1997/11/13

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141 参院・法務委員会

橋本敦議員(共産党)の拉致事件についての質問部分


○橋本敦君 日本人妻の帰国問題が大きな関心を呼んでおりますが、それとの関係で日本人拉致事件、この問題もまたいよいよ重大な問題として国民各層から大きな関心が寄せられるようになりました。この日本人拉致問題については、昨日も横田めぐみさんの御両親の写真入りの新聞が出まして、「失跡から二十年 めぐみはどこに」、「両親、心が揺れる」ということで、めぐみさんがバレエの発表会で着たドレスを手にするお母さんの姿も写真に出ました。私ども一様に心の痛む思いでありました。

 この日本人拉致問題については、私は、九年前の昭和六十三年三月二十六日の予算委員会、ここで取り上げまして、以来九年、今この問題は新たに横田さんの問題も発覚をいたしまして、各党もこぞってこの問題を解決すべきだという超党派の大きな運動にもなり、御家族の会も結成されるという状況になってきました。

 ところが、与党三党の代表団がお行きになりました会談で、予想されたこととはいえ、朝鮮側が全くのでっち上げだ、こういうことを言っていることが大きく報道されました。この問題について、改めて私は日本の姿勢をきちっとしておく必要があるということを痛感いたしました。

 そこで警察庁に伺いますが、六十二年、予算委員会で私が質問したときにも、梶山国家公安委員長は、これは北朝鮮による拉致の疑いが濃厚だと答弁をされ、警察庁の当時の警備局長も、拉致された疑いがあるとはっきり申されて、北朝鮮工作員が上部から独身日本人男性と日本人女性を北朝鮮へ連れてくるようにという指示を受けていたということを承知している、ここまではっきりおっしゃっているわけであります。

 その後、横田さんの事件を受けて、警察庁は全部で七件十人、こういった疑惑事件があるということを明確に答弁され今日に至っているわけでありますが、これが全くのでっち上げ事件などということは、私はそんなことは到底許されることではない。

 まず警察庁に伺いますが、こうした一連の事件については、でっち上げ事件どころか、客観的な資料、捜査、証言等を集めて明白に北朝鮮のかかわった疑惑があると今日も思っていらっしゃるに違いないと思いますが、いかがですか。まず確認をさせていただきます。

○説明員(米村敏朗君) お答えいたします。
 現在の日朝の政党間の交渉内容の詳細については私ども承知をしておりませんけれども、いずれにいたしましても、警察といたしましては、これまで国内の各種の捜査あるいは韓国当局を含む関係機関との情報交換の結果等々、それらを総合的に検討いたしました結果、北朝鮮による拉致の疑いがある事件といたしまして七件十人であるというふうに判断をいたしております。

 なお、拉致が未遂であったと思われるものについては一件二名でございまして、現時点においてこれを変更する意思は全くございません。

○橋本敦君 単なる疑惑というどころか、例えば久米裕さんの事件については、これは捜査の中で未遂に終わったんですが、連行しようとした朝鮮人が逮捕をされて明白に自白をしているという事実も報道されている。一方、原敕晁さんの事件は、韓国の裁判所が判決文に拉致の詳細を記録して、事実として認定しているということもある。これは御承知ですか。

○説明員(米村敏朗君) 承知をしております。

○橋本敦君 したがって、でっち上げ事件などということは、私は日本の主権を守る上からいってもこれは到底許されない言い方だと、こう思っております。

 法務省刑事局長に伺いますけれども、これらの事件のうち富山における拉致未遂事件ということで五十三年八月十五日に発生した事件は送検をされまして、これが受理されて処分は不起訴処分となっておりますが、多くの証拠物が遺留されておったことは明白だと思います。間違いありませんか。

○政府委員(原田明夫君) 遺留品が何点かあったというふうに承知しております。

○橋本敦君 それらの遺留品は、例えばゴム製の猿ぐつわといい布袋といい、当時の新聞に大きく報道されておりますが、製造元がどれもこれは日本国内とは考えられない、不明のものだという報道もあり、北朝鮮の拉致事件にかかわるものだという重要な証拠資料の一つだと思いますが、どう判断されておりますか。

○政府委員(原田明夫君) 具体的な事件の証拠物とその事件とのかかわりということでございますので、法務当局からその点について直接お答え申し上げることは差し控えたいと思いますが、委員御指摘の点はそのように考えられるものだろうと思います。

○橋本敦君 したがって、送検された件についても単なるでっち上げ事件とは言えない、具体的な疑惑をもって解明すべき事件だということになると思うんですね。

 私は、この問題についてはまさに日本の主権と日本国民の生命、安全にかかわる重大な事件であると思います。橋本首相も北朝鮮との国交回復その他の問題については、我が方に日本人拉致事件という問題があるということをしばしば御指摘になったこともございました。

 そこで法務大臣に伺いたいのですが、この問題については、でっち上げ事件などというのは向こうの言い分でありますから、我が方としては重要な事件として慎重な捜査を遂げる、そういう性質の事件である、そう私は思いますが、大臣の御認識はいかがでしょうか。

○国務大臣(下稲葉耕吉君) 御説のとおりでございます。

○橋本敦君 それで刑事局長、この記録でございますが、これが廃棄処分にされているということでございます。しかし、時効は完成していない事件だと私は見てよいと思うんですが、時効の点はいかがですか。

○政府委員(原田明夫君) まず、本件の記録の廃棄の点については現存しております。

 なお、時効の点は、当時昭和六十年七月十九日の段階で、本件につきましては富山地方検察庁高岡支部におきまして、被疑者不詳のまま逮捕監禁致傷の罪名で送致されたもののようでございます。逮捕監禁の法定刑は、十年以下の懲役ということでございますので公訴時効は七年と定められております。本件につきましては、一般的には公訴時効は既に完成したということで不起訴処分に付せられたものでございます。

