2002/05/13

戻るホーム


瀋陽総領事館事件・調査結果 外務省
平成14年5月13日

  1. 総領事館入口内で女性2名、幼児1名が取り押さえられた際の状況
    ・ 中国側武装警察官が最初に総領事館敷地内に立ち入った際に、日本側が同意を与えたとの事実はない。

  2. 総領事館査証待合室に入り込んだ男性2名が取り押さえられた際の状況
    ・ 武装警察官による総領事館内への立ち入り、査証待合室から総領事館敷地外の武装警察詰所への男性2名の連行のいずれについても、日本側が同意を与えたとの事実はない。

  3. 関係者5名が連行された際の状況
    ・ 幼児を含む女性3名の総領事館敷地内からの引きずり出し、男性2名の総領事館査証待合室からの連行及び同5名の武装警察詰所からの連行のいずれについても、日本側が同意を与えた事実はない。また、感謝の意を表明した事実もない。

    ・ 総領事館敷地外にある中国側武装警察詰所において、警備担当副領事が、最終的に武装警察官に物理的に抵抗しなかったことは、不測の事態を避けるためであって、中国側に対して同意を与えたことを意味しない。

  4. 瀋陽総領事館による直後の対応
    ・ 警備担当副領事は、関係者5名が連行された直後に現地公安当局等に出向き、武装警察官が同意なく館内に立ち入ったことについての国際法違反に対する抗議と関係者の引渡しについての申入れを行った。

  5. 在中国大使館による抗議・申入れ
    ・ さらに、以上の点を踏まえ、本件は日中両政府間で処理すべき問題となったと判断し、日本政府を代表する在中国大使館から中国外交部に対して同様の抗議・申入れを行った。

事実関係の詳細
(以下の時間は、いずれも現地時間〔日本より−1時間〕)

1.総領事館入口付近で女性2名、幼児1名が取り押さえられた際の状況

・ 午後2時頃、査証担当副領事が、事務所一階の廊下で、建物外部から女性の叫び声を聞いた。同時に、副領事は、玄関ホール付近を清掃中の中国人職員2名が慌てて事務所内に駆け込む姿を目撃したことから、建物外部で異常事態が発生したことを察知し、急遽、事務所を出た。事務所玄関を出た副領事は、叫び声を上げる女性らが総領事館正門の鉄扉の下部に横たわっており、女性らともみ合っている武装警察官の姿を目撃した(当時、副領事は、何らかの事故の発生、または、しばしば発生している中国人査証申請者との間のトラブルの可能性が高いと認識していた。)。

・ 午後2時5分頃、同副領事、中国人男性職員2名、電気工1名の計4名が正門付近に到達した。この時、正門の門柱に年輩の女性が、正門の鉄扉に幼児を抱えた若い方の女性が必死にしがみつき、これを武装警察官が引き離そうとしていた。この時点で、副領事は、幼児を含む女性3名を引き戻すために武装警察官が総領事館敷地内に立ち入っていたという認識はなかった。

・ 副領事らは、査証事務に関連したトラブルが発生した可能性が高いことを念頭に置き、事態の正確な状況を把握するため、地面に落ちていた武装警察官の帽子、女性用の靴、ボールペン等を拾いつつ女性らに接近し、中国語で落ち着くよう何回も声をかけた。副領事は、これら女性が如何なる理由で、こうした状況にあるのか理解しようと試みたが、いずれも大声で叫ぶのみであった。

・ やがて、武装警察官により、これらの女性は門扉から引き離され、総領事館正門脇の武装警察官詰所に押し込まれた。

・ 副領事は、武装警察官詰所前に移動し、武装警察官の一人に対して自分の身分を明らかにした上で、これらの女性が査証申請人であれば事情を聴取したいと申し入れたが、同警察官からは返答がなかった。続いて顔見知りの武装警察大隊長が正門前に到着したため、改めて同様の趣旨を申し入れたところ、大隊長は査証申請人ではないとだけ答えた。


