2002/05/29

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平成十四年五月二十九日(水曜日)

吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。
 私は、順番を少し変えまして、今防衛庁リストのことが出ておりましたので、その問題から最初に質問したいというふうに思います。
 情報公開法というのは、言うまでもなく、憲法の基本的人権に基づく国民の知る権利の保障として生まれました。国民がこの権利を行使したら、防衛庁の方は情報公開申請者の思想、信条、病歴の調査リストを作成していたということですから、これは危なくて情報公開の請求はできない、こういうことになってきます。
 そこで、総理に、内閣として考えてみてもこれは極めて重大で深刻な問題だというふうに私は思うんですが、まずその点、最初に伺っておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 個人情報の保護といわゆる情報公開という面について、今後、情報開示を請求する人々に対しまして不安と混乱が起こらないような厳正な措置が必要であるということを私は強く認識しております。
吉井委員 厳正な措置が必要なのは当然なんですが、このこと自体が、もともと憲法の基本的人権の保障というところから生まれたのが情報公開法なんですよ。それを申請したら思想調査リストをつくられてしまうとなりますと、情報公開法に基づいて情報公開を求めること自体にブレーキがかかってしまう。日本の民主主義という点で考えてみても、知る権利の保障、いろいろなことを考えてみても、これは本当に極めて重大で深刻な問題なんだという、この受けとめがまず出発点において必要だと思うんです。
 私は、その総理の認識を最初に伺っておきたいと思っているんです。
小泉内閣総理大臣 今も答弁いたしましたとおり、情報公開と個人情報の保護ということについて誤解のないように、混乱のないような対応、そして、国民に対して、この情報公開の趣旨と個人情報の保護というものについて、行政に不信感を招かないような対応が必要であるということを申し上げているつもりでございます。
吉井委員 これは、行政への不信感とかそういうレベルの話じゃないんですね。国民の知る権利、基本的人権、憲法にかかわってくる極めて深刻でゆゆしい事態が起こったという、この認識を出発点においてまず持ってもらわなきゃ困るということを私は言っておかなきゃならぬと思うんです。
 報道を見ましたり、防衛庁からのレクも聞きましたが、一人の担当者、そういうことで、当初かなり責任逃れに走っておりました。
 防衛庁の言い分では、三佐は転勤した三月にリストを配付したというんですね。リストの配付先は、海幕の情報公開室長、内局の情報公開担当、空幕の情報公開担当、陸幕の情報公開担当、海幕の保全室、海自の中央調査隊、そして、陸幕の情報公開担当者から陸幕総務課のリストの情報公開担当者に渡したと。つまり、この部署は、言うなれば自衛隊の情報を扱う中枢部署に当たるわけなんです。ところが、配付されてから二カ月間たって、しかるべきところにだれからもこのリストが問題だという報告もなかった。レクチャーを受けておりまして、これが事実としてわかりました。
 これは、こうした情報に結局防衛庁の方がなれ切ってしまっている何よりの証拠だというふうに思うんですね。ですから、新聞などで報道されてから個人の責任だ何だと言っても通用しない話で、これは個人の問題じゃなしに、何人かの関係者の処分だ何だというレベルじゃなしに、やはり防衛庁の体質あるいは組織的に行ってきた問題として、きちんとそこにメスを入れていくということを総理として、そういう角度で防衛庁の組織問題として対応していく、その取り組みが私は必要だと思うんですが、総理大臣に伺っておきたいと思うんです。――私、政府参考人にお聞きするときはちゃんと指名しますから。あなたが総理大臣になられてから答弁されるのはいいけれども、私は今総理に聞いていますから。
小泉内閣総理大臣 よく調査し、そして国民に不安と混乱を来さないような対応が必要であると思っております。
吉井委員 実は、このリストに百四十二人を超えるぐらいの氏名、住所、七百件以上の請求内容が記載されていたという膨大なものですが、しかも、このリストの中には、海幕だけでなくて、陸幕、空幕など他の部局の分も入っているわけです。ですから、部局の違う情報公開担当同士が交流しているということも伺っておりますが、とても一人じゃ集められないものです。
 報道によれば、防衛庁幹部の話として、どんな人が請求し、開示資料がどのように使われる可能性があるか知る目的でリストの作成が始まったと聞いていると。組織的に情報を収集、管理し、一部幹部の間で閲覧しているということも報道されております。ですから、組織的にやっているという疑いは極めて濃厚なんですね。ですから私は、個々の人の問題とか担当者のレベルの話じゃなくて、やはり、組織的にやってきたという視点できちんと調査をする、このことは総理としてやってもらわなきゃならぬと思うんですが、この点、総理に伺っておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 今どういう報道がなされているか、私は各新聞、詳細に読んでいるわけではありませんので承知しておりませんが、ともかくこの問題というのは、まず防衛庁がよく調査することが必要ではないかと思っております。
吉井委員 まず、組織的な問題として全面的な調査をやってもらいたいというふうに思いますし、その調査の結果は当然報告をいただきたい。
 この三佐の行為を、現行の行政電算機法はもちろんのこと、今審議している行政機関個人情報保護法案で処罰できないわけですね。行政機関ではこうしたことは起きないという前提でつくっているからこうなるわけなんですが、現実にはこういう問題が出てきたわけです。一種の思想調査であり、明白な憲法違反の問題が起こっているんですが、これが処罰できないような法律では意味がないわけです。
 ですから、この機会に、防衛庁だけじゃなしに、やはり国の全省庁にわたって、今は全省庁にわたって情報公開をやっているんですから、こういうことがあるのかないのか総点検を行って、その調査結果を公表してもらいたいと思いますが、総理、これは全省庁にわたってやってもらえますね。
片山国務大臣 先ほども答弁いたしましたが、現在、防衛庁が調査中でございますので、事実が明らかになれば、罰則の適用はないと言いましたが、守秘義務違反は一年以下の懲役になるんですよ。だから、調査で確認した行為を見て任命権者がどういう判断をされるかということですから、罰則がないわけじゃありません。