 もっとも、今後犯人が判明いたしまして、その犯人が海外にいるということになりますれば、その間の時効の進行は停止いたしますために、その段階では公訴時効の完成の有無が改めて検討されるべきことになるだろうと思います。

○橋本敦君 理論的にはそのとおりであります。だから、国外逃亡ということになれば時効中断ということで新たな事件再起の捜査が必要ですね。これらの証拠物件が処分されてしまっているという問題については、今後の捜査の支障の有無についてどうお考えですか。

○政府委員(原田明夫君) 一般的にはその事件に関して証拠物は重要でございますが、先ほど申し上げましたようないきさつで不起訴処分になった後廃棄されたということのようでございますので、その点については事件解明について遺憾であると言わざるを得ないと思います。

 しかし、当時、実は昭和六十年にこの事件が不起訴になった後、六十二年にさまざまな事象が生じました。その中には大韓航空機事件等もあったと思われます。そういう状況を踏まえまして、検察官はこの記録についてはなお保存すべきであると判断いたしまして、その後現在も保存して持っているものでございます。

 そういう状況でございますので、その記録に基づきまして、将来もし必要があれば慎重な捜査を関係当局とも協力いたしましてやれるものと考えております。

○橋本敦君 わかりました。法務大臣も毅然とした御答弁をなさいましたが、今後の捜査の進展によってはやっぱり重要な問題になってくる。

 そこで、こういった資料や書類は刑事訴訟法の規定によりまして公判前に開示するということは一定の要件が要りますね。私は、今日これほど国際的な問題になり、多くの関心を集め、そして被害者の皆さんの切実な願いがある。こういう状況の中で、あの法文にいう公益上の必要があって、そして公表していただいて、これを検討するということの必要も出てきておるんじゃないかというように思いますが、それらについて検討していただけますかどうですか。いかがですか。

○政府委員(原田明夫君) ただいまお尋ねのように、刑事訴訟法四十七条によりますと、訴訟に関する記録は公判の開廷前にはこれを公にしてはならないと規定いたしまして、なお、公益上の必要によって公開し得る場合があることを定めておるのはそのとおりでございます。

 ただ、訴訟関係記録の公判以外での非公開の原則は、その書類等によります関係者に対する影響とかさまざまな点を考えなきゃなりません。特に、本件につきまして、検察官におきましても将来においてなお捜査続行の必要ありと考えて、警察当局とも協議しながら今後相談してまいることになるわけでございます。

 そういう中で、捜査上の問題点がどこにあるかとか、どこまで捜査当局が把握しているかというようなことにつきましては、捜査の必要上秘匿してまいらなければかえってうまくいかないという場合もあるのでございまして、御家族の皆さんとかマスコミの皆さん方、関心があることと思いますが、一般的に公開することについてはなお問題があるんではないだろうかと現在では考えております。

○橋本敦君 状況によっては検討していただくということもあり得ないわけじゃないんじゃないですか、せっかくの規定があるんですから。

○政府委員(原田明夫君) 一般的に、この四十七条ただし書きによる公益、それと捜査の必要性、また関係者に及ぼします影響等を勘案して、その状況につきまして個別に判断してまいることになるだろうと考えます。

○橋本敦君 きょうは時間が短いので以上で終わりますが、最後に、外務省から来ていただいておりますので。

 今後この件の解明については外務省としても努力していただかなくちゃなりません。そういう外務省の御方針が変わらずあるのかどうかということが一点と、家族の皆さんにいろんな情報があれば定期的にもあるいは適宜にもお知らせしていただいて、家族の皆さんにもそれなりの安心感が持てるように御尽力を外務省に対してもお願いしておきたいと思いますが、いかがですか。

○説明員(佐々江賢一郎君) 北朝鮮による拉致の疑いが持たれている事件につきましては、先ほど述べられましたような七件十名等の判断を捜査当局においてされているわけでございますが、そのような判断を踏まえまして、本件につきましては従来より北朝鮮との交渉の場で取り上げてきております。

 八月に行われました日朝国交正常化交渉再開のための予備会談や、九月に行われました日朝赤十字連絡協議会等の場におきましてしっかりと問題を提起してきているところであります。また、今般も与党訪朝団においてしっかりと取り上げてきたというふうなことを間接的に聞き及んでいる次第であります。また、外務省としましても、先般、国連に小渕大臣が参りました際に、国連の協力も要請しておるということであります。

 本件につきましては、外務省としては引き続き、国民の生命にかかわる重大な問題である、主として北朝鮮の真剣な対応を求めていく、問題の解決のために最大限の努力を払いたいというふうに考えております。それから、いま一つの点でございます御家族の方々への御連絡、報告でございます。きょう、横田めぐみさんの御両親も見えておられます。

 この件につきましては、私どもとしても御家族の方々の切々たる悲痛なお気持ちについては十分理解しているつもりでございます。先般も、小渕大臣のところに御家族の方々がいらっしゃっていただきまして、お話をお伺いしたところであります。

 したがいまして、我が方としても、この問題で北朝鮮に対して真剣な対応を求め交渉を行っていくつもりでありますけれども、同時に、可能な限りその状況を御家族の方々等に御連絡するよう努力したい、こういうふうに思っております。

○橋本敦君 ありがとうございました。次の議題がありますので、外務省、警察庁はこれで御退席いただいて結構でございます。御足労かけました。


1997/11/13

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