2000/11/09

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150 参院・地方行政・警察委員会

浅尾慶一郎議員(民主党)の拉致事件についての質問部分


○浅尾慶一郎君 
 それでは、私は最初に、いわゆる拉致の問題について質問をさせていただきたい、こういうふうに思います。

 まず最初に、警察庁が認定をいたしております、七件十人というふうに聞いておりますが、その拉致の具体的な内容について御答弁いただきたいと思います。

○政府参考人(田中節夫君) 警察といたしましてこれまでの一連の捜査の結果を総合的かつ入念に検討いたしました結果、北朝鮮による拉致の疑いのある事件は、委員御指摘の七件十名であると判断しております。

 その内訳を申し上げますと、昭和五十二年九月に石川県警察が検挙いたしました宇出津事件一件一名、昭和五十二年十一月に新潟県の海岸付近で発生いたしました少女拉致容疑事案一件一名、昭和五十三年から昭和五十四年ごろ発生いたしました李恩恵と呼ばれる日本人女性の拉致容疑事案一件一名、それから昭和五十三年七月から八月にかけまして福井県、新潟県及び鹿児島県の海岸で連続発生いたしましたアベック拉致容疑事案、これは三件六名、昭和六十年に韓国で検挙された辛光洙事件一件一名でございます。

 また、拉致が未遂だった事件といたしまして、昭和五十三年八月に富山県の海岸で発生いたしましたアベック監禁致傷事件一件二名を把握しております。
 以上でございます。

○浅尾慶一郎君 そうすると、国外で不明になった者というのは、警察の方で把握をされておられますか。国外でというのは、例えばヨーロッパを旅行中であった日本人がいなくなって、北朝鮮に拉致されたんではないかという疑いを持っている件数というのは把握されておられますか。

○政府参考人(田中節夫君) 今、委員御指摘のように、我が国の国外で北朝鮮に拉致されたのではないかというような数字につきましては、具体的にただいま持っておりません。

○浅尾慶一郎君 具体的に件数はないということでありますが、それよりも漠然とした情報というものは持っておられるんでしょうか。

○政府参考人(田中節夫君) いろんな情報とか、いろんな報道等もございますけれども、私どもの方で北朝鮮による拉致の疑いのある事案として把握したものはございませんということでございます。

○浅尾慶一郎君 それでは、拉致というものが、これは法務省にお答えいただいた方がいいのかもしれませんけれども、刑法上どういう罪に当たるのかということをお答えいただきたいと思うんですが、私はこれは刑法の第二百二十六条で定める国外移送目的略取等ということになるのかなというふうにも思いますが、あるいは普通の誘拐という形でとらえられておられるのか、そこら辺の認識をお答えいただきたいと思います。

○政府参考人(本田守弘君) お尋ねの件につきましては、具体的事案において収集された証拠に基づいて判断されるべき事柄でありまして、法務当局としてお答えすべき性格のものではないと考えるのでありますが、ただ、あくまでも一般論として申し上げますと、まず不法に人を逮捕または監禁した場合には、刑法第二百二十条の逮捕罪または監禁罪、未成年者を略取または誘拐し、あるいは営利等の目的で人を略取または誘拐した場合には、刑法第二百二十四条ないし第二百二十五条の二の略取誘拐罪がそれぞれ成立することになるものと考えます。

 また、略取または誘拐が人を日本国外に移送する目的でなされた場合には、刑法第二百二十六条第一項の国外移送目的拐取罪が成立することになると考えられますし、さらに略取または誘拐された者などを日本国外に移送した場合には、二百二十六条第二項の国外移送罪がそれぞれ成立することになると考えております。
 以上でございます。

○浅尾慶一郎君 では、警察庁に伺いますが、今の御答弁でありますけれども、警察庁が認識しておられます七件十名、あるいは先ほどおっしゃいました未遂については、当然ある具体的な事案というふうなことでありますから、どういう刑法上の罪というものを想定して七件十名という形で発表されておられるんでしょうか。

○政府参考人(田中節夫君) 七件十名というふうに御説明申し上げましたが、具体的に我々としては北朝鮮による拉致の疑いがあるということは、総合的かつ入念に検討した結果そうであるということでございまして、その具体的な過程というものを個別につかんでおりませんので、現実に宇出津事件等では外登法事案として検挙した事案もございますけれども、現実に拉致された方がどういう形で向こうに行っているか、北朝鮮に行っているのか、そういうことにつきましては事実判断をできるところの資料を持ち合わせておりませんので、どの罪に該当するかということにつきましてはこの場で申し上げることはできないということでございます。

