2001/02/21

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参議院憲法調査会での訪米調査団長報告


平成13年2月21日
特定事項調査第一班団長口頭報告

 特定事項調査第一班の調査の概要を報告します。調査目的は、アメリカ合衆国の憲法事情につき実状調査をし、さらに同国の政治経済事情等の視察をすることですが、憲法調査会の委員も多数参加したので、本調査会の審議に資するため、会長のご許可を得て、ここでご報告させて頂きます。

 本班は、アメリカ憲法の在り方につき、具体的な調査項目として、議会制度、特に立法過程及び二院制、大統領選出制度、連邦制度、特に連邦政府と州の関係、違憲判決及び陪審制等の司法制度、被疑者・被告人の権利、プライバシー権等の新しい人権、環境権、安全保障、修正条項等を挙げています。そして、議会や政府機関だけでなく、それらの活動の源泉となっている人々の活動にも目を向け、議会スタッフ、市民団体、地方公共団体等も対象として、調査いたしてまいりました。また、同国の政治経済事情については、在米国大使館及び在サンフランシスコ総領事館より聴取しました。

 訪問地はワシントンとサンフランシスコです。ワシントンでは、連邦議会、最高裁判所、NPO及びシンクタンクを訪れました。サンフランシスコでは、カリフォルニア州議会、サンフランシスコ市役所、オークランド市役所及びシンクタンクを訪問しました。以下、調査内容につき、その概略を、訪問日程に従いご報告します。

 まず、1月8日の午前に「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の支部を訪ねました。この団体は、80年代初頭に設立され、ニューヨークを本部とする、今や米国では最大の人権擁護団体です。当日は、ニューヨーク本部とインターネットで繋いだテレビによる二元会議となりました。

 取り上げられたテーマは、国際刑事法廷、国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など、私見ですが、いわば地球憲法に当たるものについてでした。

 興味深かったものを1、2挙げますと、憎悪犯罪(hate crime)の話が出ました。すなわち、マイノリティに対し、例えば、人種偏見で罪を犯した場合、州によって扱いが違っていいのかということです。連邦法でこれを犯罪と規定すれば、連邦裁判所の管轄となり、憎悪犯罪の処罰を通じて、各州に人種差別禁止を守らせることが出来ます。しかし、連邦がそこまで州に介入してよいかという問題が出てきます。今後の議論が注目されます。

 また、人道を理由とする軍事介入については、「最後の手段であって、その前にやるべきことがいっぱいあり、それを尽くさない軍事介入は賛成できません。」とのご意見でした。

 8日の午後は、まず「インデペンデント・セクター」を訪ねました。民間非営利組織(NPO)は全米で150万に達しており、成人の56%がボランティア活動の経験を有しています。その活動は国民所得の6%に及ぶそうです。「インデペンデント・セクター」は、それらの団体を総結集するものとして設立されました。

 要点は次の通りです。「米国のNPOは国家より前に存在していました。すなわち米国では、学校、病院、消防など全て、ボランティアが始めたものです。ただし、ボランティア達はインディアンにはあまり寛容でなかったようですが。これだけ多いと活動の重複や悪用もあって、批判も出ていますが、監督機関は特にありません。強いて言えば、日本の国税庁に当たる内国歳入庁が唯一それに当たるものでしょう。」

 次に、「ネイチャー・コンサーバンシー」を訪ねました。この団体は50年の歴史を有し、種の保全を目的としています。環境信託基金により世界の希少種生息地の保護にあたり、企業家精神を重視して、ベンチャーにも投資しているそうです。
要点は次の通りです。「憲法の制定当時、環境は問題となっていなかったので、権利として明記されていませんが、連邦政府が環境に関して活動する法的根拠は認められており、環境面から何が公益かを判断するのは議会です。種の多様性については、例えば、人類を含む生物全体をひとつの飛行機と思って下さい。それを組み立てているネジが、飛行中に一つまた一つと落ちていったらどうでしょう。いつかは空中分解です。生物種が一つひとつ失われていって、どこまで飛び続けらるでしょうか。」

