1953/08/01

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16 参議院・厚生委員会


 出席者は左の通り。
   委員長     堂森 芳夫君
   理事
           大谷 瑩潤君
           常岡 一郎君
           江田 三郎君
   委員
           榊原  亨君
           高野 一夫君
           中山 壽彦君
           西岡 ハル君
           横山 フク君
           廣瀬 久忠君
           藤原 道子君
           湯山  勇君
           山下 義信君
           有馬 英二君
  国務大臣
   厚 生 大 臣 山縣 勝見君
  政府委員
   厚生政務次官  中山 マサ君
   厚生省医務局長 曽田 長宗君
   厚生省公衆衛生局長
           山口 正義君
  事務局側
   常任委員会専門員
           草間 弘司君
   常任委員会専門員
           多田 仁己君
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○らい予防法案(内閣提出、衆議院送付)
  ―――――――――――――
○委員長(堂森芳夫君) 只今から厚生委員会を開きます。
 らい予防法案を議題といたします。昨日に引続き質疑を続行いたします。御質疑はございませんか。

○江田三郎君 ちよつと議事の進行について。今日聞きますと、大臣も病気でお休みのところ出て来られて、まあその熱意に私どもも本当に心から敬意を払うのであります。病気を押して問題の結論を早くお互いにつけなければならん、こういうお気持から出て来られたことに本当に感謝するわけです。そこで御病気中ですから余り時間をおかけして、あとへ御迷惑をかけてもいけませんから、お互いに質問なさるかたも一つ要点だけを進めて頂いて、又同時に問題を本当に早期円満に解決をづけるために、大臣のほうでも一つ思い切り、できるだけのことを簡明直截にお答え願つて、早くこの結論を得たいと思つておりますから、そういうことを委員長のほうからも委員の皆さんにお諮り願うよう、議事の進行をやつて頂きたいと思います。

○委員長(堂森芳夫君) 只今江田委員から議事進行についての御発言がございましたが、述べられましたような方向で議事の運営を図りたいと思いますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(堂森芳夫君) 御異議ないものと認めます。

○山下義信君 私はかねて小委員会の申合ぜによりまして質疑の事項を大体おきめ願いました線で厚生大臣に伺いたいと思うのでありますが、私の質問の要旨は、らい対策の裏付けとなりまする予算関係、特にらい患者の待遇改善に関する予算について当局はどうお考え下ざるかという点について伺いたいと思うのであります。

 その前に本年度の癩療養所関係の予算を見ますと、当局の査定は極めて苛酷でありまして、厚生省の当初の要求額から相当の削減をいたしております。私ども財務当局のこの査定振りに対しましては非常に不満を感ずるものでありますが、私は当局の努力も又足りなかつたのではないかと思うのであります。今後はいやしくもらい予防法を提案しようとする政府としては、その裏付けの当然の予算の要求を強硬になすべきであると私ども考える、或いは本案の審議に関連いたしまして、この問題について大蔵大臣の出席を要求すべきが順序であろうとは存じますが、この際特に厚生省当局の私はその点に関する努力の足りなかつたことを数字の上から遺憾の意を表したいと思うのでありますが、殊に今回衆議院において予算修正をいたされたについて、この癩療養所関係の切りつめた予算の中に、更に削減が加えられており、およそ六百五十億の削減が癩療養所に向つて加えられておる、行政諸費その他について非常に巨額に減額の修正がされたことは自他周知でありますが、これが厚生省に割当てられたときに、又省内においてこの療養所費関係において六百五十億の削減をいたしておる、かような状態では到底私どもは積極的ならい対策について非常に心細く感ずる次第でございます。殊に職員の充実等の要求に対しましても、殆んど大蔵省は認めておりませんし、これでは法律ができましても、依然としてらい行政は旧態依然たる感を免れないと思うのであります。癩療養所予算関係、即ちこのらい予防法案を実施いたします上の裏付けとなるこの予算に対しまして、総体的に当局はどういう覚悟でおられるかということの根本的御態度、御熱意の程度について、先ず私は伺いたいと思うのであります。

○国務大臣(山縣勝見君) お尋ねの点でございますが、この点につきましては私も例えば慰安費にいたしましても作業謝金にいたしましても、或いは文化教養にいたしましても、その他不十分ということは十分承知いたしておるのであります。なお昭和二十九年度を期して事務当局におきましても相当苦心をいたして、大蔵当局とも折衝いたさんといたしておることもかねて政府委員から申上げた通りだと考えまするが、何分にもこれはむしろこの熱意に対して云々ということでございますれば、厚生当局の努力の及ばなかつた微力をお詫びいたさなければならんと思いますが、ただ昭和二十八年度の予算案は昨日本会議を通つたところでございます。それに対しまして努力が足りなかつたことに対しましては、誠に私どもどいたしましても遺憾に堪えない次第でありますが、二十九年度を期していろいろ考えておりまする点もあり、これらにつきましてはすでに政府委員から申上げた通りであります。なお私は政府委員からもこの委員会或いは小委員会の経過を報告を受けまして、昨日も副総理なり或いは大蔵大臣と何とかしてこの問題についてらい対策の一環としてというか、或いは重要な対策として、これらのいわゆる厚生を中心とする対策について何かいたしたい。予算案も通つたことであるから、この際単価の引上げというようなことはいろいろな困難があるであろうけれども、このできない中を何とかできないかということは、実は昨日も話合つたようなことであります。その結論は出ておりませんけれども、予算の費目等の財政上の問題もありましようけれども、なお今後大蔵大臣とも相談をいたして参りたい、基本的にはさように考えておる次第でありまして、具体的の問題につきましては、又必要によりまして政府委員から御答弁申上げたい、かように考えております。

○山下義信君 それでは具体的に伺いたいと思うのでありますが、第一には文化教養費の問題であります。これはすでに本法案の今回第十二条に、患者の福祉増進のことが特筆大書ぜられまして、而もその中には著しい、私どもとして珍らしい表現と考えておりますのは、教養を高め、などというような言葉も用いられてある。然るにこの予算の面を見ますると、そういう面が非常に少ない、というよりは殆んどない、例えば厚生省が要求いたしましたような不自由者に関しまするもの、或いは文芸等の講演、講師の謝礼金関係というようなものも、皆ことごとく削つて零、そうして或いはそれに類似なような費目といたしましても、要求の半額以下、四〇%或いは二五%程度の査定しかない。要するところ極めて僅少な予算である。これでは到底患者のそういう文化的な面の、法律に調つたような施策は到底できないと私ども考えておるのであります。この文化教養の関係、或いは慰安、娯楽費等につきまして、当局は果してこの程度の予算でよろしいと考えておるかどうか。こういうことは来年度を待つなんていうことはできないので、法律が施行したならばこれは直ちに本年度こういう施策を、法律がやると、こう公約をするのでありまするから、その他の或いは食費でありますとか、作業賃でありますとかいうような単価のきまつたものとは違つて、この文化教養関係の費用につきましては、年度内においても当然獲得しなければならんのではないかと考える。明年度はもとよりのことでありますが、この点について当局は如何なる御努力をお払いになるおつもりでありますか、承わりたいと思います。

