2004/01/21 >>会議録全文

戻るホーム目次


小泉総理の施政方針演説に対する代表質問

民主党 菅 直人

菅代表、憲法違反の自衛隊派遣で首相退陣求める (民主党ニュース)

 民主党の菅直人代表は21日、衆議院本会議で代表質問に立ち、イラク派遣は「現行憲法に明らかに違反した行動であり、総理としてはその資質を欠く。辞任をこの場で強く求める」と退陣を要求した。また、神崎公明党代表に対しても「同罪であり、職を辞することを勧告する」と辞任を求めた。 
  
 菅代表は質問の冒頭、「民主党のみならず、支持をいただいた2200万を超える国民の皆さんを代表し、また、先の総選挙では小泉首相を支持し、その後の小泉さんの行動に失望し、怒りを感じている人びとを代表して質問」すると述べ、国民に代わって小泉政権を糾す決意を表明。イラクへの自衛隊派遣について「派遣しなければ日本の平和が維持できないのならば、憲法の改正を提起すべき」とし、首相を「状況追従型政治、最も危険な総理」と断じた。しかし答弁に立った首相は、「(自衛隊の活動は)武力行使には当たらない。憲法違反ではない」などと述べたにすぎなかった。 
  
 菅代表は、イラクへの自衛隊派遣問題のほか、北朝鮮、年金改革、道路公団民営化、地方分権、財政再建、雇用対策、創憲に関して質問。首相は何らまともに答えようとしなかった。このため、菅代表は再質問に立ち、改めて「質問に答えていない。雇用の確保に関して、新たな農業、第1次産業をどう考えるか」と質した。しかし首相は「農業問題は最初の質問になかった」などと開き直り、答えようとしなかった。


平成十六年一月二十一日(水曜日)

議長(河野洋平君) 国務大臣の演説に対する質疑に入ります。菅直人君。
    〔菅直人君登壇〕

菅直人君 民主党・無所属クラブを代表して、さらには今回我が民主党に支持をいただいた二千二百万人を超える国民の皆さんを代表して、そして五十八名の新しい議員を選出していただいた国民の皆さんを代表して、さらに言えば、さきの選挙では小泉総理の言葉を信じて投票はしたけれども、その後の小泉総理の行動に失望して怒りを感じている人の気持ちも体して、先日の小泉総理の施政方針演説に対して質問を申し上げます。(拍手)

 いよいよ陸上自衛隊の先遣隊がイラクに入りました。まず、議論に入る前に、派遣をされた自衛隊員の皆様に対して、その労苦に対し心から敬意をあらわすとともに、その任務を果たされて、無事全員が一日も早く日本に帰国されることを心から願っておきたいと思います。(拍手)

 さて、皆さん、日本が実質上の軍隊である自衛隊を戦争が継続している外国の領土イラクに派遣したというのは、まさに戦後の新しい歴史の一ページだと思います。軍隊を他国の領土に送るということは、いずれの時代においても、いずれの国においても、国家主権にかかわる重大事であります。

 総理は、さきの施政方針演説の中で、平和のための行動だ、そのような趣旨のことを、高揚した口調でこの場で話をされました。しかし、それでは、平和のために自衛隊を戦地に送る、平和のために戦争に送るということなんでしょうか。

 私は、この自衛隊の派遣が、いろいろな理屈をつけようとも、戦地に、自衛隊を戦争目的で海外に送らないとしてきた憲法の原則を大きく破るものであるということは疑いのないところであります。そのことを明確に指摘をしておきたいと思います。

 もし、総理が、イラクに自衛隊を送らなければ日本の平和が維持できない、そのように本当に思われるならば、その理由を明確にした上で、自衛隊をイラクに派遣できるような憲法改正を提起するのが筋ではないですか。(拍手)

 かつて、ドイツは、NATOの領域内に限られていた軍の活動をNATOの領域外に広げるときに、その基本法、日本でいう憲法の改正をあらかじめやってから行動いたしました。小泉総理は、憲法を変えることもなく、明らかに憲法に違反する行動を命令している。まさに民主主義を破壊する暴挙とこれを言わないで、何を暴挙と言うんでしょうか。