 それから、先ほども言いましたが、仮に犯罪に該当するとすれば、それはそっちの方でやられるわけですから、それ以外に懲戒処分があるということを申し上げたわけであります。
吉井委員 私、聞いていますのは、ちょっとあなたは全然別なところへ、動転しておっしゃったのかもしれないが、これは防衛庁だけじゃないんです。国の機関すべてについて情報公開法に基づいて情報公開を求めるわけですから、それは片山さんのところだけの話じゃないから、それで私は総理大臣に、これは国の全省庁について総点検を行って結果を公表する、この取り組みが必要だということを、総理の基本的な考え方というものを伺っているんです。総理の答弁を求めます。
片山国務大臣 情報公開法なり、今回御審議いただいている行政機関の個人情報保護法は総務省の所管ですから、情報公開法につきましては、施行状況の調査というのを私どもの方でやっておりまして、今委員御指摘の点も含めて調査するということは、我々の方でも検討いたしております。
吉井委員 全省庁にわたってこれはやってもらわなきゃいけないし、当然のことながら、そのすべてを公表してもらいたい。現在審議されております個人情報保護の関連法案では、結局今回のような事件を防止できるのかどうかということが今深刻に問われているときであります。行政機関に対しては、目的外使用、第三者提供についての罰則もなく、センシティブ情報の収集も禁止していない。こういう点では、ざる状況、ざる法案であるということが今回の問題を通じても明らかになってきたと思うんです。
 私は、こういう点では、目的外使用、第三者提供についてきちんとした罰則を明らかにすることとか、センシティブ情報の収集禁止とかこういうことを考える上で、やはりこれは撤回して、根本的にこういうものをきちんと研究して出し直しを考えていくということが筋だと思うんですが、総理にこの点についても伺っておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 現在の法案の審議の中で、いろいろな御提案、御議論をしていただくことが私はまず必要ではないかと思っております。
吉井委員 次に、私は、表現、報道の自由にかかわる問題について伺っておきたいと思うんですが、政府は、この法案は表現、報道の規制ではないということを繰り返し述べてきました。しかし、実際にはそれを担保するものはないわけです。
 憲法二十一条で保障された国民の基本的人権であり、国民主権、民主主義の中核をなす権利、これが表現、報道の自由なんですが、これは、戦前の苦い教訓から生まれてきております。戦前の明治憲法にも、言論、著作、印行及び結社の自由を明記しておりましたが、法の範囲内での自由という制約がありました。出版法、新聞紙法、治安維持法などで弾圧を受けてきましたが、作家の小林多喜二、この人は、一九三三年二月の二十日に、真冬の東京で、治安維持法違反で特高警察に捕らえられ、築地警察署ですさまじい拷問を受けて、数時間の後に警察の手で虐殺されました。言論、表現の自由の抑圧というのは、最初は少しずつ少しずつ侵害していって、それを拡大して最後は白色テロになっていったというのが日本の歴史の教訓です。
 小泉総理にこの際、治安維持法というものについてどういう認識を持っておられるか、伺っておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 治安を維持するということは、政府としては国民の最も基本的人権を守るという意味からも大変重要なものだと認識しております。しかしながら、その治安維持が言論の自由なり報道の自由を阻害することのないように、また人権を侵害しないようなものであるべきだということは当然のことだと思います。
吉井委員 治安維持法というのは、戦前の国体維持のために、それに反する考え方、戦争反対だとか基本的人権だとか主権在民とか、こういう物の考え方、思想、信条、出版、結社、集会、あらゆるものを徹底的に抑圧していったのが治安維持法ですから、治安を維持するために必要なものなんというようなことはとんでもない考え方だということを、まずその認識そのものを改めていかれないと、今日の日本国憲法のもとでの民主主義社会には全くなじまない考え方だということを申し上げておきたい。
 戦争の拡大も、朝鮮半島や中国大陸での軍部の侵略、あるいは植民地化した地域での住民抑圧など、非道な実態が正確に国民に知らされないなど、報道の自由が抑圧され、さらに、報道機関が軍部の発表をうそであってもそのまま国民に知らせる役割を果たしたことが、戦争拡大の大きな要因にもなりました。そして、それは治安維持法と結びついたものでもありました。
 だから、戦後、大新聞が、大本営発表のオウム返しで道を誤らせ、アジアの人々と日本の国民に多大の災厄をもたらしたという痛苦の教訓から、反省の弁を明らかにして、表現の自由、報道の自由を守るために敏感に対応してきたというのがこれまでの戦後の歴史的な経過だと思います。雑誌やフリーのジャーナリストの方を含めて、この立場で頑張っておられるわけです。
 私は、この点で戦後どういうことが述べられたかということについて、一つ紹介しておきたいと思うんです。読売新聞の社説ですね。読売報知の一九四五年十月二十五日、太平洋戦争が終わって約二カ月後になりますが、こういう社説を掲げました。
 戦争の前後を通じてこの新聞がたとへ弾圧の下にあつたとはいへ、軍閥、財閥、官僚等の特権階級の手先となり、戦争への国民の駆立て、戦争の拡大に果した罪は限りなく大きい。而に度を超えて進んで彼等に阿附するの醜態をさへ演じたのである。ことに真実を伝へざるのみならず、事実と全く反対の報道を臆面もなく散じて国民を瞞し、国民の戦争についての認識を誤らせ、その眼を眩ませた罪に至つては正に万死に価する。
これは、読売新聞が、戦後、十月二十五日に出した社説の中の一節であります。
 ですから、戦前の治安維持法などという、そういう体系を否定して今日の憲法ができているというだけじゃなしに、この表現、報道の自由については本当に厳格に守っていかなきゃいけないし、そのために、それをいささかでも規制に導くような、あるいは報道活動を萎縮させるような、そういうものはつくっちゃならないということが歴史の教訓だと私は思いますが、この点についても総理の考え方というものを伺っておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 まず、戦前と戦後は違うということを理解していただかなきゃならないと思っております。戦前とは、憲法も違いますし、国民の基本的人権意識というものも違いますし、また、言論の自由、報道の自由、この重要性をよく国民も我々も認識しております。私は、そういう点を考えて、戦後規定された憲法に沿って、言論の自由、報道の自由、そして個人情報の保護、人権、プライバシーの保護ということをいかに両立させていくかということが今回の法案の趣旨であるということを御理解いただきたいと思います。