2.総領事館査証待合室に入り込んだ男性2名が取り押さえられた際の状況

・ 午後2時頃、武装警察官の制止を振り切り、総領事館敷地内に駆け込んできた男性2名については、総領事館正門内側にいた総領事館の中国人警備員が追いかけ、事務所正面玄関前で1名、その後、玄関内で残る1名をそれぞれ捕捉した。同警備員は、その後、両名を査証待合室にある長椅子に座らせ、午後2時15分過ぎ、査証担当副領事が総領事館正門付近から同待合室に戻ってくるまで、上記両名に対する監視を続けた。

・ 一方、上記 1.にあるとおり、武装警察詰所前にいた査証担当副領事は、現場にいた武装警察官から総領事館構内に2人いるとの声が、また、北朝鮮人であるとの声がおそらく周囲の人だかりの中から聞こえたため、副領事は、ここで初めて総領事館内に2名がいる可能性があること、その者たちが北朝鮮出身者の可能性があることを認識し、急遽、総領事館事務所に駆け戻った。

・ その直後、5、6名の武装警察官が、総領事館敷地内に日本側の同意を得ることなく立ち入り、同じく総領事館事務所方向に向かった。副領事は、武装警察官が背後から総領事館敷地内に入ってきたことに気づいていなかった。

・ 副領事は、総領事館正面玄関から中に入り、玄関ホール左手の査証待合室に入って直ぐのところで2名の男性が長椅子に座っているのを確認した。その瞬間、5、6名の武装警察官が副領事の横をすり抜け、2名の男性を後ろ手に押さえ、連行していった。2名の男性は、武装警察官に拘束される際、抵抗したり、暴れたりはしておらず、また、男性のうち1名は自ら行くと中国語で述べた。

・ 武装警察官は、副領事が言葉を発する間もなく、総領事館正門外へ男性2名を連行し、正門脇の武装警察官詰所に押し込めた。


3.関係者5名が連行された際の状況

・ 午後2時20分頃、関係者5名全員が武装警察詰所に収容された後、査証事務担当副領事は、航空機事故の関係で邦人保護のため大連へ向かっていた総領事に携帯電話で第一報を入れ、その後、総領事の指示により、中国大使館公使に連絡した。また、第一報を受けた総領事は、直ぐに外務本省に連絡を取り、状況を説明した。これに対し、本省担当者からは、とりあえず国際法上の問題を指摘しつつ、追って連絡する旨述べた。

・ 午後2時30分頃、総領事館からの連絡を受け外出先より戻った警備担当副領事が、武装警察詰所内に入り、詰所の奥の部屋の中に男性2名、幼児を含む女性3名がいるのを確認した。その時点で、20名以上の武装警察官が応援のため総領事館正門付近に集まってきていた。

・ 同副領事が、中国語で国籍とどこから来たのかを尋ねたところ、男性の内の1名が、中国語で北朝鮮と答えた。そこで、5名の関係を質問したところ、同じ男性が、他の4名は自分の弟、妻、娘、母親であると紹介した。

・ 以上のやりとりにより、5名が北朝鮮から来た家族であることが判明したため、同副領事は、総領事に携帯電話でその旨報告し、今後の対応につき指示を仰いだ。また、外務本省との連絡のため事務所内に戻っていた査証担当副領事は、本省関係者から、更なる指示があるまで現状を維持せよとの指示を受けた。こうしたことを踏まえ、警備担当副領事は、現状維持のため、武装警察詰所の入口付近で立ちふさがり、5名が他の場所へ移されるのを阻止していた。

・ 午後2時50分頃、瀋陽市公安局の警察車両1台が到着し、武装警察詰所の前に横付けされた。その後、武装警察官が5名の両脇を抱えるようにして詰所から出てきそうになったため、警備担当副領事は、待つように中国語で何回も繰り返し、両手を大きく広げて入口をふさぐことにより、身振りで彼らの動きを制止し、詰所内部に押し戻した。この間、外務本省からは、抗議の上、5名の身柄を総領事館構内に戻すよう指示を試みたが、電話が通じなかった。