 それとも、小泉総理は、この行動は憲法に違反しない、もしそういうふうに考えるならば、国民にわかりやすく明確に説明をする義務があるわけであります。

 総理は、イラクは安全と言えないから自衛隊に行ってもらうんだとか、多くの国がイラクに出ているから日本も自衛隊に行ってもらうんだとか、こういったことを言っておりますが、これが日本国憲法に反して自衛隊を送る理由にならないことは、だれの目にも明らかではありませんか。

 それに加えて、小泉総理は、施政方針演説の中で、自衛隊は武力行使をしないんだ、また、近くで戦闘行為が行われる場合には、活動を休止して避難をするんだ、こういったことを言われております。

 しかし、それでは聞きましょう。自衛隊がテロ攻撃を受けた場合に反撃をするのは武力行使にならないんですか。それとも、まさか反撃をしないと言われるわけではないでしょう。

 それに加えて、今のイラクの現状の中で、戦闘行為に当たらないような活動が一体どこであるというんでしょうか。近くで戦闘行為があれば中止するというのであれば、今、イラクの中に活動できるところは一カ所たりともないというのが常識ではないでしょうか。

 防衛庁長官は、テロは戦闘行為ではないというふうなことを言われたそうであります。それでは、さきおととしですか、九月十一日のあのアメリカに対する連続テロが、まさに戦争である、攻撃であるとしてブッシュ大統領が自衛権を発動したことに賛成をし、支持を与えたのは、自民党、小泉政権ではありませんか。

 あるときには戦争と言い、あるときには戦闘行為ですらないと言うのは、言い逃れの詭弁以上の何物でもないではありませんか。総理に明確な答弁を求めます。(拍手)

 さらに、総理は、自衛隊は戦争に行くのではない、こういう説明を何度もされております。しかし、私の手元に届いたCPAのブレマー長官の書簡によれば、派遣された自衛隊員の身分はアメリカ軍やイギリス軍と同じコアリションパーソネル、つまりは連合国の要員、連合国の一員としてのそういう法律的な位置であるということが明記をされております。また、そうでなければ、例えば万一自衛隊がイラクの市民を殺傷するようなことが起きたときの裁判権の問題がどちらになるのかという極めて重大な問題を惹起するからであります。つまりは、連合国の一員であるということで、戦時国際法の適用を受けて、いわば治外法権的な扱いを受けるというためのその措置がこの書簡ではありませんか。

 あるときには戦争を前提としたそういう身分保障を受けながら、しかし一方では戦争に行くのではない、これまた憲法違反を言い逃れするためのまさに二枚舌としか言いようがないじゃありませんか。この点についても明確な答弁を求めます。(拍手)

 私は、今回の自衛隊のイラク派遣がこういった意味で現行憲法に明らかに違反した活動であって、その行動を命令し承認した小泉総理は、民主主義国日本の総理としてはその資格を欠いている、辞任をこの場で強く要求したいと思います。(拍手)

 さらに、自衛隊派遣の露払いを積極的に務めた公明党も同罪です。神崎委員長には、委員長としてのその職を辞することを勧告申し上げたいと思います。(拍手)

 さて、次に、北朝鮮の問題について申し上げたいと思います。

 一昨年、小泉総理が北朝鮮を訪問して日朝平壌宣言が発せられてから一年半が経過しようとしております。帰ってこられた拉致被害者の家族の帰国問題はいまだに実現をしておりません。

 私たち民主党は、さきの総選挙のマニフェストの追加項目の中で、日本から北朝鮮に対する送金を停止できる法律案を出すべきだということを申し上げました。この国会で超党派で法案が出せることになったことは喜ばしいことだと考えます。こうした超党派的な努力もあって、北朝鮮は、何らかの事態の打開のため、最も強硬派と目されている平沢議員や我が党議員を含め、働きかけが来ていると聞いております。しかし、政府・与党はすべてを官僚に任せるだけで、その執行部の責任ある行動はまだ少なくとも私たちの目には見えておりません。

 そこで、総理に申し上げます。
 総理、この問題で最も熱心で最も強硬派とされている安倍幹事長を政府特使として北朝鮮に派遣されるおつもりはありませんか。そして、政府・与党、責任を持ってこの事態を解決しない限り、官僚にやらせておいて、そして、官僚が妥協をしたら強硬派と言われる人たちがそれをバッシングするというやり方では、何も進展しないことは明らかではありませんか。総理の見解を聞きたいと思います。(拍手)