吉井委員 表現、報道の自由とか、今日の憲法を深く身につけて取り組んでいく上でも、この点では、私は、戦前の日本の歴史というものをどれだけきちんと認識し、理解し、取り組むかということが決定的なかぎになる。簡単に、戦前と今日の歴史が違うと言うだけじゃなしに、やはり、今日の憲法がどういう歴史的経過を経て生み出されてきたのかという、そのことの深い理解が必要であるということを申し上げまして、時間があと二分ほどになってまいりましたので、最後に、修正問題について私も聞いておきたいと思います。
 委員会で法案の審議が始まる前に、総理は読売の修正試案を見て、修正を指示、あるいは、その後検討を指示とか勉強しておくように言ったというふうに伺っておりますが、いずれにしても、提案している法案がそのままではまずい、欠陥法案であると政府自身が認めたことになると思うんです。
 そこで、総理に伺いますが、読売の修正試案を読まれて、透明性の確保、すなわち、本人関与の削除ということが提案にあったわけですが、その部分さえ取れば報道機関に対する規制にはならないとお考えになったのはどうしてなのか。
 基本原則の「適正な取得」に言う適正適法な方法で取得というのは、仮に、疑惑政治家が名誉毀損だとして民事裁判に訴えたときに、裁判官の解釈基準になりますと、報道機関はもとより、フリーのジャーナリスト、作家の取材活動も規制されることになりますが、適正な取得など、こちらの方は残しておいて、透明性の確保、すなわち、本人が適切に関与できるよう配慮をする、この部分さえ削除すれば報道機関に対する規制にならないと考えておられるその根拠はどこにあるのか。これを最後に総理に伺っておきたいと思うんです。
小泉内閣総理大臣 私は、この今回提案した法案に対しまして、まず、各報道機関が、反対、廃案を目指していろいろ運動を展開している、そういう中にあって、言論の自由、報道の自由、人権、プライバシーの保護は両立できるんだという建設的な提案を読売新聞がされたということに対して評価をしているわけであります。
 そういう点を含めて、これから国会で審議がある、いろいろな議論が出てくるだろうが、国民に理解と協力を求めるために、反対者の意見についても耳を傾けながら、多くの国民から理解を得られるような形でこの法案を成立させてほしいということの表現が、よく検討し、勉強してほしいということにつながったということを御理解いただきたいと思います。
吉井委員 もう時間が参りましたので終わりますが、お疲れかもしれないが、私の質問したのは、同じ趣旨のことを後で二回繰り返してよくわかってもらえるように御説明しました。質問の趣旨をよくつかんで御答弁をいただきたい、このことを求めまして、時間が参りましたので終わります。
大畠委員長 これにて吉井君の質疑は終了いたしました。
 次に、北川れん子さん。
北川委員 社会民主党・市民連合の北川れん子といいます。
 きょう、小泉総理の答弁をずっと聞いておりまして一番の問題点、それは、報道機関にのみ目と頭と耳が向いているというか、この政府提案の個人情報保護法が、百五十一から出されておりまして、いわゆる業界用語でつるしがおりなかった。そして、この百五十四でおりて、今、六月十九日の会期を目前にして、まだ内容の審議にさえ入れないという状況ですよね。報道機関だけに目を向けていらっしゃる小泉首相の心理というものが一番の問題点であります。
 この法案が持つ、一年間たなざらしにされていた一番の眼目は、報道のことだけではなくて、報道の自由、表現の自由の問題が、全国民、といいますのは、国民が個人情報取扱事業者とあしたからこの法律が施行されたらなるわけですから、小泉純一郎さんという方の親族の皆さんもすべて、ある幾ばくかの量、質が問われる。今言っているのは、質ではなく量だと言っておりますから、量がかさめば、あなたはあしたから個人情報取扱事業者ですよと。このことが本当にどういう意味を持つのかということを国民に知らせていない、そのことが問題であるということで、私自身は、去年ですが、二〇〇一年の六月五日と二十五日に質問主意書、再質問主意書を出させていただきました。答弁もいただいております。
 それで、問題点は、行政の個人情報保護法、八八年のざる法がずっと十三年間整備をされずに取り置きされてそのままにされていた点、官に甘く、民にはきつい、だけれども、民間の業態の一番きつく規制をしなければいけないところには緩いという問題等々、いろいろあるわけなんですね。
 修正の指示を否定という新聞が五月の十七日に出ました。一面肯定をされたということがあったから否定しないといけないという場面に立たされたと思うんですが、肯定したことはなかったわけですね。報道機関に対してのことだけを何か論ずれば、解決すれば、この個人情報保護法は万々歳で与野党通る、通過すると思っていらっしゃるのかどうか、まずその点をお伺いしたいと思います。
小泉内閣総理大臣 よく質問の趣旨が理解しがたい面もあるんですが、質問者の方がどのようにとられようとも御自由ですが、私は、国民生活に関係があるからこそ国会に提出しているわけであります。報道機関だけを対象にしているわけじゃないんです。国会で審議していただくということは、国民生活全般に関係あるという点を私はよく認識しているつもりであります。
北川委員 では、あしたからあなたも個人情報取扱事業者になりますよということを、小泉首相、総理はどういうふうに国民に御説明をされて、この政府提案の個人情報保護法、ぜひ理解をいただきたいとどの場面で小泉首相はおっしゃったのか、総理はおっしゃったのか。五月十二日に出された読売の修正試案には、そんなことは全然書いていない。そういう面ではないわけですよ。その点をもう一度お伺いしたいのと、もう修正論議には乗らない、修正はしないということなのかどうか、あわせてお伺いしたいと思います。
小泉内閣総理大臣 私は、報道の自由、言論の自由と、個人情報の保護、人権、プライバシーの保護を両立させなければいけないと思っております。そういう点から、この法案が今委員会で議論され、いろいろな意見に耳をかしながら、最終的に国会の意思として修正すべきだという意見が出てきた場合には、そういう意見にも謙虚に耳を傾けるべきだ、検討、勉強しなさいという中で真に修正すべき点があれば、修正するということについて柔軟に考えてもいいということは今でも思っております。
 政府の提案は一切修正してはいけないというんだったらば、国会の議論も成り立ちがたい点がありますので、その点については、建設的ないい議論については十分検討する価値があるのではないかということは現在でも思っております。
北川委員 前半の答弁に関しては答弁になっていないわけですよ。