・ その後、武装警察官が再度5名を詰所から出そうとしたため、警備担当副領事は、再び待つように中国語で言った。この時、そのすぐ傍らにいた査証担当副領事が中国大使館公使に改めて携帯電話で電話し、現場の状況が緊迫しつつあることを説明の上、対応振りにつき指示を仰いだ。同公使は、5名が既に総領事館敷地外に出されてしまっていること、また、状況が緊迫の度合いを増す中で、武装警察にこれ以上抗って物理的に押しとどめることもできないとの認識の下に、無理はするな、最終的には連行されても仕方がないと述べた。この間、総領事からも警備担当副領事に同様の趣旨につき連絡があった。

・ 警備担当副領事は、このような指示を受け、広げていた両手を下ろし、武装警察詰所入口をふさぐ形になっていた体の向きを変えた。この後、午後3時過ぎ、5名は横付けされていた警察車両に乗せられ、現場を去って行った。その際、総領事館員が武装警察官に対して、感謝の意を表明した事実はない。


4.瀋陽総領事館による直後の対応

・ 外務本省からの指示により、警備担当副領事は、午後3時40分頃から瀋陽市公安局、遼寧省公安庁及び遼寧省外事弁公室を順次訪れ、武装警察官が同意なく館内に立ち入ったことについての国際法違反に対する抗議と関係者の引渡しについての申入れを行った。


5.在中国大使館による抗議・申入れ

・ さらに、午後5時40分頃、北京において、外務本省からの訓令に基づき、在中国日本大使館公使から中国外交部領事司副司長に対して、中国側の今回の対応は極めて問題であるとして、国際法違反に対し強く抗議するとともに、関係者の引渡しを強く求めた。


総領事館の対応に関する問題点

  1. 意識面の問題点

     今回の調査を通じて判明してきたことの1つに、緊急事態への対応に関する意識の希薄さがある。具体的には、総領事館正門付近で取り押さえられた女性らが大声で泣き叫んでいる状態を、当時在館していた館員の何名かは認知していたが、それが今回のような事態になるとの意識はなく、当初、単なる喧嘩、騒ぎ程度の認識に止まっていた。

     一般的には、北朝鮮との国境に近い瀋陽には多数の北朝鮮関係者(北朝鮮からの脱出者及びそれを取り締まろうとする北朝鮮当局関係者)がいると言われ、そのため、一種の緊張状態にある。しかし、そうした緊張状態ゆえに、中国側警察当局による取締りも厳しく、また、瀋陽所在の各国総領事館に対する中国側の警備も厳重である。

     一方、こうした状況への一種の慣れが存在しており、このため、我が国総領事館においても、今回のような事態が発生するかもしれないとの「危機意識」は比較的希薄であった。

  2. 指揮命令系統の問題点

     中国人警備員が査証待合室で男性2名を監視下に置きながら、それが日本人職員には直ちに報告されなかったこと、また、正門付近での対応に当たった2名の副領事とその他の館員との間で十分な連絡がなされていなかったこと等から、指揮命令体制・伝達面での不備があった。

警備面の問題点

 今回の事件の発生原因として、警備面でも、具体的対応に次のような問題点が指摘できる。

(1) 警備員の人数の不足
 瀋陽総領事館には、開館時は日本人警備担当官1名の下に2名の中国人警備員がおり、通常は中国人警備員2名が正門入口内側横の詰所にて来訪者の身元確認に当たっているが、他の用務が生じた際には、同詰所の警備員は1名となっていた(今回の事件が発生した際も、1名の警備員は銀行業務の警備のため外出中であった。)。したがって、今回、警備員1名が総領事館に駆け込んだ男性2名を追跡している間、正門付近の警備は一時行われなくなり、また、警備員から日本人職員への報告も遅れる事態となった。

(2) 警備実施上の不備
 査証申請者等来訪者が多数に上ることから、総領事館正門は、開館時間中、1メートル程度開放されているという警備実施上の不備があった。

(3) 物理的警備体制の不備
 監視カメラは総領事館事務所内の5カ所に設置されているのみで、正門付近を監視する監視カメラは設置されていなかった(また、事務所内設置の監視カメラにつながるモニターテレビには録画装置がなかった。)。このほか、正門の門扉は二重扉とはなっていなかった。また、一部館員の携帯電話には、国際通話発信機能がなかった。

戻るホーム