 私は、小泉総理のこの間の活動や言動を見ていて、一体この日本をどの方向に導いていこうとするのか、全く理解することができません。その都度状況に応じて判断をするという、まさに状況追従型の政治と言わなければなりません。イラクに対するあの先制攻撃を支持したときの、大量破壊兵器が拡散するということを防ぐために支持したんだという大義名分は、一体どこに消えてしまったんですか。

 そして、今は、イラクの民主政権をつくる、こう言っておられます。大変結構なことです。しかし、中東には、イラクに限らず、必ずしも民主政権と言われない王政の国などがたくさんあります。すべての国の民主化が我が国の使命だ、そういう前提で話をされているんですか。その見解を聞きます。

 また、テロの温床にしないための活動だ、そういう大義名分を掲げられましたが、少なくともフセイン時代のイラクは、危険な独裁政権ではありましたけれども、海外のアルカイーダといったようなテロ組織がイラク国内で活動していたということは聞いておりません。

 結局のところ、状況が変わっていけば、くるくるとそれに合わせて大義名分を変えていく、このようなやり方で日本を導いていく。私は、総理としては最も危険な総理である。かつて戦前の政府が、軍部が生み出した状況を追認する形で、気がついてみたら、だれの責任かはっきりしないまま、アメリカとの戦争に突入していた。まさにこれと同じ政治スタイルじゃありませんか。(拍手)

 こういった意味で、今の総理のあり方には、日本の総理としてはふさわしくないということを重ねて申し上げておきます。

 さて、さきの衆議院の選挙において、私たちは政権交代を求めて戦いました。残念ながら政権交代には至らなかったわけですけれども、もし民主党中心の政権が生まれていたら、今ごろは我が党マニフェストに沿って迅速な改革が進んでいたであろうことを思うと、残念でなりません。

 逆に言えば、総理はさきの選挙で国民の信を得たわけですから、小泉マニフェストをだれにはばかることなくどんどん推進すればいいではありませんか。しかし、現実に、そのマニフェストを現実化するとされた平成十六年度予算に向かっての政府・与党の決定は、まともな改革は一つたりとも見当たらないじゃありませんか。(拍手)

 例えば年金改革については、二〇〇四年に抜本改革を行うと書いてありますけれども、厚生年金の数字合わせにとどまっただけで、崩壊寸前の国民年金については何も触れられておりません。

 我が党は、国民年金、厚生年金、共済年金の一本化と、そして基礎年金に対する将来の消費税投入を含む税による負担という、まさに抜本的な改革を提示しておりますが、総理のこの問題に対する見解を伺います。

 さらに、道路公団の改革について、小泉マニフェストでは、民営化推進委員会の意見を尊重すると書いてありますが、政府・与党が合意をしたその日に、民営化推進委員会の会長代理は抗議の辞任をされました。通行料を借金の返済に優先するとする、その民営化推進委員会の、まさに意見の中心が無視されたことに抗議しての行動であります。これでもまだ高速道路の改革がマニフェストどおり進んでいると総理は強弁をされるんでしょうか。

 私は、このどたばた劇を見ていて、我が党が提起した高速道路無料化という考え方が最も必要な政策であるという思いを、一層その思いを深くしたところであります。

 つまり、これまで道路に使われてきたガソリン税などの九兆円の費用のうち、二兆円を道路公団の負債の返済に充てれば無料化が可能になります。そして、残りの七兆円の資金によって、必要な道路、場合によっては高速道路も含めて建設をすることによって、例えば、先日伺った秋田などでは、高速道路が無料になれば野菜などを首都圏に運ぶことも可能だ、そして、現在の関所とも言えるあの料金所を廃止して出入り口を大きくすることによって、かつて織田信長が行った関所の廃止と、いわゆる楽市楽座のような地方経済の活性化が大きく期待できるということを、私は、確信を持って改めてこの場で申し上げたいと思います。(拍手)

 さらに言えば、分権改革という中で鳴り物入りで始められた三位一体の改革についても、結局は負担を地方にいわば肩がわりをしてもらうだけであって、本当の意味の分権改革には何もなっていないじゃないですか。

 我が党は、霞が関からひものついた補助金を原則全廃して、国の仕事は、外交、防衛、通貨、さらには福祉や都市計画の基本ルールをつくることに権限や仕事を限定して、他の仕事はすべてを地方自治体に移していくという、本格的な分権提案をいたしております。これに対して、総理のマニフェストは全くそうした方向が進んでいない、このように申し上げなければなりませんが、反論があればお聞かせください。