○国務大臣(山縣勝見君) 文化教養費につきましては、本年度は例えば映写関係の費用でありますとかいろいろで大体五百万円、数字は、或いは間違つているかも知れませんが、私が大体報告を受けておりますのは五百万円内外、これに計上されておる。併し只今のお話はそれでは足らないので、予算の組替等を待たずして、何らかの流用その他においてもつと出して、この文化教養の面において更に施策を講じたらどうかというお話だと考えまするが、実はその点につきましては先般来委員会におきまするいろいろの御意見もございますので、部内においても何とか捻出をいたして、さような面における施策を講じたいといろいろ研究いたして、只今のところでは大体当初三百万円ぐらいということでございましたが、もつと何とか出せないかということを検討いたしまして、只今のところでは或いは四百万円ぐらい何とか他の費目、他の費目といいますと語弊がありますが、何とかして流用その他においてその面に対して施策を講じたいと考えておる次第であります。

○山下義信君 私は当局の若干の御誠意を認めるのであります。多くを申上げません。厚生大臣も御不快のようでありますから多くは申上げませんが、この文化教養関係、慰安娯楽関係につきましては患者が予想以上に関心を持つておりますことは、自他周知の通りであります。只今大臣の御答弁を若干多といたしまするが、なお御努力を願いたいと存じます。

 次は作業労賃の問題でございます。予算関係の数字等は省略をいたしますが、頂いた政府の資料等から見ましても、非常に作業賃の低額でありますことは申すまでもございません。例えば木工、土工、或いは鉄工、そういつたような木工作業をいたしますような軽症の患者、その作業賃がどうであるかと言いますと、一日が十五円でございます。或いは洗濯をいたしまする女子の患者を使いますると、一日が十四円でございます。相当過激な労働であると思われます風呂焚をいたしますような作業が、一日が十三円でございます。煙突の掃除をいたします者が十四円、甚だしぎに至りましては、被服の整理をし、その他乾燥とか雑役とかいうことをいたしまする者が十二円というようなことであります。これは必ずしも労働の報酬とい)建前のものではないとは考えまするが、こういう作業に対しまして所外の一般労働賃金と同じような水準を要求をいたしておるのではもとよりない。尋常人ではございませんから、健康者ではないのでありますから、それは勿論でございまするが、併しながら、軽度の、たとえそれが作業療法の或いは領域内であるといたしましても、若干の作業奨励というような費目で出しますにいたしましても、余りにこれは名目的でありまして、少額過ぎる。即ち、一日働きましてピース一個にもならんというような状態でございます。この作業労金の単価の引上げにつきましては当局はどういう考えを持つておられるかという点につきまして御答弁を願いたいと思います。

○国務大臣(山縣勝見君) 作業の謝金につきましても、実は昨日、一昨日いろいろ相談をいたして参りまして、来年度は御承知の通り一応案といたしましては二倍ということにいたして、大蔵省と強く折衝いたす予定であります。るが、只今のお話は、それを待たずして本年度何とかこの作業謝金の面においても報いるところはないかという御質問だと思いますので、それを重点的に申上げたいと思いますが、実は私もこの作業謝金については、何とかできやせんかということを事務当局にも強くいろいろ検討を命じましたのであります。これとか、或いはいずれ御質問がございましようが、慰安金等につきましても何とか、今年の予算案はきまり、又単価もきまつておりまするので、これをいわゆる公式に単価の引上げをいたしまするというようなことをいたしますことは、只今予算が決定いたしました上においては困難だと思いまするが、併しそういうふうなことを超えて何とか財政法上の許す範囲、或いは予算編成上許す範囲においてできないかということを、昨日も実は大蔵大臣に強く私は副総理と三人の席で申したことであります。それに対しましては、その後ずつと委員会等もございまして、なお又本会議等もございまして、まだ結論を得ておりませんが、ただその際大蔵大臣は、単価の引上げとか何とかいうことは、これは予算の決定をまさにせんとする限りにおいてできないと、まあ厚生大臣の苦衷もよくわかるが、ということで別れたことであります。まあ何とかその際できやせんか、勿論多くのことは望み得ないかも知れんけれども、気持だけでも一ついたしたいということを強く言つております。部内でも何とか一つ都合をして、この際少しでも患者の諸君に対して報いたいということを今検討をいたきしておるのでありまするが、今直に、例えば今十五円から二十五円でございましたか、それを単価の引上げという面には行きませんでしよう。但し、それらの面は来年度予算編成に待つて、作業の謝金の適用に際して何とかそこに工夫をいたすとか、或いは又何らかの名目でそれを殖やすとか、実は余り規定とか何とかにこだわつておりますとなかなかできんことでありますから、但し規定を破ることもできませんが、それらのことも十分勘案して最高限度に一つ考えてみたらどうか、慰安金の問題もそうでございまするが、今私といたしましては、事務当局にさように命じ、又一面大蔵大臣にもさような意味で話をいたしておる次第であります。只今直ちに結論をここで申上げることはできませんのでありまするが、さような気持で検討を命じておりまする状況でございます。

○山下義信君 厚生大臣の御努力はよくわかりました。いろいろ本年度の予算のお差繰りと申しますか、御努力につきましても、今後とも十分御検討願いたいと思います。明年は少くとも二倍を要求するということでございまするから、私どもといたしましては三倍も五倍もと存ずるのでありまするけれども、できるだけ増額に相成るように御努力を願いたいと思うのであります。