○浅尾慶一郎君 余り納得ができないんですが、今七件十名について具体的にどこどこの地域で拉致されたんではないかというようなこと、しかもそれが特定の地域にいるということで発表されておられるということでありますから、そしてまた、法務省の方の御説明で、日本国外に移送する目的で、略しますが、または略取された場合には二百二十六条第二項というふうな御答弁があったわけでありますから、それに該当するんではないかなと私は思うわけですけれども、繰り返しで恐縮ですが警察庁、そしてまた、法務省は先ほど当然警察庁長官のこういう事案というのを聞かれておられたと思いますし、以前にも当然聞かれておられたと思いますから、法務省としての見解を伺いたいと思います。

○政府参考人(田中節夫君) 先ほど法務省の方から、一般的にこういうような罪名に当たるのではないかという一般論で御答弁がございました。私ども、この具体的な七件十名につきましても具体的な状況と申しますか、我々が従来のいろんな一連の捜査の中から疑いがあるというふうには認定をしているわけでございますけれども、それはどういう形で具体的に北朝鮮に拉致されたということは、あくまでもこれは疑いのある事案でございまして、これがどの罪に当たるかというところにつきましては、これは個々具体的に判断しなければいけない。それがまた具体的にこの罪に当たる、この事案がこの罪名に当たるということにつきましての資料というものは十分に持ち合わせていないということでございます。

○政府参考人(本田守弘君) 先ほどもお答えいたしましたように、あくまでも収集された証拠に基づいて、そこで認められた事実に当てはめて判断すべき事柄でありまして、法務当局として現段階においてこういった点についてお答えすべき性格のものではないと考えておりますので、御理解のほどをお願いしたいと思います。

○浅尾慶一郎君 実際に起訴をする場合は当然収集された事実に基づいて判断すべきだというふうに思いますが、現にある疑いがあると。疑いがあるということは、これは犯罪行為であるということも含めて国民は一般的に理解をしている。しかし、犯罪行為であるにもかかわらずその罪名がわからないというのはちょっとおかしいんじゃないかなと思いますけれども。

○政府参考人(田中節夫君) 個々の具体的な事案についてどの罪に当たるかということにつきましては、先ほど来法務省から御答弁がございましたように、法と証拠に基づいてこれは事実判断すべきものでございます。したがいまして、現段階で北朝鮮による拉致の疑いのある事案と申しておりますけれども、個々具体的に、このケースが具体的にどのような証拠があって、もちろんその当人らの供述も全く得られていない状況でございますので、それがどれに当たるかということにつきましては現段階では個々具体的に申し上げる段階ではないということでございます。

○浅尾慶一郎君 それでは伺いますが、先ほど一件未遂があるというふうにおっしゃいました。まず、未遂の場合は当然拉致をされそうになった方がまだ日本にいられる。具体的な証拠というものも当然あるわけでありますから、これは未遂罪も当然適用される罪だと思いますが、この未遂のものについては証拠もかなりあるんではないか、あるからこそ未遂だというふうに言えるんだと思いますが、未遂のものについてはどういうふうに考えておりますか。

○政府参考人(田中節夫君) 先ほど申し上げましたように、これは昭和五十三年八月に富山県で発生したアベックの事件でございますが、これは監禁致傷ということで我々は問擬をしているところでございます。

○浅尾慶一郎君 そうすると、監禁致傷ということで拉致ということではないということですか、この未遂は。

○政府参考人(田中節夫君) 拉致という言葉が、先ほど法務省からお話がありましたように、逮捕でありますとかあるいは誘拐でありますとか、あるいは国外移送でありますとかいうようなことで御説明がございましたけれども、このアベック監禁致傷事件につきましては、いわゆる国外移送ということではございませんで、これは現にその被害者となられた方も我々は確保しておりますし、供述も得ております。これはいわゆる拉致未遂というふうに言えば正しいのかもしれませんけれども、刑法の罪名として問擬する場合には監禁致傷事件ということで問擬をしているところでございます。

○浅尾慶一郎君 監禁されて傷害を負われたということで監禁致傷罪ということは理解できますが、同時に、それでは法務省にお伺いいたしますが、拉致未遂というふうに言っておられるという中で、先ほど述べられました幾つかの、これは第三十三章のところなんだと思いますが、二百二十四条以下のところは、当然これは未遂罪もあるという理解でよろしゅうございますか。

○政府参考人(本田守弘君) 今お尋ねの事件につきましては、公訴時効完成直前の昭和六十年七月十五日に、富山地方検察庁高岡支部におきまして被疑者不詳のまま逮捕監禁致傷の罪名で送致を受けております。同月の十九日、不起訴処分に付しているという状況でありまして、罪名は送致罪名のまま逮捕監禁致傷の罪名で不起訴処分となっております。

○浅尾慶一郎君 お答えをいただいていないと思いますが、逮捕監禁については理解をいたしました。しかし、それを拉致未遂というふうに言われるのであれば、当然その拉致にかかわる罪というものもあって、そこは未遂罪というのが成立するのではありませんかという質問です。