 報道の自由とか報道に対する規制の問題のみではなくて、この持っている本当の本質的な意味の怖さ、それは全国民にかかわってくる。全国民が自分が報道する側だという立場に立って、今回、報道の方たちのこの一年間の強い反対がどういう意味か。市民のあなたにもかかわる、個人情報取扱事業者となることの可能性を秘めたあなたに対してこの個人情報保護法がどんなに重たい意味を持つかということを、どれだけの多くの国民にあなたは周知徹底をされたのかという意味で私はお伺いしたんですが、その御答弁はなく、修正は柔軟に応じましょうと。
 まず、審議にもこの一年間入られなかったものに対して修正は応じようということは、とりもなおさずこの法案の欠陥性というものをやはり今でもみずから認めていらっしゃるというふうにしかならないわけです。
 それで、いろいろな意見があることを知らなければ国会審議はできないというふうにおっしゃっています。国会審議ができないのは当たり前です、政府案は最大限の努力を講じたが、修正も柔軟に考えようと今しているということをおっしゃったと思うんですけれども、いろいろな意見があるということ。
 我が社民党なんですけれども、私が質問主意書を出しました、そして再質問主意書を出しました。そして、この一年間、いろいろなことを考えてきました。この法案の持つ本当の意味はどこにねらいがあるのか。私は、報道のみではなくてすべての人にかかわってくる問題であるということを抜け落として議論をさそうとして、逆に言えば報道のところだけに幾ばくかの修正をかければという方向へ持ってこようとしている、そこに問題があるというふうに思っているんです。
 社民党は対案を出しました。社民党が対案を出したことを、インターネットでも紹介していますし、記者会見もしました。あらゆる情報を知らなければいい審議はできないんだとおっしゃった小泉総理、私どもの社民党案というものに対して御存じかどうか、そして、御存じであるならば、どういうふうにお受けとめになったのか、お伺いしたいと思います。
小泉内閣総理大臣 見ておりませんが、委員会の中でよく議論をしていただきたいと思います。
北川委員 見ていないということの中には、読売試案をどれほど検討的に読まれたのか。いろいろな議論が必要だとおっしゃる小泉首相、あなたは森首相から交代されて小泉首相になったときに一年間、この法案はとても大事な法案だということで出してこなかった。出してこなかったゆえの中の一年間の中に、社民党が出した案に対して見てもいなかった、それで議論してもらいましょう、そういう言い方はないと思うんですよね。
 見ていないという今の御議論の中に、ちょっとお伺いしたいと思うんですけれども、小泉首相のおひざ元、神奈川県の横須賀ということでいらっしゃると思うんですね。そこで五月二十六日の日に、今月の日曜日ですけれども、多くの方々が、個人情報保護法も、そして今特別委員会の方もいろいろな波風が立っていて紛糾をしている有事法制関連三法の問題も含めまして、市民の人たちに訴える。地元の皆さん、あなたたちが首相にしている小泉さんというのはこういう法案を出してきているんだと。ここには、五百人がデモをされた、パレードをされたというふうに書いていらっしゃいます。
 そして、四月二十九日には、お隣にお座りになっている福田官房長官のおひざ元、群馬県の高崎市でもパレードが行われていて、その日、両方とも晴天で、多くの沿道の市民の人たちに、あ、ちょっとこれって問題なのかな、個人情報保護法、案外、報道機関だけの問題かと思っていたらそうじゃなくて、この法案の持っている底知れぬ深さ、このことの方が大きいのではないかと。だんだん、でも、気づくというほどではないわけですよ。
 何らかの形で市民にアピールをしてくださっているこういうパレードがあったんですが、こういう報道を目にされたのか、また、御自身はそういうことを耳にお入れになったことがありましたか。五月二十六日のおひざ元、横須賀で行われたパレードについての認識をお伺いしたい。
小泉内閣総理大臣 そういう行動があったということは耳にしております。
北川委員 耳にして目にはしなかったということなんですけれども、神奈川新聞には載っているので読んでいただいてということですが、こういう形で市民に訴える皆さんがいらっしゃる。報道機関の人が、報道機関だけの問題じゃなくて、あなた、市民、皆さんがこれから個人情報保護法で表現の自由や言論の自由が事前規制されていくんだよということを訴えていらっしゃる。これを聞いてどう思われているのか。今、笑われたわけですが、どう思っていらっしゃるのか。その辺、この法案が本当にいいと思っていらっしゃる小泉首相が見えないわけですよ。見えたら修正試案のことなんかに敏感に反応するようなことはないわけで、見えない。
 この個人情報保護法をあなたがいいと思っていらっしゃるという。どこをいいと思っていらっしゃるか、そういう真っ当な姿勢が見えないというところでお伺いしたいんですが、こういうことを聞かれてどう思われていたのか、それも次にお伺いしたいと思います。
小泉内閣総理大臣 この法案に対して反対論があるということも、私はよく承知しております。だからこそ、議論を深めて、この法案は、言論の自由、報道の自由と、個人情報保護、人権、プライバシーの保護を両立する法案ですよという理解をいただくために審議をしていただきたい、そして成立を図っていきたいという趣旨で提案しているわけでありまして、私は、報道機関だけではなくて国民全体の問題であるということを理解しているつもりであります。
北川委員 じゃ、報道機関の修正というところだけが問題ではなくて、この個人情報保護法の中に官と民が二階建てになっていて、基本法という性格のことが、緩く官に当たり、民には、業態別に定めた場合は、業態によっては緩いというような問題。そして、一番の根幹的な問題が、言論の自由や表現の自由のすべての多くの人たちへの規制であるということ。そういう点に問題があるということまで御自身で深められたという形跡が今御返答の中にあったのかなかったのかちょっとわからないんですけれども、これには物すごい問題がある、報道だけの問題ではないということを、ぜひこの場面で、委員会で御認識を改めていただいて、もう一度御自身でこの法案が持っている意味を感じてください。
 そして、社民党の対案は、官と民は別々にせざるを得ないという結論に達しました。官と民を二階建てにしている段階ではどこかでそごが出てくる。
 そして、八八年、あなたたちは、たなざらしにされた十三年間というものの間に、行政の保有するものがマニュアル情報から電子情報に変わってきたということで、そこに関して、これはコンピューター化の治安維持法だという御意見を出してくださっている弁護士さんもいらっしゃるわけですから、ぜひ深めていただきたい。深めていただかない限りは、私たちは委員会で審議できないですよね。