 さらに、財政再建について、最もインチキなところがこの財政再建ではないでしょうか。

 総理が就任してから、GDPに対する公債の残高の比率は毎年大きく高まっております。総理は、当初、国債発行を三十兆円枠にとどめるということで財政再建を訴えましたが、初年度からその枠を突破したばかりでなく、今や、予算の約半分が国債に依存するところまで来ているじゃないですか。

 来年について、プライマリーバランスの赤字幅が狭まったかのような説明をする大臣もありますけれども、それでは、景気が上昇し、金利が上昇したときに、GDP比でどんどん膨らんでいるこの国債残高の金利の負担がどのようになるのか。二〇一〇年代初頭にプライマリーバランスを黒字化するというそのマニフェストが、本当に実行可能だと総理は思っているんですか。それとも、二〇一〇年代初頭といえば、もう自分が総理大臣なんかやっていないから、一度言った以上はそのまま約束をしておこう、これが実態ではないですか、皆さん。反論があったらお聞かせください。(拍手)

 さらに、雇用については、五百三十万人の雇用創出、あるいは二年間で三百万人の雇用の創出ということをマニフェストで述べられていますが、それでは、同じ期間にリストラなどによって雇用が失われる数は一体幾らに上るんですか。現実に、小泉総理が就任して以来、就業者の数は、この三年近くで約百万人余り正味で減っているじゃないですか。マニフェストで掲げた二年間で三百万人という数字なら、正味で何人ふえるのか、それとも減るのか、総理の口からはっきりと明言をいただきたい。(拍手)

 さきの民主党の党大会で、私は、国民主権の立場に立った新しい憲法をつくることを国民運動として、いわば市民革命の現代の活動として国民に呼びかけました。総理からは、早速、自民党との間での協議ということが言われましたけれども、総理は本当に、私が提起した問題を理解いただいているんでしょうか。

 与党の第一党と野党の第一党がまず議論を始めるということは、まさに国民不在の談合政治そのものじゃないですか。そうではなくて、国民の中で広く議論をしてこそ、本物の国民主権の憲法をつくり、国民主権の国をつくることになる、このように考えるから国民の皆さんに対して訴えたということをぜひ御理解いただきたいと思います。

 憲法に違反した行動を平気でとろうとしている総理に、憲法の議論をする資格があるのかどうかが疑われておりますが、いかがでしょうか。(拍手)

 最後に申し上げます。
 昨年初め以来、私が民主党代表として総理大臣と議論をするのは、今回で十五回目になります。私は、この討論を通して、最近は、終わった後にむなしさを感じてなりません。それは、総理の答弁がまともな、真正面からの答弁ではなく、問題をすりかえ、そして単に切り返しの答弁に終始することが多いからです。

 そこで、総理に強くお願いをしておきます。
 つまり、総理は、私の質問に対して、私に答えるつもりではなくて、総理の発言を注目し、総理のその決定によって大きく生活を左右され、そして影響を受けている国民一人一人の皆さんに答えるおつもりで答弁をいただきたい、このことを強く要請申し上げておきます。(拍手)

 そして、もし私に対するその答弁が国民に対する答弁としても不十分な場合には、私に与えられた時間の範囲で再質問を行う用意があることを最後に申し添えて、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 菅議員に答弁いたします。

 自衛隊のイラク派遣は憲法違反ではないかというお尋ねではございますが、現在の現地の治安情勢は、必ずしも予断を許さない、安全とは言えない状況であるということは私も認めます。しかし、自衛隊は、これまでの調査や各種の情報を踏まえまして、非戦闘地域の要件を満たす区域において人道復興支援を行うものであります。万一、活動の場所において戦闘行為が発生した場合などには、法の定めるところに従い、実施区域の変更や避難等の措置を行うこととしております。

 さらに、現地において、自衛隊員やあるいは一緒にいる人に危険が迫った場合、やむを得ず武器を使用する行為は憲法で違反じゃないかというお尋ねではございますが、正当に自分の身を守る行為、これが私は憲法違反に当たる武力行使とは思っておりません。憲法で禁じられた、国際紛争を解決する手段としての国家意思の発動である武力行使と、私は、正当防衛の武器の使用というのは全く違うものだと思っております。したがって、自衛隊の活動は憲法に違反するものとは私は思っておりません。(拍手)

