございます。私は、むしろ忙しかったということのほうが主たる理由じゃないだろうか。もちろんこの政治不信というような問題が芽を出しておれば、これこそたいへんだ、かように考えております。私は、現代の情勢は、民主政治というものがだんだん国民の間に根を張ってきた、かように考えておりますから、いわゆる政治不信だという、そういう意味からの棄権というような形での批判よりも、むしろそれは他の形において出てくるのじゃないだろうか、かように実は思っております。ただ、時期が非常に不適当であった、このことだけは私どもも率直に認めざるを得ない。総選挙などは、年末押し迫ってやるようなものではない、かように私は考えております。

 また、いろいろわが党に対しても御批判がありまして、もっと謙虚によく聞け、こういうお話でございます。私はつとめてそういう批判を受けないように、できるだけ一そう謙虚に国民に耳を傾ける、国民の声を聞く、こういう態度で政治を取り進めてまいりたい、かように実は考えております。

 また、予算編成に対するいろいろの陳情問題等につきましても、御批判がございました。私は、いまの民主政治のもとにおきまして、ある程度の予算編成上の要望が各方面から出てくることは、これはむしろ望ましいことではないだろうか、一党一派がかってな予算編成をしないということ、そういうことは望ましいことではないかと思います。しかし、それが陳情合戦といわれるような表現になりますと、これは慎まなければならない。ことに威力を用いて予算編成を、特にある者、ある団体のために有利につくる、こういうようなことは、戒めなければならない、かように思っております。大蔵大臣も特にこれらの点については注意をいたしまして、各党の御要望等も事前に一応承った。もちろんそれが全部盛り込まれておるとは私思いませんが、それだけのゆとりのある態度で予算編成をしたように聞いております。また、それは望ましいことであったと思います。また、私自身は、直接いわゆる陳情団というか、そういうものからの陳情は承っておりませんけれども、しかし、特殊の団体等、ことに府県知事やあるいは市町村長等とは、特に私もそれらの意見を聞いていることはございます。その程度でございまして、私はかつて大蔵大臣をいたしましたが、その当事のいわゆる圧力による陳情合戦とよほど変わってきた、こういうように私は思っておりまして、それはむしろ民主政治がだんだん定着しつつあるのじゃないだろうか、かように思います。そういう意味で私どももできるだけ各界、各方面の御意見を承って、そうして国民のための政治をしたい・かように思っております。

 また、公社、公団等の問題もただいま御指摘になりましたが、これは公社、公団等は全面的に抑制する方向でございますので、今回なども特殊な公団はつくりましたけれども、いわゆるこの公社、公団等がはんらんするというようなことはまずない。これもまあまあのところじゃないだろうかと思います。

 その中に、さらに天下り人事等にも触れられましたが、公社、公団等の性格上から、やはり行政の延長みたような見方もありますので、比較的に官僚あるいは事務当局等の入る余地が多いだろう。しかし、これもいま御指摘になりますように、天下り人里というような形になれば、これは国民の批判を受ける、かように思っておりますので、十分注意するつもりであります。

 そこで、大事な問題として政治資金規正法は一体どうしたか、こういう御指摘でございます。私も過去三回、政治資金規正法は提案いたしまして、それぞれ鋭い御批判をいただき、いずれもこれが不成立に終わっております。この過去の経験にかんがみまして、私ども、今回出すとすれば必ず成立を見なければならない、そういう意味からさらに私どもも反省をし、十分中身も皆さん方の納得のいくようなものにしなければならない、こういうことで、この政治資金規正法、これとも取り組んでおる次第でありまして、ただいま――今回はこの法案を提出しておりません。しかし、私ども、全然検討を放棄したとか、こういうものではならないことだけつけ加えさしていただきます。

 また、定数是正の問題、これこそ民主主義のもとにおきまして最も大事なことではないだろうか、かように考えます。ただいま参議院の方面につきまして定数是正の問題をまず取り上げて、選挙制度調査会でいろいろ研究してもらっておる次第であります。私は、ひとり参議院だけでなく、今回の選挙の結果等にかんがみまして、衆議院関係におきましても、この定数是正、これは総定員数との関係をも考えながら、さらに取り組んでいかなければならない問題じゃないだろうか。私も、江田君と同じような考え方を持つものであります。おそらく、私がいま指摘したような点も、別に江田さんと変わっているような話じゃないだろう、かように考えます。

○江田委員 政治資金規正法の問題については、出す限り今度は通さなければならぬ。しかし、あなたのほうがそういう気持ちになれば、いつでも通るんじゃありませんか。前の国会におきましても、大学法案でもあるいはその他の法案でも、自民党はずいぶん強引なことをおやりになったわけです。政治資金規正法については、野党にこぞって早くつくれと言っておるんでしょう。それがいつまでももたもたしているのは、要するにあなたのほうの党内の意見がまとまらないということにほかならないんじゃありませんか。いま三百議席で大総裁だといわれるこの佐藤さんが、これらの党内を取りまとめる力がないとは私は思いません。そうでなくて、やはり政治をもっと国民のものにする、きれいなものにするという意欲がないんじゃないかとしか思えないのでありまして、私は、政治資金規正法の問題だけでなくても、たとえばこの選挙に、あなたの党に所属される人々に相当の選挙違反が出ております。中には、当選した人で、本人が書類送検になっているのもあります。総括責任者が書類送検になっているのもあります。私は、総理がほんとうに民主主義を確立しなければならぬという信念に徹しておられるならば、まずこういう問題についても党内で辞任勧告その他の措置ができるはずだと思うのでありまして、それらも一向に手をつけられないことを見ますならば、政治資金規正法についても何かこう顧みて他をおっしゃっているだけであって、やる気がないんじゃないかとしか思えないのでありまして、これで一体議会政治がどうなるのか。あなたがどんなに施政方針演説でりっぱなことをお述べになりましたところで、国民はこれは単なる官僚がつくった作文としか思わないでしょう。はっきりしたことをひとつおやりになったらどうでしょう。政治資金規正法をこの国会にお出しになるのかならないのか、それだけもう一ぺん念を押しておきます。

○佐藤内閣総理大臣 いま申し上げましたように、この国会に出しません。
 ただいま江田君から御批判があって、政治資金規正法は自民党の内部でまとまらないからだろう、こういうお説がございます。私はそういうことをも全部含めて、さらにもう一度よく内容を検討して、皆さん方の納得のいくようなものにしたい、これが私の考え方でございます。今回は出しません。

○江田委員 今回はお出しにならぬ、非常に遺憾に思います。しかし、これ以上そのことについて問答はしようとは思いませんが、国民が、あなたの態度がいいか悪いかを判断するだろうと思います。

 総理の施政方針演説というものは、官房長官の解説によると、きわめて格調が高いということでありましたが、なるほど抽象的なりっぱなことばが並べてある。しかし、私はいまの総理のこの態度とあの施政方針の基調とが、どこに共通項があるのか。今度は総理だけじゃございません。大蔵大臣、外務大臣あるいは経済企画庁長官、そろって大蔵官僚出身の演説で、珍しいことでございましたが、私は何かこういうものを見ていると、もはや日本の政党政治というものは官僚政治になってきたんじゃないのか、官僚がつくり出すものにただ政党は名目だけ乗っかっているだけじゃないのか、こういう印象をぬぐい去ることができないのであります。

 しかし、そのことはそのことといたしまして、次に話を進めていきたいと思うのでありますが、今度の施政方針で、総理はいわゆる七〇年代ということを取り上げておられる。国際政治の面において、軍事力以外のものが探求されるようになってきた。同時に、国内政治に各国が多くの精力を注ぐようになってきた。そこに世界が大きな転換期を迎えているんだということが施政方針演説の中にあるわけでありますが、これはもっと具体的にいうと、どういうことになるかということであります。世界が内政優先になったということは、何を意味するのか。私は、この問題は、一九六〇年代において先進国がいずれも爆発的な内政問題をかかえ込んできたということ、たとえば人間疎外のことがそうです。あるいは物価、環境汚染、あるいは過疎と過密、あるいは農業あるいは教育、これは日本だけの問題でもなければ、あるいはアメリカだけの問題でもなく、いわゆる先進国が共通してこういう問題にもう手のつけられないところまで追い詰められたということだと思うのであります。これをどう処理するかということが、七〇年代の最大の課題だと思うのであります。