 翌9日は、まず、有力なシンクタンクである「ブルッキングス研究所」を訪れました。元共和党下院議員で客員研究員のフレンゼル氏とウィーバー研究員が対応してくれました。

 要点は次の通りです。「官僚が、政治任命された上司に対し、忠誠心を有しているかというと、全米国人が大統領に対し忠誠心を有するのと同様に、官僚も上司に対し忠誠心を有しています。しかし、公務員制度で身分が保障されているので、大統領が去った後のことも考えて行動します。次に、二院制についてですが、建国時の理念は、上院は有識者により、下院は国民の代表者により構成するということでしたが、修正で両院とも選挙による選出となったため、今では当初の理念は当てはまらなくなりました。州議会も同様で、一院制にした州もありますが、『壊れていないものは続けて使えばよい。直せばもっと悪くなる。』という考え方で、他州にまで広がってはいません。政党の党議拘束については、委員長選出など党派色の強い案件を除き、党議拘束は緩く、法案ごとに同調する議員をまとめています。」

 次に、連邦緊急事態管理庁(FEMA)のウィット長官を訪問しました。

 要点は次の通りです。「『災害予防に今日1ドルを使えば、明日2ドルの被害を受けなくてすむ』をモットーとして、『プロジェクト・インパクト』に力を入れています。地域の住民と企業が協力して災害対策プログラムを作成することにより、地域の安定と協力を築くという手法です。災害は州法に基づき州レベルで対応するのが基本ですが、州が対応できないような災害が発生した場合、州からの要請または独自判断で、連邦政府、赤十字、ボランティアなどをテレビ会議などで意見調整し、必要な資金や技術を提供します。地域レベルでの対応がまずければ、その地域選出の政治家が落選することになります。

 午後は、まず、最高裁判所にオコナー判事を訪ねました。あらかじめ提出しておいた質問状に沿い、1時間近く話されました。

 要点は次の通りです。「基本的人権は自然権でなく、憲法が保障した人権と考えられています。憲法の修正は難しく、法律の方が時代の変化に対応できます。社会権や教育権、さらに環境、プライバシー、被害者などの新しい人権は、立法で対応します。アファーマティブ・アクションは、救済措置として認める判例が出ましたが、近年の最高裁は、期間を定めるなどで、限定的に認める傾向となっています。メディアのプライバシー侵害は名誉毀損で対応しますが、第四の権力と言われるほど強力なのですから、責任あるプレスになるべきです。犯罪被害者の保護のため憲法を修正してはという意見もありますが、修正は困難です。司法取引で検察と取り引きしても、陪審が罪を重くすることがあります。最高裁が最終的に憲法判断をすれば、立法府も行政府もこれを尊重するので、憲法裁判所は設置の必要がありません。」

 次に、議会調査局の憲法専門家トーマス氏を訪ねました。

 要点は次の通りです。「憲法の修正に限界はありません。修正の批准方法には4分の3の州の議会による批准と、憲法議会の開催によるものがありますが、後者の実例はありません。前者の批准に期限はなく、200年振りに成立した修正もあります。新しい権利として、中絶、安楽死などが論議されています。プライバシー侵害は、報道の自由が修正第1条で保障されていますから、住居侵入など別の罪を犯さない限り、報道には広く認められています。環境権は、法律により保護されており、州レベルで不法行為として訴えられますが、その立証は難しく、連邦政府の保護が必要です。憲法に書き込むことは、一長一短があります。文言が曖昧だと、柔軟性がある一方、政治的争いを生む恐れもあります。信教の自由のような少数者の権利は、憲法で守るべきですが、既に性差別のように、法律で厳格に守られているものもあります。」

 10日は、午前中、連邦議会上院を視察いたしました。その後、昼食をとりながら、ホーナー下院共和党議会立法ディレクターと立法活動について意見交換を行いました。

 要点は次の通りです。「今回の大統領選で選挙過程を見直す動きが出ていますが、憲法論議とはならず、州レベルでの見直しになるでしょう。政権交代期なので、共和党は、ウイリアムスバーグで3グループに分かれて合宿を行い、今後の立法活動日程を協議する予定です。ブッシュ新大統領の参加は未定ですが、参加すれば、議会には議会の立場があるということを学ぶことになるでしょう。大統領の思い通りにはいかないのです。政策課題としては、減税、教育改革、国防、年金、医療保険、エネルギーなどがあります。党活動への献金に関し、選挙資金改革も課題となるでしょう。」