 また、イラクには、すべて戦闘地域ではないかというお尋ねではございますが、私は、イラク特措法に基づく自衛隊の活動、いわゆる非戦闘地域の要件を満たす地域があると思っているからこそ自衛隊を派遣しているわけであります。自衛隊の活動は可能であります。

 自衛隊のイラク国内での法的地位と憲法との関係についてのお尋ねがございました。

 連合暫定施政当局命令第十七号及びブレマー長官の書簡は、イラクに派遣される自衛隊が、我が国の排他的管轄権に服し、イラクにおいて裁判権免除等の特権免除を享受することを確認したものであって、武力紛争当事者に適用される戦時法規の適用を受ける軍隊であるとは述べておりません。イラク人道復興支援特措法に基づき自衛隊が行う活動は、憲法との関係で問題はないと思っております。

 自衛隊派遣の理由についてでございます。
 私は、イラクに安定した民主的な政権をつくるということは、日本にとっても大変大事であると同時に、世界全体にとって極めて重要なことだと思っております。まず、我が国が世界の平和と安定のために何をなし得るかということを考えるべきだと思います。テロに屈して手をこまねいていては、私は、イラクがテロの温床になってしまうのではないか、テロの温床になってしまっては、これは日本の脅威のみならず世界にとって脅威であります。

 今、多くの国がイラクの人道復興支援に取り組んでおります。私は、この際、我が国はお金に関しては協力するが人的な貢献はしないということでは国際社会の中で責任ある行動とは言えないのではないかという観点から、今回、人的支援として自衛隊の諸君に、困難である任務であると思いますが、行ってもらう、立派に任務を果たしていただきたい。期待しております。自衛隊諸君に対しましては、心から敬意を表したいと思います。そして、できるだけ早くイラク人のためのイラク人の政府を立ち上げることができるように、日本としてもできるだけの協力をしていくことが重要であると思っております。

 また、今、一般の民間人が行って十分な活動ができるとは思っておりません。自衛隊だからこそ、日ごろから訓練を積んでおります。また、厳しい環境においても十分活動できる自己完結性を備えております。また、危険を回避する能力も、普通の民間人に比べれば持っております。そういうことから、私は、自衛隊の諸君であるならば、地元のイラク人からも評価を得ることができるような活動ができると考えております。

 私は、今までも自衛隊派遣の理由については一貫した説明を行ってきていると思っております。

 拉致問題への取り組みについてでございます。
 拉致問題は、日本全体、小泉内閣全体の最重要課題であると思っております。北朝鮮に対しましては、日本国民の総意として、誠意ある対応を求め、早期に政府間協議に応じるよう働きかけてきておりまして、今後とも、拉致問題の一刻も早い解決のため、あらゆる機会を通じて努力をしていきたいと思います。

 また、安倍幹事長を特使として派遣してはどうかというお尋ねでございますが、現時点で、私が、あるいは官房長官等、安倍幹事長等、訪朝することは考えておりません。

 年金改革についてでございます。
 今回の年金制度改革案は、将来の負担が過大とならないよう極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、少なくとも現役世代の平均的収入の五〇%の給付水準を維持しつつ、急速な少子高齢化が進行する中で、年金を支える力と給付の均衡をとることのできる仕組みに転換していくものであります。また、課題であった基礎年金の国庫負担割合についても引き上げの道筋を示すなど、持続可能な制度の構築に向けた、根幹にかかわる大きな改正であると考えております。

 道路公団民営化についてでございます。
 今般の改革は、特殊法人である公団が二十兆円の事業費で九千三百四十二キロメートルをつくるという従来の方式を改め、民営化の原点である、債務を確実に返済すること、真に必要な道路について、会社の自主性を尊重しつつ、できるだけ少ない国民負担のもとでつくることという意見書の根幹に沿って、民営化の基本的枠組みを取りまとめたものであります。

 具体的には、厳格な評価を行った上で、抜本的見直し区間を設定し、徹底したコスト削減等により有料道路の事業費を半減するとともに、債務は民営化後四十五年以内にすべて返済いたします。また、通行料金を当面、平均一割程度引き下げるとともに、日本道路公団を三社に地域分割し、あわせて、新規建設に当たっては会社の自主性を尊重することといたします。