 そこで、こういう中におきまして、最もその矛盾を痛感したのが、アメリカでしょう。だから、ニクソンが内政優先ということを言っておるのでありますが、このニクソンが内政優先ということを言わなきゃならぬことの中には、ただいま申しましたようないろいろの問題が手のつけられない大きさで出てまいりました。そのことは、要するに物質的な富の最だけでは問題は片づかないのだということ、経済をどんなに大きくし、物質的な富の量を大きくしてみたところで、あるいは社会福祉の面におきましても、人間の精神という面におきましても、解決がつかない。そこにアメリカでヤングパワーの問題もある、黒人の問題もある、あるいは麻薬がアメリカを滅ぼすのじゃないかという叫びをニクソンが言わなければならぬ問題が出てくる。犯罪都市という問題がある。しかも、他の面におきましてアメリカがとってまいりました冷戦政策あるいは反共政策というものが、何ら実効をあげなかった。実効をあげなかっただけではなしに、アメリカの国際的威信もかえって低下したではないか。そこに私はニクソンが内政優先を言わざるを得ない根本的な問題が出てきたのじゃないかと思うのでありまして、要するに、こういうことを考えていきますならば、もはや古い考え方は通用しないのだ。制度の根本からの再検討、変革をしなければ解決がつかぬのじゃないか。そこへ来ておるのが一九七〇年代であって、古い考え方を払拭する、根源にさかのぼった再検討をするということにほかならないと思うのでありまして、総理が言われるところの世界が大きな転換期というものも、そのことをさしておられると思うのでありますが、そう解釈してよろしゅうございますか。

○佐藤内閣総理大臣 いま江田君からアメリカの内政の分析、これを詳細にわたって御指摘になりました。人種問題あり、戦争遂行をし、高度に経済が発展しておる、こういう立場から生じておるもろもろの問題、社会問題等についてまで詳細に御報告がありました。私もさような見方をいたします。同時に、これはしかし、資本主義国だけの問題ではない。やはり社会主義国においても同じような問題がある。同時にあわせてソ連の内政についてもいまのような分析をしていただくと、いまいわゆる先進国といわれる世界の各国が、その政治体制のいかんを問わず、同じような悩みを持っておるのじゃないのか、こういう点にはっきりぶつかるだろうと思います。私どもは、いま世界第三の経済国になった、こういうことでずいぶん背伸びもしやすいのでありますけれども、私もやはり米ソに次ぐ第三の経済力を持つ国として、国内において――これは違いますけれども、戦争はしておらないし、人種問題はないし、また軍備もこの二国に比べれば格段の相違がありますが、それでも同じような問題を国内にかかえておるのだ。とにかく政治の目標は国民をしあわせにすることなんだ。その立場においてお互いが繁栄をさらに追求し、その間に生ずるもろもろのひずみを是正していくし、これはひずみというよりも、もっと積極的な、公害その他のものと取り組んでいく。同時にまた、世界は一つというような意味でお互いが協力し合うという、これは私は七〇年代――七〇年じゃございませんが、七〇年代の政治指針として望ましいことじゃないだろうか、かように私は思って施政方針演説をいたしたのであります。

 ただいまお話しのように、アメリカにはアメリカの悩みがある。ソ連にも、最近帰ったばかりの永野君などから聞きますと、やはり同じような悩みを持っておる。私どももどうしてもよく模様がわかりないのは――昨日もここでいろいろ議論いたしましたが、中国の模様だけはこれは私にもわかりません。しかし、ただいまのような国々は、同じような悩みを持っておる。かように思っております。

○江田委員 アメリカだけでなしに、ソ連も同じような悩みを持っておるのじゃないのか。私は、それは否定いたしません。ソ連の工業生産力の伸びが停滞しておるということ、あるいはソ連における人間の自由ということが大きな問題になっておるということ、いろんな問題がやはり共通したものがあるわけです。だからして、アメリカが大幅に軍事費を削減したのと相呼応してソ連も軍事費を削減をしておるのでありまして、私はあえて資本主義国だけがそういう悩みを持っておるのじゃないのだ、だからこそ従来の考え方にとらわれない、いわゆる左の陣営も右の陣営ももっと抜本的な掘り下げた考え方に立って取っ組まなければ、七〇年代の解決にはならぬということを言ったわけであります。

 そこで、この日本の七〇年代について総理は、独自の目標あるいは新しい指針として、一つは内面の充実、一つは内における繁栄と外に対する責務との調和ということをあげておられます。例によって非常に抽象的なことばでありまして、どう解釈していいかよくわからないのでありまして、私は総理の施政方針演説というものを、佐藤総理に限らず、日本の総理の演説というものを聞いて、いつもどうも砂をかむような思いがしてしかたがないのでありまして、やはりあなたの親友であるニクソンのほうが、緑やきれいな川という、非常に具体的だと思うのであります。

 そこで一体、総理の言うこの独自の目標とか新しい指針とかというものは、われわれの憲法が目ざすところと違うのかどうかということを私はお尋ねしたいのであります。申すまでもなく、今日、憲法は国民のコンセンサスが成り立っておると思うのであります。中には憲法を変えろという意見もありますけれども、多くの国民はそう考えていないし、総理自身もこの憲法を守るということを言っておられるのでありまして、この憲法の目標は、これは私があらためて申すまでもありません。前文なり、あるいは九条の平和主義、国際主義、そうして四十一条の国権の最高機関としての国会ということにあらわれておるところの議会制民主主義、そうして二十五条にあらわれるやはり国民生活優先の考え方、非常に具体的になっているのでありまして、私はこういう具体的なものが、しかも国民のコンセンサスを得ておるというならば、これがわれわれの目標だということでいいじゃないのか、何も七〇年代だからといって、新しいことばで、わけのわからぬことをおっしゃる必要はないのじゃないかと思うのでありますが、あなたのおっしゃる目標なり、この憲法の目標とは違うのですか、どうですか。私は違わぬと思いますが……。

○佐藤内閣総理大臣 御指摘のとおり、私は憲法を踏みはずしたつもりで申してはおりません。憲法でちゃんと方向は定められておる。それを私が別な表現をしておるだけです。

○江田委員 ただ問題は、あなたはこの憲法を守るということはよくおっしゃるのですが、憲法を守るということは憲法の条文を変えないということじゃないのです。変えないということもこれも一つの条件でありますが、問題は、憲法が差し示すところを一つ一つ具体的に実現するのかどうかということなのでありまして、どうも私たちは、憲法の条文は変えられていない、しかし中身は空洞化しつつあるんじゃないかということをいつも不安に考えるわけでありまして、これは私たちだけがオーバーな考え方でもないのではないかという気がいたしますが、それはともかくといたしまして、あなたは憲法を守る、そこで憲法体制ということになりますならば、一つはただいま申しました外に対しては平和主義の実現、そうして、内では人間にふさわしい社会、国民生活優先ということになるわけであります。

 そこでこういうような目標からいきますならば、それに合致する外交政策というものはどういうものだろうかということが問題になってくるわけであります。私が、この憲法の精神から出発いたしますならば、われわれの対外政策というものは、一つは日米関係を安保を軸にするということは、これは問題があるのではないかということであります。私は、日米関係というものは大いに今後も親善を続けていかなければならぬと思います。しかし、それが安保を軸にするということでほんとうにいいのかどうかということなんでありまして、もっと違った軸にたとえば経済もありましょう、あるいは科学技術もありましょう、文化もありましょう、違った面においてもっと日米の関係を考え直していかなければならぬのじゃないかということが一つあると思います。

 その次には、やはり日中関係をどうするかということ、このアジアの日本が日中関係をこのままにしていいとは国民は考えていないと思います。

 もう一つは、日本が日本の繁栄を自分のものだけにしないで、諸国民の繁栄に責任を負うという立場からいたしまして、特にアジアのことが問題になるのでありますが、いまアジアで日本がとっている外交政策というものは、いいのかどうかということであります。いわゆるエコノミックアニマルということがいわれます。大国主義ということがいわれます。いろいろな点で批判を受けておるのではないのか、つまりわれわれが憲法をもとにして出発する場合に、この外交政策を日米関係、日中関係、さらにはアジアとの諸関係においても、もう一ぺん考え直さなければならぬときが来ておるのではないのか。

 ところが総理のほうは、先般の日米会談の既定のコースというものを、これをもはや動かすべからざるものとして、これを既定の事実として、その上に出発をされていくというところに、われわれとの大きな食い違いが出てくるのではないかと思うのであります。私はそういう点について、日米会談というものをもはや論議の余地のない一つの既定のレールだという考え方を考え直してもらわなければならぬのじゃないかと思いますが、その点はどうお考えになるか。