 次に、患者の療養慰安金の問題でございますが、只今月額四百円ということになつておりまして、一日が十三円三十三銭という割になるわけでありますが、この患者の慰安金というものでありまするが、療養慰安金と言いますか、何と称えておりますか、本員は審らかにいたしませんが、このお心持はどういうお心持で御支給になつておるのでありましようか。私どもといたしましては、或る意味におきましては、患者の所内における生活の補給金というような心持の御支給ではないかと存ずるのであります。予算を見ますると、これは六千万円計上されておるあの費目ではないかと思うのです。若し間違つておつたら、それではないとおつしやつて頂きたい。若し六千万円という計上ならば、これだけでないかわからんけれども、この予算における費目は患者の給与金となつておるのであります。どちらにいたしましても、療養慰安金というものが、これが患者の身の廻り、そういつたような所内におけるところの療養上必要なる小遣いと申しますか、費用として支給相成る金額ではないかと想像いたすのであります。従いまして、私はこの療養慰安金というものの性格が、若し幾らかでも療養の手当と、いわゆる健康保険におけるところの傷病手当金のごとき趣旨も含めておいでになるということでありまするならば、私どもといたしましては、現今の物価その他から照し合せてみまして、或いはこれが唯一の所内の、他に収入のない患者であるとするならば、唯一の身の廻りの必要な費用と相成るのではないかと考えまするので、将来この金額につきましては是非とも御改訂を願いたい、御考慮を煩わしたいと考えるのでありますが、当局の御所見は如何でございましようか。

○国務大臣(山縣勝見君) この慰安金につきましての考え方は、只今作業謝金について申上げましたと同様な基本的な考え方を只今持つておりまして、昨日大蔵大臣と話したのも、大蔵大臣はまあ詳しいことは承知いたしませんから、ただまあこういうふうな問題について何とかいたしたいということを、非常に私の話したときの心組の基礎には、例えば慰安金、或いは謝金等がございましたのであります。その慰安金はたしか本年は四百円でございましたか、来年度は四百五十円くらいを予定いたしておるようであります。只今主として本年度の問題でございまするから、本年度どうするかという問題につきましては、実は四百円とか四百五十円という単価そのものを変更いたしますることは、これは私もいたしたいと思いまするが、困難であろうと思いまするので、これは事務的にはこの問題非常に困難な問題のように私は報告を受けておりまするが、慰安金とか何とかいう名目にかかわらず何らか、例えば慰安金と申せば、鼻紙とか塵紙、そういうものも入つておると思いまするから、何らか許せる方法によつて大蔵大臣とも話をいたしまして、慰安金ということになりますると、単価等の関係がございまして、いろいろ問題も大蔵省にございましようと思いますから、何らか同じような目的を達して患者の諸君のためになればいいと考えまするので、この点について、実は事務的には相当困難だということでございますが、事務当局に検討さした結果は困難だということでございまするけれども、併し更に何らか方法はないかと、私としては更に大蔵大臣と話をして見たいと、かように考えておる次第であります。ただその数字等につきましては、さような次第でございまして、具体的にはまだどうこうということは申上げかねますが、又その成否は如何かと、大蔵大臣が確約いたしたわけではありませんが、私は相当昨日は副総理にも大蔵大臣にも話をしておりまする次第であります。事務的には実は、先ほど来も事務の者と相談いたしましたら、これは非常に困難だということでございますが、私といたしましては、駄目でも大蔵大臣と更に折衝いたしてみたい、これは慰安金の増額ということによらざる方法によつていたしてみたいと、かように考えておる次第であります。

○山下義信君 相当誠意ある御答弁を頂きまして、私も当局の是非とも只今の御精神の具体的な実現をお願いしたいと考えるのであります。実は先般来から患者並びに患者の家族の生活保護の問題につきまして当委員会の非常に重大な問題になりまして、御検討に相成つたのでありますが、かねて当国会におきまして、文書を以て一議員が当局にらい患者並びに家族の生活保護に対してはどうするかということを質問いたしたに対しまして、当局はいろいろ御答弁になつておる中に、実はただ政府の予算ばかりでなく、或いは外郭団体、例えば藤楓協会等々を以てその生活援護を十分ならしめるということが答弁されておるのでありますが、藤楓協会を呼んで聞いてみると、殆んどさような計画はあるけれども金がない、僅かに一ヵ月八万円か九万円そういう方面に使おうか、というような事業計画の様子なんでありまして、所外の家族の問題はともかくといたしまして、所内の患者に対しまするこれらの、只今質疑いたしました数点の政府予算というものは、在所患者の生活援護にもなる一つの費目でございまするので、私ども非常にこれを重視いたしまして、患者の要望の切なるものがあることを察知いたしまして伺いましたのであります。やや御誠意ある御答弁を得ましたので、更にそれを追求いたしますことは差控えまして、当局の努力に待ちたいと思うのであります。

 いま一つ伺いたいと思いますのは、患者の食糧費の問題でございます。只今は一日九十一円ということになつておるのではないかと思いますが、これらの予算とても、先般医務局長の御説明を聞けば必ずしも十分なる金額とは考えておられないようでありまして、即ちいろいろな園芸菜等の、所内におきまして患者たちがみずから耕したもの等を、補給し得られることによつて、辛うじてこの低額な予算を以て賄つておるような実情であるように考えられます。この患者の特殊性なり立場を考えて、更に療養所を一層明朗に充実せしむるというような観点からいたしまして、将来特別の御考慮を我々といたしましては願いたいと考えるのでありますが、この食費の増額につきましては非常にこれは大きな、三度々々の食事のことでございまして、在所患者は全国で一万二千に及ぶのでございますから、たとえこれらの食費が私は五円、十円増額せられましても一大朗報ではないか、非常に明るい気持を与えるのではないかと考えるのでございますが、厚生大臣の御所見は如何でございましようか、伺いたいと思います。

○国務大臣(山縣勝見君) 食費は本年度は九十一円に相成つておりまして、来年度の予算におきましてはこれを増額いたしたいと思つて事務的にも考慮いたしております。但しこれは、例えば作業謝金の二倍というふうな意味の額はまだ出ておりませんが、何とか増額いたしたいと考えておるのであります。本年度の問題につきましては、これも何とかいたしたいとは考えますけれども、他の療養所との関係というふうなことを申しますことも如何かと考えますから、敢えてさような意味で申すわけではありませんけれども、この食費を昭和二十八年度において増額するということについては、只今まだ私は確信を持つて何とかいたしたいというところまで至つておりませんので、ただこの点につきましてはまだ私も、事務当局の検討が足らない結果であるかも知れませんが、今例えば、他の文化教養費等について先ほど申上げたと同じような確信を持つて申上げる数字を持ちませんのは非常に遺憾でありまするが、勿論検討はいたして行きたいと、かように考えております。

○山下義信君 この点簡単に事務当局に……、生活保護法による基準の改訂等との関連はどうなつておりますか、やはり九十一円というのも、諸物価等と睨み合せ、或いは栄養基準の改善等等も考えて、多少これはスライドして来ておるのですか、どういうことになつておりますか、水割ですか、生活保護法の基準はスライドして来ておるのですね。この九十一円もそういうことをやつておるのですか。

