2002/10/22

戻るホーム目次


小泉総理の所信表明演説に対する代表質問と答弁

自由民主党・保守党 青木幹雄

第155回国会 本会議 平成十四年十月二十二日(火曜日)

○青木幹雄君 私は、自由民主党・保守党を代表して、小泉総理大臣の所信表明演説に対し、現下の重大な課題である北朝鮮問題やデフレ・金融問題に絞って総理に質問をいたします。

 まず、大変明るいニュースとして、今年のノーベル物理学賞に小柴昌俊東大名誉教授、化学賞に島津製作所のライフサイエンス研究所の田中耕一主任のお二人の受賞が決定し、科学技術創造立国を目指す我が国にとって大きな勇気付けられる快挙となりました。三年連続四人の科学研究者、特に若い企業研究者が受賞されたことは、受賞者の御研さんのたまものでありますが、日本の技術創造力や企業の底力を示すものであります。閉塞感が漂う中で、国民に自信と希望を与えるすばらしい業績として、共々お祝いを申し上げる次第であります。(拍手)

 さて、小泉内閣が聖域なき構造改革を掲げて発足してから早くも一年半がたちました。この間、世界じゅうを震え上がらせた同時多発テロや、長引くデフレを始め、BSE感染牛、武装工作船、瀋陽領事館事件等が発生し、このところ株価の低迷等、内外にわたり多事多難であります。

 このような中にあって、小泉総理は、先般、北朝鮮の金総書記と首脳会談を行われ、困難な課題が多い日朝間の重い扉を開かれたのであります。これは歴史的な決断として内外から高い評価を得ておりますが、拉致被害者の多数死亡という北朝鮮が示した誠に痛ましい情報に接し、その御家族の方々はもちろんのこと、国民は大きな衝撃を受けております。この余りにも過酷な拉致事件、その被害者御家族の言いようのないお気持ちを思うと、国が国民の生命と安全を守ることがいかに大切なことか、改めて肝に銘じ、政治の責務の重大さに決意を新たにしているところであります。

 十五日、生存者五人の方々の御来日により御家族と二十四年ぶりに喜びの再会がかないましたが、これを第一歩として、拉致問題の早期真相解明に真正面から取り組んでいかなければなりません。

 さらに、容易ならざる事態として、最近の株価は、十九年ぶりに九千円の大台を割り、低水準に低迷しており、総理の日本発の金融危機は起こさないという方針に沿って、時宜を失しない対応が是非とも今必要であります。

 世界的な株安傾向の中で、日本が世界経済の足を引っ張るようなことは断じてあってはなりません。我が国がデフレの悪循環に陥れば、国民の生活や企業が破壊され、今までの構造改革の取組も台なしになってしまうからであります。
 小泉内閣発足以来、総理は全力を挙げて、特殊法人改革を始め、行財政改革等、幅広い取組をなされ、多くの改革は今緒に就きつつあると思います。しかし、国民は将来の姿が明確に見えず、いまだ不安を感じています。また、改革のやり方について率直に申しますと、トップダウンにしても、その一方的に過ぎる手法に批判が出ていることも否めないことであります。

 この一年半の大きな情勢の変化や世論の動向等を踏まえ、スピードを重視し、直ちに実施すべき改革と、経済社会情勢等を勘案し、何年かの時間を掛けて軌道に乗せた方が出血も少なくスムーズにいく改革に分類すべきだと考えております。このような観点から、一つ一つの改革を峻別して、でき上がった姿と、それまでの道筋を国民に分かりやすく説明する必要があると私は思っております。

 所信表明演説では、総理は、今直面する最重点課題は日本経済の再生であると位置付けておられます。そのためのペイオフ延期や減税規模等に触れられてはいるものの、デフレ・金融対策の具体策として触れられてしかるべき政策の内容が乏しいと私は思っております。これからは、構造改革の一辺倒から脱皮し、経済対策にも強い総理のリーダーシップを発揮されんことを強く望むものであります。

 改造前の内閣においては、ペイオフの問題や不良債権の処理に伴う公的資金の投入問題などについて、関係大臣の間で見解の相違が見られ、それが経済や市場にマイナスの影響を与えてきました。総理は構造改革については強い指導力を発揮されておりますが、今までの経済問題への対応を振り返ってみても、総理が指導力を発揮されてきたとは決して考えられません。むしろ、改革に対する強引とも言うべき姿勢に比較し、総理に一番欠けていたのは経済問題に対するリーダーシップではなかったかと思います。今、正に求められているのは、デフレ・金融対策に関しての指導力、リーダーシップであります。私は、それができ得る総理であると固く信じております。