○佐藤内閣総理大臣 だんだん核心に触れてきたのではないかと思います。
 そこで憲法の条章を私どもが空洞化しておる、こういうような言い方をされますが、私は、それはとんでもない誤解だ、われわれは空洞化しておらない。ただ変えないというだけが憲法を守るのではない、こういう御指摘でもありました。何だか変えてもいいのだというようにも聞き取れるような言い方ですが、まさかそうではないだろうと思う。憲法は改正しないという、また空洞化してはいかぬという、これは基本的態度だと思います。その立場からいろいろ考えて、ただいま対米政策、これが安保を軸にしておる、かように言われますが、私は誤解を受けてはならないと思いますから、対米関係のくだりにおきましても、政治、経済、文化、あらゆる面においてということをはっきり書いたつもりでございます。したがって、いわゆる対米関係で安保が軸になっておる、かような書き方はしておりませんし、また、いままでも防衛庁長官等が説明をし、あるいはその他でも、同じように沖繩の問題等でいろいろ話し合っておりましても、いわゆる軸だというその考え方はございません。しかしわが国の安全を確保するために、いわゆる非武装中立ではない、非武装中立ということばは江田君もお使いにはなりませんけれども、かねてからの社会党の主張でありますが、私どもは自衛権は必要なんだ、自衛権を持つことは、これは憲法違反ではないのだという考え方をしておりますので、したがって、ここらに基本的な意見の相違が出ておる、それがちらちらといまの話にも出てきているのではないか。だから、これは議論の間からこの自衛隊否定の方向で話が進んでいるのではないか、かように私は心配しております。

 対中国大陸との問題については、昨日もずいぶん長い間議論を、わが党の小坂君と話しました。私どもは、いわゆるいずれの国も敵視しない、平和に徹する、こういう形で、そういうまた精神でものごとを話し合っていきたいと、こういうことを実は申しておるのでありまして、ここには別に誤解はないと思います。何だかアジア政策そのものについても、エコノミックアニマルというようなことを引き合いに出して、そうして批判されますが、私は、いわゆるエコノミックアニマルというような批判を受けることのないような態度でぜひ海外援助、海外協力、これを進めていきたいということを念願しておりますので、これは国民の皆さんにも、ただいま言うようなエコノミックアニマルだとか、最近は、昨日もいろいろ話が出ておりましたが、エロチックアニマルだとか、そんなことばのないように、これはぜひいたしたいものだ、かように思っております。いわゆる大国主義というそういう形のものでないことは、わが国は非核三原則、これを現実に確認し、またその態度で臨んでおる。その立場からも、いわゆる大国主義というものではない。そうして、ましてや平和憲法のもとにおいて私どもが非核三原則を守っていこうと、かように国民の皆さまにも誓っておるのでありますから、いわゆる大国主義という立場で臨んでおらない、そこを誤解のないようにお願いしたいと思います。

○江田委員 日米関係や日中関係については、あとからさらに触れたいと思いますが、この大国主義という問題を、非核三原則を言っているから、大国主義じゃないというのは、少し総理に似合わぬ論理の飛躍があると思うのであります。やはりアジアの開発途上国には、われわれと違った価値観があるのじゃないのか。ニッパヤシの家に住んでいることと、公害で充満した都市に住んでいることと、どっちがしあわせかということについては、われわれの価値観と違う価値観があるかもしれません。そういうものを、日本の猛烈社員流の考え方でもってどうこうしようと思ったってできることじゃないのでありまして、そこに、かつてアメリカが醜いアメリカと言われたような、日本の過剰なおせっかいが、醜い日本人ということになってくるんじゃないのかということもありましょうし、あるいはいまもインドネシアにおきまして、前のスカルノ大統領あるいはデビさん相手の汚職の告発が起きておるフィリピンでは、学生が日本からの借款でできる肥料工場反対のデモをやっているというような、何かコミッションといいますか、汚職といいますか、そういうものがつきまとうという面もありますし、私は、いまのような行き方をしていったんでは、アジアとの経済協力というのは、思わぬところでつまずきを起こすということを考えるのであります。

 それはそれといたしまして、どうも日米会談というものを動かすべからざるものとして他の政策が出ておるんじゃないかということに私は触れたわけでありますが、少し論点を変えまして、軍事費の問題について申し上げてみたいと思うのであります。

 本年度の軍事費が、防衛費が総額五千六百九十五億円、前年比一七・七%の増、二次防一兆二千億、三次防二兆三千億、四次防については、きのう総理は、まだきまっていないとおっしゃいましたが、すでに五兆とか六兆とかというような声も聞かされます。特に今度の場合、この防衛費がすでに十一月の末に政治レベルできまったんじゃないかという点であります。防衛費だけが、具体的な費用の積み上げから計算するのではなしに、一七・七%として十一月の末にきまったのじゃないのか。われわれが新聞で読む限りはそう読めました。これは、つまり一七・七というところに意味があって、個々の何をどうするかということよりも、この率に意味があるのじゃないのか。つまりこの率によって予算の伸び率よりは低いということでいわゆるハト派を満足させる、しかし前例のない伸び率だということでタカ派を満足させる、そういうような政治的な配慮から出ておるのじゃないかということが言われるわけでありまして、総理は、とぼけておられますけれども、多くの新聞の解説はそうなっているということであります。

 そこで、こういうようないきなり率がきまってくるということが、私が言う日米会談というものの上に立ってきまってくるのじゃないのかということなんであります。つまり、アメリカの政策というものが、アジアにおける過剰介入を是正する、海外基地を再編成する、そうしていわゆる自主防衛だという名において、それぞれの国の防衛費の分担をもっと重くしていこうという基本線になっておるのでありまして、これに沿った政治的な配慮がこの一七・七という数字じゃないかと思いますが、まあ否定はされると思いますが、どうでしょう。

○佐藤内閣総理大臣 よほどうがった解釈という感じにとれました。ただいま大蔵大臣に、そんなに早くきまったのかと実は耳打ちをしたのですが、いや、さようなことはございませんと大蔵大臣も申しておりますから、ただいま一七・七というものが早くきまった、これを党内のハト派とタカ派と両方を満足さすような数字をきめたのだ、こういうように言われますが、さようなことはございません。少しうがち過ぎた、頭がよ過ぎるのじゃないかと思います。私がいま申し上げたいのは、第三次防の遂行中でございます。この三次防を遂行するその場合に、最近の給与改善、やはり自衛隊も給与改善をしていかなければなりません。この給与改善、さらに隊員の隊服等の改善、過年度の支払い等の追加というようなことがありまして、いわゆる三次防を完全に遂行する、こういう意味でございます。新しく何だか計画でも変わったような言い方に聞けますが、そうじゃないのだ、だから、あまり頭のいいところを、想像を発展させないようにお願いをしておきます。

○江田委員 いま、そのことでさらに論議しようと思いませんが、だんだんそういうことに一つずつ触れていきたいと思いますが、そこで自主防衛ということ、これは総理も考えておられるのでありますが、かりのこの自主防衛ということをやるとして、そのために前提になるのは、状況をどう認識するかということ、状況判断ということが一番問題になるのでありまして、その点からいたしまして、昨年秋、国防白書の原案が出されましたが、これは要するにアジアにおいて共産主義国が侵略を企図している。ソ連、中国が一体になって共産主義革命の浸透をはかろうとするというような認識に立っておるのでありまして、詳しいことは省略いたしますが、要するに、こういう考え方というものは一九五〇年代の国際認識じゃないかと思うのであります。一体この国防白露というものをどう考えておられるのか。いま世界が大きく変わっているということは総理もお認めになっておりますし、米中の会談も開かれる、あるいは東西両ドイツの会談もいま開かれる、あるいは西ドイツのソ連からの天然ガスの輸入のごときは実に二十年間の契約でしょう。二十年間ソ連のあの天然ガスを引き続き輸入するためのパイプラインを建設するというように大きく変わってきているわけでありまして、だれが考えたって、中ソというものが一枚岩ではないということも明らかであります。こういう国防白書原案のような状況判断を総理もしておられるのか、あるいは別な判断をしておられるのか。少なくとも施政方針演説ではそうは受け取れないのでありますが、もし違うんだとするならば、こういうものが原案の段階であれ軽々に発表されるということはどういうことなのか。これはただ国内的な問題だけじゃないのでありまして、国際的にもこのことが大きく影響してくるわけです。きのう小坂善太郎君が、ソ連のプラウダの記事を云々しておりましたが、こんなものが出れば、やはりそう考えざるを得ないことになってくるわけでありまして、これは一体どういうことなのか。