 これらは、委員会の意見を基本的に尊重し、戦後有料道路制度の初の抜本的改革として行うものであり、改革の名に値しないとの批判は全く当たらないものと考えます。(拍手)

 基礎的財政収支回復などの財政再建についての質問でございますが、平成十六年度予算においては、一般会計歳出及び一般歳出を実質的に前年度の水準以下に抑制しました。こうした努力などの結果、国、地方を通じた基礎的財政収支は改善が見込まれ、黒字化に向けた一つの手がかりをつくることができたと考えております。

 今後も、持続可能な財政構造の構築に向けて、歳出改革を推進するとともに、民需主導の持続的成長を実現するための構造改革を加速することにより、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を目指してまいります。

 三位一体の改革でございますが、平成十六年度に、補助金一兆円の廃止・縮減等を行うとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方交付税を一兆二千億円減額いたします。また、平成十八年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として、所得譲与税を創設し、四千二百億円の税源を移譲いたします。

 三位一体の改革については、改革の第一歩として、全国知事会、市長会など、地方公共団体からも評価をいただいており、地方にできることは地方にとの原則のもと、来年度以降も改革を加速してまいります。

 五百三十万人雇用創出についてでございます。
 経済環境が急速に変化するもとで雇用の安定確保を図るためには、雇用減少分野における余剰雇用を吸収し、新たな雇用機会を創出することが不可欠であります。このため、政府としては、サービス分野を中心に、五百三十万人の雇用の創出に取り組んでいるところであります。

 雇用情勢は厳しい状況ではございますが、全体として雇用が増加している状況にありませんが、就業構造は変化し、この三年間でサービス分野においては約二百万人の雇用が創出されたと見込まれます。

 今後とも、規制や制度の改革、人材育成や公的業務の民間委託などをさらに進め、サービス分野を中心とした雇用の創出に全力で取り組んでまいります。

 憲法改正についてでございます。
 自由民主党結党五十周年を来年迎えますが、私は、この五十周年を契機に自民党としての憲法草案を取りまとめるように、既に党に指示しております。菅さんは二〇〇六年度に民主党としての改正案をまとめたいというお話のようでございますが、私は、憲法の基本理念である民主主義、平和主義及び基本的人権の尊重は、これまで一貫して国民から広く支持されてきたものであり、将来においてもこれを堅持すべきものと考えております。

 もともと、憲法問題というのは非常に重要な問題であり、一党だけで憲法改正ができると思っておりません。でき得れば、野党第一党の民主党とも十分協議をして、そして国民のさまざまな意見を聞きながら、日本としての新しい時代に対応できるような憲法改正ができればなと期待しております。

 今後、自由民主党も民主党も共通した理念を持っている方も多々あるようでありますので、その辺のところは、自民党一党だけでやろう、そういうこだわりは持っておりません。幅広く、多くの政党の方々、国民各界各層の意見を聞きながら、国民的議論を喚起いたしまして、日本にふさわしい憲法改正案が国民合意のもとにできればなと。このための議論については、今後とも、国会の憲法調査会も活発な議論が行われています。お互い胸襟を開いて大いに議論をしていきたい。そして、よりよい、時代にふさわしい憲法改正ができることを期待しております。
 以上でございます。(拍手)

議長(河野洋平君) 菅直人君から再質疑の申し出がありますから、これを許します。菅直人君。
    〔菅直人君登壇〕

菅直人君 今の小泉総理の答弁は、従来からのイラクに対する自衛隊派遣に対する見解を超えたものではありません。しかし、私が質問をしたのは、まさに、その小泉総理のこれまでの説明がまともな説明になっていないのではないかということなんです。

 先ほども小泉総理は、自衛隊を送る理由として、危険な地域であるから、それを回避する能力がより強いから自衛隊を送ると言われました。しかし、軍隊を他国に送るということは、それを理由とするには足らないんじゃないでしょうか。

 つまりは、かつて我が国は、シベリアに他国と一緒に多くの軍隊を送った歴史があります。そのことが、日本のその後の外国への大規模な兵隊の派遣のいわば先例をつくったというのは歴史の教えるところであります。原則もなく、単に危ないところだから自衛隊を送る、これは理由にはならないということを申し上げたのであります。(拍手)