 先般改造された内閣の新たな陣容の下で、これから、我が国の総力を結集し、このような内外、未曾有の難局を乗り越えていくため、経済、金融や北朝鮮との交渉等、現下の最重要課題についてどのように指導力を発揮し、国民の理解と協力を求めていかれるのか、内政、外交の取組の基本姿勢について、国民の皆さんに分かりやすく御説明を願います。

 この臨時国会は、五十七日間という短い会期であります。継続審議となっております有事法制や個人情報保護法案については、総理は、できるだけ多くの議員や国民の皆さんの理解を得て、修正を含めて広く十分な議論をすることが必要と言われておりますが、この法案の重要性から見て私も全く総理と同じ考えであります。現状では法案修正をめぐる具体的な議論が何ら進展しておりません。

 したがって、これらの法案については、もう少し時間を掛けて、与党、野党の皆さんが修正を含めて真剣に協議を進めていくべきであると考えております。この国会の審議は、むしろ経済・金融対策等、緊急の問題に集中的に取り組むべきであると考えております。

 デフレ対策については、もっと以前から国会で腰を据えて取り組むべき問題でありましたが、御承知のとおり、昨年の臨時国会では同時多発テロ関連の法案審議に重点が移りました。これは国際社会の一員として当然のことだと理解をいたしております。前通常国会は、続発する政治家や企業の不祥事件の問題で経済関係の審議が手薄とならざるを得ませんでした。残念であります。今国会こそ経済・金融国会と位置付けるべき国会であると考えております。

 総理は、この重要な時期、臨時国会の審議にいかなる決意を持って臨まれるのか、お伺いをいたします。

 次に、日朝国交正常化交渉について伺います。
 先月の日朝首脳会談は、二つの点で長く国民の記憶にとどめられることとなった、そのように私は受け止めております。

 その一つは、両国の正常でない関係に終止符を打つことが我が国の国益及び北東アジアの平和と安定に欠かすことができないと、大局的な観点から交渉再開を決断されたことであります。その一方で、八人死亡と伝えられた拉致事件に国民皆が深い傷を受けたのもまた事実であります。

 北朝鮮が関与した拉致事件は、明らかに国家的テロ行為であり、断じて許されるべきものではなく、徹底的にその真相解明を図らなければなりません。

 それゆえに、今月末に行われる正常化交渉は、拉致問題を最重要課題として位置付け、その全容解明に手を尽くし、国民、何より拉致被害に遭われた御家族の方々が納得のいく解決を導いていくことが肝要であります。その過程で、拉致問題の解明はもとより、責任者の追及、実行犯の引渡し、補償まで毅然とした態度で主張すべきであります。

 振り返ってみますと、拉致事件は、その大半が二十数年前の事件にもかかわらず、政府が拉致と認定したのは九七年であります。それまで政府は打つべき手はすべて打ってきたのか。私自身も、官房長官を務めていた経緯もあり、この問題に対し率直に反省すべき点があったと考えております。

 また、北朝鮮が米国に対して核兵器開発を継続していることを認めたことから、安全保障上大きな問題が発生をいたしました。交渉では断固たる態度で核兵器開発の即時中止、早期の核査察を求めていくべきであると考えております。

 先月中旬の日朝首脳会談以降、今日までの短期間のうちに、多数の死亡者の情報が伝えられたことを始め、生存者の一時帰国や核開発の問題などが立て続けに起きており、二十四年ぶりに帰国された五名の方々は、今、全く環境の違う状況におられます。このようないろいろなことが集中的に起きたため、国際的にも国内的にも、また国民感情も、一種の今興奮状態にあります。さらに、北朝鮮の出方がどうなるか、予想せざる変化も考えなければならず、私は、一定期間、これらの状況や問題を冷静に判断することが最も大切なことであろうと考えております。拉致問題にせよ安全保障問題にせよ、国際世論や国内世論の動向を慎重に見極めつつ、的確に対応していく必要があります。

 そのような中にあって、総理が国の進むべき道を冷静に正しく判断していくのが国家の最高指導者としての責任であると考えております。

 そこで、以上の点を踏まえて、今後の日朝国交正常化交渉にいかに取り組んでいかれるのか、その基本方針について改めて総理にお伺いをいたします。

 先日明らかになった北朝鮮の核兵器開発は、明らかに米朝枠組み合意等に違反しているものであり、このような国際的な背信行為を行う交渉相手に対しては、米韓と連携しつつ、我が国として、米朝枠組み合意、日朝平壌宣言を遵守するよう強く求めていくべきであります。