○佐藤内閣総理大臣 国防白書の発表云々は、これは後に防衛庁のほうから答えさせますが、私がいまアジアの情勢をどういうふうに見ているか、こういう点について、ただいま欧州における状況まで引き合いに出して御説明になりましたが、何といっても、アジアにおいての問題、これは米中ソ三国のそれぞれの関係だ、かように思っております。ただいまそれぞれがそれぞれ会談を開催している。これの遂行を私どもは非常に期待して待っております。したがいまして、いわゆる火を吹くというような事態はないだろうと思います。したがって、そういうことを前提にしていかなければならないと思います。ただ、問題は、国防というか、国を守るという、そういう問題になってまいりますと、これはやはりわれわれが許せる範囲で、いままでは国力、国情に応じてということを申しておりますが、国力、国情に応じての自衛措置、その手段、方法等は事前にやはり用意しておく必要があるだろう、かように思いますので、ここは誤解のないようにお願いしておきます。

○江田委員 いや、いいですよ、中曽根さん、あとでいいですよ。あなたがやられると雄弁になり過ぎるから……。

 総理は、今度の国防費の増というのは、あるいは待遇改善その他だ、こうおっしゃったわけでありますが、しかしきのうの小坂君に対する答弁を見ましても、空と海とは非常に手薄だということを言っておられるのでありまして、いまの日本の自衛力には欠陥があるんだということを言っておられるのでありまして、そういう点から本年度の予算が、膨張率のことはただいま私が申したとおりでありますが、中身はあなたのおっしゃるとおりだとしたところで、これから出てくる四次防ということになると、大きな飛躍が出てくるのじゃないかということを、きのうの小坂君へ対する答弁を聞きながら私は考えさせられたわけであります。あるいはGNPその他に対する比率、いろいろな角度から触れておられましたが、そういう感じがいたしましたが、こういう防衛費がふえていくという背景は、一つは、何と否定されましても、日米会談というものがある。もう一つはやはり産業界の要求というものがあるのじゃないのか。すでに日本兵器工業会が昨年五月二十八日の総会で防衛産業強化策をきめました。そうしてその中には、東南アジアへの兵器輸出実現も一つの項目になっております。会長の大久保三菱電気社長は、防衛費をせめてフランス並みのGNP四%に引き上げたいと述べておるのでありますが、私は、こういうことの中から、いわゆる産軍複合体という危険性を考えざるを得ないのであります。産軍複合体につきましては、もう総理が御承知のように、あのアイゼンハワー大統領が任期八年の大統領任期をやめる直前に言われたことばでありまして、将来軍部と軍事産業資本家が手を結んだときにアメリカの民主主義にとって最も大きな危険が出てくるのじゃないかということを言われましたが、そういうことがだんだんと日本においても出てくるのじゃないのか。たとえば、中曽根長官にいたしましたところで、経団連との懇談会で、「装備体系の確立、兵器の研究開発、予算体系のあり方などについて、今後防衛生産委員会を中心とする民間各団体と共同作業を行なう」ということを言われた。民間と共同――技術の共同研究だけでなしに、ここに書いてあることから言いますならば、これは二月十三日の毎日新聞でありますが、「装備体系の確立、兵器の研究開発、予算体系のあり方などについて一まで一緒に研究しようじゃないかという、こんなことが出てくる。あるいは防衛庁から軍事産業に天下りの人事が行なわれる。こういうことを見ると、やはり産軍複合体制というアイゼンハワーの警告というものが日本にもあらわれつつあるのじゃないのか。しかも、それだけではなくて、アメリカの兵器メーカーの団体である防衛関係懇談協会、DOCAというのがありますが、これが防衛庁を通じて日本の有力メーカーからなる防衛懇談会に視察団の派遣を呼びかけてきているということも報道されておりますが、そうなると、日本の産軍複合体制とアメリカの産軍複合体制と一体になって、今日までも戦闘機の購入その他においてアメリカの軍事産業と日本の商事会社との関係が云々されましたが、こういうものがもっと露骨に出てくるのじゃないかということを心配するのでありまして、中曽根長官のことばは、そのことをどう言うのじゃないのでありまして、総理の基本的なものの考え方をお尋ねしておきます。

○佐藤内閣総理大臣 たいへんこれから発展するであろう自衛隊の装備等についても御心配のようであります。いずれ第四次防衛計画が出てくれば、その際に十分御意見も伺い、また意見も述べさしていただくことにいたします。ただいまはとにかく第三次防の遂行中でございますから、これはもうすでにきまっておる計画であります。この第三次防計画を遂行しておる上におきまして、いかにも弱い、不十分だというのが海であり空だ、こういうことを私は申したのでありまして、ただいまの計画そのものを途中において変更する考えで申したわけではありません。そこは誤解のないように願っておきます。

 次に、産軍複合体についていろいろお話があります。この問題は、日本においてはいわゆるアメリカのような状態でないこと、これは正式な軍隊を持っておらない、日本の自衛隊というそのたてまえからも、アメリカのような状態が出て来ないんだ、これだけは御理解がいただけるのじゃないかと思います。そうしてまた、いかに不十分だと言いながらも、みずからがみずからの国を守るという自衛隊を持つという限りにおいては、どうも兵器その他等か――航空機でもそうてすか、どうも外国産しか手に入れられない、国内でそういうものはできないという情けない状態であってはならないように思います。私どもは、憲法ではっきりわれわれが持ち縛る兵器というそういう限定がございますから、おのずから限度はある。しかしながら、その範囲内におきましては、やはり国内で生産するという生産体制を整備していくこと、これは望ましいことじゃないだろうかと、ただいまもそういうことを考えるのであります。

 ただいま中曽根君の話をいろいろお引き合いに出されました。私は、幾らいやだと言われても、中曽根君の雄弁をこの辺でお聞き取りいただくことが、名前を出されただけに当然じゃないだろうか、これはひとつお許しをいただいておりますから、発言を許さしていただきたい。

○中曽根国務大臣 先ほど国防白書のお話が出ましたが、あれは前長官、前々長官時代より草案がございまして、いま検討しておる最中でございます。私はその内容を拝見いたしまして、修正を要するところがあると自分で考えまして、最近の国際情勢あるいは最近の党の防衛に対する考え方等も反映さして、適当なときにこれは公表しよう、まだその時期ではないと、そう考えております。

 それから産軍複合の問題でございますが、まだ日本の防衛生産力は非常に微々たるものでございます。たとえばことしの予算が五千六百億でございますが、そのうち人件費が約五一%です。そこで、ことしかりに予算が進行するといたしましても、いままでの予算外国庫負担契約等を入れましても、三千億円以下だろうと思うのです。そうしますと、今日の鉱工業生産から比べますと、鉱工業生産の〇・五%以下で、一%にもなっておりません。この〇・五%というのは日本で皮革産業と同じくらいのスケールでございまして、まだまだ防衛産業といわれるほどの力は持っておりません。しかし、言われました軍と産業界が結びついて、不当なプレッシャーをかけているということは厳に戒めなければならぬことであると思いまして、私も戒心しております。

 私が経団連で申しましたことは、新聞で全貌が正しく伝えられておりません。私は、日本の防衛産業を育成することは、これは必要である、それは日本の防衛というのは全国民でやる防衛であって、自衛隊や防衛庁はその前線の一部を負担しておるのにすぎない。国民の心でまず防衛すべきであり、そのほかに文化力とか、交通力とか、経済力とか、あらゆるものが備わらなければ防衛はできない。そういう意味において、防衛産業というのもその一部を負担すべきであって、それが正しく生々として発展することが望ましい。いまのように、産業界が自分の企業のエゴイズムを出したり、乱雑にやると、ちょうど東京の発展みたいにスパイラル状態に出て、非常に将来敗因をなす。そういう意味で、今日自粛も必要であるし、整理整とんも必要であるし、また、ある程度必要な部面については力をつけてやる部面も必要である。そういう点については、産業界の意見も聞いて、お互いに協力してやろう、そういうことを申したのでございます。

 自衛官の天下りの問題がありましたが、いろいろ調べましたところ、いわゆる将以上のクラスで、天下りと称して常務とかそういう正規の役についたのはおりません。大体顧問とか嘱託というのはございます。しかし、それも大体ラインの仕事はしていないで、諮問を受けるという程度で、給与を調べてみますと、現職時代の給与に達するように、恩給プラス若干の手当でようやく現職時代の給与に達する、だから十万円前後受けているというのが普通のようでございます。