 さらに、小泉総理は、ブレマーCPA長官の書簡の理解として、私が申し上げたように、裁判権を日本が持つということは認められた上で、しかし、戦時法規ということは述べられていないと言われています。

 確かに、戦時法規という文章がその中にはありませんけれども、しかし、普通の国民がイラクや他の国に行って何かの事件に巻き込まれて、それが正当防衛であるか何かは別としても、人を殺傷したような場合には、まず第一義的な裁判権がその国にあることは世界の常識であります。

 つまりは、その例外を認めるということは、まさに戦時国際法の考え方に基づいて、日本を多国籍軍の一員として認めたということになるのではないか。もしそうならないというのであれば、ならない根拠、そして、ならない場合に、もし自衛隊が攻撃を受けた場合に反撃をしてイラクの人を殺傷した場合の扱いについてどうなるのか、この場で明確にお答えをいただきたいと思います。(拍手)

 さらに一点、私の方から先ほど十分に申し上げられなかった問題の中で、先日、総理は、食料の安全性の問題について視察をされたようであります。私も、秋田における大潟村の視察を行って、農業の新しいあり方について大きな可能性を感じたところであります。

 雇用の拡大ということを考えるときに、従来のようないわゆる公共事業中心の、大型公共事業中心のそういう雇用から、環境を守り、そして農業を促進するような新しい自然回復型の雇用の拡大ということを、私たち民主党はそのマニフェストの中で既に申し上げているところであります。

 総理は、ただ単にサービス業における雇用の拡大ということを言われましたけれども、第一次産業における雇用拡大といった観点について、総理の見解があればお聞きをいたしたい、このように思っております。(拍手)

 最後に、総理は財政再建について、私の最終的な質問に答えておられません。つまりは、二〇一〇年代初頭にプライマリーバランスを黒字化するという、そのマニフェストの目標が達成できるという根拠がどこにあるのかということについてお聞きしましたけれども、それについて明確な答弁はありませんでした。

 つまり、今、景気回復が叫ばれておりますけれども、景気回復には金利の上昇を伴うことは、一般的には常識的なことです。そして、現在平均二%とされる国債に対する金利払いが例えば三%、四%となったときには、国債費が増大することも明らかであります。

 それを、単に単年度のプライマリーバランスの黒字幅が〇・幾つ縮小したから改善の芽が出たとはとても言えないわけでありまして、そういった意味で、二〇一〇年代の初頭のプライマリーバランスの黒字化というマニフェスト自体がその根拠を失っている、このことを申し上げたわけですけれども、これに対しての明確な答弁を再度求めておきたいと思います。

 最後に、憲法改正についてもるる小泉総理が答弁をされましたけれども、基本的な姿勢についてまだ十分な理解をいただいていないようであります。

 私が憲法について議論を提起いたしましたのは、現在の日本国憲法は、国民主権の考え方が、法文上、憲法の条文上はしっかりと書き込まれておりますけれども、実際には、官僚丸投げの自民党政権が続いているために、国民主権の国となっていない。その反省に立って、改めて市民革命とも言える国民的な運動を起こそう、このことを提起しているわけであります。

 総理は、まず、みずからの官僚丸投げ政治に対する反省の中から憲法についての議論を始めていただきたい、そのことについても御意見があれば最後にお聞きをして、私の再質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 再答弁いたしますが、菅議員は、自衛隊は連合軍の一員、すなわち占領軍としてみなされていることは明らかではないか、これはブレマー長官の書簡を指すものだと思います。

 この点につきましては、連合暫定施政当局命令第十七号における連合の要員とは、連合軍の要員のみならず、イラクにおいてさまざまな形でイラクの復興等に貢献するために活動する諸国の要員をも含むものであります。

 いずれにせよ、我が国は、いかなる意味においても、武力紛争の当事国ではなく、また占領国に当たらず、あくまでも自衛隊は我が国の指揮下において活動するものであります。

 また、財政再建の問題につきましては、既に基礎的財政収支の中で答弁しております。

 農業の問題については、最初の質問になかったんですよ。再質問じゃなくて、全く最初の質問にないものを答えようがないでしょう。これは答弁漏れじゃないんです。質問にないことを答弁したらおかしいでしょう。(拍手)


2004/01/21

戻るホーム目次