 政府として、核開発問題を含め安全保障について、今後の交渉を通じ、いかに実効を確保していくか、総理に対処方針をお伺いいたします。

 次に、経済・金融問題について伺います。
 私は、デフレを早期に克服し、日本経済が危機的な状況に陥ることを回避するために残された時間はないとの認識に立っております。

 この秋に入ってから、世界景気の先行きを懸念する声が強まり、世界同時株安の危機も高まっていることから、不良債権が足かせになって、いつまでも景気、金融仲介機能が回復しない日本へ海外からの風当たりが厳しくなっています。国際通貨基金やG7では、日本に対し不良債権処理を強く迫ってきております。

 このような情勢の中で、総理は、平成十六年度には不良債権問題を終結させることを所信表明で明確に打ち出されております。私も、日本経済が低迷状況を脱するためには不良債権処理を早急に進めていくことが重要ということについて異論がありません。不良債権問題の処理方法を誤れば、国民の間に大きな混乱を招くのではないかという不安があることも事実であります。これから不良債権の本格処理に伴い、貸出し先の強引な整理が進むのではないか、それにより企業倒産や失業者が増加し、デフレの悪循環に陥るのではないかと大変心配され、これが株価の低迷の背景になっております。

 貸出し先の経営事情は様々であり、再建の可能性の残っている企業が淘汰されたり連鎖倒産が起きたりすれば景気の底割れを招く危険性もあり、不良債権処理の加速は何のためにあるのかという根本のところを間違えてはならないと思うのであります。

 言うまでもなく、不良債権処理は、産業に対し資金を流す金融仲介機能を担う銀行システムを健全化すると同時に、日本経済を担う産業、企業の再生をしていくことにねらいがあり、それが構造改革に資するものではないかと考えております。この際、新たなビジネス育成対策により、産業、企業の再生をてこに入れることが構造改革につながることになります。

 日本経済の構造改革の推進や産業、企業の再生のために不良債権問題にどのような方針で対処されるお考えか、お伺いをいたします。

 不良債権の本格的処理に伴うセーフティーネットの充実強化、特に中小企業金融を始めとした金融の円滑化やいろいろなケースに即応できる雇用の拡充対策等を始めとする総合デフレ対策を早急に実施することが強く要請されています。

 その対策内容がいまだ不透明で、市場が過敏になっているときに、大き過ぎてつぶせないとは思わないとかいう担当大臣の発言が報道されて、市場の不安が膨らみ、株価が急落したり、政策の内容、規模等をめぐる閣僚の見解が様々で、政府が総力を挙げて強力なデフレ対策を打ち出すという期待感がしぼみかけている状況であります。

 総理は、状況認識や政策の基本的な枠組みについて、閣僚間で食い違いが生じないよう十分御注意いただくとともに、閣僚の皆さんも自分の発言について、その影響を考え、十分配慮すべきであると私は考えております。

 所信表明では、経済情勢に応じて柔軟かつ大胆な措置を講ずると述べられておりますが、総理は以前にも同様の考えを表明され、金融の危機を起こさないためにはあらゆる手段を講ずると言明をされております。

 柔軟かつ大胆な措置や総合的な対策、総論的、抽象的な文言が目立ち、公的資金の投入や補正予算について何の言及もまだいたしておりません。本来ならば、十八日の所信表明の中で総理の口から国民に明確に打ち出されるべきであったと私どもは期待しておりました。

 しかし、現在、総合デフレ対策が検討過程にあるため、それができなかったということも私は善意に解釈いたしておりますが、それなら月末までに発表のデフレ対策の中で、公的資金の投入の方法、補正予算の在り方については、はっきりと国民に分かりやすく明示すると約束、総理できるでしょうか。この点を確認しておきたいと思います。

 一年前、私は代表質問で、政策のフリーハンドを持って新たな情勢に対応すべきと強く申し上げましたが、今この金融非常時において、今までのように三十兆円の枠にとらわれる必要は私は全くないと考えております。

 多くの国民は、総理が財政再建に真剣に取り組んでこられたことを十分に理解しつつも、なおデフレ対策の強化を切望いたしております。このため、セーフティーネットの大幅拡充を始め、生活の安定確保に不可欠な事業等の財政出動も含め、思い切った対策を早急に決断され、総力を挙げて実行していただきたいと思います。