○政府参考人(本田守弘君) 当時、送致されました事実関係のもとでは、逮捕監禁致傷の罪名で処理をしているということであります。拉致未遂というのが一般的にどういうふうな形で法律的な罪名として使われているのかどうか私ちょっと承知しないわけでありますけれども、この事件についてはあくまでも証拠によって認められた事実は逮捕監禁致傷ということで送致を受けてそのまま処分をしているということでございます。

○浅尾慶一郎君 それでは、また警察の方にお伺いいたしますが、逮捕監禁の事実があったから逮捕監禁罪で被疑者不詳ということだということで伺いましたけれども、それは別に、場合によっては日本人がやった場合、可能性というのもそれだけでは否定できないと。にもかかわらず、それを北朝鮮による拉致の疑惑に含めるということであれば、それなりの疑いを持っておられるということなんだと思いますが、その点はそういう理解でよろしいわけですね。

○政府参考人(田中節夫君) 先ほど来申し上げておりますように、監禁致傷で我々は証拠に基づきましてそういう判断をしたわけでございますけれども、被害者等関係者からの事情聴取、付近の聞き込み、遺留品の鑑定、その他本件の発生日の直前に、先ほど申し上げました福井、新潟、鹿児島で発生しましたところの拉致容疑事案等々を総合的に勘案いたしますと、この富山県下の事案は北朝鮮によるところの拉致未遂、そういう疑いのある事案だというふうに認定したわけでございます。

○浅尾慶一郎君 そうすると、繰り返しになってしまって恐縮ですが、拉致未遂ということもあるということは、拉致というのは幾つか考えられるというふうに冒頭御答弁をいただいた、その誘拐罪あるいは国外移送目的略取の未遂罪ということに可能性としては否定できないという理解でよろしゅうございますか。

○政府参考人(本田守弘君) あくまでも一般論として申し上げるわけでありますけれども、国外移送の目的で略取すれば国外移送略取罪になるわけでありまして、刑法上はその未遂罪も当然処罰することとなっているということであります。あくまでも具体的な事実関係によるというふうに御理解いただきたいと思います。

○浅尾慶一郎君 なかなかすっきりとした御答弁をいただいておらないわけですけれども、いずれにしても拉致の疑惑があるということは理解をさせていただいております。

 きょうは外務省の槙田局長にもお越しいただきましたが、いろいろな日朝関係の懸案事項の一つとして拉致の問題があるということは申すまでもございません。

 先般、第三国で発見されたらというような発言が九七年当時にあった、それをブレア首相に対して紹介したという総理の御発言もあったわけでありますけれども、政府として、確認でございますが、拉致というものを第三国で発見するという形のオプションは残っているというふうに考えておられるのか、そこの点の御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(槙田邦彦君) 先ほど来の委員の御質問で、拉致の問題は大変難しい問題である、大変解決がまた難しい問題であるということが一般的に認識されていると思うわけでございまして、私どもは、この拉致疑惑の中で犠牲となっておられると思われる方々あるいはその家族の方々のお気持ちを察すれば、まさに日本国民の生命にかかわる問題であるということで何とかこれを解決しなければならない、そのために粘り強い交渉、折衝もやっていかなければならない、こういう心情でおるわけでございます。

 しからば、この問題の解決といいますときに、具体的に特定の方式というものが我々の頭の中にあるのかどうかということになりますと、現在のところ、この方式ならばいい、あるいはあの方式ならばいけるだろうというような、そういう方式があるわけではないわけでございます。これは、かつまた相手もあることでございますし、また事がやはり国民の生命にかかわる問題でございますから、この方式でやるよということを内外に宣明してやるような話でもないというふうに思うわけでございます。

 そういうことでございますから、この問題は何とか解決したいという気持ちは持っておりますけれども、特定の方式、今委員の御指摘になった方式も含めまして、この方式ならばいいということはなかなか述べられないという状況を御理解いただきたいと思っております。

○浅尾慶一郎君 わかりました。一つのオプションとして引き続きあるという可能性は否定されていないというふうに御答弁を理解いたしました。

 そこで、仮に第三国で発見をされた、先ほど法と証拠に基づいてというふうにおっしゃいましたが、拉致をされた方というのは、された方という言い方はあれですが、いわゆる犯人は日本にいないというふうに理解できるわけでありまして、私が申すまでもありませんが、日本にいない場合は時効というものは中断されますね。