 次に、民主党上院議員ロックフェラー4世との会談が、急きょ実現しました。話が弾み、30分の予定が1時間になりました。

 要点は次の通りです。「今回の大統領選で、危機の際、憲法が十分機能することがよく分かり、憲法への確信は強まりました。選挙人団(electoral college)を巡り議論はありますが、それが私たちの憲法であり、変える必要はありません。選挙結果は不満ですが、過去のことより未来のことを考えます。民主、共和両党は違う哲学を持っており、その関係には緊張感があります。しかし、小さい問題では違いはなく、予算についても両党の指導者が緊密な協議をしています。アメリカ人は誰でも立法者の意識を有しており、議員にさまざまな形で働きかけるので、議員個人は党の方針よりも選挙区事情を優先します。私が製鉄問題で日本に厳しいのも、そのためです。」

 その後、ジョージタウン大学に憲法学者であるタシュネット教授を訪ねました。

 要点は次の通りです。「憲法修正は、政治的立場の違いを越える大きなコンセンサスがなければできません。修正を付加方式にしたのは、マディソンがたまたま手続きの煩雑度を考えてこちらを採用したという、偶然によるものです。現在、憲法上争点となっているのは連邦制です。連邦制擁護論者は、州は個人の自由を守るためにあることと、州は新しい試みの実験場として最適であり、教育がその良い例であることの、2点を挙げます。最高裁は州の権限を強める方向の判例を出しています。また、新しい権利について、憲法に明記されていなくても、人々がこれを守っている理由は、最高裁の判断こそが権利の根源であり、人々がこれを神聖なものであると考えているからです。アメリカ人は概して保守的であり、例えば社会福祉については、代表である議会の立法がなければ、否定的になります。日本国憲法については、押しつけられた印象があるのに、定着し成功していると思います。政教分離等に関心があります。第9条については、ドイツ基本法第1条と同じく、当時の歴史的経験を反映したものだと思います。」

 11日は、サンフランシスコに移動しました。州議会を訪問し、日系議員ナカノ氏を含む州上下両院議員と政府災害担当者から、電力危機を題材に州と連邦の関係について、また、教育問題について、話を聞きました。

 要点をあげると、連邦が補助金を出す場合は、包括的ガイドラインを決めるだけで、具体的実行は州が決めるとのことでした。また、ハイテク産業の技術者も外国から招致しているのが実体で、子どもたちの基礎学力を高めたいと述べていました。

 12日は、まず、サンフランシスコ市役所を訪れ、リー行政長官及び元州下院議員であるホーシャー市顧問に対し、税収の仕組み、連邦及び州の補助金の実態、電力危機について質疑しました。電力危機は、電力卸値の規制緩和や環境問題からくる新規発電所建設の停滞などから生じたそうです。

 次に、「カリフォルニア公共政策研究所」で、地方自治体の予算制度について説明を受けました。連邦等の補助金と自主税源の組み合わせで財源を確保しており、州や市だけでなく、たとえば教育の学区等、機能別の組織ごとに予算決定を行っており、相互に緊張感があるとのことでした。

 午後は、元カリフォルニア知事のブラウン・オークランド市長を訪ねました。市長は鎌倉に住んだこともあるので、日本国憲法について聞いたところ、「日本に合うようにに改正したいのなら、米国を調査する必要はないでしょう。核兵器に代表される現代兵器は破壊的です。日本は、核放棄、軍拡放棄を維持し、遠慮せずに核兵器の放棄を国際的に働きかけてはどうですか。」との答えでした。 

 地方自治については、「米国では、例えば大気、水、学校、バスなどの機能ごとに、区(district)と呼ばれるいくつもの政府の層(layer)が重なり合って存在し、これらがそれぞれ議会を持ち自律的に活動しています。問題の所在を一番よく知っているのは区ですから、ここにもっと大きな権限を与えるべきですが、なかなか素早い決定は困難で、日本が採用するなら注意した方が良いでしょう。」とのご意見でした。

 詳細は別途作成中の報告書をご覧下さい。以上、ご報告します。  


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