 そして、きょう竹島一彦官房副長官補がお越しいただいて、私、この二カ月、四月、五月、「小泉首相の一日を観察しよう」、コンテンツトップというので見ましたら、一応これは公情報にしていらっしゃる分で、四月二日、九日、五月十四日、五月二十日と竹島一彦さん、そのときには竹中平蔵大臣もいらっしゃったり、坂内閣府統括官がいらっしゃるとか、竹中さんと対になっている竹島さんだというのがよくわかりました。三位一体なのかもわかりません。竹島一彦さん、竹中大臣、そして小泉首相と段階を経て、首相ですから、ちっちゃな、この法案の持っている意味すべて――ただ、一年間あったということでは、私たちと同じぐらいお勉強する時間はあったというふうに思うわけですね。形ができた法案が一年間たなざらしになっていたわけですから、一年間の勉強の度合いがどうなのか。報道機関の管制の問題だけではないということをぜひ改めて御認識の中に入れていただきたいと思います。
 そして、日本が独特であるということを次にちょっと聞いてみたいのですが、日本には戸籍制度がありますよね。住民基本台帳法があります。戸籍制度は、日本、日本が植民地にしていた韓国、台湾ですよね。住民基本台帳法も、世界の中では比類なき日本、韓国という形で、日本というのはプライバシーの点においてすごく独特な国だというふうに私は思っています。
 それで、私、女性の立場からなんですが、戸籍制度に関して、女性は戸籍を汚すなとかよく言われるわけですよ。それは離婚をするなということを暗に言って、戻ってくるなということの戒めのために戦前はよく使われて、戦後も、今のこの二十一世紀に入る扉の中でもそのことで悩んでいる女性は多いわけです。戸籍制度にからめ捕られている人たちも多いわけです。
 小泉首相は、この日本が独特に、世界にも比類ない戸籍制度と住民基本台帳法を持っている国として、この個人情報保護法というもの、そして情報公開制度というものに関してのプライバシーというところなんですが、戸籍に関して一番の問題点、昨今はもう戸籍に関しての話し合いということもタブーではありません。このことをタブー視するということはないと思うんですが、戸籍制度で、首相が、デメリット、メリットというのか、いいところ、悪いところと思っていらっしゃるのか、戸籍制度の持っている根幹の意味の中で、御自身の経験と照らし合わせても結構ですし、今、この持つ意味を、ちょっと思うところがあれば教えてください。
小泉内閣総理大臣 戸籍制度に限らず、私は、言論の自由、報道の自由は民主主義の中で最も重要なものだと思っております。同時に、知る権利と、国民個人個人にとっては知られたくないプライバシーもあると思います。その点をいかに両立させるかということが重要でありまして、だからこそ国会でこの法案を議論しているんであって、審議することによって、この両方、重要な問題というものをよく国民に理解してもらうような努力も必要でしょうし、基本的な人権、言論の自由、報道の自由、人権擁護、プライバシーの擁護、ともに基本的な人権でありますので、これを両立させるために私は十分な議論、審議が必要だと思っております。
北川委員 私たちの国は、やはり世界に比類ない独特のシステムを持ってきて百数十年運用されてきた中で、まだ解決のできていないプライバシーの面というのがあるわけですよ。まだ国民一人一人が自分の本当の意味でのプライバシーを享受したことはないということで、今いみじくも、知られたくないプライバシーがあるだろうと。でも、戸籍制度というのは公開が原則なんですよね。原則のもと公開なんですよ。基本的には公開なんですよ。
 そして、法目的が定められていない。この台帳自身が法目的に定められていないわけですが、個人情報保護法に戸籍というものも入れていくというお考えはないのかあるのか、最後にお伺いしたいと思います。
片山国務大臣 戸籍法は、これは法務省の所管でございまして、身分関係の公証、私どもの方の住民基本台帳の方は居住関係の公証、こういうことになっておりまして、今回出している行政機関個人情報保護法は、戸籍の関係は対象外にいたしております。(発言する者あり)
 将来は、あらゆることを含めていろいろなことを検討していく、こういうことであります。
北川委員 今、将来の点においては、他の委員の質問にもあえて御答弁いただくほど、積極的に、将来は政令、省令から落とさないで戸籍制度を入れていくんだ、戸籍というものを根幹的に個人情報保護法に入れていくんだということを片山大臣はおっしゃったというふうに、今回――いや、おっしゃったんでしょう。おっしゃったじゃないですか、今。私の質疑じゃないものにも答えておっしゃったじゃないですか。
片山国務大臣 戸籍法は法務省の所管でございます。最初に申し上げました。そのことを踏まえて今回は対象にしていない、こういうことを申し上げたわけで、将来どうするんだ、法務省が中心に検討すべきことであります。
大畠委員長 北川さん、時間が過ぎておりますので、簡潔にお願いします。
北川委員 最後に、法務省と総務省、今権益のいろいろな争いをされていらっしゃるところだということで、最後、将来に向けてのことは逃げられましたけれども、小泉総理、根幹的に、日本の国というのが個人情報保護法を論ずる以前に、戸籍のことを個人情報保護法に入れないという問題は本当に重大な問題であるということを御指摘して、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
大畠委員長 これにて北川さんの質疑は終了いたしました。
    ―――――――――――――
大畠委員長 引き続き質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。吉井英勝君。
吉井委員 日本共産党の吉井英勝です。先ほどに続いて質問をいたします。
 先ほど、防衛庁の方の思想リストのことを取り上げましたが、今度は、私は、金融機関の分野での個人情報にかかわるリストが悪用されているという、この問題について最初に伺っておきたいと思うんです。
 ことしの四月十二日に、住宅金融公庫が受託金融機関あてに「住宅金融公庫債権の自らのローンへの借換えを勧誘する行為について」という文書を送りつけました。これは、一九九五年にも九九年にも二〇〇〇年にも、そしてことし四月にも同趣旨の文書を送りつけているということでありますから、幾ら送っても大手都銀の方はさっぱり態度を改めていこうとしていないということがあらわれていると思うんです。
 これは、公庫業務上知り得た公庫債務者の情報を債務者の同意なく借りかえのシミュレーション等に利用して、ダイレクトメールによる借りかえの勧誘を行っており、その結果、公庫が債務者からクレームを受けるケースが散見されるというふうに抗議をしています。大手都銀が、住宅金融公庫の客の信用情報をもとに、住公ローンの融資先のお客さんに、その住宅金融公庫ローンを自分の銀行ローンに切りかえさせるという行為を行っているわけです。