 総理の総合デフレ対策への取組の基本的な考えをお聞かせ願います。

 先般、日銀が中央銀行としては極めて異例の措置である、銀行の保有株の直接購入に踏み出し、何としても金融システムを安定化させようという明確な姿勢を打ち出しました。そして、日銀の立場から、不良債権処理に公的資金を投入する政策提言を公表いたしました。

 これから重要なことは、金融危機予防のため、政府と日銀が一体となってどれだけ迅速に政策対応ができるかということであります。

 今回の内閣改造においては、経済財政担当大臣と金融担当大臣とが兼務となりましたが、これは財政と金融を明確に分離してきた金融の行政改革の経緯から見ると大変思い切った人事であり、不良債権処理促進、公的資金投入への総理の強い意向によるものでないかと受け止めております。

 ところが、担当大臣は、少人数の民間専門家が参加するプロジェクトチームで公的資金投入の在り方を集中的に検討されているようでありますが、ここでの結論だけで金融行政が展開された場合、その影響が大きいだけに、結果責任を一体だれが取るのか、検討の様子が伝わってこないだけに、どうなっていくのか不安が拡大しております。

 総理、このようなプロジェクトチーム中心の検討方法で的確な不良債権の本格処理が円滑に行われるのかどうか、その見通しについて御答弁をお願いいたします。

 今、強く要請されていることは、不良債権処理の加速化によって、金融システムの動揺が起こらないよう、あるいは地域の金融仲介機能が麻痺することのないよう、予防的な対応も含め、総合的な検討がなされ、金融機関への公的資金投入が、早急に金融仲介機能の再生に大きな効果を発揮するようにしていくことであります。

 経済の活性化のため、幅広くデフレ対策を推進するには、税制面の対応も急がれ、景気対策的な意味合いからは、投資減税等や贈与税の軽減が不可欠でありますが、長年の地価の下落による資産デフレに対しては、土地の流動化や有効利用のため、土地税制の抜本的見直しもまた必要であります。土地の価格の下落、担保価値の低下が続くと不良債権の発生に歯止めが掛からないことも重視していかなければなりません。

 これら一連の対策以外にも、経済・金融政策は多様に及び、本年に入って、与党や自民党から数回にわたりデフレ対策が提案され、政策のメニューは大方出そろっております。

 参議院自由民主党も、地域や職域の意見を集約しつつ、税制見直しや地域の活性化等に関して提言を行うとともに、景気・中小企業対策についてプロジェクトチームで意見を取りまとめております。その中で、都市再生、環境など需要追加対策や中小企業向け融資保証の充実、活性化のための税制措置を始め、多岐にわたる提案を行っておりますので、是非御参考にしていただきたいと考えております。

 政府においては、経済財政諮問会議を中心に総合的な取組がなされておりますが、与党から申し入れているいろいろな経済対策はいまだ余り政府の政策として形を成し、実行に移されていないような印象を私は持っております。

 要は、生き物の経済に対し手後れにならないよう、各地の状況を踏まえ的確に診断し、できるだけ効果的な処方を施すことはどうするかの問題であります。したがって、霞が関の議論だけでなく、政策を具体化する段階から経済界を始め関係分野や地域の関係者等と十分意見交換をし、協力体制を整えておく必要があります。それによって初めてスピーディーで効果的な対策の実行が可能となります。

 特に雇用等のセーフティーネットは、現場の実情に合った工夫や情報提供等、地域や関係機関の支援が必要であります。これら対策の推進の体制作りにどのように取り組んでいかれるのか、お聞かせを願います。

 最後に、我が国の政策決定の在り方、特に審議会等の扱いについても一言述べておきたいと思います。

 私は、率直に言って現在の審議会等の在り方を考え直すべきときが来ているのではないかという感じを持っております。

 御案内のとおり、審議会はかねてから行政の隠れみのとして批判も強かったことから、既に整理縮小も進められ、運営面でも情報公開等の改革がなされております。しかし、いまだその数は百を超す多くの審議会が存在しております。さらに、各省におかれては私的諮問機関等が多数設けられております。

 もちろん、私は有識者の考えを政策に反映していくという手法そのものに反対するものではありません。外部の意見を取り入れていくことは、硬直化した日本の行政を考えると、そこに風穴を空けるものとして非常に有効であるとは考えております。しかしその一方で、一部のマスコミに後押しされた特定の民間の人の方々の意見が連日のようにテレビ等の各種メディアでもてはやされ、その結果、それによって政治の流れ、経済の流れが作られていく現状には大きな不満を持つものであります。