○江田委員 日本の兵器産業、兵器に使う費用というものはまだまだ微々たるもんなんだから、産軍複合体制というようなことはまだないのだと総理は言われますけれども、これは始まったら終わりだということなんであります。しかも、いま私が申しましたように、兵器産業関係の諸君は、日本の武器を東南アジアへ将来売ろうということを目標の一つにはっきりきめておるわけなんであります。私は港間いろいろ言われること、これは事実かどうかわかりませんが、兵器産業のことにタッチした政治家のコミッションは五%だということがよくいわれるのであります。あってはならぬことです。あってはならぬことだが、そういうことがよくいわれるのであります。日本においては、産軍複合体制でなしに、産軍政複合体制じゃないか、その産軍の産も、産業の産ではなしに、スリーダイヤの三じゃないかとさえよくいわれるのでありまして、こういうことが一たん始まったら終わりになるわけで、これは十分に注意してもらわなければなりません。防衛庁関係の人が軍事産業会社に行っても十万円そこそこの給料、それがむしろ問題なんであります。十万円の給料なんというものは給料に値しない。そういう人が顧問なり嘱託として何をしているかということが問題になるのでありまして、もっとこういうことについては姿勢を正してもらわなければならぬと思います。

 そこで、この安全保障の問題については、具体的にどういう脅威があるかということが一つの問題でしょうし、そのときに、軍事的な手段というものがどこまで有効かということも一つの問題であります。これらを十分に検討して国防白書が出てこなければならぬのであります。中曽根さんがこれは再検討するとおっしゃったことに私は注目をしておりますが、われわれがこの防衛費の膨張を考える場合によく考えていかなければならぬことは、これが対外的に非常に悪影響が出てくるということであります。今度の日米会談以降、多くのアジアの国々が、日本の軍事費の膨張についてあるいは軍事力の膨張についての不安を示していることは、外務大臣も御承知だと思うのであります。新聞で見るところによりますと、川島副総裁が外交のパーティーにおいて、これらの諸君の、外交官からずいぶん不安を表明されたということが出ております。一体防衛力の限界というものをどこに置くのかということであります。なるほどGNPの比率は小さいことは言うまでもありません。しかし、今後GNPがどう伸びるであろうかということ、したがって絶対額は大きなものになるということ、もはやすでに日本は、戦力においては、核兵器こそございませんけれども、世界で上位に来ていると思うのでありまして、前のアメリカの国務次官補で現在ブルッキングス研究所におるモートン・ハルバリンという人は、日本は現在完全に局地防衛の能力を有しておる、これ以上の軍備をふやす意味は、アジア防衛への参加としてのみ意味があるのだということを言っておるのでありますが、こういう点についてどう考えておられるのか。中曽根長官の長い答弁は、ちょっと恐縮なんでありますけれども、これはきのうあなたが答弁しておられましたから聞きますが、小坂君に対する答弁の中に、教育費や社会保障費とのパリティというようなことも言われたわけです。しかし、これは、防衛庁長官の答えられる問題でなしに、総理として自衛力の限界というものをどこに置くのかということを、ひとつはっきりおっしゃっていただきたい。総理は、きのうの小坂君に対する答弁からいきますと、空と海とは弱いんだということで触れられておりますが、同時に、四次防はまだこれからだからと言われた。しかし、これからといったって、もうすぐ目の前に迫っておるわけでありまして、これについてどのような限界を置かれるのかということをはっきりしてもらわなければ、私たちだけでなしに、国民が大きな不安を感じているし、また、日本を取り巻く周囲の諸国といたしましても、この日本の防衛力の限界をどこに置くかということについては大きな関心を持っていると思うのであります。あなたがほんとうに平和国家だとおっしゃるんなら、目の前にもう来ているのでありますから、この辺ではっきりとどこに限界を置くということを示してもらいたいと思う。

○佐藤内閣総理大臣 私が申し上げるのが、どうも抽象的なことに終わりますが、これは申すまでもなく憲法がそういう規定でございますから、抽象的にならざるを得ない、この点はあらかじめ御了承いただきたい。

 いわゆる通常兵器による局地戦、その防衛のために必要な兵力、そういう自衛力だ、かように御理解をいただきたいのであります。

 たいへん抽象的でわからぬじゃないかとおっしゃる、そうして海と空が弱いと言うが、一体何でそう言うのかと言われますが、私は自衛隊の記念日に一度、いわゆる海上自衛隊を観閲いたしました。陸上自衛隊と比べてみまして、一体これでよろしいのかという感じを実は持ちました。江田君にもぜひああいう機会に、観閲式にやはり出てごらん願って、そうしてこれでよろしいかどうか、ひとつ判断していただきたい、かように思います。

 私はいまのような点を考えて、この次の自衛力の整備というか、これは局地戦としてもやはり不十分じゃないだろうか。これはもちろん相手方の攻撃力いかんによるのですから、最近の進み方、それにおくれないように、私どももいろいろ資料を集めておりますけれども、本来が軍事国でございませんだけに、なかなか相手の力というものを測定することは困難であります。そういう意味で、いま安全保障条約を結んでおるアメリカの力をかりて、そうして想定等もやっておるわけであります。ただ、いま御指摘になりましたアメリカの人も、軍事評論家じゃないかと思いますので、これはやはり専門家の意見でないと十分なことは言えない、かように御了承いただきたい。

○江田委員 いまのアメリカのは、前の国務次官補ですから、そういう認識をしている人もあるということなんでありまして、いずれにしろ、こういう問題は、いつまでも抽象的なことだけでほっておくということは、内外ともに大きな不安を与えるんだということなんでありまして、もっと明確にしてもらわなければならぬと思います。

 そこで私は、これはもう総理に言うまでもないことだと思いますけれども、軍事費の増大ということは、経済の発展とどういう関係になるのかということなんでありまして、一部産業界におきましては、いわゆる三C産業がそろそろお先が暗くなってくるということから、経済発展の刺激剤としても軍事産業というものを考えなければならぬじゃないかという考え方もあるようでありますが、これが間違っているということはもう申すまでもないことでありまして、軍事産業というものが一時的な、局部的な刺激剤にはなりましても、これを大きくすることが物的、人的資源の配分に大きなひずみを来たすということだけでなくて、むしろ需要効果ということになれば、公共事業費のほうがよほど大きいわけなんでありまして、もし軍事産業というものが景気刺激に役立つ、経済成長に役立つというような考え方があるとすれば、それは大きな間違いであることは、総理も御異存ないと思う。私は、そういう点についてイギリスの有名な歴史家のトインビーが、戦後の日本は軍備のないことが経済発展の重要な条件なのだということを世界に示してくれた、この日本の経験を世界の人々はもっと重視する必要があるという、あのトインビーのことばをよくお考え願いたいと思うのであります。軍事費というものは、一たんふやしかけると、これはとめどがございません。相手を刺激する。相手が大きくなるから、こちらも大きくなる。とめどもないことになってくるわけであります。そういうことについても十分お考え願いたいのであります。

 私は、最後に、この問題について結論的に総理のお考えを聞いておきたいのでありますが、将来とも海外へ武器を輸出させないという政策を堅持されるかどうかということ。これはいま中東戦争、アラビアあるいはビアフラの戦争を見ましても、武器の輸出ということがどういうことになるかということを端的にあらわしておるのでありまして、日本の兵器工業の一部で東南アジアへの武器輸出ということを言っておるけれども、これは断じてやらせないということを今後堅持されるかどうかということが一つです。

 それから防衛費の限界については、あなたははっきりしたことをおっしゃいませんけれども、いずれにしてもGNPや予算規模に対する一定比率で規定化することはしないということ、これを約束できるかどうかということ、このことをお答え願いたい。

○佐藤内閣総理大臣 いつも問題になる武器輸出の問題であります。これは在来からやってきた方針を変える考えはございません。いままでやってきたとおりを守っていくということであります。この中身は、輸出管理令におそらくはっきりきまっている。それが守られているのだと思います。したがって、もし時間が許されるならば通産大臣から私の考えを補足さしていただきたいと思います。けれども、私はただいま申し上げるようにお互いに、(江田委員「やらない」と呼ぶ)やらないという、これは在来のとおりのことで、それを拡大しないという、それだけでおわかりがいただけるかと思います。

 それから、その次にこの防衛力の整備の問題でありますが、これはおのずから限度があるということ、それより以上には申しませんから、ただ、いまGNPに対する比率がどうとかこうとかということでなしに、もっと実質的にこれからも考えてまいりまして、われわれが限度はやっぱりきびしく守るという、こういう態度で臨みたいと思います。

○江田委員 通産大臣が、必要なら答弁するということでありますが、要するに海外への武器の輸出はやらせないということでいいのでしょう。

○宮澤国務大臣 貿易管理令でこれは制限をしておりまして、ことに紛争当事国に武器の行くようなことはしない。それからわが国が通常使用しておりますようなものについて、余裕がある場合にはそれを許すことはあり得ますけれども、紛争当事国に対してはそういうことは特にしない、こういうことにしております。