○政府委員(曽田長宗君) 食費は、社会局のほうと連絡をとりましてスライドするようにいたしております。

○山下義信君 最後に私が伺いたいと思いますのは、本法案の第十三条によりますというと、更生指導ということが謳われてある。入所患者に対してその社会的更生に資するために必要な知識や技能を指導するような措置をするのだということが設けられてあるのであります。この第十三条のことは、大変これは結構です。一生涯不治、一生涯隔離されるという考え方から、これは治癒するんだ、又社会に復帰するんだという一つの明るい希望的条項でありますので、私ども非常に結構だと思います。併し、こういうことをただ一つの作文として書いて留めておくのではいかん、それでは非常に私は面白くないと思う。いわゆる羊頭を掲げて狗肉を売るような条文であつてはならない。従つて、所内におきましても、こういう設備が今後相当具体的に、又相当強力に計画されることであろうと思うのでありますが、私は所内でこれだけの指導をするということになりますと、これは軽快患者、中快患者が退所した後には、相当所内で更生指導をしたその知識技能を持つて外に出て、社会的生活のできるような援護の手を延ばして行かなければならないと思う。それがすでに今日も若干の者がこの第十三条によつてそれぞれ或いは措置をするような対象があるのではないかという気持もするのでありますが、然るに予算その他を見ますというと、退所後のいわゆる生業資金と言いますか、そういうものに対しての十分なる援助の手が考えられておるというような形跡がないのであります。これでは仏作つて魂入れずでございますので、当局におきましては、退所者の、治癒患者の一つの福祉制度と言いますか、福祉資金というようなものを今後お考えになりまして、これらの者の自活のできるような、そういう福祉政策をお取りになるというお考えでありますかどうか、又現在そういうことが予算の上にでも考えられておりまするならば、御指摘を願いたいし、将来の方針をどう考えておられるかということを承わりたい。

○国務大臣(山縣勝見君) 只今のお話は、言葉を返して申せば、退所後の厚生資金等を中心にいたした問題であろうと思います。さようでございますか。

○山下義信君 そうです。

○国務大臣(山縣勝見君) これは私もらい患者が癩療養所の本質が先般来問題になつておりまするように、治療いたして一日も早く退所せられて、そして立派な社会人として更生をしてもらいたいということが目的でありますから、治療したのちの社会的の厚生という面に対して、留意しなければいかんということは全く同感であります。ただ悲しいかな、本年度予算にもそれに該当する予算はありません。ただ来年度、来年度ということを度々申上げまして、私も恐縮いたすのでありますけれども、来年度予算編成に当つては、これらの面についても十分考慮して、大蔵当局と強力に折衝いたしたいと、かように考えておりまするが、ただ本年はそれに該当いたしまする予算はございません。甚だ遺憾でございまするが、今後したいと考えておる次第であります。

○山下義信君 本日私が伺いたいと思いまする諸要綱は以上でございますが、今の退所後の福祉資金と言いますか、生業資金と言いますか、これを将来是非お考えを願いたいと思います点につきまして附言しておきますならば、或いはややもいたしますると、そういう制度は他にあるのじやないか、生業資金を貸付けるとか、援助するとかいう制度はほかにあるのじやないか、従つてそういう制度を適用いたしますと、或いは御答弁相成るかと思いましたら、そうでなくて、よく考えるということでございますから、実は私もお考えを願いたいと思うのでありますが、他の制度によるということになりますと、我々がらい対策につきまして、特段の注意を払いたいと思いまする、秘密保持の線と矛盾して来る。これは患者、若しくは患者であつたという事態につきましても、十分の注意を払いたいということが、今次生活保護制度についての別仕立の要望等、或いは当局のお考え直し等となつたのであります。この点十分御留意を願いたいと存ずるのでありますが、以上私は伺つておきまして、なお足らざるところがありましたならば他の機会に譲りたいと思います。

○江田三郎君 先ほど来山下委員の質問に対しまして、大臣のほうから誠意を持つたお答えがありまして、私どもも非常に感謝しておるわけですが、申すまでもなく、全国の一万数千の患者のかたがたは、これはまあ八千万のお互い国民のほうから、頼んで不自由な生活をしてもらつておるわけであります。ところがその僅か一万数千の人々に、本当に安んじて療養生活をしてもらうことができないで、全国的にどこもかしこも穏やかならん情勢を作り出す。昨日の、来年度予算を審議している国会の最中に、国会の門を鎖して、門の外から手を差入れて、開けろ開けろと叫ばしている。こういう状態は、私ども政治に携わる一員といたしまして、誠に心中恥じ入るような気持がいたすわけでありまして、なんとかこれらの諸君が安んじて療養にいそしんでおられるようにしなきやならん。二度とこういうような不穏な状態を繰返してはならない、一日も早くこの全国の穏やかならざる状態を解消して、又患者の諸君に納得をしてもらい、穏やかに引上げてもらわなければならん。どうやつてそれらの諸君の納得をしてもらうか、それをいろいろ考える存でありまして、これらの諸君には、勿論私ども皆さんと協力いたしまして、出て行つて、こういう工合になつたのだから、一つ今の態勢は一つ解いてもらいたい、来年までにはこうするのだ、本年度もこうするのだということを説明しに行く義務が、又私どもあると、こう思うのでありますが、折角大臣のほうで来年度からは、こういうことを考えよう、本年度はもう予算というものはすでにきまつておるのだから、これは制約があるけれども、その制約の中でも、できるだけのことはして行こうとこうおつしやつておられるのでありますが、恐らく本年は災害その他の関係から考えましても、補正予算を組まれることは必至だろうと思うのであります。今政府として、補正予算を組むというようなことは勿論言明はできないわけでありますが、これはまあ常識で考えまして、補正予算を組まれることは必至ではないかと思うのであります。そういうような機会がありましたならば、これに是非今問題になつておるところのらい患者の慰安費なり、山下君が問題にしましたいろいろの問題を、是非取上げて頂きたいと思うのであります。これは金額にいたしましたところで大した数ではございませず、大臣のお話のように、吉田総理なり、或いは副総理なり、或いは大蔵大臣とお話下されば、今のこの起きておる事態をよく皆さんも御承知なんでありますから、これはお話下されば、私はこれは納得して頂けると思うのであります。何もこの造船利子を百六十億にするというような問題じやないのでありますから、僅かなことなんでありますから、是非本年補正予算を組むような機会があつたら、そのときに努力をするということを大臣のほうでもおつしやつて頂ければ幸いだと思うのであります。