 国民の皆さんの声に真摯に耳を傾け、その声を国政に反映させる責任を持つ我々国会議員が審議会や私的諮問機関の意見に比べて軽視されている現状は、議会制民主主義の危機であると言っても過言ではないと考えております。特に、比例区という職域を始め国民各層のお考えを代表する多くの議員を持つ参議院として、この問題は与野党を挙げて議会として今後考えていかなければならない問題であると考えております。

 よって、総理、一つの提案でありますが、今ある審議会、諮問機関等をすべて一度白紙に戻して、その必要性、役割等の見地からも、人選も含めて見直してみるのも一つのやり方かと思っております。選挙等で選ばれたわけではなく、また、結果責任を負うこともない方々の意見が重要な国策、国民の未来を左右するというのは、その成り立ちから見ても問題であると考えておりますので、この点、総理の御見解をお伺いしたいと思います。

 この国会は十二月十三日まででありますが、衆参の補欠選挙もあり、実質的な審議は大変タイトな日程となっておりますので、最優先課題であるデフレ対策、金融安定化対策に集中して、この困難な事態を早急に乗り越えていかなければなりません。

 金融非常時において国民の最大の要請はデフレ経済の早急な克服であり、思い切った政策を進めるべきであります。その際、政策転換であるとか、いや政策強化であるという、そういう議論によって経済が良くなり、デフレが解消するものではありません。総理には思い切って君子豹変し、必要な政策を断固実行するリーダーシップを私は強く望むものであります。

 小泉総理、あなたはデフレの退治という大きな方針の前では頑迷、頑固であってはなりません。新しい総理官邸ができ上がりました。総理、あなたはその官邸の主であります。天に向かって伸びる未来への挑戦の象徴として新官邸の中庭に植えられたあの凜とした孟宗竹の青さ、みずみずしさ、それを思いはせるのであります。竹を剛ならず、柔ならず、草でもなく、木でもなくと表した言葉があります。時々刻々と移り変わる多難な事態を乗り越えていくためには、あの竹のような強さと柔らかさを併せ持ったしなやかさ、その姿勢こそが総理にとって必要ではないかと思っております。竹が真っすぐに天に向かって伸びていくように、日本の再生に懸けるその信念も貫いていけるものだと確信をいたしております。

 現在の経済、金融等の深刻さへの理解、認識は与野党を問わず共通のものとなっており、その克服は全国民の願いであります。でありますから、総理にはデフレ対策挙国一致体制を取っていただき、不退転の決意で事態に臨まれんことを心から期待するものであります。

 我々参議院自由民主党は、公明党、保守党の皆さんとともに総理を全力を挙げて力強く支持することをお約束申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)

   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 青木議員にお答えいたします。
 質問に加えまして率直な御意見、激励を賜りまして、誠にありがとうございます。

 内政、外交の取組の基本姿勢についてでございますが、私は、就任以来、内政にあっては構造改革を断行していく、外交においては国際協調、これが一番大事だと、それを基本に主体的な役割を果たすという揺るぎない姿勢でやってまいりました。この考えに今までも今後も変わりありません。

 今日の経済の低迷は、言うまでもなく、今まで成功してきたいろんな制度とか機構、これが必ずしもうまくいっていない、この新しい時代にどうしてうまく機能させるような改革が必要か、そういう視点からいろいろな改革に取り組んできております。言わば、根本的な原因、根本的な構造にメスを入れない限り日本の経済は再生はないという観点から、今後も改革を進めていきたいと思っております。

 もちろん、改革を進めるに当たっては、雇用問題、中小企業対策、セーフティーネット、これについては万全を期してまいります。

 外交におきましては、北朝鮮の問題、またテロとの闘い、イラクの問題、誠に難問山積でございます。しかし、私は、これまで各国首脳との間に築きました信頼関係を基に、各国との揺るぎない協調関係を築きながらも、日本としていかに世界平和と安定に資するか、こういうことを常に念頭に置きながら日本の役割を果たしていきたいと思います。

 現在の日本の経済におきましては、構造改革の途上にありまして、厳しい状況が続いているということについては否定いたしません。確かにそのとおりだと思います。しかしながら、私は、日本経済の持っている本来の潜在力、これについては余り悲観的に見る必要はないと。この今までの多くの先人が築いてきた潜在力をいかに発揮させるか、これが政治の大きな役割だと思っております。悲観主義に陥らず、日本人の持っている本来の素質というもの、力というものを信じて、希望を持って改革に立ち向かっていくことが必要だと思っております。