 これはたまたま住宅金融公庫と大手都銀の例ですが、Aという都銀の住宅ローンのお客さんの情報、いろいろな個人の、この人はかなり金利の高いときに借りていらっしゃるとか、そして債務残高がこれぐらいで返済状況はきちんとしているとか、いわば優良債権かどうかという情報などがBという銀行に行って、Bという銀行がダイレクトメールを送って、あなたのA銀行での住宅ローンをうちに切りかえなさい、こういうことをやるのと結局同じ内容だと思うんですが、住宅金融公庫としてどういう抗議の文書を発出されたのか、この点を伺っておきたいと思います。政府参考人にお願いします。
井上政府参考人 先生御指摘いただいたとおり、私どもと公庫の受託金融機関との間には業務委託契約書というのがございまして、その中に秘密保持義務に関する事項がございます。この中には、おっしゃったとおりに、公庫業務を通じて知り得た秘密を利用して自己の利益のために使ってはいけないというふうな条項がございます。また、先生おっしゃったとおりに、幾人かの公庫を利用していただくお客様から、そういったことに関してどういったことかという問い合わせもございましたことなので、そういった文書を出したわけでございます。
 それで、これはちょっと公庫の業務を通じて知り得た秘密を使ってやっているなというふうなことが明らかになったときに、公庫がどういったことをやるかというふうなことでございますけれども、これにつきましては、私どもといたしましては、新たな業務取り扱い、つまり業務の受け付けでございますけれども、これを数カ月例えば停止していただく、あるいは新たな業務取扱店の指定を禁止する、あるいは是正措置を文書で出していただくなどの措置を講じているようなところでございます。
吉井委員 この問題というのは、私は驚いたんですが、過去に四回抗議の文書を発出された。しかし、さっぱり効き目がないから四回発出したわけですが、ことしの四月十二日に住宅金融公庫が都銀あてに出した後、例えばUFJの方ではその十日後、四月二十二日に、「地区リテール営業部長殿、リテール業務責任者殿」ということで一般通達を出しているんです、「住宅ローン肩がわりダイレクトメールの実施について」と。
 だから、住宅金融公庫から抗議を受けても、個人情報の取り扱いをきちんとしろと言われても、それを聞くどころか、全店に対して住宅ローンの肩がわりリスト、これはつまり住宅金融公庫のローンの返済等をUFJが扱っている分ですね。UFJからしますと、このお客さんは毎月きちんきちんと納めているかとか、何年ごろ借りられたものだから利率が何ぼぐらいかとか、みんなわかるわけですね。
 これを見ていますと、ダイレクトメール発送対象先ということで、住宅ローン肩がわりリストに載るのはちゃんと取捨選択するわけですが、残高六百万円以上、利率三・九%以上、年齢六十歳以上、こういうふうにやってどんどんダイレクトメールを発送して、そして我が社に切りかえなさいと。そうすると、それは商売としてはいいかもしれないけれども、住宅金融公庫に残ってくる方は、大体不良債権、延滞債権とか最近借りた利率の低いもので、銀行からすると余りうまみのないものだけが残ってくる。
 そういうふうな形で、商売は商売なのかもしれないが、しかし、そんな形で個人の信用情報というものが軽々しく扱われていいのかということがある。私は、これは非常に大きな問題だというふうに思っているんです。
 これは、今度の法案作成の過程においても、旧大蔵省や旧通産省なども含めて、個人信用情報保護・利用の在り方に関する作業部会をつくって検討をしたりとか、政府としてもいろいろ取り組んできていると思うんですが、現実に、今度の個人情報保護法が審議になる前からもこんな問題は繰り返しあったわけですから、この問題について政府としてどういう対策なり対応をとってこられたのか、どういう指導をなさってこられたのか。個人信用情報の問題、これを伺っておきたいと思います。
竹中国務大臣 今のお尋ねの金融機関の件は、これは金融庁が所管していることでありますので、私は詳細を知る立場にはございませんが、まさにそういった情報の漏えいがさまざまな形で個人生活に影響を及ぼしているという強い懸念を持っております。
 今のお話を伺います限り、もしそういうことが本当に起こっているのでありましたら、基本原則の中の利用目的の制限や安全性の管理等々にこれは明らかに反しているわけで、こういう状況があるからこそ、この個人情報保護法というのがぜひとも必要であるということになってくるかなというふうに理解をいたします。特に、クレジットに関する情報については、これはまた非常に個別の対応が必要になると思います。
 その個別の話は、繰り返し申し上げますが、財務省なり金融庁なりで当然のことながら議論が続けられているというふうに思いますが、今回の措置は、まずそのアンブレラになる基本法の部分と、一般的に民間部門が守るべき原則についてこの法案で規定をしているわけで、それに基づいて、さらに必要な分野については個別法の整備が進んでいくものというふうに認識をしております。
吉井委員 まず、これは事実であればという話、これは事実だから住宅金融公庫の方がきちんと四回にわたって文書を発出しておられるわけです。
 それで、個人信用情報保護・利用の在り方に関する作業部会などの議論とか、さまざまな各部門ごとの議論を踏まえて、個人情報保護法の法体系をどうつくるかとか、これを検討してこられたと思うんですね。ですから、今後はこれでということだけじゃなしに、私は、それぞれの問題についてやはり一つ一つきちんと対応してみて、しかし、ここは不十分だからこういう法案にしていかなきゃいけない、そういう作業というものが必要であったと思うんです。これは現実には、何度こういう文書を出しても大手都銀の方はきちんとしてこなかったからこそ何度も何度も出してきたという、これが現実だし、ことし四月十二日に出されても、十日後に相変わらず同じように、また全店にこういう形で、ダイレクトメールを発送してしっかりもうけなさいということを通知しているわけですから。
 この問題の詳細はこれでとどめておきますし、またテラネットその他の問題については次の機会にというふうに考えておりますから、置いておきますが、ただ、こういう現実を踏まえて個人情報保護法案を見ると、個人情報保護法として、やはり全銀協とか経団連などの要求もあって事業者の負担増にならないように配慮してきたり、事業者、企業の利益を優先する、そういう考え方というものが盛り込まれているというふうに見ざるを得ないと思うんです。