○江田委員 紛争当事国に対してはということで、紛争へこれからエスカレートしていく可能性のある国もあるわけでしょう。あなたは頭がよ過ぎるから――総理のことばでいいのでしょう。

○宮澤国務大臣 大筋は総理の言われたとおりでよろしいのでありまして、私はもう少し正確を期しまして補足をしたわけでございます。

○江田委員 通産大臣は頭が鋭過ぎるから……(「鋭くない」と呼ぶ者あり)鋭くないか。――総理のほうがよほど鋭い感覚を持っておられる。

 そこで、私はもう一つ、自衛隊の問題について、いまこの自衛隊というものがひとり歩きをしているんじゃないかということなのであります。中曽根長官のような意欲的な人が出てこられたから、防衛白書でも再検討を命ずるのだということでありますが、従来の行き方から見るというと、いわゆる防衛費は聖域だ。予算の編成にあたって本、聖域だということがいわれるように、ひとり歩きをしているんじゃないのか。われわれは、総理はお気に忍さぬことばでありますが、非武装中立の方針を今日も正しいと思っております。もちろんいま直ちにこれが実現できるとは思いません。これはわれわれの追求しなきゃならぬ理想として、目標としてどこまでもやっていこうという考え方でありまして、この自衛隊の存在が憲法に照らしてどうかということもいろいろわれわれはわれわれの主張があるわけでありますが、いずれにしても、この自衛隊というものか国民と離れて――政府だってよくわからぬのじゃありませんか、国民だけじゃなしに。あなた、防衛庁長官というのは、一年交代できめていってしまって、わけのわからぬうちにもうかわってしまう。予算の内容になったって、しろうとにはわからぬということで聖域化してしまう。この自衛隊というものが、一体どういう仕組みになっているのかということを、私はやはり国民の前にはっきりさす必要があろうと思うのであります。

 そこで、自衛隊等の調査特別委員会というものでもはっきり国会の中へつくって、これは内閣委員会なんかとは別に、法案審議なんかには関係なしに、この実態がどうなっているんだということ、具体的に言えば、防衛計画の実施状況、防衛計画の基礎となる一般国際情勢及び極東の軍事情勢を当局がどのように認識しておるのか、当局の戦略的判断は日本をめぐる国際環境に照らして妥当かどうか、これはいまの国防白雪からいってもいえるわけです。防衛計画の実施状況、予算の使用状況、シビリアンコントロールの実情、隊員に対する教育訓練の状況、部隊内生活の状況、たとえば憲法というものを教えているのか教えてないのかということもあるでしょう。米軍との協力連携の状況、隊員の意識の問題、兵器調達の機構及びその実施状況、こういうことを、とにかく国民の前に、自衛隊はどういうことになっているんだということを一ぺん明確にする必要があると思うのでありまして、こういうものを法案の審議なんかが関係ある委員会でやるとかえってこんがらかりますから、これだけのものを――その上で、憲法に抵触するかしないかということもはっきりしてくるし、あるいはあり方がいいかどうかということもはっきりしてくるわけでありまして、こういうものをつくる考え方が総理にあるかどうかを伺っておきます。

○佐藤内閣総理大臣 自衛隊がもうできて、そうして国民は大部分よく理解してくれております。ただ、いま困ったことは、野党第一党である社会党は非武装中立、自衛隊を認めない、こういう立場で議論を展開しておられます。しかし私どもは、自衛隊は合憲だとしばしば説明したとおりでありまして、いまさらこれが合憲なりやいなやというようなことで調査会を設けるつもりは政府にはございません。これははっきり申し上げておきます。ただ、皆さん方で、どうしても国会内でそういうものを設けようとおっしゃるなら、これは国会の予算委員会か、あるいは委員会内で設けようというのなら、理事の諸君でよく御相談願いたいと思います。また、議運等もございますから、それぞれの機関で設けたらいいだろうと思います。しかし私は、もうはっきり申し上げておきますが、わが党は、これは合憲だ、そうしてわが憲法は、この国の自衛措置を、自衛権の否定はしておらない。それに必要なる処置は当然のことだと認めておる、かように私は考えております。ただいまもいろいろお話がありました。そうして聖域というようなことばを使われて、防衛費だけはそういう意味で批判なしにでも素通りしておるかのような話でございますが、さようなものではございません。また、国防会議等もございますし、また会議を開くまでもなく、あるいは国防懇談会等の問題でそれぞれが議論されておりますし、また専門家のつどいもありますし、それぞれの意見も聞かれております。また、わが国におきましても文官優位という立場でこの問題が取り上げられております。これらのことなども基本的な問題でありますから誤解のないように願いたいと思います。かつての、われわれが過去において誤ったああいうようなことが起こらないように今後とも注意はしなければならないと思います。ただいま江田君の御指摘になりました点は、二度とあやまちをするな、こういう意味で政府に対する御忠言だ、かように私は聞いておきますが、ただいま憲法を、いまさら合憲かどうかというようなことを検討する、その考えはございません。はっきり申し上げておきます。

○江田委員 だから、それを前提にしてわれわれがイデオロギー的に言っておるのではないのであって、とにかく国民にはわからぬ存在なんだ。それがひとり歩きをしておるんだ。防衛庁長官は、防衛何やらの会といってタレントを集めるようなことをやっておられますけれども、そんなものじゃないのでしょう。タレントが集まって何やらしたところで、国民にはわかりはしません。もっとこの自衛隊はあるがままに国民の前に示さなければならぬということを私は言っておるのであって、イデオロギーを前提にして言っておるのではないということを申しておきます。

○中曽根国務大臣 私はかねがね文民統制という面から考えておりまして、国権の最高機関の国会に防衛問題を審議する常任委員会がないことは、文民統制の上から見まして非常に遺憾な点ではないか、そういう気がしておりました。内閣委員会がございますけれども、定員とか恩給とか、そういう問題で非常に忙しいわけであります。そういう意味におきまして、でき得べくんば国会に、そういう文民統制的見地からも自衛隊を監督していただく専門の常任委員会ができたらけっこうであると考えて実は党にお願いしてあるのであります。いま江田書記長の御意見を伺いまして、いまのようなお考えに立ってその常任委員会をおつくりくださるというならば、これは国会の問題でございますから、ぜひ政党間でお話し願いまして、おつくりしていただいたらいいと思うのです。

 ただ、合憲問題云々ということは、これは各党に意見があることでございますから、それは各党の意見に従って御商議願えればいいと思います。私は、しかし文民統制という意味においてそういう常任委員会ができることは歓迎いたします。

○江田委員 私が言うのは内閣委員会などで法案の審議と一緒にしてはいかぬということです。こういうことは、たとえば一年なら一年の期限を限って、そうして実態を明確にして国民の前に示せ、こういうことを言ったわけでありますが、これは総理がおっしゃるように国会の問題だということで、それ以上申しません。

 さらに、次に私は日米会談について若干触れておきたいのでありますが、七二年に沖繩返還がきまったということは、総理は総理なりに努力をされたものとして私もそれは評価をいたします。ただしかし、きのうも質問に出ておりましたが、それまでにベトナム戦争が終わらぬときにはどうなるのかということ、これは最近のラオスの問題などを見ても、そう楽観はできません。外務大臣が言われたように、それまでには解決がつくはずだというようなことにはならないかもしれません。そのときにあなたは、きのうの答弁の中で、核抜き本土並みは動かさないのだ、七二年返還は間違いないのだ、こうおっしゃった。そこで、そのときの協議ということになると、具体的にはB52の問題になってくると思うのであります。このときに解決がついていなかったならば、あなた、B52の進発を許すということになってくるのかどうか。七二年の核抜き本土並み返還は動かぬということになればB52の進発を許すということにならざるを得ぬと思いますが、小坂氏への答弁も、大体そのようにおっしゃったと思うのでありますが、もう一ぺん聞いておきます。

○佐藤内閣総理大臣 いまの返還というか、七二年本土並み核抜きで返還されるというそのワク内で協議する、万一ベトナム問題が解決しない状態ならばそのワク内で協議する、こういうことがあの共同声明に書かれておるわけです。これは私、申すまでもなく、一方的にアメリカがやめると言えないような筋のものだと思いますから、これはやっぱり紛争がやむことが望ましいことは、もう両国とも一致しておりますけれども、万一継続した場合には一体どうなるか。そこでいま言うように、この七二年に本土並み、返る、また核抜き、これはもうそのワク内で協議する、こういうことでございます。ただその場合に、いま52があそこから出ておるじゃないか、こういう話がございますから、一体どういうような協議内容になるか、これが実は非常にまだ不明確であります。そのときになってみないとわからないというのが、これはもう申し上げるとそのとおりであります。問題は、やはり、私どもは本土に返ってくる限りにおいて、この本土の基地がそういうような問題であまり使われないことが望ましいのですから、協議されるといいましても、おそらくどういうような協議内容が出てきますか、その際にわれわれとしての態度もよくきめてその協議にかかる、かように御理解をいただきたいのであります。