○政府参考人(本田守弘君) 国外にいる場合は時効が停止することになっております。

○浅尾慶一郎君 そうすると、昭和五十二年が最初だというふうに伺いましたが、昭和五十二年九月の石川の方が第三国で発見されたとしても、随分前で大変悲しい事態でありますが、時効は中断しているということであれば、第三国で発見されたときは確かにその地域にずっといたかもしれないということかもしれませんが、後々いろいろと明らかになってくる過程において自分はどうやら北朝鮮の手によって拉致をされたんだということが明らかになった場合は、そこで法と証拠が出てくるわけでありますから、罪は発生するという理解でよろしゅうございますか。あるいは、時効は中断しているから、継続しているという理解でよろしゅうございますか。

○政府参考人(本田守弘君) 先ほど申し上げましたように、犯人が国外にいる間は時効が停止するわけでありますから、そういう意味では、その後捜査して事実関係がきちっと認められれば、その段階で法と証拠に基づいて認められた事実関係に従って処分をするということになろうかと思います。

○浅尾慶一郎君 槙田局長にこういう質問をするのは大変難しいかもしれませんが、第三国で発見されて、日本としてはそれで御当人は出てきてよかったという話になるかもしれませんが、後々事実がわかって罪が残っているという場合に、先般、九七年当時の訪朝団でもうそれは既知の、周知の事実であるという御答弁を総理の方がされたんですが、発見すること自体、そこはそれでクリアできるかもしれませんが、罪が残ると。日本の政府として、やはり罪があった場合にはこれは厳に摘発をしていかなければいけない。罪があってもこれを帳消しにするというのは、私の理解ではかつてダッカで起きたハイジャックのときに超法規的にこれはもう既に捕まえていた人を釈放したというケースがあるんだと思いますが、要は発見後の対応について外務省として、その罪の部分をどういうふうに取り扱うのかということを検討されたことがあるのかということを御質問させていただきたいと思います。

 また、法務省には、仮に罪があるんだけれどもそれを罪として問わないということにする場合に、どういう法的な手続を経ると問わないということができるかということを教えていただきたいと思います。

○政府参考人(槙田邦彦君) 委員御承知のように、また、今警察庁長官からも御答弁がありましたように、この問題は疑いということになっておるわけでございます。他方、北朝鮮の方はこの拉致というものについては全面的に否定をして今日に至っておるということでございますから、そういう中で、今委員が御指摘になりました第三国で発見されるということが起きた場合に、それがどういう背景で、あるいはどういう経緯でそういう状況になったのかということについては当然いろいろな調査が行われるということがあると思うのでございます。その結果として、本当に拉致が国家的な行為として行われたんだということに仮になるならば、それはまさに我が国に対する主権侵害ということになりましょうから、これは外交的にもそれなりのけじめをつけなければならないということになる、これは理屈の上でそうなるという感じがいたします。

 しかし、そのような問題に入る前に、まず私どもとしては、この問題の解決の中に何といっても御当人の方々の生命、そういうものを第一に考えて、それを念頭に置きながら解決を目指したい、こういうつもりでおるわけでございます。

○政府参考人(本田守弘君) 罪を問わない方法という御質問だったと思うんですけれども、ある犯罪が発生して、それが法と証拠に基づいてその事実が認定された場合は、やはり法律に従って処理をするということになるというふうに御理解いただきたいと思います。

○浅尾慶一郎君 そうすると、第三国発見方式ということが九七年当時に提案をされたようでありますが、提案というか、会話の中で出たという理解の方が正しいのかもしれませんが、仮に、これは外交交渉の話にもなるかもしれませんが、そういうことを向こうとしては、日本国政府が第三国で発見されたらもう後は免責よというふうに受け取る可能性もあるんですが、もちろん外務省は当事者じゃないですから推測の話でも結構でありますが、そこまではじゃなくて、単にそれはとりあえずそういうふうに第三国で発見された、後でまた罪は問うよというふうに理解をされているということでよろしいんですか。

○政府参考人(槙田邦彦君) 大変これは難しい御質問で、答えに窮するのでございますけれども、このアイデアなるものは、委員御承知のように、三年前の当時の連立与党の代表団が訪朝されまして、その中でそういうアイデアもあるということが言及された、私ども承知するところでは、先方からそれに対して何らかの反応があったということもないと。

 こういう状況でございますから、政府として、今までこの拉致疑惑の問題を追及するに当たりまして、こういう方式ではどうかというふうなことで具体的に挙げてやっているわけではございませんので、その先の話につきましてはちょっとなかなか答弁がしにくいといったところでございます。

○浅尾慶一郎君 どうもありがとうございました。

 第三国発見という形で、もちろん人命が、自由を奪われている方が自由の身になるというのはそれはそれで望ましいことだと思いますが、その先にありますいわゆる罪に対する対応ということを、恐らく外交という場で仮にそういう解決の話が出た場合でも向こうはそれは免責というふうにとらえるんじゃないかなというふうに私は理解しておりますので、今の御答弁、なかなか難しいなという思いに至るようになりました。


2000/11/09

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