 例外や適用除外の中には、「個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合」とか、「ただし、当該保有個人データの利用停止等に多額の費用を要する場合」とか、あるいは「当該保有個人データの第三者への提供の停止に多額の費用を要する場合」とか、いろいろ実際に、個人情報保護を最優先するということが大原則である中で、全銀協などの要望を受けて随分適用が外されていく、抜け道を残されていっている。やはりこのやり方では、個人情報を保護するという角度から見てもこれは極めて不十分さを持っているんじゃないかと思いますが、これは竹中大臣に伺っておきます。
竹中国務大臣 一方で、非常に厳しい枠組みをはめることによって情報の不正な利用に歯どめをかけろという議論がございます。しかし一方で、けさほどから議論になりましたように、我々の社会が持っている本来の自由、特に表現の自由、それを保障するための報道の自由等々、これを死なせてしまっては元も子もない。その狭い道をどのように探るかというところで非常に法案の作成上の苦労があったということになるわけであります。
 今回の法律というのは、その意味では、非常にある意味で柔軟なシステムをつくっていこう、とにかく基本原則等々を頂点にしたアンブレラのようなものをつくって、個別の、これは金融機関、さらに、やがて話題になるかもしれませんけれども、それこそ遺伝子の情報とか、それぞれ非常に詳細に、繊細に事情を考えながらまた個別法をつくらなきゃいけないというものも当然のことながら出てくるのだと私は思います。しかし、今回のはその枠組みになる部分でありまして、一方で、個別法も含めた包括的な体系をつくっていく重要な一歩にしたい、その中で御指摘のような問題を解決していきたいというふうに考えているわけであります。
吉井委員 個人情報の保護というのは、これは憲法原則からも導かれてくるものでありますし、まずそれが大原則であるわけです。個々の問題というのは、個々の具体的事例に対応してどういうふうに規制をやっていくかということをやらないと、これは簡単に物事が解決できるものじゃない。
 この議論は今後の議論の中で深めたいと思いますから、きょうは、先ほどの修正問題にかかわって伺っておきたいのです。
 五月十四日の九時四十分からの竹中大臣の記者会見の中で、「昨日、総理にお目にかかりましたときに、非常に前向きに熱心に議論をいただいている案だな、よく検討しておくようにというふうな話を総理からいただいております。」ということを、これはインターネットで見ればあなたの発言がそのまま出てくるわけですから、見ました。
 検討であれ勉強であれ、読売の修正試案の何をどう検討するのか、あるいは何をどう検討していこうと大臣は考えておられるか、その辺、具体的に少し伺っておきたいと思います。
竹中国務大臣 よく熱心に議論いただいていると。先ほど総理の答弁でもありましたけれども、要するに、人格権を守るということと我々の表現の自由を守るというその狭い道を両立させなければいけない、そういうことに対して前向きに熱心に議論をしていただいている、そういう立場で総理からお話があったわけでございます。
 まさにそういう狭い道を探るという立場で法律をつくったつもりである。それを国会で審議を深めるに当たってさまざまな御議論が出てくるであろうから、それに備えてよく勉強をしておきなさい、そういう趣旨だったわけであります。
 検討というのは、よく調べることというふうに辞書には出ておりますけれども、その意味では、これがまさに今御議論いただいておりますが、そういう点に関して私なりにいろいろさまざまな角度からこの法案について、私たちはベストだと思って出しておりますが、いろいろな議論が出てくるであろうからそれに備えて勉強をしておく、そういう趣旨であります。
吉井委員 それでは、担当大臣として伺っておきますが、基本原則の「適正な取得」に言う適正、適法な方法で取得が、仮に疑惑政治家が名誉毀損だとして損害賠償を求める民事訴訟を起こしたときに裁判官の解釈基準になっても、報道機関はもとより、フリーのジャーナリストの皆さんにしても作家の取材活動にしても、規制されることにはならないというふうにお考えであるのかどうか、この辺伺いたいと思います。
竹中国務大臣 御承知のように、もう何度か議論されておりますけれども、この基本原則は、これに基づいて具体的な義務が課されるものでもなく、また公権力の関与や罰則も一切ないということであります。その意味では、さまざまなそういった意味での制限が出ることはないというふうに考えております。
吉井委員 そこは、これまでから、義務が課されるものではない、要するに、これはあくまで努力の世界と。それを努力義務と見るかどうかということはあるんですが、この基本原則は努力義務だから守らなくてもよいということなのか、それとも、この努力義務というのは守らなければならないというふうに考えておられるのか、それを竹中大臣に伺っておきたいと思います。
竹中国務大臣 まさに努力義務でありますから、努力をしていただきたいということです。
吉井委員 つまり、単なる努力義務ということになりますと、怠ったときも当然違法にならないわけです。これは裁判規範にもならない。しかし、単なる努力義務じゃなくて、努力義務を守ってもらわなければならないものと考えていくのかどうかとか、ここのところは、努力義務ということであっても少し違ってくるんじゃないか。まさに努力義務だから、努力義務は努力義務で守ってもらわなくてもよいということか、それとも、守ってもらわなければならないという努力義務なのか、これはどっちなんですか。
竹中国務大臣 この法律の考え方といいますのは、全体として非常に包括的な個人情報保護の体系を今後整備していきたい。そのためには、基本原則を中心に包括的なものをつくり、さらに個別法を重ねていく。その全体の非常に重要な、まさに努力義務といいますか、包括的なことをこの基本原則で求めているわけであります。
 その基本原則の委員お尋ねの点について申し上げますと、個人情報の適正な取り扱いにみずから努力することを要請しているというのがこの法律の立場だと思います。
吉井委員 これは要請しているという要請の段階なので必ずしも守らなくてもいいという立場なのか、守らなければならないという立場なのかというのは、これは別に個人情報を守らなくてもいいというそんな立場で聞いているわけじゃないんですけれどもね。
 しかし、ここは、小早川東大教授、個人情報保護法制化専門委員は、この努力義務ということはやはり法的義務という考え方も述べておられます。そうすると、一応その基本原則の部分を法的な義務として根拠になり得ると考えられる、これもできるわけなんですね。そうすると、これを使ってすぐ裁判をやりやすくなるかというと必ずしもそうはいかないと思いますが、ただ、裁判を起こしやすくなってくるということは確かなことだと思うんですが、この点はどういうふうにお考えですか。