 臨時国会に臨む決意でございますが、この臨時国会においては、継続審議になっております案件について与野党の協議を進めながら対応していくということも大事だと思っております。単に与党だけの観点からということよりも、やはり国益を中心にして、野党の意見でも参考にすべきは参考にすると、協力求める場合は協力を求めるという、そういう立場で進めていくことが重要かと思っております。

 ペイオフに関する制度の整備、構造改革特区、中小企業のセーフティーネット、特殊法人改革などは、今臨時国会に成立させなきゃならない問題もあります。そういう点も含めまして、構造改革を推進するために緊急に必要な重要課題についてはできるだけ速やかに審議していただき、成立をお願いしたいと思います。

 日朝国交正常化交渉についてでございますが、二十九日に再開する方針に変わりありません。いろいろな情報が行き交っておりますが、日朝平壌宣言の原則と精神が誠実に守られることが交渉進展の大前提であります。核開発問題を含めました安全保障等の問題につきましても、そういう考えに立って、日本だけで進めるのではなく、アメリカ、韓国との緊密な連携協力の下に、この解決を北朝鮮側に働き掛けていきたいと思います。

 不良債権問題については、日本経済を取り巻く不確実性を除去し、政府、日銀一体となって総合的に取り組むことが必要であります。平成十六年度には不良債権問題を終結させるとの基本方針を示し、不良債権処理をこれまで以上に加速し、政策を強化することを決定したところであります。

 この指示に基づきまして、現在、金融担当大臣が不良債権処理の加速の具体策について様々な観点から検討を行っております。今月中に取りまとめることとしておりまして、これを踏まえて判断していきたいと思います。

 あわせて、雇用や中小企業に対するセーフティーネット対策を含む総合的な対応策を今月末には取りまとめたいと思います。

 なお、産業再編、企業の早期再生の支援策の施策も強化してまいります。

 今回のデフレ対策の内容及び取組の基本的な考え方についてでございますが、これは民間需要主導の持続的な経済成長を実現していくことが何よりも重要である、そういう観点から、政府は日銀と一体となって総合的に取組を進めていきます。

 不良債権処理の加速を含む金融システム安定化策、規制改革、都市再生など構造改革の加速策のほか、雇用、中小企業対策などの問題につきましても、今月末には取りまとめることとしておりますので、今の時点ではまだ明らかにはできませんが、もうしばらくの時間をおかりしたいと思います。

 御指摘になった公的資金の投入については、公的資金まず投入、これがありきではございません。不良債権処理の加速の結果として議論されるべきでありますが、いずれにしても、金融担当大臣が不良債権処理の具体策について今検討しておりますので、それを踏まえて対応しなきゃならない問題であると思います。

 なお、今回の対応策に伴いまして、今国会に補正予算を提出することは考えておりません。もとより、経済というのは生き物であります。無用な混乱、また金融危機を起こしてはならないという観点からは大胆かつ柔軟に対応いたします。

 不良債権処理の検討体制についてでございますが、私の不良債権処理をこれまで以上に加速するとの指示に基づき、金融担当大臣の下に民間有識者を含む金融分野緊急対応戦略プロジェクトチームが設置され、これまで資産査定の厳格化、自己資本及びガバナンスの強化等について専門家の意見も取り入れた幅広い検討が行われておりまして、具体的な加速策につきましては、この議論も踏まえながら政府において決定する考えであります。

 経済対策に関しまして、経済界や地域の関係者との意見交換、協力体制の構築及び審議会の在り方について、いろいろ御意見も踏まえお尋ねがございました。

 審議会につきましては、先般の中央省庁等改革において、政策決定を内閣又は国務大臣の責任で行うことを明確にするため、政策を審議する機能を原則として廃止するなど、全般的な見直しを行ったところであります。

 こうした中発足して私が議長を務めております経済財政諮問会議におきましては、学界、産業界の有識者や地方の意見のほか、関係大臣を通じて広範な関係者が参画する審議会等などで集約された提言、考え方等が報告されておりまして、それらも十分に踏まえた検討を行っているところであります。

 政府としては、今後とも、与党の関係者も含め、多くの関係者の幅広い御意見をしっかりと受け止め、適切な政策運営に努めてまいります。(拍手)


2002/10/22

戻るホーム目次