○国務大臣(山縣勝見君) 只今の江田委員のお話でございまして、私も昨日大蔵大臣と話しました趣旨は、何とか方法がないかという気持で申したことでございまするから、それと同じ気持で申上げて、今仰せのようなことにつきましても、それが通ずるわけであります。但し補正予算をいたします際に、その補正予算をどの程度にいたすかという……、内閣としての、やはり又基本的の方針がございますから、それに触れない範囲におじ、私は努力はいたしてみたいと思つております。但しこの補正予算に必らず盛ると……、私もいい加減なことを申せば、もつと或いは話がスムースに行くかも知れませんが、私も従来、私の方針としては、余りいい加減なことを言うのは嫌いでありますから、つい話が固くなり勝ちでございますけれども、私も勿論その際には努力をして行きたい。但し答弁としては、それだけでいいんでありますけれども、何分にもいつも問題になりまするのは、補正予算の際に、その補正予算がどれだけの範囲の、どういう考え方のものを組むかということが、いつも政治的に問題になりますから、私は勿論努力はいたしてみたい。その結果につきましては、それは確約はできないが、努力はいたしてみたい。先生がおつしやられるのは、その努力をするかせんかというお尋ねでありましようが、私は努力いたしてみたいと思います。

○藤原道子君 私は大臣の御病気のことでございますから、大体を省略いたしまして、ただ一点だけをお伺いいたしておきたいと思いますのは、職員の待遇並びに増員につきまして、是非ともこの際一つ実現してもらわなければならない、かように存じます。この職員の増員ということには、一つにはらい患者の福祉になる、今のような実情では、本当に療養所の態勢が整わない。ここにおいて、働らく職員の職務が如何に困難な状態にあるかということは、私どもも申上げるまでもございませんので、一切を省略いたしますから、大臣はこの増員に対して、どのようなお考えを持つておいでになるか、そしてその待遇の点でございますが、調整号俸等につきましても、これでは私は無理だと思いますので、これらについての大臣の御答弁を一つお伺いいたしておきたいと思います。

○国務大臣(山縣勝見君) 先般来、らい患者の問題に関して療養所の諸君が相当過当な勤務に従事いたしておりますることもよく承知いたしております。なお又、らい患者の治療等に関しまして、これは特殊のことでありますから、いろいろ物心両面の心労、或いは又過労等に陥りますこともよく承知しております。で、この問題につきましては、例えば増員のことにつきましては、看護婦、医師、或いはどういう言葉になつておりますか、司厨夫等についても、これらを中心にして増員をいたして参りたい。これは事務当局から先般来或いは御答弁をいたしておると思いますが、数等の検討も今後残つておりましようけれども、少くとも六割内外を目標にしてやつてみたいという案も持つております。なお待遇等につきましても、いろいろ人事院とも折衝してみたい。なお例えば先般、確かこれは退職金、恩給の問題でございましたか、何か閣議で出ました際においても、特にらい患者の治療等に当つておる、又療養所の職務に従事しておる職員に対しては、例えば鉄道の機関車に乗つておる職員と同等、或いは少くともその同等の考えで以てやつて欲しいということを申したくらいでありまして、これは他の方法によつて、単に癩療養所の職員だけでなくして、機関士に対する問題等も一括して、いわゆるその問題の際においては採用できなかつた次第でありますが、併し常に絶えず私も頭に置いておるのでありまして、今後増員の問題、或いは待遇の問題についても、極力努力をいたしてみたいと考えておる次第であります。

○藤原道子君 これは事務当局にお願いしておきたいのでございますけれども、もう議府のいろいろな説明をお伺いいたしましても、いろいろな点にまだ納得しがたい点もございますので、予防法案の一条毎の予算面、運用面の一つ資料を提出して頂きたいと思います。

○江田三郎君 議事進行について…。ちよつと速記をとめてもらいたいと思います。

○委員長(堂森芳夫君) 速記をとめて下さい。
  (速記中止〕
○委員長(堂森芳夫君) 速記をつけて下さい。

○江田三郎君 これはもうすでに各委員のほうから御質問も出ておることでありますが、私は最終的に一つだけお聞きしておきたいと思うのは、この法案に対して修正の希望を私たちは持つておりますけれども、これについては、政府のほうでは修正をなされる御意思はございませんかどうかということだけお伺いしておきます。修正が許されるものか、それとも修正はできないとおつしやるのか、或いは将来、本国会ではできないが、将来に亙つてはどうかという、こういう点を一つ簡単に御説明を願いたいと思います。

○国務大臣(山縣勝見君) この点につきましては、確か昨日も申上げたかと考えておりますが、本国会におきましては、本国会と申しますか、只今予算の編成も終りましたことでございまするから、本法案の修正に対しましては、政府は只今同意をいたしかねますけれども、昨日確か御質問に対してお答えいたしました通り、諸般の問題、殊に廣瀬小委員長が挙げられました二つの問題等につきましては、昭和二十九年度から誠意を以て実現に努力をいたしたいと考えております。さように申上げた通りであります。

○委員長(堂森芳夫君) それでは一応法案の取扱いに関しまして、小委員並びに委員長理事の協議に法案を移す、こういうことにいたしまして、本委員会を暫時休憩することにいたしたいと思います。
   午後零時八分休憩
   ―――――・―――――
   午後二時四十七分開会
○委員長(堂森芳夫君) 午前中に引続きまして委員会を開会いたします。らいに関する小委員長の御報告をお願いいたします。

○廣瀬久忠君 らい予防法案に関しまして別室におきまして小委員会を開き慎重審議をいたしましたところ、次のごとき附帯決議案を付すべしとの有力な意見がございました。右御報告を申上げまする
 決議案を朗続いたします。

一、患者の家族の生活援護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護制度を定め、昭和二十九年度から実施すること。

二、国立のらいに関する研究所を設置することについても同様昭和二十九年度から着手すること。
三、患者並にその親族に関する秘密の確保に努めると共に、入所患者の自由権を保護し、文化生活のための福祉施設を整備すること。
四、外出の制限、秩序の維持に関する規定については、適正慎重を期すること。
五、強制診断、強制入所の措置については人権尊重の建前に基きその運用に万全の留意をなすこと。
六、入所患者に対する処遇については慰安金、作業慰労金、教養娯楽費、賄費等につき今後その増額を考慮すること。
七、退所者に対する更生福祉制度を確立し、更生資金支給の途を講ずること。
八、病名の変更については十分検討すること。
九、職員の充実及びその待遇改善につき一段の努力をすること。以上の事項につき近き将来本法の改正を期すると共に本法施行に当つてはその趣旨の徹底、啓蒙宣伝につき十分努力することを要望する。以上。

