2001年5月25日 人権救済制度の在り方について(答申) 戻る答申目次情報目次

救済手法の整備
 
第5
 
 救済手法の整備

 第4において各人権課題との関係でみたとおり,人権救済制度における救済手法を大幅に拡充することが必要であり,簡易な救済のための相談やあっせん,指導等に加え,積極的救済のための調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等の手法の整備を図る必要がある。

 簡易な救済の手法

(1)  相談

<1>  あらゆる人権侵害に対応できる総合的な相談窓口を整備する必要がある。相談窓口は,被害者が気軽に相談できる身近なものでなければならない。この観点からは,特に,都道府県や市町村の行う各種相談事業との有機的な連携が重要である。

<2>  相談は,適切な助言等を通じて,人権侵害の発生や拡大を防止し,当事者による紛争解決を促すなどそれ自体が有効な救済手法であるから,担当する職員等には各種人権問題とその解決手法に関する専門的知識が必要であり,職員等の質的向上が重要である。一方,相談の振り分け機能との関係においては,他の救済にかかわる制度や細分化された行政窓口等の中から,事案に応じた適切な部署に紹介・取次ぎを行う必要があり,これをたらい回しに終わらせないためにも,関係機関との連携協力体制の構築が必要である。

(2)  あっせん,指導等

 あっせん,指導その他の強制的要素を伴わない専ら任意的な手法による救済は,従来から法務省の人権擁護機関が行ってきたところである。実効性に限界があることは否めないものの,粘り強く加害者を啓発して自主的に是正措置等を講ずることを促すその手法は,再発防止等の観点から人権救済にふさわしいものであると同時に,事案に即した柔軟な解決を可能にするものであり,これに従事する職員の専門性を涵養するなどして,引き続き,この手法による対応を充実していく必要がある。

 積極的救済の手法

(1)  調停

 調停者が必要に応じて事実関係を調査した上で,当事者間の合意による紛争解決を促す調停は,裁判手続に比べ,簡易・迅速で,具体的事案に即した柔軟な救済を可能とする手法であり,諸外国の人権救済機関も含め,内外で最も活用されている代表的な裁判外紛争処理の手法である。人権救済においても,この手法を大いに活用すべきであり,専門性等を有する人権擁護委員の参加を含め,調停手続やこれを担う体制の整備を図るべきである。

(2)  仲裁

 仲裁人が,仲裁判断に従うとの当事者双方の合意を前提として,必要な調査を行い,確定判決と同一の強い効力を持つ仲裁判断を示す仲裁は,解決の柔軟性を維持しつつ,より簡易・迅速に事案の最終的な解決を図る裁判外紛争処理の手法である。従来,我が国では,一定の分野を除き,必ずしも十分に利用されてこなかったが,その有用性にかんがみ,人権救済においては,事案に応じて柔軟に活用すべきである。

(3)  勧告・公表
 人権侵害の加害者に対し,人権侵害の事実を指摘して任意に救済措置を講ずるよう促す勧告は,それ自体に勧告内容の遵守を強制する効力はないが,人権救済機関の権威を背景とした相応の指導力を期待することができるとともに,その不遵守に対する公表は,一般に対する啓発効果のほかに,相手方にとっては事実上間接強制の効果を持ち得る。法務省の人権擁護機関においては,従来から任意調査に基づいて人権侵害の事実を確認した重大事案に関して勧告を行ってきたが,要件・手続等を整備した上,勧告・公表の手法を有効に活用すべきである。

(4)  訴訟援助

<1> 勧告・公表までの手法によっても被害者救済が図れない場合の対応として,被害者が自らの請求権に基づき訴訟提起できる場合には,被害者が司法的救済を得られるよう人権救済機関がこれを援助していくことが相当である。

○ 諸外国の人権救済にかかわる機関の中には,審判手続を経て,拘束力のある裁定を行うものも一部にあるが,被害者自らが訴訟提起できる場合には,むしろ訴訟の利用を図ることが直截かつ合理的である。

○ 他方,諸外国の人権救済にかかわる機関の中には,被害者に代わって自ら訴訟を提起することにより救済の実現を図るものもあるが,被害者自らが訴訟提起できる場合の人権救済機関による訴訟提起の必要性については疑問があるほか,法制面での問題もあり,むしろ被害者の訴訟を援助していくことが相当と考える。

<2> 訴訟援助の具体的手法としては,法律扶助制度の活用に加え,事案解明のために,人権救済機関が調査の過程で収集した資料を被害者が自らの訴訟に活用できるよう,資料提供の制度を整備すべきである。また,訴訟の複雑困難性等に照らし,救済の確実な実現を図る観点からその必要性が認められる場合には,人権救済機関が被害者の提起した訴訟において被害者を救済するために訴訟活動に関与することを可能とする制度を導入すべきであり,相手方に対する手続保障にも留意しつつ,訴訟参加等,そのための手法を検討する必要がある。

(5)  特定の事案に関する強制的手法
 差別的取扱いを内容とする営業方針の公表等不特定又は多数の者に対して差別的取扱いが行われる明らかなおそれを生じさせる行為(第4,1(2)ア(イ)<2>)や,部落地名総鑑の頒布等差別を助長・誘発するおそれの高い一定の表現行為(同イ<2>)が行われた場合については,差別的取扱い等を受けるおそれのある個人が訴訟によりその排除を求めることが,法律上又は事実上著しく困難であり,又は問題の実質的解決にならないため,訴訟援助の手法が有効に機能しない。そこで,人権救済機関自らが裁判所にその排除を求めるなどして,人権侵害の防止を図っていく仕組みの導入が必要であり,表現の自由の保障に配慮しつつ,我が国の法制上これを可能とする具体的手法を検討すべきである。

 人権問題についての自由な意見交換のできる環境づくり

 人権侵害の当事者同士による話合いは,任意的な解決を担保するための条件を備える限りにおいて,柔軟で有効な紛争解決の手法である。人権救済機関によるあっせんや調停の手続も,中立公正の立場からこれを促進するものであり,人権救済機関以外の者が話合いの仲立ちをする場合にも,中立性が堅持され,適正な判断基準が維持される必要がある。

 差別行為を行ったとされる者に対する集団による行き過ぎた追及行為の弊害がこれまで指摘され,人権教育・啓発に関する先の答申においても言及したところである。任意性が保障されない追及行為は相当でなく,当事者間の任意の話合いで解決をみないときは,人権救済機関による救済手続を利用することが期待される。人権問題の真の解決を図るためには,人権問題に関して自由な意見交換を行うことができる環境づくりが重要である(人権教育・啓発の在り方に関する先の答申第2,2)。


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