竹中国務大臣 これはちょっと何度もお答えしていることなんですけれども、これに基づいて具体的な義務が課されるものではなく、公権力の関与や罰則も一切ない。それによって裁判が起こしやすくなるかどうかというのは、これはさまざまなケースがありますので、一概に申し上げることはできない問題だと思います。
吉井委員 これは、法的義務の根拠になり得る、裁判が起こしやすくなる、こういうふうになりますと、取材する側には努力義務以上に、裁判になっても大丈夫なように考えて取材するということになってきます。
 それから、単なる努力義務なんだ、要請なんだということでおっしゃっておられるんですが、しかし、疑惑政治家の側が、この基本原則に基づいて名誉毀損なり損害賠償なりを訴えたとき、争いになったときに、裁判所の方は基本原則を解釈基準ということにして使ってくるとなりますと、そうすると、裁判になっても大丈夫であるかどうかというのは、そんな簡単な話じゃなくなってくるわけですね。やはり取材する側が、基本原則に沿って努力し、取材源、取材目的を明らかにする、そういうことを考えながらの取材ということになってきます。
 これは、報道の自由を萎縮させるという効果が生まれてきますし、取材を受ける側、そちらの側も、この基本原則の問題が裁判の解釈基準となってまいりますと、やはりそこを考えて報道側に対する取材協力についても萎縮効果が生まれてきます。その点についてはどのように考えておられるのか。
竹中国務大臣 例えばプライバシー侵害等を原因とする民事、刑事の裁判が別途行われて、取材方法の違法性が例えば争点になっているような場合、この基本原則がその解釈原理として働く可能性はあるということなのかもしれません。しかし、この基本原則が努力義務であって、適正取材が報道目的とプライバシー保護等の利益考量概念であることは、これはもう明確でありますから、報道の必要性が不当に損なわれる判断が示されるおそれは私はないと思います。裁判においては、報道を行う公益と本人の権利利益の間での適正な比較が行われる、そういうふうに当然のことながらなるのだと思います。
 もちろん、それと、取材をされる側のお話を最後にお尋ねがございましたけれども、これは、取材する側の、今までも例えば内部告発のようなことが念頭にあるのかと思いますが、それはその人々の正義感とか報道機関に対する信頼感とか、これまでもやはりそういう基準で行われてきたのだと思いますし、今後ともそういうことが基準になるのだと思います。この法律としましては、基本的には、さまざまな問題が起きたときの主務大臣の表現の自由への配慮義務とか、幾つかの観点で、そういった表現の自由に支障を来さないような法律上の仕組みが考えられているというふうに思っております。
吉井委員 裁判における解釈基準になる、これは裁判規範になってまいりますから、やはり取材に対する制約をする、そういう力を持ってくるというふうに思います。
 それで、取材を受ける側についての正義感の問題その他も挙げられました。これは、取材する側にも取材を受ける側にも、これまでから不正追及といった点は、みんな正義感を持ってやってきていると思うんです。しかし、正義感を持ってやってきていても、実際にはそれは、萎縮効果というものが取材する側にも受ける側にも生まれてくると、本来の表現、報道の自由という角度から見たときに大変な問題になってくるということを申し上げて、この点で、福田官房長官にも関係して聞いておきたかったんですが、ちょっとまた次回にということにして、片山大臣の方に住基ネットの問題について伺っておきたいんです。
 住民基本台帳ネットワーク稼働を前にして、今国会で提出予定とされている行政手続整備法案、ネットワーク稼働前に、本人確認情報を利用可能な事務を、九九年の住基台帳法改正案審議時の九十三件から二百数十件まで拡大しようとしているわけですね。これはまだ法案は提出されていないんですが、法律施行前に用途を拡大するというのは、結局、なし崩し的に国民総背番号制に道を開くと言われても仕方がない問題だと思うんですが、どういうふうに考えておられるのかを伺っておきたいと思います。
片山国務大臣 御承知のように、IT基本法ができまして、それに基づくe―Japan戦略というのが決まりまして、アクションプランが決まり、その中で、二年以内に、平成十五年度中に、電子政府、電子自治体を実現したい。申請、届け出については、国も都道府県も市町村も、インターネットによるオンライン化しよう。それぞれのところに行って本人確認の添付書類を出すというようなことはできるだけなくして、自宅や職場からやろう。こういうことのために本人確認を住基ネットのシステムを使おう、こういうことでございまして、二カ年でやるためには、事務を拡大して本人確認を省略する、こういうことのために、今回の行政手続オンライン化法の附則で住基に載せる事務の拡大を考えているところでございます。
吉井委員 実は、この議論のあった当時、拡大は慎重にやるべきだというのは、当時の野田自治大臣の答弁でした。国会の附帯決議もそうです。
 世界最大規模のデータベースネットワークであり、うまく機能するかという危惧がある中で、日弁連のアンケートでも、過半数の自治体が準備が十分でないと言っておりますし、セキュリティーの問題も含めて十分な担保がされるのかなど、これは推進される立場に立ったとしても十分な検証は必要だと思うんですよね。にもかかわらず、施行前に用途拡大を行うというのは、これは行政効率化を個人情報保護に優先する、そういう立場のあらわれとしか思えないんですよね。この点についても伺っておきたいと思います。
片山国務大臣 改正住基法を見ていただければいいですが、目的外利用はさせない、あのシステムの中でセキュリティーは万全の対策をとる、そういうことの上での今度の事務の追加でございまして、施行前といいますけれども、これはまだ法律は国会に提出されていない段階でございますので、我々としては、十分政府内で検討の上の結論でございます。
吉井委員 これは、いろいろな規定を設けてあるから大丈夫と。それは大丈夫でないという実例を既にこの国会でも幾つも出されてまいりましたし、私も、防衛庁のリスト問題その他、これがほかのものと結合されると大変な問題になるということで、セキュリティーの問題その他で、そんな簡単な話ではない。やはり非常に厳しい検証が今必要なんだ。どんどん穴だらけで事故がいっぱいあるわけですから、そのことを申し上げているときでありますから、残念ながら時間が来てしまったので、時間を守ってきょうは終わりますが、この議論は引き続いてまた行っていきたいと思います。
 以上で終わります。
大畠委員長 これにて吉井君の質疑は終了いたしました。


2002/05/29

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