○委員長(堂森芳夫君) 只今の小委員長の報告につきまして御質疑がございましたらお願いいたします。

○高野一夫君 ちよつと細かい点ですが、この第五の「強制診断、強制入所の措置については」云々ということは、これは誠に結構だと思いますが、これは何もわざわざ強制という文字を付けなくても、「診断、入所の措置については」としたほうが、柔らかくていいんじやないでしようか。どうせあとで「人権尊重に基き」納得してやつたらいいという希望ですから、外の条文はともかく、ここではどんなものでしようか。

○廣瀬久忠君 お答えをいたしますが、これはやはり患者が最も心配しており、我々も最も心配いたしておるものでありますから、ただこれを診断とか、入所だけにいたしますと、余りにここに任意の感じがありやしませんでしようか。やはり強制診断、強制入所ということに、法律の上でもなつておりますから、これでこのままに認めたほうが却つてよかろうかと思います。

○高野一夫君 私は先般第五条について、この強制診断について患者がいろいろ訴えて来るので、当局に伺いましたところが、あの文章の中には確か「診察させることができる。」となつておる。それではその診察に応じない場合はどうするかというと、どうすることもしようがないから、ただ拒否された場合は繰返し繰返し勧奨して診察させるようにせねばならんと、こういうような御説明であつたように思います。ので、この第五の条文は、それから行くと必ずしもどうも強制診断という文字は当らんと思うのですが、これはどんなものですか。厚生省側の御意見を聞いて、その上で私も又考えたいと思いますけれども。

○廣瀬久忠君 ここに人権尊重ということをどうしても言いたいのでありまして、人権尊重ということを言いますと、ただの診断ということでは人権尊重との釣合も如何かと思われますので、やはり強制診断、強制入所として人権尊重との釣合をとつたと考えるのであります。

○委員長(堂森芳夫君) 速記を止めて下さい。
   〔速記中止〕
○委員長(堂森芳夫君) 速記を始めて下さい。
 御質疑もないようでございますから、小委員長報告はこれを承認することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(堂森芳夫君) 御異議ないものと認めます。
 次に本案につきまして更に御質疑はございませんか。

○有馬英二君 大体質疑は終了したものと認められますが、質疑を打切り、直ちに討論に入つて頂きたいとの動議を出します。(「賛成」と呼ぶ者あり)

○委員長(堂森芳夫君) 只今有馬君の動議は成立いたしました。有馬君の動議を議題といたします。質疑打切に御賛成のかたは挙手を願います。
  (賛成者挙手〕
○委員長(堂森芳夫君) 多数と認めます。よつて質疑を打切ることに決定いたしました。これより討論に入ります。御意見のおありのかたはそれぞれ賛否を明らかにしてお述べを願います。




○委員長(堂森芳夫君) 他に御発言はございませんか、他に御意見もないようでございますが、討論は終結したものと認めて差支えございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(堂森芳夫君) 御異議ないものと認めます。それではこれより採決に入ります。らい予防法案を衆議院送付案の通り可決することに賛成のかたは挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(堂森芳夫君) 多数でございます。よつて本案は衆議院送付案の通り可決すべきものと決定いたしました。

○常岡一郎君 只今採決になりました本法案に別紙付帯決議をすることの動議を提出いたします。
○有馬英二君 只今の動議に賛成いたします。

○委員長(堂森芳夫君) 只今の常岡君の付帯決議の動議は成立いたしました。常岡君の提出された動議を、提出されました付帯決議を御朗読願います。

○常岡一郎君 朗読いたします。

   付帯決議案
一、患者の家族の生活援護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護制度を定め、昭和二十九年度から実施すること。
二、国立のらいに関する研究所を設置することについても同様昭和二十九年度から着手すること。
三、患者並びにその親族に関する秘密の確保に努めると共に、入所患者の自由権を保護し、文化生活のための福祉施設を整備すること。
四、外出の制限、秩序の維持に関する規定については、適正慎重を期すること。
五、強制診断、強制入所の措置については人権尊重の建前にもとづきその運用に万全の留意をなすこと。
六、入所患者に対する処遇については慰安金、作業慰労金、教養娯楽費、賄費等につき今後その増額を考慮すること。
七、退所者に対する更生福祉制度を確立し、更生資金支給の途を講ずること。
八、病名の変更については十分検討すること。
九、職員の充実及びその待遇改善につき一段の努力をすること。
 以上の事項につき近き将来本法の改正を期すると共に本法施行に当つてはその趣旨の徹底、啓蒙宣伝につき十分努力することを要望する。
  以上。

○委員長(堂森芳夫君) 常岡君提出の付帯決議を採決いたします。常岡君提出の通り付帯決議をすることに御賛成のかたは挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(堂森芳夫君) 全会一致と認めます。よつて常岡君提出の通り付帯決議をすることに決定いたしました。

○政府委員(中山マサ君) 御熱心なる皆様がたの御研究、御討議によりまして遂に今日に至りましたことを深く感謝をいたしております。患者のいろいろな施設のため、或いはいろいろな、今の付帯決議を拝承いたしておりましたのでございますが、政府といたしましても御要望のあるところを体しまして御意思を尊重し、遵守することをここに慎んで申上げる次第でございます。

○江田三郎君 この法案が今の付帯決議と共に決定されたわけですが、問題はこれに関連して、今どうなつたのかわかりませんが、先ほど来外から聞えておつたあの患者諸君をどうやつて納得してそれぞれ療養所に帰つて頂き、療養に専念してもらうか。そういうことについて政府のほうではどのように考えておられるのか承りたい。

○政府委員(曽田長宗君) 私どもとしましては今日までにおきましても患者が療養所から外出いたしまするということについては、この際自重して欲しいという意見を述べておきましたけれども、又昨晩及び一昨晩とすでに二晩帰院いたしませんでそこにいるのでございます。私どもとしましては一刻も早く帰所するようにということの勧告を重ねているわけであります。今後とも十分この説得に努めまして、できるだけ速やかに帰所するように誠意を以て更に努力を重ねたいというふうに考えている次第であります。

○江田三郎君 今のお答え甚だ紋切型の答えがあつたのですが、そういうことで平穏に問題が解決されるのかどうか、政府のほうで自信があればそれで結構でございます。ただ昨日も政府の職員の中で厚生委員に対してかれこれ云々というようなことも聞いておりますが、そういうことはこの際余り触れませんけれども、政府のほうでこの法案が只今の形で決定され、附帯決議が、決定され、それだけで今おつしやつたようなことで事態を正常の形に戻し得る、かような確信があるのでしたら、私はそれ以上何も申しません。

○政府委員(曽田長宗君) 私どもこの成否のことにつきまして、えらそうなことをここで申上げるわけには行きませんけれども、誠心誠意を以てその説得に努めるということを申上げる次第であります。