 たいへん具体的に申し上げることができないことは、まことに残念でございます。ただ、ここで申し上げ得るのは、そういう場合には何々をするというような事前の約束は毛頭ないこと、これはもうあらためて協議をするということでありますので、その協議の内容がいまの段階でわからないのは、これは当然かと思いますから、誤解のないように願っておきます。

○江田委員 きわめてあいまいに表現されるのでありますが、しかし問題はもうはっきりしているわけでしょう。そのときに問題になるのは、沖繩からのB52という飛行機か、どういう飛行機かわからぬが、とにかくベトナムへ直接攻撃を加えるものを進発させるかどうかということにならざるを得ないわけなんです。そのときにベトナムというのは、安保条約から見ても極東とはいえないでしょう。あそこを極東と言う牽強付会は許されぬと思うのであります。そこにまた大きな問題が出てくるわけでありまして、これ以上追及しても総理はお得意のごまかしでやられますから申しませんが、さらにもう一つは、沖繩には核兵器は置かぬのだということをはっきり言われたわけです。非核三原則を守るのだということをはっきり言われたわけです。それならなぜ国会において非核武装宣言をするということに、かたくなにこれを拒否し続けるのかということなんであります。非核三原則は佐藤内閣の政策なんだとあなたは言われるわけです。佐藤内閣の政策ということと、国権の最高の機関としての国会が決議をするということは、おのずから性格が異なるわけなんです。そこに内外に与える影響というものは違ってくるわけなんです。たとえば、あなたがどうおっしゃったところで、お隣の中国はそれを額面どおり受け取るかどうか、しかし国会が決議をするということになれば、おのずから別になってくるわけなんでありまして、いまもなおそれを拒否されるのはどういうわけなのか、私はそれが合点がいかない。この点はどうです。これも簡単に答えてください。

○佐藤内閣総理大臣 佐藤内閣自身の方針だ、それを国会の決議にまで高めることはいかがかと思って私はいままでのような答弁をしております。しかし、ただいま重ねて、国会は最高の権威じゃないか、そこできめることがどうしていかぬのかというようなお話ですから、それはよく検対してみることにします。

○江田委員 よく検討してみるというのは、いろいろ複雑ですね。総理にしては前向きの答弁をされた、こう一応了解しておきます。

 そこでもう一つ、沖繩の返還が七二年だ、そういう中で、いま軍労働者の問題が出ておるわけで、私は、山中長官が官僚と全然異なる、ほんとうの大衆政治家として沖繩の問題に取り組んでおられることに対しましては敬意を表します。しかし、なかなか山中長官だけでどうにもならぬところに来たのじゃないのか。総理の答弁を聞いていますというと、あの軍労働者の問題に対して介入する意図はないということを言われましたが、それで済むのかということなんであります。沖繩の百万の諸君は、前途に非常に不安を持っているわけです。復帰してどうなるのだろうか、米は高くなるのじゃないのか、あるいはビールもたばこも産業としてはもうだめになるのじゃないのか、どうしたらいいのだろうか、これから二年間何をしてくれるだろうかということを、目を大きくして見ているわけなんです。そのときに、この軍労働者の問題について、首を切られて行き場のない――横須賀の労働者とは違うわけです、沖繩の労働者のあの立場に立ってものを考えたならば、何とかここで前向きの措置をとらなければならぬことは当然のことじゃありませんか。それを介入する意思はないというのは、一体どういうことなのか。退職金の上積みあるいは予告手当等について、せめて本土の労働者と同じようにするくらいのことは、やろうと思えばできないはずはないでしょう。そういうことをもしアメリカ外交当局がかれこれ言うんならば、これこそ国民は承知しないと思うのです。こういうことについてどうするのか。私は、どうも今度のこの二年間というものを、沖繩がヘビのなま殺しの状態に置かれるのじゃないかということが心配なんでありまして、かつては日米琉の諮問委員会というものがあった。今度は日米協議委員会なりあるいは復帰準備委員会なり、屋良さんは顧問として入るということなんでありまして、そこにも屋良さんあたりは非常に不満を持っておることは事実でありますが、それはそれといたしまして、沖繩の諸君は、第三の琉球処分が行なわれるのじゃないかという不安を持っているのでありまして、せめてこの問題だけでももっと前向きにやるのだ、介入しないと言うのじゃない、前向きにやるのだという発言はできませんか。

○佐藤内閣総理大臣 沖繩百万の県民、これはほんとうに心からたよっているのは本土政府だと思います。私はさような意味でこの問題を見ておるわけであります。ただいまヘビのなま殺しというようなことばを使われましたが、これはことばのあやがそこへ走ったかと思いますが、私どもは沖繩県民、これをヘビにたとえるということは、どうもとんでもない話じゃないか、実はかように思います。私がいま申し上げたいことは、いまの話は、おそらくあとでよく速記も調べてもらわなければならないと思いますが、とにかく沖繩県民と血のつながり、その立場において私どもはこの問題と取り組んでおるのであります。私が一々申しました一言、片言隻句、それをつかまえてとやかく言われるよりも、ただいま私どもがこの沖繩の軍労問題について山中長官をしていろいろ折衝さしておる、その実情を十分お聞き取りいただけばよくおわかりじゃないかと思います。何と申しましてもいま施政権はアメリカにあるのですし、アメリカとの直接雇用関係を持っておるのであります。直接雇用関係を持っておるその問題を第三者がとやかく言うのは、これは本来の労働争議等に対する介入等から見ましても、あまり適当ではないと私は思います。しかし、冒頭に申しましたように、沖繩百万の県民がたよりにしておるのは本土政府である、その立場は私も十分認識しておりまして、誤ったことはしないつもりでございます。

○江田委員 いずれこの沖繩の問題については、本委員会で同僚委員のほうからさらに具体的なお尋ねをいたしますが、傍観しておるんじゃない、介入しないということは傍観じゃないと言われますけれども、客観的に見たら何もしなかったということになるのですよ。山中長官一人奮闘しておるんじゃないですか。そういう印象を受ける。

 沖繩の問題はまたあとで他の議員から質問いたしますから、私は今度の沖繩返還というものが、返還はけっこうだけれども、あまりにも高い代償を払い過ぎたんじゃないかということを言いたいのであります。その一つは、安保条約の変質と長期堅持。その一つは、防衛費なり援助の肩がわり。その一つは、経済問題についての譲歩というか取引というか、そういう問題があるわけでありますが、外務大臣が外交演説の中で、南ベトナムについては戦争の継続中でもこれを援助するんだということを言っておられるのでありますが、これは具体的にどういうことをされるのですか。この点だけ外務大臣、答えてください。

○愛知国務大臣 ベトナムの戦争状態の終結というものが非常に望まれているわけでありますけれども、その終結の形がどういうことになるかということについては、いま確たる見通しがついていないというのが実際であると思います。しかし、同時に人道的な立場からいいまして、南ベトナムの住民たちからの要望も非常にあり、また人道的の立場からこれを援助する必要もあると思いますので、たとえば病院とか住宅とかいうような点については、なし得る援助をいたしたい、そういう意味を表明したつもりでございます。

○江田委員 病院のことは予算書を見ればわかるんでありますが、その他のというのは、具体的にどういう金額をどういう項目にどこから出そうとされるのですか。その具体的なことだけ答えてください。

○愛知国務大臣 主としては病院でございます。それから住宅、すべて予算書にあらわれておりまするもののみでございます。

○江田委員 海外経済協力基金から商品援助の形でなされるという計画はございませんか。

○愛知国務大臣 現在御審議をいただいておる予算の上では、考えておりません。

○江田委員 海外経済協力基金から、明年度三十六億円の商品援助の計画をするということは、これは絶対にありませんか。

○愛知国務大臣 詳細には政府委員からも答弁いたさせますが、私の承知しておるところではございません。

○江田委員 ないということをはっきりおっしゃるのなら、それでけっこうです。私たちが一部聞いた情報によりますと、そういうことがある。平年度七十二億円、明年度三十六億円、これは繊維、化学肥料、機械などの商品援助、これが見返り資金になり南ベトナム政府の財政収入になる。結局は南ベトナム政府の戦費の援助ということにならざるを得ないじゃないかということなんでありますが、あなたはこれがないと、こう言われたんだから、それでけっこうです。