○高野一夫君 今の江田委員の御質問、一番大切な問題だと思いますが、誠心誠意とか極力善処するという抽象論ではなくて、誠心誠意というのは具体的にどういうふうな措置をとられつつあるか、昨日もそういうお話であるし、それで昨日も今日も全然改善されてない。本会議にかかるまでまだああいうことがあると思うのですが、具体的にそれじやどうする、こうするというような厚生省として何かお考えがないのですか。ただ誠心誠意とかどうとか言つてみたところで、どうも改善されないのだから。

○政府委員(曽田長宗君) 甚だ同じようなことを繰返し申上げて恐縮でございますけれども、本日午前中にも御報告申上げましたように、いろいろ患者のほうでも考え方と申しますか、或いはその行動というようなものも日毎にいろいろ幾分違つ態度をとつておりますので、私どもその状況に応じまして、できるだけその都度私どもも誠意をもつてその解決或いは患者の説得というものに努めて行くということを申上げている次第でございます。今具体的にどういうことをするということにつきましては、細かいこととなりますれば、それは今やつているのをどうこうということを申上げれば、更に細かくなつて参るのでありますけれども、私どもいろいろその事態に応じまして、できるだけ努めて行くというふうに考えているわけであります。

○江田三郎君 私はもう一遍繰返しますけれども、やはり私どももこの事態を正常な形に戻すために何らかのことをしなければならんのじやないか。もちろん主体になつておられるのは政府です。それに我々としても協力できる点があれば協力しなければならんのじやないか、こういうふうに前々から考えておつたわけですけれども、昨日私ども委員に対して厚生省のあなたがたのお役所の人が言つておられることは、さようなことが必要でないような、むしろ邪魔になるような意見もあつたようですから、私のほうから進んでどうしろということは言いませんが、だからあなたがたのほうでこの事態を正常な形に戻し得るという確信があるならそれでよろしいということを私は言つているわけです。

○政府委員(曽田長宗君) 実は只今も全生園の園長がこちらに参つておりまして、この会議に参上いたします前にもいろいろとその状況の報告を聞いて、如何に善処するかということをいろいろ相談しておつた次第であります。私どもとしては、成るか成らんかは別といたしましても、できるだけ努めてみたいと考えている次第であります、場合によりましては、その状況を皆様がたに又細かく御報告する必要がありますれば申したいというふうに考えております。

○湯山勇君 今委員の各位が聞かれましたのは実は心配なんです。ただ善処するというようなお答えだけではやはり安心ができないものですから、大変しつつこいようですけれども、例えばこれが終ればすぐに局長各位が行かれて、今日はこういうことで、こういう決議があつた、このことは大臣もこういうふうに約束しているんだということを局長各位がお話になるとか、或いはこの際だから、大臣は御病気だから、次官が行つて懇切にそのようなことを説明するとかそういうことをなんか具体的にお話して頂ければ私どもは一応安心だというわけなのであります。若し前のように御説得申上げてもきかない、そうして強権発動というような事態が起る、そういう事態が起るということになりますと、折角こういうふうにして全会一致までして附帯決議をした関係もありまして、私ども自体にも或る程度責任があるのではないかというようなことを考えるものですから、大変同じことを繰返してお聞きして失礼とは思いますけれども、これはむしろこういう質問、答弁というような形でなくて、ざつくばらんに御相談するというような形において一つお答え頂きたいと思います。

○政府委員(曽田長宗君) 今の事態につきまして患者と誰か行つて会うかということについても考慮いたしております。その話等もどういうふうに話すのがいいか、或いは誰が行つて話すのがいいかということもいろいろ相談し合つております。本日本会議において一応議決が済みましたら、早速私ども寄り集つてその協議をいたしたい、こういうふうに考えております。

○湯山勇君 これは多磨の全生園だけの問題だけではなくて全国の療養所の問題になつているのですが、私は或る地方の癩療養所の内部の実情を聞きました。そうしたらば、それは多磨のほうからのいろいろの患者の勧誘があつたけれども、絶対にそういうものに参加すべきではないというのが殆んど患者の総意であつたが、療養所においては東京から代表が何名か見えて極力それをなんとか説得されるので、然らば一つ義理にでも東京に行かなければなるまいと言つて、何名かの代表が来て、そうしていつの間にか座り込み戦術に捲き込まれた、これが実情でありますという療養所の話も聞いている、そういうことになりますと、尚更大事なことは全国の各地にあるらいの療養所に説得等の手を厚生省の関係のほうでお打ちになつておられるかどうか、なつておらないとすれば今後早急に説得ざれるような方法をお取りになるお考えか、それを一つ伺つておきたい。

○政府委員(曽田長宗君) 各療養所との連絡につきましては私どものほうもできるだけ緊密にいたしたいと考えております。で、確か昨日だと思いますが、昨日も全療養所に一応の連絡はいたしました。それで療養所の中と申しますか、殆んど全部であると申してもよろしいと思うのでありますが、この法案の審議が如何ようになるかというようなことについても、非常に関心を持ちまして、その結果を聞きたがつているような状況でございます。この本委員会が一応の結論に到達いたしました後には、又本会議がございますけれども、こういうふうなことについても療養所のほうとも連絡をし、又患者に対しましてもこの時期と、それからその方法等十分考慮いたしまして、よく患者にも納得してもらうように説明をいたさすというつもりでございます。要すれば各療養所から係官を、所長その他の職員を集めまして、十分この法案の審議の状況、或いはその趣旨というようなものをよく徹底さして、この運用に誤りがないようにいたざせたいというふうに考えている次第であります。