 そこで、午前中の時間が限られていますから少しはしょってまいりますが、総理は、今度の総選挙の結果で安保条約の長期堅持は国民の合意を得たんだ、こう言っておられますけれども、これは少し飛躍がありはしないかということであります。安保条約については、廃棄という立場もあります。極東条項廃止という立場もあります。あるいは段階的解消というのもあります。いろいろあります。そういうことから見ますならば、世論の大勢というものは、この安保条約を現在の形のままで長期堅持していいということには、なっていないわけなんです。総選挙の結果がこうだといったところで、総選挙というものは、一票一票は安保条約で入れた一票じゃないわけで、いろんな要素があるわけでありまして、これだけで判断するのは危険だと私は思うのであります。そういう点からいえば、むしろあなたがそうおっしゃるのは即断だと思いますが、一体長期堅持というのはどのくらいの期限をさすのか、このお考えを聞きたい。

○佐藤内閣総理大臣 この長期堅持と申しますのは、私は、問題はやはり重大な日米関係の安全保障条約ですから、こういうものは国民がきめるものだ、かように思っております。しかし私ども、このままで新しい期間に入るという形はとりませんから、いわゆるいわれておる自動延長の形になるだろう、かように思います。そして、それは国民が最終的に決定するものだ、かようにただいま考えております。

○江田委員 必ずしも長期堅持じゃない、自動延長でいくのだ、そういうことですね。

○佐藤内閣総理大臣 別に期間を改めるというようなことはしないつもりであります。

○江田委員 だから、押し問答はやめていきたいと思いますが、今度の日米会談で、いわゆる朝鮮、台湾の問題が出てきたわけなんでありますが、特に朝鮮の場合に、すみやかに前向きに米軍の事前協議に答えを出すということをあなたは約束をされたわけでありますが、そのときの基準というものはどういうことなのか。武力衝突といったところでいろいろあるわけでしょう。あるいは北鮮が南へ入ってくるという場合もあるかもしれません。あるいは一方の内乱が大きくなって米軍が出動するという場合もあるかもしれません。そういうときにどういう基準で諾否をきめられるのか、これはどうです。

○佐藤内閣総理大臣 どうも基準をきめるということはむずかしいことのように思います。プエブロ号あるいはその後の偵察機が落とされた、こういうようなときには、幸いにしてそれより以上に発展しなかった、こういうような状況でありますし、だからまあ、どういうようになったらということは、そのときになってわれわれが考えなきゃならぬことだと思います。ことに私ども、戦火に巻き込まれることは、まあ憲法上からもこれはたいへんゆゆしい問題ですから、その点は十分慎重に扱うつもりでございます。

○江田委員 だから、アメリカはまことに簡単な態度をとるかもしれませんが、しかし、かりにあそこで何かの事が起きて、米軍が出ていくという事前協議を求めたところで、日本としては、私は、日本自身に対するところの急追不正の侵略のない限り、日本の基地から他国の軍隊が出ていくことにオーケーを与えることは憲法上も非常に問題が出てくると思うのであります。こういう点について、やはりもっと国民の前に明らかにしてもらわぬと、非常に不安感が出てくるわけであります。朝鮮半島の問題は、どういうことが起こるか、非常に未知の問題が多過ぎるわけであります。私は、そういうことについてこれ以上総理に聞いたところで、はっきりした答えは出されぬと思いますから、よくお考え願いたいということにとどめておきますが、われわれがやらなければならぬことは、南北朝鮮の緊張緩和のために何をするかということじゃないかと思うのです。

 私は、今度の総理及び外務大臣その他の演説を聞いて、まことに奇異の感じがいたしましたが、その中に北朝鮮のことが一言もないということなんであります。こういうことがあっていいのかどうかということなんです。まかり間違えば、あそこで武力衝突が起きたら、われわれは戦争に巻き込まれなければならぬのであります。そのためには、南北の朝鮮をどうやって緊張を緩和するかということにわれわれが努力をしなければならぬ。しかるにかかわらず、こういうことについてただの一言も出てこないというのは、どういう認識に立っているかと聞きたいのであります。

 御承知のように、南北朝鮮の問題は、韓国側が国連の舞台でと言うし、北鮮側は関係国会議ということを言ってきて、その間に意見の違いがあることは事実であります。しかし、必ずしも国連という場で処理しなくても、もっとおおらかな観点で処理できる道があるんじゃないのか。いま東西両ドイツが話し合いを始めてきた。あの分裂国家が話し合いを始めている。そういう中において世界の大勢を考えたならば、私たちはもっとやるべき道があるんじゃないのか、これをやるのが日本の急務じゃないかということなんであります。そういうことについて何ら触れないで、そうしてただアメリカまかせでおっていいのか。

 われわれは、朝鮮の諸君に対しましては、南の人に対しても責任があります。同時に北の諸君に対しても大きな責任があるわけなんです。日本が長年植民地支配した朝鮮については、もっと親身になった扱い方をしていかなければ、衝突が起きるなら起きてもいい、韓国だけを援助しておればいい――まことに許されない態度じゃないかと思うのであります。そういうことについて国際的な努力をされるという用意があるかどうかをお聞きしたい。

○佐藤内閣総理大臣 南北朝鮮の問題、韓国中心主義の話じゃないか、こういうおしかりでございます。私は、確かにこの南北朝鮮の問題は、この緊張を緩和するようにわれわれも努力しなければならないと思います。その例として西独と東独との関係を引き合いに出され、ここでは東西ドイツが話し合いを始めているじゃないか、韓国の場合も同様にやれ、こういうお話でございますが、ドイツの場合は、イデオロギーは違いましても、両者が相戦っておらない、こういう関係にございます。どちらかといえば第三国が出て、そうしてその占領地域の関係で東西ドイツが分かれたということでございます。しかし、朝鮮半島においては両者が相戦った。それはよし内乱にしろ、イデオロギーにしろ、なかなかその関係は深い好悪の感情としてただいま残っております。第三者がこの間をあっせんしようと申しましても、ただいま言われるように、ドイツの場合とはおよそ異なる。このこともやはりわれわれの念頭に置かなければならないと思います。ただ単に北朝鮮と韓国と、その二つがある勢力によって分かれたというだけではない。ただいま申し上げるようないわく因縁があり過ぎる、かように思いますので、この扱い方は非常に私ども慎重にならざるを得ない。そこで国連の場においてということをただいま申し上げておるのであります。

 また、日本の場合は、かつて韓国を統治したという関係もありますので、北鮮系の人々もまた韓国系の人々も国内においては雑居しておる、そういう関係がございますので、この朝鮮半島の紛争を日本の国内にまで持ち込むというようなことがあってはならないと私は考えております。したがいまして、せっかく江田君の御注意ではございますが、この態度、この取り扱い方はより慎重にならざるを得ないと、結論だけを申し上げておきます。

○江田委員 東西両ドイツと朝鮮半島とは違うのだ。違うことはだれでもわかっております。だけれども、あそこで不幸な事態が起きれば、われわれもその渦中に入らなければならぬということなんでありまして、そういう中でもっとわれわれが努力しなければならぬのじゃないのか。あるいは、いまの関係国会議のことはすぐにできないとしても、われわれ自身でできることは、北鮮との経済や文化の交流、これはすぐやろうと思えばできることでしょう。われわれがそういうことをして、この分裂国家の一方だけにコミットするのでなしに、もっと双方へ接近しながら、その条件をつくるということが、私は日本の使命だと思う。それさえも放棄して、ただ、問題が起きたならば米軍の出動にすみやかに前向きにということでは、答えにならぬじゃないかということなんです。国連の場でどうするかということは別にして、いま北鮮と経済、文化あるいは人の交流を盛んにするということはどうです。これはやろうと思えばできるじゃありませんか。それは何も障害ないでしょう。どこからもしかられるわけがないでしょう。それはどうなんです。

○佐藤内閣総理大臣 ただいまの状況でも北鮮との間には全然交流がないわけではございません。あります。そうしてこれの関係をさらに深めようという動きもあります。しかし、いま韓国という国があり、私どもはこれを承認し、これと積極的な交際をしておる。そういう際に、その二つの関係を同じように扱え、これは無理じゃないだろうか、かように思います。そこらのところは、(「いずれの国とも仲よくする」と呼ぶ者あり)いずれの国とも仲よくするというその立場ではございますが、同一に扱えとおっしゃることは、これは無理なように思います。

○中野委員長 午前の会議はこの程度でとどめ、午後は一時より再開することとし、江田君の質疑を続けます。
 この際、暫時休憩をいたします。

午後の会議録


1970/02/21

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