○山下義信君 私は発育を控えておりましたのですが、今高野委員から、こういう運動は一部の方のみに行われて、或る療養所のごときは殆んど全員同調していないところもあるやに聞いておる云々という御発言がありまして、当局の今御答弁があつた。患者が全部動いておるということは、私どももさようには考えられませんが、私はそういうような、まあ情勢と言いますか、情報というものが政府の立場と私どもの立場と、又違う点があるかとも思いますが、ともかくこういう場合には政府のほうにも楽観的情報が入るのでありまして、私はよく知つている。例えばこの前の全生園でも千二百名の中にこの種の運動をしようというものは、或いは半数前後、或いは半数以下かわからんが、又それに同調しない患者の人たちもあることは事実なんでありまして、これに反対をする、我我はあらゆる運動には賛成しないんだと言う患者がいることが療養所の職員を通じ、或いはその他の人たちを通じて、政府部内に極めて楽観的な情報として入る。あたかも警察情報のごときものを諸君が握つておる政府が。ややもするとそういう形がある。そうして問題を軽視しよう、軽視しよう、軽く取扱おう、軽く取扱おうとする。そうしてその事態を収めるためにはどうするかということになると、只今、江田委員やその他の方が心配されたような、そういう親切な、懇切な手段は取らないで、あらゆる角度からそれとなしに圧迫を加えるような方法を坂つて、そうして事態を、極めて、何と言いますか、陰険な方法で抑制し、鎮圧しようとする。若しまかり間違つたら直ぐに警察権、強制手段というようなことを考えることが、ともすると政府の部内の取らんとする傾向ではないかと私は思うのであります。でありまするから、全部の患者が動かなくても、一部の患者が動いていることは厳たる事実なので、全部の患者が動いてないからと言つて、一部の患者の動いているということを、これを軽視することは、黙視することはできないのであつて、前回のデモの時分に私どもが口出しをいたしました、手出しをいたしまして、そうしてその問題に対しましては私どもも責任をしばしば繰返えすごとく感じますが、政府といたしましては誠に行き届かなかつたと言つて、厚生大臣も陳謝をしてそれでけりをつけましたが、併しながらかくのごとき事態は再び生ぜしめないように、万全の策を取ると言つたではないですか。若し再びかくのごとき事態が生じたらば責任を負いますと言わんばかりの当時の態度であつた。然るに再びかくのごとく相成つている。何人も使嗾したのでもない、昨日誰彼がかくのごときことをいたしたのではないかという空気がただようておりましたが、何人が使唆したのでもない。何人が煽動したのでもなくいたしまして事態を発生いたしております。常識から考えまして、こういう段階に達しまして、関係者が焦慮いたしますることは当然であります。然るにこの事態が生じましても、厚生大臣以下信として責任を負おうともいたしておりません。委員会に対しましても何らの発言がない、只今質問があつて初めて御答弁があつたのであります。でありますから、どうか一部の楽観的情報、いわゆる官憲主義のその楽観的情報によりまして、事態を軽視してただ一部の分子の鎮圧手段を講じさえすればよろしいかのごとき考え方の私は対策を取られるならば、これは誠に私どもといたしましては、賛成しがたいのであります、ということを申上げたいと思う。それから江田委員の示唆されました、或いは湯山委員等もそれとなく示唆されたのでありますが、私どもはこの段階におきまして再びこれが事態の正常化につきまして、少くとも前回そのことに当りました者としては、再びこれを繰返すということは考慮しなくてはならんと思うのでありまするから、もとより厚生委員会といたし、厚生委員といたしまして憂慮いたし、何らかのことは心中に存しまするけれども、そのいわゆる説得、或いは帰所の勧奨等につきまして、我我が厚生委員といたしまして当りますことは、少くとも前回これに当りました者はその資格なしと言わなければなりません。むしろ説得よりも、我々は何と申しますか、深い責任を感じているのでございまして、或る意味におきましては、私は再び説得する資格なしと思うが、今後若しそういうことに御心配下さるならば、前回お当り下さいました方がお当り下さるほうが、むしろ望ましいと思うのであります。併しながら我々といたしましてもこの事態の成行きにつきましては、あらゆるその情報を知らしめる責任があるのではないかという点を考えられますので、この点は私どもといたしましても考慮いたしまして、善処したいと思うのであります。当局が非常に甘い情報、一部の、自分に都合のいい問題に耳を傾けて、問題の大所を誤まることのないように希望いたしたいと思いますが、御所見如何ですか。

○江田三郎君 ちよつとそれに関連して。私は繰返して申しましたけれども、私どもは何だかこれはこのまま私どもとしても捨てておいてはいかんのじやないかと、こういうふうに考えるわけです。併し政府のほうでは私がさつき申しましたように、昨日、そういうような過去において皆さんの取つた行動に対して、余り現在賛成しておられないような口吻を洩らしているのを私どもの委員ははつきり聞いているわけです。だから政府に確信があるなら、政府だけでおやりなさい。我々のほうから政府へ頼んで、我々が協力しましようということは言えません。そこまで言わなければわからんのなら仕方がないと思う。

○藤原道子君 この際、この前、患者が座り込みをして非常な憂慮すべき事態が起きたときに、当委員会から代表が出て、説得して、そうして参議院にお願いする、参議院にお任かせすると言つて帰りましたことは、皆さん御承知の通りなんです。ところが再びこういう事態が起つた。ところが昨日私どもの湯山委員に対して、政府当局がはつきり言われたことを、この際湯山委員に御遠慮なしに御発表願つて、その上において我々委員は善処いたすべきじやなかろうか、こう思うのです。私は湯山さんにそのことを話してもらいたいと思う。

○山下義信君 異議なし、その前に私の質問に対する答弁をしてもらいたい。藤原委員の言われたことについては異議なし。

○委員長(堂森芳夫君) ちよつと速記を止めて。
   〔速記中止〕
○委員長(堂森芳夫君) 速記を始めて下さい。

○政府委員(曽田長宗君) 山下先生の御注意につきましては、私どももともすればさような考え方をし勝ちであるというようなことにつきまして十分警戒いたしまして、甘い考えというようなことを持たないように十分注意して善処して参りたいというように考えます。

○高野一夫君 私、地方の情報をちよつと申上げたので、或いは山下委員の誤解を招くようなことであるといけないと思いますから申上げますが、仮りに少数の者であつても患者がああいう行動に出るということについては、これは全部であつても少数のものであつても同じことなんであつて、これを軽軽に看過すべきであるという考えは私も毛頭持つておらないので、むしろだから先ほど厚生省に要望したのは、多磨全生園の話がよく出ますので、それだけでなくて、全国の療養所の問題だから、療養所の患者に十分徹底するように手配をお願いしたい、こういう意味で私申上げたわけでありますから、山下先生、どうか一つ御理解を願いたい。

○委員長(堂森芳夫君) 他に御発言ございませんか。先ほど可決されました法案の委員長が議院に提出する報告書には多数意見者の署名を付することになつておりまするから、本案を可とされた方は順次御署名を願います。
  多数意見者署名
    西岡 ハル  高野 一夫
    榊原  亨  大谷 瑩潤
    廣瀬 久忠  有馬 英二
    中山 壽彦  常岡 一郎
○委員長(堂森芳夫君) 御署名洩れはございませんか。御署名洩れはないものと認めます。
 なお本会議における委員長の口頭報告については委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
  (「異議なし」と呼ぶ者あり)
○委員長(堂森芳夫君) 御異議ないものと認めます。
 それではこれにて委員会を散会いたします。


1953/08/01

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